記憶喪失の私は記憶喪失の養子になりました   作:TAKUMIN_T

4 / 13
お気に入りがじわじわ増えている。推薦貰って更に加速。
プレッシャーが襲いかかってきそう。よし逃げろ(失踪

今回のこの話題は大好物。表裏一体ってまさにこのことだから指が動いた。

で、今回の文字数、15,000超え。祝、平均文字数10,000超え。
なんだ普通だな(感覚麻痺


004.01-03:White=空想≠現実=Black

 

 

 

 

SCENE 02

White=空想≠現実=Black

 

 

 

 

 砂埃(すなぼこり)――は、風がそんなに強くない上に舞い上がってすらいない。タンブルウィード*1――はそもそも場所が違う。ここで見かけたら誰かの演出だと断言できる。というか、芝生が()い茂る中庭で砂埃もタンブルウィードもどちらもあったものではないのだが。

 しかし、男女が2人見合っている様子は、荒野でガンマン同士が銃の早撃ち決闘と例えられる。ピリピリとしたアルザーノ帝国魔術学院の中庭では、静かに闘いが始まっていた。

 臨時講師のグレン=レーダスと、彼が担任するクラスの生徒、システィーナ=フィーベル。

 システィはグレンを油断無しに睨んでいる。相対するグレンは、変わらずやる気無さげに片手をポケットに突っ込んで、システィの出方を伺うと言ったところか。

 両者の向かい合うその中央付近、ノエルが審判役を買って出ている。

 

「えー、これから、社会不適合者(お兄さん)夢見る我儘子猫(システィさん)キャットファイト(けっとう)を始めまーす」

「ノエル。お前、何考えてた?」

 

 勘が働いたグレン。マイペース(ノエル)に心中で何をつぶやかれているのか想像できてしまった。

「え? 思ったことですけど」

「なんて?」

「社会不適合者と夢見る我儘子猫」

「「なんだそれ!?」なによそれ!?」」

 なんて不名誉な渾名。グレンとシスティが表情を一変させ、ノエルに唾が飛ぶほどに叫ぶ。それに似たように、生徒のノエルに対する評価が一変しそうだ。インテリメガネ君は呆れを通り越しているし、どこぞの赤髪さん(ノエル命名)は自分に同じ不名誉な渾名が心の中でひっそりと付けられるかもしれないとビクビク――口角を引き攣らせているやもしれない。

「はじめますよー。お互い子犬みたいにキャンキャン言うことはないですか」

「「おい!」」

 声を張り上げるが、まだですかーと顔をグレンとシスティにくるくる向けている。

 ルミアも短期間ではあるが、グレンに対する態度に、なんとなくでノエルという人物が分かってきたおかげで、苦笑いを浮かべてスルーを決め込んでいた。

 別名、手に負えない。

 何をやろうがマイペースな行動を率先して実行するノエルの暴走を止められる者は、この場に居なかった訳だ。

「お互い、最初っからノエルにイジられるな」

「そうですね、先生……」

 システィに至っては、〝子猫〟だけならまだ良かったのだが、〝夢見る〟とか〝我儘〟とか小馬鹿にしているのか把握しきれない単語を連々と並べてくる。

 グレンも同じようなものだが、授業中での態度から既に判りきっている分マシだろう。悪意無しに平常運転で言われなければ。

 この一瞬、2人の考えが意図せず合致した瞬間だった。

 すると。

「お兄さーん、勝ったらお小遣いあげますよー」

「……」

 またノエルの声が聞こえてくる。グレンの化けの皮が身内によってベリベリ剥がされていく。

「ギャンブルで()()スったんですよねー」

「なんで知ってんの!?」

「バラされたくなかったら早くやりましょー」

「ちょっと待て! だからなんで知ってるんだよノエル!」

 あぁ、なんと哀れな。グレンの慌て具合から察するに、本当に気付かれていないと思っていたようだ。しかもそれを口実に、決闘を強制される始末。小悪魔だ。

「時間無制限、使用魔術はショックボルトおんりー! 勝ったほうが()()()()()()()()()()()()()()要求できまーす」

「はぁ!?」

 ノエルが面倒臭くなって意見を無視し始めた。というか、聞き捨てならない単語が出まかせに出ていた。その事にシスティは焦った。ノエルを見ると、いつも通りの悪意なき笑顔。

 

 

 

 

 

誰 も 止 め ら れ な い

 

 

 

 

「すたーぁと!」

 気の抜けそうなノエルの掛け声と共に、火蓋は落とされる。

 

 

 授業ではあの巫山戯た態度をとっているが、仮にもこの学院の臨時講師に採用された。なら、それ相応の実力を保有しているはず。

 彼女は考えていた。あの態度ももしかしたら計算づくめなのではないのか。

 

 グレンはいきなり始まったことに戸惑っているが、これがノエルの平常運転だと納得して思考を切り替えると、すぐにシスティに視線を向けた。

 人差し指をシスティに向け、口を動かす。

「〈雷精よ・「〈雷精の紫電よ〉(紫電の衝撃以て・撃)!」

 先に詠唱しきったシスティの指先から光が飛んだ。

「あ――」

 どこからだろう、そんな気の抜けた声が聞こえたのは。

 

「ア゙ア゙ア゙ア゙ァ゙ァ゙ァ゙オ゙――!!!?」

 

