記憶喪失の私は記憶喪失の養子になりました 作:TAKUMIN_T
00と01で30,000字越え……普通だな!(感覚麻痺
二ヶ月振りの更新。気が向いたときに書いてたから文章の質は下がってないよ。更新前にちゃんと見直した。
原作だのどうのこうの考えるより、とりあえずオリジナル路線を突っ走ることにしました。
泣いていた。
ただ泣いていた。
必要ない。たったその一言で、目の前が真っ暗になって、目の前からその姿が居なくなって。
受け取り先の当てがわれた部屋で一日中ずっと泣いていた。
どうしてこんなことするの。なにかしたの。何が悪いの。そんなことを聞いても、何も言ってくれない。誰も答えてくれない。誰も求めてくれない。
なんで はなしかけてくるの。
どうして はなしかけてくるの。
なんで なんで なんでなんでなんでなんでなんでなんで
だれも しんじられない
だれも しんじない
もう
いいや
SCENE 01
UUDDLRLRBA
鉄製の格子に嵌められる無色透明の
数えた事もない格子
廊下を端から直線として真正面に見据えても人の気配を感じない代わりに、時折どこからか音が響いてくる。
自身から左が窓として、その右。一定の法則に従い均等に配置された扉の先からは楽しげな声、または悩ましそうな唸り声が、扉の近くに立ち耳を澄ませば聞こえて来る。
それもその筈だ。この扉の先は
……その世代に属しているであろう推定16歳もいるにはいるが、他人を振り回して『将来なんて知った事か』と自由に
一方、勢いで肩車させられ、その上でキャッキャキャッキャと楽しそうに枝を捥がれているのを唯々見ているだけしかできない者もいる。
=09:06:11
二年次生の魔術競技祭が来週に迫ろうとしている、アルザーノ帝国魔術学院の現在。
多少教員達が話し合う様子を職員室外でも目にするようになり、話の擦り合わせ等々、競技祭が迫っている事を間近で実感出来るようになってきた。それでも、開催に伴ったゴタつき、大きなトラブルも無く、生徒達とは無縁の所で開催準備が着々と進んでいた。
その中でも、メインを飾る競技者――生徒達は各自、自分の持てる力を本番で存分に発揮できるようにと、事前告知されている情報から本番さながらのシチュエーションを擬似的に再現し、本番にどの様な行動を取るのかの戦略を組み立て、少しでも上へ行けるよう練習していた。
しかし、何処か緊張感が二年次生の間には流れていた。
そんな中、唯一イレギュラー判定を受けそうなクラスはと言えば――
「次の〈飛行競争〉に出たいひとー」
――はーい!
少しだけ開けられた窓から涼しい風が室内を巡る。至る所で席を無視して自由に集まる生徒へ熱気に移り変わり新鮮で涼しい空気が届けられる。
壇上に立つシスティの呼びかけに反応して、幾人かが手をあげる。その横で、書記を務めるルミアが後ろをチラチラ振り返り、挙手者を確認しながら黒板にその人の氏名を書いていた。
「えーと……
「規定人数より多いわね。じゃあ後で話し合って決めて。それじゃ次――」
何の滞りも無く進む出場者決めに、生徒達も特に意見と文句も挟むこと無く、挙手した男女が集まり、また一つ塊を形成していく。
――そう。思ったより和気藹々とした雰囲気で、話はスムーズに進んでいた。
そもそもの所から話してしまえば、今の二組に優勝だのどうのこうのは、一切が眼中の外だ。
いや、出来るだけ上位を目指そうとしているのは、出場者決めが一応真面目に行われていることから察せてもらえるだろう。至ってノリが軽いけど。
この競技祭の観客に、本学院の卒業生――それこそ、アルザーノ帝国において、現在存命している魔術界隈の著名な人物が一同に観客として参加する。魔術を志すものからすれば自分をアピール出来る絶好の機会であり、将来への布石としてコネクションを構築できるかもしれない。あわよくばスカウトされるかもしれないこともあり、図らずともピリピリとした雰囲気が漂うのも無理はない。
そんな重要な場となっている競技祭――
同学年の学友と言えど、可能な限り著名な人物に自身の名前を覚えてもらえるように、その
そして、今回の魔術競技祭に置いてもっとも重要な点。
それは、アルザーノ帝国の現〈女王〉陛下が観戦に来るという事。そして、優勝したクラスに、その手直々に表彰してくれるというまたとない名誉が待っている。
千載一遇と言ってもいいほどに、今回の訪問はとても稀な出来事だ。謁見する事すら生半可に叶わない女王陛下の御尊顔を、
では何故、二組はそこを度外視したように和気藹々としているのか。
原因、理由は言わずもがな。
説得――と言うほどでもないが、それに近いことをやったのがいる。ノエルだ。またあいつかとか言わない。
この話題が初めて出た時、ルミアがノエルに話題を振ったことが大元だ。ノエル曰く。
「お祭りですよ、お祭り! 気張るだけ無駄です! ぶっ飛ばせ!」
いつも通りということに安心はしたが『お前は関係無いだろうな』としか言いようがないのも事実。目を輝かせていたもの。あれ完全に興味を惹かれた幼子だよ、ナニやらかすかわからんぞ。
そもそも今、ノエルは客員教授の立場に就いているし、出たら出たで、一位を根こそぎ掻っ攫うのは日の目を見るより明らか。
「一組とか、ただ優秀なだけじゃ無いですか?」
それに煽ってたな。あの水色。
それはともかく、ノエルからすればただのお祭りにしか見えていないようで、魔術のお偉いさんとかに対し、当たり前のように虫網を振り下ろして、頭からすっぽりとゲットするかもしれない。
もしかしたらそれが二組の評価に繋がる可能性があるから、間違いなく全力で止められる事だろう。寧ろ絶対止める。
とまあそんな経緯があり、数日後。
自分達にとって、とても大事な催し事であることを懇切丁寧にお伝え申し上げると「ほえ〜」と、意外だと言うような驚いた表情をしていた。
確かに今のうちにコネクションを構築しておくのも大切なのだが、ノエルは何回か質問を返し、生徒達がここまでに意気込んでいる理由を理解した上で。
「今はこれだけしかできませんでしたけど、来年はもっとできるようになりましたってほうがインパクトに残りません?」
そう微笑んで壇上で胸を張って言い放っていた。
その時は一体何を言っているのか理解が及んでいなかったが、一人が気付き、また一人と、徐々に伝染していく。
生徒達からすれば、まさに目からウロコとしか形容できなかった。
「前向きに考えましょう! 今は全力で出来ることをぶつけて、思いっきり〝お祭り〟しちゃいましょう!」
それは天からの御告げに等しかった。
――今はまだこれぐらいの実力だが、来年はこれ以上の実力を見せられるような競技にしろ。また、それを匂わせられるような
