記憶喪失の私は記憶喪失の養子になりました   作:TAKUMIN_T

3 / 13
じわじわUA数増えてんの。
ハイスクDDで最強で男の娘で転生で東方とか見てた。びっくり。

作成方針:
思いっきり笑えるものではなく、のんびりと観れる事。
現実的で非日常的。


003.01-02:ロクでなしの兄と完璧な〝妹〟 / 2

 

 

 

「どうかお考え直してください、学院長!」

 

 

 

 

 アルザーノ帝国魔術学院、学院長室。生徒には縁の遠いブラックボックスな扉の内側だが、中からは男の怒声が響いていた。せっかくだから俺はこの赤の扉を選ぶぜ(嘘

 

 プンプン――いやそんな可愛くないか。取り敢えず、何かに激怒している2年次生1組担当〈ハーレイ=アストレイ〉。

「私は、あのグレン=レーダスという名も知れぬ男に、非常勤とは言えこの学院職を任せるのは断じて反対です!」

「ふむ、そう思うかの」

 バンッ――机を両手で叩いて必死に訴えているが、リックは意に介すことなく本のページを捲り、何かを見つけたのか目を光らせた。その様子に、ハーレイがイライラ。

「学院長! 聞いていますか!」

「いや?」

「~~~~!!」

 学院長にあるまじき態度。イライラでハーレイがハー()イになってしまう。あぁ、後頭部の残念具合が以下略。

「あの男は、ここを事実上の退学に成っているんですよ!? 魔術適正の結果も散々たる結果!! しかも魔術師としての位階(いかい)はたかが第三階梯(トレデ)!」

「知っとるが? 教員免許は持っておるから問題はないぞ?」

「そういうことじゃありません! 募集要項に明文化などされてなくても経歴や位階による制限は魔術学院(ここ)では暗黙の掟でしょう!」

 この学院には――ではない。魔術師にとって、位階は優劣を示す絶対的なステータス。そのことを重視しているハーレイのような者にとって、学院生でも努力によっては届きうる第三階梯(トレデ)のグレンが教壇に立つことが許せないのだ。

「そもそも、ハーレイ君の言っていることが今のワシからすれば愚問でしかないからの」

「――リック学院長!! なぜ奴を信頼しているのですかッ!!」

「セリカ君が推薦してくれたし、グレン君の弟にまかせているからの。ワシは特に心配はしておらんよ」

「セリカ!? あの魔女の推薦!?――奴の弟……――――は?」

 はて、弟? グレン=レーダスの弟。グレン=レーダスに弟などいなかったはず。だが、共に学院に来た者は妹――。

「……学院長? 弟とは誰のことですか?」

「セリカ君の養子のノエル=アルフォネアじゃよ?」

 ハーレイの思考が一瞬止まった。姿を見はしたが、アレは――。

「――学院長。あのセリカ=アルフォネアの養子は女なのでは?」

「誰もがそう言う。ワシもそうじゃった」

 何かの琴線(きんせん)に触れたか、昔の出来事を思い起こす学院長。アレはいい思い出ですと、昔にバカやった人が笑いながら思い出すかのような顔してる。

「あの子は、男の子じゃ」

「――ん?」

 とうとうボケたか――リック=ウォーケン――。哀れな。

 心に留めておきながら、(おもて)では動揺したように見せる。

「――は、はは――っ。学院長、とうとうおかしくなりましたか?」

「――(おとこ)(むすめ)と書いて〝男の娘(おとこのこ)〟というのが若い者にはあるんじゃよ?」

 ハーレイの動きが止まった。なんだそのふざけたもの。

「ノエル君が女の子にしか見えないのは当たり前。男の子なのは覆しようのない事実じゃ」

「な、なにをおっしゃいますか、アレは――」

 思考が混乱してきたハーレイ。絞り出した言葉で受け流すが、リックの顔は至って真剣。何故とも思いたい程に真剣。

 

 

「確かめる手段は、ノエル君の身体を触ることじゃぞ」

 

 