 グレンが白黒と、古典的に骨が可視化(かんでん)している。

『『『「え」』』』

 あっけなさに、システィは声が溢れる。生徒もあり得ないものを見たと、彼女と同じく漏れた。

 

 パタッ――

 

 

 プスプス――

 

 プス――

 

 

 

 

 プスプス――

 

 

 

 

※ グレン(ミディアム)が出来上がった ※

 

「しょうしゃぁ~、わがままこねこ~」

「だから、誰が子猫だってのよ!!」

 子猫(システィ)の右手を掴み上げ、ノエルはテキトーに声を上げ、システィは変わらぬ渾名に声を張り上げる。喜びよりも驚き、驚きよりもノエルに付けれれた渾名。上書きの連続で他のリアクションも取れない。

「――まさか一節詠唱もできないとは」

 そして聞こえてくる、蔑んだかのような言葉。

 それは、魔術を発動するために詠唱を必要とするのだが、基本は3つに分けられた言葉を詠唱する事で発動ができる。これを〈3節詠唱〉。これを1節に縮めた詠唱が〈1節詠唱〉。

 だが、魔術への先天性のセンス(感覚)で可能かどうかが決まり、誰でも詠唱すれば発動するわけではない。1節詠唱はその上、魔術師でも詠唱すれば絶対行使できる訳ではない。

 この学院に居る生徒の殆どは、魔術師を志す中でも優秀な者が集っており、大部分が魔術の1節詠唱が可能だ。講師に至っては出来て当たり前と暗黙の了解と化している。だが講師であるグレンは、1節ではなく3節でショックボルトを発動させようとしていた。

 

 つまり、詠唱の短さが魔術の発動タイミングに直結し、グレンより早く詠唱を終わらせ、ショックボルトを発動させたシスティに軍配が上がったのだ。

 

 その事に、グレンが何故この学院に居るのかの疑問が一層強まる。

 そんなことはお構いなくと、システィの思考を遮るようにノエルが声を掛ける。

「では、お兄さんに何を要求しますか?」

「だから、授業をしっかりやってほしいって――」

 最初と変わらない要求を付けるシスティ。当然だ、その要求をするためにこの決闘をしたのだから――。

 

 

「やだね」

 

 

 はっきりとした声。

 その声の方向を見れば、地面に大の字になってグレンは拒否していた。

 青い空に浮かび、悠々と流れる雲をグレンはただ見つめていた。それでも、今までの態度と芯の無い声とは違い、明確な意思が感じ取れた。

「しっかり? 授業で()()しっかりやるんだ?」

「だがら、魔術の授業をしっかりやってくださいってことです!!」

 システィからすれば、グレンは子供のように言い訳しているようにしか聞こえない。

 しかし。

「魔術、ねぇ――」

 そう呟いて、

 

「お前らは魔術が何なのか知ってるのか?」

 

 一行に気を改める様子が無いグレンに、システィが御門違いだとは思いながらもノエルに詰め寄る。

「ノエル! どういうことよ!?」

「システィさんの要求をお兄さんが拒否しただけですけど」

「だからなんで!? ルール違反じゃない!!」

 確かに決闘にグレンは負けた。だからシスティはグレンに要求している。何も間違っていない。ただ問題があるとすれば、グレンが無視しているということ。

 だが、ノエルは不思議そうにシスティの顔を見ながら首を傾げる。何が違っている、そう問うているようだ。

「違反してませんよ? 私はちゃんと()()って言ったじゃないですか」

 

 

 要求。

 

 

 要求(ようきゅう)

 必要だ、ほしい、または当然だとして、それが得られるように、求めること。*2

 

 ()()()こと

 

 求める:ほしいと()()

 

 

「そうしてほしいと望むこと()()ですよ」

「――――」

 システィはノエルに何も言い返せない。

「契約上での不備というよりは、引受人の見落としですね」

 口頭ではあったが、何も間違いは言っていない。要求を強制するような事を言ってもいない。

 

 ノエルが提案した()()()()()()()()()()()()()()だけで、一切の強制力は持っていないことが前提のルールに対し、両者とも()()()()()()()()()()()()。魔術を発動するための詠唱だ。

 スタートとノエルは言ったが、開始した直後にグレンかシスティがノエルにルールを訊き返し、訂正して再スタートしていればよかっただけ。ただそれだけなのだ。

 

「私は何も嘘はついてません。お兄さんが頷かないのも、それは要求――望むだけで、強制力はありません」

 

 嵌められた。そう思ったシスティは顔を顰める。生徒も同じような反応だ。

 システィは睨んで、ノエルに訊く。

「ノエルはどうなのよ!!」

 

 

「お兄さんが負けるのは分かりきってたので」

 

 

 システィの叫びをあっけらかんと、グレンの負けを分かっていたと。ノエルは表情を変える事なく言い切った。

 

 

 

 

 ▷▷▷

 

 

 

 

 生徒の殆どが納得出来ないままに教室に戻る。

 グレンは教卓の椅子を手に持ち教室の端に逆向きに座ると、悪態とつきながら背もたれに頬杖をつく。ノエルがその横でグレンを何故か突いている。グレンも気にすること無く、ただされるがままに居座る。

 すると、小声で何かを話し合って。

 

「さて、お兄さんに代わってすこーしだけお話しましょうか」

 

 黒板の前にノエルが立つ。

「一体何を話すの、ノエル。先生の保身かしら?」

 虚空を掴まされたシスティは、ノエルを睨んで皮肉っている。変わらず意に介すること無く、チョークを左手に持って、ノエルは教卓の前に立つ。グレンは静観の立場で居るようだ。

「まず皆さんに質問します」

 魔術、その単語を黒板に書くと。

 

 

 

 

 ――()()って、なんですか?

