SAO (シールドアート・オンライン)   作:ニモ船長

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「つまりそのインゴットはドラゴンの排泄物だ、ンコだ」


ハルキ「あんこじゃないか?」
シリカ「き、金庫かもしれませんね!」
グラント「ボンゴレビアンコ?」


アスナ「排泄物って……書いてあるじゃない」


第十三話 吹けよ嵐、爆ぜろリア充

 

 

 「なんだって? リスのペットが行方不明?」

 

 「 リ ズ ベ ッ ト よ !!」

 

 

 珍しい。このむさ苦しく男のたむろすグラント帝国ギルドルームに、女性の声が響いている。まあハルくんもマソップも声は野太くはないんだけど、それぞれ色んな意味で女の子扱いされていないので仕方がない。

 ならその女性とは誰かというと、栗色の髪の毛に紅白の騎士服を纏った、「閃光」ことアスナさんである。因みにグラントの天敵と言っても過言ではない人物でもある。

 

 

 「行方不明のその少女の特徴はー? やっぱ頬っぺたが膨れてたり?」

 

 「一回リスから離れてもらえるかしら、グラントさん?」

 

 

 グラントに対する第一印象が最悪だっただけでなく、今の彼女は「攻略の鬼」としての修羅の道を歩んできた猛者なのだ。まるでグラントに対して遠慮をする理由が見当たらない。

 

 

 「リズベットってあれだろ? アスナの専属スミスやってるっていう、あの」

 

 「そう! ハルるんには前に話したことあるよね?」

 

 

 ハルくんにとってはアスナは数少ない同性の友達であり。またそれはアスナにとっても同じで、二人は三層での出会いから欠かさず連絡を取り合う極めて良好な関係を保っていた。因みにハルキがソロの時に、アスナさんは度々アドバイスをしてくれていたりする。

 

 

 「リズベット武具店。第四十八層主街区リンダースに存在する。所有者名はリズベット、当人が鍛冶プレイヤーであり、小規模ながら安定した武器生産と加工が評判」

 

 「良く知っていますね……行ったことがあるんですか?」

 

 「ぐふぐふぐふ……情報屋の知り合いがいると便利ですぜ……それよりそこの彼女、ワイは薔薇も百合もイケる口でさぁ……」

 

 

 ヒッ、とあからさまに顔を青ざめるアスナを見て、ハルキがグラントに耳打ちする。

 

 

 「薔薇とか百合って、食べられるんだっけ?」

 

 「……どっちもおいしくないと思うナー」

 

 

 ハルくん純粋で素晴らしい、いつまでもそうであって欲しいね。何はともあれ、その武具店を営んでいる生産職プレイヤー、リズベットが行方不明という事である。

 

 

 「今日の昼過ぎ辺りに、武器のメンテナンスをしてもらおうと思ってリンダースに行ってみたら、リズはいないし、メッセージも,マップ追跡も……」

 

 「なーんか、いつぞやと立場が逆転したような気がするなあ」

 

 「お前が言うなグラント」

 

 

 因みにいつぞやというのは、前のグラント黒鉄宮送りの件である。それをこの落武者男はあっけらかんに言ってのけるのだから、ハルくん容赦なくて当然である。

 

 

 「しっかし、マップ追跡が出来ないのは仕方ないとして、メッセージが届かないっていうのは気になるなあ。ダンジョン内で戦闘中ならまだしも、時間帯を考えるともう帰路に着いてもおかしくなかろうに」

 

 「ええ。出来るなら私が自分で探してあげたいんですけれど……実は、今からうちのギルドの定期探索に向かわないといけなくて」

 

 「今やアーちゃんは攻略組最強のギルド『血盟騎士団』の副団長だもんねぇ。三層の頃はあーんな小娘だったのに」

 

 「あなた何様ですか」

 

 「俺も激しく同意だな」

 

 

 ハルくんのようにグラントとの付き合いが長いわけじゃないのに、アスナさんもキレッキレである。このデスゲームの長い毎日の中で彼女もかなり態度を軟化させた筈なのだけれど、彼に対してはまるで反応が変わっていないのがドンマイである。

