記憶喪失の私は記憶喪失の養子になりました   作:TAKUMIN_T

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閑話。タイトルから察せた人がいそう。

NintendoDirectすごかった。
DEAMON X MACHINAやらせろ。ろぼよこせうえてる。
ついでにPS4MHW:IBMasterEditionStarterPackよこせ。

結果、モニターその他含め10万越え。


009.01-08:EX_一日担任

 

 ある日のアルフォネア宅。

 

 

 太陽が水平線の向こうから顔を出し、人々に新たな日の訪れを告げてから既に数時間。プレイヤーに甲を描いて突撃してくる太陽――は別の話だから止めておこう。

 

グレン

 

 留め金に吊り下げられた横書きの札。丸みを帯びた文字から、誰が書いたのか一目で察しがつく。

 そこへ被さるように、影が正面で立ち止まる。

 コンコン

 ――お兄さーん

 何処かで見たことあるような日常(デジャブ)とともに、ノエルが扉を開けてひょっこりと顔を出す。服は既に着替えが済んでおり、後は寝坊助グレンを叩き起こすのみ。

 

 ――のはずだった。

 

 

 ――ぅぼぁ

 ――げぶぉ

 

 

「ぬぅ、お母さんに付き合わされなければこんなことにならなかったのにぃ」

 

 時折()()()()()()()()()が両人の部屋から呻き声みたいに鳴いていた。

 室内に入ってグレンの顔を伺ってみる。どことなくゲッソリしているのは気のせいではないはず。見るからに体調不良だった。

 それもそのはずだ。昨日の夜、セリカに付き合わされ、二日酔いでダウンする羽目になったのだ。グレンの所に来る前にセリカの体調を見てきたが、そっちもいまだに酔いが抜けきっていない。家族にしか見せない姿とでも言えば良いか、強大な魔術師としてのイメージなんてこれっぽっちも持ち合わせていない。

 なお今日は、普通に平日。それなのにセリカは、グレンを連行して酒盛りしていたのだ。セリカは休みだから良いものを、それに付き合わされたグレンにとってすれば願ってすらいない迷惑千万な話。休む口実ができたというのは嬉しいだろうが、なにせ代わりに体調不良で自由が奪われているという最悪な状態。嬉しくなんか無い。

 そりゃあ、顔を見れば一発で判る。青いんだもん。

「……」

 あぁ、無理ですね。

 常任講師になって早々、休みを取ることになってしまった。原因が『セリカに連れらて飲まされた酒による〝二日酔い〟』という不名誉な事実と共に。

 

 

 

 

 EX_一日担任

 

 

 

 

「それは、なんとも災難じゃの……」

「お母さんもハメを外さなかったらいいんですけどね」

 

 アルザーノ帝国魔術学院、学院長室。その室内ではリックとノエルが2人で話していた。内容は勿論、グレンの欠席とその理由について。

 

 始め聞いた時は大層リックが驚いていた。で、その理由を聞くうちにグレンに同情していた。グレンの自己管理が出来ていないとも解釈次第では受け取れるが、セリカが有無を言わさずに連れ回したのだから予測しようが無い。

 帰ってきた時には深夜帰り。何処ぞのホテルから帰ってきたカップルだとしか言えないほどにセリカの顔はホクホクして、対照的にグレンは搾り取れらたようにゲッソリしていた。

 自室にこもって何かを作り込んでいたノエルは多少の物音は聞こえていたが、鮮明に聞き取ろうとはしていなかった。部屋を出てリビングに付いたとき、物音ひとつしないリビングに違和感を覚えたものだ。

 篭る前にリビングを見ていた時にセリカが静かに本を読んでいたのに、閉じることすらせずに失踪していた。グレンも合わせて姿が見えない。

 それでも特に気にすることせずに1人で過ごしていたら、ど深夜にこの有様。どうしろと。

 

「グレン君はセリカ君に連れ回される前に、何をしていたのかはわかるかね?」

「多分今日の授業の準備だと思いますよ。部屋に資料ありましたから」

 

 持ってきた肩掛けバッグから、ファイルに挟んである紙を手渡す。

 内容は魔術行使に関する基礎的なこと。ただ、マナバイオリズムの操作とかいうとんでもないことは書かれている。

 だがそんなことは、今までのグレンとノエルの授業からすればここまでぶっ飛んだことをするのはごく普通とも受け取れるだろう。ノエルは常識というものを何処かに置いてきているし、二組の授業を受ける生徒とリックもその事が判っているから指摘するのも今更な話だ。

 一通り紙に目を通し、顔を上げる。

「まあ、理由も真っ当なものだからの。グレン君の欠席は()()()()()ということにしようではないか」

「お願いします、リックさん」

 そして不慮の事故扱いされる欠席理由。全てセリカの責任です。

 

 

 ガヤガヤガヤガヤ――。

 

「システィ、今日の授業ってなんだっけ?」

「ルミア忘れたの?」

「いや忘れたわけじゃないんだけど……いまいち自信がなくて」

 仲良し二人組、システィとルミア。またその周りも仲良し同士で集まって、様々なことで盛り上がっている。

 カッシュはギイブルに話しかけていれば、ウェンディは隣のテレサと何かを書いている。

 何か? ――聞くな。

 穏やかな時間の流れる教室内は、扉の開く音と共に霧散し、変わって真面目な空気に早変わり――。

 

「はーい、おはよー」

 

 ――するはずだった。

 

『…………』

 

 扉が開いて一発目にかかる声、間違いなくグレンのではなくノエルのもの。で、入ってきた人影もグレンではなくノエル。そしてノエルの手の中には、普段グレンがもっている出席簿。