 

 

 

 

「――は……?」

 システィの口から音が零れる。

 

 

「みなさんにとっては身近にあって言葉で言い表すことができると思います。でも、説明してくださいと言われたら、皆さんは答えられますか?」

 すると、システィが真っ先に手を上げた。

「はい、子猫さん」

「……世界の真理を追求する学問よ」

「なんとも平凡ですね」

 悪意がないと分かっていても、正直に切り込まれる返答にはイラッとくる。それを知ってか知らずか、質問を続けた。

「では、子猫さんは何が好きですか?」

「……メルガリウスの魔法使い」

 ぶっきらぼうに言い放つ。ノエルは、その言葉を黒板に書く。

「余談として、これは知っている人もいるかと思いますが、エリサレス教では禁書指定され、著者は処刑されています。だからどうしたって話ではありますけどね。

 まあ宗教なんて年月が経つと自己中心的な人達の集まりになるんですから、無視していればいいんです」

 ※ノエルの勝手な解釈です。

 ぶっ飛んだ解釈に、さすがのルミアも苦笑いを浮かべる。生徒も同じく。

 その次に、人が火炙りにされる絵を描く。

 『ギャー』

 棒人間がそこらへんのチョロ火に投下され、シンプルな断末魔を上げる。残酷よりは、画のタッチがあまりにも丸っこくて可愛らしさが。

 

 振り返ると席を一瞥し、口を動かす。

 

 

 

 

 

 

「では、魔術とは何を持って崇高(すうこう)なものであり、何を持って秘匿(ひとく)されるべきものであるのか。その理由を説明できる人は居ますか?」

 

 

 

 

 

 

『『『……』』』

 

 『崇高? 秘匿? = なんで?』。

 

 何故魔術は、他の学問と比べ、気品高く、名誉があり、偉大であるのか。

 何故魔術は、一般人の理解を深めようとさせず、簡単には手に触れさせないようなものにするのか。

 

 ノエルが黒板に書いているときでも、生徒は意見を出すことすらできない。

「そっ、それは――」

「とある人はこう言います」

 システィの言葉を遮って、ノエルは黒板に書き始める。

 

 魔術とは:

 世界の起源、構造、支配する法則。魔術はそれらを解き明かし、自身と世界の存在意義に対する疑問に答えを導き出し、人が高次元の存在へ進化するための手段。神に近づく行為であり、偉大で崇高な物である。

 

 ノエルは振り返り、教卓に両手を付く。

「要するに、疑問に対する真理を追求して、あわよくば神になりたいという欲にまみれたものなんです」

「そっ、そんなわけないじゃない!!」

 魔術を神聖視しているであろうシスティの心からの叫び。そうだと同調する学生も居た。だが、ノエルは一切怯まない。

「でしたら、なんで魔術は一般人に秘匿されるべきものとして扱われているんでしょうか。考えられる理由はありますよ。

 それが自分達のここに居られる理由(アイデンティティ)であり、絶対的に保有していなければならないステータス。それらが周囲に蔓延(まんえん)したら、その人達の存在意義が無くなっていまいます。

 それとは違った理由で、魔術というモノ自体が人に向けて使ってはいけないという危険なものであるからです。軍用魔術がいい例です。そこら辺にいる泥棒とかが魔術を使って盗みを働くようになってしまえば、人々の治安が保てなくなります。魔術を抑止力として秘匿し、人々を危険なものから遠ざけて守る。それ以外でも、遊びで魔術を使って人が死んでしまったなんて、絶対に避けたいんです。だから秘匿されるべき。

 

 ――と、()()で言うことだってできます。国に(つか)える貴族なら、秘匿するべきとする理由を()()()()()()()()()()()()()()()()()()からです」

 

 貴族、ましてや国でさえ敵に回すノエルに、生徒は底知れぬ恐ろしさを覚える。しかも、本当にやろうと思えばできてしまいそうだからこそ信憑性がある。

「ある意味で一種の宗教となっていますよね? ()()()()()()()()()()()()()()()()。お兄さんに、講師なのに1節詠唱ができないとはって言った人がいましたね。その意見に同調した人もです」

 まるで名指しするかのような。ノエルはそう思っていなくとも、受け手はそう思わざるを得ない、有無を言わさぬ雰囲気を感じ取っていた。思わず身震いする生徒、心拍数が上がる者も。

 

「こういうのを大まかに括って〈選民思想(せんみんしそう)〉と言います。」

 

 選民思想:

 自分たちは神によって選ばれた()()()()()という信仰、確信。*3

 

 黒板に書かれる新たな言葉。

 まさにその通りだった。たとえそんな思想を持っていなかったとしても、同じ魔術を扱えた人の中で、1節詠唱をできないグレンを蔑んだのだ。本人がどう思おうが、客観的に立つとそう見えてしまうのだ。

 仕方ない――ではない。魔術師に、下位(かい)を見下す風潮が蔓延している何よりの証拠だった。

 

「それ以前に」

 

 

 

 

 ――この学院にいる殆どが、魔術を使えて舞い上がっているだけの子供だと私からは見えていますよ。

 

 

 

 

 

「位階を重視している先生達、魔術を詠唱して喜んでいる学生達。どっちも()()()を使えただけで、いい気になっているんです。だから、()()()()()()()()()()()()()()()()()子供です。

