何故かは分からんが、テンションが上がらん、
よし、投稿しよう(
そんな感じで第三話です。
山を目指して走る俺達なのだが当然のことながら目の前で逃げていく獲物を逃がすほど、化け物達は甘くなかった。
行く手を阻む様に化け物達は容赦なく襲いかかってくる。
もう既に感覚が麻痺しているのか、それともただ単に現実を受け止めきれていないのかは分からないが、迫り来る化け物達の姿を見ても俺はいたって冷静だった。
中学に入ってから人を抱えながら走る練習を家の手伝いを通じて続けていた俺にとって、小さな女の子を運びながら走ることは何ら問題はなく、通常の走るペースを維持した状態で走ることができる。
ただ練習用に使っていたのが五十キロ以上もある米俵や重しなどの生物ではないものばかりだったこともあり、運ぶ人間の乗り心地に関しては余り自信はない。
今は緊急時にある。そちらに割く労力も躊躇われる状況だ。
恵那ちゃんには悪いが多少の揺れは我慢してもらいたい。
そうこう考えている内に進行方向上にいる化け物達との距離はぐんぐんと縮んでいく。
遠回りして行きたいところだがどの道ここ以外にも化け物は沢山いる。逃げるのに出遅れた分、俺たちが化け物達に接触せずに逃げ切ることはほぼ不可能だ。
それに目の前にいる個体をなんとかやり過ごせば、その後に見える方向に化け物の姿はない。つまり、一時的にではあるが奴らの包囲網から出ることが出来る。
このままこの辺り一帯を走り続けていればいずれ化け物達に囲まれて一方的に殺される可能性があるのだ。
リスクは大きすぎるがやるだけの価値はある。
目の前にいる化け物の数は2体。既にこいつらに殺されてしまった人々の血で真っ赤に彩られた大地を蹴りながら俺は無謀な正面突破に挑む。
まず、最初に、俺たちを噛み殺さんと迫りくる二体の化け物のうち、先行してきた一体目の対処から入る。
重火器が効かない時点で俺の体術によって撃退することは不可能ではあるが、動きを見切って攻撃を躱すことはできる。
今まで逃げる過程であの化け物達が大体どの程度まで早く動けるかは把握している。
魚が泳ぐような空中での変則的な動きに加え、一瞬にして軽自動車の最大速度と同程度の速さに迫ることができる加速力。
どちらも非常に厄介だが15年もの月日を掛けて磨き上げた俺の走りであれば、相手が最大速度に達する前にこちらに向かってくる軌道上から紙一重で避け切れるはず。大丈夫だ。俺はこんな状況も乗り越えられない程、軟な訓練をしてきたわけじゃない。そんな俺がこんな所で死ぬはずがないんだ。だから大丈夫なんだ。
――そう、何度も自分に言い聞かせるように心の中で繰り返す。
とうとう目と鼻の先にまで迫った化け物の片割れを前に気持ちが折れそうになったが、足を止めれば死に直結するという現実はそんな気弱な思考を排除するだけの恐怖があった。
そんな俺の葛藤など知るものかと言わんばかりに化け物はその巨体を左右に揺らしながら急加速し、俺に食らいつこうとする。
余計なことを色々と考えてしまったが、体は問題なく動いた。
相手の体当たりに対し僅かに開けていた右前方の斜め横に跳ぶようにして走り抜き、続く攻撃にも警戒しつつそのまま速度を保ったまま足を動かし続ける。
魚のように左右に揺れながら進むという相手の習性を利用し、左右どちらかに生まれる空間の隙間を使って回避したのだ。
今の交差で若干服が掠ってしまったが特に行動に支障が出るレベルの大きなダメージを受けることなく凌げた。
そして、安心する暇もなく続けて二体目の化け物と対面。
先程の化け物と同じように飛びかかってくる二体目の姿を冷静に視界に収めつつ、再び回避行動に移る。
今度も同様にして左に空いた空間に飛び込むようにして回避し、そのまま走り去ろうとする。
連続で右と左に強引に飛んだ所為か、二回目の回避はさらに際どかったが直撃を避けることには成功した。
あとは化け物達が追いつく前に障害物の多い山の中に逃げ込むだけだ。
しかし、現実というモノはそう上手くいってはくれなかった。
自身の背後から何かが迫ってくるのを感じ、高揚した精神によって加速した世界で視線を後方にやると白い鞭がすぐ目の前にあった。
どうやらさっきの二回目の回避は多少強引だったこともあってか完全に避け切れては居らず、あの顎から生えた髭の攻撃圏内に入っていたらしい。
あと、一歩半ほど離れていればギリギリ避け切れたのだが、そんなことを今ぼやいても仕方がないだろう。