 いつもと違う雰囲気に、生徒が呆気にとられた表情をするのも無理はない。

 その反応を心外だというかのように、ノエルは出席簿を開くと。

「反応が無いですね……全員欠席にしちゃえ」

「ちょっと!?」

 いきなりとんでもないことを言い出すノエルにシスティが真っ先に食いついた。

 そんな私事(わたくしごと)で記録に欠席数を増やされてはたまったものではない。いやそれも大事だが、もっと大事なことを聞かなくてはならない。

「それより先生はどうしたの!? なんでノエルが出席簿持っているの!?」

「失礼な! これでも客員教授ですよ!」

「そういう意味じゃないのよ!」

「判ってます!」

「あぁあああ――!!」

 ツッコミ(システィ)ボケ(ノエル)。この掛け合いもすっかりと二組の代名詞となって慣れたものだが、それ以上に衝撃と疑問があった。

 システィの話にもあったが、ボケられてノックアウトされた彼女に変わり、ルミアが再度質問する。

「ノエル君、先生はどうしたの?」

「お兄さんは今日は欠席です!」

 欠席。その単語に教室が再度騒がしくなる。

 生徒の疑問を代弁するようにカッシュが声を上げる。

「ノエルぅ、欠席ってどういうことだ?」

「そうですわ。まさかサボりたいとかそんなんで受けたんじゃないでしょうね?」

 ウェンディの言っていることも判らなくは無い。赴任当初は面倒くさいとかいって授業を放棄していたぐらいだ。今でもその態度は時折見せているので、誰もが真っ先に思い浮かぶ疑念ではある。

「いいえ、そんな単純な理由では無いですよ?」

 ノエルが首を振って否定すると、次に復帰してきたシスティが怪訝な顔をする。

「じゃあなんだって言うの? 先生にとって真っ当な理由があるんでしょうね?」

 ならなぜ、グレンは今日学院を休んでいるのか。前日は普通にしていたのに、それが急に休むのは可笑しい。今迄(いままで)の経験則からして、何かしら理由があるはずだと。

 視線がノエルに集まる。言おうとして少し戸惑っていたが、ただの事実をありありと伝える。

「お母さんが無理やりお兄さんを連れて、お酒をたくさん飲まされて二日酔いでダウンです」

 真っ当というか何というか、欠席理由の一端に何故にセリカの名前が挙がっているのか。生徒は頭上にクエスチョンマークを浮かべている。

 同様に浮かんでいるウェンディが続きを促す。

「つまり……?」

「文句はお兄さんを酔い潰したお母さんに言ってください。リック学院長さんにも欠席理由が不慮の事故にされました」

 哀れ、グレン=レーダス。

 同時に「アルフォネア先生……」と何をやっているんだろうと残念そうな声が聞こえる。

「多分、2人とも家で胃の中を吐き出しているんじゃ無いですかね?」

 あ〜、一部から頷きが聞こえる。で、急に頭をブンブン振っているのもいる。想像してしまったのだろう。グレンはまだしも、セリカのそんな姿想像したくない。バケツかトイレに駆け込み、頭から突っ込んで☆キラキラ☆を出しているなんて光景、想像したくない。

「お母さんは自業自得ですから放っておきますけど、お兄さんには薬だけ隣に置いときましたから、明日は体調が悪いくらいで来られると思います」

 それでも体調が悪いとは一体どれだけ飲まされたのか、酒を飲んだことのない生徒達にとっては想像つかない世界だ。

「という訳で、出席とりまーす。全員いますかー」

 マイペース気味に、ノエルの一日担任がスタートした。

 無いとは言わせない。嫌な予感しかしない。

 

 

 

 

 ノエルの授業スタイルに関してあらかじめお伝えしておこう。

 ノエルは一から説明するのではなく、ある程度のヒントをあげ、そのヒントを元に答えを導き出させるという〈放任〉スタイルを執っている。一言で表せば〈クロスワードパズル〉を生徒に解かさせているようなものだ。

 そこまで多くの単語が存在する訳ではないが、一つ目が解けたらその次が解ける、で、また次が解ける、その繰り返しで全員に答えを導き出させるようにする。

 判らなければ、頭文字または途中に入ってきた単語以外の欄を埋める言葉をヒントとしてプレゼントする。これと同じようなことをノエルはやっている。

 グレンが基礎を作る役目を果たしているならば、ノエルは応用力を養わせている。なにも魔術に限った話ではない。

 クロスワードパズルが脳の活性化には十分な効果を発揮する。

 日常生活にもいざという時にその応用力が生き、どこからか答えを持って来られるようになることだろう。

 

 で、今回は……。

「……ノエル君、意味あるのこれ」

「理論力です!」

「そればっかね……」

 数学をやらしていた。

 

 確かに物事を理論的に考える力を養うという意味では教材としての〈数学〉は間違いではない。使用される符号も意味をしっかりと理解し、その上で間違いなく組み合わせていけばいい。ただそれだけだ。覚えていなかったらその限りではないが。

 

 49+25=?

 

 このような簡単な計算も、理論があって初めて自分達は解けている。

 「49」「25」は〈10進数〉での数字の表記で「0」〜「9」の10の数字で表記される。9から上に行くと次の位を繰り上げて、同数字を9から0に戻す、あるいはスタートさせる。その逆も然り。0から下がれば次の位を繰り下げ、9に戻すかさらに減らすか。

 「+」は前後に書かれる数字を足す記号。例外はあるが、それを除いては簡単なものだ。

 「=」は今までの計算で産出された数字を答えとして表記させる記号。同じという意味でも使われる。この場合は前述だ。

 

 で、答えは「74」。

 

 9+5=14、10を十の位に移行し、4。

 40+20=60、移行してきた10を足し、70。

 70+4=74

 

 ただの数学でさえ、理論で表せばここまで詳しく書けてしまう。書けてしまった自分もびっくりだけど。ここからさらにルールを追加していけば、さらに複雑な理論が完成する。

 魔術も大部分がこれと同じような組み合わせだ。自身の体調などのランダム要素を省いてしまえば、数学とほとんど同じになってしまう。

 あるのは、数字を使わない、言葉による理論のオンパレード。

 つまり、思考の仕方によっては、他のことにも応用できるということ。ノエルの放任スタイルにも、これ見事に合っていた。

 