 大人だって、好きなことには子供みたいにはしゃぎたい時があるじゃないですか。それと同じことですよ」

 言葉に絵を交えて、生徒に背を向けて、時には足場に登って黒板に書き続ける。

「商人とかの大人だったら、未完成品を見せられてもそのまま商品にするわけないじゃないですか。商品として出すのなら、こうじゃないかと議論を交わしていいものを作ろうとする、そして独占販売して強みを増やそうとするのが普通です。自分たちの信頼と利益に直結するんですから、真剣にならないといけないんです。

 それが、魔術を嗜む人達からすれば頭の外、論外と思い込んでいるんです。自分で考えることをせず、与えられたものを使って、〝自分たちは位階が高くて、こんな魔術が使えるんだー〟って堂々と胸を張っているんです。――本当に子供ですよ」

「だったら、僕たちは何をやっていると言うんですか!」

 インテリメガネ君――ギイブル=ウィズダンが思わず声を張り上げる。今までこの学院で自分たちがやってきた事が全て否定されたと感じたからだ。

 対しノエルは、振り返ると首を振る。

「完成品を扱っていたってだけですよ。()()()()を見たことはないですよね?」

「なっ――」

 未完成品。

 魔術の未完成品とは一体なんだ。そう問われると、ギイブルは次が出ない。

「皆さん、まだこれくらいのレベルなんです」

「――くッ――~~~~!」

 あぁ、ギイブルが72(ちはや)さんになってしまわれた。

「世界の真理を追求している――そうカッコいいことは言ってますけど、魔術の本質を一切理解していない人が大部分なんです」

「では、ノエルさんは魔術がなんなのかおっしゃれるのですか!」

 次に声を上げたのは、ツインテールお嬢様――ウェンディ=ナーブレス。

 

「一言で言うのなら、手段、方法の一つですね。それ以上でもそれ以下でもないですよ」

「……」

 

 迷わず答える。そこに崇高さ、偉大さ、秘匿されるべき理由は存在しなかった。

 ウェンディは文句を介在させることすらできない。

「ノエルにここまで言いくるめられるのかね、お前ら」

 論破され文句すら有無を言わさないその様子を、グレンが呆れたように見ている。お前がそれを言うかと、一部の生徒が目を細める。

「そんな魔術でも役には立ってるさ」

 

 

 

 

 

 

 人殺しに。

 

 

 

 

 

 

 グレンのあまりに重すぎる一言に、空気が死んだ。

 表情は真剣だった。声が低く、腹に響いてきそうなほどに感じた。それこそ、別人だと思ってしまうほどに。

「ノエルだって言ってたろ。危険な軍用魔術が毎年どれだけ人を殺せていると思っているんだ? なんで軍用魔術なるものがある? 簡単さ、一人で何人も殺せるからだ。

 立派に役に立ってるんだなこれが」

「ふざけないで――!!」

 声が裏返った。それはまさに悲鳴のような声。

 システィが、机を叩いて立ち上がり、グレンの前まで詰め寄る。

「ふざけないでください、先生! なんで、そんなことばっかり――!!」

「ふざけてなんていねぇよ。全部事実だ。帝国宮廷魔道士団なんて物騒な集団に毎年莫大な金が注ぎ込まれている理由は何だ? 自国を守るためといえば聞こえもいいが、その代わりに黒い部分も請け負っているだろうな」

「それはっ――……!」

「じゃあ、外道魔術師が起こす事件の年間件数と、そのおぞましい内容を知っているか?」

 

 もう言わないで……

 

「結局魔術はこんなにも欲の塊に使われているんだぜ。ろくでもない奴らにいいように使われてな」

 俯くシスティに一切の容赦をせず、ただ喋り続けるグレン。

 そこに、ノエルが言葉を添える。

「夢を見るのは簡単なんです。

 

 

 (わがまま)を貫き通すんですから」

 

 

 ()()()()()()音がした。

 

 

 

 

 「もうやめて…………」

 システィの弱い声が静かな教室に響いた。俯く顔から、床に何かが落ちる。

 

 涙が流れていた。

 心は完全に()()()()()

 

 

 

 

 

 

「なんで……そんなことばっかりいうの? ……だいっきらい……」

 

 

 

 

 

 

 その場を逃げるように、教室を走り去った。

 

 誰も止めない――止められなかった。いつも気の強い態度を見せていたシスティのあの顔を見るのは、生徒は誰もが初めてだった。

 今まで突っかかっていたその理由。グレンは、ノエルが称した渾名と重なって見えた。

「夢見る、か――めんどくせぇな……ノエル、後まかせたわ」

 そう言って席を立つと、そのまま教室を出た。

 

 

 システィをあそこまで追い込んだのは、何より、編入して天使だと言われ、システィと仲がいいルミアに頬をプニプニされていたノエルだ。だが、ここで喋っていたことは空想などは一切無く、全てが現実。ただそれを突きつけただけにしか過ぎない。

 夢を見ていた彼女にとって、一番残酷な方法で。

()()()我儘子猫――頑固ですね、システィさん」

 我儘な子供を、あんなことが自分の子供にもあったなぁと、親みたいなことを言っているノエル。一切の慰めが言葉に、感情が存在していない。

 急に現実を突きつけるのはあまりにも酷いのでは無いか、誰かが憤っても文句は言われないだろう。

 ノエルは、言葉を続ける。

「あれが、子猫さんとお兄さんの決定的な違いです。メリットしか見ていなかった子猫さん――違いますね、それしか見ないようにしていた皆さんですね。

 どう言っても事実を覆すことはできません。本当のことなんですから。ここに居る誰もが、魔術の負の部分を担う可能性はあるんですよ?」

 

 現実をただただ言い、生徒の心を抉るかのように。

 

「さて、魔術の復習はやりました?

