記憶喪失の私は記憶喪失の養子になりました 作:TAKUMIN_T
ふと書きたくなった。
特に目指すのもないので、マイペースに行きます。
001.00-01:記憶喪失の私が記憶喪失の養子になったワケ
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*
*??
*
降り続く雨。
その中心地。道幅が広くとられ、馬車や人々が行き交うであろう
この雨が振り続く空模様で、街が静かなのは普通の光景だ。こんな天気にウキウキで出歩くバカはそうはいない。
ただただ、歩き続けている。
ねえ。君はだれ?
――。
「今日も雨か」
窓に手を掛け、透ける向こう側を、彼女は見ていた。気の強さを感じさせ、後ろに流す長い金髪に赤目。その目は、どこか達観しているかのようにも見えた。
「
当初の予定では、昨日に食料品の買い出しを済ませる
ガラスに水が垂れ、
ふと、雲に向いていた意識を戻す。そして、再び正面を見据えたとき。
「……――ん?」
二階にいる彼女の視線の先。正門の前に、ある影が見えた。
門の背丈にも届かない、影の身長。
彼女は眉を細めた。幼子のかたちをした人影が、こんな日に一人で外を出歩いているのだ。
影が静かに動く。フードと思わしき部分だ。黒く染まっていた中――僅かに空いた口、真っ青な唇。
わずかに見えた顔のパーツから、
「――……」
生気を感じなかった。
そして、人影が倒れ
る。
「――!」
彼女は走り出した。
口を動かしながら、吹き抜けである
人影は雨合羽から足が出て、うつ伏せで倒れている。その影を彼女は手中に抱き寄せ。
「大丈夫――」
頭に被せられていたフードが外れると、次に出そうとしていた言葉が詰まった。
薄らとしか開けられていない瞼の奥に、目に光が灯っておらず、虚無を感じさせる
そして見た目から、性別は判別できなかった。
「おい!」
彼女は幼子を揺らす。だが、帰ってくる反応はない。
事態が一刻を争うのは、一目瞭然だった。
誰かに言われようが構うことはない。即座に幼子を抱きかかえ、家の中に入れた。
玄関で幼子を一旦下ろし、右手を
「《起きろ》」
呟いた言葉に、幼子が緑色の光に包まれる。数秒、光が収まるが、
「――」
反応は、無かった。
それほどまでに、衰弱していた。
枕を頭の下に敷き、パチパチと火花を散らす暖炉の横に幼子が横たわる。
幼子の羽織っていた雨合羽は、折り畳まれて側に置かれ、その下に着ていた衣類――上下白無地の長袖は黄ばんでおり、その色が原色と思わせるのを躊躇わせない程だ。
そして、肝心の幼子。
年齢は推定
身長93cm、体重13kg。
体重が4歳手前の児童の平均を割り、見た限りでも痩せ細っていた。
ここに連れた彼女は、幼子を傍目から見守る。抱えたとき、心音が微かにしか感じなかった。心配しているのだ。
暖炉の横に横たわらせてから既に30分、雨合羽は吸った水気を湿らせる程度に乾いている。
そこで、彼女は考えていた。
なぜ、あそこに一人で、こんな幼い子どもが外にいたのか。
親があの子を捨てた?――その可能性もある。だが、外見に痣などの虐待の傷は無い。では、貧困から自分たちの手で育てられなくなったから、外に出した。あの子が何らかの理由で家出をした。
理由はいくつか思い浮かぶ。だが、あの子が起きて話さない限り、
▷
パチパチ。
パチパチ。
パチ。
パチパチ。
ふさ――
椅子に座り、うたた寝をしていた彼女の耳に、布の擦れる音が聞こえた。
目を開けると、幼子が背を起き上がらせ、頭を動かしていた。
「起きたか」
幼子の様子が外見の年相応に見え、彼女は微笑んで話しかける。幼子は頭を止め、彼女に顔を向ける。
「……」
「大丈夫か? 何処か具合は悪くないか?」
体調を訊ねると、幼子は頷き返す。
「良かった。こんな雨の中、1人で居たんだからな」
言いながら、彼女は窓の外を見る。幼子も続き、頭を動かす。
見える窓は、未だ変わらず振り続ける雨を弾いている。
彼女は視線を幼子に戻し、問い掛けた。
「……名前は?」
幼子は口を開かない、警戒しているのか。