 で、全員に紙が渡され、生徒がそれに向かって取り組んでいる。

 問題の隣には、記号を使った該当する問題の基本的な解き方が書かれており、なにも判らないという人でも、それを元に考えれば解けるようになっている。

 

 ただ、あまりにも簡単で退屈するようなものだ。ヒントがあるからというのもあるが、直感で察して解いてしまう人もいるだろう。

 聞こえてくる二人分の足音に、ノエルは卓上に置いたよくわからない設計図から視線を上げる。

「ノエル、解き終わったわよ」

「僕も終わりました」

 システィが解き終わり、続いてギイブルも終わったようだ。

「じゃあ、これを取って解いてみてください」

 そう言われたのは、ノエルの前、設計図の横に積まれた紙の束。

 終わってからもう一枚はよくある事。そう思って紙をノエルに手渡し、裏返しになっているもう一つのプリントを手に取り、表に返した。

 

 二人の手が止まる。

 

「どうしました?」

 その瞬間だけ、いつも通りのノエルの笑顔が、悪魔に見えた。

 

 

 →03:44:09

 

 

「あぁ〜疲れたわ……」

「ほんとだよぉ……」

 

 食堂でぐったりとしているシスティとルミア。先のプリントでだいぶ精神を磨耗したようだ。

 

 それもそのはずだ。次々にやってくる1枚目のプリントを終わらせた者達を絶望させるのには、十分な難易度だったからだ。

 

 どういうのかを一言で記せば「幾重にも重なるクロスワードパズル」か。

 

 一つの問題を解くのに必要な要素が最終的に5つにまで及んでおり、さらに自分の推測の元なにがどうなっているのかを説明しなくてはならなかった。

 ヒントも答えを言っているようなものなのだが、いかんせん情報量が多く単純なヒントになっていなかった。そのヒントも〈問題を解くためのヒント〉に()()()()()()()()とかいう面倒くさい遠回りをやらされる羽目にもなっており、多くの生徒が頭を悩ませた。

 

 最終的に正当者はいない。なんとか数問自分なりの答えを導き出したのもいたのだが、全員が見事にバラバラ。回答も重複が一人もいないという結果になった。ノエルが「なんという奇跡」とか呟いていたが、気にしない方がいいのだろう。精神衛生上そっちのほうが宜しいかと。

 

 生徒達全員、ノエルがなぜ数学のプリントが最初に手渡されていたのか、その理由を身を以て味わうことになったのだった。

 

 で、親友同士、食堂のテーブルでグッタリしている訳だ。他の生徒も同じような状況になっていたことだろう。

「ノエルの回路(サーキット)ってあんなのなのね……」

「凄すぎるよ……なんで思いつくんだろう……」

 これができれば回路(サーキット)の入門編はできるとか言っていたノエル。他クラスの笑顔と喧騒が今はなんとも羨ましい。抜け出して参加したいものだ。

 

「簡単に考えていたけど、こうも差を見せつけられると流石にやる気をなくすわね」

「ノエル君だしねぇ……」

「――悔しいけど、納得しちゃったわ」

 

 確かにシスティの成績は上から数えたほうが早い。二組内では実技でトップの成績、筆記もそれなりにできるという自負がある。グレンの授業が始まってからはなおさらだ。今まで知れなかった魔術のもっと深いところ――基礎の基礎と言える部分をノエルと共に教鞭を()ってくれている。

 動機が不純という点はあるが、単純に授業の質だけを見れば、他クラスより圧倒的に優れている。

 

「でも、この後もノエルの授業が待っているのね……」

「そうだね……」

 

 まあ、次も地獄が待っているのが確定しているわけで。2人のやる気を根こそぎごっそりと抉り取るのは目に見えていた。

 

 

 授業開始時刻。

「あはは……流石に元気ないですね、皆さん」

 苦笑いを浮かべて二組を一瞥するノエル。むしろそんな同情ほしくなんかない、楽しいのよこせと、恨めしやぁ〜と呻いていた。

「これ以上やっても解けないわよぉ……」

「そうですわぁ……」

 システィとウェンディも同じく呻き組に混ざる。それ程に苦痛でしかない。

「なんか他のやってくれよぉ〜」

 便乗するようにカッシュも声を上げる。

 それを聞いて、うんうんと同意するように頷いているノエル。

「まあ、紙と向かい合うより実際に触ったほうが楽しいですからね。わかるよカッシュ君」

「判ってるならやってくれよぉ!」

 

 人間だもの カッシュ

 

 自由律俳句を今すぐにでも読み始めそうな阿鼻叫喚(過大表現)な生徒達の様子に、再度、苦笑いを浮かべるノエル。

 首を横に振って、一言。

 

「まあ、楽しいことやりましょうか」

 

 ノエルの言葉に、生徒が目を輝かせた。

 

 

 中庭、練習場。

 

「……なんでここにいるのよ私達」

 

 生徒が抱く疑問を我慢出来ずに呟いてしまったシスティ。

「まあまあ、サイズが大きいほうが楽しいですから」

「な、なにをやるの……?」

 大きい、不穏なことしか考えられない。ルミアが苦笑いを浮かべる。

 

「いっそ全員下着姿になります?」

 

「何言ってんのよ!」

特大級の爆弾を投下。もはやストリップ会場になってしまう。ノエルはまんざらでも無いようだが、一般的倫理観を保持している他生徒にとってはたまったものでは無い。

「ノ、ノエル君だけに見られるならいいかな……」

「あ〜、ルミアさん……?」

 一部こんな反応していたって無視するべき。

「やめてくれ、俺らがノエルを直視できないからやめてくれ」

 カッシュが代表して意見を申し上げ、男子全員が続くように頷いた。女子の輪に入れることもできないし、かといって男子の輪に入れるのも見た目的に……それ以上に、自分がどうかなってしまいそうで怖い。ガチでノエルに対して()()()になってしまう可能性の方がある。

