SAO (シールドアート・オンライン)   作:ニモ船長

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第十七話 ハルキとグラント

 

 

 「はい。とりあえずこれでも飲めよ」

 

 

 さて、夕日も二層の外周に沈みかけている、宵始めのひとときである。

 一層迷宮区より続く螺旋階段の出口に存在する門を押し開いた先、とあるテーブルマウンテンの中腹の崖に、石造りのテラスが存在する。かつてそこは「ビーター」の汚名を被い一人二層へ足を踏み出したキリトを、アスナが追いかけて声を掛けた場所であり……そして。

 そして、たった数分前、どういう訳か空を舞って飛んできたハルキを、グラントが何とか受け止めた、その場所である。

 

 

 「ん、ありがと、ハルくん」

 

 

 彼女から手渡されたのは回復ポーションである。圏内なのでダメージを負っていないとはいえ、大変な一仕事を終えた後なら気休め的にも飲むと安心するというものである。

 

 

 「まったく、本当にしょうがないな……アスナだったらレイピアでぶっ刺されてるぞ」

 

 「ぶっちゃけあんまり変わんない気がするんですけど……何でもないっす。

  えっと、いや、俺も謝ろうと思ったんすけどね、ちょっとある鍛冶屋の方に悪質な洗脳を受けまして」

 

 「ああ、なんか大体分かった」

 

 

 はい皆さん、前回最後にハルキとグラントがお互いに言った言葉、覚えてますか?

 

 

 『グラント、ごめんっ!!』←ハルキ

 

 『俺は、悪くねえっ!!』←グラント

 

 

 せっかく謝ったのにお返しにそんな事を言われた日には、思わずハルキも剣の鞘でぶっ叩かざるを得ないのは当然である。因みに前とは違って、圏内である事を想定した上での行動である上、グラントを再び昏倒させるようなヘマもしなかった様である。

 

 

 「その、本当に、ハルくん……すまなかったね」

 

 

 だが、ここ最近の災難続きに加えてハルくんの鞘で引っ叩かれて、グラントも完全にハートブロークンしてしまったようだった。しょんぼりしたまま、横で一緒に眼下の絶景を見ている相棒に、そう話しかける。

 

 

 「あんなに一緒にいたのに、君のこと、分かってあげられなかったねー……」

 

 「ど、どうしたんだよグラント。お前らしくもない」

 

 

 いつにないグラントの様子に、流石のハルくんも焦る。思わず落武者男の顔を覗き込んで、何か言葉をと口を開こうとした時。

 

 

 「でも、君に一体何があったとしても、その……君は大事なギルドの戦力だし、貴重な頭数だし、仲間だし。

 それで、俺の……大事な、友達だって、あーもうこれはひどい、ひどすぎるなんかちがうってレベルじゃねぇ、きゃー恥ずかしい、あー」

 

 「グラント」

 

 

 あまりのこっ恥ずかしさに思わずナーヴギアを使わなくても脳を焼き切ってしまうんじゃないかと言うほどに動揺して、その場で訳のわからないことを口走り始めたグラントの右肩と左頬を……ハルキが両手で軽く叩いて。

 

 

 「ありがとう、グラント。本当に、本当に、嬉しいよ」

 

 

 その時の彼女の表情は、とても暖かいものだった。情けなく零した彼のその言葉の中に、今までのギルド生活で交わされたカオティックな会話の節々に込められていた、優しさを感じたからだ。

 

 

 「俺も自分の事を黙っていて、ごめんな。別に騙そうとしていたんじゃないんだ。

 ただ、それを言った時、グラントが。

 ……グラントが、みんなが、俺を受け入れてくれるかどうかが分からなくて……怖かったんだ」

 

 

 グラントから手を離し。テラスの石床に座り込んで、ハルキはそう零した。最後の方は自分で言っていた通り心細いのか、少し声のトーンが下がっている。

 

 

 「ハルくん、えっと」

 

 「でも、こうなった以上、話すよ。俺がなんで、男のフリをしてたか。お前と出会う前に、何を見てきたか。それがつぐないってもんだよな。

 話すから……最後まで、聞いてくれるか?」

 

 「……よし、分かった」

 

 

 あまりの速さの即答に、一瞬ポカンと口を開けるハルキ。だけど、すぐに彼女は張り詰めていた表情を緩めた。思えばあの時……グラント帝国に戻ってきたあの時も、みんなで強くなりたいというハルキの唐突な決意表明を、この男は異を唱える事なくすんなりと受け入れてくれたではないか。

 

 

 「よぅし、どっしり腰落ち着けて、聞こうじゃないか!」

 

