及川光成は走者である   作:水上竜華

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第二話 星屑の夜に

 

 

 

 浜辺から走って宿まで戻った俺は他の陸上部の面々と合流し抱えてきた重りを宿に預けると、点呼を取った後に山の方にある高台に移動することになった。

 海沿いの町ともなると地震によって津波が起きる危険も十分にあるためこういった事態が起きた場合、宿の人と相談して避難するという手はずになっていたのだ。

 もちろんのことながらかなり大規模な地震であったため町の方からも住民に対して避難警報が流されており、皆も特に不満を表に出さずに避難所へと向かっていく。

 

 避難先には既に来ていた地元の住人で溢れており、皆一様に海の方を不安な目つきで眺めながら成り行きを見守っていた。

 自分たちの町がどうなってしまうのか心配なのだろう。

 先程起きた地震はそう考えてしまう程に大きく、けして少なくない被害は出るだろうと皆考えているのだ。

 

 それからも断続的に地震は続き、遅れて避難してくる住民もどんどん多くなっていく。

 そして、高台に避難してから約一時間もの時間が経過したが海の方からは特に異変は起きず、もしかしたら津波は起きないのではないかと皆が思うようになった。

 そう感じてから暫くすると周りの空気が弛緩してきたおかげなのか、皆の顔に、声に明るさが戻っていき、避難所の高台は明るい雰囲気になっていった。

 と、言っても津波は地震が起きてから数時間後にやってきてもおかしくない類の災害なため予断は許さない状況であることには違いない。ただ、いつまでも暗い空気になっていると気が滅入ってしまうため、こういった空気になってもらうと個人的には非常に助かる。

 

 一緒に来ていた陸上部の面々もなんとか心に余裕を持てたのか、既に雑談に花を咲かせていた。

 ただ、陸上部内にコミュニティーを持たない俺には悲しいことに気を許して話ができる相手がいないため手持ちぶさになってしまった。

 かといって趣味のランニングをしようにも人がたくさんいる高台で走り回れば迷惑をかけることなど明白であるためすることが出来ず、仕方なく遠くに行かない程度にぶらぶらと歩き回ることにした。

 まず、高台にある施設の方に行ってみたがトイレに並ぶ長蛇の行列ができていて、とてもではないが並んで用を足す気にはならなかった。

 これだけの人数がいるとトイレを必要とする人も比例して増えていくのだろう。

 因みに俺はこの事態をあらかじめ予想していたので避難所に着いたときに真っ先に用を足しに行っていたので、特に我慢する必要もない。

 むしろ「これから行きたくなりそうだから……」とか言って全然行かなくても大丈夫な人間があの中で並んでいると非常に迷惑だ。

 本当にトイレを求めているような人間。

 そう、例えば、俺の視線の先にいる顔を青くしながら股の所を抑えて列の最後尾に並んでる陸上部の先輩の様な人間が一番トイレというモノを必要としていると思うのだよ。

 

 ーーていうかあの人本当にヤバそうだな。漏らさなきゃいいけど…。

 今にも決壊寸前な男に心の中でエールを送りながら俺は邪魔にならないようにその場を後にした。

 

 それから少し歩いていたのだが途中で気になるモノを見つけてしまった。

 黄緑色のワンピースを着た大体小学生くらいの女の子が肩のあたりで切りそろえられた髪を揺らし、周りを挙動不審な様子でキョロキョロと見ながら歩いていたのだ。

 何やら酷く落ち着きがないように見えたし、彼女の周りに知人らしき影も見当たらなかったので放って置くことが出来ず、一先ず話しかけることにした。

 ただ、身長170㎝オーバーの俺が130㎝前後の身長を持つ彼女に対して上から話しかけても恐怖心しか生まないことは自分の転生してからの体験で身をもって把握済みなため、なるべく近づき過ぎずにしゃがんだ状態で話しかけた。

 

「__こんばんは。すごい人ゴミだね。」

 

「ッ!?……ひゃ、ひゃい。そう、れふね。たくさん、人、いますぅ……。」

 