 

 

 「とにかく! リズを見つけてくれたら、しっかりとお礼をさせて頂きますので、どうか彼女を探してください。私もこっちが終わり次第急行しますから……」

 

 

 アスナも個人的な感情と副団長としての束縛との間で板挟みなのである。彼女がギルドの用事を放棄してリズベットを探しに行ってしまったら、部下にまるで示しが付かないというものだ。

 

 

 「ああ、任せとけアスナ。グラントもみんなも、それでいいよな?」

 

 

 

 

 

 

 

 「とは言っても、居場所の手がかりも掴めないんじゃ探しようがなくね常考」

 

 「ねぇ話を早く終わらせすぎなんだよハルくん。もう少しアーちゃんから情報を聞き出さないとさぁ」

 

 「うっせぇ、悪かったよ……だって可哀想だったから……」

 

 『(๑-﹏-๑)』

 

 

 親友の身になって考えるあまり、すぐに了承してしまったハルくんだったが、意外に冷静なグラント、確かにもう少し色々とアスナに思い出してもらうべきだったね。残念ながらもう手遅れである、彼女は大急ぎで血盟騎士団の本部へと向かって行ってしまった。メッセージは送れるけど、任務中だしあまり期待はできないだろう。

 

 

 「でも、どうしてわざわざうちにこの話を持ち込んできたんだろうなぁ。アーちゃんの事だから人脈には困らないと思うんだけど……大体彼女にはピッタリなアイツが」

 

 「キリトも行方不明っスよ、いやマジで」

 

 「へー、なるほどねー」

 

 

 

 

 

 

 「ん?」

 

 

 あれ? グラントの疑問に答えたのって誰だ? あんな口調の人いたっけ?

 

 

 『|゚Д゚)))』

 

 「ってお前かオルス!!」

 

 

 そういやオルス、翻訳ウィンドウ出すとそんな感じの口調になってたね。今までまともに会話したところを見た事が無かったから全然わからなかったよ。

 つい最近まで、いちいち翻訳ウィンドウを出すのは面倒ということで(と言うよりオルス自身が面倒くさがったので世話がない)いつものよく分からない言語をそのまま話していたオルスだったが。先日の「三匹のシリカ」騒動で彼との意思疎通が取れていないことが思わぬ結末へと繋がってしまった為、これからは重要そうな話が転がり込んできた際はちゃんとウィンドウを開いておこうという事になったのであった。

 

 

 「ん? でもオルス、お前何でキリトのこと……?」

 

 「ハルキ先輩は知らなかったっスか。オレ、キリトと一応フレンドになってんスよ、いやマジで」

 

 「まじかよ!? あの人見知りのキリトと!? コミュ障のキリトと!?」

 

 

 グラントも失礼な奴である。だが実際キリトのフレンドとして登録されているプレイヤーは極めて少ない筈である、あのアスナでさえ最近フレンドになったばかりなのだ。

 

 

 「いやー、たまたま最前線の迷宮区に潜ってその場で会ったキリトと即席パーティーを組んだ時に、何度も根気良く頼んだら登録してくれたんっスよー。いやマジで」

 

 

 あー。ハルキは察した。ただでさえオルスは平均的な日本人より背が高く、エギルに迫るゴツい体型をしているのだ。そんなプレイヤーに意味不明な言語で話しかけられながらフレンド申請なんて送られた日には……まず絶対、断れないよね。人見知りキリトなら、尚更。

 

 

 「今キリトの居場所をマッピングしようとしたら出来なかったんで、やっぱ行方不明っスね。いやマジで」

 

 「まあでも、あいつは筋金入りのソロプレイヤーだしなぁ……ちょっと行方をくらましたくらいじゃ騒がれないよな……」

 

 「ハルくん、でもそれって多分そのリスペットさんも一緒じゃない? だって、基本的に生産職のプレイヤーって、素材取りの為に出掛けるわけで……!」

 