このままでは移動手段である足が叩き潰されてしまう。
俺の足は、身体は今世の俺にとってこれまでの人生の結晶と言っても過言ではない。
この身体を作るために何度も走り込みをした。
例え、ゲリラ豪雨で全身を濡らし足元がドロドロの底なし沼のようになっても。
豪雪で道が雪で埋まり、雪独特の重さで何度も足を取られ、融けた雪で滑りそうになっても。
台風で体がいつ飛ばされてもおかしくない時でも、俺は馬鹿みたいに走り続けた
この身体を作るために食事を変えた。
元の世界のアスリート達がやっていたように余計な脂肪がついてしまう食べ物は小学校を卒業してから一切口にしていない。
例え母親が都会土産の高級お菓子を横でうまそうに食っていても俺は絶対に口にしなかった。
他にも中学の夏休みには山でサバイバル生活をしたり、足運びを知るためにじいちゃんに格闘技を習ったり、なぜか家の倉庫にあった本格的なバッティングマシンを数台使って球を避けて反射神経を鍛えたり、これまたなぜか家にあった体の動きを制限するギブスを付けて中学時代を過ごしたりと、本当に無茶苦茶なことばかりやってきた。
その努力と神から授かった力で俺の肉体はこの化け物達の動きに付いていけるレベルまで鍛え上げられた。
俺はおそらく今の状態でも世界最速の人間になっているのだろう。
流石に高校進学前に100メートルを5秒以内で走れた時点でなんとなくではあったが気が付いていた。
生身の人間で俺に追いつける程の速さを持つ者などいないと、今では確信している。
他の人からしてみれば「ここまで出来たらもう満足なのでは?」と思うだろう。
――だが、俺はこれで満足はしていない。
俺は別に””最速””になるために走り続けたわけでは無い。
走ることが他のどんなことよりも好きだから。だから、俺は走り続けているんだ。
それに俺はまだ自分の限界に達していていない。今だって神の恩恵のおかげか、それとも火事場の馬鹿力というやつなのかは分からないがこの極限状況下で自分のスペックが通常よりも大きく引き上げられているのが良く分かる。
俺はまだまだ新しい世界を見ることが、体感することができる。
それにまだ叶えていない夢だってある。
だからこそ、ここで終わるわけにはいかない!
奪われるわけにはいかない!
諦めるわけにはいかないんだ!
化け物の攻撃が足に直撃する寸前、俺の内側から何か熱を帯びたモノが溢れ全身を駆け巡り俺の体に変化が起きた。
全身にこの世ならざる""力""を感じると同時に自分の存在が一段階上の存在へと昇格した様な、そんな不思議な感覚にあったのだ。
その""力""によって所謂覚醒の様なモノを経た俺は己の限界を軽く突破し本来ではありえない程の反応速度で体を動かし、本来ではありえない程の脚力で大地を蹴り砕く。
結果、俺は弾丸の様な速度で前方へと跳んでいき、化け物の攻撃から逃れることとなった。
それから数秒間謎の力の効果は続き、さながら閃光の様な速さで残像を作りながら俺は走り続け、人も化け物達の姿も完全に見えなくなった山奥で停止した。
何とか化け物達の包囲網から命からがら逃げ延びた俺だったが、一度冷静になると先程まで感じていた不思議な感覚に対する興味など薄れ、これからどうすべきかという不安が込み上げてきた。
いくら逃げても根本的にあの化け物達をどうにかしないと俺たち、いや人間に未来はない。
あの化け物達には拳銃レベルの重火器では全く歯が立たないことはこの目で確認している。
もっと威力の高い重火器や兵器ならどうにかできるかもしれないが、あまり期待しない方がいいだろう。
拳銃とはいえ銃を至近距離で放ったにも関わらず微動だにしない時点で並みの兵器では太刀打ちできないと考えた方がいい。
さっきの不思議な力を使った状態ならあるいは化け物達と渡り合えるかもしれないが、それを試すには俺の命を懸ける必要がある。
かなり追いつめられた状態ならいざ知らず、まだ他の対抗策があるかもしれない現状ではあまり積極的には行いたくはない。
一先ず、他にどうしようもなくなった時の最後の手段として残しておこう。
まあ、現状が最悪なのは良く分かった。となると、今考えるべきことはこれからどうするかになってくる。
目下の問題は事態が収束するまで何処にいればいいか。これに尽きる。
人間というモノは何をするにもある程度の休息というモノが必要になってくる。
しかし、化け物達が徘徊している状態で満足な休息など取れるわけもなく、数日くらいは耐えられてもいずれ限界に達し何かしらの形で死ぬことになることは明白だ。