「……お前は、どこから来たんだ? 何故に私の家の前で倒れていたんだ?」
「……」
優しく語りかけ、幼子の内に秘められているかもしれないモノを刺激せぬよう、核心に迫る言葉を選ぶ。対し、幼子は俯く。
「……わからない」
「え?」
彼女は一瞬、何を言っているのか解らなかった。
帰ってきた言葉が〝わからない〟。幼子が簡単に口に出す言葉ではない。
「わからない――?」
彼女が自分に言い聞かせるようにも呟くと、幼子も頷いた。――頷いて
彼女は矢継ぎ早に質問をする。
「親は? お前の歳は?」
背筋に冷たいものが走る。まさか、この子も……
「――わからない」
「本当に、判らないのか?」
「……うん」
暫定だが、本当にそうらしい。全ての記憶がない――記憶喪失らしい。
「ここは、どこなの?」
今度はこちらからと言わんばかり――いや、単なる疑問だ。何故、自分は暖炉があり、豪勢なこんな家にいる? 正門前で雨に打たれていたことさえ覚えていない言い方だ。だが、事実その通りなのだろう。
「ここは私の家だ」
不安を与えないよう、ただ事実を伝える。
「お姉さんの?」
「ああ」
自信たっぷりに返事する。
彼女がいる屋敷は、ここの地域でも密かに有名な人の住まう屋敷だ。悪意を持つ不審者に、易々と主導権を奪われる程に無警戒な訳も無し。寧ろ、仕掛けてきた奴らが馬鹿と断定せざるを得ない屋敷だ。
彼女の様子を不思議に思い、幼子は首を傾げる。
「お姉さんって、誰なの?」
「なに。ちょっと長く生きているだけさ」
そう返す彼女の目には、何処か愁いが垣間見得た。
「なあ、お前」
そして、唐突に閃いた。
「私の養子になるか?」
▷▷▷
最初は、ほんのちょっとした気紛れだった。
あのタイミングで正門を見ていた。ちょうど幼子が正門の前に立っていた。
偶然が重なり、彼女と幼子が出会った。少しでもズレていたら出逢うことすらなかっただろう。もしくは、幼子が
軽く考えれば、奇跡に近かった。
記憶喪失。
彼女も、自身を同じ境遇の幼子に重ねていた。私はこの子の年齢で過去を失った訳ではない。そう思えば、ある程度の知識があった状態でなった私はまだ恵まれていたのかもしれない。
久しく忘れていた、彼女の〝女〟としての母性本能が擽られていた。
その日から幼子は、屋敷で
初めは幼子も戸惑っていた。見知らぬ女性が、なにか変なことを言っていると感じていただろう。幼子には、それくらいしか情報量が把握できていなかった。
幼子は初め、浴場に連れていかれ、全身に付いた汚れを落とされた。するとどうだ、絶世の美人がそこにはいたではないか。
彼女も薄ら勘付いていたが、思わず見惚れた程だ。浴場から上がった後、幼子を
急遽用意した彼女の普段着を、幼子にとってはぶかぶかの服を着させた。暖炉の横に座らせ、その横のカゴ一杯のパンを食べながら待つように言い聞かせ、彼女はバッグと傘を片手に、止む気配のない雨の中へ出掛けた。
帰宅した時、バッグの中には少し大きめの服が上下合わせて5セット。下着も5セットあった。幼子が着る衣類だ。
栄養失調気味の幼子が標準体型に戻る事を想定し、わざと現状態でのサイズが合うものを選んだのではなく、少し大きめのサイズを選んでいた。少しばかりサイズが合わなかったトラブルもあったが、一時間後には、痩せ細っている点を除けば、何処かの御令嬢の雰囲気が出ていた。
夕食を出せば、目を輝かせて勢いよく食べ始め、おかわりを要求。
就寝時間には、寂しさから彼女に抱きついて寝息を立て。彼女は愛おしそうに頭を撫で。
幼子は当初、彼女に保護されているという立場で家にいた。ただ本人が忘れているだけで、家族がもしかしたら探しているかもしれないと。保護した後日警察などに話を聞きに行った。時には自分の伝手を頼って他のところにも話を聞いた。
内容は単純だ。
幼子の家族と、保護している間の生活。
もし、幼子の家族が見つからなかった、無くなっていた場合の後の話――彼女の養子だ。
返答は思ったよりすぐに帰って来た。
――何一つとして、幼子に関して不明。
繰り返された返答は「わからない」。
