EIP―東諸国郡国際警察臨時特別捜査課―   作:畑渚

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不快な表現及び描写が含まれる場合があります。


2-8

「ケフィ、準備はいい?」

 

「ええ、もちろん」

 

 K5はホルスターにいれた拳銃の感触を確かめ、ボスの言葉にうなずく。

 

「占いではどう、今回の作戦は」

 

「吉、間違いなく成功するかと」

 

「そりゃなによりね」

 

「ただ……」

 

 K5はトランクから、アタッシュケースをとりだす。

 

「あの子次第でもあるわ」

 

 開かれたアタッシュケースから、楓月が飛び立つ。しかし、目に届く範囲にTAC50の姿は見当たらなかった。

 

「大丈夫よ。きっとね」

 

「だといいんですけど」

 

 ため息をつきながら、K5は車へと乗り込んだ。珍しくハンドルを握っているAA12が、二人が乗り込んだことを確認してアクセルを踏んだ。

 

「なあボス」

 

「ん、なにかしら?」

 

 顔は前を向いたまま、AA12が呟くよう言葉を続ける。

 

「相手は男だぞ」

 

「わかってるわ」

 

「ならいいや」

 

 AA12は包み紙をとって飴玉を咥える。しばらくすると、街の一角で車は静かに停止した。

 

「それじゃあいってくるわ」

 

「……無理そうだったらすぐ変わる」

 

「大丈夫よ。これくらいならね」

 

 AA12にそれじゃあと告げて、ボスは車から離れる。車は先にポイントへと向かっていった。

 

「ボス。もしものときは」

 

「ケフィ。何度も言わせないで。私は大丈夫」

 

「……わかりました」

 

 K5の顔は晴れなかった。誰よりもずっとボスを見ていた彼女だからこそ、この作戦には反対し続けた。しかしボスがYESと言うのならば、K5にはどうすることもできなかった。

 

「気を引き締めて。もう奴らのテリトリーよ」

 

 街の雰囲気が先程からガラリと変わっていた。路地では浮浪者が座り込み、入り組んだ場所では何やらこそこそと物品の取引が行われている。こんな場所に女2人だけで乗り込むのは、たとえ片方が人形であったとしても危険であることに変わりない。

 

「ケフィ、止まって」

 

「……っ、ここですか」

 

 場末の酒場。その中へと入っていく。ところ狭しと人が押し込められている。そしてその誰もが、共通した刺青、違法一歩手前の武装。バーテンダーもただものではないことは遠目からでもわかった。

 

「マスター。ウォッカを」

 

「私も同じものを」

 

 当たり前のように、グラスに並々とウォッカが注がれて出される。ショットグラスなんてものはこの酒場にはないようだ。

 

 K5は酒を喉に流し込みながら、不審ではない程度に店内を見回す。柄の悪い連中とそれを接待する女たち。一昔前の映画のようである。

 

「なああんたら」

 

 ほらきた、とK5は内心でほくそ笑む。話しかけてきた男は馴れ馴れしく腰に手を回してくる。

 

「よかったら一晩どうだい」

 

 自分のほうで良かったと、K5は安堵の息をつく。

 

「あら、楽しそうな話」

 

 ボスの返事に気をよくした男は、K5の腰に回す手の力を強めて奥の部屋へと連れて行く。ボスとK5はアイコンタクトをとってから、男の誘導にしたがって奥へと進んでいった。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

 2度ほど扉をくぐり抜けると、そこに法は存在しなかった。酒瓶を振り回しているのはまだいいほうで、泡を吹いて倒れていたり、あきらかに違法なものを売りさばく姿が見られる。ボスは内心ほくそ笑みつつも、目線も気にせず盛り合う男女から目をそらして男の後へと続く。

 

「ほら、そこに入りな」

 

 廊下を進んだ先の、一室に案内される。すこし豪勢なつくりの部屋は一見目をひかれるが、すぐにそこが檻であることに気がつく。やたら重々しい扉が、音を立てて閉まる。まるで2人を逃さないと言っているかのようだった。

 

「随分と豪華なのね」

 

「そりゃそうだ。なんたってここで一番の部屋だからな」

 

「それで、何をして楽しませてくれるの?」

 

 一足はやくベッドに座るボスをみながらも、K5は警戒を緩めていなかった。しかし、どうやらそれが癪に障ったらしい。男の手が、腰から肩へと上がってくる。

 

