記憶喪失の私は記憶喪失の養子になりました 作:TAKUMIN_T
飽き性は更に大変。
Wikipediaガン見しててヨカッタ――ッ‼
そんな箇所はいくつも。
で、10,000字や(虚ろ
002.01-01:ロクでなしの兄と完璧な〝妹〟 / 1
雲がほどほどにある晴天。時々影が覆いかぶさると、風がより涼しく感じられる。
街が賑わう天気であり、出会いの天気でもある。
どういう出会いでどういう人物かの保証は、神も一切しないが。
――もしかすると、運命の出会いかもしれない。
「うぉおおおおおお!? 遅刻、遅刻ぅううううううううううッ!?」
「……え?」
ノエルが気付いた時、もう遅かった。
「あ――」
彼は――飛んだ――――
店先に色とりどりな
喧騒に沸き立つメインストリートで、気紛れに注意を逸らししようとして――誰がなんと言おうと、10人中10人が美少女と答える人物、〈ノエル=アルフォネア〉に釘付けになる。ただ、服装は隣にいる青年――仕立てのいいホワイトシャツに黒いスラックスを着崩して気怠げにしている、ノエルが兄と慕う〈グレン=レーダス〉と同じ。俗に言われる〝ペアルック〟とか言うやつだが、傍目から感じ取れる二人の纏っている雰囲気は正反対だ。
しかし、同じ服でも着ている人物で向く注意がここまで変わるのか、そう思わざるを得ない。これが素材の差か。
「はぁ、気乗りしねぇ……」
「もぉ、お兄さん。とりあえず頑張ってみようよ」
周囲の評価は我関せず。ノエルの姿勢に反し、グレンは人目に敏感になっていた。
ノエルに向けられる様々な視線が主な理由だが、傍目から見てもノエルの兄ポジション、〝兄妹〟として受け止められているのが本人でも判っている。だから、
まあ、グレンの心配無しでも問題は無い。だから、守っている
「頑張りたくねぇーんだよ、ったく」
「あはは。どっちが保護者なんでしょうね?」
近所の娘さんに付きそうお兄さんの構図なのだが、実際はその立場が全く逆な訳で。その事実が知られたら、向けられている視線がどうなるか。
ブルッ――
「寒気がするな……」
「だったら、このチャンスを活かして、非常勤から上がりませんとねー」
「うへぇ――……」
人間社会の厳しい現実。一生懸命逃れてきたグレンに牙を剥いていた。
現在進行形で。
「あ、時間」
「は?」
ノエルから差し出される懐中時計を覗き込むグレン。
「もうちょっとで時間ですね」
秒針が4回動いた。
「――――
――――――――やべぇえええええええええ!!」
普通なら、少しだけ余裕はある。少しだけ。しかし今回は事情が違う。
グレンは事前に挨拶するため、学院に勤める職員達よりは早く学校に着かなければいけない。ノエルも理由は同じ、編入生――という名の新入生だ。
明らかに
だが、今、そんなのは些細な事。初日から遅刻とは洒落にならない。
「行くよ! お兄さん!」
「ちょ、置いてくなぁああ!!」
最初から気付いていたノエルは既に走り出している。現状に焦りながら、グレンはノエルを追いかけた。
で、結果は。
「――」
「「……」」
グレンは噴水に頭を突っ込んで犬神家。
水中で
あぁ、現実は非情なり。
「やりすぎたんじゃない……システィ……」
「そ、そうね……」
グレンに魔術を放った白銀髪の少女――どことなくネコっぽいから子猫としておこう。その子猫に、金髪の少女――金色繋がりで天使として、その天使がどことなくやってしまった、そんな顔をしている。
彼女らの服は、腹部丸出しにミニスカート。寒くないのか。どことなく制服っぽさはあるが、それよりも扇情的ではないか? 生きのいい少女の生(検閲されました
奇跡のバランスで水面から伸びていた二本足が子猫達側に倒れ、子猫達はビクッっと体を引きつかせる。
もしかして。次に続く単語が浮かぶ時だった。
「お兄さんが、すいません」
「「!?」」
不意に後ろから掛けられたその声にビクッとし、思い掛けず振り返った。
薄い水色の髪に薄い紫色の瞳。否応にも人の目を引きつける、美少女と言って過言の無い美人が、二人の視線に入った。
自分たちもなんだかんだちやほやされてはいるが、目の前のこの人に比べたら、霞むのではないか? そんな神秘性を、何故か感じてしまった。
二人の驚きに満ちた顔を全く意に介さず――というか、全く眼中にも入れずにグレンへ近寄り、噴水から突き出す足を何故かチョンチョンと突く。すると、片足がピクピク動いた。
――っがぶ――!
