記憶喪失の私は記憶喪失の養子になりました 作:TAKUMIN_T
雨の影の下界のメア
僅かに灯る光が、ほんの少しだけ窓から漏れる。その光が何を照らしているかは、外からでは判らない。子供に親が絵本を読み聞かせているかもしれない。1人の研究者が、時間を忘れ夜通しで論文を書き上げているのかもしれない。僅かな想像が無限の可能性をその光に
平和な時間が流れる月光の
時間が経ち、一歩、また一歩。その足取りが変わることはない。
何処がおかしい。人を追跡しているなら、そんな感想を抱くだろう。
とある路地裏の角に差し掛かった時だ。
角から伸びる影から、手が伸びる。抵抗することなく、左手でその身を抱き寄せられた。――正確には、抵抗できなかったと言うべきだ。
――動くな。
耳元で呟かれる低い男の言葉。身が一瞬で強張る。恐る恐る視線を下に向けると、右手にナイフが握られ、首元に突きつけられていた。月光に照らされ、青白く輝く白銀の刀身。男がその右手を動かせば、自分の命は無い。何を考えずとも、一瞬で察せた。
だが、妙に冷静だった。
男は従順な事に疑問を持たず、その場から連れ去った。
たどり着いた先は、一種の牢屋。そこに1人で入れられると、後ろで鉄格子が閉まる音が聞こえた。本能で察した。悪者に捕らえられた――誘拐されたのだと。
ときおり鉄格子から風が流れ込む。それは
その人影――少女は、家出をした。
ある事情で元の家を追い出された彼女は、今住んでいる家に下宿として引き取られた。だが、元の家で告げられた一言で少女の心は相当に疲弊していた。
その様子を家に住まう家族は心配していた。だが少女に、その全てが届かなかった。
被害型の妄想性パーソナリティ障害*1――それが当時の状態だった。
もちろんそんなことを家の人も、ましてや自分が知る
そして、居たたまれなくなり、家を出た。
家出したからと言って、当てがあるわけでは無かった。――寧ろ、そんな当てなど一切無かった。今の少女に、誰かをアテにできる余裕は一片たりとも持ち合わせていないのだから。
あそこに戻りたくない。それが少女の一番の願い。もしここで死んでも――
それ程までに絶望していた。
檻に入れられて時間が経った。夜の底冷えする寒さ。少ない枚数で石畳から足に伝わる冷たさも、少女の体温を奪っていく。
そんな時だ。
――おい、なんだあいつ!?
――こ、こっちにくるぞ!!
鉄格子の外から慌てたような声が聞こえた。気になってふと顔を上げた瞬間だった。
何か肉を
頭が鉄格子の奥を通り過ぎた。
一瞬何が飛んだか理解できなかった。首から下の胴体は一体どうしたのか。忘れてきたのか。本能で目の前の事実を否定していた。だが、その認識が現実だと判ったとき、少女は恐怖に襲われた。
歴とした、死の恐怖を。
身体中から汗が噴き出すのが判る。鼓動が早くなっていた。死にたいと願っていたはずだった。それなのにいざ目前にその事実が
――う、ぅうぅぅう、うぅぅうわぁぁぁぁ
そしてもう1人。餌食になったであろう悲鳴。――急に途絶え、柔らかい物が落ちた音がする。
次は、自分だ。
刹那、頭をよぎった考えが彼女を恐怖へと落とす。もう頭を上げたくなかった。
足音が近くで止まる。そして、放り込まれたときと同じような鍵の開く音がした。
身をさらに縮こませた。足音が近づいて来る。
――大丈夫
頭を撫でられた。中性的な声で、声を掛けられた。
怖がりながら顔を上げると、フードで顔を隠し全身を纏う服を纏う人。下を見ると、飛び散ったと思われる一筋の血の跡。そして多少胸部が膨らんでいたのを見て、辛うじて女性であることは判った。彼女は何故、少女がこんなところにいるのか不思議なようだ。
目の前で視線を合わせるように膝をつき、少女の顔を覗き込む。思えば、少女の顔は酷いものだっただろう。泣いた跡に、生気の無い
久しく彼女自身に掛けられていなかった案じる言葉。不思議と心にスッと届いていた。
少女は何を言われているのか一瞬理解できていなかった。言葉を反芻し、その意味を噛み締めると彼女のことを「なんで?」というかのように見つめていた。彼女は言葉を読み取ったのか。
――話してみて
諭すように声を掛けた。
数分、言葉に詰まりながら要所を独白した少女は、目から光るものを零していた。彼女にしてみれば、突拍子も無い妄想だらけと感じたことだろう。しかしそんなことを少女に説明しても理解してくれる訳が無い。被害妄想に囚われている限り、全てを敵に見てしまうだろう。
彼女は少女の状態の正確な病名を知っている訳もない。ましてや、少女の素性を知っている訳でもない。
それでも、ただ一言だけ言葉を掛けた。
――無事でよかった
ポンポンと頭を摩られ、その手から人の温度を感じた。
忘れていた、母親のような温かさ。慈愛に溢れる手が。
――誰かの笑顔が見えた。誰なのか、それは判らない。
だが、
少女は泣き出した。
彼女は少女を手中に抱き、ただ見守っていた。
いつの間にか少女は寝ていた。肌寒さを感じ目を開けると、開けられた鉄格子と僅かに明るくなった外が見えた。いつから寝ていたのか記憶が無い。彼女の姿も見えない。
起き上がろうとすると、数枚の布が掛けられていた。彼女が少女の身を案じ掛けてくれたのだろう。そのお陰か、ぐっすりと寝てしまっていたようだ。
――大丈夫ですか!?
