及川光成は走者である   作:水上竜華

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予め言っておきますが、原作キャラと絡むまでそれなりに時間がかかります。
前半はオリ主とかオリキャラの話になってしまいますが、御容赦ください。





第一話 走者の軌跡

 

 

 

 2015年7月30日、夜

 

 俺がこの世界に転生してから15年もの歳月が経っていた。

 

 俺は生前の日本と殆ど変わらない日本に転生していた。

 本当に何も変わっていなさ過ぎて拍子抜けしたくらいだ。

 どうやら異世界転生などではなく、元の世界に限りなく近い世界に生まれたようだ。

 下手に強力な力を手に入れずに転生してよかったと、転生直後の時は思った。

 

 俺が生まれた家は群馬の自然が溢れる所謂田舎町にある農家で、最初は余りにも田舎過ぎて時代がハッキリと把握できなかったが家にある新聞や電子機器などからここがどんな世界か少しずつ理解していった。

 

 幼少期は赤ん坊として普通に泣きわめいて、飯を食って、ハイハイして、疲れたら寝るを繰り返していた。

 体が赤ん坊の時は精神が体に影響されていたため年相応のことしか満足にできなかったが、1歳になった頃には意味がある程度分かる言葉は言えるようになったし、二足歩行も出来るようになったため家の中だけではあったがこの世界についても調べていった。

 赤ん坊の時の話はこれで終わりだ。色々と思い出したくない思い出があるからなぁ……。

 

 三歳になった頃、大体自分の現状について理解した俺は、親が同伴ではあるが家を出て外の世界を歩いて回っていた。この頃から自分なりに親の手伝いをしようと思い、畑仕事や出荷の手伝いもするようになった。

 

 ここまでは順調だったのだが、ここで一つの問題が発生する。

 近所に子供がいなかったのだ。

 

 全くいないわけでは無いのだが、本当に数えるくらいしかいなかった。

 小学校の同学年には俺一人だけだったし、他の学年もニ、三人前後しかいない有様だ。

 

 両親曰く、若い人が都会の方に移り住んでしまった所為で近所にはジジババしかいないのだという。

 

 ただ、人の数が少ないと違う学年の子とも交流が出来るのでボッチになることはなかった。

 一つ不満があるとするなら同学年がいないので同年代同士の話ができないことくらいだろうか……。

 まあ、元が田舎だから最近の流行について話すこともなかったがね。

 

 そんで、違う学年同士で和気あいあいとした空気をかもし出すのだが精神年齢が一番高い所為か、周りから頼りにされることがやけに多かった。自分の下の学年の子ならまだ分かるのだが上の学年の子にさえ頼られた時には少しだけ驚いた。

 そんなこんなで自然と""皆の頼れるお兄さん""みたいな立場になった俺なのだが地元が近場に電車すら通っていないくらいのド田舎であったこともあり、家の仕事を手伝っている時間以外は皆で集まって山で追いかけっこや秘密基地を作ったりして遊んでいた。

 前世では交友関係が最悪だったことからこういう外での遊びに参加したことがほとんどなかったため、かなり新鮮な体験だった。

 

 そんな毎日を過ごしていた所為なのか。俺は走ることが好きになっていた。

 

 山で追いかけっこをしている時に風を切る感覚がとても気持ちよく、誰も追いつけないスピードで走り抜く高揚感が病みつきになってしまったのだ。

 小学校を卒業したころには俺の日課にランニングが当然のように組み込まれていた。

 

 地元が田舎であるため他に誘惑がないからっていう理由もあるけど、ただ走ることがたまらなく好きになっていたから俺は走ることを止めなかった。

 そして時は流れ、俺は中学生になった。

 中学にもなると隣町の子供たちとも学び舎を共にするようになり、周りの生活も変化していった。

 

 隣町の子供は比較的都会よりであるためか小学校とは異なり一学年あたりに三十人くらいの人数が学年にいた。同年代の子が一気に増えたのは良かったのだが彼らの大多数はゲーム機器で遊んでいる子ばかりで山に入って遊ぶようなやんちゃな子は全くおらず、今一つ会話に入ることができなかった。

