「この シリカは ほんとに げんきが いいぞ!」
「ふむ…… わしにしね と いうんだな!」
「ビーストテイマーって、あの?」
「そ、ビーストテイマー」
ハルキの返事に、グラントが頷いて答える。
「いるんですよねん。モンスターと戦ってて、気が付いたらその倒したモンスターが仲間になっちゃってました! ってやつ」
『(´◠ω◠`)』
トミィの絵文字が喜んでるのか呆れているのか、微妙によく分からない。ハルキも興味ないといったら嘘になるけれど、という程度の反応なのだが、肝心のグラントが鼻息荒くビーストテイマーの話題を投げかけている以上、嫌な予感がするのは仕方のない事である。
「いやー、なんかね、これ以上ギルメンは増えないかもしれないなぁって。今まで約一年もの間いちおう勧誘を続けてたんですけどね、なんかね、来ないんですよ、人。なんかね」
「そりゃギルドの名前変えなきゃ望みないだろ」
「×$※□☆♭……」
一々翻訳ウインドウを開くのも面倒なため、普段のオルスは結局何言ってるのか分からない状態だけど。流石に今のは何言ってるのか大体分かるよね。
「という訳で、人を増やさずにギルメンを増やすにはどーしよーって考えたらさ、思いついたんだよね。
ビーストテイミングすれば、仲間モンスターとして頭数の確保ができんじゃね……テキな?」
「もう人員確保を諦めててワロタ」
時は人を変えるとはよくもまあ適当な事を言ったものだと、このメンツを眺めていると感じるかも分からないが、それはこのマソップも例外ではなく。今日もギルドルームの端っこで壁の方を向きながら、自分のシステムウィンドウを弄っている。それって一年も引きこもって調べなけりゃいけない程、情報量多かったっけ?
「でもですよ、じゃあどーすればテイミングできるかっていう所がネックでね、なんかはっきりした事が分からないんでござんすよ」
「うーむ、そんな不確定な情報に目を付けるのはどうなんだよ?」
一週回って再びグラントとハルキである。ハルキが半年近くかけて再びこのグラント帝国に復帰したというのにまるで距離感が変わっていない辺り、さすがアウトロープレイヤー達である。
「という訳で! 今日の議題は、『テイミングしてギルメン(モンスター)を増やすにはどうすればいいか』なんだぜ!」
グラントの絶妙にどーでもいー無茶振り……お決まりの展開である。っていうか今更だけど、これ翻訳ウインドウを出していないオルスには全く伝わってないんじゃね?
「そうは言うけどなグラント、俺もここんとこ結構いろんなところ練り歩いてたけど、特にモンスターのテイミングに関するイベントとか見つからなかったぜ? 逆に、仲間になったモンスターを強化したりするのはあったと思うけど」
おお、ハルくん、なんかすごいカタカナ使ってる。一味違う。なんかちがう。
「そうなんだよねー。
だから多分よくあるジョブシステムみたいに、パーソナルデータにテイム能力が専用クエストとかで後天的に上書きされる感じじゃなくて、モンスターとエンカウントした際に確率で判定があるか、あるいは元々のキャラメイクの時点でテイマーとしての能力値がプレイヤー毎にランダム付与されるか……そんなところだとは思うんだけど」
「なんだ、結構分かってるんじゃん」
『(*゚∀゚*)』
そしてグラントも今のハルキにならきっと難しい事言っても通じるだろうと思ってか、かなり容赦のないゲーム用語フル活用である。そしてそれにさして戸惑わずに返答するハルキの成長ぶりは本当に大したものだ。
……まあ今回のは多分、一々何を言っているのか聞き返さなくて良いくらいにはなったという程度だろうけど。
「異議あり。データのばらつきが大きすぎるから正確じゃないけど、2024年1月5日時点での全プレイヤーの単一のモンスターの討伐報告数の平均は、約2800体ですぜ。それだけ戦闘しても現テイミング成功発見例は20例もないわけで。
ただひたすらモンスターと戦って確率で、って事はまずありえないでしょ常考」
オルス以外の全員が、一斉にマソップを見る。
「……マソップ、いつの間にそんなデータを取ったんだよ?」
『《゚Д゚》』
「う、うるさいうるさいうるさい! ワイだって情報屋の友達の一人や二人はいるのですぜ!」
「うーん、それマソップ嬢が言うと凄く惜しいと言うか、中の人は同じなのにというか」
見た目が完全にゼロの魔法使いなマソップが(うるさい)³言うとね……何とも妙な気持ちになるグラントだった。ちなみに声は違うからくぎゅーとはならない。