慌てたような声と、駆け寄って来る足音。誰か見知らぬ人が見つけてくれたようだ。
死者8人。5人が魔術師、3人が盗賊という犯罪グループと判明。人身売買を主とし、警察が行方を追っていた奴らでもあった。
死因は様々。心臓を一刺し、首を飛ばす、目を何かで穿った跡。どれもが致命傷となるもので、襲撃した者は短期で事を終わらせたかったようだ。
救助者として、14歳の少女。外傷がないことから人身売買目的に誘拐したと思われる。
襲撃者は救助者の証言から女と判別。しかし、それ以外の証拠がないことから立件はできないであろうというのが警察の見解だった。
通報後、少女の保護者となる下宿先の夫婦が急いで駆けつけた。その夫婦が警察に連絡をしていたようで、その対応はかなり早かった。身元の特定も直ぐに判明した。
保護されていた彼女が部屋から出た。顔を上げると、夫婦――主に夫が目元に涙を浮かべていた。静かに近づいて来ると、抱擁をされた。口々に、無事で良かった、ごめんなさい――。
初めて、自分が愛を受けて夫婦に保護されていたのか、判った。
警察署の外から出ると、すっかり日は上がっていた。快晴の空を自分の心に例えられると想像できた。
3年前――ルミア・ティンジェルに起こった出来事だ。
「偶然……だよね」
今では我が家と下宿先ではあるが胸を張って言える、その一部屋。ルミアの寝室。ベッドに寝る彼女は、天井を見ながら1人呟く。
無事で良かった。
無事で良かったです。
声は全く違う。それは断言できる。ノエルとあの時の声は似ても似つかない。というか少女声なのも男としてはおかしいが――。
それよりも重要な点で、身体が違う。あの時助けれくれた彼女は、全身が覆われていた中でも胸が膨らんでいたのが判っていた。そうなれば、そもそも男であるノエルが胸に何かを詰め込んでまで変装する必要性を感じない。むしろ女装――しそうだけど、そんな考えまず有り得ない。
ただの偶然。
そう自分に言い聞かせ、脳に漂う睡魔に身を任せた。
SCENE 05:Epilogue
アメノカゲ_ノ_ゲカノメア
とある日のアルフォネア宅。
ジリリリ
ある一室から鳴る目覚ましの音。布の擦れる音が聞こえ、何かポフポフ跳ねる音が続いて、ドアが開く。
「ふぁぁあ――」
出てきたのは大きく欠伸をする、上下フワフワ水色パジャマのノエル。ポニーテールも解かれて長い髪がお尻までだらぁんとしており、完全プライベート姿の
目をこすりながら2階から階段を降りて1階の台所へ行く。何時もならセリカとグレンがワーキャーしているのに、今日はその様子がない。それもそのはず、そもそも今日のこの時間帯に2人とっくに家を出ている。
セリカは元々アルザーノ魔術学院の教授職に就いている。家にいない時があるのは定職に就いている者として当然のこと。じゃあ、何時もなら夜這いする相手のグレンは? 今日に限っては朝早くから家を出ている。ここ最近としては珍しく、家にノエルが1人だけいる状態だ。何だかんだ騒がしい家族も、1人だとここまで静かになる。
いつもグレンに世話を焼いているから、1人でも自分の朝食を用意するぐらいは容易いこと。ノエル特製冷蔵庫から銭湯で売られていそうな瓶詰め牛乳と卵を3個。卵を割ってボウルに入れて思いっきりかき混ぜてフライパンにドバーッとすると、魔術で火を点けるコンロで焼き始める。どうやらスクランブルエッグを作るようだ。
少し焼き色のついたプリプリのスクランブルエッグに、しめて500mlの瓶詰め牛乳。朝食としては量が少ないが、最高の朝食と言えなくない。特にアクションも起こすことなく、せっせと食べ終わる。食器は別の容器に貯めた水に浸して汚れがカッピカピなるのを防ぐ。