 一部の女子が同情するように男子を見る。かといって自分達もノエルを手招きで誘えるわけじゃない。見方によって、本当に可愛い顔をした()()()に見えてしまうから心臓がバクバクとするだろうし、何か言われたらルミアみたいにハートを撃ち抜かれて授業どころじゃない。

「あぁでも、今日のは見せられないよぉ……」

「ルミアさん……」

 ほら、ウェンディが呆れてる。自分達もああなってしまうかもしれないんだぜ? ……そんな醜態、晒せるわけがなかった。

 ルミア……? ノエルに心を撃ち抜か(ハートキャッチさ)れているは周知の事実ですが? 恋心ではないことを切に願う。

「あぁ、まずいよぉ――」

「ルミアさん!?」

 あ、ルミアの顔が真っ赤だ。あれ、擦り合わせ――

 

 

※ しばらくお待ちください ※

 

 

「あ、危なかった……」

 ゼーハーと大きく呼吸しているウェンディ。隣にルミアの姿はない。

 男子は何も見ていないと顔を背けている。女子は何も見なかったとごしょごしょ話を続けている。

 

 

 →00:12:34

 

 

「どうせなら色々無視してショック・ボルトやりますか」

 

 またノエルが変なこと言ってる。

「ぬ、邪念を感じます」

 こんな時に妙に察しがいい。その通り、ノエルの唐突な言動に寛大な心で対応できるようになっていた。ぶっちゃけて言ってしまえば臨機応変、扱い方が判ってきた。

 そういうことを除いても、ノエルが行使する魔術は大体どこかぶっ飛んでいる。ほら、頭のネジが以下略。

「で、ノエルさんよ。唐突にそんなこと言って何やるんだ?」

 何だかんだノエルのイタズラ相手もとい、ノエルと同調するお仲間さんのカッシュが期待した様子でニンマリと笑顔を向ける。

「そのまんまですよ。自分なりにショック・ボルトを起動してみようって実験です」

 呪文があるというのに一体何を言っているのか。グレンがまともに授業をし始めたときに見せたショック・ボルトなんだろうというのは辛うじて判る。

 グレンとノエルのお陰で基礎の基礎と言える部分のことは叩き込まれた。たぶんそれを応用すればやれるのでは無いのか、そう想像できてもなんら文句はないだろう。

「実験なのかしら……」

「ノエルさんに聞くだけ無駄だと思いますわ」

「それもそうね……」

 なお慣れすぎた人は、こうして流れに身をまかせることになる。反応するだけ無駄ということではあるが。

 

 

「〈飛べ・ショック・ボルト〉」

 指先から雷光が伸びる。その先にあるのは土壁。当たると吸い込まれるように消えた。

 詠唱した当の本人、システィは目をパチパチとさせている。

「……本当にできた」

「さっすが、システィさん」

 初めて唱えたショック・ボルトの改変呪文。試しにノエルが作った呪文でやってみたのだが、それが一発成功した。

 発動した。一発で。

 

「システィさんができたんですからここにいる全員できますよ。ショック・ボルト自体を知ってますからね」

 

 ここにいる全員がショック・ボルトの効果を知っている。それを利用し、わざと呪文に〈ショック・ボルト〉の単語を入れた。明確にイメージできるように。

 そして補助するように、一節に〈飛べ〉と単純明快な動詞を付け加えることで安定性アップ。三節だから危険性も排除済み。

 

 だいたい魔術に関してアレな方面で飛び抜けているから心配も何もなく逆に信頼していたようなものなのだが、こうもあっさりと他人に同様のことをやらせて結果を出せるというのも、それはそれで反応に困るとしか言えない。

「ノエルさん、やっぱりおかしいですわよね」

「さすが。先生の右腕だぜ」

「褒めてるんですか?」

「そうですわ?」「そうだが?」

「えっへん」

 ただまあ、ウェンディとカッシュにいいように言いくるめられて妹化しているのは、なんともほのぼのする光景ではある。

 

 ルミア? 死んだんじゃないの〜?(コックカワサキ並感

 

 

 ▷▷▷

 

 

 ガチャ。

「ただいまー」

 

 ――おかえりぃ……――!?

 ダッダッダ、バタン!

 

「「「……」」」

 セリカの声、走る音、扉の閉まる音。前日の出来事。本日の朝の様子。

 これをワンセット。

 

 何がセリカの身に起きたのか、容易に想像が付いた。

 

「ちょっと、待ってくださいね…………お兄さーん」

 まあそんな事は気に掛けながらも無視するとして、ノエルは親愛するお兄様のお部屋に直行する。

 こんこんと扉を叩き、ゆっくり開けて中を覗く。

 部屋の中は暗い。起き上がってカーテンを開けるぐらいの気力すらも湧いてこないようだ。

 部屋の中に入り、枕元に近付くとグレンの顔が見えた。未だ変わらずに気分が優れていないようで。

「お兄さん?」

「……んぁ、ノエル――?」

 うっすらと目を開けて、ノエルの姿を目視する。目線を顔から服に。学院用に着るいつもの服だ。

「今、何時だ……?」

「学院終わって帰ってきたところですよ」

 そのことを聞き、顔色がさらに悪くなる。さしずめ、学院からどう言われるか判らないからだろう。

「リックさんに事情を伝えているんで大丈夫ですよ。明日体調は優れないけどもしかしたら来れるかもっていうことも伝えてます」

「すまん……」

 いつものように、嫌々言える程の元気も存在しない。

 すると、半開きのドアがひとりでに開き。

「先生……?」

「大丈夫ですか……?」

 すると聞こえてくる、覚えのある声。視線を扉に向けると、ノエルよろしくひょこり覗く銀髪と金髪。そしてその顔、見覚えがありすぎた。

 システィとルミアだ。

「白猫にルミア……!?」

 グレンは驚きを隠せない。なぜ二人が此処にいる。セリカの家はもしかしたら知っているかもしれないが、それでも普通来ようとは思わない。

 ――いや、連れてこれるのが一人居たな。

「お兄さんのこと心配だからって来てくれたんです」

「やっぱりお前か――」

 余計なお世話とでも言えばいいか。それとも、ただ連れてきたのか。後者がノエルにとって一番ありえそうなのがどこかありえそうな所ではある。

 ノエルが入ってきてと手招きすると、二人は恐る恐る足を踏み出す。年頃の少女だ、もしかしなくても男性の部屋に入ったことはないのだろう。物珍しそうに部屋を見渡しながらグレンが横たわるベッドに近付く。