手掛かりとなる糸すら見えなかった。
その関係が2ヶ月経つ頃には、幼子の彼女への呼び名が『お姉さん』から『お母さん』と変わっていった。
幼子の姿も別人に見違えた。目に生気が宿り、元から綺麗だった髪も手入れがされる事により綺麗になっていた。それこそ、彼女が癒やされる程に。
その頃になり、正式に彼女は養子縁組を申請した。
幼子と血縁関係にある人がいなかったから、保護していることを知っていた人から勧められたから。
それ以上に、彼女が幼子との関係を断ち切りたくなかったから。
久しく彼女を訪れた者は、幼子の存在とその変わり様に違和感を覚えていただろう。だが、無邪気で健気な幼子に、抱いた念を立ち消えさせるには十分だった。
彼女が幼子の頭を撫でれば、幼子は目を細め、気持ちよさそうにする。その様子に、来客の頰を緩ませるのに時間は掛からなかった。
彼女が得意とした魔術を見せれば、幼子は興味津々とばかり、目で催促してくる。
そこで、幼子に基本理論を教えてみれば、湯水の如く知識を吸収していく。その
その他の知識も、本を渡せば多岐に渡り吸収していき、疑問を覚えると、彼女に質問していた。彼女も質問に答え、彼女が判らないことがあったら、幼子は目を輝かせ、お母さんに教えれるようになるとやる気を漲らせていった。その様子はとても微笑ましく、思わず彼女が抱きしめた程だ。
引き取って数年が経ち、彼女は幼子に聞いた。私は幼子の母親でいいのか。
彼女も記憶喪失。しかも、覚えているだけで400年。あまりにも離れている歳に、彼女は恐れた。幼子がこの事実をどう思うのか。
だが、それを伝えても幼子は動揺しなかった。
――私にとって、お母さんが〝本当のお母さん〟ですから。
とっくに枯れたと思っていた涙が、溢れていた。
引き取ってから、早十数年の歳月が流れた。
髪の色、瞳の色は違うが、彼女らの関係は実の親子同然になっていた。
そしてその日常は、少しだけ変化していた。
長袖のシャツにズボン、肩にバッグというラフな格好に、彼女から頼まれていた日用品を買い出しから帰宅し、サラサラで腰まで届く藍白色の
「ただいm――」
――ま、ママぁあああああああああああ――ッ⁉︎
ドゴォ――ン――――……
なにかが、壊れる爆発音がした。いや、〈壊れる〉では表現として事足りないかもしれない。誇張気味に表現するとしたら、粉砕されたかのような爆発音だ。
「あ、あはは……」
もうなにかを察してしまったか、苦笑い気味で気の抜けた
キィ――ガチャ。――支えが無くなり、
それでも
その場所は、二階。そして、少女が〝兄〟と慕う〈彼〉の部屋だろう。
しかしその兄、現在19歳、であるにも関わらず、働かずに自堕落な生活を送っている。そんな〈彼〉に〈彼女〉が痺れを切らし、実力行使に出た。考えられる理由として、これが一番辻褄が合う。
彼のことだ。自立しろと彼女から言われ、意に反して養ってくださいとフライング土下座を決め込んで、彼女は家の壁をも粉砕できる魔術を唱え、彼が全力で避けている最中なのだろう。
で、結果が〈何かが壊れる音〉。
「大丈夫ですかね……」
少しばかりの不安を抱えながら、二階へと上がる。廊下に変わった様子は見られない。
他を確認せず、そのまま彼の部屋の扉の前に。そして。
「帰りましたー」
もはや事後報告のカタチ。あんな音がしたからちょっと警戒して室内の様子を伺う――なんてこともせず、ガチャリと、扉を開ける。
その部屋の中は、主に壁が無残な状況になっていた。壁は人が潜っても頭をぶつけないくらいの大穴がぽっかりと空き、フチからは
その大穴から左側の壁に張り付き、壁の〈結果〉に怯えている青年。危うく自分がああなるところだったのを間近で体感してしまい、
その彼に、真っ直ぐ魔術を放ったであろう、右手を前に突き出している彼女。
どっちにしろ、他人からしてみればしょうもない原因で小さな〈紛争〉が起きていることには変わりない。
二人が雰囲気は、少女が扉を開けたと同時に霧散した。
彼は顔を綻ばせ、彼女は笑顔を見せて。
「の、ノエルゥゥゥゥ――!」