 

 お馬鹿な盾男さん、自分で結構核心的なこと言ってんじゃん。

 

 

 「それだよグラント! 少なくともリズベットさんは珍しい素材が取れる場所に行ったって考えるのが妥当だってことだろ?」

 

 「珍しい素材……そうっスね、鍛冶屋なんすから、レアインゴットとかっスかね? いやマジで」

 

 「レアインゴット……」

 

 

 レアインゴット、つまりは貴重な鉱石のようなものである。某RPGとかでよくある「オリハルコン」や、「アダマンチウム」みたいなヤツの事である。

 SAOも武器生産に関しては非常に多くの手法が存在し、フィールド等で手に入る素材から武器を作る事も出来れば、逆に今まで使っていた武器をインゴット化した上で、それを素材に新たな武器を生産するなんて事も可能なのだ。

 つまり、武器の生産及び加工に関して、インゴットの存在というのは基本的に必要不可欠なのだ、仮にお客さんにレア武器を作ってくれ、と言われたら、それにはレアなインゴットが絶対に要求されるため、鍛冶プレイヤーはそれを手に入れる必要があるのである。

 

 

 「レアインゴットねぇ……基本的にはモンスタードロップだよね。ダンジョンボス級のでっかいヤツから頂戴するパターンが一番主流かなー」

 

 「そういうことなら、今からやるべきことは決まってきたな。とりあえずレアインゴットをドロップするこれまで登場したボス級モンスターを片っ端から調べ上げて、しらみつぶしに探そうぜ!」

 

 「しらみつぶしってのは効率が悪すぎでワロタ。リズベットがインゴット探しに行くって事は、彼女に武器作成を依頼したプレイヤーがいるんだZOY。わざわざ膨大な手間をかけて作る武器なんだから、最前線でも通用するレア度合いのインゴットだって考えれば」

 

 「いわゆる中層、低層のボス級モンスターは除外って訳っスね、いやマジで」

 

 

 なんか最近のグラント帝国の皆さん、ちゃんと議論が出来てるよね。長らくツッコんで来ておいてこんなこと言うのも変だけど、それはそれで物足りないなぁ。なんかちがう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふう……グラント、今何時だ?」

 

 「そうね、だいたいね~」

 

 「……もう一回聞いた方がいいのかそれ」

 

 「ちょっと、待ってって~」

 

 「それって最早ただ著作権に触れたいだけじゃね常考」

 

 「ハラスメントコードには抵触してないからね~」

 

 『(^^;』

 

 

 暗黙の了解って、知ってるかい、グラント。まあ、タグにパロディが付いている以上今更だけど。

 因みに今は深夜の三時である。レアアイテムをドロップするボス級モンスターを倒すと簡単に言いはしたけど、まあ普通に考えて、そういう敵って他のボス級モンスターとは一線を画すレベルな事が多いよね。という訳で対象のモンスターを一体倒すだけでもなかなか時間がかかってしまい、討伐数が十体、二けたの大台に乗った時点でもう日を跨いでしまったのだ。

 

 

 「うーん、それにしてもここにもいなかったね……」

 

 「ああ……ここまでくると、あとはほんとに最前線のほうしかなくなっちまうな……」

 

 

 最前線のレア泥モンスターというのは、つまり最前線の一般モンスターを大きく上回る強さを持っている可能性が高いのだ。だからトラップに引っかかった等の非常事態でもなければ、デスゲームであるSAOにおいてそんな強敵に挑戦する阿呆はいない。

 

 

 「マソップ嬢、もう一回レアインゴットの情報を収集しなおして貰ってもいいかな……」

 

 「異議あり。流石にこの時間じゃワイの知り合いの情報屋はみんな寝ていると思われ。つーかワイも疲れたんだ。なんだか、とても眠いんだ……」

 

 『( ˘ω˘ )スヤァ…』

 

 