 堂々たるセクハラ発言。ハーレイは一歩身を引いた。

「――昔、抱きつかれての……やられてしまったわい」

 懐かしい思い出、幼い頃のノエルの記憶に、リックは孫をあやすような柔らかい表情になる。そんな顔をする彼にハーレイは眉を細めるばかりだ。

 回想から現実に視点を戻し、リックはハーレイに目を合わせると。

「そもそも、お主がノエル君に手を出せるとおもうかの?」

「――何をおっしゃいますか。たかが生徒、魔女の子供であっても養子ですよ? 私に勝てるどおりはないじゃないですか」

「――そういうことじゃないんじゃよ、リック君」

 齟齬が生じている。リックは学長室の扉を見ると、子をあやすような声色(こわいろ)で口を開いた。

 

 

 

 

「――学生からの反発がどのくらいになるかの? 今頃2組では、みんなの妹となっておるじゃろ」

 

 

 

 

 =食堂

 

 

 パン3つにコーンスープ、そしてサラダ。昼飯にしては量が少なくはないのかと思うが、そのテーブルに集まっている3人とも同メニュー。指摘は野暮か。

 パンをコーンスープに浸し、柔らかくなったところを口が迎え入れる。

 

「――はむっ」

 

 ――ハムスターかな。擬音がそのまま声に聞こえた。というか、浸した箇所ではなく逆の頂点を齧る。何故。

「あ、間違えた」

「あぁ~~~~~!! ぷにぷにしてるぅ~!!」

「ルミア、突いてどうするのよ……」

 隣に座るノエルの頬を突くと、指が押し返される。ルミアはその感覚がたまらない。システィは対面にテーブルを挟んで座り、ルミアの様子に苦笑するのみだ。そのノエルは嫌がることもなく、されるがままにルミアに身を寄せていた。

 他クラスからもその様子は知られ、突かれているノエルに関する情報が集められる。美少女なのかと噂頼りに話を聞くと、まさかの男だと言う。天然の男の娘であるということに目を開かせる生徒が殆ど。で、ごく一部の女子が暴走気味(発狂、狙撃対象)になったり、2組新任講師からは妹扱いされていたり、アルフォネア教授の養子であったりと、一つ一つが新鮮なニュースに、ノエルに対し興味が向けられていた。

 

 で。

 

「くすぐったいですよ~」

 学院内で〝天使〟と称されるルミア=ティンジェルと行動を共にし、その彼女が緩んだ顔で、これまた美少女にしか見えないノエルの頬をぷにぷにしているではないか。まるで赤ん坊を可愛がるかのようだ。

 ――新たなマスコットの誕生に時間はかからなかった。

「あふぅ~、かわいいよぉ~システィ~‼」

 ――ポフ

「――もふ?」

「ルミア!?」

 ルミア、ノエルを胸元に抱き寄せる。ノエルの顔がちょうど胸元にポフっと収まっている。システィの顔が真っ赤に染まる。あぁ、お胸がクッションに――システィ、羨ましげ、憎しげな顔をする。

 3人に視線を向けていた生徒も、不意の行動にアクション(口に含んでいるもの)を吹き出す。

「離しなさいよルミア!」

「えっ、わっ、わわわわわわ!」

 茹だったシスティの慌てる姿に、衝動的に動いたルミアが茹だっていく。ギューされたノエルは深呼吸し、空気を取り込む。

「お母さんからいつもやられてるんで――なれちゃいました」

「アルフォネア教授……」

 システィのセリカに対する大人な女性のイメージが崩れ始めた。

 ノエルがリラクゼーション目的?に鼻呼吸すると。

()()()()でしたね」

『『『「ぶっ」』』』

 システィ以外からも音がした。

「の、ノエル君――!」

 悪意無き素直な感想にどうしていいか分からず、ルミアも顔を真っ赤にする。

「?」

「はぅ――っ!」

 首をこてんと倒すノエルに、ルミアはまたハートを撃ち抜かれる。

「ふぅ~!!! ふぅ~~~~!!!!」

 続きシスティ、轟沈。

 