顔がメインストリートのタイルに
そんなことに構うこともせず、ノエルは何事も無かったと言わんばかりに、呑気にグレンの顔下に近付いて話し掛ける。
「お兄さ~ん、大丈夫ですか~」
「……ノエルよ。心配の言葉掛けるのなら、足を突かないでくれませんかね」
恨めしげな顔を向けるグレン。確認せずに直ぐに水から揚げればよかったのでは、声に出さずとも顔が語っていた。
「お、お兄……さん?」
「え、兄――?」
その語らいの後ろでは、驚愕としか言えない事実に声が詰まる。こんな兄から視線を独り占めする妹が続くのは、一体どういうマジックを使えば生まれるのか。
ノエルの後ろに居る子猫達をグレンは見る。彼の目が怪しく輝いた――
「心配掛けてすいません」
――前に、ノエルが先に話しかけた。天使が「えっとその」と言葉を詰まらせながら。
「あ、あの、大丈夫だったんですか」
「大丈夫ですよ。これぐらいでお兄さんは気絶しませんから」
「「え」」
「ちょっと待てノエルぅ!」
信頼と受け取っていいのか判らない返答に、子猫達は思わず声が漏れる。グレンは納得いってない。こちらも思わず声を上げた。すっかり水を吸った服を憎しに満ちた目で睨み、嘆息をつく。
「――道を急に出てくるのは気をつけたほうがいいぞ?」
「――貴方が飛び出して来たんじゃ……?」
事実、子猫は間違ったことを言っていない。だが、その言いように、隣の天使は頬を膨らませた。
「だめだよ、システィ! いきなりだったとは言え、人に魔術を撃っちゃったんだから――もしかしたら怪我してたかもしれないんだよ?」
「う――ご、ごめんなさい」
魔術は行使するモノにもよるが、今回の場合、もし噴水ではなく花崗岩の床に顔面から落ちたら、打撲、最悪首の骨を折って首から下が不随になっていた可能性もある。
そもそも彼女達は、人に向けて魔術を撃つことを危険と習っている。
その事が過り、子猫はバツ悪そうに目を伏せる。
「ったく――いきなり飛ばすとは、どんな教育受けてるんだ?」
「お兄さんがそれ言うんですね?」
「ちょ――!?」
擦れているグレンの小言に隣から入る横槍、身内からの反逆。間髪開けず、次も来る。
「お兄さんはいろいろと――あれじゃないですか」
「なにその間は」
信頼はされているのか。されているのだろうが、
「ん?」
それでも、グレンは何かに興味を持つ。視線は天使に向いていた。
立ち上がって天使に近づき、顔を見る。
右、左、腰つき、スカートを少しだけたくし上げて太もも、背中、胸、お腹。
全身を撫で回すように見てから、前髪を上げ。
「――アンタ、どこかで――」
隣の子猫が我慢ならないようだ。
「アンタぁあああああああああああ!!!?」
「ズギャアアアアアアアアアアアアアアアアア――!!?」
グレン、再び空を飛ぶ。水で満たされた
「お兄さん、また空飛びましたね」
「え、え?」
冷静なノエル。早々な場面転換に置いて行かれる天使。
ゴミ箱に頭から突っ込んだネコの如く、グレンは水面へチップインバーディーを決め――
再び水気を帯びた頭が水面から出る。
「何しやがる!?」
「女の子の身体を撫で回すように見るなんてッ――最ッ低ぃ!」
「撫で回す!? 単に学者の端くれとして、この純粋な好奇心と研究心を発揮してだな!? 悪意はいっさぁ「なお悪いわぁああ!!!!」
「グボォ――!?」(グボォ――!?)(グボォ――!?)
