Interlude
今日はちょっと無理を言って泊めてもらうことになった。すごく強引に迫っていたかもしれないけれど、きっと事情を察知してくれた彼女はひとつ返事で頷いて家に招いてくれた。
かつて来たときは少し寂しい部屋だと思ったけれど、いまは温かく感じる彼女の部屋。
モノトーンが基本の部屋の中で、二人隣同士でベッドに腰かけた。
「つらかったかしら……?」
わたしのことを気遣ってくれる声。わたしは頭を振った。つらかったのもある。普通に考えればつらいしかないはず。でも、それだけじゃなくて、そんなんじゃなくて、もっと大きな気持ちが心を占有していたから。大丈夫だと思えた。
「平気……じゃないけど、これで良かったって思えたんだ」
「……どうして?」
彼女の純粋な疑問。
人を好きになって、他の人と好きな人が一緒になって、好きな人がもう一人の人を好きなってしまう。それはとても悲しいことのはずだ。わたしだってそんなこと分かるし、きっといまの自分もそういう気持ちがあるのだ。つらいものはどうしたってつらい。
でも、そんな気持ちが吹き飛ぶくらいに価値あるものを見ることができた。
だって。
「あんなに楽しそうな顔、初めてみたから」
すごく良い顔をしていた。ゴールデンウィーク初日とは比べ物にならないほど毎日が楽しそうで、とても格好良くなっていて、とても、とても幸せそうだった。
「あんな顔みせられたら、わたしじゃ無理って分かるよ」
「……ごめんなさい」
「なんでゆきのんが謝るの。誰のせいでもないよ。もっと早くに行ってれば、なにか変わったのかなあ?」
なんて、あり得ないもしもを考えてみる。
でも現実はいまここにあって、もしもなんて考えてみても意味がなくて、やっぱり少しだけ悔しいなあなんて思う。
沙希はすごく綺麗だった。恋する女の子だった。誰の目からみても彼のことを深く信頼して、強く想っているのが明らかだった。
たぶん、わたしはそこまでになっていなかった。好きだった。ずっと一緒にいたいって思ってた。
でも、三人でいる時間もとても大切で。
壊したくない宝物のひとつだった。
わたしはそれをふいにする勇気がなかった。
何もかもを捨ててでも彼を手に入れようとするだけの気概がなかった。
だったら、この結末はすんなり受け入れられた。
つらくて、胸が痛くて、心が泣いていて、後悔だっていっぱいあるけど、これがわたしの恋の結果。
素敵な失恋。
良い思い出になると思う。失恋したばかりのいまだって、そんな風に思えるのだ。あとになって振り返れば、きっと温かくて楽しい気分になるはずだ。
「ねえ、ゆきのん」
「なにかしら」
「お願い、ひとつしていい?」
「いいわよ」
「ゴールデンウィークの最終日、ディスティニーに行こう? それで、ぱーって遊ぶの!」
「ええ、いいわね。そうしましょう。パンさんのバンブーファイトをふたりでたくさん乗りましょう」
「わたしは他のも乗りたいよ⁉」
くすくすと彼女が笑う。でもいつもの華やかさがなくて、枯れた花のような悲し気な笑い。
「私も、そんな気分なの」
「うん、分かってる」
「あなたと同じね」
「うん、おんなじだ」
「だから、ね?」
「でもずっとバンブーファイトは嫌だからね⁉」
「えー……」
彼女の見慣れない反応が楽しくて笑う。そしたら彼女も笑って、ふたり見合ってずっと笑って。
気づいたら、ふたりでたくさん泣いていた。