「もしかしたらズル休みなんじゃないかなって、システィが――」

「それは言わなくていいのよ!!」

 なるほど、先生を監視しに来たと。それにしては白猫の顔が赤くなっている。バラされたからか、それとも。

「なんか授業中そわそわしてましたっけ?」

「し、してないわよ!」

 図星のようだ。当てってたら声を張り上げるとか、どこのツンデレか。――ツンデレか(納得)。

「し、してないよ……?」

 その後ろ、流れ弾が一人でに着弾している。目が泳いでいる。

 あたふたしているルミアにノエルはクエスチョンマークを浮かべる。

「え? ルミアさんには聞いてなかったんですけど、そわそわしてたんです?」

「……え、いやその、えぇとその――」

 言葉を詰まらせ言いづらそうにするルミア。

「――?」

「はぅ」

 純粋無垢(語弊有)な眼差しを向けるノエル。また撃ち抜かれている。

「……お前ら、何がしたいんだ?」

 様子を見に来たと言っているのに、なぜ三人で話しているのか。グレンの呟きが不思議と部屋に響いた。

 

 ノエルから手渡されたラフな部屋着に着替え、自室の外に出たグレン。体調は優れないが、家の中を歩くぐらいはできるようだ。

 システィとルミアはそもそもセリカの家に来ること自体が初めてだ。言い方を変えれば、友達のノエルの家に遊びに来たと言える。どちらにしても、この家の間取りは判らない。だから二人とも、グレンとノエルに着いて行く。

 システィは先頭を歩くグレンに訊く。

「どこに向かってるんですか?」

「セリカの部屋だ」

「教授の……?」

 セリカの部屋というだけでそこに入れること自体がとても貴重なことだろう。そこまで尊敬に値することではない気がするが。

「昨日、思いっきり酔っ払ってましたからねぇ……ホテル帰りみたいでしたよ?」

「えぇ、うそ?」

「……おいノエル、それホントか?」

 ホテル帰り。その単語だけで、

 

「肉食系の彼女に、搾り取られた彼氏……みたいな」

 

「「……」」

「――――」

 

 容易に想像できてしまった。

 

 システィの目線がジトォっとグレンに向く。明らかに疑っている目だ。

「先生、まさか――?」

「記憶ねぇんだよな……思いっきり飲まされたから、曖昧な記憶しかねぇ……」

 完全に酔いつぶれていただろう。思い出そうとしてもはっきりと思い出すことができない。システィが疑っているのも無理は無い。恐る恐るルミアも訊く。

「あの……やってませんよね……?」

「どストレートに言うなよ」

 オブラートのカケラも無い。

「そういうルミアさんは?」

「え――」

 すると(ノエル)の方から爆弾が投下される。

 顔が赤くなって、目が泳ぎ始めた。

「そ、その――――うぅ……」

「――すぐ答えられない時点でまずいわよ」

「システィさんはお兄さんのこと好きですもんね?」

「ち、違うわよ!?」

「――あのな、本人が目の前にいるんだぞ?」

「あ」

「あっ、てなんだ白猫。喧嘩売ってんのか」

「あ、いや」

「素直じゃ無いですねぇ〜」

 嗚呼、マイペースとは恐ろしきことか。

 そんな和気藹々?とした話をしているうちにセリカの部屋の前に着く。親友二人は「ここがアルフォネア教授の……」と、グレンの部屋に入った時とは違う興味を示していた。

 ノエルが先陣切って、ドアノブに手を掛ける。

 

 ガチャ

 

「おかあさーん」

「セリカー」

 二人同時に呼びかけ、扉を開ける。グレンの時と同じように扉から顔をひょっこりと出す。

 ――ベッドの上で横断するようにセリカが横たわっている。

 

「――――」

 

 ※ へんじがない ただのしかばねのようだ ※

 

「セリカが一番重症だな……」

 背中が動いていることから呼吸しているのは判る。ただ、呼びかけの返事がない時点で相当に参っている。

 学院では見たことなかったセリカの――まあアレな姿に、扉を全開にしてその姿を見てしまったシスティとルミアは声を出すことを躊躇う。又は、どう言えばいいのか判らなくなっていた。

「アルフォネア教授……」

「あの、先生……どうするんですか?」

「――とりあえず水でも飲ませるか、ノエル」

「はーい」

 部屋から出てノエルはどこかに歩き去っていく。ただしかし、急いでいる気配がないのはどういうことなのか。グレンは気にすることもなく、セリカの部屋に足を踏み入れる。

「入るぞー」

「お、お邪魔します……」

「教授の部屋に入れるなんて、私達以外にいないのかな……?」

 そもそも来ようとも思わないだろう。今回の場合、ノエルが仲介役となりグレンの様子を心配になって見に来た。その副産物だ。

 ――ぉぇ

 微かに聞こえたイヤ〜な音。

「ぐれん、なんできもちわるいんだろうな……?」

 一切の元気が感じれない弱々しい声。学院でこんな姿見たことない。いるのはもっと凛々しい目標とするに値する人――。

「俺が聞きたいんだが……?」

 イメージが完全崩壊するのは容易だったのだ(決定事項

 