ちょうどいい角度。ちょうどいい速度。ちょうどいい場所。
腹を抱えて悶絶するグレン。しばらく復帰はできないだろう。
静かに右手を引いて、汚れをはたき落とすように手をパンパンと鳴らし、何事も無かったかのように天使に振り返る。
「ルミア、警察署に連絡して。この男を突き出すわよ」
「――――!!!!」
「おぉ、いいストレートですね」
「え、えぇ? え??」
一人お門違いな事を言ってるノエルに、その言動を理解できない天使――というより、場面に着いて行けてない。
ノエルは再びグレンに近づく。
「演技はやめて立ってくださ~い」
「いうなよ!?――っ」
強烈なボディブローを貰ったのだが、まだピンピンしている。とはいえ、顔には汗が滲んでいる。ダメージは相当なようだ。
「ほらお兄さん、警察に突き出されたくなかったら早くいきましょう?」
「ちょっとノエルさんどういうことですか!?」
「お母さんに代わってお仕置きされたって考えればスッキリしますよ?」
「納得できねぇよ!?」
「じゃあ時間無いんですから、行きますよ。お兄さん」
「いやあの、この私めにどうか自由を行使する権利を……」
捨てられそうな
哀れなる目を見て、ノエルはにっこり微笑んで。
「働いてから言ってください♪」
「いやぁああああああああああああ!!」
哀れ? いいえ、自業自得です。
ビューン――――
何とも形容することができず、目から光るものを輝かせながらグレンは走り去った――。
「おぉー、早い」
「……ねえ、アンタは追いかけなくていいの――?
ノエルは遠くを見渡すように、手で目元に日陰を作っていた。子猫は呆れて物も言えない。兄と呼んでいたのに、自分が警察に連絡しようとしても静観していたのだ。
「いえいえ、これから追いかけますよ」
クスクス笑いながら、グレンを追いかけようすると、振り返って。
「お騒がせしました、では~~」
向きを戻し、グレンが走り去った方にノエルも走り出した。
「……なんだったのかしら」
「……すごく、変わった人たちだったね――」
嵐は去った――。怒涛とも言える展開に、朝から疲れた子猫と、どこかポカンとしている天使。
「――」
後ろ姿を見ていたが、子猫にその手を掴まれた。
「あ? まだ時間大丈夫――」
「進めときました♪」
「……」
▷▷▷
古めかしい窓が続く。素人目から見ても、古い時代のモノだというのは一目瞭然だ。
そんなアンティーク調(ノエル談)の廊下を進む、兄妹2人。そこでノエルが、唐突に話を始める。
「お兄さん、なんで天使さんを撫で回していたんですか?」
「言い方ぁ!!」
誤解を招きかねない言い回し。少し間が悪そうにグレンは頭を掻いた。
「――どっかで見たことがあった気がしてな。それでつい」
「セクハラしちゃったんですね」
「だから言い方ァ!」
一般的に見れば、腹部丸出しの扇情的な制服を来た清純そうな天使さん(ノエル談)を隅々まで見ていた――撫で回すように見ていたとなれば、それはセクハラと受け捉えられなくても可笑しくもない。
なら。
「それならm私を見ればいいじゃないですか」
ビクッと、グレンが反応する。
「――いいんすか」
「お母さんを相手取れるならやってもいいですよ?」
「いやです!」
――そう言えば、ノエルが浴場で乱入した時、セリカは頷いていたか……?
「もう、お兄さんは意気地なしですね」
「セリカを相手
「私から襲ってしまえばいいんです」
「ごめんなさい舐めてました」
恐ろしい子、グレンのノエルに対する評価に一つ加えられた。
〈アルザーノ帝国魔術学院〉
アルザーノ帝国で魔術を志す者でその名を知らぬ者無し。時のアルザーノ帝国王女、アリシア三世によって設立された、国営の魔術師育成専門学校。
アルザーノ帝国が〈魔導大国〉として名を知らしめるその基盤を創り上げた、最先端の魔術を学べる最高峰の場所、同帝国で高名な魔術師の殆どが同学院の卒業生――。
周辺諸国にもその名を知られる、とっても有名な学院。
そしてここを出た者には、帝国の礎となり、確固たる地位と栄光を与えてくれる。
さて、肩苦しいのはここまでにして――。
そんな人一倍の憧れを持たれる由緒正しき学院であって、常人が入る余地は無いのだ――
「久しぶりです、リックさん」
「ふむ。久しいの、ノエル君」
「まだ
「……わしのこと、嫌いなのかね?」
「――慣れてください、学院長様」
「そうか……」
……余地は無いのだ――ッ‼(震え声
