記憶喪失の私は記憶喪失の養子になりました   作:TAKUMIN_T

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2019.6.28 日刊ランキング97位
これに関して申し開きを聞こうか……。


グルオリと777town.netと東京フレンドパークとクラフィとハーメルン漁りしてました。

ノエルの外見イメージが決定。
パチスロ〈大海物語4〉の「マリン」。男の娘だからね。
https://chonborista.com/wp-content/uploads/2018/03/ooumi4_top.jpg〉※画像への直リンク
https://p-mart.net/sindai/slot_ooumi4/assets/img/kiji/001/001_11.jpg〉※上記参照
アニメタッチの方だからわかりやすい。
最初からルミアより背が高い設定だったのは内緒(161~2cm以上→164cm)。


005.01-04:for Endless runners / 1

 

 

 

 

 とある日。

 

 

 ガサゴソ――

 

 

 箱の中からガラス棒を2本取り出し、見比べる。片方を仕舞って、もう片方は持っていく。

 

 

 ガサゴソガサゴソ――

 

 

「あ、これをこうすれば――」

 

 

 自分の城(じしつ)に籠もり、机に向かって座り、手を動かし続ける。持つ鉛筆が紙に着地、線を引き、思い悩んで消しゴムで消していく。

 線がが紙の隅々まで走り、要所で脚注が付けられる紙は、床に落ちている卓上にある紙を横に繋げれば、更に続いていく。

 

 端的に言えば、()()()()()()をわざわざ書き直している。

 

 その後ろ、膝くらいの卓上には正方形の台が置かれている。そのまた上には、光を反射する黒い板が1枚、緑色に金色の線が走る板が1枚、付属のパーツも合わせてかなり細かいものだ。で、光を反射しない、(ふち)()()()()()黒い板が1枚。その周りには、様々なことが書いてある紙――設計図が散らかっている。

 

 その板に近づいて、書き直した設計図と睨めっこしながら、緑色の――基盤に回路を再構成していく。ガラス棒を回路に当てると、そこの部分が消え、違う部分に回路を付け加えていく。

 そして、そのパーツを彼女は組み立てていく。

 

「うっごくっかな♪」

 

 黒い板の側から少しだけ飛び出ている部分――()()()()()をウキウキワクワクと押す。

 ほんのり明るくなる前面。漆黒なのだが、後ろから光があたっているというべきか。

 ――バックライトが起動していた。

 

 

 

 

 

boot sequence(起動中)

 

 

 

 

「ふぅあふぅあ!!」

 目を煌めかせ、同心に還ってる。自分が作ったものが、動いている。興奮するに決まっている。

 何を隠そう、ひとりでに板に書かれる絵が動いている――画面が付いているのだ。

 

 

 この世界に、全てを凌駕したオーバーテクノロジーが誕生した瞬間だ。

 

 

「やった!」

 その板を手に取り、その胸に抱いてぴょんぴょん跳ねる。

 再度目の前に板を両手で見て、その板を掲げると。

 

 

 

 

ARTPanel(アートパネル)!」

 

 

 

 

 ノエルは笑顔で、部屋から飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 ――Mini event a one years ago.(一年前のちょっとした出来事)

 

 

 

 

 

 

 ごらん、システィーナ。あれが〈メルガリウスの天空城〉だよ。

 

 何の変哲もない空に浮かぶ、明らかな人工物。

 祖父はしゃがんで、視線の高さでそれを指してくれた。

 

 綺麗だろう?

 

 確かに、この世のものとは思えない、空想的な神秘がある。当時は、なぜあるんだろうと思っていた。

 

 わしの生まれるずっと前……何千年も――気の遠くなる昔からこのフェジテの空に浮いているのだよ。

 

 祖父の知らないところ。それだけでも驚きに値する。

 祖父のことを見れば、あの城を話しているときはいつも目が若者のように輝いていた。

 

 わしはな――皆が偉大な魔術師だとわしのことを言うが、わしが、魔術を極めんとした理由は、あの城について、千年もここに浮き続けるその謎を――一度でいいから、あの城に足を踏み入れてみたい――その姿を間近で見てみたいんだ。

 

 まるで少年のように、夢を追い続ける老人が居た。

 

 時折、研究成果に自分の考察や仮説、天空城に関することを話してくれた。それを聞くのは、彼女も大好きだった。

 

 

 だが、歳には勝てなかった。

 年々足腰が弱り、外を出歩くどころか、室内さえ歩くことができなくなった。晩年は、ベッドに寝たきりだった。

 

 誰もが挑んで、誰も実態を掴むことができない。

 幻想の城。それがメルガリウスの天空城だった。

 