「メーデー、メーデー……高位魔術の直撃を食らいました――ガクッ」

「死ぬな! まだ致命傷で済んでいる! 何としてもあの光景を目に焼き付けるのだ――ッ!!!!」

 

「あの子――()()()()

「な、何言ってるの――?」

 

「わ、我々の天使が――ッ!」

「違うッ! 天使が二人に増えたのだ!」

「「「それだッ!!!」」」

 

 アーノルドアルザーノに、新たな風が舞い込んでいる――。

 

 新たな(せいへき)を開けるのも近いかもしれない――

 

 

 

 

 ▷▷▷

 

 

 ←04:02:00

 

 

「あはは……」

 黒板にデカデカと書かれた〝自習〟の文字。その前に居る教卓に乗りかかっていびきをする新任講師、グレン。その態度に怪訝な顔をするシスティ他生徒御一行、判らんでもない。

 早速の嬉しくない有言実行に、ノエルは仕方ないなぁと笑う。ルミアはグレンを一瞥すると。

「お、起こさないの?」

「いいですよ、あのままで」

「えっ」

「……アンタ、やっぱり可笑しいわよね」

 彼を見て、システィはやっぱり良くわからないと感じていた。

 ノエルはシスティとルミアを交互に見ると。

「ところで、なにやります?」

 的を得ない曖昧なことを言った。

「な、なにって?」

「何する気なのよ」

「ないんですね?」

 システィとルミアは目を合わせた。ノエルに向き直ると、疑問を持ちながら頷いた。

 

「なら、ちょっとおもしろいことやりません?」

 

「面白いこと……?」

 嫌な予感しかしないのは気のせいか。

 すると、まだ把握していないシスティの後ろを通り廊下に出ていった。生徒もノエルの突然の行動に疑問を持つ。

 数分後。帰ってくると、手中にはガラス棒が入った箱を抱えていた。

「ノエル君、何やるの?」

「まあまあ、皆さん前に来ませんか?」

 ルミアの問に、手招きを返す。教師が責任を放棄しているからまあいいか、そんなで全員が前に集まった。

 システィはガラス棒を突いて、なにこれとしている。

「で、何やるのよ」

「ちょっとおもしろいことです」

 (グレン)が熟睡する教卓に箱を置くと、グレンの脇を抱え、教室の端に引きずった。ノエルは埃を被った荷物を運んだかのように、手をパンパンと(はた)いている

『『『……』』』

 『お兄さん♪』と慕っている青年の扱いに、なんとも言えぬ上下関係を生徒達は察してしまった。

 その視線を御構い無しに、箱の前で手を迷わせ。

「これがいいかなぁ~」

 一本の棒を取ると、システィに「これ持ってください」と渡す。ビーカーで何かを溶かす際に混ぜる為のモノと同じようなガラス棒。持ってみても、何の変哲もない。冷たいし、通してみる光景は屈折している。

 だが、ノエルは万人から好かれそうな微笑みを崩さない。

「この棒を、下から紙を舞い上げるように振り上げてください」

「え? こう――」

 言われた通り、システィはガラス棒を掴んで、何気無しに振り上げた。

 

 

 システィの髪が吹き上がる。。

 

 

「――え」

 

「「「!?」」」

 システィは目を見開く。その様子を見ていた学友達も驚きに満ちている。

 呪文なんて唱えていない。それなのに風が吹いた。

 

 ――スカートがめくれるほどではないと……なるほど

「どうです? おもしろいですか?」

 

 何やら小声がノエルから聞こえた気がするが――ノエルのウキウキとした声。分かっていたのだ。こんな反応をするということを。

 ノエルは適当なガラス棒を一つ手に摘み上げる。

「このガラス棒は、元々は何の変哲もないガラス棒です。子猫さんもそれを持ったとき、何も疑問に思わないでそれを振り上げましたよね」

「そ、そうね――」

 手の中にあるガラス棒は、確かにただのガラス棒。円柱で両先が丸くなっている。向こう側に見える景色が屈折で変わっている。

 見た目を観察しても、システィにはそれ以上に何も判らないし、魔術的なモノも感知することができない。

 