「ところで、今日はそっちなのじゃな。どうじゃ、わしに――」
「お母さんに
「――――おっほっほ、そんな気はないぞ?」
「――あのさぁ、俺。学院のトップがこんなだと思いたくないんだが?」
初手セクハラ紛い。グレンの顔が苦くなるのも頷ける。
学院長のご老人はちゃんとしている。ちゃんと
「ふふふふふ、ワシは正直なのだよ?」
「今すぐ乗り込まれるぞ、じいさん……」
「お兄さんになら乗ってもいいですよ?」
「――――」
「――代わってくれんか?」
「俺がじいさんの玉を潰さなきゃいけなくなるが?」
「ふははは!! そうかね!」
〈リック=ウォーケン〉。
アルザーノ帝国魔術学院〝学院長〟という、名誉ある肩書を持つ初老の男性だ。
どこにでもいる気前のいいお爺さんといったところだが、少々年の割に
「あ、これは通報案件ですね」
「やめてぇえ! セリカ君に連絡するのはやめてぇえ!」
「爺さん、あんた――」
怖いもの知らず――というより、自分に正直というべきか。羨望――より呆れているグレン。ここまで正直になれるのか。
空気を変えようと、咳払いを一つ。
「――とと、話がそれてしまったの」
「あ、はい」
なんというか、威厳はどっかに捨てられていた。グレンが気の抜けた表情をしている。
「
「まあそうなんですけど――学校に行ったことないので、行ける時に学生をやりたいなぁって」
「なるほど。若いっていいのぅ――」
ノエルは記憶喪失だ。詳しい年齢は判っておらず、推定ではあるが、それも幼い頃にセリカに保護されている。もしからしたら記憶喪失になる前に学校に行っていたのかもしれないが、今のノエルからすれば、初めてということに変わりはない。ずっとアルフォネア宅で過ごしていた。また、その
何処かで聞いた情報、その光景を目にしていたか。友達を作り、純粋に物事に打ち込んで楽しめる環境というのに憧れがあったのかもしれない。
純粋な想いを見せるノエルに、等に過ぎた自分自身の若かりし頃に思いを馳せるリック。
「あと、お兄さんの保護者として」
「言わないでくれよ……」
「はっはっは!! 保護者!!」
この場のグレンの肩身が狭い。兄と慕われているのに、妹に保護者と言われるこのやるせなさ。これを笑わずにどこを笑えと。
リックが軽く咳払いをし、場を整える。
「すまんな。グレン=レーダス君。君のことはセリカ君から聞いておるよ。既に知っとると思うが、この学院の
「はい……」
「勿論、給料は出す。働き次第では正式な講師に上げてもらえるように、セリカ君から頼まれている」
「え゛」
「そうなんですか?」
非常勤講師から正式な講師。ノエルはグレンにこのチャンスを掴んでほしいと思っていたが、まさかセリカから話がされていたとは思っていなかった。グレンも同様だ。
反応に、リックが少しばかり微笑む。
「うちの愚息を宜しく頼むと、頭を下げられてしまったよ。ついでに言ってしまえば、君をこの非常勤講師の枠に入れるもの大変だったわい」
「……マジか」
彼女の本気度に、グレンも驚くばかりだ。
ただしかし。ノエルに限ってはその反応が違う。
「お母さんも不器用ですよねぇ。素直に大好きとか言えばいいのに」
「はっはっは! 義母であっても、ノエル君は手厳しいな」
グレンはバツが悪そうに目を逸らす。
「お母さんはツンデレじゃないですか。男勝りでそういう表情を出さないだけで」
「セリカに言ってみろよノエル。顔真っ赤にするぞ?」
「それもそうですね」
「あのセリカ君が真っ赤――想像できんな」
リックが笑い出す。釣られて兄妹も笑う。グレンは堪えようと、なんとか想像を振り払う。
「ところでですね、学院長」
「なんだね?」
「どこでノエルと会ってたんすか?」
「あぁ。昔に、セリカ君がここに連れてきたことがあるんじゃよ。社会に触れさせる、とか言ってな」
「ほぇ~いつの間に」
時折、セリカがノエルと共に外出することは勿論あった。だが、いつのタイミングか数えているわけではない。この情報は、グレンは初耳だった。
「あとグレン君。ノエル君の魔術の事は、ワシもセリカ君から聞いておる」
その事を聞き、グレンは目を細めた。ノエルに視線を向けると首を振って肯定していた。
「その特異性も知っとるし、ノエル君の魔法も密かに聞かされた。ここではワシ以外には知らない。
「……分かったぜ、学院長様」
グレンは不敵な笑みを浮かべ、手を差し出す。リックはその手を見て、握り返した。