俺には謎の力――恐らく転生特典によるもの――があるが、アレを使って分かったことなのだが短時間でもその力を行使するといつもの倍以上の速さで疲弊するらしく、スタミナには自信があった自分に明確な疲れがたまり始めているのを感じる。
そう何度も使えるモノではないと考えた方がいいのだろう。
というわけで、どこに行けば安全なのか。それを考えなければいけない。
これからどうやって動いていくのか思案していると途中から忘れかけていたが腕で抱えたままの恵那ちゃんの存在を思い出す。
視線を下に向けると目を回してふらふらになっている恵那ちゃんの姿があった。
急な方向転換の連続に加えて弾丸並みの急加速による負荷で意識はハッキリしていないが呼吸はしているので何とか無事と言えるだろう。
少しすると目の焦点が定まり、完全に意識を覚醒させる恵那ちゃん。
最初のうちはどこかぼうっとした様子を見せていたがだんだん顔を赤く染めていき、しまいには泣きそうな顔になっていた。
ここで泣かれると周りに声が響き、最悪あの化け物達にここにいるのがバレてしまう。
それだけは避けなければと思った俺は直接手で口を塞ぐと恐怖心を煽ってしまうため、彼女の顔を俺の胸に押し付ける形で音を広げないようにする。
正直無理やり感が半端ないが、とりあえず少しでも安心感を与えるために頭を撫でながら小声で話を始めた。
「落ち着いて話を聞いて欲しい。……恵那ちゃん、これからいくつか質問するから「はい」なら一回、「いいえ」なら二回首を縦に振ってもらえるかな?」
そう言うと恵那ちゃんは体を震わせながらも一回だけ首を縦に振ってくれた。
「まず、僕が誰かは、分かる?」
一度、首は縦に振られた。迷いは見られなかったし、前後の記憶に欠如はなさそうだ。
「じゃあ、……あの化け物達のことは覚えてる?」
「――っ!?」
少し間が空いたが首はゆっくりと縦に一度だけ振られた。
どうやら現実は直視できているみたいだ。パニックに陥ったらどうしようかと思っていたが杞憂だったようだ。
「……ありがとう、大体分かった。」
ある程度正常な判断が出来ると分かった俺は恵那ちゃんに現状の説明とこれからの動きについて話をした。
現状の説明を終え、どこに移動するかの話に入ってから地元に住む恵那ちゃんの意見を聞こうとしたところで俺の胸に顔をうずめていた恵那ちゃんが顔をおずおずと上げながら、何かを話したそうにしていた。
視線で問いかけてくる彼女に対して俺は頷きをもって返答し、次にでる言葉を待った。
そして、小声ながらも何とか聞き取れるくらいの声で恵那ちゃんは話し始めた。
「あのっ、……たぶん、あっちのほうにいけば、あんぜん、だとおもいます。」
そう言いながら山の山頂付近を指さす。
「そこには何かあるの?」
「それはっ、……よく、わかりません。」
その不明瞭な物言いに疑問を覚えたが小さな子とはいえこの緊急時に適当なことを言うはずもなく、何かしらの根拠となる理由があるのだろう。
「どうしてあっちが安全だと思ったの?」
「……それも、よく、わかりません。」
自信なさげに俯きがちになりながらそう言う。
その様子は理由が話せないというよりも本当に自分でもなぜか分からず困惑しているようにも見えた。
もしかしたら彼女には俺には感じ取ることができない何かを感じることができるのかもしれない。
良く思い返してみると彼女はあの化け物達の姿を見る前からその存在が来ることを予見するようなことを言っていた。
あの時も何か明確なことを言った訳ではないが、確かにその言葉通り「こわいなにか」が降りそそぎ一瞬にしてその場を惨状に変えていた。
本当に""感""の様なモノなのかもしれないがこれと言って代案も今はない。
ここは彼女の言葉を信じて動いてみるのもいいかもしれない。
「よし、それじゃそこを目指していってみよう。」
「……えっ?」
俺が言ったことが信じられないと言うように彼女は驚きを露わにする。
「しんじて、……くれるんですか?」
言葉で返さずにただ頷く。多くを語る時間は、今は無い。
早急にここを離れることにした俺達は機動力の関係上、俺が恵那ちゃんを抱えた方が圧倒的に速いためこのままお姫様抱っこを続けて進むことになった。
暗く険しい山道を夜空に浮かぶ星々の光を頼りに進んでいくとそこには開けた大地があり、奥の方には大きめな祠の様な建物が見える。
恐らく、ここが恵那ちゃんの言っていた安全な所なのだろう。