 今までのグラント帝国の活動ペースでは考えられないレベルのボスラッシュを継続しているのである。流石に怠惰であるとは言えないけれど、リズベットは未だに行方不明な訳であり。危険な状況下にあるプレイヤーがいると分かっていて捜索を打ち切るのは、やっぱりやりきれないよね。

 ちなみに今回は捜索が目的で人手が多ければ多いほど良いので、マソップにも戦闘には加わらずに来てもらっていた。

 

 

 「確かに、俺達の装備も一回手入れをしないとまずいと思うぜ。おいグラント、その盾もいい加減限界近いんじゃないのか?」

 

 「ふふーん、ところがどっこい。今のところ耐久値の危険を知らせる兆候は全く出てないんだぜ」

 

 

 流石おバカ盾男である。相変わらずの防御技術だ、盾を無駄に消耗させるミスは犯していない様だった。

 SAOにおいて耐久値の著しく減退した装備というのは、基本的にプレイヤーにそれを知らせるために、使用した際に何かしらのシグナルを出す仕様となっているのだ……例えば片手直剣で言えば、振った際にしなる様な微妙な違和感が使い手に伝わる、といった様に。グラントの言う兆候とはまさにその事だろう。

 それにしても、その盾ってもしかして。

 

 

 「……なあ、前から思ってたんだけど、グラントのその盾って、まさか一層のアレそのままじゃないだろうな……?」

 

 「ん、あれだよ。流石にちょっと強化を加えたりしてるけど」

 

 

 まじかよ。それヤバいよ。なんでそんな事になってんだよ。ていうかなんでそんなんでケロッとしてるんだこのガードホリッカーは。っていうかハルくんも薄々気付いてたなら何とかしてよ。

 

 

 「いやあ、だってガード自体が完璧だったら耐久値は減らないし。このデザイン、洗練されてて好きなんだよねぇ」

 

 

 前も言ったけど、基本的に盾は相手の攻撃を完全に無効化できる代物ではない。SAO内に存在する盾には「基部」と呼ばれる、もっとも硬度が高く耐久値がほぼ無限に設定されている部位がそれぞれに存在している。基本的にはど真ん中だが、カイト型と呼ばれる逆三角形の形をしたものやスクトゥム型という畳のような形状のものでは微妙にその位置が異なっていたりするのである。

 今回グラントは丸盾であるので基部は間違いなくど真ん中なのだが、そんな五十層を超えるステージまでその盾でやって来られたのいうのは、これまでの敵の攻撃を全て基部で防ぐという常人には到底できない変態プレイをしてきたという事なのだ。そうでもなければ、一度でも盾で攻撃を受けた瞬間に盾は消し飛び、貫通ダメージをもろに受ける事になるのだから。

 

 

 「まあでも武器はそんな要素ないし、ハルくんたちは確かに一旦圏内に帰った方がいいかもだよね」

 

 

 そんなグラントも、今は腐ってもギルドマスターである、まず第一にメンバーの事を考えないとなのだ。まあ、今回はどっちかというとハルキが一番やる気なのだが。

 

 

 「そのリズベットって子の為にも、アスナの為にも……何としても探さないとだよな。念の為ポーションも補給して、すぐに捜索を再開しよう。みんなも良いか?」

 

 

 ハルキの声に、他の四人が頷いた。みんなもうクタクタではあるのだが、誰も根を上げようとはしていない。ハルくんが再加入した時もそうだったけど、こういう人情のある所はこのギルドの数少ない長所である。

 

 

「それにしても、次はどこを当たるかねぇ。現時点でレアものとして前線クラスの武器を作ることの出来るインゴットを落とすモンスターは、もうあらかた見て回ったと思うんだけど……」

 

 「その前にお前はその盾を新しいのに変えた方がいいって。俺でさえ今じゃ立派にプレイヤーメイドの剣を使ってるんだぜ?」

 

 「えー、うーむ。そんなこと言っても愛用品だしなぁ。仮にこの盾をインゴットにしてまた武器生成しても、プロパティ的にそんなに性能に変わりはないと思うんだよね。やるにしても、どうせなら誰も手に入れてない伝説級のレアインゴットとかで……」

