もう片方がのびてきてるが、こっちも頑張って投稿続けてく!
閑静な住宅街、そのアパートの一室にTAC50はうつ伏せになっていた。
側にはノイズの鳴るトランシーバーがついている。
「楓、準備はできてる?」
トランシーバーからボスの声が聞こえてくる。
「は、はい」
あまりのストレスで、今にも吐きそうになる。しかし上司であるボスの命令ならば仕方がない。
TAC50はスコープ越しにある路地の一角を見つめていた。もちろんスコープの下には、自分の半身でもあるTAC-50が、その重たい存在感を存分に発揮している。
ホシはすぐにその路地へと飛び出してきた。改造された戦闘義手をつけているが、身体のほうは可愛らしい少女の姿をしている。しかし、服はボロボロに千切れており、TAC50は悲惨さに同情すら感じていた。
「楓!撃って!」
K5の声がトランシーバーから飛び出してくる。ホシをこの路地まで追い詰めたのは、彼女の功績だった。
「撃て!」
続いてボスの声も聞こえる。
命令通り、TAC50は照準をホシの頭に合わせ、引き金に指をかける。
あたりは静まり返っていた。ホシが抵抗する物音くらいで、離れた場所にいるTAC50の周りには、自身を除いて一切物音をたてる存在がなかった。
しかし、TAC50自身がたてる物音……今にも破裂しそうな心臓の音は、照準を狂わせる。
「早く撃って!これ以上足止めは無理!」
K5が叫ぶ。しかし、TAC50には引き金がどうしても引けなかった。
照準はしっかりとホシの頭に向かっている。そのはずだった。
スコープ越しにK5が突き飛ばされるのが見えた。K5はどこかをやられたのかすぐには起き上がらない。
「お願い……撃たせてよ!」
指に力をいれる。しかし、引き金はびくともしない。それが銃側の問題であればいいのだが、TAC50はその原因が自分自身であることを理解してしまっていた。
「……TAC50、命令だよ。撃って」
ボスの冷徹な声がトランシーバーから聞こえる。何かのスイッチが入り、いままでの緊張がうそのように解けていく。程よく集中した状態で、TAC50は引き金がゆっくりと引かれていく。
スコープ越しにホシと目があった。その口元が、何かを訴えかける。
『タスケテ』
TAC50には、ホシがそう言ったように見えた。唇の動きだけではない、表情も、そう言っているように見えたのだ。
「やっぱり私には引けません!」
「……はぁまったく。アッチソン!」
「了解、ボス!」
住宅街にバイクのエンジン音が鳴り響く。AA12の乗ったバイクはうなり声をあげるように、ホシへと近づいていく。しかし、ホシは改造している腕を匠に使って街を走って逃げる。
「追いつかない!」
AA-12の発砲音が立て続けに空気を揺らす。しかし、ホシの逃げ足のほうが勝っていた。
「逃した!ボス、どうする?」
「う~ん、打つ手なしね。K5は私が回収して帰るから、あなたたちは先に署に戻っていて」
「……了解」
アッチソンの不服そうな声が聞こえる。しかししっかりと回収はしてくれるようで、バイクのエンジン音は近づいてきている。
「ほら、帰ろう……ってうえっ」
AA12はTAC50を見て思わず後ずさる。
「ほ、ほら……ハンカチ使っていいから涙拭きなよ」
「うう……すみません」
ハンカチを受け取り涙を拭く。しかいをふさぐレベルで流れ出ていた涙を拭き取ると、心配そうな顔でTAC50の顔を覗き込むAA12が見えた。
「これ、洗ってお返ししますね」
「いやいいよ、別に。気にしないで」
そう言ってAA12は飴をくわえる。少ししかめっ面だった気もしたが、今は飴を上機嫌に転がしている。
「ほら、乗って」
「あっはい」
TAC50が後ろへと乗り込むと、AA12はエンジンをかける。
「あれっ?ヘルメットは」
「人形には必要ないよ」
「確かにそうですね……ってそれはそうですけど!法律で決まってるじゃないですか!」
「いいんだよ。私たちは特例だから。警察が警察に捕まるわけないでしょ」