 眼の前にあるがゆえに、手を伸ばしても届かない現実がとても残酷だった。

 

 隣で手を握った。

 弱くも、しっかりと握り返してくれた手は、冷たくなり始めていた。

 

 

 

 

あの城を――見たかった……。

 

 

 

 

 寂しそうに、とても哀しそうな目をしていた。

 

 

 祖父のベッドに、もう誰もいない。

 換気目的で少しだけ空いた窓から風が入り、カーテンの端を揺らす。日差しが枕元に刺すが、眩しがって手で目元を覆う人はもういない。

 

 

 空を見れば、幾多の人々を虜にしてやまない、いつもフェジテを空から見下ろす天空城。

 祖父が抱いた、夢の具現化。

 

 

 あの時、家の玄関先で見上げていた天空城。

 

 学園の前で見上げても、その城はいつ何時(なんどき)も変わらず、この街で浮き続ける。

 

 

 ――そして、受け継がれた祖父(システィーナ)の夢。

 

 

 解いてみせる。

 

 

 ただ純粋に、夢に見せられた者として。

 ただ、(いち)魔術師として。

 

 

 

 

 夕焼けが窓から差し込む。もう、ベッドにまで影が後退していた。

 

 ――明るい。あまりにも明るすぎる。

 

 システィは立ち上がった。窓に近づくと、日が目に入る。眩しくて思わず手で日陰を作る。それでも近づき、無造作にカーテンを締めた。そして、再びベッドに倒れ込む。手を伸ばすと、枕を手に取り体全体で抱いた。

 

 寂しい。

 

 メルガリウスの魔法使いを嬉々と語ってくれた、同じように顔を綻ばせ興味津々と付いていったのを可愛がってくれた――祖父が恋しかった。

 夢をいつでも初々しく語ってくれた、祖父が眩しかった。

 

 それが、崩れてしまった。

 

 逃げてしまった。

 見ないようにしていた――見ていなかった、魔術を見てしまった。人を簡単に殺めれてしまう、魔術。魔術という特異性の生んだ、人の優劣の認識。信じ続けていた魔術が、同じように信じている人間によって、誰も見えないところで変えられてしまうことを。

 耐えられなかった。

 純粋に魔術に向き合って来た彼女にとって、これ以上ない仕打ち。なんで魔術を学んでいる、その意欲でさえ削ぎ落としてしまう程に、彼は一番残酷な言葉を彼女に向けた。

 なにも反論できなかったのが悔しかった。全部事実だったから。反論したって、言葉が返される。

 

 

 

 

 何の為に、私は魔術を学んでいたの?

 

 

 

 

 枕が湿る。

 声が出ず、ただ身体を震わせる。

 

 

 扉の開く音がした。

 

「システィ……?」

 

 気を窺うような、親友の声が聞こえた。

「入るね……」

 音を立てないよう、静かに扉が閉まる。足音が近付いて、ベッドが少し揺れる。

「大丈夫、システィ……?」

 近くなった声に、顔をさらに枕に沈める。

 

 誰とも話したくない。誰の話も聞きたくない。気遣ってくれるのは有難いが、そんな事を聞かされたくない。

 

「ノエル君、言ってたよ。夢を持つのはいいことって。でも、現実を見ないことが一番ダメなんだ……って」

 

 判っていた。とっくに判っていたはずだった。

 夢を見るのは簡単。とても簡単なのだ。

 想像していればいい。自分の都合にいいように思い浮かべていれば、簡単に夢なんて作れてしまう。

 あの一言が、また蘇る。

 

 (わがまま)を貫き通すんですから。

 

 

 

 

 

 

 

 ――夢って、我儘じゃないですか?

 

 

 

 

 そんな事を、屈託もない笑顔で言ってきそうなノエルが浮かんだ。

 

 そう、我儘。

 

 我儘でいいじゃないか。それが大好きで、他人に否定されようとも、絶対に解き明かそうとする。とっても頑固で、自分勝手で我儘じゃないか。

 夢を追っている人間が、我儘ではイケない理由なんて存在しないじゃないか。

 

 ノエルは、メルガリウスの魔法使いが好きと言ったシスティに何も言わなかった。だが、それに夢見る、憧れる者が多いからこそ何も言わなかったのではないか。たぶん「平凡ですね」と言っているに違いないだろう。説明不要と言ってもいい。

 一言も否定なんてしていなかった。

 ただ、魔術の現実を言っただけだった。それらを見なかった私達が、大人によって守られていた、見させないようにしていた。

 少し考えれば、なんて自然な事。

 

 

 