「じゃあ、なんで風が吹いたと思います?」

 

 何気なくガラス棒振ったら風が吹いた。集まった生徒は仮説を立てる。

「――ガラス棒に仕掛けがあるとしか思えませんね」

 あるインテリメガネ君(ノエル命名)が呟く。

 ただのガラス棒であっても、詠唱者がいれば、ガラス棒から魔術が出たと勘違いできる。

 

 

「その通りです。ガラス棒に仕掛けがあると思うのは簡単ですよね。

 

 

 ――なんで、風が吹いたんでしょう?」

 

 

 詠唱者。

 ノエルは口を動かしていない。システィはただ振り上げただけ。生徒は何も聞かされていない、ノエルに協力することもできない。

 生徒は何も答えられない。仕掛けがあるのは確かなのだが、その仕掛けが判らない。

 

「――それも魔術、なんですか?」

 

 もしかして。直感でルミアが訊いた。

 

「半分当たりです」

 

 またも要領を得ない語り。魔術でなかったら、一体何だと言う。

「そもそもこのガラス棒はお母さんと錬金術で作ったモノで、普通のガラスの精製とは違います。それでも普通のガラス棒であることには変わりません」

 あのセリカ=アルフォネアと一緒に作っていた。その事実に生徒達の顔が引きつる。一体何を作っているんだと。

 

「一つだけ違うのは、()()()()()()()()()()()()()()()というところです」

 

 だが、予想を遥かに越えるのがマイペース。生徒の理解が追い付かない。

 

「そして、このガラス棒に魔術を発動させる回路(サーキット)()()()()()()。そうすると、子猫さんが使ったような風が起きるガラス棒に変わります」

「書き込む――!?」

 

 誰かが叫ぶ。単体で、無詠唱で発動する魔導具など聞いたことなかった。

「じゅ、呪文の詠唱は――!?」

「子猫さんが実践した通りです。振り上げる動作がスイッチになって、そよ風を起こす魔術を起動させたんです」

「誰が子猫だってのよ!」

 白猫(システィ)が喚く。が、それよりも意識がノエルに集中していた。

「そのガラス棒に書き込める密度に合わせて、書き込む魔術によって難易度は変わりますけど、お母さんは法医呪文(ヒーラー・スペル)を書き込んでましたね」

 システィとルミア――否、ノエル以外のクラスの全員が目を見開いた。こんな棒に法医呪文(ヒーラー・スペル)を書き込んでいたとなれば、その他は何が入る。簡単な魔術は書き込めるかもしれない。それこそ、単純な事は――。

 

 

「魔術社会では役に立ちませんけど、()()()()()()とっても便利な道具ですよ。どうです?」

 

 

 子供の無邪気な笑顔、楽しそうなノエルの姿は、魔術の可能性を感じさせる笑みだった。

 

 

 

 

 ▷▷▷

 

 =食堂

 

 

「あんな魔術、初めて見たわ」

 

 システィもそれなりに魔術は知っているが、こんな使い方は聞いたことが無い。魔導具(モノ)を介する魔術もあるにはあるが、呪文詠唱が普通となっている魔術師にとってみれば不要の産物。しかも、あのガラス棒に入っている魔術ほどの完成度はなかった。あっても、魔術の補助として使われるのが一般的な使い方だ。

 だが、ガラス棒――〈Magical Stick(マジカルスティック)〉(ノエル命名)の汎用性は幅広かった。

 そもそも戦闘に特化させたモノではないのでそこは除外するとして、焦点を日常生活に役立つ事に光を当てると、どうだ。

 冷めたモノを温めるのに、棒の一部を熱源としてやればいい。逆も然り。どこか引っかかるのを付けて、そこからぶら下げて光を出させて光源にしてもいい。掃除で淀んだ空気を窓から出すのに、その空気をの流れを作り出すこともできる。溜まっているマナの総量がわからないのなら、それを可視化すればいい――。人によって可能性が出るわ出るわ。