周囲の様子をよく見ると少し進んだ先に下の方から続いている石畳の階段があり、わざわざ木々が生い茂る山道を登らずともたどり着けたことが分かった。
要らぬ労力を使ってしまったと嘆いても仕方がない。
それよりもここが麓からたどり着ける場所であれば誰か登って来てもおかしくはなく、どこかに生存者がいる可能性があった。
だが周囲に人影はなく、耳を澄ませても自分たちの心音に息の音、セミの鳴く声が聞こえるだけで俺たち以外に人の気配と呼べるものはなかった。
それと同時に化け物達の姿もここにはない。
「ここであってる?」
「はい、ここのはず、です……。」
自信なさげな物言いではあったが、どこか確信に満ちた表情をここに着いた時にしていたし多分あってるのだろう。
恵那ちゃんの言葉を信じるのならここにいればしばらくは安全ということで、最低でも日が昇るまでここにいることにした。
幸運にも敷地内に休憩所の様な小綺麗な小屋があり、そこにあった備え付けのタオルを毛布代わりに借りて一晩を過ごすことになったのだが未だに興奮を冷ますことができず、俺はロクに寝付けずにいた。
すぐ横にはぐっすりと眠っている恵那ちゃんがいる。流石に出会って間もない男の人と一緒に寝るのは何かしら思う所があるだろうと思い距離を取って寝ようと考えていたのだが、当の本人が断固拒否したため俺に体をピッタリくっつける形で寝ることになった。
今にして思えば、あんなに内気な少女が大の大人ですらトラウマモノな事態を前にして落ち着ていられたことそのものがおかしかったのだ。
内心ではかなりの恐怖と戦っていたのかもしれないが、俺はそんな当たり前のことにも気が付かずに彼女と通常時の常識を以って接してしまった。
俺は大馬鹿だ。普通の女の子があんな化け物を見ていつも通りでいられるわけがなかったのだ。
今は距離をとるよりも近くで一緒に過ごすことが大切だったのに、俺はそれをすぐに理解することができなかった。
前世から記憶を引き継いでいるのに、根本的な所で何も変わっていない自分が嫌で嫌でたまらなく感じた。
ネガティブなことも考えていた所為か余計に眠気は遠のき、ますます眠れなくなる。
いつまでも暗い気持ちでいると判断や体の動きにも大きく影響が出てくる。
これ以上深く考えないようにしよう。それよりも今は無理に眠れないのであれば、今後の課題を改めて洗い出すとするか。
第一に食料の問題だが今は小屋にあった非常食の乾パンとペットボトルの水がそれなりにたくさんあるため、しばらくは何とかなりそうだ。
次にいつここを離れるかだが、それはこれからどこに行くかで変わってくるだろう。もしかしたら、また恵那ちゃんがいいところを見つけてくれるかもしれないし、そのことについては明日の朝になってから考えよう。
後は、他の生存者と合流できるのか、というよりもすべきなのか、この事態は何処まで広がっているのか、家族は無事なのか、そしていつになったら終わるのか。
考えれば考えるほど頭の中はゴチャゴチャになり、今考えなくてもいいようなことまで考え始めた辺りで俺は思考を停止することにした。
元々俺は自分が主体になって考えるのが苦手なタイプだ。そんな奴が一人で延々と考え込んでもロクなアイデアが出るはずもない。
もっとシンプルに考えるべきだ。
俺はこれから一体どうしていきたいのか。
視線を安心した表情で眠りにつく少女へと向ける。
成り行きとはいえ、俺があの場から助けだした小さな命。
それは途中で投げ出せるようなものではなく、誰かに決められたわけではないが俺には彼女を守り通す義務があるのだと思う。
今は自分一人でも生きていけるか分からないほど大変な時だ。
でも、だからと言ってここで彼女を見捨てるようなことがあれば俺はその後の人生で延々と後悔し続けることになる。
前世の頃からどんな小さい事でも自分が犯してきた過ちに引きずられてきた俺のことだ。
直接的にではないにしろ、自分が生き残るために人一人を殺すなんてことをしたらどんな形であれ、精神的に崩壊し自我を保てなくなるかもしれない。
そんなのは嫌だ。そんなの考えたくもない。
だから、最低でも恵那ちゃんが安心して過ごせるようになるまで、守り続けよう。
俺が""幸せ""でいるためにも……。
具体的な方針は決まらなかったが、俺はあくまで自分のために彼女を守ることを決意し、ようやく眠りについた。
主人公も力を持っているとはいえ、ただの人間です。
漠然としたものでも、なにか目的を作らなければやっていけないのです。