「えっと……って事は、数打ちゃ当たるっていう線が消えたんだから、さっきグラントが言ったのを考えると、プレイヤーそれぞれにあらかじめテイミングの適性があるかないかが設定されているって事になるのか?」
「そういう事になるかな。まあ、どのタイミングでその適性が決まるのかはよく分からないけど」
「タイミング?」
グラントがマジモードなせいで、ハルキやトミィはとりあえずは聞き役に徹せざるを得なくなっている。今日のお前さんはおかしいぞグラント。なんかちがう。話を全く聞いてないオルスは論外。
「つまりだよ、テイミングの適性がキャラメイクの段階でもう完全に決まっちゃってたとしたら、そりゃもう俺でもハルくん達でもお手上げだとは思うんだけど。
なんか服とか髪の色とか所持品とか、そういうのでモンスターとの遭遇時にちょっと成功率が変動したりしないかなーって。うん」
なるほど……グラントがまともな事を言ってるのも驚きだけど、確かにそれなら検証のしようはあるだろう。要は今からやりようのあるやり方で、少しでもテイミング確率の上がるやり方を探すという訳だ。
「ぐぶぐぶぐぶ。そういうことなら、テイミングに成功した人の服装とか髪型の情報を手に入れて、マネするのが一番手っ取り早いと思われ」
「ほうほう、現実味が出てきたな!」
確かに、今までのグラントのしでかしてきた数々の所業と比較すれば、今回のはかなり現実的かつ建設的なものといえる。ハルキがいつになく身を乗り出すのも頷ける。様な気もする。
ただし、彼女はその後……数十分の後にその事を本気で後悔することになるのだが。
「なるほど……そうだったんですね……」
「そーそー。だからまあ今回の事はしょうがないって事で」
「……だからって……」
少女は肩を震わせた。
その横でグラントがなだめるように、いや若干楽しむように、優しく彼女に言い聞かせるが、どうやら逆に火に油を注ぐ結果となったようだ。少女を中心にグラントと反対側にいる、水色の小さな竜……「フェザーリドラ」と呼ばれる竜が、ぴゅい、とどこか悲しげな鳴き声を発する。
「だからって、どうしてわたしと同じ格好をした人が、二人もいるんですか!?」
もうお分かりだろうか。少女の名前はシリカ。かわいい女性プレイヤーにして、レアモンスターの「フェザーリドラ」ことピナを従える立派なビーストテイマーである。
そんなシリカの眼前には、彼女と同じ髪型、同じ衣装を着たプレイヤーが二人。
「『……見ました?』」
「何をですか!!」
さすがマソップ。普段は無関心な彼女も、他人を煽りに行く(いや、それが目的な訳ではないのだが)と聞くや否や喜んで参戦である。ピンクの髪を茶色に染めてツインテールにし、「シルバースレッド・ムーンブレザー」と呼ばれる銀のブレストプレートにコート状の赤い服を身に纏った鎖骨prpr女は、その無駄美貌も相まってかなり完成度の高いシリカコスプレをしていた。
「うーん、何回見てもマソップ嬢は実に素晴らしいですなあ。
……それに比べて恥ずかしいとは思わないのかね、ハルくん」
「……ほっとけ」
それに対して一方は……いや一方もそれなりなのだが、何と言うか、コスプレしている本人がシリカになり切れていないと言うか……いやまあハルくんなんだから仕方ないけど。
結局ビーストテイミングをする方法として、グラントとマソップが出した、『テイミングに成功した人の服装とか髪型の情報を手に入れて、マネする』作戦を採用したグラント帝国のメンバーだったが、その白羽の矢が立ったのが、「中層のアイドル」としてプレイヤーから(特に男性プレイヤーから)人気を集めていたシリカだったのだ。
「まあまあ、そう言わないでよ。
だってこーんなかわいーシリカちゃんになり切れるの、うちには女性プレイヤーのマソップ嬢と、美少年補正で近似できるハルくんしかいないじゃん」
「……俺、男なんだけど」
しれっと嘘を吐きやがるトンデモガールである。
「うん、だからさっきあのアイテム渡したでしょ? えーと、『衣装持ちの心得』だっけ」
それはどうやらグラントがこの一年間で手に入れていたアクセサリーアイテムの様だった。
ひとたび装備すれば、男性プレイヤーは女性装備を、女性プレイヤーは男性装備をも装備できるようになるという、いったいどーこに需要があるのか分からなーいアイテムである。グラント、女装癖ないよね?