 ただ刻まれた魔術を行使するだけだが、それがどれだけの可能性を持つと。自分自身の体調には一切作用されず、日常生活に置いては実用性しかない魔術を発動できる――。

 しかも、単体で完結するお手軽さ。

 

「本当にすごいよ! 売ってたら、魔術を使えない人たちは買っちゃうんじゃないかな」

「それもそうだけど、私達だってひとつに集中し続けるのはできないわよ。」

 同時に二つ以上を進行する行為、一般的にはマルチタスクと言われる。魔術にも等しい技術はあるが、こんな単純なガラス棒でどうこうできるものではない。

 システィは苦虫を潰したような表情になる。

「でも……時間使っても、スティックに刻まれている線の片鱗すらわからないとはね――」

 だがそれ以上に、発動した魔術が、魔術師の卵でも行使できそうな超初心者向けの魔術なのに、ガラス棒は生徒達の好奇心を片っ端から折りに来た。

 

 解読不能。

 

 ノエルから渡された特製虫眼鏡で拡大して見ても、一切がわからない。紫色のラインが薄っすらと全体に走っているのは、魔力を通すと見えるのだが、そのラインは生徒達全員が全く見たことがないものだった。

 ノエルにそのことを訊くと。

 

 ――私が作ったんです。お披露目はここが初めてですよ。

 

 アルフォネア教授が基礎を作ったのではない。ノエル=アルフォネアがこのガラス棒(マジカルスティック)を作った。

 その事実が衝撃的すぎた。

 

