EIP―東諸国郡国際警察臨時特別捜査課―   作:畑渚

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遅れてすまねえ!
もう片方がのびてきてるが、こっちも頑張って投稿続けてく!


1-3

 閑静な住宅街、そのアパートの一室にTAC50はうつ伏せになっていた。

 

 側にはノイズの鳴るトランシーバーがついている。

 

「楓、準備はできてる?」

 

 トランシーバーからボスの声が聞こえてくる。

 

「は、はい」

 

 あまりのストレスで、今にも吐きそうになる。しかし上司であるボスの命令ならば仕方がない。

 

 TAC50はスコープ越しにある路地の一角を見つめていた。もちろんスコープの下には、自分の半身でもあるTAC-50が、その重たい存在感を存分に発揮している。

 

 

 ホシはすぐにその路地へと飛び出してきた。改造された戦闘義手をつけているが、身体のほうは可愛らしい少女の姿をしている。しかし、服はボロボロに千切れており、TAC50は悲惨さに同情すら感じていた。

 

「楓!撃って!」

 

 K5の声がトランシーバーから飛び出してくる。ホシをこの路地まで追い詰めたのは、彼女の功績だった。

 

「撃て!」

 

 続いてボスの声も聞こえる。

 

 命令通り、TAC50は照準をホシの頭に合わせ、引き金に指をかける。

 

 あたりは静まり返っていた。ホシが抵抗する物音くらいで、離れた場所にいるTAC50の周りには、自身を除いて一切物音をたてる存在がなかった。

 

 しかし、TAC50自身がたてる物音……今にも破裂しそうな心臓の音は、照準を狂わせる。

 

「早く撃って!これ以上足止めは無理!」

 

 K5が叫ぶ。しかし、TAC50には引き金がどうしても引けなかった。

 

 照準はしっかりとホシの頭に向かっている。そのはずだった。

 

 スコープ越しにK5が突き飛ばされるのが見えた。K5はどこかをやられたのかすぐには起き上がらない。

 

「お願い……撃たせてよ!」

 

 指に力をいれる。しかし、引き金はびくともしない。それが銃側の問題であればいいのだが、TAC50はその原因が自分自身であることを理解してしまっていた。

 

「……TAC50、命令だよ。撃って」

 

 ボスの冷徹な声がトランシーバーから聞こえる。何かのスイッチが入り、いままでの緊張がうそのように解けていく。程よく集中した状態で、TAC50は引き金がゆっくりと引かれていく。

 

 スコープ越しにホシと目があった。その口元が、何かを訴えかける。

 

『タスケテ』

 

 TAC50には、ホシがそう言ったように見えた。唇の動きだけではない、表情も、そう言っているように見えたのだ。

 

「やっぱり私には引けません!」

 

「……はぁまったく。アッチソン!」

 

「了解、ボス!」

 

 住宅街にバイクのエンジン音が鳴り響く。AA12の乗ったバイクはうなり声をあげるように、ホシへと近づいていく。しかし、ホシは改造している腕を匠に使って街を走って逃げる。

 

「追いつかない!」

 

 AA-12の発砲音が立て続けに空気を揺らす。しかし、ホシの逃げ足のほうが勝っていた。

 

「逃した!ボス、どうする?」

 

「う~ん、打つ手なしね。K5は私が回収して帰るから、あなたたちは先に署に戻っていて」

 

「……了解」

 

 アッチソンの不服そうな声が聞こえる。しかししっかりと回収はしてくれるようで、バイクのエンジン音は近づいてきている。

 

「ほら、帰ろう……ってうえっ」

 

 AA12はTAC50を見て思わず後ずさる。

 

「ほ、ほら……ハンカチ使っていいから涙拭きなよ」

 

「うう……すみません」

 

 ハンカチを受け取り涙を拭く。しかいをふさぐレベルで流れ出ていた涙を拭き取ると、心配そうな顔でTAC50の顔を覗き込むAA12が見えた。

 

「これ、洗ってお返ししますね」

 

「いやいいよ、別に。気にしないで」

 

 そう言ってAA12は飴をくわえる。少ししかめっ面だった気もしたが、今は飴を上機嫌に転がしている。

 

「ほら、乗って」

 

「あっはい」

 

 TAC50が後ろへと乗り込むと、AA12はエンジンをかける。

 

「あれっ?ヘルメットは」

 

「人形には必要ないよ」

 

「確かにそうですね……ってそれはそうですけど!法律で決まってるじゃないですか!」

 

「いいんだよ。私たちは特例だから。警察が警察に捕まるわけないでしょ」

 