名誉という点では一切考えていないのだろうが、他とは違う姿勢で望んでいるのを知れば、もしかしたら女王陛下の小耳に挟むかも知れないというちょっとしたおまけ付き。
そのためにも、本番では〈名簿〉の片隅にでもいいから自身の名を刻んてもらいたい。
そして来年、その期待に答えられるようなことをしよう。
たった一年、たかが一年。それでも――〝一年〟ある。
生徒達の実力を伸ばすのには十分な期間だ。下手に凝り固まった思考を持つ老人共に比べたら、なんと教鞭を振るいやすいことか。興味津々と、軽々に知識を蓄えられるぐらいの柔軟な脳を持つ今だからこそ、一年という期間はとても大事でとても長く十分な期間だ。
そして来年には、もっと出来るようになっている。そう自分達に確信もたせられるのは、なにより目の前に居るノエルの存在。
グレンがメインとして基礎を固めているのに対し、それを応用させるのがノエル。基礎が出来ていないならそれも手伝うという、誰が見ても万全の教育体制であったのは知っていた。
だがそれがこれ程までに有難いことだったのかと、一部の生徒が「ありがたやぁありがたやぁ」とノエルを崇めていた。えっへんと胸を張っていたのはいつも通りだった。
黒板に描かれる氏名を一瞥すると、システィは苦々しい顔を浮かべる。
「う――ん……いまいちパッとしないわね……」
無論、何気無しの呟きに特定の人物を貶すような意図は含まれていない。
ただ、上位を出来るだけ目指せるようにすると『優勝には届かないだろうなぁ』というのはクラスの全員が判っていた。同学年対決であっても、〈優勝〉とはそれほどまでに隔絶された順位なのだ。
「ダメだよシスティ、そんなこと言ったら」
「わかってるけど……全力を出して上を目指せるか心配なのよ」
士気を下げるような発言にルミアが言葉を挟む。思わず口から溢したことは事実だから否定しないとして、出来るだけ上の順位を目指す――肝心な目標が曖昧なモノで、要領を得ないのも明らかだ。先の計画を立てるのにも、その〝先〟が目標として設定できない。
「成績優秀者で使い回すという選択もありますよ?」
向上心を持つ彼女に、ギイブルが一言告げる。
全員で一つの競技に出場するのではなく、成績優秀者を数回、または全競技に配分し、可能な限り上位に位置付けようとする手段。
ギイブルをチラリと振り返り、システィは黒板に書かれた氏名を一瞥する。
「まぁ、他は間違いなくやるでしょうね。私たちとは目標が違うから」
「俺達もしちゃうのか? ノエルからなんか言われそうだな」
「常套手段だからやっても問題は無いね」
アピール目的なら常套手段だろう。このクラスではこの人が注目株ですと、複数回出場させることで印象に残るであろうからだ。
だが複数回ということは、それだけ一人にかかる負担が大きくなる。毎戦全力で挑めないのは大きなデメリットだ。それに比例して、第一印象が芳しく無い評価に落ち着く可能性もある。
ルミアがシスティの顔を
「でも、もしやるとしたなら誰?」
「……間違いなく私とギイブルが一番に選ばれるわよね」
「このクラスだと、間違いなく確定枠ですよ」
当の
二人以外の二組生徒に、複数回を抑えて上位入賞できるほどの余力は無い。その事に誰も異論を唱える事はない。公然の事実と言うまでだ。ノエルは
他のクラスメイトからすれば、自分は役に立たないと比喩られているようなものだが、複数回を余力有りでやれない事は事実だから、張り合っても仕方がない。
そこへ憮然とした面持ちで、ウェンディが言葉を挟む。
「そもそもノエルさんは何をおやりたいのかわかりませんわ」
「何をやりたいって……」
そこまで出て、システィは言い淀む。その横からルミアが続けた。
「楽しみたいだけだと思うけど……」
「……それしか有りませんわよね」
判ってた、そう嘆息するウェンディ。
ノエルの行動理念は大体そこらへんに集約されている。どうこう思惑を思案したところで返答は『楽しいから』。そう言うに決まっている。それ以外有り得ない。
「てか、先生とノエルはいつ来るんだ?」
「私たちに任しているから来ないと思うわよ?」
「そう言ってると、本当に来そうだよね」
「そうですわね……あのおふたりなのですから……」
――あま〜い!
――なんかしょっぱいぜ、このシロッテ……
「……何か聞こえた気がするわ」
「気のせいではありません?」
システィが「うわぁ」って顔してる。その様子を訝しげに、ウェンディが眉を顰める。
いや、これが気のせいであるはずない。あんな特長的な声、聴けば直ぐに判るはずだ――。
――ほら、お兄さんも舐めてくださいよ
――だからしょっぱいって……
『……』
なんか聞こえる。何処ぞの紳士が反応しそうなのは怖いところ。脇(検閲されました
でも、間違いなくあの二人の声だ。ついさっきよりも音が大きい。生徒達も聞こえたらしく、話し合っていた声を止めるほどだ。
ガラガラ――。
「はーい」
本日一発目は、暢気に右手を振って挨拶するノエル。今日も今日とて、学生服っぽい私服でおへそがちらり。流している薄水色の長髪と一緒でとても眩しい。
その後ろでは片手で顔を覆うグレン。右手には木の枝……なにやら諦めが感じ取れる。肩身が狭いとはこのことか。
「の、ノエル君――?」
「来ちゃいましたー」
「来ちゃいましたーって……」
一体なにがどうして「来ちゃいましたー」なのか。一応ひとクラスを担当しているのに、その担当しているクラスで言うのはどうなのか。システィは脱力して何も言えない。
で、もう一つ言わなければいけないことがある。
「ノエル、背負ってるものはなんなんだ?」
それはカッシュが指摘した。ノエルが背負う、上半身程度の〈
ノエルは振り返るように籠を一瞥して。
「あぁ、これですか?」
背負い籠を全員に見えるように体を斜めにしたかと思えば、背負い縄を肩から外して、蹲み込んでそのまま背中から下ろす。
床に下ろされたことで必然的に高さが下がり、背負い籠の中がよく見えるようになり――籠一杯の木の枝が、無造作にぶち込まれていた。
「これはですね、シロッテの枝です!」
枝なのは見て判る。グレンが手にしている分も、多分ここからなのだろう。なんか
それはそうとして、何故カゴが一杯になる程に集めていたのか、その心が判らない。とうとう魔術に飽き足らず、こんな奇行を起こすようになったか。
何処か呆れたような視線が、何故か自信満々のノエルに向かう。
「……そんなに集めてどうするの?」
「お料理に使えないかなぁって思いまして」
だったら教室に持って来なくていいのでは? 家に置いて来なかったのか?