 で、とんでもをやった本人は。

「~♪」

 ルミアの隣でパンに齧りついている男の娘(ノエル)。見た目に合わずにとんでもないことをやっている。

「魔術を使い捨てねぇ」

「ノエル君の価値観って独特だよね。アルフォネア教授の子供なのに、魔術を遊び道具にしてるんだもん」

「そこは、アルフォネア教授が居たから遊び道具になったんじゃないのかしら」

 『子供向け! 魔術入門書』なんて本を自作してノエルに渡すぐらいはやりそう。トマトにフォークを刺す。

「でも、使い方を間違えると危険なのに、簡単に教えるのかなぁ」

「――もしかしたらあるかもしれないわ」

 システィのアルフォネア教授のイメージが、相当に崩れている。刺したトマトが口に入る。

「そう考えると、ノエル君の魔術の理解度ってかなりのものだよ」

「そうね。あの(先生)から(ノエル)なのが信じられないわ」

 ぐーたらグレンが居るのに完璧(しっかり)とするノエルが影響を受けずに育っている。何という奇跡。

 すると、パンに齧りついていたノエルは顔を上げ、急に手を降る。

「お兄さーん」

「そっちかよ」

 男の声。手を降っていた先にいるグレンを誘っていた。近付いて来てテーブルを覗くと顔を顰めた。3人共通の昼食が気になるらしい。

「――え? それで足りるのか?」

 消費エネルギーを野菜だけで補うのは無理なのではないか。体育会系の視点から見ると量があまりにも少ない。

 ノエルは手に何かを載せ、グレンに差し出す。

「食べますか?」

「いらん――あ、そっちはいります」

 ノエルの手にはお弁当箱。グレンはそそくさと受け取ると、ノエルの隣に周囲を見渡しながら座る。ルミアとは反対側の席だ。

「あ~久々だな、ここも。変わっちゃいねぇ」

 昔を懐かしむような台詞。ここに来たことがあるらしい。

 ノエルの弁当箱をワクワクしながら開けると、真っ先に彩色豊かな昼食が目に入る。栄養にも考えられているのがひと目で判る。

 思わずシスティとルミアは少し身を乗り出す。

「うわー綺麗~」

「ぐっ、女子力高いわ……」

 女子でもここまで見事な弁当はまず作れない。それ以前に時間が足りない。まさかノエルが作ったのか。ルミアがふと気になりノエルに訊く。

「これ、ノエル君が?」

「はい。いつも水で飢えを凌いでるので」

 聞かなきゃ良かった。あ、グレンが目を逸してる。

 システィはさっそく実践。聞かなかったことにし、グレンを上目で睨む。

「先生、貴方は何をしにここに来たんですか」

「何も? ノエルに弁当貰いに来た」

「それだけなんですか……いや、そうじゃないですよね」

 飄々とするグレンに、思わずルミアは納得しかけた。

「そうです! 貴方はなんで学院に来たんですか!」

「何だ、そんなカッカして? だから白髪になってるんじゃないか?」

「白髪じゃありません、銀髪です! 元からです!」

 確かに白髪に見えなくもない。銀も白も、色で見れば近い。

「お母さんに強制的に入れられたんですよ」

 ノエルからの横槍。システィがクエスチョンマークを浮かべる。サラダをフォークで突き、トマトがポロッと先から逃れる。

「家から出ないニート生活を送っているお兄さんを社会復帰してもらいたいって」

「――ったく、世話焼きめ」

 顰めっ面のグレンをノエルは暖かく見守る。

 システィは「ニート……」と呟き、「はっはっは、ヒモは最高だぜ!(キラッ」とグレンはニッと歯を見せる。

 

 ――なにかを感じたルミアがいた。

 

 

 

 

 ▷▷▷

 

 2組の後任の悪評はすぐに広がった。

 いつも適当で寝ている。質問しても、いつものらりくらりと魔術を小馬鹿にしたように返す。

 逆に、その妹――または弟分のノエルの好評が対して広がってた。

 教えてと訊くと、答えを言うわけでもなく、ただアドバイスをする。後は本人の自力に任せ、成長を促す。

 そんな事が起きている教室でも、グレンは相変わらず教卓で寝ている。

 だが、付き合いのある妹分のノエルはそれを咎めようとしなかった。代わりに、魔術のちょっとした実験をグレンが寝ている間に2組に見せていた。

 傍目に見れば、本当にちょっとした実験なのだが、真剣に見ると、とんでもないことをやっているのが判る。

 

 魔術を道具として使っている。

 

 魔術に対するノエルの姿勢が、学院内部の主力とは全く違かった。

 自身の力として、他人を見下し傲慢な態度を取るという風潮はこの学院にもあるが、ノエルはそんなことお構いなしに、魔術をシンプルに〝手段〟として捉えている。

 下品な使い方と言う者が居たが、ノエルが持ってきたガラス棒を見せると二の句が継げなくなっていた。

 全く見たことのない魔術、全く見たことのない精巧さ、全く見たことのない汎用性。

 発動する魔術はお世辞なしにもショボいものだが、どうやって発動しているのか、どうやって同じ魔術を発動しているのか、学院内の秀才が集っても何がどうなっているのか一切判らない。

 

 ――位階が高くても()()()()()は、これを理解することはできませんよ。

 

 頭を捻らせている人達に、煽るわけでもなく魔術師だったら解けるというノエル。それに反論しても。

「応用が足りませんよ?」

 崇高で傲慢な魔術師(プライド)が諦めることを許さず、ノエルの言葉に秀才はさらに頭を悩ませる。

 

 

 

 