 ノエルのセンスで上下黄色のもふもふパジャマに変えられ、なんとも言えない様相になったセリカ。ノエル曰く、『髪色と同じ』ということだが、威厳も何もあったもんじゃない。システィとルミアが来ていると知らされても具合の悪さから手をあげるくらいの体を動かしての反応を示さなかった。

 ただできた唯一の反応は「ぉぇ」。――反応と認めていいのか疑問ではある。

 ノエル以外の三人はリビングで待機され、ノエルに支えられながらセリカもリビングに到着――したと同時にソファーに転がった。顔色は未だ芳しくなく。自業自得ではあるが。

 そんな様子を、ルミアは心配げに見ていた。

「大丈夫なんですか……?」

「俺が聞きたい」

 被害者が加害者を気にかけることなんてありませんとグレンは軽く突っぱねる。ノエルも気にすることなくキッチンに向かって何か作っている。

 不憫だ。甚だしく不憫だ。

「ぅぇ〜」

 呻き声なんて聞こえない。聞こえない事にしろ。いいね?(ニッコリ

 

 日が沈み始めて夜の訪れを告げる。アルフォネア宅の一室は天井から釣り下がるよくわからない丸い物がピカピカ光って部屋を明るくしていた。

 ただシスティとルミアは、その物に気付くことなく、明るいなぁとしか感じていない。

 

 そして本来なら二人とも自宅に帰っている時間帯になっているのだが、

「せっかくなんで泊まっていきませんか?」

 と、ノエルがマイペースにお泊まりを提案。放課後にその話を持ちかけられてそれを承諾。システィの家に帰って使用人に一言、そんなんで話が一応通っている。今頃システィの父親が家で発狂していることだろう。悪い虫以下略。

 とまあそんなんで一応、一泊分の簡単な荷物だけはバッグに入れて持ち込み済みであり、宿泊の用意は既に整っている。

「〜♪」

 学院にいた時と同じ服、もとい私服のままキッチンで何かを鼻歌交じりにお料理中のノエル。いつの間にかテーブルに立てられていた札の情報の限り、ペペロンチーノを作っているらしい。

 

 

 →00:13:53

 

 

「どうぞー」

 

 他愛の無い話を三人でしていると、皿を二枚、二人分を持ってきて、グレンとシスティの前に置いた。どこぞの高級レストランみたいに様になっていたのはそもそもの素材がいいからなのだろう。

 肝心のペペロンチーノは、無駄なものは加えず、王道を貫いている。黒ごまが少し振りかけられ、アクセントに少し唐辛子の粉末が乗っている。

「お。うまそうだな、相変わらず」

 グレンは特に感想を言うとでもなく、信頼しているからか手をスリスリと楽しみそうに見つめていた。

 代わってシスティとルミアは、ノエルの手作り料理を初めて見た。例外としての唯一は、食堂でグレンに手渡しするお弁当。栄養が考えられているシンプルなランチセットだ。料理と言うものはあんまり無いから該当せず。

 

 それが本格的になると、ここまでなるかと。思わずヨダレを垂らしたくなりそうに美味しそうにテカテカしている。仄かに香り立つオリーブオイルが鼻を擽ぐる。無意識に二人は唾を飲んだ。

 

「はい、ルミアさんの分」

 不意に右から聞こえてくる声。思わず体を引きつかせる。

 正面を向くと、テーブルにペペロンチーノ。また右を向くと、微笑んでいるノエル。

 きゅん。

「?」コテン

「かふぅ――」

 

 ルミア、流れ弾が着弾。大破。

 システィ、ペペロンチーノから目を離せない。

 

 その様子を訝しげに一瞥するグレン。どっちにしてもノエルにナニカサレテルことに変わりはないが。

「――どうしたんだお前ら」

「い、いや……ノエルがここまでなんでもできるとは思ってなくて」

「アイツ自体が非常識の塊だから、気にするだけ無駄だぞ?」

 判っている。判っているが、脳がそれを認めたく無い。

「何でもはできませんよぉ〜」

 あははとグレンの左隣、笑いながら自分のペペロンチーノをテーブルに置いてノエルは席に着く。

 

 

 →00:35:20

 

 

 シンクに置かれる、水滴の付いた4枚の皿と4つのグラス。隣に置かれる、小さな蚊帳の中のペペロンチーノ。キッチンに時々響いて聞こえてくる、呻き声。――台無しだ。

 月がすっかり〝こんにちは〟と夜空に浮かび、街の輪郭をほんのり浮かび上がらせている時間帯。

 アルフォネア宅の脱衣所には二人分――お互いの寝巻きと下着が置かれていた。

 その隣には丸いガラスの嵌められた白い箱が低い音を立てて唸っている。ガラスから中を覗けば、学院の制服と言うのが薄っすらと判ることだろう。ドラムが動きを止め、反対に回り出す。

 

 

「――っぁああ〜……」

 

 気持ち良さげに声を絞り出す。浴室で反響してその耳に再び届く。

 一日の疲れで凝った身体を(ほぐ)すかの様に背伸びをするシスティ。風呂に入っていることもあり、今はトレードマークのネコミミは付いていない。代わりに、普段は至って注目されないサラサラとした白銀髪が湯に浮かんでいる。

 その隣では「ふわぁ〜」と、擬音をつけられるくらいに口を緩く開け、首から下を完全に浸して気持ちよくなっているルミア。ノエルに射抜かれている時とは違った表情だ。

 二人とも頰は赤く、体温が上がっている事が見て取れる。

「きもちぃ〜」

「うぅん〜」

 

 すっかりと力が抜け、無防備な姿を湯面に写していた。

 

「ノエルさまさまねぇ〜」

「うちにもほしいよぉ」

 ちなみにこの浴室にもノエルの手が及んでいる。現代のユニットバスなどに付いている自動温度調節機能を魔術と回路(サーキット)で代用させたシロモノだ。

 バス本体にはじんわりと湯の温度を一定に保つ機能が付いている。いくら入っても湯冷めしないのは気持ちいい事だろう。

 

 ……ん? 肝心の湯はどうした?