 

 

 

 

 

 「……あ」

 

 「ん? どうした?」

 

 

 突然何かを思いついたようにその場で立ち止まったグラントに、ハルキが問いかける。

 

 

 「いや、誰も手に入れてないってので思い出したんだけど、一週間前くらいに武具素材アイテムの入手クエストっぽいのが噂になってたなぁと」

 

 「な……なんでもっと早く思い出さなかったんだよ!?」

 

 「い、いやだって、あくまでそれっぽいクエストってだけで、結局そのクエストをクリアしたプレイヤーの誰もそんなレア報酬なんて手に入らなかったって言うから……」

 

 

 情報というのには、常に信憑性の有無が関わってくる。

 そういう意味では、ギルメンの命を預かっているグラントとしてはあまり裏の取れていない情報というのは当てにしないのが基本策であり。実際そのクエストも、「マスタースミスがパーティー内にいればドロップする」だの、「クエストフラグの白ひげ老人NPCの前でウッホウホ言いながらゴリラの形態模写をすればドロップする」だの露骨に尾ひれがついて伝わっているのでまるで信用できなかったのである。

 

 

 「ぐぶぐぶぐぶ、確かにまだレアインゴットのドロップが確認されていないクエストだったら、情報屋も掴んでいない可能性は少なくないと思われ」

 

 「盲点だった……グラント、そのクエストの発生場所は!?」

 

 「えっと、確か五十五層の西の山じゃなかったっけ。近くの村のジジーNPCに話を聞いて、で、山のドラゴンを倒す!

 なんか鉱物が大好きなモンスターらしくて、レアドロップが武器素材なんじゃないかって言われてたんだけど」

 

 「よし、みんな!」

 

 

 手掛かりがなくて落ち込み気味だったメンバー達も、目に光を取り戻し始めている。そんな彼等の中心で、ハルキは拳を突き上げた。

 

 

 「物資の補給とメンテナンスが終わったら、すぐに五十五層に急行だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あのオヤジめ……くそジジーめ……」

 

 「いつもならたしなめる所なんだけどな。今回は俺も言うよ。

 あんのくそじじぃめ……」

 

 『(꒪ཀ꒪)』

 

 

 グラントは一つだけ、把握し損ねていた。

 そのクエストフラグを担う老人NPC、話がクッソ長いのである。どれくらい長いかというと、あの後一時間と経たずに直行したはずのグラント達が、結局そのNPCのいる家から出た時には朝焼け……に染まった上層の底が見えていたほどだったのだ。

 余計に時間を費やしてしまった彼等は急いで西の山に向かい、その中腹辺りまでやって来たのだが。

 

 

 「……ハルくん、何か聞こえない?」

 

 「ああ、聞こえる。人の声だ!」

 

 

 まあダンジョン内に人の声なんてさして珍しい事でも無いのだが、徹夜で人探しをしていた彼等にとってはとんでもなく重要なものに感じてしまうのである。

 それに、実際その声の主は、彼等の探し人その人であったのだ。

 

 

 

 

 

 「キリトー!! あたしねぇ!!」

 

 

 

 

 

 「今、キリトって言わなかったよね?」

 

 「キノセイカナー、キノセイダヨー」

 

 

 ぽろりと出たハルキの声に、グラントが棒読みで返す。ちなみにその聞こえる女性の声は、西の山の山腹に反響して山彦のように何度も跳ね返っている。ナーヴギアも無駄にそういうところの再現性高いよね。

 そして、次の瞬間。

 

 

 

 

 

 「あたしー! あんたのことー!! 好きー!!!」

 

 

 

 あたしー! あんたのことー!! 好きー……

 

 

 

 あたしー! あんたのことー……

 

 

 

 あたしー……

 

 

 

 

 「あまりに黒歴史でワロタ」

 

 『(๑癶ω癶๑)』

 

 

 グラント帝国、煽り担当のマソップとトミィが痛烈に切り込む。オルスはちょうど良いところで翻訳ウィンドウ出していなかったので分からずじまいだったが。

 