 

 

 

 

 魔術を()()()()()()()()()()学習する――その意味を考えてみてください」

 

 当事者としてではなく、中立に位置する立場(ノエル)として。

 ノエルの言葉が、生徒に深く突き刺さった。

 

 

 

 

 ▷▷▷

 

 

 

 

 →03:52:01

 

「~♪」

 リズムを口ずさむノエル。2組を重い空気に叩き落とした時の雰囲気を一切纏っていない。――まあ最初から纏っていないけど。

「明日が楽しみですね~♪」

 寧ろ、どこか期待に満ちあふれていた。その場に居た当事者からすれば、何故そんなことが言えるのかと囁かれるだろう。

「子猫さんが来ないとどうにもなりませんけど――ルミアさんならどうにか慰めそうですし」

 独り言を呟いて、視線を不意にずらすと。

 

 同じく口を動かして独り言しているのか、扉から覗き見しているグレンがいた。

 

「?」

 何やっているんだろう。首を傾げながらも何かあるのかなと音立てずに近付くと、グレンもノエルの存在に気付く。すると、口に人差し指を添え、何も言うなと。そして、親指で扉の隙間を指す。覗いてみろ、ということか。

 ノエルもお言葉(おさそい)に甘えて、グレンの下から2人で覗きを敢行。

 すると。

「なんで失敗するのかなぁ……? どこが違うんだろう――」

 ルミアが実験をしていた。あれは、五芒星――法陣(ほうじん)を構成していた。

 

 ――ノエルも昔、あの失敗よくやったよな。

 ――それを言ったらお兄さんもですよね。

 

 小声で昔を振り返る。

 今では顔を見上げて、お兄さんと慕っているが、その時はグレンも小さかった。背丈は少しだけグレンが高い程度で、どんぐりの背比べと例えてよかったぐらいだ。

 そんな幼い頃から、セリカから魔術を遊びの一環として与えられ、一緒に笑顔で興味を示していた。

 もっと見せてと目を輝かせてねだるグレンに、まあまあと宥めるノエルの構図が当時は当たり前になっていた。セリカも笑顔でそれに答え、子供に弄らせても危険ではない魔術を教えていた。

 その時に、ルミアがしている実験もしていた。

 でも、また失敗したようだ。

 ――マジカルスティックに書き込んでみたいですね。

 ――そうだな……。

 そのときはまだ2人とも純粋だった。グレンは夢に思いを馳せていた。ノエルは昔から変わっていないが……。

 

「ま、せいぜい頑張りな」

 

 声をかければいいのに、扉から離れるグレンにそんな思いをノエルは(いだ)く。

 昔はセリカに見守られるように魔術を学び、それが今では立場が変わり、グレンが見守る側に、非常勤で臨時起用ではあるがまさかの講師になっている。

 グレンの昔を知っているノエルからすれば、考えられない変化でもある。でも、そのことを声にも、顔にも出すことはない。

 そっと、グレンはその場を離れ

 ようとした。

 

 扉の近くに気配を感じた。

 

 ん? ()()

 

 バンッ――!

「フニャ――⁉︎」

「――え、ノエル君!?」

「ちょ、おま!?」

「せ、先生!?」

 

 ゴムボールよりは反発しないが――吹っ飛んだノエルが床に転がった。

 

 

 床に座らせられ、グレンに前髪を上げられて額に傷がない事を確認される。

「ごめんね、ノエル君……」

「怪我はしてないですから、大丈夫ですよ」

「全く、急に扉開けたから……」

 グレンの軽い診療で怪我がないことに一安心、ルミアはノエルに謝る。

 不思議そうにルミアは視線を二人に向け。

「でも、どうしてここに居たんですか?」

「そりゃ、お前が魔術実験室に一人で居るからだろ。生徒だけの使用は原則禁止のはずだぞ?」

 担任として、原則立入禁止の場所に入っていたことを咎められ、彼女は「えへへ」と苦笑い。

「でも、面白いことやっていますよね」

「そんなに面白いことかな?」

 ノエルにとっての面白いの基準がまだルミアは判らない。マイペースだし、何を考えているのか掴み所が無くて判らない。

「懐かしいんだと。ノエルも同じ失敗をしてたからな」

「お兄さんも同じじゃないですか」

「それを言うなよ……」

 だがこのやり取りを見ると、髪色は違うが本当の兄弟に見えてくる。

 次にグレンがルミアに質問する。

「けど、なんで法陣を組んでいるんだ?」

 実験室の中にある法陣は大部分が完成している。素人目からすれば、すぐにでも詠唱すれば何かしらの効果を魅せると思える。

 そのことに苦笑いをしながら、ルミアは頬をかく。

「実は、法陣が苦手で最近授業についていけなくなくて……いつも教えてくれるシスティはいないし――」

「あー、……それは悪いことしたな……」

 教えてくれる肝心のシスティは、グレンとノエルから現実をまじまじと突きつけられて教室から逃げ出してしまった。で、今は一人。自分の知識と睨めっこしながら法陣を手探りで書いている。