 入浴剤なんて入ってないから()()()()ですが?

 

 そんなで、性別の象徴と言えるものも揺れる水面でぼやけているが、目を凝らせばはっきりと見える訳で。

 

「ルミアの胸もよこせぇ」

「そんなこといわれてもぉ」

 

 白いのはほんのりと、黄色いのはポヨンと。

 ――格差社会とは悲しいものだ。

 

 だがそういうのも、軽口で叩き会えるぐらいには心も溶かされている。なんかヤベー薬お湯に入ってないか心配になるぐらいには。

 

『どうですか〜、二人とも〜』

 

 すると、磨りガラスの向こう側、脱衣所からノエルが湯加減を伺いにきた。上が白に下が水色、まだ風呂に入っていないから服装もそのままだ。

「さいこう〜」

「まだいたい〜」

 だらぁ〜んと、力を抜いた状態で返事する二人。堪能しきってはいないようだ。磨りガラスの向こう側から苦笑する声がする。

『もうしばらくしたら時間ですから、上がってくださいね〜』

「「えぇ〜」」

 ゆるく抗議の声を上がる二人。入ってから20分は経っているから当然の処置と言えようか。グレンとノエルは先に譲り、未だに入っていないからだ。

『私が入っちゃいますよ〜?』

「「それはだめ!」」

 性別の違い以前に、ノエルの体を二人は直視できる自信は無い。普通に男の子として見れる自信はこれっぽっちも持ち合わせていない。故に二人が、正気に戻って声を張り上げるのは当然な訳で。

『磨りガラスをただのガラスにしたら、どうなっていたんですかね?』

「ちょっと!?」

「ま、まだダメだよ!?」

 思わず立ち上がったから、磨りガラス越しでも肌色成分が見えていた事だろう。二人とも思わず、羞恥に顔を赤らめる。

『冗談ですよ〜』

 楽しげなノエルの声が遠くなっていった。

 あるのはただ踊らされて、勢いのまま立ち上がった二人。顔を赤くさせながら、そそくさと着替えて脱衣所を出た。

 

 

 ノエルに弄られて、またはハジメテの体験に心を溶かされてふわぁっとしていたシスティとルミアとは対照的に、呼吸と天井から水滴が滴り、ピチャンと静かな環境音。加えて一人でいることも、落ち着いた雰囲気を浴室に漂わせているのに一役買っている。

 スペースを空けてグレンは浴槽の右側――入り口から奥側に詰めて、誰かを待っている。あえて明確に、誰とも言うまい。セリカな訳あるまいし。

 

 磨りガラス越しに脱衣所に影が映る。白と水色。しゅるしゅると布の擦れる音と、ポフンと、柔らかい音が聞こえてくる。

 ガラガラ。戸の開く音。

 ヒタッヒタッ、湿るタイルに吸い付くような音。

 

「んしょ……」

 

 聞き慣れたノエルの声が、グレンは右から聞こえる。固形物の体積が増えたことによる、水位が上がる感触も肌から伝わる。

 

「ふわぁ〜……」

 

 バスから行き場を失った水が幾らかはみ出て、音を立てながら外に追い出される。

「きもちぃ……」

 どこか色っぽいとか言ってはいけない(戒め

 少しの時間を置き、グレンが話しかける。

「急にどうしたよ。一緒に入りたいとか言い出して」

「だって、お兄さんまだ体調優れないじゃ無いですか。せっかくだからこういうときに兄妹(きょうだい)の〝すきんしっぷ〟を図るんですよ」

 右腕にふにゅんと肌が密着する感触。散々乱入してきて不本意だが目を閉じたままでも感触で判別できるようになっていた。これは腕だ。手を繋ごうとしているのも判る。せっかくだから繋いでやる。

「ふにゃ〜」

 ノエルが(とろ)けた。

「図るとか言うなよ。計画ダダ漏れじゃねーか」

「そんなの今更ですよぉ。隠してたって、何も無いじゃ無いですかぁ」

「……そうだな」

「納得したようで〜」

 そもそもノエルがこういう乱入を事前に準備してくる訳が無い。ただ勢いのままヘーベルハウスよろしく『ハーイ』するだけだ。

「体を洗うことは俺一人でもできるんだが?」

「そこはほら、身体を使って――」

「使うんじゃねぇよ」

 寒気より恐怖を背筋に感じた。話が続く。

「――は冗談として、時間短縮ですよ」

「取ってつけたような理由だな」

「当たり前じゃないですか」

 幾ら言葉を投げてもスルーされる。秘密が無いからできる事ではある。

「ずっと、家族で一緒なんですよ〜」

 そう言って甘えてくるのも、やはり妹としか見えないものだ。

 

 

 髪色と同じ寝間着姿な、システィとルミア。二人並んでテーブルに向き合っている。表情はとても気楽に、楽しんで向き合っているようだ。

 卓上には魔術関連の教科書。今までの学習した内容の復習を、改めて行なっているようだ。

 

「あ〜そこそこ〜」

「自分でやれよ〜」

 

 ノエルが気持ちよさそうにグレンにタオルで髪を拭かれながら共にリビングにやってくる。その声に二人、顔を向ける。

「あ〜なにかやってます〜」

 頭にタオルを乗っけながら二人の元にテクテク歩み寄る。

 艶々としている流された髪に、赤ん坊のようなしっとりお肌。

 ラフな和柄の六角形が連なる青色シャツに、白に青いラインが縦に入っているズボン。靴は普段使用でも問題なさそうな、かかとの脇が開いている前が白で後ろが黒のもの。

 二人にしてみれば、ポニーテールではなく、編入当初の髪を流したスタイルで目の前にいるのは久しぶり。幼馴染から妹に早変わりしている。肌は羨ましいぐらいに綺麗で学院でも近くで見ているから、余計その違いが判る。