 

「システィ、逃げちゃダメだよ……」

 

 

 

 

 親友の力強い声。

 ベッドが浮き上がった。足音が離れ、扉が開いて、閉まる。

 残るのは、自分の鼓動と、息。

 それらは、とても落ち着いていた。

 

 

 頭を上げた。

 窓外(そうがい)の夕焼け空が見える。

 

 

 幻のように、蜃気楼の如く立ち消える、誰もが抱く夢。

 

 そして、あの天空城は誰も拒まない。

 

 

 =16:19:20

 

 

 

 

 

 

 

SCENE 03

for Endless runners(夢を追う者達へ)

 

 

 

 

 

 

 →15:47:52

 

 

 アルザーノ帝国魔術学院。

 

 一名を除き、全生徒が席に付いた2年次生2組。居ないのは、システィとルミアの間――ノエルの席が空いている。

 席隣のシスティは、昨日ノエルに残酷なまでに言いくるめられて、泣き顔を生徒に出してしまった。気の強さが有名であった彼女の、違う一面。魔術に対し真摯に向き合い、その結果ノエルに、向き合おうと思うことすらなかった負の部分をまじまじと見せられた。

 

 そう、彼女以外も例外ではない。

 

 魔術大国として、なぜアルザーノが名を馳せ、大陸にその名を轟かすのか。

 それは魔術の扱いが長けているから。

 魔術を軍事に転用できる技術が、周辺国と比べ先を行っている。

 

 軍事のパワーバランスが上だから。

 

 極論で言ってしまえば、そう行き着いてしまう。

 平和であるこの瞬間も、大量殺戮が可能な魔術技術が周辺国より高いことが理由で、侵略するメリットが薄いからだ。もし他国が実行に移したとしても、反撃により、その他国の軍事力低下というリスクが背中に乗ることになる。だから攻めることができない。

 黒板に視線を向ければ、そのパワーバランスを比喩するかのように。

 

 

 

 

 まじゅつ = なんのため?

 

 

 

 

 ノエルの字で書かれた、とても軽い文字。そして、重い意味を持った文字。シンプルな言葉に、ノエルは何を見ているのか。

 

 授業時間が刻一刻と迫る中、生徒のざわめきは多くなってくる。

 今日はグレンが来るのか、ノエルはどうしたのか、システィにあんなことを言って罪悪感で休むのか。

 憶測がさらにざわめきを大きくする。

 

 そんな時だった。

 

 ガラッ――

 教室の扉が開く。

 

「お兄さんのせいで遅くなりましたよぉ」

「なんで俺にやらせたって言ってるだろ……?」

 

 昨日と変わらないグレンに、同様に変わらないノエル――()()()()()()

 

 ――ガタッ!!

 

 主に男子(一部)の席から物音がする。

 元気いっぱい、カジュアルスタイルの髪型。昨日と違うノエルの雰囲気が感じれる。

 具体的に表せば、妹から幼馴染にランクアップ。お近づきなりやすくなっている。それこそ思春期の男子諸君にどストライクな髪型な訳でありまして。ぜひともお近(検閲されました

 なんと言われようが、女子制服を着てほしいと三顧(さんこ)の礼*1を誤用だとしても挙行したいほどに。

「――ッ! ッ!」

 思春期男子の代表として、カッシュ=ウィンガーが机に伏している。新しい扉を危うく開きかけたか、もう駄目だと白旗を振ったか。どちらにせよ、同情の余地しかない。Armen...。

「わぁ――」

 髪を後ろで纏めただけ。それだけなのに、ノエルの佇まいの変化にルミアが目を輝かせている。()()なのが勿体無以下略。

「あ、子猫さん。ルミアさんから話聞きました?」

 教室を一瞥したノエル、目敏(めざと)くシスティに声を掛ける。

「……何?」

「あ、大丈夫そうですね」

 返答で大体を察することができたのか、早々に頷いている。ルミアに顔を向けると。

「ルミアさん、ありがとうございます~」

 一体、何についての話なのか。当事者でなければ判らないが、生徒はクエスチョンマークが頭に浮かぶ。

「ノエルぅー。持ってこいよー」

「はいはーい」

 教卓で頬杖をつくグレンに催促され廊下に出ると、何かを抱えて持ってくる。

 

 〈Magic〉

 

 ……手品でもやるのか。そう思わざるを得ない、シンプルな文字が書かれた無地の木箱。蓋が無造作に載せられ中を確認することはできない。歩くたびポコポコ浮き上がっている。

 すると、グレンが生徒を一瞥し。

「さて、お前ら」

 

 

 

 

 何の為に魔術を学んでいる?

