EIP―東諸国郡国際警察臨時特別捜査課―   作:畑渚

22 / 22
3-4

「あの、ボス……ほんとにこの服じゃないとダメなんですか?」

 

「いいから早く着替えなさい。それにいいじゃない、似合ってるよ」

 

 TAC50が手渡された紙袋には、可愛らしいフリルつきのワンピースが入っていた。これを着ろと言うボスも、普段のスーツ姿ではなく私服である。しかしそうはいっても、細身のスラックスにジャケットとフォーマル目なコーディネートなため、普段と雰囲気は変わらない。

 

「楓お姉ちゃん!かわいいよ」

 

「う、うん……ありがとう」

 

 似たようなワンピースに身を包んだ少女が、楓の元に駆け寄ってくる。後ろからは、なにやらげっそりした様子のAA12と、クスクス笑っているK5が近づいてくる。

 

「ああケフィ」

 

「ん?何ですかボス」

 

「これ、あなたの分」

 

「……?」

 

 首をかしげながら、K5はボスから紙袋を受け取る。TAC50と同じ店の紙袋である。

 えっとボスの顔を見上げるK5と、にっこりと無言で返すボス。

 

(R.I.P……)

 

 TAC50は心の中で、そう唱えた。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

 街中を3人で歩いてみれば、捜査のことなど忘れてしまいそうなほど長閑な日だった。子連れの家族があちこちにおり、特定の人物を探すには難しいであろう通りにTAC50たちはいた。

 

「楓お姉ちゃん……」

 

「ん、どうしたの?」

 

「ちょっと……お手洗いに行きたい」

 

「ああ、わかった。外で待ってるからなにかあったら声をかけてね」

 

「うん!」

 

 元気よく返事をしてトイレへと駆けていく少女を追いながら、ボスに声をかける。

 

「どうしてこんなことを?」

 

「気分転換よ」

 

「嘘ですよね?」

 

「ええもちろん」

 

 ニコニコと笑いながら応えるボスに、悪びれた様子はない。

 

「今捜査本部がバタバタしてる事件。その再現をここでやってるのよ。どの被害者もこんなふうに人混みの中でさらわれてるわ。そしてワンピースを着ている少女ってこともね」

 

「……もしかして私も対象ですか?」

 

「ええ。もちろんケフィもね」

 

 TAC50の動きが止まる。

 

「え、えっと私たちが囮になる意味ってあるんですか」

 

「そりゃあるわよ。無垢な少女が被害にあうより捜査官が捕まったほうがいろいろやりようがあるのよ」

 

「確かに、私やケフィさんだったら位置情報も常に把握できますけど……」

 

「それだけじゃないわ。ただの事件なら対応した課のみが対応にあたるのだけど、もし捜査官が人質になったとすれば……」

 

「組織全体が動くってことですか」

 

「そういうこと」

 

 少女が手を濡らしながら出てくる様子を見てため息をつくと、ボスはポケットからハンカチを取り出して拭いてあげる。

 それを後ろから見守っていたTAC50だったが、突然無線が鳴りすぐに対応する。

 

「ボス……、どうやら本当にかかったようです」

 

「さすがはケフィね。あの見た目なら確実だと思ったのよ」

 

 これは後でK5の機嫌が悪くなってそうだと、今のうちにリカバリープランの考慮を始めるTAC50であった。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

(本線道路をそのまま南下……いや、ここで脇道に入ったわね)

 

 手足を縛られ目隠しをされたK5は、車の振動と最後の方位情報から、現在位置の把握に努めていた。

 

(厄介ね、誘拐の手口が慣れてる。しかも、人形への対策済みと)

 

 K5は人形と見破られない対策をしていたため犯人たちはまだ人と思われているようだった。その気になれば、引きちぎれるくらいに紐が細かった。

 しかし、今回は制圧するのが目的ではない。そして何より欲しい位置情報は、特殊な車体なのか取得することができなかった。

 

(というか馬鹿なの……?ボディチェックすらされないとは)

 

 今回は身分バレに繋がるバッチや拳銃こそ携帯していないものの、念のために小さめのスタンガンを隠し持っていた。小さいながらも威力絶大な改造スタンガンは、K5のスペックと掛け合わせれば建物一つ制圧できると言っても過言ではない。

 

 

 車内は両脇の2人と運転手の合計3人のみ。そして不気味なのが、3人とも全く話さない。肩の触れる感覚から両脇がガタイの良い男性であることはわかるものの、運転手に至っては性別すら不確かだ。車内に響くのはヒーリングミュージックのみ。リラックス出来そうなお香も焚かれており、至れり尽くせりである。本来は手足の縛りすらないのかもしれないとK5は考える。

 

(車が止まった?扉も開いた)

 

 手を引かれるままにK5は車から降り、謎の建物の中へと誘われていった。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

『全職員へ通達。本日未明、非番であったケフィ捜査官からSOSの信号を受信。場所は〇〇区〇〇ブロック。特殊部隊も出動済み、付近の職員は現場に急行せよ』

 

「ふふ、かかったわね」

 

「まさか外に一瞬出ただけでここまでの情報を送ってくるとは……」

 

 無線を聞いたボスは、車のアクセルを思い切り踏む。後部座席からは、突然の加速を楽しむ少女の声が上がった。

 

「ちょっとボス!?少女も連れて行くんですか!?」

 

「急行しなきゃだからね。それに、相手が映画出演レベルのヴィランじゃない限り、現場後方で捜査官に囲まれてた方が安全よ!」

 

「否定はできませんけど、でもモラルとかそういうのは!?」

 

「今日は家に忘れてきたわ!」

 

「今日も!ですよね!!!」

 

 返事は、更に加速したエンジンの音でかき消された。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。