質問したルミアのみならず、大体の生徒の心中が合致する。
「……こんなに必要ありませんわよね?」
「ノリと勢いです」
「……」
何も聞かないほうがいいかもしれない。マイペースにペースを掴まれたらこちらが沼に引き摺り込まれる。
背負い籠を出入り口の角に置き、何も無かったと言わんばかりにぴょこぴょこと壇場に近づいて黒板を注目する。半ば空気と化していたグレンは何も言わずに、ノエルと同じように近づいて黒板を注目している。
「なにか言いたいのかしら?」
「いやぁ、お祭りやってますねぇって」
「ホントだな。見事にノエルの言った通りになってる」
「え?」
ルミアが思わず声を漏らした。
「参加する人もですか?」
「違うぞ?」「違いますけど」
「そう、なんですね……」
息ぴったりの返し。的外れの問いに勢いを削がれるのが自分でも判った。
「よ〜し、正式メンバー決めるか」
『は?』
グレンの唐突の呟き。不審な態度、または怪訝な顔をする生徒達。何も言わず
「……?」
「(ニッコリ)」
エヘヘ〜と聞こえて来そうな笑顔。褒めて褒めて〜と言わんばかりの表情に、触り心地良さそうな頭を撫でれば、途端に左右へ振られる尻尾を幻視すること間違いなし。ルミアとウェンディが目をパチパチさせて
期待に満ちたマイペースから視線を外せば、生徒達は呆気にとられたような表情をしている。
「……なんだお前ら。文句あるか」
「文句しかないんだけど……?」
「文句しかありませんわ」
「なんで来たんですか?」
システィ、ウェンディ、ギイブルが言葉を連ねる。突如教室にやって来て、生徒達の偉大なる自主性により既に大まかなメンバーが決まっていた。それにも
「お前ら俺をなんだと思ってる」
「クズ」「変態」「ろくでなし」「ちくわ大明神」
「グベ」
「誰だ今の」
なんか混じっていた気がする、気にしないが。
それはともかく、意味を掴みかねない罵倒がグレンへ〝実態〟と化して襲いかかる。
床と恋人よろしくといった具合にお熱く――抱きしめてはいないが、大の字で俯けて、仲良く「チキュウダイスキ!」してる。その横では妹分がキャッキャキャッキャしてる。
「ふふん、ここは私の出番っ」
「?」
慈悲無き言葉にピチュられた
大地もとい床と抱擁しているグレンは教室の隅にコロコロさせて、打って変わってノエルが再び黒板前に立つ。なにが出番なのか判らないが、生徒達も判らない。全員、支離滅裂、唐突なノエルにハテナマークを頭上に浮かべるのみ。
注目を集めて、ノエルは面白いよと聞き手に思わせるような抑揚で話し始めた。
「お兄さんは昨日、ギャンブルで給料を全額スリました。
お母さんは家の食べ物を全部しまいました。
この魔術競技大会で優勝したクラスの担任にトクベツな賞金が入ります。
把握しました?」
――もなにも、そのままの答えだった。オブラートに包む事も擁護する事もせず、事実をいつもの悪意無き笑顔で喋った。果てなく、悪魔のような所業に同情する者もいれば、自業自得と首を横に振る者もいる。
「白くなってますわ……」
「なあ、あれって大丈夫なのか?」
「ほっとけばいいと思うわ」
その一部始終――全体をあっけらかんとばら撒かれた兄心は当に砕け散り、再びリングサイドにグレンは沈んだ。決まり手は顔面へのストレート。不可避だった。
ゾンビゲーム宜しくと言ったばかりの死んだフリが寧ろ致命傷となり、Havok神*3おも通用せぬ背景オブジェクト――物言わぬ屍と化したグレン。そんな彼を、一定数が心配げにチラチラと視線を向けていた。
すれば、そこだけが切り抜かれたようにマンガみたいな
なおノエル。いつも通り、ほかを置いてけぼりにして話を進めていく。
「つまり、利害が一致しているんです! お兄さんは飢えを回避出来る、皆さんは優勝できる。〝うぃんうぃん〟の関係です!」
「いやな関係ね……」
間違いなくメリットしかないのは当然として。しかし、二人がここまでヒャッハーし出した理由があまりにも自己中心的。声に出してシスティが顔を顰めたのも無理はない。
「まあまあシスティ、ここはノエルさんの言葉に乗っかっておきましょう」
すると、水を差すように声を上げたのが一人。ギイブルだ。
「どっちにしろ、僕達に利益のある話だ。今から上位を目指すにしても、ここにいる生徒だけでは怪しい。その可能性を少しでも上げる為には、ノエルさんと先生に決めてもらう方が間違いないでしょう」
「判ってるわ」
ギイブルの言い分はとても的を得ていた。
確かに生徒達だけでは上位入賞すら怪しいだろう。一組との実力はそれぐらいに離れている。そこに、グレンの餓死回避という名目で優勝を目指す兄妹が練習の指揮を
先のビジョンが見通せない中、二人はその道筋を示そうとしている。なら、その船に便乗したほうがメリットがでかい。グレンとノエルに関しては、少なくとも妹の方は名誉なんかいらないだろうし、どちらかと言えば、名誉やら将来やらを考えると生徒達に利益が有る。
少し俯向きげだった顔をあげ、ノエルに視線を向ける。
「で、それ以外に理由はあったりするのかしら」
「一応ありますよ?」
「
いつも通りにするノエル、苦笑するルミア。
「簡単ですよ。私とお兄さんのやっていることが正しいって証明できるじゃないですか。そこまで特出した成果も無いのに『自分のやっている方が正しい』とか『今迄の方法が正しい』とか言うバカしかいないじゃないですか。
優秀とかそんなの関係なしに、私達のやり方でやってみんながここまでの成果が出せたって世の中に知らしめるいいチャンスなんですよ
それが気に食わない他の人たちは間違いなく頭に血が上ると思いますけど、そんな人達は時代遅れの骨董品なんで置いておくとして――今回のこれを利用して、みんなの得意不得意をハッキリとさせて、長所をしっかりと伸ばす練習で祭りに挑むんです」