 

 心機一転、そう言って横にどかりと無遠慮に座り込んだグラントを……ハルキは、恐らく出会って初めて、男らしいと思ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うちはさ、親父が滅茶苦茶強い剣の使い手でさ。道場を開いてるんだよ。俺も、そこで小さい頃から竹刀とか木刀とか振ってたんだ」

 

 「ふむ。割と予想通りだけど。改めて聞いてみるとそんな剣家って本当に存在するんだなぁ」

 

 「そうだな。割と珍しい環境だったとは思うよ。

 それに、うちのは実は、正式な剣道って訳じゃないんだ。もちろん刀が主体だけど、その他にも色んな武器を使って、実際に戦闘でどうすれば生き残れるかっていう、物凄く実践的な技を身につける為の道場なんだよな。だから、剣道大会とかに出ると、結構手段とか方法に制約があるように感じて、思うように力が出せなかったっけ」

 

 「へぇ……因みに、成績とかは聞いても宜しいんでしょうか……?」

 

 「ん? 俺の? えーっと、取り敢えず最後の大会で全国大会に出たって感じかな」

 

 「……行動制限を受けて全国選手っすか……」

 

 「まぁ、俺は本当に子供の頃から、暇があれば剣を振ってたからなぁ。それに、親父も厳しかったから。

 それで、道場っていうくらいだから、もちろん門下生がいる。うちは正式な剣道の流派としては認定されてないし、地元の子供達が護身目的で習いにくる程度の規模だったから、全員揃って小学生が十人足らずみたいな、そんな感じだったんだ。

 だから、そうやって習い事としてやってくる子供達を、俺が面倒を見る事が多くて。みんなはるねーちゃんって、すごく懐いてくれて……」

 

 「なんだか、今のハルくんがなーんでそんなにしっかりしているのか、よく分かったような気がするねぇ」

 

 「何度褒めたって、何も出ないからな。でも、確かにその事で、俺は結構気張ったよ。俺がみんなを守らなきゃって、俺がみんなの憧れにならなきゃって。

 そう思っているうちに、なんか親父に毒されすぎたのな……いつの間にか、こんな話し方になっちまったよ。立ち振る舞いも、男らしくなきゃって、無意識に思うようになってて」

 

 「そっか。ハルくんは、親父さんが好きなんだね」

 

 「ま、まあな。改めて言われるとなんだかむず痒いな。

 それで、だ。ある日。門下生の一人が、うちの道場にある物を持ってきた。

 ……………SAOの、チラシ広告だった」

 

 「………それで?」

 

 「その子、うちじゃ歳が一番下の妹分でさ。年齢制限でその子自身はやっちゃダメって親に言われたって残念がってたけど、俺たちにやってみたらどうだって。道場の誰かがやってみて、『かそうせかい』っていうのがどんなか、感想を教えてくれって。

 そしたら、普段機械とか苦手でさっぱりな親父が、親心出しやがって……買ってきちまったんだ。SAOも。ナーブギアも」

 

 「…………うん」

 

 「アカウント登録だの、キャリブレーションだので一日大騒ぎだよ。うちは母さんも俺が物心つく前に病気で亡くなったそうだから、全部親父が手取り足取り、取り扱い説明書とにらめっこして、設定を組んでくれて。

 それで、ぶすっとした顔で、やってみろなんていうもんだから……俺は頭にナーブギアを付けて、『リンクスタート』って。

 親父とは、それ以来だ。みんなもそうだよな」

 

 「ハルくん、その」

 

 「おいおい、もうそんな悲しい顔されちゃ困るぜ。……話が長くてごめんな。身の上話はあんまり得意じゃないんだ。

 でもこっからが本題なんだ。何せ、SAOに入って、はじまりの街をぶらぶらしてて、突然声を掛けられてみれば。誰がいたと思う?

 あの子が……親が目を離した隙に、あの子がSAOにログインしてたんだ。俺も彼女も初めのアバターの時点でほぼリアルと同じ顔だったから、すぐに分かっちまったよ」

 

 「その子は、どうしたの」

 

 「分からない。俺達、二人ともゲーム初心者だったから、フレンド登録とかしてなかったんだ。今じゃ連絡も取れなくて、生きてるのか死んでるのかも分からない。

 黒鉄宮に行けば、分かるのかもしれないけど……その勇気がなかった。最低の、意気地無しだよ」

 

 「……俺を助けに来てくれたときには、もうその子はいなかったよね。だから、ハルくんがその子とはぐれちゃったのは……はじまりの街でかな」

 