 

 

 

 

 独りでに話し始める。

「正直に言わせてもらうが、俺は魔術に憧れを持って、崇拝しているやつを馬鹿だと思ってる。

 なぜ? 簡単だ。そういうやつに限って魔術という存在を考えることがないからな」

 〝魔術〟というモノは知っている。なら、その存在は一体どういうモノなのか。当たり前のように存在しているが故に、抱くことのない疑問。

「正直に大嫌いですって言えばいいんですよぉ?」

「ノエルは口閉じてろ!」

 横槍を制するグレン。本人(ノエル)は何度もタイミングを伺っているから堪えてはいないが。

 息を大きく吐き出して、ある一点を見る。

「なあ白猫」

 猫耳(システィ)がピクッと反応する。――飾りだよね?

 

「ノエルから言われたことに答えは出たか?」

 

 見定めるような視線。これは、彼女の覚悟を問う言葉。ノエルが伝えた、真意を掴んでいるのかを見定める一言。

 だから、答えは変わらない。

 

 

「……夢を追うために、必要な事よ」

 

 

 もう迷わない。

 自分自身に正直に、そして我儘に。きっぱりと言い切った。

「わがままですねぇ」

 ノエルは笑顔だった。

 昨日と同じ、システィの心を折った時と同じ。

 だが、システィもノエルを見て動じることは無い。悪意が無いからこそ、自分自身が冷静になるべき。

 グレンは一瞬、口角をあげる。そして、いつもの表情に戻り。

 

 

 

 

 

 

「じゃ、授業を始める」

 

 

 

 

 

 

「――え?」

「どういう風の吹き回しだ……?」

「……」

 教室がどよめいた。昨日まで教卓を寝床としていたのに、今日はその態度を一変し、授業を行うと言い出した。

 グレンの横の、知っていたはずのノエルも目を見開かせている。

「なんか寄生されました?」

「お前が言うなお前が! ……で、これが呪文学の教科書――」

 冗談にしても、兄に対して酷い言いようだ。

 言葉を返しながら、グレンは教卓に乗る教科書を手に取り、軽くパラパラと捲ると、言葉が出なくなっている。

「どうです? すごいですよね」

「……皮肉たっぷりの言葉。どうも」

 何に対してすごいと言っているのか。彼の顔が苦いものになっている。ため息をつくと、あろうことかその教科書を両手でパンッと閉じた。

 授業をするのに、なぜ閉じる?

 生徒の疑問に、教科書片手に窓に近づく。全開にし、右手に教科書を持って投球フォームに――()()()()()()

 

「そぉーい!!」

 

 右手からリリースされる教科書、紙がパラパラとこれ見よがしに中身を見せびらかす――。

 

 ガサガサ。

 

 どこかの草むらにジャストミートしたか、なにやら()()の擦れる音が。これは紙が破れるパティーンですね(無関心

 あぁ、いつものグレンだ。そんな安堵感――は捨てるべきなのだが、呆れたような生徒は、手元の教科書を開こうとする。

 だが、グレンは止まらない。

「さて、授業を始める前に、お前らに一つ言っておくことがある」

 

 

 

 

 

 

 お前らって、馬鹿だよな? 本当に。

 

 

 

 

 

 

 ニヤリと、小馬鹿に――馬鹿にしたように嘲笑(あざわら)うグレン。

「ノエルがお前らにちょっとした実験を見せて解けなかったり、呪文の共通語訳を教えてと質問していたりするのを見ているとな、やっぱりお前らは魔術のことをなぁ~んにも判っちゃいねぇ。

 挙句の果てに、魔術の勉強と称して魔術式の書き取りときた! ――――もうね、笑っちゃうぜ? 何アホなことやってんだってな」

 今まで学んできたことを一蹴。馬鹿だアホだ、言いたい放題。生徒の中でイラッと来たのも居る。

「ショックボルト程度の1節詠唱すらできない貴方に言われたくないですね」

 両手を上げてお手上げと態度をとる彼に、ギイブルは軽視するように反論する。

 今まで学園でやってきたことが、今の自分達を形成していることに変わりはない。だが、それを自分より下の、1節詠唱ができない人に蔑まれる覚えはない。

 グレンは肩を竦める。

「あぁ、その通りだが? で、何が悪いんだ?