 どうやらいきなり知らない人に話しかけられて驚いてパニックに陥ってしまったらしい。

 完全に呂律が回っておらず、セリフも最後の方になるにつれて小さくなってよく聞き取れなくなっている。

 もしかしなくても俺に対して恐怖心を抱いているのだろう。

 まあ、無理もないことだ。なにせ今世の俺の顔はぶっちゃけかなり怖い。

 具体的に言うと表情に変化がない上に何を考えているか分からない顔をしているのだ。

 子供の頃は特に問題はなかったのだが年を取っていくにつれて表情の変化が乏しくなり、今では自力で変えるのも難しい有様である。

 それどころか、無理に笑おうとすると何か悪巧みをしてる悪人面になってしまったり、泣きそうになるのを堪えると鬼のような形相になってしまったりと裏目に出てばかりだ。

 

 なので今は変に表情を作ろうとはせず、無表情で怖いお兄さんとして話しかけてみた。

 

「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。僕は君の味方だから。」

 

「……ほ、ほんとうですか?」

 

 その返答に対して無表情のままうなずきを返すと、完全に打ち解けたとは言えないものの先程よりかはこちらの話を聞けるような状態にはなっていた。

 

「君、もしかして今迷子になってたりするかな?」

 

「__ッ!?……はい。」

 

 どうやら正解だったらしく、一回だけ体を大きく震わせるとスカートの裾を握り視線を下に向けながらもしっかりと返事をくれた。

 そのまま何かを言いたそうにしていたのでこちら側からは無理に聞き出そうとせずに、彼女から次の言葉が出るのを待つ。しばらくして心の準備ができたのか、ポツリ、ポツリと話を始めてくれた。

 

 彼女、小柳恵那ちゃんの話を要約すると、一緒に来ていたお母さんが恵那ちゃんが先程の施設にあるトイレに行っている間に待ち合わせしていた場所からいなくなっていて、探そうにも人が多すぎてどこにいるのか分からず誰かに聞こうとしても元々シャイな性格をしている恵那ちゃん一人では助けを呼ぶことができなかったらしい。

 そして、どうすることも出来ずに混乱していた所で俺に話しかけられたのだとか。

 あらかたの事情を察した俺は恵那ちゃんのお母さんを探す手伝いをすることにした。

 事情を説明していくにつれて涙目になっていく子供の様子を見て放っておけるほど俺は非情ではない。

 なるべく優しい言葉使いで母親の捜索に協力することを恵那ちゃんに伝えると、少し戸惑う様子は見られたものの間を置いて了承の意を返してくれた。

 

 取り合えず俺たちは前提として恵那ちゃんのお母さんも恵那ちゃんを探していると仮定して待ち合わせをしていた場所からあまり離れていない範囲で探すことに。

 最初のうちは移動しながら大きな声で周囲に呼び掛けていたのだがいつまで経っても母親らしき人影は現れず、俺の声帯も遠からず限界を迎えると考え、声出しを始めて十数分くらい経ってから捜索方法を変更した。

 地道に周囲の人に対してひたすら聞き込みを始めたのだ。幸いにして恵那ちゃんが母親が写っている写真を持っていたので、特徴を口頭で説明する手間がなく比較的スムーズに聞き取りを行うことができた。

 その中で集まった情報の中には確かに母親らしき人がこの付近にいたことは確かなのだが、目撃証言の大半が数十分も前の話ばかりであるため恐らく母親はこの近くには既におらず、もっと遠くに行ってしまったのだと考えられる。

 今より遠くにいるとなると闇雲に探しても見つからない可能性が非常に高くなってしまう。

 このまま考え込んでいるだけでは埒が明かないので参考までに母親のことを恵那ちゃんに聞いてみたのだが、困ったことにその話が出た時点で恵那ちゃんは目線を下げて固く口を閉ざしてしまい何も話してくれなくなってしまった。

 仕方がないのでそのことについて聞き出すことは諦めたが、この時俺の中では一つの疑念が浮かび上がった。

 

 ーーーもしかして、恵那ちゃんの母親はわざと彼女を置いて行ったのではないのか、と。

 