「俺は俺のやり方でやらせてもらう――文句は言わないでくれよ」
「言わんよ。君はここを事実上の退学とはなっておるが、あのセリカ君が寄越してくれたんだ。サボってもいいから、ノエル君と共に生徒を見定めてほしい」
「見定める――、ッ!サボっていいの!?」
「ワシが言ったんだ。勿論だとも」
堂々のサボり許可。怠惰に身を許すグレンが飛びつかない訳がない。勝ち誇ったようなポーズで右手を突き上げる。
「これは
「お兄さん。性格的にできますか?」
……
「――ノエルがいれば大丈夫だろ(震え声」
「その
無駄に熱い心を常日頃纏う雰囲気に似合わず秘めているグレン。ノエルはニコニコと、これからの兄の講師姿に想像を膨らませていた。
その光景を微笑ましいものを見るように、リックは息を軽く吐いた。
「君達が行く教室は〈2年次生2組〉だ。頑張ってな」
「は~い」
ノエルが気長に挨拶し、グレンの手を引いて学院長の部屋を出る。
「お兄さん、サボるんですか?」
「あぁ、思いっきりサボらせてもらうつもりだ」
「無理じゃないですか?」
「――お前が言うと洒落にならないからやめてほしいんだよ」
→00:13:12
「遅い!」
2年次生2組。
正面の黒板に、段々となってる木製の長机と座席――わかりやすく例えるならば、大学の講義場所と言うべきか。
その最前列、白銀の
ノエルが子猫と仮定していた彼女――〈システィーナ=フィーベル〉は時計を睨みつけていた。
「もうとっくに授業開始時間過ぎてるじゃない!」
「確かにちょっと変だよね……何かあったのかな?」
隣に腰掛ける天使(ノエル談)――〈ルミア=ティンジェル〉も首を傾げる。
周囲の同クラスの学友達も、臨時講師の遅刻にざわざわと声が出始めていた。
――ヒューイ=ロスターム先生の後任を務める非常勤講師と、編入生がやってくる。
前日にこのお触れが出て、期待半分不安半分の生徒達。講師には不安の割合が大きくなっていき、編入生にはある程度の興味があった。どんな人物なのか、そのことは一切、顕になっていない。
このお触れを出した本人、リック学院長も。
『近所付き合いのある筋からのヘルプじゃ。信用できるが――理由がのぉ』
――そういえば、すっげぇ曖昧なこと言ってたな。信用できんな。そんな烙印を押されかねない。
授業開始時間から、およそ20分。
ガラッ――
「あ~
とても軽い雰囲気で扉を開けたその男は、一人を見て固まった。
「やっと来たわね! 貴方、一体どういうことなの!? 授業開始時間を過ぎてから来るなんて」
「あ――」
感情任せに言葉を連ねるシスティ、入ってきた男が見えていない。ルミアは喉から声が漏れた。
「この学院の講師としての自覚は――ぁ――」
男の外見で声が尻すぼみ、顔を見て、自分の顔がひきつった。
服は乾いてはいるが、擦り傷と汚れがある。間違いなくシスティが付けた跡だ。
背格好は? 間違いなくルミアにセクハラ紛いをやった変態。あの時と違うのは、兄と慕っていた少女がいないこと。
「あ、あああああ貴方はぁああああーー!?」
「違います。人違いです」
「おぉ~」
システィが男に、震えながらも指刺した瞬間だ。呑気な声が聞こえた。
「あの時の子猫さんと天使さんじゃないですか」
「誰が子猫、ょ――――」
掛けられた声に、視線の先。男の後ろに居る少女に目が止まった。
生徒達も気付いた。
あのズボラな男の後ろから、それこそ清純で、女神の如く微笑んでいる少女を。――何故、
「ほら、いきますよ」
「わーったよ急かすな」
しかも、妙に仲がいい。教卓まで背中を押されて、正面を向くと、男は席を怠そうに一瞥した。
「えー、グレン=レーダスです。本日から一ヶ月という短い期間ですが、生徒諸君の勉学の手助けをするつもりです。短いですが――」
「挨拶はいいから、早く授業を始めてくれませんか?」
実際、授業開始時間はとっくに過ぎている。魔術を勉学できる貴重な時間を刻一刻過ぎていく生徒から見れば、さっさと始めてほしいのは本心。
「――その前に、編入生を紹介しまーす」
の前に、一つ重要なこと。編入生だ。グレンは背後に居る少女を横に据えた。
「ほら、ノエル」
ノエルと呼ばれた
「えっと――編入生のノエル=
『『『アルフォネア!?』』』「「お兄さん!?」」
丁寧に頭を下げていると、ノエルの名字とグレンに対する呼び方に反応した2組一同。グレンはまあこうなるなと嘆息する。
