SAO (シールドアート・オンライン)   作:ニモ船長

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「アイ・リザイン」



ハルキ「……日本語訳が、こちら」

グラント「こうさん!こうさん!こうさん!こうさんぅぅうううわぁああああああああん!!
あぁあああ…ああ…あっあっー!あぁああ!!こうさんこうさんこうさんぅうぁわぁああ!!
あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくん
いやっほぉお!僕はもうこうさんです!!やったよハルくん!ひとりでできるもん!
あ、コミックでもこうさんでえええええす!!いや


第十四話 カミングアウトは突然に part1

 

 

 2024年、10月20日。ここはアインクラッド第三十五層主街区、ミーシェである。

 白壁に赤い屋根の牧歌的な建物が並ぶのどかな雰囲気のこの街は、されど中層プレイヤーが最も多く集結する、言わば主戦場の一つでもあり。アインクラッド攻略に直接的に貢献する攻略組に、名乗りを挙げんと欲する熟練のプレイヤーの中には、最前線に向かう前にここでステータスやプレイヤースキルなど各種事項の最終調整を行う者もいるのである。

 そんなおっかない一面を持つ街、ミーシェだが、それでは街の中で一体どこが最も人が多く集い、栄えているかと言えば……それは比較的コストパフォーマンスの良いクエストが多く受注でき、かつギルドや情報屋からの告知が張り出される掲示板が存在する、酒場エリアがそれに当てはまり。

 さて、ここからが本題である。そんなある程度の実力者が集う酒場の一角で、とあるプレイヤー達が円卓を囲むようにして座り、何やら話し込んでいるようだ。

 ちょっとその内容を拝聴してみよう。中層プレイヤーの実態が何か分かるかもしれないよ。

 

 

 「何ぃ!? ユニークスキル『二刀流』所持者のキリトが、五十連撃で七十四層フロアボスを単独撃破だぁ!?」

 

 「キリト……あいつ、そんなもの隠してたのか……」

 

 「流石に五十連撃はダウト。ゲームバランス的にも、多くて十六連撃とかそんなところじゃね常考」

 

 「……いやマソップ。グラントにとっちゃそれは割とどうでもいいことだと思うぞ」

 

 「くそ……ゴキブリトじゃ生温かった……あいつはスカシリトだ、いやキリタンポか」

 

 「なんか微妙に呼び名に威力が足りないんだよなぁ」

 

 

 はい、いつもながら、グラントとハルキ、そしてマソップの三人である。キリタンポだったらゴキブリトの方が破壊力あるよね。スカシリトも分からなくはないけど、だったらイキリトでいいんじゃないかな……敢えて今まで言わなかったし使わなかったんだけど。

 今回、トミィとオルスはズムフトのホームでお留守番である。今回の外出の目的は買い出しも兼ねた情報収集であり、元々色んな意味でコミュ力が絶望的な二人はお役御免という訳なのである。

 だが、そうしてここ中層プレイヤー達の激戦区であるミーシェに来てみれば、街中は史上二人目のユニークスキル使い誕生という話題で持ち切りであり。気になってその詳細を調べたところ、例の因縁浅からぬ黒いのの名前がまたしても浮上したという所で、冒頭に至る。

 

 

 「しっかし二刀流ねぇ。古来日本の二刀流剣術っていったら防御重視なんだけどな……五十連撃なんて言うくらいだし、そんな事は無さそうだよな」

 

 「この手の媒体における二刀流って言ったら流れるように剣を振る超攻撃型戦闘スタイルである事の方が多いと思われ。その方がカッコいいんだってばよ」

 

 

 NPCが運んできたお酒……に似たノンアルコールの飲み物をちびちびと呷りながら何とも冷静に分析をするハルくんとマソップの横で、またしてもなんかいいとこを取られちゃった様な気がしている落武者男が叫んだ。ほらそこ。そもそも同じ土俵に立ってないとか、言わないであげて。

 

 

 「そうか、あいつが二刀流なら、俺は盾を両手に持つぞ!! 二盾流だぜベイベー!!!」

 

 「グラント、それはやめてくれ。二盾流って名前のパチもの感がすごい」

 

 「どうみてもシンバル奏者です、本当にありがとうございました」

 

 

