Interlude
ひとり夕食後の帰り道は、心の隙間が埋まるような温もりと、少しばかりの寂しさがあった。
置手紙にはあんなこと書いたけど、本当にひとりになりたかった。考えることがたくさんあった。
きっと、この喜びをひとりで感じていたかったのだと思う。
兄は成長した。良い方向に。以前とは信じられないほど、妹の贔屓目抜きでいい男になったと思う。
変えてくれたのは奉仕部の皆さんだ。それだけじゃない。戸塚さんやいろはさん、平塚先生、中二さん、そして沙希さん。みな、いままで誰も見てくれなかった兄を見てくれた。私しかしらない兄の良さを分かってくれた。
そして、それが兄に通じた。
捻くれてて意味不明な理屈をこねて、人を拒絶していた兄が、自分の行動に対する他人の心を慮れるようになって、思い悩めるようになって、どんどんと先へと進んでいく。
寂しかった。
でも同時に、誇らしかった。
私の兄は、こんなにもいい男なんだ。みんな見る目がない。たしかにめんどくさいけれど、あれでも自慢の兄なのだ。
だから見つめられ、評価され、好かれることが嬉しくてしょうがない。
また兄は変わった。
奉仕部なんてものをやっているけど、それでも他人に距離を置いていた兄が、人の相談に乗った。とても真剣に。偽善なんて考えてしまうほど真摯に。
やっぱり兄はすごい。その成長を一番近くで見られることが嬉しくて、なにか少しでも手伝えればと今回は頑張ってしまった。ちょっと色々な方面に貸しを作りまくってしまったけれど、兄のためならば仕方がない。
だって私、お兄ちゃん大好きだもんなー。
うん、今回は私もお兄ちゃんも小町的に超々ポイント高い。
さて、今ごろ兄はどうしているだろうか。私が夕食を作らなかったことは、たぶん最初はムカついてたんじゃないかなあ。あの兄のことだ、沙希さんとふたりきりなんて耐えられそうにない。
でも、大丈夫。沙希さんは兄を信頼しているように見えた。人はどん底に立った時、手を差し伸べてくれた人に信を置く。そしてその人が魅力的であるなら、好きになるのは当然だ。吊り橋効果っていうのかな? よく分からないけれど、きっとそうだ。
最初はまやかしでも、兄は考える。きっかけがきっかけだし、過去のこともあるからすぐには素直になれないだろうけれど、少しづつ自覚していくのだと思う。
だってお兄ちゃんだもん。私は全部知っている。
めんどくさいけど、どこかで自分を見てくれている人を探している。ひとりが心細いと知っている。誰かを助けられる勇気のある人だって、理解している。
だからきっと、楽しくて、恥ずかしくて、でも嬉しくて、そんな雑多な感情に振り回されて訳分からなくなって……。
いまは、幸せを感じてるんじゃないかな。
さあ、家まであともう少し。
気合を入れよう。これは兄が体験する、初めての本当の恋だ。妹が応援せずに誰が応援するというのだ。
あのふたりには少し申し訳ないけれど、兄にとってあの二人は恋愛感情ではなく親愛感情の対象だ。
だから私は、このゴールデンウィークで全力を出す。たとえ誰に嫌われようとも、兄を幸せの道へ誘導してみせる。
それが、ここまで一緒にいてくれた兄に対する妹からのお礼であり、贈り物だ。