 あまり考えたくはなかったが、母親の捜索を続けていくうちにそう思わせるような要因がいくつか見受けられていた。

 まず、母親の捜索中に聞き込みをした際、母親の写真を見た一部の人達から「知ってはいるが余りいい印象はない」といった反応を見てしまったのだ。それに加えて、そういった態度を取った人たちの中には恵那ちゃんに対して母親がらみの苦労を労うような場面も多々見受けられた。恵那ちゃん自身がそれらに対して反論を言おうとする素振りを見せなかったことから、恐らく母親の評判は本当に近隣住民の間ではかなり悪いのだろう。

 そして、そんな母親がどんな人間なのか恵那ちゃんに聞いてみれば返答が返ってこなかった。

 単純に俺を警戒して母親のことを話さないのであればいいのだが、母親の人柄が人に話せるようなものでないのなら俺の疑念が当たっている可能性がかなり高い。

 

 迷子の女の子を助けたいという善意で始めたことだったが、この案件は俺が考えているよりも重いモノなのかもしれない。

 捜索を始めてもう一時間近く経っている。俺もいつまでも彼女と一緒に行動できるわけでは無い。

 残念な結果になってしまったが施設の近くにいたお巡りさんに彼女を預けることにしよう。

 力になれなかったことを心苦しく思うが実際に俺が出来ることはもう何もないし、このまま俺と行動を共にするよりかはこういったケースの対処になれているお巡りさんの方がもっとマシな対応をしてくれるだろう。

 そうと決まれば早く行動に移すとしよう。俺はいつの間にか俺のジャージの裾の部分を摘みながらついて来てくれた恵那ちゃんに最初に話しかけた時と同じように目線を合わせてから用件を話した。

 

「恵那ちゃん。ここまで一緒に探しておいてなんだけど、お兄さんはそろそろ元居た場所に戻らないといけないんだ。」

 

「え……。」

 

 そう言うと恵那ちゃんは目を見開いて俺の顔を見つめながら硬直してしまった。

 その様子を見て俺は少し動揺してしまったが、表情を動かさないように努めて言葉を続けた。

 

「大丈夫。お兄さんの代わりにお巡りさんが君の力になってくれるはずだ。取り敢えず、お巡りさんのところまでは一緒に行ってあげるから。それでいいね?」

 

「……………。」

 

 悲しげな顔で俯いてしまった恵那ちゃんだったが、最後には素直にうなずいてくれた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 あれから数分もしない内にお巡りさんの所に辿り着いた俺たちはおおよその事情を説明した後に、恵那ちゃんとお別れをすることになった。

 俺は今までと同じように片膝を地につけるようにして屈み、恵那ちゃんに別れの挨拶をする。

 

「お母さん、見つけられなくて本当にゴメンな。……恵那ちゃんのお母さん、見つかるといいね」

 

「…………。」

 

「……じゃあ、元気でね。」

 

 何も言わずに下を向いたままの恵那ちゃんに別れを告げた俺は体の向きを反転させ、そのまま歩き出そうとした。

 

 ーーーが、そのまま前に進むことはなかった。

 

 恵那ちゃんが俺のジャージの裾を掴んでいたのだ。

 

 

 引き留められる理由に思い当たる節がなかったため若干脳内で混乱に陥っている俺に対し、恵那ちゃんはたどたどしくも絞り出すように言葉を紡いだ。

 

「……あっ、あの、いっしょに、おかあさんさがして、くれて、あり、ありがとうございます!それで、その……。おにいさんのなまえ、おしえてくれません、か?」

 

 この年頃の女の子にしてはあまりにもしゃべり慣れていないような。そんな舌足らずな話し方で感謝の言葉と最後のお願いを言い切った恵那ちゃんは顔を上げて、少し不安げではあったが瞳を見つめてくれた。

 ……そう言えば俺の名前言ってなかったな。聞かれなかったらそれでも良いかなって思ってたから言わなかったけど、こんなに勇気を振り絞って聞かれたとあればちゃんと返さなければなるまい。

 

「及川光成。それが僕の名前だよ」

 