そしてそれをハルキが装備することで、シリカと同じ装備を装着することが出来るだろうというのがこの理不尽ギルドマスターの魂胆であった。……実際は女性プレイヤーのハルキがそのままシリカ装備を付けて、かつグラントから渡された『衣装持ちの心得』によって男性装備もオーケーになったというだけなのだが。
残念ながら流石に男性プレイヤーにツインテールは無理だろという事で(繰り返しいうけどハルくん実は女性なんだけど)、ハルくん髪の色は茶色に、装備はシリカ装備だけど髪型は普段のショートカットである。パチモン感丸出しである。
「あ、あの!! 本物はわたしですからね、忘れられてないですよね!?」
「そんなに怒るなだぜシリカチャァァン。圏内エリアでワイたちとユニット組んで踊るよりかはマシでしょ常考」
「軽めに脅してませんかそれ!?」
「それは俺も嫌だからやめろよ!?」
マシ、とか言っておきながら案外まんざらでもなさそうなマソップに、シリカとハルくんが全力で切り返す。
服装も同じ、ハルくんだけパチモン髪型とは言え見た目は完全に美少女アイドルの三人が、身もふたもない会話を交わしているその風景はある意味見ものだ……なんてグラントが考えている横で。
「※■☆%$#▲!、?%◎%△#?&@??」
『(´ε`;)』
「♭*■、☆♭%×$☆:。□○%×$&○……」
『☆(^o^ 三^o^)☞』
「……あの二人がしゃべるとこうもカオティックになるんだなぁ」
ご存じトミィとオルスなのだが、ちょっと何を言っているのかが少しも分からないので、グラントには介入するすべがまるで存在しなかった。悲しい。というか何でこの二人は会話できてるの?