「おい、グレン=レーダス」

 ステステ。トコトコ。

「おい聞いていているのかグレン=レーダス! 返事をしろ!」

 廊下に怒声が飛ぶ。

 ハーレイがその声を向けたのは、グレン=レーダス。授業中の、講師にあるまじき態度を先輩講師として締め上げようと、グレンの背中に威圧的な言葉を浴びせた。

 その横に付いているのは、セリカ=アルフォネアの養子、ノエル=アルフォネア。なんで怒ってるんだろうと顔に見せる。

 グレンもノエルの様子を見て、ハーレイを無視しステステ歩き去って。

「おい、貴様!」

 はもらえなさそうだ。

「違います。人違いです」

「んなわけあるか! この間抜けな面は間違いなくグレン=レーダスだ!」

 人の顔を表に上げ、個人を特定するとは。なんと恐ろしき。

 ノエルもグレンの隣に付く。なにやら髪の毛をじっと見つめている。

「聞いているぞ、グレン=レーダス。貴様、講師にあるまじき態度らしいな」

 事実、その通り。グレンは反論せず、無言を貫く。

「調子に乗るなよ、グレン=レーダス――貴様が今ここにいるのはお前の実力ではない。あの魔女、セリカ=アルフォネアの思い上がりがあってこそと思え!」

「いちいちフルネームで呼ぶの疲れね?」

「やかましい! いくらあの魔女が第七位階(セプテンデ)に至った魔術師とは言え、お前のような奴は直ぐにここから追い出してやるからな――!」

 威圧しながらグレンに怒声を浴びせるハーレイ。

 だが、

「――それだけですか、ハーレイ先輩ぃ?」

「それだけだと?」

「……はぁ」

 グレンは肩をがっくりと落として溜息を付いた。オーバーリアクション気味だが、頭を振って駄目だこりゃとしているのには苛立つ。

 そして、ハーレイのプライドを穢すであろう次なる標的を。

「貴様もだ、ノエル=アルフォネア。あのセリカ=アルフォネアの子だから――」

「魔術師って、そんなに偉いんですか?」

 口を開けて一言目。魔術師を否定したような発言。魔術師のプライドの塊であるハーレイが、そのことを聞いて頭に血が登る。感情任せに怒声を掛けようとしたとき、ノエルの口が動いた。

 

「お母さんの名前を上げて、表に晒して、何に成るんですか?」

 

 一体何を言っている?

 ハーレイは喉まで出掛けた言葉が引っ込むのを感じる。否、本能が否定した。

 

 ノエルは、何言っているんだろうと――可愛そうな者を見る目をしている。

 

 セリカ=アルフォネアの名前を、その養子であるノエル=アルフォネアが否定する? 

 

 

「どうやっても、()()にはなれないですよ?」

 

 

 ハーレイは何も言えない。何かを言うのも許されないと。

 ノエルはただ普通にしているだけだが、ハーレイからすれば威圧感があった。何故普通にしていられるのか。生き字引と言うまでもない義母のセリカを、第七階梯(セプテンデ)を、ただの自分ではない他人と言い切れるのか。

 

「何言ってるんだよ……ほら、行くぞノエル」

「あいあいさ~」

 いつも通りに戻った二人。ハーレイが掛けられた言葉は存在しなかった。

 

 

 

 

 ▷▷▷

 

 

 

 

「いい加減にしてください!」

 机をバンと叩き、椅子から立ち上がったシスティ。グレンの態度にプッツンとイったみたいだ。

 当の本人はノートによく分からない数字の羅列を書いていた。法則性はあるみたいだが、本人にしか解らないだろう。

 システィが教卓の前まで来るのを、グレンは静観する。

「意地でも態度を改めないんですか?」

 

 

「じゃあお前は、俺に何を求めるんだ?」

 妙な重みのある言葉。システィは一度怯んだ。が、自身の思いの丈をぶつけるため、要求を突きつける。

 

 

「態度を改めて、真面目に授業を行ってください」

「辞表、じゃないんだな」

「それなら貴方は、とっくにここをやめています」

 確信を持って、システィはグレンの目を見つめる。彼は相変わらず何を考えているのか判らない。

 グレンは窓の外を見る。あるのは緑だけ。(つがい)の小鳥が小枝に乗って、お互いをつつきあっている。

「確かに、そう思うわな」

 何かを思うように、その小鳥を見つめている。

「ほら、真面目にやって下さーい」

「ちょっと、ノエル君――」

 気ままなノエルをルミアは諌める。

 飛んできた身内の声にグレンは苦笑いを浮かべながら、システィと向き合い、その目を見る。

「で、どうするんだ? 俺が辞表を書かなきゃ、まだここに居続けることになるが?」

「私にだって考えがあります」

 『私にいい考えがある』と言わんばかり――のフラグでは一切ないが、至極当然に真面目な顔でグレンに正面を向ける。

「私はこの学院に影響力を持つ魔術師の名門、フィーベル家の娘です。私のお父様に貴方のことを言えば、進退を決することができるでしょう」

 確かに、学院のスポンサー的役割、そんな影響力を持っている家ならば非常勤講師如きをクビにする事は容易いだろう。むしろ今までよく告げ口されずに担任でいられたなと囁かれるのは目に見える。