 原因が少なくとも自分にある、その罪悪感でグレンは素直に謝る。

「というと、ルミアさんは一人でこれを復習しようとしていたってことですか?」

「うん、そうだよ」

「だが、ここに入るのには魔術錠が掛かっていたよな。どうやって忍び込んだんだ?」

 魔術はその性質ゆえ、無知な人々に扱わせると何が起きるか判ったものではない。それらが詰まっているこの実験室に、ちょっとした出来心で取り返しがつかないことをされてしまってはどうしようもない。

 バツが悪そうに、ルミアは目を逸らす。

「え、えへへ……事務室に忍び込んで」

「おぉ、スパイ」

「違うだろうが」

 天使と言われるその容姿に合わず、なんてやんちゃ。これはお仕置(検閲されました

「まあまあ、最後までやりましょうよこれ。せっかく組んだんですから、何もせずに崩すのは勿体無いじゃないですか」

「……いいんですか?」

 少し驚きながらもグレンに確認を促すと。

「あぁ、最後までやっちゃいな。ノエルの言う通りだ」

 口角をあげて、許可を出した。その様子はどことなく子供に見えた。だがルミアは、法陣を再度見ると疑問の表情を浮かべる。

「でも、何度やってもうまく行かなくて、諦めるところだったんです……前はうまく行ったんですけど……手順は問題ないはずなのに……」

 自分ではどこがいけないのか判らない。システィがいたならば、その事を指摘できていたであろう。

 すると、ノエルが道具入れにてくてく向かっていき。

「ちょっと道具貸してくださいな~」

「え、あ、うん、いいけど……」

 許可を取って水銀の入った壺を手に取る。

「え? 水銀?」

 ルミアの目が丸くなる。

「素材をケチって魔力路を断線させちまうんだ。ちょっと慣れたやつがよくやる失敗だ」

 ルミアの横にならんだグレンが、説明役を買って出る。

 ノエルはルミアが描いた法陣をガラス棒(マジカルスティック)でなぞって、その線が均一の太さになるように整える。

 グレンはあることに気づく。

「ノエル、何だその伸びた回路(サーキット)は」

「空想的にしようかな~って」

「法陣が体をなさねぇーじゃねーかよ……」

 法陣の横に気が付いてたら出ている一本の線。その先には四角で囲まれた中に回路(サーキット)が走っている。明らかに魔改造しようとしている。

 良くわからないものを四角の外に書いては四角の中の回路(サーキット)に繋いでは消し、書いて繋いでは消しを繰り返し、回路(サーキット)の密度が上がっていく

 時間にして、1、2分。

「ルミアさん、もう一回起動してみてください。あ、詠唱を省略しないでくださいね?」

「う、うん……」

 釘を差し、ルミアに法陣の正面を譲る。

「〈(まわ)れ・廻れ・原初の命よ・(ことわり)の円環にて・(みち)()せ〉」

 詠唱が終わると法陣が光を放った、視界が一瞬にして白に染まった。

 

 光が収まり、視界に色が戻っていく。そして真っ先に入った光――七色の光が縦横無尽に法陣を駆け巡る。これだけでも、美しいと感じれる。だが、視線を上に上げると――。

 空中に立体的に法陣が投影され、光同士が衝突すると、光の欠片が周囲に飛び散り、少しの間、空中に漂いゆらゆらと揺らめいている。

「す、すごい――!!」

「本当にやりやがったよ……」

 今まで見たことのない魔術に、驚愕を顔に出すルミア。

 ノエルが付け加えた回路(サーキット)が生み出した光は、人工的な光や普通の魔術の光と違った。まるで生き物のように揺らめいている光球は、ホタルのような幻想的で。想像上で生み出され、作家が文字に書き表した、空想的な光であり。

 人工の建物のたった一部屋。そこで生み出された奇跡の光。

 ルミアは、この光景がこの世のものとは思えなかった。

「ノエル君、すごいよこれ!」

「えっへん。崇めてもいいんですよ~」

 自慢げに、だが誇ってはいない。無断で忍び込んだ証拠を残さぬよう、この法陣は消してしまう。僅かな時間だけ漂い続ける、儚いモノでもあった。

「法陣の(かたち)を保っていただけマシとするか……」

 本来の効果が法陣本体で発動していただけ、グレンは安堵する。

 

 夕日が窓から差し込む廊下。魔術実験室で構築されていた法陣――ノエルが付け加えた魔改造法陣は、その痕跡を残さぬよう徹底的に消された。

 ルミアは未だ興奮が冷めやらない。脳裏に光景が焼き付いているようだ。

「すごかったですね、先生」

「あれがノエルにとっては普通だから、また頼めば見せてくれるだろ」

「それでもですよ。あんな光、見たことなかったですから」

 始めて見てこそ、ノエルが書き、創り出した光の綺麗さは感じ得ないだろう。

「ノエル、また書くか?」

「法陣を書かないでやってみたいです♪」

「せめて法陣を使ってくれ!」

 消し忘れで流出しても、解読できずに高名な魔術研究者が頭を悩ましそうだが、法陣を完全無視されると立つ瀬が無い。

 一方的ではある言い合いをルミアは傍目で微笑みを浮かべる。

「あの、途中まで一緒に帰りませんか?」

「?」

「……はぁ」

「いいですか?」

「いいですよ~」

「まあ、ノエルがいいって言うならいいか……」

「ありがとうございます!」

 ルミアはノエルを挟んで、グレンと横に並んだ。

 