 「ああ。そういう事。

 グラントはだいぶ早い時期にはあの街を出て、一層の他の安全圏でレベリングをしてたんだよな? で、あのコボルトの巣に閉じ込められる羽目になってたんだっけ。

 俺はさ。初めはあのはじまりの街を出なかったんだ。俺一人なら圏外に出ても何とかなるかもしれないけど、一緒に閉じ込められた、妹みたいに可愛がってたその子を、圏外の戦闘で守り切る自信がなかったから。

 だけど、そうしたらそのうち……はじまりの街は、本当に酷いことになっていった」

 

 「はじまりの……街が? 二十五層でのALS壊滅後に、治安が悪くなったっていうのは聞いたけど……」

 

 「ああ。それが一般的に知られている情報だよな。

 だけど、考えてもみてくれよ。サービスを開始したあの日、俺たちはみんなあの街の広場でこのSAOがデスゲームと化した事を知ったんだ。

 その直後に、その信じ難い事実に混乱して動揺して、そんなプレイヤーの内のどれくらいが、『攻略組』として大真面目にこのゲームを攻略する道を選んだと思う?」

 

 「……そっか。あんまりな事に殺気だったプレイヤーの殆どが、当時はそのままはじまりの街に留まってたんだ」

 

 「そう。SAOの事について詳しいベータテスターはみんな、攻略ばっかりに目を向けて、誰も俺達、初心者の事を助けようとはしてくれなかった……って、少なくとも当時はそう思ってた。

 今なら分かるよ。ベータテスターも初心者も関係ない。みんなあの時は、親しい人と会えない、向こうでの生活が壊れる……そんな、自分の気持ちの整理で精一杯だったんだよな」

 

 「……ほんとにごめんね。ハルくん」

 

 「いや、グラントに関してはまるで怒る気にもなれなかったよ。宝箱の中で寝て生活してた奴に、助けなんて求めちゃ世も末だからな……はは。

 そしたら、ある日。ちょっと圏外で戦闘して、当時のはじまりの街にいるプレイヤーの平均レベルを上回ったプレイヤー達が、レベル差を振りかざして牛耳るようになった。

 現地プレイヤーの圏外への出入りを制限して全体の平均レベルの管理をして、低レベルプレイヤーからお金を巻き上げて、召使い同然に扱ったり。閉じ込められた閉塞感からだったのかな、胡散晴らしに圏内戦闘を無理やりけしかけられて暴力を受けるプレイヤーもいた。特に女性プレイヤーは……装備品の解除を強要されたり、集団暴行を受けたり……」

 

 「ハルくん」

 

 「俺はあの子と二人で、この街を脱出しようって決めた。元々圏外で彼女を守り通せるか不安でずっと街にいたけど、これじゃ街も圏外も一緒だって、そう思った。

 だけど、深夜の一番人通りが少なくなる時間帯を狙って、あの茅場が姿を見せた広場から通じる圏外への出口から、やっと外に出られる……そう思ったのに。

 最後の最後で見つかって。それでも必死に逃げようとして。でも追いつかれそうで。

 

 

 

 

 そうしたら、あの子……俺を前に突き飛ばして。自分から囮になりやがったんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はるねーちゃんはいろんなひとをたすけてあげて。あたしにしてくれたみたいに。

 ずっと、ずっとだいすきだよ……って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「その後、ある程度レベルが上がってから、何度かはじまりの街に出向いて彼女を探してみたけど……。あの街はほんとに行くたびに治安が悪くなっていって、最後に行ったときには『軍』が街中を徘徊してて、ろくに人探しもできる状態じゃなくて……結局、未だに見つけられていない。

 あくまで、あの子はプレイヤーに捕まったってだけだ。だから、多分死んだって事はないと思うんだ。

 だけど……もし、あの子が何か他のプレイヤーの逆鱗に触れるような事をしたとして。そのプレイヤーが……前に俺とお前が遭遇したみたいな、レッドプレイヤーだったら。そしたら……その責任を負うべきなのは間違いなく、俺だ。

 だから、俺は強くならなきゃいけなかった。強くなきゃいけないんだ。あの子が最後に言った言葉に報いる為にも、そしていつかは……あの子を見つけ出せるようになる為に、俺は……もっと、もっと」

 

 「ハルくん、もういい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハルキが我に帰った時には、その頬を涙が伝っていた。だが彼女自身にとっては……そんなのはどうでもいい事で。

 なぜなら今の自分は、あの時の彼女の犠牲の上に成り立っているのだから。自分が一番守りたかった大切な人に皮肉にも生かされている分際で、どの面を下げて同情を誘おうというのだ。少なくともハルキは、そう思っていた。