「…みつなりおにいさん?」

 

 首をコテン、と横に傾けながら聞き返す恵那ちゃんの様子を見て「あ~、妹がいたらこんな風に呼んでくれるのかなぁ~」と、現実逃避気味にアホなことを考えてしまった。

 ヤバいな。別に変なことを考えたわけじゃないけどちょっと、いや結構嬉しいな、これ。

 顔が自然とにやけてしまいそうだ。

 名前の後ろに「お兄さん」を付けて呼んでくれるくらいに上がった好感度を最後の最後で下げまいと必死に表情を崩さないように我慢する。

 

「そう、僕は光成お兄さんだ。」

 

 そう言って頷いてみると恵那ちゃんは上げていた視線を伏し目がちに下げると少しだけ口元を緩ませ、嬉しそうに小さな声で「みつなりおにいさん…」と繰り返し呟いていた。

 

 ……なんだ、このカワイイ生き物は。

 

 最初に出た感想はそれだった。一つ、断っておくが俺はロリコンじゃないからな!本当だぞ!?

 まあ、馬鹿なことも考えてしまったが真面目な話、出会ってから初めて見た彼女の笑みを見て俺は一種の安心感を感じていた。

 最初に見かけた時からずっと何かに怯えていた彼女がこうして自然な笑みを浮かべることができるようになったのだ。

 これだけで自分が彼女のために動いて良かったと思えるというモノだ。

 

 それから十秒もしないうちに自分の世界から帰って来た恵那ちゃんは呟くのを止めると勢いよく顔を上げる。

 少し恥ずかしそうにしながらも、確かに笑みを浮かべながら言葉を紡ぐ。

 

「みつなりおにいさん、もう、だいじょうぶです。じゃあ、またいつか、あえるひをたのしみにしていましゅぅ!」

 

 最後のセリフを噛んでしまい恥ずかしさの余りに赤面する恵那ちゃんだったがそこに後悔の色はなく、最初見た時とは見違えて元気になっていた。

 余り満足のいかないメニューばかりの合宿中に災害に遭うなんて何とも不幸の連続だったが、こうして素晴らしい出会いに恵まれたことには感謝すべきなのだろう。

 これから彼女がどうなるのか。それは俺には分からない。

 けど、彼女がこれから先どうなろうとも俺という存在がその支えになれるのであれば、いつかまた、会いに行こう。

 そう心の中で誓った俺はさっきとは違った気持ちで別れの言葉を告げようとした。

 

 

 

 

 その瞬間、これまで起きた地震の中でも一際大きな地震が起きた。

 

 

 

 

 前兆も全く分からなかった揺れに人々はなすすべもなくバランスを崩していき、次々に地面へと倒れていく。

 ギリギリ揺れに対応できた俺は後頭部から倒れ込みそうになった恵那ちゃんを後ろに手を回した状態で受け止め、揺れが収まるまで彼女を守るように懐に引き寄せて抱きかかえる。

 地震は十数秒ほど続くと次第に収まっていった。

 特に転落物もなく大事には至らなかったが、今の揺れは常人でも精神的に恐怖心を煽られるくらいに強い揺れだった。

 先程なんとか落ち着きを取り戻した恵那ちゃんだったが、今の地震でまた恐怖心を呼び起こされても可笑しくはない。

 そんな心配をもとに懐に引き寄せていた恵那ちゃんを顔が見えるように少しだけ引き離そうとする。

 しかし、恵那ちゃんは震えながら頑なに俺のジャージを離そうとせず、その表情を見ることは叶わなかった。

 ただ確実に怯えていることは明白なのだが、地震に恐怖している割りには反応が著しく思える。

 

「……こわい、なにかが、……くる?」

 

 恵那ちゃんは恐怖で震えながらも何かを呟いていたが、その意味する所を俺はすぐに知ることとなった。

 一度は静まり返った人々が再びざわめきを起こしていたその時、空から無数の何かが落ちてきたのだ。

 建物すらも突き破る勢いで降り注いできたそれらは、全て似たような姿をしていた。

 大きさは軽自動車ほど、形状は全体的に真っ白な楕円状を成しており、体の先端にある顔と見られる部分には真っ赤に染まった口元と体と同様に真っ白な歯を有し、その下にある顎にあたる部分には三本の髭の様なものが生えている。