誰もが平等に、一定のラインを超えて長所を伸ばせる学習――その成果をこの魔術競技祭でしっかりと数字で示し表す。そうすれば誰も、ただ口に出して馬鹿にすることなど出来ない。そんなことを言おうもんなら、己がしている学習法でしっかりとした
優秀者が揃っていない、などの言い訳は通用しない。このクラスはそれを体現しようとしているからだ。
グレンは自業自得の理由であるが、ノエルにはしっかりとした理由が存在していた。思わず呆気に取られたような表情を浮かべてしまうのも無理はないだろう。
「……意外と真面目だったわ」
「ノエル君、何か変なものでも食べた?」
「ひどいですね」
これがノエルの信頼度か。消費期限切れの食べ物食ったと心配される始末。
「後付けですけど」
やっぱりいつものノエルだった。
それに、生徒達を一瞥しながらそう前置きし、愉しそうな笑顔を見せて。
「どっちにしても
一応にもこれは〈魔術競技
他がピリピリしているのは完全無視して、一人は全力で楽しもうとしている。その意気込みには、周囲からすれば場違い感が否めないが、この姿勢が本来の〈魔術
〈競技〉ということはスポーツだ。互いにリスペクトしあい切磋琢磨するという光景が見られるのが理想なのだろう。
他クラスとは違う――その印象が植え付けられれば、二組生徒は自然と注目が集まるだろう。
そんなことで楽しそうにしているノエルに、カッシュが一言尋ねる。
「ノエルは何やりたいんだ?」
「遠隔バフ」
「ダメですわよ!?」
つまり『遠くから一時的な能力アップ魔術をかける』――ノエルが言うと冗談に聞こえないから困る。ウェンディが速攻で食いついたのを「てへっ」と流して。
「まあ、当たって砕けろって言いますし」
「作戦は?」
「え? ないですよ?」
「最悪ね」
「そういうシスティさんは」
「ないわ」
「ナカーマ!」
見つけた同胞に「わーい」とハイタッチを求める。そんなんで仲間宣言されたくないとシスティは深く嘆息した。
「先生、大丈夫です?」
片隅では、ルミアがグレンの様子を伺う。未だ
すると後ろから、彼を追い込んだ
「ほらほら、仕事しないとお兄さんのお弁当が誰かにいっちゃいますよ?」
「よ〜しお前ら、俺らについてこい!」
『うわぁ……』
弁当を人質に取るとはなんと極悪非道な。
半ば命を握られた脅迫にも当然と受け取れる一言にグレンは
目先の物に釣られた現金なヤツとも取れるが、唯一の生命線であるノエルからの昼食を絶たれてしまっては、本当にノエルが調味料代わりで捥いできたシロッテの樹液を主食として、飢えを凌がなくてはいけなくなる。それだけはなんとしても避けなくてはいけない。
生徒達から漏れた声にも、呆れ、同情、畏怖のような様々な感情が混じっていた。
ノエルがグレンへ手渡した紙を兄妹二人仲良く見て、なにやら相談しあって黒板に生徒達各々の氏名を書いている。既に決まっていた――というより、ノエルはある程度決めていたということなのだろう。
数分経過し、二人が手に持った黄色いチョークを置いた。生徒達に見えるように退くと、書いている途中でも見えていた隙間を埋めるように追記された黄色で書かれた氏名があった。書かれている名前に生徒達は少し騒めき始めた。
「――たぶん、俺も同じ選出してたな」
「以心伝心です♪」
「ぜってー違げぇ……」
簡潔に言えば、上位を狙うなら常套手段と、暗黙の了解にされている
先にグレンが振り返り、席を一瞥。
「誰か文句ある奴いるかー?」
「ありますわ!」
異論を唱えたトップバッター、切り込み隊長〈ウェンディ=ナーブレス〉。憮然とした面持ちで「不満あります」と主張しているのが顔を見るだけで判る。
「なんでわたくしが〈決闘戦〉ではなく〈暗号早解き〉に名を書かれているのですか!?」
元々バトルロイヤル形式であった決闘戦にその手を挙げていたのだが、兄妹が書いた選出には載っておらず、代わりにその競技名そのままの暗号早解きにその名を書かれていた。
つまりは、自分のやりたいと思った競技へ選出されていることに不満タラタラなようだ。
しかし、その文句にグレンは顔色一つ変えることなく。
「だってお前、直ぐ頭に血が上って冷静さ欠くだろ?」
「ぐっ」
第三者からの適格な指摘を下す。突きつけられたウェンディは何も言い返せない。そのことに自覚があったからだ。
そして追い討ちをかけるかのように、ノエルが話を続ける。
「それにウェンディさん、こっちで使う〈リード・ランゲージ〉の成績クラス一位じゃないですか。だったら対戦形式じゃなくて、時間で競う勝ち抜け形式のこっちがいいと思いまして――ダメでした?」ウルウル
「そ、その目はおやめになってくださいなぁ……!」
懇願するような上目遣いをするノエルに、ウェンディが思わず身を引いた。なんかイケナイ事しているような気がしてならないし、罪悪感が凄い。
「うぅ――〜〜っ! やってやりますわっ! そのままでいいですわっ!」
「やった♪」
もうヤケクソだと、これだけ持ち上げられているのに引いたりとやかく言ったりするのは自分の
「じゃあ、次いるか〜」
その様子をいつもの事だと軽く流し、グレンは解決したと判断して次に質問がある生徒がいないか確認する。
→00:42:10
大方の疑問が解消されたか疑問の声が上がらなくなった。
「このメンバーで決定していいですか〜?」
ノエルの確認に対して異論をあげる者はいない。生徒の得意分野、特色をしっかりと理解し、使い回しを誰一人として出さない上で出場者決めされているのだから、むしろ異を唱える方が難しい。