九死に一生を得たと言わんばかり、青年は少女の背後にゴキブリの如く隠れた。彼女の様子を
「帰っていたのか、ノエル。さあ、こっちに来て後ろにいる
「絶対離さん‼︎」
「まあまあお母さん、落ち着いてくださいよ。お兄さんもですよ?」
「そうは言われてもな――」
それを分かっていながらも、少女は宥める。彼女は見せる。
しかし、どちらにも譲れない一歩というのがあるのだろう。すっごくつまらない理由、ではあるのだが。
「お兄さん」
青年に振り返り、素直な思いの丈を喋る。
「一生自堕落な生活できるだけのお金を稼いで貯めればいいのに、コツコツとはやらないんですか?」
「それができたら苦労はしない――ッ‼︎」
それが自明の理と、自分の主張を変える気はないようだ。まあ、分かってたとばかり、少女は首を縦に振った。
「お兄さん、耳貸してください」
青年に近づき、耳元で囁いた。
――
「――」
(ツー……)
「おいグレン。何だその鼻血」
「え――」
青年から垂れるギャグ風味な鼻血。思わず鼻の下を拭い、彼女は訝しげに目を細めた。
「――セリカ。ノエルにどういう事吹き込んでるんだ?」
「――?……別におかしな事は吹き込んでないぞ?」
「……そうか」
「――――……あとで聞いていいか?」
「いいぞ……」
何か察してしまったか、彼女は青年に同情の眼差しを向けた。中心にいる少女はニコニコ微笑んでいるが。
「でもお母さん。お兄さんには、一体なにを言っていたんですか?」
「あぁ。実は、アルザーノ帝国魔術学院の講師が一人抜けてしまってな。その代わりを非常勤講師としてグレンに勤めてもらおうかと考えてる」
「おー。お兄さんにぴったりですね」
「ちょ――⁉︎」
青年を擁護するどころか、少女は彼女を援護射撃。堪らず青年が詰め寄る。
「あのなノエル、マジで言ってる?」
「え?」
あ、
「お兄さん、私が質問するとなんでも答えてくれますし……」
「い、いやそれは――」
青年はしどろもどろになりながら、少女に弁明しようと思考を巡らせる。
「学校なら、
品のある少女から、とんでもない言葉が飛び出す。年上の
すると、彼女が唐突に青年の肩へ腕を回す。青年が行為に念を持つ、その前に、彼女に引っ張られ後ろへ向かせられる。
「なあ、グレン――私の教育は道を踏み間違えたか?」
「俺が言うのもあれだけどな、間違ってはいないだろ……」
「なら、どこであの言葉覚えたんだ……?」
「やめてください。疑いの目を向けるのはやめてください」
「私もアレだが、世間知らずよりはずっといいんだがな」
「……お前が渡した辞書の中に入っていたんじゃないのか」
「そうか――」
「ちょっと目に宿っている炎がマジじゃないですかやめて首元で灯さないで」
辞書の出版元を親の仇とせんとばかり、今すぐにでも魔術を放り込みそうな彼女のオーラに、青年は恐れ慄きながらも宥めようとする。
しかし原因となった少女は、これまたどこ吹く風と微笑んでいる。
で、突拍子もなく「ハッ」とした顔になり、手で相槌を打つと。
「私も一緒にいって
「え?」
「――なるほど!」
年上としてのプライドを根っこからぶっ壊された青年。対して、利を得たと笑顔になる彼女。
「よし! 編入手続きだ!」
「あの~、セリカさま……?」
「私、学校は初めてです!」
「あの――えっ、初めて?」
青年、逃れられる
というか、拒否ったらそれこそ
▷▷▷
あの騒動から数日。爆破――の直接的要因を作ったのは彼女だが、その跡はすっかりと無くなっている邸宅。彼女は、玄関で我が子の旅立ちを見守っていた。
「行ってきますね〜、お母さ〜ん」
「あぁ、気をつけてな」
〈ノエル=アルフォネア〉
Q:なんで書きたくなったの
A:「廃棄王女と天才従者(152865)」を見てふと思い立った。原作とWikipediaをチェックしながらカキカキしています。
それに倣って、
二階の自室:
本来は食堂。バタフライ・エフェクトってやつ。納得しろ(強制
2020/03/11
誤字修正と多少の追記。
2019/06/15
ノエルに関する外見描写が足りなかったため追記