そのままエンジンをふかして、急発進していった。
「アッチソンさん!スピード違反!スピード違反ですよ!」
「もう……うるさいなぁ」
「んぐ……!」
TAC50は口に飴を突っ込まれる。
「気をつけないと、棒が喉にささるよ!」
「んー!ちょっといきなりなんなんですか!」
「飴だよ」
「それに何ですかこの味!」
「はちみつレモン味だけど?」
「はちみつ!?なんてものを食べさせるんですか!」
といいつつもTAC50は飴をペロペロとなめている。
「いや、なめてるじゃん」
「いえ、もらい物を粗末にするのは失礼ですので」
「ああ、そういう」
納得したかのようにAA12はうなずく。
「ちょっと!いま黄信号でしたよ!なんでアクセルを回すんですか!」
「わたし、やっぱこいつとはいやだぁ」
AA12の嘆きの声は、住宅街にひびくバイクの音でかき消された。
=*=*=*=*=
「聞いてよボス!こいつ、運転してるときめっちゃ話しかけてくる!こいつと組むの無理!」
「もう、そんなこと言わないでよ。それに安心して。あの子はしばらくケフィに面倒を見させるわ」
「はあよかった」
AA12は安堵の表情を浮かべて新しい飴の包み紙を開いた。
「ご苦労さま」
「あの……本当に申し訳ありません!」
TAC50は勢い良く頭を下げる。せっかくAA12が拭った涙も、再び彼女の目元にあらわれていた。
「はぁ、本当にね」
ボスがゆっくりと近づいてくる。TAC50は思わず目をつぶり、今後くるであろう痛みに備えた。
「まあ、いいわ」
そういってボスはTAC50の頭の上に手をおいた。そのまま少し左右に動かす。
どうやらなでられているようだ
とTAC50が気づくには、少し時間が必要だった。
「あの……私」
「ああ、いいのいいの。経歴は知っているし、あなたがなぜ前の居場所……グリフィンに居られなくなったかも知っているから」
「どうして?」
「そりゃ当たり前でしょう?部下の悩みを知るのは上司の役目よ」
「それじゃああの事件も……」
「ええ、詳しく知っているわ」
「それじゃあなぜ私に銃を持たせるんですか!」
「それは簡単よ」
顔を上げたTAC50の両肩に、ボスは手を置いた。
「私……いいえ、私たちにはあなたの能力が必要だからよ」
「でも、その能力ってつまりは銃のことですよね?引き金を引けない私なんて……」
「それは違うわ」
「何が違うんですか!」
「あなたは引き金を引けないんじゃない。引いてないのよ」
「……っ!引いてない……?そんなわけないじゃないですか!だって私はこんなにも」
つい言葉が荒くなるが、ボスにはそれを咎める様子もない。空気を読んだのか、AA12もいつの間にか退室していた。
「じゃあ簡単な話ね」
「えっ?」
ボスは自分の腰のホルスターに手をのばす。そこにはグロックが怪しく光っている。
「それじゃあTAC50、命令だよ。これで私を撃って」
「っ!そんな……!」
TAC50は差し出されたグロックを握り、銃口をボスへと向ける。
「今すぐ命令を中止してください!じゃないと私!」
TAC50の意思に反して、身体は勝手に引き金へと指をかける。
「……くっ!」
指に勝手に力が入っていく。血の気が引いていくTAC50とは反対に、ボスは優しく笑みを浮かべていた。
「ほらね、あなたは引いてないんだよ」
そのまま固まってしまったTAC50に近づき、そっと銃を横の壁へと向ける。
「さあ命令だよTAC50。引き金を引いて?」
そうボスが告げた瞬間、部屋に銃声が響き渡る。
「ボス!今の音は!?」
AA12が飛び込んでくるが、ボスは手で制す。
「大丈夫よ。ほら楓、銃を返して」
「は……はい」
TAC50は呆然としながら、ボスに銃を返した。
「撃てないのは今だけよ。いずれ撃てるようになる。それまでは私が支えてあげるから、しっかりと着いてきなさい」
ボスはTAC50を抱きしめながら、そう耳元でささやいた。
ほんのりと花の香りが、TAC50の嗅覚センサーを満たした。
よし……よしっ!このまま百合道を突き進め……!