重い空気の指揮所を出ると、ヘーゼルナッツを水に溶かしたような髪色の年若いクルーが二人の案内についてくれた。射出場に向かう通路のさなかも、ランペルツは案内の青年クルー相手にも軽口を休まない。
何かと話しかけては年若いクルーをからかっていたが、青年はさきほどのどよめきの中、ランペルツの大言に驚嘆した方の口らしく、ランペルツの武勇伝をやたらと聞きたがったのである。それに応えてランペルツは大いに熱弁を奮ったが、どれもこれもワルキューレを相手取っての話であるから、シーフェルデッカーは隣で聞いていて気が気でない。ときどきスパルタニアンと口にしかけてごまかすのを繰り返している。
さすがに言い直すあたり、大筋は弁えているようだが実に危なっかしい。際どいところで破綻は何とか回避されていたが、その際どさをも楽しんでいる様子がシーフェルデッカーにはまた度し難くまた腹立たしかった。
そんな同僚の心内を察してかどうかは判らないが、射出場まで来たところでランペルツ中佐はようやく軽口を収め、その締めくくりに青年にひとつ質問をした。
「さっきの当世五指に入るパイロットと言うと、貴官は誰を挙げるかな?」
青年はあごに手をやって考える素振りだがすぐに答えを口にした。
「そうですね、まずホルスト・シューラーでしょうか。ファルコ・フォン・スプリンガー、アーデル・ウッツなども入りますね。ヘルマン・フォン・ケーニッヒも偉大なパイロットです」
「ほうほうほう。だがいるだろう、他にも」
あっ、と察した青年クルーははにかんだように微笑した。
「ランペルツ中佐の戦果もすさまじいものでしたね。特務の方の戦果は一般には秘匿されているのでしょうか、小官は恥ずかしながら今日まで中佐のお名前を存じ上げませんでした」
そう言われてランペルツは虚を突かれたように一瞬表情を失った。シーフェルデッカーはその心境がよくわかるので思わず吹き出す。
その様子にランペルツはじっとりとした目つきで隣人を睨んだが、軽く咳ばらいをして気分を落ち着かせると、再び青年に向き直って質問をこころみる。
「いやまあそうなんだが、ほら、いるだろう。銀河の反対側にも」
ランペルツの言葉に青年は「ああ」と言って指を一本立てた。
「元同盟軍で言えば、オリビエ・ポプランというパイロットの名が知られていますね」
そう聞くと自称撃墜王は満足そうに二度頷いた。翻ってシーフェルデッカーは苦笑をため息に変えたのだった。