そんな感じで。とにかく、今グラント帝国とみんなとシリカがいるのはとある層の主街区から少し離れた、森のダンジョンの最深部近くである。ダンジョンボスの近くのこのエリア付近でのみ、過去にシリカがテイミングに成功したレアモンスター「フェザーリドラ」が確認されているのだ。
「今日はてんじょう、てんか……? えっと、グラントさんのギルドの皆さんが、テイミングについて教えてほしいって聞いたから来たのに……まさかこんなことになるなんてぇ……」
アスナさんの時もそうだったけど、基本的にグラントのする事(及び思いつく事)はうら若き乙女プレイヤーには少々刺激が強すぎるのである。シリカチャァァンも例外ではなく、彼女も遂に半べそ状態である。
「あーほらほら泣かないでシリカチュワァァン。ほら、ピナちゃんも元気出してって言ってるよ」
「……ピナ……?」
『ピュイ!』
シリカが後ろに振り返ると、そこにはいつも一緒の青い小竜の姿が。
『ピュイ!』
シリカが右を向くと、そこにはいつも一緒の青い小竜の姿が。
「……あれ?」
「わたしのピナが、二匹いる」
「っ!? ちがうぞ!! そいつは……」
違和感を覚えたグラントと突然増えたピナに首を傾げたシリカに、ハルキが叫ぶ。
「そいつは野生のフェザーリドラだよ!!」
「んぬぁぁにい!?」
「ええっ!?」
どうやら一行が下らない会話をしている間に、野生のフェザーリドラが一匹迷い込んでしまった様だった。驚いたグラント達は二匹のフェザーリドラから急いで離れる。
「むむ、どっちがピナでどっちが野生かわかんないぞ!? シリカチュワァァン、分かる!?」
「えっと、おーい、ピナ?」
『きゅる?』
『きゅる?』
そして野生の方がなかなか利口な様である、本物のピナの動きを丁寧に模倣してしまっている為、外見はおろか反応すらまるで区別がつかない。
『ピュイ! グルルルル……きゅるっ!!』
『ピューイ? ピュー、きゅー!!』
『ピュイ!?』
『ピュイ!!』
『ピュー!!!』
『ピュイー!!!』
『ピィィィ……ピィ、ピュイー!』
『ピッピッピ、ピピューピピピ』
『ピッピ! ピッピッピ!』
『ピピピピピ……ピューッ、ズドオオオオオオン!!』
『どういうことだってばよ』
『ピイピ、ピカピカ、ピカピ?』
「……そこまで!! 何だか知らないけどもうやめとけ!!!」
なんかピナ達の一部の鳴き声が壁を越えてこっちにぶっ刺さってきたような気がするけど気にしない。うん、気にしない。ハルくん嫌な予感がして止めたみたいだけど、ありがとう、今のはなかなかやばかったよ。
「ど、どうしよう、このままじゃあ、ピナが……」
実際は、ピナもシリカと生活を共にし、野生時よりも多少は成長している筈なので、放っておいても同族の一匹くらい何とかなる様な気もするのだが。飼い主である彼女からすればそういう問題じゃないのだ。
『(☝ ՞ਊ ՞)☝ピカピ、ピカピ!』
「ぶり返さない!!」
「&♭ピカ#▲!*○○チュウ%$■!!」
「ぶ、り、か、え、さ、な、い!!!!」
流石のグラントもこれにはお冠である。いくら今日のミッションで役目がないからと言ってトミィもオルスも悪乗りし過ぎだよ全く。
「でもパイセン、これってチャンスじゃね常考。要はあのフェザーリドラ二匹に、ワイらシリカsを選んで貰えばいいわけで」
「あ、なるほど! テイミングの検証にもなるし良いかもだね!!」
意外にも冷静だったマソップの助言を受け、グラントはシリカ三人衆に指示を出す。ところで、シリカが三人いてピナが二匹いるこの光景をシリカファンの方々が見たらどう思うんだろうね。
「よし、じゃあ左からマソップ嬢、ハルくん、シリカチュワァァンの順に整列!」