 しかも、多感な中学生にもなると以前一緒に遊んでいた子たちですらも山遊びなんて嫌だと言い始めるようになってくるため、一緒に遊ぶ手段を他に持ちいなかった俺は自然と一人で過ごす時間が多くなっていき、いつの間にか走り込みばかりするようになっていった。

 別段いじめを受けていたわけでは無いが同学年の子達との間には見えない境界線の様なものを感じた。

 あちら側から話しかけられることはほとんどないのだがこちらに興味自体はあるけど近づきにくい様な空気が俺の周囲には多かった。

 なので、初めのうちはこちら側からガンガン話しかけていたのだが、前述にあるように生活環境の違いから生じる話の内容の食い違いによってあまり親密な関係に至るほど仲のいい友達ができなかったのだ。

 それからも似たような空気で三年間を過ごし、特に特筆して語るべきこともなく俺の中学時代は終わった。

 前世よりはマシな中学校時代だったが、人間関係の構築には若干失敗してしまった感は否めなかった。

 

 そんな中途半端な終わりを迎えた中学生時代だったが、走るのが好きなことは何も変わらなかった。

 むしろ、走りに専念できた分有意義な中学生時代を送れたと自分では思う。

 

 毎朝の畑仕事に、ランニング、片道徒歩で二時間の通学路を三十分ほどで走りきる生活を経て俺の体は前世の肥満体質とは打って変わってかなり筋肉質なボディになっていた。

 ちなみにムキムキのゴリマッチョではない、無駄なモノは削ぎ落した細マッチョだ。ここは個人的に重要です。

 

 走る速さも同学年では一番速くなっていた。中学で行われた持久走では先生に「お前なら世界も狙えるんじゃないか?」と顔を引きつらせながら言われるくらいには滅茶苦茶速くなっていた。

 まあ、もっと速く走れるようになりたいと思い始めた時からは体中に自分の体重の半分以上もある重りを付けて生活してたし、日課のランニングだってわざわざ険しい山道を走ってどんな状況下でも速度を維持することができるようにアホみたいな訓練さえしていたのだ。

 他にも頭がおかしいと思われるような訓練をたくさんしてきたが、それでも俺の成長スピードは常人のそれをはるかに上回っていた。

 恐らく転生時の特典のおかげなのだろう。走ることに執着すればするほどに俺の体は物凄い勢いで走ることに特化した体に成長していき、オリンピックに出るようなケニア人でさえも凌駕するほどの体をいつの間にか手に入れていた。

 

 最初のうちは特典の力によって手に入れた力であり、自分のモノではないと卑屈にも思っていたが時間が経つにつれて走ることに対する欲求がどんどん強くなっていき、高校進学時にはそんなことは思うようにならなくなった。

 走ることに対する強い思いがそうさせているというのもあるが例え特典の力が作用していたのだとしても、自分が毎日欠かさずに行ってきたことが無駄にならなかったという事実が堪らなくうれしかったのだ。

 ーーしかし、この時の俺は自分の異常さがどれ程酷いものか、正しく理解していなかった。

 

 走りの魅力に取りつかれた俺だったが中学を卒業した後は現実的に走るだけでは生きていけないため、一先ず将来的に実家の経営の手助けをしたいと思い東京まで上京して、都会にある高校に進学した。

 そこで俺は今世になって初めて部活に入ることになった。中学時代は学校にいる人数が少なすぎたため部活というモノが存在しなかったが、高校は都内でも有名なマンモス校に入学したので当然の如く部活動もあった。

 それに加えて校則で最低でも一つの部活には入っていなければならなかったので、俺は迷わずに陸上部に入部した。

 実際のところ、自分が周りに比べてどれだけ速くなっているのか気になってたし、自分がやっていた練習以外にどんな練習方法があるのか知りたかったから入部したのだ。

 

 結果的にいうと、俺は部の中で孤立した。

 

 入部当初の時点で、100メートル走を専用のシューズを履かずにほぼ九秒台という好記録を出した俺に対して思う所があるのだろう。

 ……ここだけの話、最初に走った時の俺は身体中に重しを着けてた状態かつ、二本走ると聞いていたので周りを驚かせた最初の一本目はほとんど流して走っており、この時点の自己ベストが四秒台一歩手前くらいだったため、九秒台くらいでなぜ騒がれているのが全く理解していなかった。