上位、又は優勝を狙うにしても、自分達だけでは此処までの緻密に練られた選手決めは出来ていなかった。成績をつける立場であるが、ノエルはしっかりとアドバイスしているし、グレンも巫山戯てはいるがノエルが決めたメンバーを一目見ただけで納得していた。二人、最低でも先生としての事をやっている。
「誰もいないんだな? じゃあここに書いたのを、今日から出場する種目に集中的に取り組んでもらうぞ〜」
――はーい。
手をあげる者がいないとグレンが最終確認の呼びかけをすると生徒達は異議無しと気軽に
生徒達の様子を、頷いて嬉しそうに見ているノエル。お前はどこの親だと言いたくなる態度をしている。
「んじゃお前ら、広場に20分後集合、それまで自由時間な」
後は任せるとグレンがノエルに一声掛けると「はーい」と従順に応えた。その反応を見て、後ろ向きで軽く手を振りながら教室を出た。
「――全く、今まで考えたのが無駄じゃない……」
腕を組んで不貞腐れたように呟くシスティ。自由にやっていいと言われていたのをこうも簡単に覆され、色々気を揉んでいたのが馬鹿みたいだと思っている。
「これからどうするの、システィ」
「……とにかく先生のところに行くことかしらね」
ともかく、グレンがその気になったらそれはそれで有難い話だ。ノエルとの協議――と言えるようなのは無かったが、肝心の選出がしっかりとした組み合わせで、実施する必要性は十二分に無い。練習内容も二人のことだから、アドリブでどうこう指導するつもりなのだろう。
「? なんです?」
客員教授のノエルが、システィとルミアからの視線にこうも緊張感のない返しをするぐらいだ。相変わらずの平常運転に掛ける言葉もない。
「ノエル君は先生を追いかけなくていいの?」
「大丈夫です。紙なら渡しました」
極当たり前のように言い張る。
「で、ノエルは何をするのよ?」
「にゃんにゃんしようかなと」
動詞、にゃんにゃん。
何言ってんだこいつと言わんばかりにシスティの表情が怪訝なものになる。同じく聞いていたルミアも頭上にはてなマークを浮かべていた。
すると、ノエルがルミアに近づいて。
――
「とうっ」
可愛らしい掛け声で飛び付いて。
ぽふっ。
何処からか悲鳴のような黄色い歓声が聞こえた。ルミアは少しの衝撃を感じて視線を下げる。
キラキラの綺麗な上目遣いのお目々が心一杯の笑顔と一緒に、あったかい体温をじんわりと感じる。背中に回されている腕からノエルに抱き締められているのも判る。
現状を理解したルミアの顔が赤くなる。倒れていないのは成長の証。別名は耐性。
ノエルは小首を傾げて。
ツインサテライトキャノン。
コロッと逝かせそうな破壊力。回避――不能、防御――しない――。
あぁ、しあわせぇ――。
「また倒れたぁ!?」
「だからお辞めになってくださいと言っておりますでしょうノエルさん!?」
「にゃ〜ん?」 グハッ>
「『何言ってるのか判らない』……って顔するんじゃないわよ!」
「離れてくださいな!? ――って、お顔を埋めないこと!」
「にゃ〜ん♪」 グボォ>
「離れなさいっ!」
「システィさん、足を持ってくださいな!」
「判ったわ!」
「相変わらず幸せな顔してるぜ、ルミア……」
「なんでこうなるんですかね……」
システィとウェンディがノエルを引っぺがしに掛かり、被害者のルミアは幸せな顔してる――被害者のはずなのだが。
一方で加害者ノエルは楽しそうににゃんにゃん鳴いている。剥がれそうな気配が無いのがなんともと言ったところだ。
▷▷▷
「大丈夫、ルミア?」
「だいじょうぶだよ〜システィ、えへ〜♪」
システィの心配をよそに、えへへ〜と表情を綻ばせて返事するルミア。大丈夫じゃないみたいだ。まあ、ノエルにあんなことやられてああならない方がおかしいと言うべきか、ルミアがノエルに慣れたからこの程度で済んでいると言うべきか。
麗しい少女二人()のイチャコラはとても眼福であるが故、ノエルはシスティとウェンディにやめなさいと言われるが、何処か羨ましげな視線を向けられていた。下心は一切無し、子供のように無邪気に飛びつくからこそできる芸当だった。これが下心ありになったら社会的に逝く。これが素材の差か……。
と、話を聞かない
一方のノエルは「補給完了!」と訳のわからないことをほざいて、お兄さーんと言わんばかりに教室を出て行った。
その時点では半数は残っていたが、ルミアが復活したときには大方の生徒が既に広場へ向かうために教室から出払っており、残り数名が準備完了というように教室からいなくなるタイミングだった。
二人が遅れた理由は言わずもがな、悩殺されたルミアをシスティが介抱していたからだ。ノエルの攻撃の後ルミアはいつも浮ついた気分になっている場合が大体――いや、いつも浮ついた気分になっているからもうどうしようも無いのだ。
そんなこんなで二人が広場に到着する頃には集合時間ギリギリというタイミングだった。今か今かとグレンとノエルに指示を乞うような生徒達の様子は、雛鳥が親に餌を強請っているかのようだ。
時々顔を上げて生徒を確認しながらグレンは手に持つ出席簿とにらめっこ、足音が聞こえて顔を上げる。そして最後に来たシスティとルミアをその目で視認する。表情は二人が遅れて来たのが意外と語っている。
「お、珍しいですね〜」
「貴方が言わないでくださいまし……」
「……ルミアの様子から大体判るんだけどさ、何があったんだ?」
「いつものですわ……」
「あぁ……なるほど……」
真っ先に教室を出たグレンは事を見ていないためにルミアの浮ついた様子に疑問が生じたのだが、あの様子を何回か見ているしウェンディが嘆息していることからなんとなく察せた。そして確認して確信する。ノエルは自覚が無いのがいけない。
点呼と挨拶は程々にしておき、それではと前置きしてグレンが内容を語り始める。