三種三様な反応を見せながらその場に並ぶシリカsに、フェザーリドラsも目を向けた。ようし、舞台は整ったぞ。
グラントは満を辞して、小竜二匹に向かって言ったのである。
「そこに 3びき シリカが いる じゃろ?▼」
「……『びき』じゃねぇ」
ハルくんの小さな呟きは残念ながらスルーである。
「おまえに 1ぴき やろう!▼
・・・ さぁ えらべ!▼」
さて。その台詞を皮切りに、まず一気に飛び出したのは、一行から見て右のフェザーリドラだった。他の誰とも迷うことなく、その小さい竜は目的の人物へと向かってゆく。
「あ……やっぱり分かるんだね、ピナ……!」
歓声を上げるシリカ、モノホンのシリカチュワァァンの周りをぐるぐると飛ぶと、気持ちよさそうに喉を鳴らしながらやがて彼女の肩に止まって落ち着く。
さて、もう一匹はというと。そんなモンスターとテイマーの美しき愛情の結露をどこか呆れた様な目で見やりながら、しぶしぶと言った様子で他の二人の所へ向かっていく。
果たして、グラント念願のテイミングチャンスである。
「気を付けてよ二人とも、一応相手もレアモンスターだから、そこら辺の奴より強いかもだぜ」
「そう思うならグラント、今すぐやめさせてくれてもいいんだけどな」
「ぐぶぐぶぐぶ、おいでぇぇぇピナチュワァァン……!」
げんなりしているハルキとかなり張り切っているマソップがとても対照的である。ここでまた小竜はぞっとしたのか短く『きゅるるっ!?』と短く叫ぶ。そしてしばらくそこでどっちの「シリカ」に向かったものか迷ったかと思えば、やがて意を決したように目的の一人……なんとハルキの方に向かっていき。
「おお!? マソップ嬢やぶれたり……!?」
「うっそだろお前」
愕然として呟くマソップをスルーし、そしてハルキの後ろへ回り込むと、まるでシリカが先程そうされたかのように肩にとまって。
……そして、その髪の毛に思いっきり、噛みついた。
「ぎゃあああああっっっ!?」
「あー、髪型ちがうもんねー」
「髪色はあってるからセーフかと思ったらがっつりやられててワロタ」
わずかにハルくんのヒットポイントが減るものの殆ど誤差レベルなためグラントもマソップ嬢もまるで気にせずに高みの見物である。ドンマイである。
「うーむ、やっぱり完コピじゃないと効果はないのかなぁ。ハルくんも足りないのは髪色だけだと思うんだけど……」
「いやいやパイセン、やっぱ要素がそろってても完成度が低くちゃーだめでしょ常考。今度はワイが」
かぷっ。
「……ワイが」
「あ、悪いな。今度はそっちの番だとさ」
そのハルくんの言葉通り、マソップの頭……ツインテールの尾っぽには、問題のちびドラゴンが丸呑みするかのように噛みついていた。
「……こんのくそアマぁぁぁぁ!!」
「ほーらほら、マソップ嬢落ち着いてー。アマかどうかは分からないでしょ」
「あ、そうか」
「いや落ち着くなよ」
上からマソップ、グラント、再びマソップ、最後がハルキである。適当でも理屈が通れば落ち着いちゃうマソップにツッコミをいれるハルくんの髪は、ちゃんとフェザーリドラに食われたところが部位欠損扱いになり綺麗に跡が出来ていた。
そしてマソップもそれは例外でなく。
「食われたぁ……シッポを食われたぁ……」
「ふむふむ、フェザーリドラはツインテールのしっぽが好物……って!?」
グラントは思い付いた。もしかしてこれが、モンスターをテイミングする際の、隠しパラメータの一端なのではないかしらん。つまり、「フェザーリドラのテイミング時には、髪型がツインテールだとやりやすい」みたいな……。
「もう、そんなみんなで騒いでたら、友達になってくれるモンスターも逃げちゃいますよ?