 俺は男に生まれたが、先天的に魔術操作の感覚と、略式詠唱のセンスが致命的なまでにダメでな。正直、それを言われると耳が痛いんだなこれが。

 で、1節詠唱か? 速さ以外のメリットはあるか? 1節詠唱と3節詠唱の違いは? その他のデメリットは何だ? 答えられるか?」

「……くっ……!」

 舌戦に破れたりインテリメガネ。相手の場数が圧倒的に違った。そしてギイブルくんがまた72(ちはや)さんに……。

「……あぁ、意味履き違えてますねこれは」

 開き直り逆に攻めるグレンの横では、ノエルがひとり勝手に納得している。

 ()()に? 言うな。

「ノエルさんはできるんですの?」

 その態度に、ふとした疑問を口に出すウェンディ。

「そう言えば、見たことないわね……」

 システィも記憶を巡らせる。確かに、マジカルスティックと回路(サーキット)を2組生徒に見せたりはするのだが、誰もが思う純粋な魔術を見せたことはまだ一度もない。

 そう考えれば、小手先の技術力はあるが、魔術力は無いと捉えられても疑問は無い。

 あー、とグレンが気不味(きまず)そうに頭を掻く。指されたノエルは、何の気なしにグレンに訊く。

「んー、言っていいですか?」

「お前の基準で――じゃねぇな……――常識の範疇でな」

「そうですね――」

 すこーし考えて、口を開いた。

 

 

 

 

 イクスティンクション・レイを()()()()()()()()()ですかね?

 

 

 

 

 素っ気無く、特に気を使うわけでもないノエル。普段通りの雰囲気で、何を口走ったか。

「――はっ」

 理解が追いつかなかったウェンディ、しばらく立って意識が戻る。そして、理解が追いついて顔を引きつかせる。

「な、なに言ってるんですの!?」

「アレは改造というより、もう新しい魔術だったな……」

 有り得ないと言わんばかりに即座に否定するウェンディに、しみじみと遠い目をしているグレン。

 既に完成された魔術を改変するだけでも大変な努力が必要なのだが、改変したのは黒魔術の中で()()()()()()()を誇る高位魔術の〈イクスティンクション・レイ〉。グレンの話を頼りに推測するなら、原型が殆ど無いと言っているようなものだ。

 

 しかも、遊ぶ。

 

 全てを木っ端微塵にできる魔術で遊ぶと言えるのだから、イクスティンクション・レイを暴発させない自身がある、つまり、()()()()()()()()()()()()()と断言してもいい。

「なっ、な、ななな――」

 壊れたレコードのように語頭(ごとう)を繰り返すウェンディが哀れとしか言いようがない。あまりにも世界が違いすぎる。

「セリカと正反対の性格だしなぁ……」

 ボソボソと独り言するグレン、何を正反対というのか。

「ノエルに魔術で勝負を挑もうとするとひどい目にあうぜ? 見た目に油断して完敗した奴らを何人も知っているからな。

 そうだな……お前らが大切にしている位階とかで言ってしまえば――」

 

 

 第七階梯(セプテンデ)相当だぜ?

 

 

 空気が固まる。

 全魔術師の届かぬ憧れ、人外相当の第七階梯(セプテンデ)と言ってもいいと。突然で信じられる訳も無し。

「ノエル君……? 本当なの?」

 ルミアが先陣を切り、訊く。ノエルはうーんと声を出しながら、かる~く考えている。かるーく。

「お母さんがそう言ってるし、多分そうなんじゃないですかね?」

「イクスティンクション・レイを同等性能の簡易式にしてオリジナルの1節詠唱、それを並列して10個展開するやつが第七階梯(セプテンデ)以下な訳ねーだろ」

 グレンが語ったのは、あまりにも具体的であり、出鱈目(デタラメ)であり。

 なにそれお化け。有り得ないのを見るかのように、生徒の視線がノエルに集まる。

 

 

「テヘッ! 楽しくてやっちゃいました(キラッ」

 

 

 ケロッとしてやがる。

 (イコール)遊びでやった(まる)

 

 どこぞの魔術師が聞いたら、蟹みたいに口から泡吐いてぶっ倒れるぜ。もうね、蟹になりたいねとか言って現実逃避する。

 

 システィは目を見開き、放心気味。ルミアは目をパチクリさせ、()()()()()()想定される規模を考えて――()も無く、自分には判らない世界だよと終着し、考えるのをやめた――。

 ウェンディは蛇女の目を見たか、石みたいになっている。隣の友人、紫長髪ストレートのテレサ=レイディは彼女を突いている。無反応をいいことに更に突いている。

「な、なぁ先生。じゃぁ、今から何やるんだ? 教科書を投げ捨てたけどさぁ……」

 復帰したカッシュが言葉に詰まりながら空気を変えようと質問。その通りだろう。生徒の知る魔術は、殆どがグレンが窓外に投げ捨てた呪文書にかかれている。そんな事をして、いまさら何をやるのだろう。