「お前らにやってもらうのは、至極簡単な話だ。今日から一週間出場する種目の練習だ」
「多人数戦なら自分達の戦術の確認、使用する魔術の選別と適格な高速化です。個人種目なら適格な高速化のみで大丈夫です」
「俺たちは最低限アドバイスやらなんやはするが、それ以上は自分で考えてやってくれ。面倒くさいから」
「お弁当――」
「――ばしばし聞いてくれ!」
なんて現金な。人質取っているノエルもノエルだが。
とまあ、いざという時の言質を取ったということで納得しよう。
「優勝を目指すのもいいですけど、全力で楽しむ事を第一目標にしてくださいね。皆さん」
「――だ、そうだ」
あくまでも祭。来年もあるから気負うことも無い。言外にそんな意味が込められていた。
「でも、それだけだとなんか足りませんよね〜」
「俺の財布掛ける気かお前」
「いいんですか?」
「ダメに決まってんだろ!」
掛ける金もないのに一体何を掛けるのか。即座にグレンが反応したことからなにやら悲しい事情がありそうだ。聞かない方が身の為か。
それでも、現金なのは思春期真っ盛りの生徒達も同じ。お金が出るとなったら一部が
――なに、文字が違う? 気のせいでしょ。
「ですねー……一番頑張った人には――」
――
『!?』
「おまっ!?」
その場の空気を凍りつかせる衝撃発言。ノエル以外の全員がその身を引きつかせた。
自分自身を景品にするとは正気なのかと。ましてやデートする権利とは。
「おいノエル! お前何言ってんのか判ってんのか!?」
「え?」
「判ってんだなチクショウ!」
唐突な自身の身を特典にする発言を窺うグレンに、ノエルはそっけなく「何をおっしゃいますか」と言うような顔を返事してきやがり、正気度を一定以上失った
言葉を脳内で反芻するように、システィは目を瞑り眉間に手を当てる。
「え〜と、デートって言うことは……?」
「恋人繋ぎしてもいいんですよ?」
『キャァァーー!!』
あぁ、女子が湧いてしまった。ウェンディ、ましてや訊いた
子供みたいな純真無垢な笑顔と人懐っこい性格。ルミアがやられる度に毎度アテられてぶっ倒れているのを間近で見ているから、恐れ多くもあり、一度でいいからその気分を体験してみたい興味もあり。
そうして各々が喧騒に沸く、若干俯向き加減に静かに佇むのが一人。そんな彼女のいつもと違う様子にカッシュがおそるおそる
「ル、ルミア……さん?」
「カッシュ君……私、絶対手に入れてみせるよ――」
「お、おう……」
*ルミアはケツイをいだいた
あまり――いや、以前にも見た事無いぐらいに、やる気を漲らせておらっしゃる……。
いつも見せる様子からかけ離れた様子の彼女に、思わずカッシュも困惑している。その心情が恋心から来るものではない事を切に願う。
そんな中でも、混乱の渦に巻き込んだノエルはというと、自身を景品にしているのをそこまで決心するようなことでもみたいだ。
「
軽く声を掛けると、生徒達は各自種目別のグループになって各々好きな場所へ散っていく。ただ、ルミアほど特典に対して本気になっているのは誰一人として居ないようだ。なぜ。
そんな二組生徒達の楽しげな様子は、周囲から見ればどこの同好会だと言われそうではある。
「楽しげな様子ではないですか? グレン=レーダス
ほら、そんな噂話をしていると早速やってきた。
その声に兄妹が後ろを振り返る。いたのは、二組眼前の目標となる二年次生一組担任〈ハーレイ=アストレイ〉。その背後には一組生徒が総出で付いていた。取り巻きっぽく見えるのはアレだが、実力はちゃんと裏付けされている。
「あ、髪の毛気にしている
「
「はっ、なぜ私はこのことをっ!?」
もう帰っていいかな。関わりたくない。
初手ケンカを売るノエル、本気で気にしているところを名指しされたユーレ
明らかにちょっかいを出しに来た雰囲気を漂わせる彼らに、グレンは話すことすらも面倒くさそう、そんな態度を隠さずに、一応センパイ講師であるハーレイに返答する。
「で、なんですかハーレイ先輩? なぁんか文句あるんですかぁ?」
「なに、簡単なことだ。広場を開けてもらいに来た」
すると、至極当然といった態度で要求してきた。
自分達より劣っている者達が自分達に譲るのは当然。そんな意思が図らずとも見えて来る。そこに悪意は一切無いからさらに困り物。
だが。
「いやです」
ノエルはキッパリと断った。その拒否がハーレイは心外だったようで、少し間に受けた表情を見せたから目を細めた。
「何故だね?」
「こういうの早い者勝ちですよね」
「今更二組が練習しても結果は判ることだろう? なら、優勝する私達に広場を譲るのが世の常だろう?」
「お兄さん、ハーレイさんってこんなに頭が可笑しかったんですか」
「教えてやろうかノエル。魔術師っていうのは大体こういうのだ」
「うわぁ」
「――聞こえているぞ貴様ら」
本気か茶番か判らないノエルの様子、それに合わせるグレン。ハーレイは間違いなくイラついている。だって笑顔だし、口角がヒクヒクしてる。
「優秀なんでしょうけど、場所がなきゃ練習出来ないんですか?」
「ブーメランだぞノエル」
「え?」
――春真っ盛りの筈なのに、どこか肌寒い風が
判るだろう。ノエルの反応はイマイチ
「――そういえば、自室で練習してたなお前は。違うお前が基準じゃない」
「
「オーケー黙ってろ」
コイツにかまっていたら時間が足りない。
ついでに、一組生徒のノエルに向けられる視線がなんか畏怖を孕んでるような。
「……? なんですか、文句あるんですか?」
「絶対文句とかじゃねーから」
もし文句を言ったら、お前にできるのかとか言い返される。いない者として扱わないと、どんな被害を被ることになるのか想像がつかない。