「まじで!? そうだったの!?」

 だがグレンにとって、システィが魔術師の名門の娘であることがあまりにも意外すぎたようで。

「そんな子猫で!?」

「子猫じゃありません!!」

 彼女がその気になれば解任されていたかもしない、そんな事はお構いなしにシスティをまじまじと見る。

 キャットファイトというより、一人芝居にいちいち食いついて騒ぐ猫か。

 

「私がお母さんに言うとどうなるんだろう?」

「システィと同じことになっちゃう!」

 もうノエルの事は無視するべきか。

 

「貴方って人は――っ!!」

 魔術に対し馬鹿にしたような態度をとるわ、魔術の名門であるフィーベルの名を知りながらもシスティの事を子猫というわ。魔術と自身の家の誇りを汚す者を放おって置く訳にはいかない。

 右手が左手に嵌められている黒い手袋に伸び、それを外すとグレンの顔面に向かって投げた。

「やーいやーいk――うぉ!」

 飛んできた黒い物体をグレンは間一髪のところでキャッチする。その物体を認識すると、彼の目が開かれる。

 システィから投げつけられた手袋。それは、魔術師が手に嵌める手袋。

 システィのだからクンカクンカとかprprとかは考えていけ以下略。

 

「おぉ、これはテンプレ」

「だから何言ってるの!?」

 これから何が始まるのか、察したノエルは目を輝かす。よくマイペースで居られると驚くルミア。

 

「うわーマジか」

 その手袋を手の中で見ながら、グレンは思わず声が出た。

 

「決闘かよ……」

「貴方が答えてくれるのなら」

 魔術師同士の戦いで雌雄を決す。簡単に口に出し、遊びでやる事ではないのは誰だって判る。

 そのことは判りきっている。クラスが静まり返った。

「勝者が要求を自由に決められるのを判ってやってるんだよな?」

「承知の上です」

 確固たる意志を持ったシスティ。もし負けてしまったら何をされるか、というのも込みで手袋を投げたのだ。

「まったく……未だにこんな昔みたいな熱いやつがいるなんて、どんな骨董品だよ」

 悪態をつきながらも、グレンは不敵に口角を上げた。

 

「ん、何だっけ、中庭だっけか?」

 態度を変えること無く、場所をシスティに訊く。

「そうです――って、場所言いましたか?」

「さあな」

 

 傍目、何を考えているのか判らないグレンは椅子を立つと教室を出た。システィも続いて教室を出て、生徒も我先にと扉から廊下に出る。

 

 最後に出たのは、ルミアとノエル。ルミアは心配気で、ノエルは様子が全く変わらない。

「いいの、ノエル君……先生がいなくなっちゃうよ?」

「大丈夫ですよ」

 

 

 

 

「負けますから、お兄さん」

「え――」

 ノエルが考えていることが判らない。ルミアは遠ざかる背中に、掛ける言葉がなかった。

 

 

 




Q:テーマ曲ってあるの?
A:「ID -CYTOKINE Remix」
AREA LEVEL ONE(ZYTOKINE)・東方弐集想 収録トラック

作成方針と合っていない?
そこはノエルに関係するから以下略


08/23
「01ブラッシュアップ」の一環
文章の追記、変更。

07/09
後半の適当部分にメスが入る。それでもまだテキトー。

06/26,28,30
報告誤字の一部修正、見落とし部分の追記

2019/06/21
追加を放棄していた部分を修正。ブラッシュアップ。
平均10,000字にするんだ(フラグ

2019/06/20
投稿。また後半がテキトー
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。