「良い質問ですね! カッシュ君!」

「――え、あ、はい……はい……え?」

 すると答えたのはノエル。いつの間にかメガネを掛け、ブリッジ*2を右人指で押して、まさにできる生徒の雰囲気を出す。

 カッシュはNice Question(いい質問)とノエルに返されて戸惑っている。あ、親指(Good job)上げてる。

「ノ、ノエル君……?」

「伊達メガネだ、言ってやるな……」

「そこ、ルミア君。私語は慎むのです!」

「は、はい……?」

 教師というより、背伸びした子供が自信満々に知識をひけらかそうと見える。なんとも微笑ましい姿。なお中身以下略。

 グレンもその手におえないと引率を放棄している。ルミアも困惑しながらも流れに身を任せることに。

 ノエルはグレンの隣に並び、チョークを左手に取る。

「今回やる題材は、お兄さんと相談しましたけど、初心者用にすることにしました」

「今までの態度からそれがわかったからな。せっかく話題に上がったんだ。今回、お前らに()()()()()()()()()()()を教えてやるよ」

 

 

 〈ショック・ボルトの基本〉

 

 

 息が合ったように、ノエルが後ろで黒板にカキカキ。あと棒人間を2人を描いている。あ、片方感電?してる。

 だが、生徒達は納得していない。

「ショック・ボルトの基本?」

「なんで今さら……」

「誰でも唱えられるよな」

 

 〈ショック・ボルト〉

 

 手から雷を出し、命中した相手を感電させる黒魔術。難易度は低く、()()()()()()()として広く知られている。

 シンプルな効果だが、相手を一定時間行動不能に可能な為、軍事用にも転換できる応用性を持つ。

 

 何故、今頃初心者ができる魔術を学ばなくてはならないのか。抱く疑問の原因だ。

「はぁー……、ショック・ボルト程度、僕たちはとっくに極めているんですが?」

「ほうほう。ギイブル君が言うからには、皆さんは極めているんですね?」

 呆れたようにやれやれと首を振るギイブルに、ノエルの目がキラリと光る。獲物を見つけたような目だ。

「ショック・ボルト程度……確かに()()()()ですけど、できるとできないは相当大きな違いなのです。(ゼロ)なのか(イチ)なのかの違いは相当大きいのです。

 一つ物事ができるだけで可能性は広がりますけど、できなければその可能性が閉ざされることになるのです」

 できる、と、できない、は全く違う。それこそ天と地の差だ。

 だが、ノエルが言っていることは、今の授業の内容と一切関係が無い。

 ……あ、ウェンディが復帰した。

「まあ、そこは置いといてですね……ショック・ボルトは何を持ってショック・ボルト()()と言えますか?」

 程度。

 初心者用の魔術であることに変わりはないが、何を持って()()と馬鹿にできるのか。

「じゃあノエル、お前が問題を出すか?」

「えー、お兄さんが出してくださいよ―」

「わーったよ、全く――」

 ノエルにグイグイと()かされ、グレンは黒板にショック・ボルトの呪文を書いていく。

 

「雷精よ……紫電の衝撃以て……撃ち倒せ――」

 

 

 雷精よ(Ραισειψο)紫電の衝撃以て(Σιδενννοσηουγεκιμοττε)撃ち倒せ(Υχηιταοσε)

 

 

 書きながら、文を復唱する。書き終えると生徒に向き直る。

「これがショック・ボルトの基本的な呪文な。魔術操作のセンスがあるやつは〈雷精の紫電よ〉の1節で詠唱可能なのは説明不要として……じゃあ、次――」

 そういうと、また黒板に呪文を書き始め。

 

 

 雷精よ(Ραισειψο)紫電の(Σιδενννο)衝撃以て(Σηουγεκιμοττε)打ち倒せ(Υχηιταοσε)

 

 

「こいつを唱えると、何が起こる?」

 クラスが沈黙する。

 何故こんな事を訊くのかが判らないと例えてもいい。得意げな顔をするグレンがどこか憎たらしい。

「詠唱条件は――基本的な唱え方で勘弁してやるか。さて、誰か判るヤツいるか?」

 そう条件をつけられても、判らないものは判らない。再度グレンが催促するが、誰も答えようとするのがいない。

 優等生として名が通るシスティーナですら何が起きるのか判らず、知らぬ内に汗をかきながらも押し黙っている。

「まあ、答えられませんよねぇ。回路(サーキット)が解読できないんですから」

「全滅か、これはひどい」

 判ってたと頷くノエルと、うわぁと目を細めるグレン。

「そんなことを仰られたって――中途半端な節で区切った呪文なんてあるはずありませんわ!」

 声を上げたのはウェンディ。堪らず机を叩いて立ち上がった。

「そうですよね~あるはずありませんよ~」

 だが意外なことに、ノエルは賛同した。

 

 

 ――だって未完成の魔術なんですから?