 

 学院の外、フェジテのメインストリートに差し掛かると、遠くに浮かぶ物体が見える。その大きさは、それこそ城だ。

 

「相変わらず浮かんでますねぇ~」

 

 その城は、〈メルガリウスの天空城〉。

 〈メルガリウスの魔法使い〉――その童話の舞台となる、天空に浮かぶ城だ。

 天空に浮かんでいる、その特異性から、関する謎の一切が解明されていない、謎多き城。

 

「そういえばシスティさん、あの城関連の話が好きなんでしたね」

「うん。私はあんまりあの城の謎解きに興味は無いんだけどね、あの城を見ると――一度でいいから登ってみたいと思っちゃうんだ」

 有名な童話の舞台となった城。謎に関する興味はなくとも、近づいてみたいという興味は意図せずとも湧き上がることだろう。

 ノエルも例に漏れず、その城に目を輝かせている。

「確かに、なんで浮いてるのか気になりますよね!」

「え? そこなの?」

 予想外の言葉にルミアは思わず聞き返した。それでもお構いなくノエルは勢いを保つ。

「物理法則完全無視ってのは興味がそそられます!!」

「そうなんだね……」

 少しだけ理解できた、たった少しだけ。食いつくノエルにルミアは引いた。グレンが相変わらずだと肩を竦める。

「ノエルにその手の話は振らないほうがいいぞ。延々と話し続けるからな」

「魔術とかのフシギなチカラより、御伽噺(おとぎばなし)のすっごく壮大なやつが現実的に見てどういう仕組みで成り立っているのとかすっごいきになります!」

「――こんなことになるからな」

「あ、あはは……」

 目がキラキラしている――。なんという現実主義者。

「でも先生も、ノエル君が法陣を直していたとき目を輝かせていましたよね」

 どこか子供に、男の人にありそうな夢中になれるモノ。ルミアにとっては性別の違いからあまり理解できないモノではあるが、その時に見せた自然な表情は嘘ではないと言える。

 グレンは静かに空を仰いだ。

「……昔の話だ」

「昔……?」

 顔に憂いが見えたことに、ルミアは疑問を持った。

 その横から空気を読む努力を一切しないマイペースが口を挟む。

「お兄さんも、本心では魔術のことは好きなんですよ」

「……だったら、先生はなんで授業をサボっているの、ノエル君? システィ、泣いていたよ……」

 好きならば何故、魔術の教鞭(きょうべん)()る事をせず、怠慢(たいまん)*4を身に宿すのか。システィに対し厳しい言葉を投げかけるのか。

 不機嫌――よりかは、罪悪感を抱いてか。一瞬、グレンは舌を出した。

「そこはどうにかして、お前が慰めてくれ。仲いいんだろ?」

「そうですけど――」

「夢を追っても文句は言いませんよ。現実を見ないその姿勢が一番ダメなんです」

 我関せずの姿勢を貫くノエル。システィの身を案じるより、例え残酷であろうと、見て見ぬ振りをし続けたその姿勢を崩す事をしたのだ。

 ただ泣かせたわけではない、ノエルのその心意気を知り、彼女の友であるルミアは安堵する。

「あの……聞いてもいいですか?」

「内容による」

「……グレン先生って、学院の講師になる前、何をされていたんですか?」

 教鞭を取ること無く欲に身を任せ、教卓を寝床とする毎日。態度から前職(ぜんしょく)を察することができない。

 それもそうだ。グレンの前職は、周囲に言い振らせるような誇るような事ではない。それは置いとき、前職は何かと聞かれると。

「家に引きこもってお母さんに追い回されていましたよね」

 引きこもり、これに尽きる。

 ノエルにバラされたが、グレンは慌てることもなく。

「間違っていないから何も言えん……」

「引きこもり?」

 ルミアの想定外。え?え?と、グレンをまじまじと見る。

「はい、引きこもりです。Repeat after me(ルミアさんも繰り返して)?」

「え? ひ、引きこもり?」

「繰り返すな!!」

 だが、何度も繰り返されて無反応でいられるほど、羞恥心(しゅうちしん)をゴミ箱に投げ捨てている訳ではない。

「お兄さんも、お母さんのところでお世話になっているんです」

「アルフォネア教授のところで?」

「はい。お兄さんはお母さんの息子の息子みたいなものですよ?」

「そうなんだ――じゃあ、ノエル君は?」

「この見た目ですから――ね」

「――あぁ~、わかっちゃった……」

 外見は完全に美少女なのだから、それはもう――娘にしか見えないだろう。

「ノエルを男として見ろっていうのが無理な話だろ」

「そうですよね。ノエル君を男の子として見れないですよね」

 グレンとルミアも、含みを持ったノエルにうんうんと頷く。

「じゃあ、先生が引きこもりの前は――?」

「そこは言えません」

 口に人差し指を添える。本当に言えないことらしい。

 立場は変わり、ノエルが質問を返す。

「ルミアさんは、魔術のこと――どう思ってます?」

「どうって言われても……ノエル君のような見方をしているのかなぁ……私」

「ほうほうそれで」

「崇高とか、偉大とか、私には考えることができないけど、魔術を人の力に役立てるようにしたいって思っているんだ」

 その顔はどこかスッキリと、芯を持った笑顔だった。誰かに否定され、簡単に折れるような願いでは無い。

「システィさんとはまた違った考え方ですねぇ」

「ノエル君は?」

「私も、大体はルミアさんと同じ考え方ですけど、メリットとデメリットの両方を見つけるのが楽しいですし」