 

 完全に生物とは思えないような姿形をしたそれらの異形達は、現れてからそう時間も経たない内に動きを見せた。

 その体を泳ぐように宙に浮かせると、近くにいた人間達に攻撃を始めたのだ。

 そして、その攻撃対象になった人間は例外なく殺されていた。

 有るものはその大きな口で食い殺され、有るものはその巨体に潰され、有るものはその髭の様な器官を鞭の様に振るわれて叩き殺された。

 人々は唐突に目の前で引き起こされた非現実的な光景に驚愕し、放心し、恐怖した。

 

 それからの展開は早かった。

 

 目の前に現れた、まさしく""化け物""と呼ぶべきモノ達はこのまま惨殺を終えて帰るはずもなく、一人を殺し終えると同時に次の標的を探し、また殺すを繰り返す。

 その光景見た人々は次の標的が自分になるのではないか?そう考えていた。

 自分が置かれている状況を正しく認識できた人達は迫り来る脅威から逃げたり、大切な人達のために果敢に立ち向かったり、恐怖で体がすくんでしまい生存を諦めてしまったりなど多種多様な動きを見せる。

 しかし、その結果は殆ど何も変わらなかった。

 化け物達は現在進行形で空から降り注いで来るため逃げようとしてもすぐに殺されてしまい、立ち向かおうとしても木材や鉄の棒、さらには警察官が持つ重火器ですら傷一つ付けられないどころか微動だにしない化け物になすすべもなく殺されてしまう。

 そして、何も行動を起こさない者は無抵抗のまま殺されていった。

 

 目の前で、市民を守るために恐怖に苛まれながらも果敢に化け物達に銃で攻撃を続けていたお巡りさんが喰い殺された所でようやく俺は現実を直視できるようになった。

 極度の緊張下で加速した思考で視界に写る現実離れした光景を前に俺は考えた。

 小さい頃から祖父に格闘技を教わっていてそれなりに戦闘能力に自信がある俺だが、重火器で対抗できない相手に真っ向勝負を仕掛けるほどバカではない。

 取るべき手段は逃げの一手に限る。

 ここで問題になるのが何処に逃げるかだ。

 

 恐らくこの化け物はここ以外の他の場所でも出現している。

 そうなると陸上部の連中の方も襲われているということは想像に難くない。

 集合場所に逃げても意味はないだろう。

 かといって高台の下にある町だって危険である可能性は十分にある。というか、現状の情報だけで安全な場所を確実に探し当てること事態が容易ではない。

 ここが実家の田舎であれば裏手にある山の中に逃げるという選択肢もあるが、土地勘のない山の中を歩き回るのは非常に危険な行為だ。

 隠れる宛てもなく、さ迷い歩けば無駄に体力を消耗し、現状を打破できてもその後に何も出来なくなってしまう。

 

 だが、それ以上思考を重ねてもいい考えは浮かび上がらず、このままでは自分だけでなく抱きかかえている恵那ちゃんも危険に晒す羽目になる。

 かなり賭けの要素が強いが町がある方向に逃げる人間の方が多いことを確認し、比較的逃げやすい山の方に逃げることにした。

 五秒もしないうちにある程度の方針を固めた俺は恵那ちゃんの了承を得る間もなく、彼女を正面から背中に手を回す体勢から片腕を背中の肩の近くに、もう片方の腕を両膝を抱える様に添え、仰向けの状態で持ち上げる。

 所謂""お姫様抱っこ""と呼ばれる抱え方に多少強引にシフトした俺はいち速くこの場を離脱せんと、阿鼻叫喚が響く惨状の中を走り抜けた。

 

 既に化け物達に殺された、もしくは今まさに殺されそうな人の姿が幾度も視界に入ってきたが俺は立ち止まることなく、ただただ、ひたすらに足を動かし続けた。

 

 

 

 

 

 

 








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