 

 

「間違いじゃねーけど、違うだろ」

「み、未完成!?」

 昨日ノエルが言っていた、未完成の魔術。ウェンディが狼狽(うろた)える。

「別の言い方をすれば、()()()()()ショック・ボルトの呪文だな。さて、どうなる?」

 そこにグレンが補足を付け加える。完成された呪文に中途半端に節で区切ったのだ。欠陥のあると言い方は正しい。

 だが、グレンはその先を求める。

「まともに発動する訳がありませんわ!」

「そうですね。必ず何らかの形で失敗しますね」

 再度身を乗り出すウェンディとメガネを上げるギイブルが、各々負けじと反論する。だが、そこに一石が投じられる。カッシュだ。

「でもよぉ、先生とノエルがこの問題を初心者用として出したんだんだろ? もしかしたら、判ってるんじゃないのか?」

「おぉ、カッシュ君大正解。10点あげちゃいます」

「え、そうなのか!?」

「そうですよ~」

 まさかの大正解と言われ、カッシュは驚きを隠せない。ウェンディとギイブルも、同様に目を丸くさせている。

 グレンはクックックと笑いながら。

「完成したやつをわざと崩して詠唱しているんだぜ? まともに成功するわけ無いだろ。俺らは、これが何の形で失敗するかって聞いてるんだ」

 何故魔術の事後動作を訊いていたのかをネタバラシ。だが、生徒の反応は変わらない。

 それでも真っ先に、またウェンディが突撃隊長を買って出た。

 

「判る訳ありませんわ! 結果はランダムです!」

 

「 ラ ン ダ ム ! ? 」

「( ゚∀゚)アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \」

 

 グレンは素が出て、ノエルは * おかしく なった ! *

 ……おかしいのは元々か?

 

「ちょっと冗談やめてくださいよぉww」

「極めた!? お前らこれできないで極めたって言えるんだな? もうね、嘲笑うしかないぞこれ! 極めたww」

 堪えられず笑っているノエルと、ギャハハ!――そう下品に嘲笑うグレン。ノエルはまだいいが、グレンは……。

 この態度に、生徒は更に苛立ちを募らせる――。

 

 が。

 

 深呼吸を繰り返し、急に笑いを()めると、静かに。

「お兄さん、答え合わせです」

「――答えは――()()()()()……だ」

 ノエルが右手を窓側に向け。

 

 

「〈雷精よ・紫電の・衝撃以て・撃ち倒せ〉」

 

 

 手から出た雷は、直線に――進まず、右に進路を変える。そして進路上にある壁に衝突し、電気がガラスのように飛び散り、霧のように消えた。

 

 グレンの言う通りになった、欠陥付のショック・ボルト。的中させたその事実に、生徒の誰もが目を丸くする。一体どんなマジックを使えば結果を推測できるというのか。

 だがグレンは構うことはなく、次なる呪文を黒板に書く。

 

 

 雷・精よ・紫電の・衝撃以て・撃ち倒せ

 

 

「前のやつにこう付け加えると、射程が3分の1程度に短くなる」

「〈雷・精よ・紫電の・衝撃以て・撃ち倒せ〉」

 

 ノエルがそのまま復唱する。

 だが、壁にぶつかる前に途中で消えてなくなる。

 これもグレンの推測通りになった。

 そうする間に、グレンは更に呪文を書く。

 

 

 雷精よ・紫電  以て・撃ち倒せ

 

 

「こうすると出力がバカみたいに落ちる」

「〈雷精よ・紫電以て・撃ち倒せ〉」

 

 ノエルの右手が正面――生徒に向き、復唱する。

 が、生徒に届く前に、チョロチョロと揺れて何もなかったように消えた。

 その先にいた生徒は何も感じない、その事実に目をパチパチさせる。

 

 

「極めたんなら、これぐらいはできるようにならねーとな?」

「せやね~」

 

 

 グレンは見事なまでのドヤ顔。ノエルは左手に持った細長い棒で黒板をパシパシしている。どこぞの熱血教師だ。

 だが、誰も言い返すことができない。グレンが推測した現象、全てが言った通りになったのだ。自分達が理解し得ない、呪文と魔術のことをこの魔術師には、

 

 確かに何かが見えている。

 