 

 そんな(ノエル)がなんの気も無しに子供のようにテクテク来たらどうなる。

 

「――」

「ふぅ〜! ふぅ〜!!」

 ルミアはフリーズし、システィは衝動を押さえつけようと必死になる。

 ノエルは頭上にはてなマークを浮かべ。

 

「どうしたの、()()()()()?」

「「げぶ」」

 

 ――追撃。カウントストップ。オーバーキル。

 

「んにゃ?」

 無意識に二人をノックダウン(K.O)、卓上にその身を墜した。一撃で戦果、二人。なんと恐ろしき。

 傍目から一部始終を見てしまったグレン。ノエルが動じぬルミアとシスティを揺すって起こそうとしている。なんとなく二人の状態が図らずしも判ってしまった。

「先に行って寝てろよノエル……」

「わかったよ〜」

 これ以上被害は出せない。グレンのお願いをノエルは素直に聞き、寝室へ足を進めた。

 その後ろ姿を見送り、見てしまった惨状を見たくないと僅かながらの抵抗を見せながら振り返る。

 システィは顔を見せないように机に突っ伏して震えている。ルミアは身じろぎ一つもしない。その代わり、顔はとっても緩んでいる。

 

 あぁ、これはダメだな。

 

 人知れず敗北宣言を掲げたグレンがいた。

 

 

 ▷▷▷

 

 

すぅ――すぅ――

 

 

 時折聞こえる鳥の(さえず)り。柔らかな風が窓のガラスを揺らす。雲に隠れては光が弱まり、通り過ぎると白い月面が地を照らす。

 カーテンの隙間から光が強くなる瞬間、遮られていない場所から部屋の中に月光が差し込む。図らずとも、藍白色の髪を艶やかに煌めかせていた。

 グレンの自室。そのベッドで、グレンの胸元に顔を埋めるように寝息を立てている目麗しい少女――もとい、ノエル。長髪をベッドへ無造作に放り投げているその姿が、まるで女神のような神秘さがある。

 その髪を手で溶かそうとすると、指の間に入り込む髪がサラサラと(つか)えることなく通り過ぎ、ふんわりと重力に従って落ちていく。油断して触っていたら、忘れられないであろう感触が手に残る事だろう。

 すんすんと鼻を鳴らせば、ふんわりといい香りもする。決して芳香剤の香りでは無い。

 自ら輝いているのではと、嘘であろうが言いたくなる目の前の光景。グレンはただただ髪を溶かし、頭を撫でていた。

 

 触っていて感触がいい、というのも理由だった。

 でも、家族だからこそ、ノエルの事を判っていた。

 

 ノエルは他の誰よりも、ひとりぼっちになりたくない。

 

 その心情が何処から来るかはセリカとグレンも判らない。だが、成長した今でもこうして兄と慕っているグレンに身を寄せ、甘えてくる。ノエルにとっての優先順位もセリカとグレンがなんだかんだ高い。過度なものでは無いが、文字通りに依存していると言ってもいいのだろう。

 

 ただ寂しいからではない。

 

 本能で、〝家族〟というものを欲している。

 

 だから、家族にこうして依存する。ノエルの(家族)として。

 

 その身を寄せるようにするノエルに、グレンは抱いて自分に寄せる。

 心なしか、ノエルの表情が嬉しそうに見えた。

 

――おにいさん……

 

  

 

 

 

 

 翌日。例の学院長室。

 ノエルに連れられて、グレンとリックが対面していた。グレンからは心なしか、元気を感じない。

 その様子に、リックは多少苦笑いを浮かべている。

「大丈夫だったかね?」

「まだ若干気持ち悪いですけど?」

 確かに、おちゃらけている態度を今日はまだ見ていない。それをする元気もないという事なのだが。

「まあ、頑張りましょうね。お兄さん」

「うい……」

「無理はしないようにの〜」

 ちなみにセリカは、未だに家でダウンしている。

 

 

 

 

 朝、リビング。

 

「あ、()()()()()()()。こんなところにあったんだ〜」

 のえるこわいよ。

 

 

 

 




可愛いものに対して溶かされちゃうのは普通のこと。
自分の思っている可愛いのが思いっきり甘えてきたらどう思います?

ついでに今回のノエルの家着姿の挿絵。

【挿絵表示】

体型とかを調整している段階。これは現時点での調整後。
自分なりに納得できたらに正式に色々出します。


次から02に入ります。



それはそうと、
タグ、なんて書いてある?




――おまけ
R-15とR-18の境目
直接的なセクシャル表現、グロ表現が出たら基本的にR-15に入るとだけは考えてください。

R-18:
性器に対する直接描写、性行為の直接描写が入っていた場合、該当。
R-15:
男女どちらかの裸が直に描写されるのであれば該当。残酷な描写も同時につくケースが大半を占める。何かに気を使うことがまず必要なく、案外描きやすい。
性行為、また近しいのも直接的描写をしなければ問題はない。もしやりたいのなら、描写を適度にぼかして本番前に場面を転換させる。
恋愛系でキスのみの場合は付けなくても問題はない。

注意点:
説明、キスなどの性器に関連しない前座をするだけならR-18には入りません。あくまで性行為の直接的描写をするとR-18に該当します。
胸に関しては明らかに性行為の一環として行われていた場合、R-18に該当します。
例:
R-18:自らの意思で触っている、またはそれ以上。お互い欲求を求めている、
R-15:不慮の事故で見てしまった、または触ってしまった。心拍を計らせるために触らしている、本人が押し付けているなど。

2019.09.06
予約投稿。16,969文字。
そうこうして誕生日を過ぎた。だからどうした。まだ未成年だわ。
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