 そのままエンジンをふかして、急発進していった。

 

「アッチソンさん!スピード違反!スピード違反ですよ!」

 

「もう……うるさいなぁ」

 

「んぐ……!」

 

 TAC50は口に飴を突っ込まれる。

 

「気をつけないと、棒が喉にささるよ!」

 

「んー!ちょっといきなりなんなんですか!」

 

「飴だよ」

 

「それに何ですかこの味!」

 

「はちみつレモン味だけど?」

 

「はちみつ!?なんてものを食べさせるんですか!」

 

 といいつつもTAC50は飴をペロペロとなめている。

 

「いや、なめてるじゃん」

 

「いえ、もらい物を粗末にするのは失礼ですので」

 

「ああ、そういう」

 

 納得したかのようにAA12はうなずく。

 

「ちょっと!いま黄信号でしたよ!なんでアクセルを回すんですか!」

 

「わたし、やっぱこいつとはいやだぁ」

 

 AA12の嘆きの声は、住宅街にひびくバイクの音でかき消された。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

「聞いてよボス!こいつ、運転してるときめっちゃ話しかけてくる!こいつと組むの無理!」

 

「もう、そんなこと言わないでよ。それに安心して。あの子はしばらくケフィに面倒を見させるわ」

 

「はあよかった」

 

 AA12は安堵の表情を浮かべて新しい飴の包み紙を開いた。

 

「ご苦労さま」

 

「あの……本当に申し訳ありません!」

 

 TAC50は勢い良く頭を下げる。せっかくAA12が拭った涙も、再び彼女の目元にあらわれていた。

 

「はぁ、本当にね」

 

 ボスがゆっくりと近づいてくる。TAC50は思わず目をつぶり、今後くるであろう痛みに備えた。

 

「まあ、いいわ」

 

 そういってボスはTAC50の頭の上に手をおいた。そのまま少し左右に動かす。

 

 どうやらなでられているようだ

 

とTAC50が気づくには、少し時間が必要だった。

 

「あの……私」

 

「ああ、いいのいいの。経歴は知っているし、あなたがなぜ前の居場所……グリフィンに居られなくなったかも知っているから」

 

「どうして?」

 

「そりゃ当たり前でしょう?部下の悩みを知るのは上司の役目よ」

 

「それじゃああの事件も……」

 

「ええ、詳しく知っているわ」

 

「それじゃあなぜ私に銃を持たせるんですか!」

 

「それは簡単よ」

 

 顔を上げたTAC50の両肩に、ボスは手を置いた。

 

「私……いいえ、私たちにはあなたの能力が必要だからよ」

 

「でも、その能力ってつまりは銃のことですよね?引き金を引けない私なんて……」

 

「それは違うわ」

 

「何が違うんですか!」

 

「あなたは引き金を引けないんじゃない。引いてないのよ」

 

「……っ!引いてない……?そんなわけないじゃないですか!だって私はこんなにも」

 

 つい言葉が荒くなるが、ボスにはそれを咎める様子もない。空気を読んだのか、AA12もいつの間にか退室していた。

 

「じゃあ簡単な話ね」

 

「えっ?」

 

 ボスは自分の腰のホルスターに手をのばす。そこにはグロックが怪しく光っている。

 

「それじゃあTAC50、命令だよ。これで私を撃って」

 

「っ!そんな……!」

 

 TAC50は差し出されたグロックを握り、銃口をボスへと向ける。

 

「今すぐ命令を中止してください!じゃないと私!」

 

 TAC50の意思に反して、身体は勝手に引き金へと指をかける。

 

「……くっ!」

 

 指に勝手に力が入っていく。血の気が引いていくTAC50とは反対に、ボスは優しく笑みを浮かべていた。

 

「ほらね、あなたは引いてないんだよ」

 

 そのまま固まってしまったTAC50に近づき、そっと銃を横の壁へと向ける。

 

「さあ命令だよTAC50。引き金を引いて?」

 

 そうボスが告げた瞬間、部屋に銃声が響き渡る。

 

「ボス!今の音は!?」

 

 AA12が飛び込んでくるが、ボスは手で制す。

 

「大丈夫よ。ほら楓、銃を返して」

 

「は……はい」

 

 TAC50は呆然としながら、ボスに銃を返した。

 

「撃てないのは今だけよ。いずれ撃てるようになる。それまでは私が支えてあげるから、しっかりと着いてきなさい」

 

 ボスはTAC50を抱きしめながら、そう耳元でささやいた。

 ほんのりと花の香りが、TAC50の嗅覚センサーを満たした。

 






よし……よしっ!このまま百合道を突き進め……!
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