「お兄さんって慕っているだけなので、そこまで食いつかれても困ります」
少数に反応するノエル。変わらずマイペースだが、最前列のシスティが身を乗り出していた。
「いや、アルフォネアって、貴方――アルフォネア教授の娘なの!?」
「子猫さんのいう〈アルフォネア教授〉が、セリカ=アルフォネアという人なら、私はその人の養子です」
ノエルの発言にクラスは唖然とする。あのアルフォネア教授に養子とはいえ子供がいたとは思っていなかったからだ。
収まらない興奮に水を差すようにグレンが一言。
「ノエルには妹として接してくれれば、主に俺が助かる」
「ところで、どこに座ればいいんですかね」
ただまあ、二人とも唯我独尊とばかり自由だ。
「あー、どっか適当なところでいいんじゃねーか?」
「でも、あんまり空いてませんよね」
ノエルは座席をキョロキョロと見渡す。しかし、どこも一人入れるスペースは無い。
「私の隣はどうですか?」
すると、手を上げたのはルミア。システィの自分の間にノエルを招こうという事らしい。出会いもアレではあったが、面識は一応ある。
「――あぁ、なるほど」
だが、グレンはなにか察したような顔をした。軽く笑ってしまいそうな表情をしている。
「ノエル、役得か?」
「お兄さんはそうなるんじゃないですか?」
「俺に返すなよ」
「どういうことです? 男子の制服を着ていることも関係あるんですか?」
兄妹のやり取りに疑問を持ったシスティはグレンを訝しげに見た。
「私、一言も女の子ですとは言ってませんよ?」
「「――ぇ?」」
子猫と天使、ノエルの身体を注視する。男子がつばを飲み込む音が聞こえる。女子は何か恐ろしいモノを見てしまったと言わんばかりの表情を。――主にマスコットとして。
「――まぁ、こうなるな」
判ってたとばかり、グレンは一人で頷いていた。
数人の視線がグレンに向く。
「俺は、妹
として。
性別に言及しているわけではない。仮に
この男も、一言も〝女の子です〟とは
「ま、まさか――っ」
「えへ♪」
見た目は少女にしか見えない。というか仕草と言動と声質も体型も胸以外は美少女以外の何者でもない。男子制服を着ているのがコスプレだと思ってしまう程だ。
「その
殆どの生徒の憶測に、グレンは肯定した――してしまった。
これが、伝説の。
男なのに、どっからどう見ても美少女にしか見えないという、伝説の。
それが今、目の前に居るではないか。
こ、これがっ――〝
ガタッ――!
「ま、負けた――? わ、わたくしが――?」
「ぅ、ウェンディ――?」
何かに打ちひしがれているツインテール。隣で彼女を変なものを見るような目をする紫色。
一部の男子諸君の勇者がガッツポーズを決め込んでいる。対し一部も寝込んでいる。残酷な現実に打ちひしがれているか、美少女にしか見えない男子で、
その事実にシスティは慌てた。
「いやどうみても女の子にしか見えませんよっ――!?」
「うん、わかるわ」
(あ、わかるんだ――)
もう慣れた、よりは諦めが顔に出ているグレン。クラスから評価で初めて、生徒達の心の声が一致した。あれを男子と見るのはいくらなんでも無理がある。――全裸だったら日の目を見るより明らか。ほら、ぬ(検閲されました
その
「
「あ、うん。い、いいわよ――?」
「ありがとうです~」
システィの背後を通って、ルミアとの間にちょこんと座るノエル。
そしてシスティは、その様子を横目で見てしまった。
ぽわーっと、煌めいている。俗に言う、〝癒やしオーラ〟が可視化していた。
どうみても妹とかにしか見えない――ッ!
「ふぅ~! ふぅ~!」
「?」
「シ、システィ――?」
小動物系
それを尻目に、グレンは何をしようかと、肘を机に付いて乗りかかっている。
「授業か、めんどくせぇ――」
頭を掻いて――何かを思いついたようにチョークを持った。
自習。
「自習にしまぁあぁす――」
「早速サボるんですね」
グレンはあくびをし眠そうに。ノエルは一人で納得する。そして、10秒立たない内に教卓からいびきが響いてきた。
――――ぐぅ~――――ぐぅ~
「ちょぉっと待てえええええ――――!!??」
セリカとグレンの性格は軟化してます。
ノエルが癒やし成分だったとしてください。
09/18
「01ブラッシュアップ」の一環。
07/08
報告にあった誤字修正。
2019.06/15
投稿(飽き性で後ろがテキトーに
17:55
誤字脱字の修正。ブラッシュアップ