 

 

 「あの子とSAOに閉じ込められて、最初の頃は、圏内でじっとしてるだけじゃつまらないから、二人であの広い街を練り歩いて、一杯服を買って、おしゃれを楽しもうって言い合ってたんだ。俺は全然そういうのはさっぱりだったけど、たまにはそういう……女性らしいのも良いのかなって。

 だけど、そんなあの子はもういないんだ。そんな生温い事を言ってる余裕なんて俺にはない。だから、俺はあの子と買ったスカートを履くのをやめた。リボン装備も、フリル付きのドレスもくそくらえだ……そう思ってたのに」

 

 

 グラントの制止も聞かずにそう続けるハルキは、彼に向かって、他の誰にも見せないような泣き笑いを浮かべていた。そんな悲痛な表情は、今まで自分の性別を看破していたアスナやリズベットにも見せたことがなかった。

 

 

 「……お前と、お前達みんなと一緒にいると、本当は楽しんじゃいけないはずなのに……この世界が実は面白くて、剣を持たなくても色んな生き方があるような気がして……俺、何をムキになってるんだろうって……でも、そんなギルメンのみんなが、うちの道場のみんなと重なって……。

 ああ、もうぐちゃぐちゃだよ。色んな気持ちで一杯になって、もう俺にも訳が分からないんだよ……」

 

 

 そこまでハルキが言ったところで、彼女の目尻に貯まっていた涙が、夕日の最後のひと輝きを照り返してきらりと光ったかと思うと、そのすぐ後に辺りを夜の闇が覆い始め、彼女の表情も前髪の影に隠れて見えなくなった。

 グラントは暫く黙っていたが、やがて自分のアイテムストレージから何やら布切れのような物を取りだし、そしてハルくんに向かって差し出す。

 

 

 「……ハンカチじゃなくてごめん。モンスターのドロップ品だけど、汚くはないから」

 

 「……へへ、ありがと」

 

 

 そこできっちりハンカチを渡せないところがグラントらしい。ただし、それでも彼女が涙を拭けるように何とか布を探してあげるところも、グラントらしい所なのである。

 

 

 「さっきハルくん、君は自分の事を最低の意気地無しだって言った。

 俺はカンタンにその言葉を否定できると思うけど……君が納得しないからには、意味がないんだよねぇ。だから、否定はしない」

 

 

 その台詞は一見非情に聞こえない事もないが、ハルキにとってはとても気が楽になる言葉だった。おそらく彼女はどこかで、周囲から寄せられる、聖人君主を扱うような言葉や視線に疲れているところがあったのだろう。自分の抱える後悔について、下手に励ます事なしにその気持ちを肯定してくれた事で、寧ろ彼女の胸の奥底で燻っていた自罰的欲求が満たされていくような、そんな安心をハルキは覚えていた。

 

 

 「でも、それと、ハルくん自身がこのSAOで前を向いて生きちゃいけないって言うのは別の話だと思うなぁ。

 だって、その子もきっと、君にそんな風になってほしい訳じゃないはずだよ。俺はその子を知らないけど……でも、きっと今のハルくんを見たら、彼女は苦しむんじゃないかな」

 

 

 「……じゃあ、どうすればいいんだ」

 

 

 立てた両膝の間に頭を埋めて、ハルキは絞り出すような声で、呻いた。

 

 

 「どうすれば、俺は前に進めるんだよ……」

 

 

 

 

 

 

 「決まってらー。行くよ、ハルくん」

 

 「……え?」

 

 

 ボスッと無遠慮に頭に置かれた何かに、思わずハルキは顔を上げる。

 見ると、いつの間にかグラントが立ち上がり、そのそこまで大きくはない右手を、彼女の頭に乗せていた。

 

 

 「君がそれを乗り越えたいって思うなら、正面からぶつかるしかないさ。逃げようとしても、先延ばしにしても、絶対にどこかで思い出しちゃうよ。

 『諦める』か、『立ち向かう』か。それしかないんだよね。俺はハルくんがどっちを選んでも応援するつもりだけど」

 

 

 ぐしゃぐしゃと乱暴に髪を掻き回され、もう少し加減を考えろよと思わず突っ込みそうになって、そんな事が考えられるくらいには心に余裕が出来ていることに気付いて。

 思わず見上げた、その時のグラントの表情……日の沈んだ深紫の空による僅かな明るさの中で、辛うじて見えたその顔を、ハルキは強く目に焼き付ける事になった。

 

 

 「きっと君は俺がどうこう言わなくても、『立ち向かう』でしょ?