次に向かったのは、階段を登って自分の自室――の横の衣装室。グレンはそこまで多くの服を持っているわけでもないので自室のクローゼットだけで事足りるが、ノエルの服の量は単純な比較はできないのだが、およそ2倍。まあ、部屋が服に埋もれているという訳でもないので精々使っているスペースは半分の12畳。その中でもまだ服は入るぐらいに余裕はある。――なんかドレスとかあるが、気にしない方がいいのかもしれない。
残る半分のスペースはマットが敷かれ、室内運動が出来るようになっている。端には椅子とか姿見があるから、十分に更衣室としては――広すぎるが、兼用としての役目はちゃんと担っている。
とりあえず服を脱いで下着だけになると、ハンガーラックからある服を取り出した。前日に
とりあえず説明すれば、それは学院生の着る制服では無い。
一般的な感覚に従って言えば、私服に近かった。
その服を着込み、何も持たずに颯爽とノエルは家を出た。
▷▷▷
その後の話をしよう。
ノエルが
だが襲撃した組織が〝組織〟。周囲に事実が風聴されることになれば、帝国の社会的影響は免れない。そのことが考慮され、内密に処理された。また、不要な不安を煽らぬよう一般市民に事実が伝えられる事はなかった。学院に残る傷跡の数々は全て魔術の暴発と結論付けられ、発表された。
この選択が正しいのか、間違っているのか。知る人物は誰もいない。
グレンは夕方まで目を覚ましていなかったが、その間にもシスティに見守れ、気が付いたら膝下でスヤスヤと寝息を立てて眠っていた。起きた時にシスティの様子に目を見開いてはいたが、ノエルが何かしたのだろうと疑問を持つこともなく、こそこそとシスティに気付かれぬようベッドを抜け出した。
なおシスティは、目を覚ましたらグレンが居なかったことに驚き慌てたのだが、扉から見える窓の外が夕空になっていたのを見て、もうこんなに時間がたった、グレンはもう起きているのでは――足元にあった靴が無いことを見て、そう確信をした。
しばらく時間を開け、寝顔を見られたのではと真っ赤になった白猫が居るとか。
アルフォネア宅。
「昨日は大変だったな、グレン」
深夜。ノエルが作ったランプで部屋を灯し、テーブルの角っこでお互い飲んでいるグレンとセリカ。濃い一日を過ごしたグレンには、今のこの時間が比例して静かに感じていることだろう。
グレンは溜息を吐く。
「大変だったさ。帝国から話は聞かれるわって、口止めされるわ――メインは俺が絡んだわけじゃねぇんだがな?」
「ノエルがどっか行ってたからな……まあ口止めも何にも、ノエルには関係のない話だかららどうって事もないな」
事情を知るため、グレンは帝国からかなりの事情聴取を受けた。それこそ根掘り葉掘り。流石に自分でも判らないことはあまり聞かれなかったが、
「で、ノエルはどこ行ってたんだ? そう遠くに行ってたわけじゃないだろ?」
「屋根の上に書いていたマナメーターを消していたんだと」
もし消し忘れていれば、あの結界は今もノエルの手中にあった。つまりあんなことやこんなことが出来てしまう
「あぁ〜……確かにアレは消さないとダメだな」
それ以前にあんなトンデモ、魔術世界に飛び出してみ。膠着状態の国家のパワーバランスが一気に変わる。もしかしては戦争の火種となりかねない――というのはあまりにも過剰だろうが、魔術師の立場そのものを根底から変えてしまう可能性を持っている。
ただそれでも、問題点というか、そういうのはある。
「お前が見てもわからないだろ」
ノエルしか作れないという点だ。拉致? ほぼ全ての人間を跳ね除ける奴が拉致されるとでも? 馬鹿なこと言うな、食べ物に釣られなきゃ拉致なんてされない。
「言うなよ。セリカだってわからないだろアレ」
「ARTPanelが出た時点で私はお手上げだよ」
「
「辛うじて理解はできた」
片手をひらひらさせて「それ以上は無理」と遠回しに暗喩していた。それ程までに元となる知識があまりにも違いすぎる。
そんなセリカをグレンは少し目を見開かせる。
「……さすが」
「見直したか?」
「それ、ノエルに言うセリフ」
「全く手厳しいな、グレン」