「……、そういうことかよ」

 

 ほぼノーモーション。故にK5は反応が遅れた。伝わってきた衝撃は想像を超えており、頭に入った大事な部分をぐらりと揺らす。

 

 揺れる世界の中、K5は拳銃を引き抜いた。しかし、その手は男の手で止められる。

 

「まさかあんたらがヤツの言ってたサツかよ」

 

「その出力、違法よ」

 

「ああ、そうかもな」

 

 銃声が部屋に響く。ゴトリと力を失ったK5の倒れる音がする。

 

「あんたは人形か?」

 

「私は人間よ」

 

「そりゃよかった。そうだな ……」

 

 男は銃を向けたまま、近くの引き出しから錠剤ケースを取り出す。

 

「2粒……いや、3粒飲むか、ここで風穴あけられて死ぬかだ」

 

「何の薬……いやわかった、飲むわ」

 

 引き金に指をかけた男をみて、ボスはあわててケースをあける。明らかに違法薬物。口に入れてしまえばどうなるかはわからない。しかし、無線も届かないこの部屋では、従うほかなかった。

 

「ほら、飲んだわ。これでいいんでしょう?」

 

 男は無言で近づくと、ボスの口を明らかに人を超えた力でこじ開ける。そして舌をつかむと、本当に飲んだのかギョロリとした目で口内を見回した。

 

「よし、そんでなんだったか」

 

「部下を殺しておいて、何をするつもりよ」

 

「そりゃ男女がベッドの上ですることなんて一つだろ」

 

 のしかかってくる男に、ボスは息が荒れそうになる。ガチャガチャとベルトを外している男の様子から目をそらして、耐える。その時がくるまで。

 

「親分!まずいですぜ!」

 

「なんだ!いまからいいとこだってのに!」

 

 突然部屋に飛び込んできた者が、男に耳打ちする。

 

「ちきしょう」

 

 男は耳打ちした内容を聞くと、ボスの腰を掴んで持ち上げる。

 

「あら、乱暴ね」

 

「その減らず口に咥えさせたかったぜ」

 

 そういうと縄を噛ませてくる。抵抗する間もなく、ボスは口を封印されてクローゼットに放り込まれる。ついでにと言わんばかりに、K5の死体も投げ入れてきた。

 

「死にたくなかったらそこで黙って耳と目とを閉じてな」

 

 そういって閉じられたクローゼットは、真っ暗だった。しかし、音は筒抜けだった。K5が使い物にならなくなったが、それも含めて想定内だった。

 

 部屋に別の男が入ってくる。計画通りだ。そして、動くなら今だ。

 

 K5の身体に仕込まれたもう一つの拳銃を手に、クローゼットから飛び出る。口に回された縄は、先に外しておいた。

 

「警察よ。手を頭の後ろに回しなさい」

 

 出た瞬間に目のあった男を、的確に撃ち抜く。手と足を撃ち抜けば、さすがに立てないほどには傷ついたようだ。

 しかし、入ってきたばかりの男はすぐに扉を開けて出ていこうとする。廊下だと一般人もいる。ここで撃つわけにはいかなかった。

 

「ケフィ……、ごめんね」

 

 ボスはケフィの身体にふれる。胸を弄り、パネルをスライドさせる。そして、奥のスイッチを一定間隔で落ち込んだ。

 

「消滅シークエンス、開始」

 

 K5の声で、しかし抑揚のない機械の声で、そう告げる。

 

扉をしっかりとしめて、男の後を追う。器用に人を避けていく男と違って、ボスは廊下にはびこる人間の壁に邪魔をされる。しかし、あの部屋から出てしまえばかまわなかった。

 

「やっと無線つながった!ボス!いまどこ!」

 

「ホシが逃げたわ。車を出して!」

 

「了解!」

 

 AA12の声を聞いてボスは少し安心したかのような息を吐く。ここまでは想定内。しかしこの後はイレギュラーが多すぎる。

 

「あの子がうまくやれるといいんだけど」

 

 律儀に待機しているであろう部下に思いを馳せる。しかし、その思考は別のものに侵食されつつあった。

 

「やっぱり違法薬物でしょあれ……せめて逮捕まで持ってくれるといいんだけど」

 

 そのつぶやきは、酒場の騒がしい喧騒にかき消された。

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