「え? 自室の中で練習するもんじゃないです?」
「お前わざと言ってるのか。なあ」
関わらない方が精神衛生上宜しいかと存じ上げます(震え声
「私達、入らなくていいのかな……」
「ノエルさんは先生にお任せになるのが一番ですわ」
「僕達が介入してもいいことは何もないからね」
そんなノエルに振り回される様子をルミアとウェンディ、そしてギイブル、三人は練習の最中に眺めていた。
ウェンディはギイブルから暗号早解きで使用する魔術の行使速度向上を目的として教えを貰っている最中に。ルミアは――まあ、今はウェンディのお付き。誰に教えてもらいたいか、なぜかソワソワとしているその態度から察せれるだろう。
だがなぜ、生徒にも声が届いているにも関わらず二組生徒の誰もが関わろうとしないのか。
二組生徒には全員こういう教訓がある。
ノエルに関して細かいことを考えない方がいい。
――グレンがいつも言っていることだ。あいつは常識に囚われないヤベー奴だから、参考にしないほうが身のため。色々言ってもノエルはマイペースだから意味がない。
とにかく、絶対的な信頼(?)というものがノエルにはあるのだ。そして止めようとできるのは兄のグレンしかいない。扱い慣れてきた二組生徒とはいえ、まだノエルの全容を把握し切れていないし、なにより一組となにかしら言い合うのは疲れる。ついでに練習時間が削られる。
だったらノエルのマイペース具合を信じて、一組を一手に引き受けて掻き乱してくれた方が自分達にとってメリットがあると、少なくともギイブルにはそんな思惑があった。
「判ってはいますけど、当たり前のように扱えているのを目の前で見せられると―――
だがそう心に思っていても、やはり来る物はある。非常識さに呆れる反面、魔術を自分の手足の様に扱うノエルに対して羨ましいと思うところもある。寂しげな表情をウェンディは見せた。
「追いつこうと思うだけ無駄では?」
「ギイブル君は割り切ってるんだね。どうして?」
「ノエルさんは僕達とは魔術に対する認識が違うんですよ。追いつこうと考えるより、僕達の魔術をノエルさんに見せてアドバイスを貰った方がいくぶんかマシだと考えますよ」
一方で利己的に考えているのはギイブル。ノエルから可能な限り知識やら技術を得ようと貪欲に捉えているようだ。
「いいじゃねぇか。理由がなんであれ、アイツらにいちいち小突かれるのは我慢ならねぇんだ。それをノエルが抑えてくれているんだから、俺からすれば感謝しかねぇよ」
その輪にまた一人。声のする方を見ると、カッシュが清々しい表情で一組生徒を見据えていた。
「俺はあんな事言われたら真っ先にケンカを買うな」
「君は何も考えていないからね」
「好き勝手に言われるのは我慢ならねぇだろ」
「そうですわね」
「喧嘩はダメだよ?」
「俺は舐められるのがイヤなんだよ。魔術の扱いに長けている、それだけで偉い気になりやがって」
「お兄さんの財布掛ければいいんですか?」
「おいなにをかけようとしてやがるノエル」
すると、なにやら焦ったようなグレンの声が妙に澄んで聞こえた。
四人はそろってその方向を見ると、二人の真っ正面で向かい合っているハーレイが唐突に賭けの対象となったグレンの財布に疑問の表情を浮かべていた。
「は――?」
「いくら言ってもゴネるんですから、ここは賭けでもしてこの広場を占有しようかなぁって」
「おい
「失礼な。明け渡せとかいう人から
「――言わなきゃいいんだな?」
「ひろばはみんなのもの!」
「話を聞けぇ!」
――ノエルが一人で走って場が混沌としてきているような。で、グレンですら止められなくなってきているみたいで。
「ねぇ、なにあれ」
そんな騒ぎを聞きつけてか、システィが輪に入ってきた。グレンが騒いでいたからイヤでも耳に入って来たのだろう。そして揃い踏みで集まっている四人に話を聞きに来たか。
「ノエルが賭けとか言ってるだけだろ?」
「いや、掛けと言っているからお互いに差し出す物があるはず」
「――ノエルさんが掛けの対象を自身の懐からお出しになった事がありまして?」
『……』
ウェンディの疑念に否定できない一同。なんかこういう場合、餌食になるのは決まって
「――ノエルを止める、いいわね?」
「よろしいですわ」
「判ったよ」
「面倒くさいですね……」
「ノエルがいるんだからちょっかいは大丈夫だろ」
五人全員、同意を示す。判断は早かった。間違いなく面倒ごとを起こすだろうと短い付き合いの中でも直感がそう囁いていた。
先導をシスティが務め、他の四人は彼女の後を付いていく。
「あ、システィさん」
近づいたところでノエルが気付き、笑顔を彼女達に向けてきた。ノエルの行動に釣られてグレンとハーレイ、一組生徒の視線も同時に向いた。
「そこまでにしたらどうなの、ノエル。アンタが一人で走ってグレン先生すらも置いてけぼりにしているわよ?」
「だから無断で掛けるんじゃないですか」
「ダメだ話が通じないわ!?」
「落ち着いてくださいまし!?」
先鋒システィ。ノエルの正面突破により論破される。
次鋒カッシュ&ルミア。システィの様子に苦笑しながらもノエルを説得する。
「これ以上先生を困らせてもいいことはないぜ? な?」
「そうだよノエル君」
「えぇ〜、穏便に事が収まると思ったんですけど」
一体どの口が穏便を言っているのか。一回辞書を引いて来た方がいいかもしれない。もしかしたら
しかし、案外素直に聞き入れてくれたようで不満そうな態度は見せるが反論する様子は無い。ノエルはハーレイのことを一瞥すると。
「折角
『ヒィ』
あわよくば。そんな軽〜い感じで給料が掛けられそうになっていたハーレイの顔が蒼くなってる。一言間違っていたら給料が掛け金に化けていたんだぜ……?