「性格悪いよな、ノエル」

「事実なんですから、悪いも何も無いんじゃないですか?」

 ただ事実を()う。それでも性格が悪いどうのこうのは関係ありそうだ。優越至極以下略。

「でも、魔術って存在が既にあるから、それにどうのこうの言っても仕方ないんだよね」

「うんうん」

「当然の考えだな。じゃあお前はどうするんだ?」

 既に社会に存在を知られているものを無しにすることなどできない。

「魔術のことをよく知って、考えなければ、何が悪で何が善かの判別もできません」

「ルミアさんも頑張ってますねぇ」

「だから、もっと魔術のことを知らないといけないんです」

 その目には、意志が宿っていた。

 

 

「昔、誘拐されたことがあるんです」

 

 足元から伸びる影を見ながら、ルミアは独白し始めた。

「三年ぐらい前の話なんですけど、前にいた家をある都合で追放されて、システィの家に居候させてもらっていて――その頃、悪い人達に捕まって、誘拐されそうになったんです」

「見た目によらずハードな人生送ってんな……」

 学院生から天使と称されるルミア。その口から語られる昔話が似合わない。

 ルミアは表情を変えず、話を続ける。

「どうして私ばっかりこんな目に遭うのって、すごく不安定で、とても怖かったんです。自分では動けなくて、身体が震えて、怯えていて。もう駄目だって――多分そんなことを自覚もしていなかったと思います」

 3人が並び、真ん中に居るルミアの影は、その時と当てはまるのか。誘拐され、両端を固められているその姿が想像できた。

「でも、ある人が助けてくれたんです」

 続く話を遮ることはせず、聴きに徹する二人。街の喧騒がこの街の平和を比喩している。

「悪い人達をためらいもなく殺害していくその人、音だけでしたけど、すごく怖かった。でも、私に近付くと声を掛けてくれて――暖かい言葉を掛けてくれて、すごく安心できたんです。

 その時の私、余裕なんてなかったんです。今のようにこうやって先生とノエル君と話も出来ない程に、人との関わりと経っていたんです。――お礼も言えていなくて、それが心残りで」

 寂しげな顔をするルミア。恩人に複雑な感情を持っているのだろう。救ってくれた人に対し一言伝えたい面もあるが、人を殺すのに躊躇なく刈り取ったことに怯え、あと一歩が出ない面もある。

「ほぉー、それは難儀だな」

「私、その人にお礼が言いたくて……恩返しがしたいんです」

 それでも、名も知れぬ人に恩返しがしたい――義理堅い。

「あの人が悪い人達を殺害してくれた――人を殺すことは悪いことなのは分かっているんですけど――魔術師かどうかは判らないんですけど、その人の手がかりが掴めればいいかなって、魔術のことを学び始めたんです」

「ふーん」

 興味なさげに鼻を鳴らすグレン。彼の態度に、ルミアは少し暗い表情をする。

「先生は……どう思ったんですか?」

「いや、なんともご都合主義で夢物語みたいな展開だ――って。流石に都合のいいことが起こりすぎてないか?」

 誘拐という言葉からそんなことはないと判っていても、そう思わざるを得ない狙ったような展開。グレンはどことなく小馬鹿にしたように。

 その言い草に、ルミアも笑う。

「でも、事実は小説よりも奇なりって言うじゃないですか」

「確かにな。俺の妹分がこんなのだったり」

 そう言って、ルミアの横のノエルを見る。ルミアも釣られて、視線をノエルに動かす。

 確かに、腰下まで伸びているストレートの藍白(あいじろ)髪。顔は女顔を通り越して、もはや千載一遇レベル。身体も腰が(くび)れていると見て取れる。声も女声――よりは少女声。

 こんな可愛いカンペキ美少女が男の子だと、言われても信じないだろう。

 そんな視線を受けても、ノエルは足元の影をじっと見つめている。

「ん? どうした、ノエル」

「いや? なんとなく気になっただけです」

 

「あ、先生。私こっちです、システィのお屋敷に下宿しているので」

「じゃあ、また明日です~」

「うん。先生も、また明日~」

「気をつけろよ」

「あっ、システィさんのこと慰めてくださーい!」

「わかったよ~!」

 

 

 

 

 その背中が見えなくなると、2人は歩き出した。

「お兄さん、どうします?」

「明日の反応次第だろ」

「……悪い笑顔してますねぇ」

「ノエル、お前もだ」

 

 

「あ、これ来週の昼食費です」

「……すまん、ノエル……」

 

 

 

 

*1
荒野でコロコロ転がる植物の一種

*2
出展:Google検索

*3
代表的なものとしてユダヤ教における考え方がある

*4
なまけて、仕事や業務をおこたること。




ところで推薦。
明らか私怨過ぎてどういう反応すればいいの。
参考にならなかったって押せばいいのかな(ゲス顔


さて、グルオリやるか……(WR10位内並感


08/24
「01ブラッシュアップ」の一環。
文章の変更、修正。

07/09
ブラッシュアップ。
07/04,07
表現の変更、誤字修正。ブラッシュアップ。

2019/06/28<14,812>
α版。見直し必須。
15:48
描写不足の追記、誤字修正。ブラッシュアップ。
結果、15,216字。修正前から増えた。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。