「疑問を持つのは大事なんです。ですけど、なんで言葉を唱えれば魔術が発動するんでしょうか」

「常識で考えると、すっごくおかしいことしてるよな?」

「世界の法則に干渉しているという人もいますけど、なんで()()()()()()()()()()()()()()()()()()んですかね? この世界はゲームかなにかでしょうか?」

「ただの言葉の羅列だぜ? 仮に魔術式が世界の法則に干渉しているとしても、一見なにも関係がないだろう呪文を唱えただけでなんで魔術が起動するんだ? 」

「でも、誰も疑問に思わないんですよ。それが常識になっているんですから」

 

 常識を問われた時、何を何でもって〝常識〟と言うのか。

 言葉を唱えただけで魔術が発動するのなら、解釈次第では全人類がとっくに魔術を扱えても可笑しくはない。

 術式が世界の法則に干渉している。だったら、なんで()()()()()()()

 

「その言葉や記号を覚えただけで魔術を使うことができる。かるーく考えればおかしいと思うだろ?」

「そういうのを簡単に言っちゃえば、魔術に関する〈理論的根拠(りろんてきこんきょ)欠如(けつじょ)による魔術関連の応用能力の欠如〉と言ったところですかね?」

「難しくなってねぇか?」

「いいんですよ判れば」

 グレンから苦言を刺されながらも、ノエルは黒板に書いていく。

 

 

 理論的根拠:

 現実的な事象などではない理論の側面からの裏付け。理論面での根拠。*3

 

 

 何も間違っていなかった。

 魔術を学ぶ際何より大事にしてきたのは、習得や実用法。ふと浮かぶ疑問もそれらから連想するものばかりだったのだ。

 魔術なんて、()()()()()()()()()()()()()()、必死になって覚えれば、扱える人はいつの間にか扱えられるようになってしまうのだ。覚えることを繰り返し、どんどん行使可能な魔術が増えていく――それが生徒達にとっては何よりも楽しかった。

 覚えた呪文の行使難易度で誇らしくなったり、覚えた呪文の数を競い合ったり。

 

 ――それが魔術師のとして、優秀である証だった。

 

 

 だが。

 

 

 振り返ってみれば、()()()()()()()()などの根本的な部分があまりにも疎かに――この学院ですら教えてくれる人がいなかったのだ。

 

「ぶっちゃけて言っちゃえば、構造なんて判っていないから皆さんの扱う魔術は発展すらしないんですよ。()()()()()の魔術を応用できるわけないじゃないですか」

1+1=(いちたすいちは)? と、訊かれて()と答える。なら1+2=(いちたすには)? さっきは答えられて、これは答えられない――お前らがやっていたのはこれと同じなんだよ」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()で、計算式を()()()()()()()()()で答えが判らなくなってしまう――ついさっき経験しましたよね?」

 

 

 

 

 

 

 これが、〈理論的根拠の欠如による魔術関連の応用能力の欠如〉と言った理論的根拠です。

 

 

 

 

 

 

 誰も意見を介在させられる余地が無い。意見を言える訳も無い。

 

「という訳で、今日は皆さんにショック・ボルトの基本を教材にします」

「やるのは〝術式構造〟と〝呪文〟の()基礎だ。これをお前らに教えてやるよ」

 

 

 

 

 

 

 ま、興味ないやつは寝てな。

 寝たら後ろから抱きつきますよ~? 社会的にヤッちゃいますよ~?

 

 

 

 

 

 

 ご褒以下略。

 この場で眠気を抱く生徒は、誰一人として居なかった。

 主にノエルの一言で。

 

 

 

 

*1
故事成語のひとつ。 目上の人が格下の者の許に三度も出向いてお願いをすること(出展:Wikipedia)。本来の意味とは真逆だが、そうしたいほどに必死にお願いしたいというニュアンスとして使用。

*2
左右のレンズをつなぐ、鼻にかかる部分。

*3
出展:weblio辞書




Q:なんで00:30?
A:00:00ちょうどに投稿しようとしたら見直しで時間が取られたから。できるだけ早く、切りのいい数字で30分を選んで、そのままズルズルと00:30になった。

Q:アニメ基準? 小説基準?
A:両方。闇鍋作っちゃうぞ~☆


まだテロリストには行かないんだ……残念だったな。
書きたいことが多すぎてな☆(白目

SCENE 04がテロリスト襲撃回になる予定。つまり次回は無いってことだ。

2019.07.08
マイペース更新。
 20:12
 誤字、想定表現の違いによる修正。ブラッシュアップ。
 見直しているはずなのにね、だから友人に天然って言われるんだ。
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