「それがなにか?みたところ普通のガラクタにしかみえないけど」
「アッチソン君、これに見覚えはないかい?」
「そんなものあるわけ……」
AA12は一度近づいてみる。しばらく眺めた後、軽く叩いて感触を確かめる。
「あいつだ、あのイカれた人形のパーツと同じだ。まさかここは――」
「ああ。僕らはここをあの人形の拠点として調査している」
「待ってください。ということは見つかった死体は人形が殺したものだと?」
TAC50の言葉に、男は落ち着いて頷く。
「まあ、そういうことだろうね。彼とそのガラクタ以外の痕跡はいまのところない」
資料をめくりながら男は言葉を続ける。
「おそらく人形がこの仏さんを殺して、そのあとここを拠点として使っていたってところみたいだね」
「ふーん」
AA12はガラクタに手を触れる。手袋越しではあるものの、あまり褒められたことではない。
「じゃあこれはどういういことかわかる?」
AA12がガラクタをどかすと、写真立てが出てくる。そこには、男と女の一組が写っている。その男は、資料にあるここの死体のものと一致していた。
「この女の身元を特定しよう」
「いえ、その必要はありません」
「ああ、ルーキーの言う通りだ」
AA12の後ろ盾を得て、TAC50は意を決して言葉にする。
「この女性、容疑者でもある人形自身です。ここは、2人の住処だった可能性があります」
「……なるほど、根拠はあるのかい?」
「私たちは実際に接敵しました」
「そういえばそんな報告も受けていた気がするね」
「そのときの記憶です」
「つまりは覚えているからと?」
TAC50は男から目をそらす。記憶している顔のイメージと一致していると言いたいが、それは自分が人形であることを言うことに等しい。うつむいてしまったTAC50の前にAA12が出る。
「確実な証拠なら本部に帰ってから渡す。私の戦闘用ギアにはカメラが付いている」
嘘でも無かった。確かにAA12の装備にはライブ用のカメラが備わっている。しかし、普段は邪魔だからと外していることがほとんどだった。
しかし、カメラがあるというのは真実である。そこに疑いようは無かった。
「わかった、今は君たちの言うことを信じよう。それじゃあ僕らはこの写真を元に捜査を進める」
そう言うと男は周りの部下たちに指示を出し始める。横耳を立ててみれば、どうやらここで手がかりを探しつつ、本部に置いてきた部下に写真から捜査してもらうようだ。
「アッチソンさん、ありがとうございます」
「こういうときは助け合いだよ、ルーキー。それに……嫌な予感がするんだ」
AA12はガリっと飴を噛み砕くと、ポケットから新しい飴を取り出す。
「私のこういうときの予感ってのはよくあたるんだよ。気をつけといて」
「はい、わかりました」
TAC50は楓月の視界を確認する。俯瞰から見るこの建物は、ところどころ不自然にも見える。まるで、人為的に破壊されたかのような跡が数カ所見つけていた。
「ルーキー、そろそろ行こう」
「あっはい、すみません」
「あやまることもない。それで、どう?」
「いまのところは異常はないです」
「そうか、じゃあ今回は珍しく外れたのかなー」
「あっ」
「ん?どうしたんだ?」
「いえ……そういえばこの家の壊れ方に見覚えがあると思いまして」
脳内の記憶をひっぱりだして、TAC50はAA12に送信する。
「建物の壊し方……?なんでこんなデータを」
「以前……少しいろいろとありまして」
TAC50少しうつむき、顔に影がかかる。
「まあそのあたりは聞かないよ。で、もしルーキーがここを壊すならどうする?」
「そうですね……例えばこことかに爆薬をしかけますかね」
柱の前の戸棚を開く。しかし、そこは何もはいっていなかった。
「……どうやら思い違いみたいだな、行こう」
「そうですね」
TAC50は立ち上がって埃をはらう。部屋を出ていこうとするAA12に続いて、足を踏み出した。
ふと、戸棚の方を振り返った。しかし、花瓶の花がこちらを見ているだけで、他には何もなかった。
『この仕事で一番大事なのはね、観察眼だよ。たとえ手相でも、何かの手がかりになるかも知れない』
「ん?おいどうしたんだルーキー!?」
「もしかして、と思いまして」
TAC50は踵を返して戸棚の方へと戻る。そして今度は戸棚ではなく、上に置かれている花瓶を手に取る。
「……アッチソンさん、急いで爆弾処理班を」
「ばか!はやくそれを置け!」
AA12は花瓶をひったくって置き直し、部屋から飛び出す。
「おい、優男!爆弾だ!」
「ん……んん?なんだって?」
「だから爆弾だ!全員退避させろ!」
「わ、わかった!2班と3班はとにかく退避!鑑識も荷物置いてさっさと出ろ!」
「ボス!1班はどうするんで!?」
「1班はベランダから飛び降りろ!なあに外は芝生だ!」
そういうなり男は窓を割ってベランダへと飛び出した。
「レディたちは僕が抱えたほうがいいかい?」
「はぁ、余計なお世話」
「えっ……ひゃあっ!」
TAC50を横抱きにしてAA12はベランダから飛び降りる。
「そんなやわじゃない」
AA12はTAC50を下ろすと土埃をはらう。
「ほらルーキー、走って退避」
「は、はい!」
男も飛び出して受け身をとって着地した瞬間、空気で振動が伝わってくる。
続けて何度も同じ規模の爆発がおきる。
「爆弾なんてよく気がついたね、ルーキー」
「不思議に思ったんです。咲いた花があるってことは数日の間にここに来ているはずだって」
「お手柄だね。監視はどう?」
「高速で家から飛び出てきた人形がいます。おそらくは……」
「わかった、行こう」
「はい」
AA12とTAC50は車へと向かう。運転席にのりこんだTAC50に対し、AA12は補助席ではなく後部座席に乗り込んだ。
「なぜ後部座席なんですか?」
「こっちのほうが撃ちやすいからだよ」
ガンケースからAA-12を取り出すと、重々しい音を立てながら弾を装填する。
「さあ、退屈な時間は終わり。これからは狩りの時間だ」
AA12はサイレンのスイッチを入れる。赤と青の回転灯が周り、耳をつんざく音を辺りに撒き散らす。
「さあルーキー、敵のとこまで飛ばしてよ」
「はあ、あとで報告書書きたくないんですが」
「私に任せとけって!」
AA12は笑顔でそういった。AA12が笑顔だったから、TAC50も安心してニトロのスイッチを入れた。
=*=*=*=*=
「ねえルーキー」
「はい、アッチソンさん」
「確かに私が悪かった。飛ばしてって確かに言ったけどさ」
「そうですね。録音もしてあります」
「うん、でもさ。容疑者を轢くってのはさすがにまずいでしょ……」
「でもアッチソンさん、報告書は任せとけって言ってましたよね?」
「まあ……しかたないか……」
AA12は車から降り、トランクから装備を取り出す。盾の稼働を確かめてから、目の前に転がるボロボロの人形へと近づいた。
「えーっと……あんたは人形だから弁護士は呼べないね。黙秘権もないや」
「人形……PMC……?」
「うんにゃ、私たちはEIPだ。いわゆる警察だよ」
「けい……さつ……そう、私捕まるのね……」
その人形は空を見上げて涙を流した。
「バイバイ……世界……」
そう言いながら、その容疑者である人形は自分にナイフを突き立てた。