「ボス、あの新人はどこに?」
「こらケフィ、新人じゃなくて楓ってよんでやりなさい」
「はい、すみません。それで楓はどこに?」
「射撃訓練」
ボスはぼそりとつぶやいた。
「あいつが……?」
驚くK5を見て、ボスは一枚の紙を出す。
「これを見て」
「これは、射撃訓練のスコアですか?」
「ええ、楓のここ数日のね」
「……でもこれって白紙ですよね」
「撃ててないのよ、一発も」
「はぁ、時間の無駄では?」
「そう言わないであげて」
ボスはコーヒーをすする。
「楓は……何があったんですか?」
「珍しいわね、ケフィが私に聞いてくるなんて。いつもの占いはどうしたの?」
「ボスは知ってるでしょう。そんなのはないって」
「まあね。それで……知りたいの?楓の過去を」
「それは……」
K5の表情を見て、ボスはメモ帳に何かをサラサラと書きなぐる。
「これは渡してあげる。見るか見ないかは自分で決めなさいな」
メモ帳から切り取られた紙には、書庫の整理番号が書かれていた。分類上は、存在しないはずの書棚である。
「わかり……ました……」
K5はそのまま退室した。その迷ったような姿を眺めて、ボスは呆れたようにため息をはいた。
K5は廊下を歩いていく。その顔はあまり良い表情をしていなかった。
「まったく、なんで私がこんなことをしなきゃなんないのかしら」
K5はそう言葉をもらしながら、廊下を歩いていく。
チン、とエレベーターの到着音がする。
のってから回数のボタンを押す前に、一度動きを止める。
「……はぁ、まったく」
ケフィはため息をついて、書庫室ではなく訓練所の階のボタンをおした。
=*=*=*=*=
銃声が響き渡る。しかしそこは戦場ではない。
「はあ、やっぱりダメ……」
TAC50は銃を置いて、後方のベンチへと座り込む。
「どうして……撃てないの……」
コンディションは万全で、システムも正常である。ここ数日ずっとここにいて、ずっと一緒に半身であるTAC-50と過ごしている。
というのに、引き金は引けないままだ。
「ほらっ、差し入れよ」
「ケフィさん」
K5は飲料水を投げ渡してくる。危なげなくそれを受け取るのを見て、K5は自分の分を開けて飲みはじめる。
「どうしてここへ?」
「私だって訓練したくなるときもあるわ」
K5はそういって射撃場の方へと歩いていく。
『ケフィ捜査官、認証成功。拳銃訓練メニューを開始します』
合成音声が響き、トレーニングが始まる。
K5は素早いサイティングから正確に引き金を引いていく。
『訓練メニューを終了、スコアシートを発行します』
K5はスコアシートを見て、すぐに丸めて捨てる。明らかに興味がない様子だ。
「さすがですね……」
TAC50には、そのスコアシートの結果が一瞬見えていた。結果は満点である。
「べつにコレくらい、あなたでも出来るでしょう?」
「私には……無理です」
そういってTAC50はうつむく。
「あのねぇ……これくらいもできないの?」
「無理ですよ……引き金が引けないんですよ」
「……そう。じゃあ銃を貸して、スポッターになってくれない?」
「す、スポッターですか?」
「いいから、とにかく」
断れるような雰囲気でもなく、TAC50はとりあえず頷く。
「どう?」
「左に0.3度、上に0.4度です」
「こう?」
「大丈夫です……多分」
「まったく少しは自信を持ちなさいよ」
そう言ってケフィは躊躇わずに引き金を引いた。ライフルは正常に作動し、射撃場内にひときわ大きな銃声を響かせる。
「ケフィさん、さすがですね」
「私はあなたの指示通りに撃っただけだから」
「でもさすがです」
「はぁ……。まあ良かったじゃない」
「何がですか?」
K5はTAC50に背中を見せる。
「烙印はうまく機能しているわ。だからあなたは引き金を引けば外さない。そこだけは自信を持ちなさい。でないと押しつぶされるわ」
「押しつぶされる……?」
「気にしないで。それじゃあ私は行くから」
そういってK5は出口の方へと歩いて行った。
「あっありがとうございました!」
TAC50は深々と頭を下げるが、K5は一瞥もせずに、手をひらひらとだけ振ってからでて行ってしまった。
「外すことは……ない……か」
TAC50のつぶやきは、ほかの人の銃声でかき消された。