一組全員が物理的に一歩下がり、二組グループは混乱組を除いてお手上げとばかりに深く嘆息して。
「――――こ、ここは引き上げるとしようではないか。行きますよ」
ハーレイは声を震わせながらも一組生徒を率いてそそくさと退散していく。蚊帳の外にいた筈の生徒は、畏怖のような恐れをなした視線をノエルに向けていた。多分「勝てない」と本能で察してしまったのだろう。もしくは関わったらヤバい。
彼に釣られるように次々と広場から退散する一組生徒。その途中でシスティは治り、一組生徒の背中が見えなくなるとグレンは脱力して深く息を吐いた。
「あ、危なかったっ……」
「そ、そこまでなのね……」
「ノエル君を止めに入って正解だったね……」
どれだけ切羽詰まっているのか、グレンの様子から否応無くシスティ達に悟られる。そんな中でもいつもの表情を崩さずにいるノエルにグレンは恨めしそうな視線を向ける。
そんな視線を察してか。
「お兄さんギャンブル好きじゃないですか〜」
「だから何をかけさせる気だったんだお前は!」
「臓器?」
そしてグレンを含む全員が、ノエルから距離を取った。
「なんですその反応」
「いや、普通だろ?――臓器なんて言われたら全員引くの判ってるだろ?」
「なんで冗談だって判らないんですか?」
誰もが真っ先に思いつきもしないだろうし口に出さないであろうに、そんな達の悪い冗談をごく普通に言わないでくれ。
「それはともかく、お互いの給料掛ければ良かったんじゃないです?」
「負けたら俺の生活費が吹っ飛ぶんだぞ!?」
「三ヶ月分」
「だからなんで掛けさせようとするんだお前ェ!?」
ノエルはどうしても兄の所有物で掛けさせたいようだ。あの何食わぬいつもの表情は悪意も他意も無い。純粋な目をしている。なんと傍迷惑な。
「えげつないわ……」
「ノエル君……」
「さすがですわ……」
「怖ぇ〜」
「こういう所は先生に似てますね」
三者三様とばかり、ノエルに様々な感情が篭った視線が贈呈される。
少し時間が空き、広場の一角で女子三人――――女子二人と性別不詳一人が集まっていた。しかし、肝心の性別不詳――もといノエルはなぜ此処に駆り出されているのか判っていないようで。
「なんで私なんですか?」
「いいから、いつも迷惑かけているルミアに付き合ってあげなさいよ」
不思議に思いながらも、前に立つ二人を交互に見つめていた。
真正面で何か期待しているようにワクワクしているルミアと、不慮の事態が発生したときに対処するためのバックアップ要員、システィが彼女の横に付いている。
「めいわく――……身に覚えがないですね」
システィがニコニコし始めた。
「大丈夫だよシスティ。私は迷惑って思っていないから」
「私が迷惑しているの!」
誰がノエルの被害もといご褒美を受けて、そしてそれを介抱するのはどこの誰なのか。そんなことで対策やらなにやら考えているだけ無駄じゃないか。加害者は思いっきり甘えているし、被害者はまるで妹に癒されるかのようにアテられて昇天するし。
「――もうなんなのよぉ……」
深く嘆息しながらも、システィは徒労に終わるような感覚を覚えた。
「じゃあノエル君、お願いします!」
「まかされました!」
肝心の当事者二人はもう既にその気になってるし。
私の手に負えない、もう好きにするといいと言わんばかりにシスティは首を振りながら、とぼとぼとその場を離れていった。
ノエルは脇に抱えていたファイルを手の上で開き、目を落とす。
「えっとルミアさんは――」
「精神防御だよ」
「――でしたね」
食い気味に割り込んできた。彼女の様子は見るからにソワソワしている。
あははといった笑みを見せながらノエルは顔を上げる。
「では、精神防御の内容は把握してますか? 概要だけでも言ってみてください」
「えっと――フィールドに立って、先生達から放たれる精神干渉の魔術を一人になるまで耐える……です」
「はい、その通りです!」
ルミアが代表として出場する競技〈精神防御〉は、制限時間無制限でフィールドに立っているのが最後の一人なるまで行われる、いわば耐久戦だ。
精神、いわば〈
「では聞きますけど、どう挑む予定ですか?」
「システィと話し合っていたんだけど、他の人達もやるように相対する魔術を発動させながら耐久するって方針だよ」
この競技で一位になる手段として言われているのが、精神防御の魔術を展開させること。
心を強く持つ、ということも耐久する以上防御魔術を通り抜け干渉されることがあるから、純粋な
至って脳筋な発想だが、突き詰めれば突き詰めるほど極めて有効な方法だ。
「ん〜、あんまり効率は良くないですね」
だが、ノエルの反応はイマイチ芳しくない。ルミアも苦笑してしまった。
「そんなザックリ言わなくても……」
「確かに有効ですし、いい方法なんですけど――」
と、ノエルは言い詰まる。なぜそこで詰まるのかルミアは判らない。
僅かな時間、ノエルは口を開く。
「私達は別の方向でやりましょう!」
「別の方向……?」
首を傾げる。別の方向――精神干渉に対する別の対策法なんて聞いたことが無かったからだ。
そんな疑問を仕草で表しても、ノエルは一人でに不敵な笑みを浮かべて。
「やり方は単純です――
「しんとう、めっきゃく……?」
聞いたことのない単語を口に出す。ルミアは思わず首を傾げる。
そんな彼女の心を悟ってか、ノエルは話を続ける。
「単純な意味は、心を無にするです。無我の境地ってやつですかね?」
「ノエル君が疑問を持ったらいけないんじゃ……?」
「とにかくっ! 心を無にすれば、どんな辛いことだって苦に感じなくなるって教えなんです。今回出場する競技にピッタシの言葉ですよ!」
確かにピッタリだ。〝耐え抜く〟という〈苦〉を、ことわざ通りに転じて〈無〉にできればこれほどまでに有効なものはない。
「簡単には言うけど、普通は心を無にしようなんて思わないよ? 他の皆がやる普通に耐える方法でいかないの?」
「それだと身体にかかる負担が大きいんですよ。常に魔術を全力で展開しなければいけなくなっちゃいますからね。他が〈技〉で来るなら、私達はそれに合わせて〈心〉の技術で勝負ですよ。同じ場所で立っている必要なんてありませんからね♪」
それに、全力を使わないからこそ多少なりの余裕を持つことができるかもしれない。
「雑念を取り払って、何も考えない。自分の存在を見つめて、それを確立する。簡単に言っちゃえばこういうことです」
自身満々な表情をして、ノエルはルミアの目を見つめる。
その目は、とても透き通っていた。
それはとても不意打ちの出来事で、ルミアの心臓は一瞬で跳ね上がった。
「ということでルミアさんには、耐えるだけじゃなくて精神干渉を受け流すことにも注力してもらいます」
「う、受け流す――精神干渉って受け流せるの?」
でも、それは一瞬の出来事。ノエルの方から視線を外してくれたためにルミアは落ち着きを取り戻し、話の中で
「受け流すために、〈
「た、たぶんって……」
しかし、ノエルの返事はとても曖昧。試した事はないのだろう。
「で、でも――間に合うの? あと一週間しかないんだよ?」
「ふっふっふ……」
また不敵な笑いを浮かべている。とて〜も、嫌な予感しかしないのを肌で感じる。
しかしそんな事はお構いない。
「とくべつめにゅーを作ってきました!」
万面の笑みを浮かべながら、ノエルは一枚の紙を差し出した。
ルミアは戸惑いながらもその紙を受け取り、書かれている文字を――。
「え……?」
「やりましょう、私もやりますから」
「え……?」
時間が経って全員が集合し、二人足りないと辺りを見渡した時、ノエルに背負われたルミアを見て二組の表情が引きつったとさ。
度々システィとウェンディが行動不能、時々グレンが流れ弾にさらされながらも時間はあっという間に進んだ。
2019.11.24[22,817]
Q:二ヶ月の理由
A:実際に執筆している時間は他と大体一緒。ただ書いていなかっただけ。
先の展開は?
-
予想できる
-
予想できない
-
もっと情報よこせ
-
予想するだけ無粋
-
予想不能がいい