EIP―東諸国郡国際警察臨時特別捜査課―   作:畑渚

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 夜もすっかり更けた頃。TAC50はコーヒーを片手に画面を凝視していた。

 

「……、ボス。ボス!」

 

「んん……?ふわぁ……どうしたの楓」

 

「動き始めました。これは……移動するみたいです」

 

「まったく……こんな深夜にしなくてもいいでしょうに……」

 

 ボスはTAC50ののみかけのコーヒーを取り上げると、一気に残りを全部喉に流し込む。

 

「よし、気づかれないように動くわ」

 

 ボスはAA12とK5にこの場を任せて、TAC50に着いてくるように指示する。

 

「わ、私ですか?でも運転ならアッチソンさんのほうが」

 

「そこらへんも織り込み済みよ。いいから先回りするわよ」

 

 ジャケットを適当に手に取り、エレベーターホールへと引っ張られる。

 

「ボス、ここだと見られますよ」

 

「それが狙いよ」

 

「どういうことですか?」

 

「中で話すわ」

 

 呼んだエレベーターに乗り込むと、通路の先を見ないようにしながら扉が閉じるのを待つ。

 

 エレベーターが動き始めてから、TAC50は口を開く。

 

「それで、どういう狙いなんですか?」

 

「そりゃこういうことよ」

 

 一つ下の階でエレベーターは止まり、宿泊客らしき人間が一人、乗ってくる。新聞を読みながら、こちらには目も向けない。

 

「楓!制圧!」

 

「は、はい!」

 

 TAC50はボスの命令に反射的に従う。目の前の男性の腕をとり、膝裏を蹴ってひざまずかせる。そして腕を後ろにまわし、完全に動きを封じて床に押さえつける。

 

「あっ気絶させといて」

 

「はい」

 

 戦術人形に制圧された男性は、なにかを言うまもなく窒息で意識を失った。

 

「それでこれはどういうことですか」

 

「見てのとおりよ」

 

「説明してくださいよ」

 

「そうね……ポケットを探ってみて」

 

 TAC50はしぶしぶと男性のポケットを探る。すると、無線機と大ぶりのナイフが出てくる。

 

「ボス、これは」

 

「私達は何も見なかった。この男は勝手に入ってきて勝手に倒れた。いいね?」

 

「あっはい」

 

 口が開きかけたが、エントランスの従業員に伝えに言っているボスを追求する気にもなれずに、TAC50は外を適当に眺めていた。

 

「よし、それじゃあ駐車場で張り込むわよ」

 

「は、はい」

 

 車に乗り込むと、ボスはどこからともなく餡パンと牛乳を取り出す。

 

「ボス、いつのまに買ってきたんですか」

 

「気づかないなんて楓もまだまだね。いずれわかるようになるわ」

 

「そんな餡パンと牛乳を誇らしげに語られても……」

 

 ボスから餡パンを渡されながら、TAC50は左目に注目する。

 

「ボス、本格的に動き始めたようです」

 

「よし。それじゃあ残ってる二人にも移動を開始するように言って」

 

「了解です!」

 

 TAC50が通信を飛ばすと、楓月のカメラが動き始める二人を捉える。

 

「作戦通りです」

 

「あいつらの無線機にも気を使っててね」

 

「はい」

 

 奪った通信機をドリンクホルダーに突き刺して、TAC50は車にキーを差し込む。

 

 しばらく待っていると、エントランスから男たちの一団が現れる。PDWによる武装した護衛も連れており、荷物も多い。

 

「よし、追って!」

 

 1団が駐車場から出ていったのを確認して、TAC50はキーを回す。見た目に似合わぬ重低音のエンジンが、駐車場に響く。

 

「ケフィ!そっちはどう?」

 

『ボス!いまバイクに乗ったところです!』

 

「よし、それじゃあそのまま追跡開始!」

 

 車に備え付けの無線から、K5とAA12の了承の言葉が聞こえる。

 

「でも、このコースってどこに行く気なんでしょうか」

 

「わからないわ。ケフィの占いでもね」

 

「そんな、いきあたりばったりということですか?」

 

「大丈夫よ。ほら、しっかり追跡して?」

 

 しぶしぶとハンドルを握るてを強めると、TAC50は楓月からの異変を感じ取る。

 視界にノイズがかかり始めていた。診断プログラムが自動でたちあがり、デバイス上の問題はないと返してくる。

 

