Interlude
夢のような日々だった。福音の調べでも聴いているかのように幸せで、きらきらと七色に輝いている日を過ごすのは初めてだった。
嬉しかった。言葉に言い表せないほど幸福だった。しかも、あたしの問題の何もかもを解決してもらって、どうすればこの感謝を伝えられるのか分からないほどだ。
だから、この日々に終わりが訪れる明日が怖かった。八幡との物理的距離が離れるのが恐ろしかった。
なにより、本当に自分が好かれているのか自信がなかった。
本当は、あたしよりもあの二人の方が……。
これはある種、強迫観念のようなもので、ふとした瞬間に心に浮かび上がってくるのだ。どうしてもそれを止められなくて、不安で胸がきゅっと締め付けられるように苦しかった。
お願いだから杞憂であってほしい。きっとあたしを見ていてくれる。あたしの傍にいてくれる。ずっと、隣で歩いていてくれる。
確信しているはずなのに、心のどこかが違うと囁く。
だって、たった四日だから。
一緒に過ごした時間が短すぎるから。
信じてるのに……どうしたって嫉妬が顔を出して心にちょっかいを出してくる。
お前じゃあの二人に勝てない。負担ばかりかけているお前が、どうして彼に好かれようか。彼にお前は似合わない。あの二人のほうが遥かにお似合いだ。身の程を知れ。分をわきまえろ。
やめて。一番痛いところばかりを叩かないで……!
「八幡……」
家主不在の部屋の中で、布団に包まってひとり呟く。
寂しかった。いま触れたかった。いま傍にいないことがつらかった。たった一瞬でも隣にいないことが、どうしようもなく怖かった。
彼がいないだけで、世界に色が無くなってしまったように感じる。目の前が絶望に満ちているようだ。
こんな風になっちゃいけないと理解している。ひとりで立てるだけの力をもらった。心の平穏を保つ方法も教えてもらった。
ぐっと身体の芯に力を入れる。嵐の中で必死に立ち続けるように、自分の身体を抱きしめた。
不安よ吹き飛べ。
川崎沙希、あんたはそれだけのものを比企谷八幡からもらったんだから。
笑いなさい、不幸など感じたことがないように。
喜びなさい、すべてが幸いだとでもいうように。
だから、八幡……明日、聞いてほしいことがあるの。
ねえ……伝えたいことがあるの。
やっと、言葉にできるようになったことがあるの。
想いがやっと形になったの。
この大切な気持ちをあなたに届けて、同じものを返してくれるのだとしたら。
あたしはきっと、誰よりも幸せになれるよ。
ですから、どうかお願いします。
神様。
少しでいいですから、ほんの少しだけでいいから、あたしの不安を消し去る勇気を下さい。