 当たり前だけど両手に盾なんて持った日には、イレギュラー装備と見なされて辛うじて使える盾ソードスキルすら使用不可になってしまう。まあ、どのみちあんまり右手は使ってないみたいだけど。

 

 

 「じ、じゃあ、『♰地獄の双璧♰』で、『レッドクリフ』って読むってのは?」

 

 「名前の問題じゃないでしょ常考。っていうかネーミングセンスがここに来てチューニ病でワロタ。『グラント帝国』のセンスはどこいった」

 

 「いや俺だってそういうの苦手だけどさ。キリトから溢れるチューニオーラに立ち向かうにはそれくらいしないと……」

 

 

 グラント、君は一つ思い違いをしている。ユニークスキル「二刀流」を作ったのも、それをキリトに与えたのも、彼自身ではなく茅場晶彦なんだぞ。

 つまり、チューニ病なのはキリトじゃなく、茅場晶彦なんだぞ(錯乱)。

 

 

 「はあ……付き合ってらんねぇ……」

 

 

 珍しい。今まで根気よくこの盾男の相手をしてやっていたハルくんが、遂に音を上げたのだろうか。

 

 

 「そろそろ時間だから、俺行ってくるな」

 

 「あー、そーだったねハルくん。頑張ってきてねぇ」

 

 

 そうではなかった。実はグラント達がわざわざホームの三層から随分遠いこの三十五層まで来た理由は、単なる情報収集だけでなく。

 

 

 「いやぁ、うちのきびすーいギルクエをこなすだけでなく、低層中層プレイヤー達の支援も欠かさず行うなんて、ハルくんはすごいねぇ」

 

 「褒めたって何も出ないからな」

 

 「あれま残念」

 

 

 そう、流石はハルくんである。この日も、とある中堅ギルドのこれからの進路の相談に乗ってあげるためにこの街で待ち合わせをしていたのである。

 ハルキ一体何様だよと思ったそこのキミ。実は彼女、驚くなかれ、ステータス育成を失敗したプレイヤーや戦闘においてトラウマを負ってしまったプレイヤー、その他多くの悩める駆け出し冒険者の支援を行ってきた経緯から、「純傑」の二つ名を持つ剣士として中層プレイヤーの間ではかなり有名なのである。

 ……ただ、「女神」とか「天使」とかすら呼ばれない辺り、完全に男と思われているっぽいのが残念でならないが。

 

 

 「いーよなぁ……『黒の剣士』『閃光』に続いてハルくんまで『純傑』なんて二つ名貰っちゃってさ」

 

 「ぐぶぐぶぐぶ、地味に純潔の潔の字が傑になってるけど、SAO内じゃ全部ローマ字なのまじ受ける」

 

 「あのなあ。好きでついたあだ名じゃないっての」

 

 

 ハルくんは軽く頭を振って二人に反駁する。っていうか話題に上るプレイヤーに見境なく二つ名付けるSAO民ってやばくね。何、みんな揃ってチューニ病なの? バカなの? 死ぬの?

 

 

 「じゃ、まあ三十分もすれば戻ってくると思うから。それまで変な問題起こすなよ?」

 

 「がってんだい。俺は取り敢えず『♰地獄の双璧♰』の内容を考えてるわー」

 

 「あ、じゃあ両手の盾を真ん中でぶつけると爆音が生じて敵に六十連撃!!ってのはどうかね。ワイはどっちでもいいけど」

 

 「なるほど! マソップ嬢ナイスだぜ! じゃああれだ、両盾から放射線状に筒状のビームが出て八十連撃!!!だな。俺はどっちでもいいけど」

 

 

 ごめんねハルくん、音を上げたとか言って。これはむしろほっとけってレベルだ。チューニキリトも真っ青な会話をしている事に気付いて欲しい。あー、遂にハルくんは諦めてその場を後にしてしまった。

 さて。今テーブルに座っているのはこれでグラントとマソップだけである。先日の三匹のシリカ騒動やボスラッシュで、随分とマソップも外出に慣れてしまったようである、今日は特に用事もないのにグラント達について来たのだった。

 

 

 「まあ、そういう日もあるのだぜ。たまには外に出て太陽光線を浴びないとカラータイマーが鳴っちまうからな」

 

 「ふーん、ねえ、マソップ嬢」

 

 