疲労が見えながらも、他愛無い話をし合う。何処と無く夫婦に見える。
お互いコップの飲料水を飲み干し、音を鳴らしながらテーブルに置いた。
「ノエルが居て、ほんと助かった」
「私もだ」
グレン1人では危なかった。剣を操る男であれほど苦戦した、その後にノエルが動いたからすぐに事態が収拾に向かった。もし居なかったら、お守りのブレスレットなぞ無いし、ノエルが言っていた法陣の解除も出来なかったかもしれない。
「……ノエル、何処まで見えていたんだろうな?」
「さぁ? 襲撃もパズルのパーツがあったからここまで見通せていたんだろ。察しが良すぎるんだよ」
「浴室に乱入してくることがなければ、可愛い妹分なんだけどなぁ……」
「まあ、そのときは受け止めてやれよ、グレン」
「わーってるよ、もう慣れちまったからな」
→08:41:09
――エルミアナ、か。
屋上で1人、あの日のことを振り返るグレン。
騒動の後日、グレンとシスティーナは帝国上層部に密かに呼び出しを受けた。そこで語られたのは、『ルミア・ティンジェル』の本名と家の都合。
その時はグレンもシスティも驚いた。
病死したと公表されていた、王女だと明かされた。
そして、〈異能者〉でもあるということ。
この国では異能者という存在が悪魔の子と忌み嫌われる存在であり、逆の扱いを受ける国も当然としてある。
一国の王女がそう言う存在であること。それは政治的にとても芳しくなかった。結果的に帝国王室から放逐された。
ルミアの素性は、これからの帝国に未来のためにも隠し通さなければならない。
そのことを2人は、知る側として要請された。
異能者。興味本位でノエルに訊いてみれば。
――魔術なんてものが存在しているんですから、今更だと思うんですけどねぇ。魔術扱える人全員が異能者じゃないですか?
とても帝国とか魔術師とかに聞かせられない答えが返ってきた。さすが
=09:54:22
教室は今日も騒がしい。グレンが授業時間に遅れる事は度々あったが、それよりも意外だったのが、ノエルが今まで来ていないこと。一週間連続欠席という異常事態。
ノエル目当てに来た他クラス生徒が目麗しい藍白色が見えない事に肩を落としていたのがいるぐらいだ。何気に他クラスもその話題が持ち上がる。
グレンに話を聞けば「アイツは今忙しい。大体一週間で来る」と、曖昧なことしか言わない。軽くその話題を受け流されてしまう。だからといって、義母のセリカに気軽に話しかける――のを試したのがいたが、グレンと同じく受け流された。笑っていたからそこまで大した事情では無いのは想像がついた。
「ほらー席に付けー」
グレンが教室に入ってくる。先の襲撃の対応が評価され、晴れて非常勤から常勤となり就職を果たしたのだ。これで無職やらどうたらで言われることはないだろう。
一声に生徒達が席に着くが、なにやらソワソワしている。グレンは不思議に思い眉を細める。
「……なんだお前ら、何ソワソワしてんだ?」
「先生、ノエル君は?」
ルミアがこれまたソワソワと声を上げる。続いて生徒達もグレンのことを期待するかのような眼差しで見る。
そう、今日はグレンが提示した一週間後。ノエルが来るとする予定日だ。
「あー……」
グレンにとってすれば、ノエルの復帰予定日を滑らせれたのを完全に失念していた確かにそんなこと言ったなと、頭をポリポリと掻く。生徒はグレンの行動に不信感を抱く。
「……先生、ノエルはどうしたんですか?」
ジト目を送るシスティ。
グレンはポケットから懐中時計を取り出して盤面を見ると、うへぇと聞こえてしまうほどに顔を苦くする。。
「アイツ、何やってるんだ……? 時間過ぎてんぞ?」
「過ぎてる? 今日、ノエル君来るんですか!?」
またもうっかり零した愚痴をルミアに拾われる。
再度騒がしくなった教室の外、聞こえていた者1人。
「ぬ、何やら騒がしいです……」
ガラッ――