 

 今世ではテレビなどは全くみていなかったし、前世でも世俗に余り興味がなかったのが悪かったのだろう。

 謀らずも俺は入学して一週間もしないうちに陸上部のエースという位置に就くこととなった。

 そんな俺なのだが同級生からはまるで別次元の存在であるかのように距離を置かれ、上級生、特に元々俺が入るまでは陸上部のエースだった人からは陰ながら嫌がらせを受けていた。

 と言っても直接暴力を振るわれたわけでは無く、悪口を聞こえるように言われたり、周りに俺に対して距離を取るように圧力を掛けたりなど間接的な嫌がらせがほとんどで教師達には全く気付かれることもなく、誰もそれを止めようとしなかった。

 正直な話をすると精神的には結構辛かったのだが、生活に支障が出るほどの嫌がらせはなかったのでこの半年間は耐えることが出来た。

 

 まあ、陰湿な嫌がらせに耐えられたのはやっぱり存分に走れたのが大きかったと思う。

 もしも、俺が走ることに専念できないくらい面倒な嫌がらせをしてきた場合、あまりやりたくはないが二度と同じような真似をしないように首謀者の皆さんとタップリとお話(・・)をしなければならないくらいには発狂していただろう。

 

 以上が今世の俺こと、及川光成(おいかわみつなり)の転生してから辿ってきた大体の道のりである。

 

 今の俺は面倒な定期試験を赤点を取らず無事に乗り越え夏休みを実家でエンジョイ中、

 

 ……かと思いきや、陸上部の夏の合宿で新潟の海沿いの町に来ていた。

 最初の内は「一日中走るために必要なトレーニングが出来る!」と心を弾ませながら参加したのだが、所々にある""れくりえーしょん""なる忌まわしき行事のせいで思うようなトレーニングが出来なかったのだ。

 事前に配られていたしおりにも一応予定として記載されていたのだが、予想以上に長い上に前述にあった嫌がらせの所為で同じチームの人とはぎこちない空気でしか話すことが出来ず、かなり気まずかった。

 この合宿は部全体の強化も目的の一つではあるのだが、今年で卒業する三年生を(ねぎら)う場も兼ねているので練習以外にもこういったおチャラけたイベントが組み込まれている。

 付け加えて、元々内の部はチーム力を重視するという独自の理念があったためガチの練習と同様に「""レクリエーション""は部のために必要なモノだ!!」と顧問の熱血教師がいうのだから抜け出そうにも抜けることが出来なかったのだ。

 

 で、合宿2日目の夜。つまり、今なのだが俺は昼間に溜まりに溜まった鬱憤を晴らすべく夜の浜辺を駆けまわっていた。

 足場がきめ細やかな砂なため何度か足を取られそうになったが雨の日にドロドロになった田舎道に比べればだいぶ楽なモノである。

 靴に砂が入るから途中で靴を脱いだのだが裸足で走る機会など今までなかったため、ここまでの解放感を得られると知った時にはかなり驚かされたものだ。

 「これからは裸足でも走ってみようかな?」っと思うくらいには解放感があって非常に気持ちよかったものだから、俺は口角を上げながら延々と砂浜を走り回っていた。

 

 そんな時だった。突然地震が起きたのだ。

 

 非常に大きな地震だったが普段から体感を鍛えていた俺はコケる様なへまはせずに、揺れが収まるまでいつでも動けるような体勢を維持しつつその場で留まっていた。

 そして、揺れが収まってからは一先ず今現在陸上部が宿泊している宿に俺は向かうことにした。

 ただその前に現在が緊急時であることを加味して日常的に身に着けていた重りを全て外し、いつでも本気の走りが出来るようにする。

 全ての重りを一つにまとめた俺は周囲の様子に気を配り、脱ぎ捨てた靴を回収して浜辺から去っていった。

 

 

 

 ーーこの時、俺はこれから自分のなんて事のない日常が崩れ去るだなんて、知る由もなかった……。

 

 

 

 

 







ストックはあまり多くありませんが、なるべく更新を続けられるように頑張りたいです。


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