 おや、どうやらグランドがここで何か気になることでもあるようだ、マソップ嬢にNPCから手渡されたお代わりのドリンクを差出しながら、次の言葉を言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「何か、隠してる事、あるよね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「一体何の話だZOY」

 

 「うーん、いや、主に情報収集の件かな。流石に知りすぎてると思うんだよね、マソップ嬢」

 

 

 顔色一つ変えずに答えるマソップだったが、グラントも特に疑ったり探ったりという雰囲気でも無く、発せられている言葉に反して、追及の場であるにしては何とも緩い雰囲気である。

 

 

 「前も言ったぜ常考。ワイには情報屋の知り合いがいっぱいいるのだぜ」

 

 「それなんだけどさ。情報屋がいっぱいいれば情報がたくさん手に入るかっていうとそんな事ないよね。

 大体、まともに情報のウラを必ず取ってる情報屋なんて、アルゴぐらいのもんだよ?」

 

 

 前も言ったが、情報を手にした時、必ず信憑性の有無という問題が持ち主にはついて回る。

 ギルメンの命を預かっているギルドマスターとしては、その情報の信憑性の確保というのはいわばステータスやパラメータに次ぐ生命線なのだ。なので基本的にはギルマスは、自分が信頼できると思った情報屋からしか情報を仕入れないのがセオリーなのである。

 それは色んな意味で素行はどうしようも無いグラントでも同じ事。彼は基本的に大金を払ってでもアルゴからしか情報を仕入れないのであり、その他の情報屋のネタにはあまり興味はない。寧ろそれだったら自分で調査しに行くスタイルである。

 

 

 「でもさ、それにしては情報が正確だよね、マソップ嬢。アルゴがあんなにウラを取るのに躍起になってるってのに、君は随分簡単に質の高い情報を、サラッと口にするんだもんなぁー。

 もしそんな事がありえるとしたら、それはアルゴより優秀な情報屋が本当にいるか、それか」

 

 

 我関せずとヘラヘラ顔でドリンクを飲んで……その内側を舌で舐めまくってるマソップ嬢に、グラントは続けた。

 

 

 「それか、君自身が何か情報を仕入れる方法を持っているか、だよね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あぁ、ごめん。ガルブストリーム笹本の事考えてた」

 

 「ヘルシェイク矢沢じゃねぇのかよ」

 

 

 因みにマグマミキサー村山でもない。流石マソップである。基本的に舌戦でグラントに勝ち目はないのである。いやこれって勝ったのか?

 

 

 「まあ、無理に白状しろって訳じゃなくて。いずれ教えてくれたら嬉しいなというやつでして」

 

 「それなら、ワイも一つ聞きたいことがあるんだぜ」

 

 「おっ。どした?」

 

 

 珍しくマソップが身を乗り出している。何かどでかい事をグラントに聞こうとしている様である。

 

 

 

 

 

 

 「……パイセン、一体何が目的なんだぜ?」

 

 

 

 

 

 

 「目的?」

 

 「目的。今までのグラント帝国のギルクエ、どれもパイセンのおバカな思い付きって事にされてるけど。

 ワイには全部、下準備に見えるんだぜ常考」

 

 「ほう、下準備とな」

 

 「そ。テイミング条件とか、オレンジプレイヤーの圏内侵入方法、更には壁抜けまで。

 あれは、このゲームの仕様を調べる為の……いや、茅場晶彦が、自分が作ったデスゲームをどこまで把握しているか、その瀬戸際のラインを調べる為の実験だったに決まっているんだぜ」

 

 「ほほう、さっきのチューニムーブの続きって訳じゃなさそーだね」

 

 

 グラントもそのマソップの言葉を肯定も否定もしないんだから、結構彼女も良いところを突いているのかも知れない。何が奇妙って、これだけお互いの極めて際どい所を突き詰め合っているのに、二人ともめっちゃリラックスして穏やかにしているのである。何なんだよ、お前ら大物だよほんと。

 

 

 「ふーむ、そうだなぁ。でもマソップ嬢は多分うちの中では一番核心に近い存在だろうからねぇ。言っておこうかなぁ」

 

 

 グラントもマソップに倣って身を乗り出す。

 ゼロの魔法使い美少女と長髪落武者男がテーブル越しに顔を寄せ合って話すその有り様は、側から見たらとんでも無く異様なものである。ただここは酒場で、二人も人混みに紛れているので誰の目にも止まらなかったけど。