扉の開く音に視線が向き、その瞬間静かになった。
藍白色の長い髪に透き通った肌。
「えっへん」
耳障りの良い声、相変わらずの背伸びしたような態度。あぁ、いつものノエルだ――。
――と言いたいところだが。
まず一点言わなくてはいけないこと。何故、
白をベースとする水色のデザインが効いたヘソ出し半袖制服みたいなのに、また水色のロールアップジーンズ。ポニーテールの付け根にはかなり大きい黒いリボンが結ばれ、右にちょっとした髪留めでアクセントを添える。で、足と腕によく判らないアクセサリーが対で計4つ。
傍目から見れば少女が着る服装なのに、男の娘のノエルが着ると似合ってしまっているのはどうなのか。欲情せざるを(検閲されました
そして頭――何故にアホ毛が出てる? 頂点から目元の左水平まで回り込むように垂れている一本の髪。前来た時、アホ毛は無かったよな? というかいつ生えた。何気に長いし。
正直に言えば、何処かの制服なのかと言われたら本気で信じれる。何処ぞの学校の先生が着ていたって何も問題はないようなあるような。
ノエルの日常着と言われても、誰だって文句を言わない。余りにも似合いすぎているから言おうとも思えない。魅力5割増し――女子制服を贈t(検閲されました
結論。
なんだあの可愛いの。
姿を確認したグレンがノエルに手招きする。釣られるように近付く。
「どこほっつき歩いていたんだ?」
「いやぁ〜」
そうやってうっかりうっかりと手を頭に添える。チラッ以前にモロ見えのおへそがとっても眩しい。男子生徒の視線がノエルに釘付けとなる。うってかわって女子生徒、男子制服を着込んでいては気が付かなかったノエルのスタイルの良さに思わず釘付け。というか見た目が完全に美少女としか見れない。男の子として見る方に無理がある。まあそれが男の娘――。
本人の意図せぬ間にクラス生徒の視線を独り占めし、あまつさえ奥様うっとり状態にデバフ*2を辺り構わず感染させているこの状況。収拾つかない。
「はふぅ――」
ルミアは既に堕ちている。ノエルにうっとりしている。というか一番重症。目を離すと抱きつきかねない。
「――はっ……せ、先生!? どういうことです!?」
「どうしたよ白猫、そんなに慌てて」
思考のオセロゲームに勝ったシスティは慌てて身を乗り出し食ってかかる。しかし意味が判らず逆に訊き返される。
「なんで制服じゃないんですか!? どういうことです!?」
「あのままでいいよシスティ! そのままでいてノエル君!」
「ルミアさん!? 戻ってきてくださいな!?」
至極真っ当なことを喋るシスティに、常識人だったはずのルミアがGOサインを出す、それを止めようと、更にウェンディが身を乗り出すというレアな光景。思わず正気に戻ってしまうのも判ってくれるだろう。判らない? よろしい、ならばこのジョロキアというものを以下略。
「……」
「お、見惚れてんのか?」
「……否定はしませんよ、逆にこれからを考えていたんです。そう言うカッシュはどうなんですか?」
「……一目惚れしちまうよ、あんなの」
「――」
「違うからな!? なんで離れるの!?」
2XXX年! 教室は混沌の炎に包まれた!
「どうにかしろ、ノエル」
「面倒くさいですよぉ……」
「なんでもいい、やれ」
なんだっていい、こいつらを静かにしろ。そしてこの場を落ち着かせろ。どうしようもないくらいに場が荒れている。グレンはもう笑うしかないのだ。ノエルに一任もといぶん投げるぐらいには方法も手段も持ち合わせていないのだ。
達観した顔、見て見ぬ振りをしている言ってもいいグレンの在りようにノエルは苦笑いを浮かべる。わかりましたよと息を付いて、生徒達に向いて声を上げる。
「みなさーん」
生徒達が反応し、何々と興味津々とばかりにノエルに顔を向ける。
「静かにしないと、抱きついちゃいますよ〜☆」
トラップカード発動。「みちづれ(みちづれするとは言っていない)」!