「おかしいです。楓月が……」

 

 ノイズは次第に大きくなり、やがて砂嵐のように染まる。

 

「通信妨害です!しかも相当に強い!」

 

「ちっ気づかれてたってわけね」

 

 前の車が、突然加速する。

 

「ボス、どうしますか?」

 

「逃さないで!」

 

「でもここは管轄外ですよ!」

 

「責任は私が取るわ!」

 

「……わかりました!」

 

 TAC50はいっきにアクセルを踏み込む。そんな無茶な踏み方に、まってましたと言わんばかりに車は急加速する。

 男たちの乗る車は、一般車の合間を縫って走る。

 

「楓!路側帯よ!」

 

 スペースの空いている道端に、TAC50は車を寄せる。ほぼ一直線に空いた道は、まるで男たちの車への一本道のようだった。

 

「まだいけます!」

 

 ギアを手動で変え、さらに高い回転数を叩き出す。あっという間に男たちに追いつき、隣へと並ぶ。

 しかし、男たちの車も改造車だった。追いつかれると気づくやいなや、さらに加速していく。

 

「だめです!これ以上は車体が持ちません……!」

 

「……、楓!」

 

 男たちの車を見ると、後部座席の窓からなにかが飛び出ている。それは筒状のなにかをもった大男だった。

 

「RPG!?そんな!」

 

 発射されたRPGは、まっすぐにこちらへと向かってくる。

 

「ボス!しっかり捕まっててください!」

 

 ブレーキをしっかり踏んでハンドルを切る。止まりきれずに歩道に乗り上げた車は、何度か生け垣を貫通してようやく停まる。

 

「う……うう……」

 

 エアバックから顔を上げたTAC50は、自己診断プログラムが稼働しているのを確認して視線をとなりに向けた。

 

「ボス、ボス……!」

 

「う……ええ、無事よ」

 

 ボスに目立った外傷がないことを見て、TAC50はほっとため息をつく。

 

「しかしまずったわね……。ケフィ、聞こえる?」

 

『ボス、無事でしたか!』

 

「なんとかね。そっちは?」

 

『こっちも同じような感じです。アッチソンは今バイクの前で泣いてます』

 

「こんど新しいのを買ってあげないとね……」

 

 ボスは扉をあけると、転がるように外に出る。TAC50も出ると、聞き覚えのあるサイレンが近づいてきていた。

 

「ちっ……、これはしくじったわね」

 

 いくつか過ぎた生け垣、その一つは、管轄内と管轄外の境界線のようだった。

 

 駆けつけてきた署の警官にバッチを見せながら、二人は帰路につくことになった。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

「さて、どういう言い訳をしてくれるのか聞こうじゃないか」

 

 無駄に格式張ったスーツをきた初老の男性は、いまだ擦り傷でボロボロの女性にそう問いかける。

 

「すみません、お祖父様」

 

「すみませんだと?」

 

 男性は分厚い書類を机の上に投げる。

 

「車及びバイクが全損。あちらの領域での違反が複数。あげくのはてにRPGによる爆発被害で死者まで出たというんだぞ」

 

「それは私たちの責任ではなく勝手に撃ってきたあちらの責任では?」

 

「そんな簡単な話で済むわけがなかろう……」

 

 男性は椅子をきしませて立ち上がると、女性の前に立つ。

 

「管轄のことは何度も注意したはずだぞ」

 

「警官として当然のことをしたまでです。それが私の正義ですから」

 

 男性は、微動だにしない女性を見てため息をつく。

 

「まったく、無駄にあいつの血を強く引きおって」

 

「つまりはお祖父様の血では」

 

「頑固なのは家内のほうだ」

 

 男性は机の方へと戻り、封筒を持って戻ってくる。

 

「そろそろ私への不信感も強まってきた。これで済んだと思ってくれ」

 

 封筒を開封すると、中からは謹慎処分の書類が出てくる。

 

「そうですか。十分です」

 

「これはお前の祖父としてのお願いだ。静かに謹慎しておいてくれ」

 

「私がいい子なのはお祖父様も知っているでしょう?」

 

 女性はバッチと拳銃を取り出し、男性へと押し付けた。

 

「それではしばらくの間、暇をいただきます」

 

「まったく……そういうところは誰に似たんだか」

 

「若い頃のお祖父様の真似です」

 

「減らず口も父親譲りか」

 

 女性は軽く一礼し、総監室から退出した。

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