 しかし、どうやらまるで自分の腹の内を隠すつもりがないらしいグラントが、その内実を話そうと口を開こうとした時。

 

 

 

 「おい、さっきの見たか? 何かすげぇ、実力者同士の駆け引きって感じがしたな」

 

 「あぁ、あれって片方は『純傑』だろ? で、もう一方はアレだ、最近ここでやたらオレ達中層プレイヤーに悪絡みする、自称血盟騎士団の柄の悪い奴」

 

 「そうそう、つい前もダチが絡まれて金とドロップアイテムを巻き上げられたって泣き寝入りしてたよ……律儀にkobの制服まで自作して着てるんだもんなぁ、ようやるよ」

 

 

 

 

 「……今、『純傑』って言ったよね」

 

 「あぁ、ごめん。ハルキニキの鎖骨の事考えてた」

 

 

 マソップも聞き取っていたと言うならもう間違いないだろう。何やらハルくんがやらかした様である。

 グラントとマソップはお互いに詰め合っていた顔をそれぞれ離して、席から立って周りを見渡して今話していたプレイヤー達がどこから歩いて来たかを探って……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「我ながら、やっちまったなぁ……」

 

 

 さて、一方で。

 ハルキは盛大にため息をついていた。一体何事かと言うと、彼女はグラント達と別れてからは、待ち合わせの約束をしていたギルドのホームが存在する酒場の近くの居住区エリアへと向かおうとしていたのだが。

 

 

 「……いや、でもあれは俺がどうこうって問題じゃなかったよな」

 

 

 そのギルドホームの前で、彼らのリーダーを務める男が、何やらアスナがよく着ている服に似た紅白色の装衣を纏ったプレイヤーに絡まれていたのだ。何事かと思い声を掛けたハルキだったが。

 

 

 『あぁ!? お前、この血盟騎士団、幹部の俺様に向かってなんて口聞いてやがる!?』

 

 

 なーんてどやされてしまったものだから、つい言い返してしまったのだ。

 

 

 『ほー。kobの幹部って事は、アスナの部下なんだな? この狼藉についてアスナは知ってるのか?』

 

 『な……!? 貴様アスナ様の知り合いか!?』

 

 『信じるかどうかはお前さん次第だな。ま、こんなとこ目撃しちゃった以上彼女に報告はさせて貰うけどな』

 

 『ぐ……ど、どうせハッタリに決まってる!! お前みたいな中層の弱小プレイヤーがアスナ様にお近づきになれる訳ねぇだろ!!』

 

 『信じないなら勝手にしろよ。いいから、その人を離してくれ。

 それとも、デュエルで決着を付けるか?』

 

 

 この時点で、ハルキには一応の勝算があった。

 というのも、ハルキは親友のアスナを、たびたびグラント帝国のギルドルームのあるズムフトへと招待して、デュエルの練習試合を行なっているのである。因みに、その勝敗はほぼ互角。

 もし眼前の男が本当に、血盟騎士団の幹部クラスの実力者だったとしても、その時点で腕前は副団長のアスナ以下であり。油断さえしなければ負ける事は無いだろうと、そう踏んでいたのである。

 だが、その自称血盟騎士団員男は暫くハルキを恨めしそうに見つめていたかと思うと、突然ニヤリと気持ち悪く口角を上げた。

 

 

 『へへっ……分かった。だがここじゃ目立つからな。

 迷いの森にある巨大なモミの木。その前で、決着をつけてやる」

 

 『……ああ。分かった』

 

 

 いつの間にか周囲に出来上がっていた人集りに、ハルキもこれ以上目立つのは良くないと思い。その要望、つまり決闘の申請を受諾してしまったのだ。

 

 

 「……まあ、とにかく、だ。グラント達にも心配を掛けるわけにもいかないしな。チャチャっと、終わらせるとするか」

 

 

 ハルキはそういうと、よし、と短く気合いを入れて、自身の愛剣……グラント帝国再加入の直後から愛用している「デルフィニウム」を右手に持ち、圏外へと足を踏み出した。

 

 

(part2へ続く)




 
グラント「俺は実はキリト萌えなんだっ!!」

ハルキ「やかましいわ」
 
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