男子は女子の殺意に満ちたであろう鋭い視線をその身に受け、女子はお互いを牽制せんとギロギロ殺気を周囲に撒き散らして。
男からすれば可愛い美少女、女からすれば可愛い男の子。抱き着かれたらどちらにとってもノエルを異性に見てしまうメリットがある。デメリットはその雰囲気に当てられて意識が昇天してしまい、授業を丸々すっぽかすことができるということ。メリット? 生徒達から嫉妬でノートを見せられないから無いでしょ。被害者は未だゼロだから未検証だけど。
とにかくだ、ノエルの抱きつきは破壊力が高い。
……ルミアは食堂で抱きついた? ノーカンだろ(目の保養
場が落ち着いた
「全く、やっと話が進められる……」
頭を抱えたいとばかりにグレンは首を横に振る。息を大きく吐いてから生徒達を一瞥すると、再度話をし始める。
「なぜノエルがこう言う格好をしているのか、だっけか? その答えは全部一週間いなかった事にも関係するんだが……」
そう言うと、後ろと振り返ってチョークを右手に持つ。生徒達が頭の上にクエスチョンマークを浮かべるが、そんなことは御構い無しと黒板に文字を書いていく。
ノエル=アルフォネア
アルザーノ魔術学院
また、本学院講師〈グレン=レーダス〉の
理由:
生徒でいる必要は能力を見ても無いよね。いっそのこと自由にさせた方がいいのでは? ほら、みんなの妹みたいになる。
「客員教授と俺の補佐、だってさ?」
「しょうかく〜」
振り返って呆れたように手のひらを上にするグレンに、胸を張って「どうだ、凄いだろう」と言わんばかりの態度のノエル。けど、どう見ても背伸びしている妹。学院のノエルに対する扱いは変わらなさそうなのは想像せずとも光景が思い浮かんだ。
2人が〝
「えぇぇぇぇぇ――!?」
その中でも復帰が一番早かったのはまたもやシスティ。高性能のCPUを積んでいるのか、大声を上げてまた身を乗り出した。続いてルミアが目をキラキラさせてノエルを羨望の眼差しで見つめている。
「すごいよノエル君!」
「それほどでも〜」
「はぅ――」
嗚呼、一挙手一投足に反応するようになってしまっている。また心を撃ち抜かれているよ。我慢できないとばかり、ノエルに。
「抱きついていいかな!?」
「ダメに決まってんでしょルミア!」
で、
「私のせいじゃ無いですよ?」
「とりあえず落ち着かせろ、な?」
「りょうかい!」
グレン司令の命令にサーイエッサーとポーズで肯定し、テクテク取り押さえられているルミアに近付いて。
「ルミアさ〜ん」
その目をしっかりと見据え、微笑んで。
「大好きですよ」
「あふぇ――――」
「あぁ!! ルミアが倒れたぁ!!」
「ノエルさん! またやりましたわね!?」
(あぁ、眼福眼福)
(何やってるんですかね……)
(忘れてた……)
場の収拾をノエルに頼んだのが間違いでした。
雨は降り続ける。
影の中で降り続ける。
例えどんなに下であろうとも、降り続けている。
――口を開き、
――窓外を見つめ、
――笑いを浮かべる。
――我が子を思う。
――誰も私を、
――見つけてくれないみたいで、
――悲しく無いよ、
――思い出したく無いだけだから。
01:
あとがき:
伸びたのを良いことに、勢いでここまでやった。反省はしていない。
日刊ランキングに13位で入るとか言う可笑しな出来事もあったけど、取り敢えずここまでは終わらせました。やっぱり誤字脱字多かった。天然気質なのはどうやっても治らない……。
ノエル=アルフォネアという人物像も、ふと思い立ったことがきっかけ。なぜセリカの養子なのかも、全部勢い。特に深い意味はなかった。男の娘設定も、面白そうだ、やってしまえという特有の暴走からの発想。ストーリー上の多々ある伏線とか、全部が元々は伏線じゃないんだよね。展開的に気が付いたらそうなってた。便利というか、ただのこじつけというか。
とりあえず作ったノエルの挿絵でもペー(3840x2160 2.64MB)
【挿絵表示】
可愛いでしょ。
え? カスタムキャストっぽい? 知らない子ですね……
PhotoshopとIllustratorの合わせ技、もとい力技で作った。
これから先の展開に少なからず不安を感じながらワイワイ書いてきます。物語を書く上での基本的な設定自体は脳内RAMに短期記憶しています。どこまで付いてこれるかな?
追伸:
Q:感想とかで淫夢、レスリングネタとか使っていいの? ネタで思い切り暴れていいの?
A:寧ろ大歓迎だ、もっとやれ。俺も暴走するから。
TAKUMIN_T
08.22
修正したはずなのに誤字っていた場所、一部ブラッシュアップ。
23:43
取り敢えず致命的なところは直した。ついでに表現の変更。
2019.08.18
投稿。また見逃しあるよ……直さなきゃ