 

 「キリトめ……何とも罪作りなやつ……」

 

 

 相変わらず何かカッコいいことをしたのであろうキリトに、呆れた様にため息をつくハルキ。ちょっと前にあんな殺伐としたデュエルをした関係だって言うのに、彼女も随分と成長した様である。

 

 

 「ん゛ん゛ん゛……キリトのヤローめ……」

 

 「はいはい、黙れグラント」

 

 

 全く成長していないグラントがハルキと対照的である。哀れである。まあ相手が悪いんだよね。

 何はともあれその木霊する声は、アスナの親友で女性プレイヤーであるらしきリズベットの特徴に適うものであり。それは急いで山道を駆けて登ったグラント達が彼女を見る事によって決定的となった。

 

 

 ……正確には彼女と、彼女と抱き合って空を舞っている黒いアイツを見る事によって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 レア武具素材をドロップすると噂の、西の山に生息するドラゴンの巣に落ちてしまい、一晩そこで泊まっていた……と言う、何ともリア充なリズベットとキリトの報告を受けて、グラント帝国のメンバーも一先ずは彼等と一緒に圏内へと引き返す事になった。

 

 

 「キリトめ……屁こキリトめ……ゴキブリトめ……」

 

 「お黙り。首から上を部位欠損にするよ」

 

 

 このモードになったグラントにはいつも以上に情け容赦なく切り捨てるのが得策であると、ハルキは既に気付いてしまっていた。そのある意味で息のあったやり取りにリズベットやキリトを含めた全員が和やかに笑った。

 

 

 「その……久しぶりだな、ハルキ」

 

 

 そんな中、キリトがその盾男の処理をしているハルキに話しかけた。二人はあのクリスマスの夜以来顔を合わせていなかったので、半年振りの再会ということになる。

 

 

 「その、あの時はごめんな。俺も、ちょっと色々あって……どうかしてたよ」

 

 

 歩きながらとはいえ、そう言って頭を下げるキリトにハルキは少し驚いていた。彼女からすれば、キリトの挑戦を勝手に邪魔したのは自分であり、その後に実力差を突きつけられた事も含めて彼を責める気持ちは微塵もなかったのだ。

 それに、どうかしてたのはハルくんも同じである。

 

 

 「こちらこそ、悪かったな、キリト。サチさん達の事……聞いたよ」

 

 「……ああ」

 

 

 それは彼女が情報屋ではなく、友達としてのアルゴから伝えられて、初めて知った事実だった。キリトが……当時キリトが所属していたギルドであり、前にハルキ達が出会ったサチも所属していた月夜の黒猫団が、ダンジョンのトラップによって壊滅してしまったという、悲劇を。

 

 

 「キリト。俺達、まだ強くなれるよな。みんなで」

 

 「……そうだな」

 

 

 ハルキは人を死に至らしめた事はなかった。それは殺人としてはもちろん、ちょっとした意思疎通の齟齬によるものでも。偶々彼女はキリトとは違って、まだ身近な存在の死を経験していない。

 でも、彼女も大事な人を失って、ここにいるのだ。その人を想って強さを求める気持ちは、二人とも通じるものがある。そう、彼女は信じていた。

 

 

 「いよいよ、アインクラッド攻略も折り返し地点を過ぎたしな。困った事があったらいつでも呼んでくれよ。俺が……いや」

 

 朝日を浴びながら、七人の旅人が山を降りてゆく。

 

 

 「俺達グラント帝国が、いつでも駆けつけるぜ」

 

 「そりゃあ、ぜひお願いしたいね」

 

 

 そうして拳を打ち付け合うキリトとハルキを、背後からリズベットが眩しそうに見つめていたのはまた、別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみにその後。マソップの隠し撮りによって例の絶叫告白が収められた記録結晶をネタに、リズベットに自分の盾の修繕と強化を無銭で強要した外道落武者男がいたというのも、またまた別の話。

 




「あたし、今回一言も喋ってないわよね」



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