 だから……はじまりの街に、一緒に行こうぜ」

 

 

 目を大きく開けて上気した頬を焦がしながら、ハルキがそれ対して浮かされたかのように言葉を返そうとして。

 その前に……二人の間に白いシステムメッセージが表示される。

 

 

 「ゲッ!? マジ!? マタデスカ!!??」

 

 

 そして、思わずハラスメントコードに抵触した事を察し、ギョッとしてハルキの頭から右手を離した、そんなグラントに……彼女は。

 

 「……どうせはじまりの街に行くなら、先を譲ろうかな? 行き先は黒鉄宮だけど」

 

 「それはやめて頼むプリーズシルブプレッ!!」

 

 

 その口元から、笑みを溢していた。

 

 

 「……ふふっ、ぷはははははっ! 何だよ、本気で送られると思ったのか? あっははは……!!」

 

 「い、いやハルくんその件に関しては前科持ちだからね!? あれマソップいなかったらまじやばかったんだからね!?」

 

 

 本気でテンパる情けなーい落武者男に、ハルくん未だに収まらない笑いを収めようともせず。「冗談だよ、じょーだん」と、目の前のハラスメントコードを解除した。

 

 

 「それで? 俺たち二人ではじまりの街にいって、どうする気なんだよ?」

 

 「あれ、ハルくんは知らないのかい」

 

 

 少々の空元気が混ざりながらも、グラントの言葉で何とか調子をとり戻したハルキが、照れ隠し半分にそう尋ねるが。なぜかその盾男に聞き返されてしまい、頭に疑問符を浮かべる。

 ……そして、次の瞬間に、その疑問符は感嘆符へと変わる。

 

 

 「どうせ近くにいるんじゃないのー? みんなー!?」

 

 

 

 

 

 「ぐぶぐぶぐぶ、ごちそうさまだぜ」

 

 「オレ、この青さはなくさないっスね。いやマジで」

 

 『(´∇`)』

 

 「は……はぁぁ!!??」

 

 

 もう言わずもがなだよね。上からマソップ、オルス、トミィ、そしてハルくんである。今グラントとハルキがいるテーブルマウンテンの、二人の少し下……迷宮区出口から下の二層のフィールドに続く階段の底で、三人が聞き耳をそば立てていたのである。

 

 

 「いやーだってハルくん、トミィ氏にブン投げられたんだよね?

 流石に彼の強肩でも主街区のウルバスから直接っていうのは無理だろうし、ちょっとフィールドに出たところで投げられたんじゃない?」

 

 「……ああ、まあ、そうだな。

 いつになく何か言いたそうなトミィに着いて行って二層のフィールドまで来たかと思ったら、次の瞬間には空にいたよ」

 

 「何それ怖い。……まあともかく、それなら少なくともトミィ氏はここ近辺にいるだろうし、オルス氏もマソップ嬢もなんだかんだ好奇心旺盛だからねぇ。

 今回の事は、俺たちの事、三人なりに考えてやってくれたんだよね? あのね、でも流石に人を投げるとはどーかと思いますよ、うん」

 

 流石ギルマスである、身内の事はよく分かっている。でもだったら、もうちょっと恥ずかしくない説教をして欲しかったな、と独りごちたハルくんだった。

 

 

 「ハルくん、要は、はじまりの街で軍や高レベルプレイヤーによる狼藉が横行してるって事で合ってる?」

 

 「……ああ。元々はじまりの街で暮らしてなきゃ、あそこを訪れるプレイヤーの目的の殆どは黒鉄宮での仲間の生存確認だろ?

 だから、あんまり気付かれないんだ。トッププレイヤーが上へ行こうとすればするほど、低層プレイヤー達の支援がおざなりになっていく……そういう構図が、アインクラッドには出来上がっているんだ」

 

 「なるほどね。みんなも聞いたね?」

 

 

 グラントの問いに、それぞれが頷く。付き合いの長いメンツである、彼らは自分達のリーダーが、次に何を言わんとしているかぐらい、大体は分かるのだ。

 だからこそ、五人の旅人は笑い合った。何、簡単なことだ。今までのギルクエに比べれば、極めて良心的で、単純な話ではないか。

 

 

 「みんなで、強くなるんだよ、ハルくん」

 

 「ああ。そうだな」

 

 

 グラントのちょっとキモいウィンクに、ハルくんは満面の笑みで返す。

 それを合図に、グラント帝国、史上最大のギルドクエストが……今、発令された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ここにいる五人で、はじまりの街を解放しよう!!!」

 

 

 

 

 

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