ね? ピナ?」
その時。髪を食われたーとはしゃぐグラント帝国のメンバーに、シリカが優しく釘を刺し、肩にいる自らの相棒の頭を撫でた。ここまでは普通である。
だが。撫でられたその小竜が目を細めて、シリカに向かって口を開けて。
……至近距離から、猛炎を噴きかけたのである。
「ちょっ!? シリカチュワァァン!?」
まさかの事態にシリカ(本物)、即昏倒である。頭をまるまる黒焦げにしてその場に崩れ落ちる彼女のヒットポイントはイエローゾーンまで減少し、かつ火傷の継続ダメージデバフが付いていた。
「し、シリカ!? 今回復するからな!!」
ハルキが慌てて駆け寄り、シリカに状態異常を解除する結晶と回復ポーションを流し込む。その横で、グラントとマソップが犯人たる「ピナ」を見やる。
「これってどういう状況なんだ……? モンスターとテイマーの喧嘩……?」
「いや、わかったZOY。何が起こってるか」
「……どゆことマソップ嬢?」
ぐぶぐぶぐぶ、と小さく、不謹慎に笑いながら、マソップはこの現状に対する驚愕の真実を述べた。
「いまシリカチュワァァンをデデーンしたのが『野生のフェザーリドラ』だぜ。で、ワイたちの髪を食べたのが……モノホンの『ピナ』だったってことじゃね」
何たること。
初めに真っ先にシリカの所に向かったフェザーリドラを勝手にピナだと思い込んでいたのだ。きっとあざとくテイマーたるシリカの懐に入った野生産に、ピナはドン引きして渋々他の二人に向かったのだろう。
そして『お前は髪型がちげーんだよ! そっちのもニセもんじゃねえかゴルァ!!』と。
「えーと、じゃああいつが敵で、さっきのが味方ってことか……いや、ピナ何してんの」
とはいえ主人が首から上をBURNING!!されたので、流石のピナも焦ってシリカのもとへ急行、必死に小回復スキルを発動していた。
そしてそんな彼らをまるであざ笑うかのようにきゅるきゅる鳴きながら、野生のフェザーリドラは飛び回った。ってそういう事ならさっきグラントが考えた、「フェザーリドラのテイミング時には、髪型がツインテールだとやりやすい」は駄目だね。だって対象がピナだったわけだし。
「なんだよチクショー! じゃあお前さんはいったい誰が好みなんじゃい!!」
3びきのシリカがある意味全滅状態の今、フェザーリドラをテイミングする方法はなくなったと言っても過言ではないのであり。こうなった以上、グラントがそうヤケクソ気味に叫ぶのも仕方ない事である。
だが、その時。野生のフェザーリドラは一瞬動きを止めると、やがてゆっくりと飛行する高度を下げていった。そうしてふわふわと飛ぶ小竜は、グラントの横を通り越し、顔が丸焦げのシリカを飛び越し……そして彼女にポーションを飲み終わらせたハルキ、をも越えて。
「%$#▲○%$……?」
なんと、オルスの目の前で止まったのだった。
「これは……もしや」
『(゚o゚;』
グラントの呟きに、トミィが応じ、マソップとハルキが頷く。これだけシリカコスプレをしたというのに、どうやらフェザーリドラはオルスを気に入ったらしいのだ。
しかし、これはこれで大チャンスである。過程はどうだろうとテイミングに成功しかけている訳なのだから。
「よーし! オルちゃん! そのまま、テイミングだー!!」
「頑張れ!オルス!!」
「ぐぶぐぶぐぶ……やりますねぇ!」
『(((゜Д゜;)))』
グラント達の激励を浴びて、オルスは満面の笑みを浮かべる。どうやら今度ばかりは彼らが応援しているという事は彼にも雰囲気で伝わった様だった。
だけどね? ここで考えてほしいんだ。
オルスって、今まで翻訳ウインドウ、出してなかったよね?
だから彼、今グラント達が何しにここに来ているのか、知らないよね?
テイミングをしに来たって事、知らないよね?
因みにそれが分かっているトミィは、一人ヤバって感じの絵文字を送ってるよね?
つまりである。ギルマス達からの心からの激励を受け、オルス君は強烈な使命感を感じて。
是非応えなければと、目の前でこちらに気がありげな野生のフェザーリドラに向かって。
……メイスを、思い切り振り上げたのだった。
「ちょ、まって、オル」
渾身の力で振り下ろされたメイスによって、野生のファザーリドラは跡形もなく砕け散った。
果たして、そんな一件があった為、結局グラント帝国のテイミング計画はまるで実現せずに終わったのだった。
そしてこの後、たまたま近くで探索をしていた他のプレイヤーによって、あまりに完成度の高いシリカコスプレイヤーがいるという噂がシリカファンの間で広まったとかなんとか……。
マソップ「……カーソル見れば見分けがつく?」
マソップ「勘のいいガキは嫌いだよ」