SAO (シールドアート・オンライン)   作:ニモ船長

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「……パパ。あうなは……ママ」


グラント「そうはならんやろ」
キリト「えっ」
アスナ「えっ」



グラント「えっ」



第十八話 バトルシップ艦隊に挑むボランティア軍 part1

 

 

 

 「さーて、やって来たぞ第一層! 社員旅行ならぬギルメン旅行だぜ!」

 

 

 開幕早々そう声を張り上げられても、ちょっと何を言っているのか分からないので、他の四人はそんなグラントの発言を遠慮なく黙殺する。可哀想。

 と言うわけで、ここは第一層、はじまりの街。あの後夜も遅いという事でひとまずズムフトのギルドルームへと帰った一行だったが、その翌日の朝には転移門を介してここへとやって来たのである。

 

 

 「……あの時鎖骨prprしたイケメンNPCがいなくなってる……だと……!?」

 

 「低レベルプレイヤー限定で姿が見えるNPCだったとか、期間限定だったとか、そんなところじゃないっスか。いやマジで」

 

 

 降り立ったその場所は、かつて茅場晶彦がこの世界の理を伝える為に、全プレイヤーを強制的に呼び寄せた、あの広場である。奥には巨大な宮殿……黒鉄宮が聳え立ち、反対側の門をくぐればそこは、誰しもが一度は足を踏み出した、第一層のフィールドが広がっている。

 

 

 「………」

 

 「ハルくん、大丈夫?」

 

 

 自らの掛け声をスルーされた事に少々凹みながらも、いつもよりもあからさまに顔を強張らせている隣の剣士に気付き、小声で声をかける。

 そして、彼女と同じ方向……フィールドへのゲートへと目を向けて。

 

 

 「あ……逃げたってのは、こっからって感じ?」

 

 「ああ。……俺があの子を見捨てた場所だな。

 多分、逃げるのは諦めて一緒に捕まるって選択肢もあったんだろうけど。そしたら俺は、きっと誰も助ける事が出来なかったと思う。

 ……あの子と、今まで出会った人と。天秤にかける事は出来ないよな」

 

 

 彼女は度々ここにやって来ては、そのはぐれてしまったという少女を探していたと言うけれど。転移門を使ってここに来るたびにその記憶に苛まれていたのだとしたら、本当にたまったものではない。

 

 

 「ハルくん。今回の俺たちの目標は、あくまでこの街を高レベルプレイヤーの専横から解放する事だって昨日言ったよね。

 だから、その中でその子の捜索に関してどうするかは、ハルくんに任せようかなって思ってる。やな奴全員追っ払ってから街をくまなく探すもよし、先に探して安全な所に匿ってあげてからひと暴れするのもよし。いずれにしても君が決めてくれれば俺達も一緒に混ざるつもりだけど。

 ……だけど、その前に」

 

 「ん、そうだな。もう覚悟を決めないとな。

 黒鉄宮に行って、あの子の名前がないか、見てくるよ」

 

 「一人で大丈夫かい? 俺達も行こっか?」

 

 「なんだよ、妙に優しいな。調子狂うじゃないか。

 ……ありがと。でも一人で行くべきだと思うからさ」

 

 「そっか」

 

 

 なんかめっちゃいい奴になってるぞグラント。お前そんなに分かりやすくヤサオだったか?

 いや、そう言っちゃ悪かったか。元々コイツはそういう奴なのだ。外道ムーブとクレイジーシンキングのせいで側からみると全っ然そんなの分からないけど。

 決してハルくんが女性プレイヤーだと分かって、何となく距離感を掴み直しているとか、そういう事ではないだろう。そう思いたい。まさかそんな筈はない。頼むぞオイ。

 

 

 「んじゃ、その間にこっちは作戦を立てる為の拠点探しと行きますか! オルス氏、マソップ嬢! ほらほら勝手にどっか行かない! トミィ氏も……あれ?」

 

 

 だが。グラントがそうして、ハルキ以外のメンツに集合をかけようとしたところで。彼は彼女とは別にもう一人、様子のおかしいギルメンがいる事に気が付いた。

 

 

 「トミィ氏、どうしたの? 黙って、微動だにしないなんて」

 

 

 そう、トミィである。

 彼は上層から転移して降り立った、その場所からまだ一歩も動いていない。基本的に超鈍足フットワークである彼は、いつでも足をせっせか動かしていないとすぐにグラント達に置いてきぼりにされてしまうので、その場で止まってボーッとしているという事は滅多にないのだが。

 どこか体調でも悪いのだろうか。いくら仮想現実の世界であるとはいえ、疲労や精神的苦痛は現実世界と変わらず健在なので、コンディションが悪いというケースはSAOプレイヤーにとってはあながち珍しくもないのである。

 もしそうであれば、ひとまずどこかの宿屋までトミィを担いでいって、休ませる必要があるかな……と、そこまでグラントが考えた、刹那のことであった。

 

 

 

 

 『ついてきて』

 

 

 

 

 「……え?」

 

 

 グラントは、唐突に届いたそのメールに、一瞬凍りついた。思わず目をやると、そこにはシステムウィンドウを開いて今にもキーボードをタッピングしていたであろう指付きをしているトミィがいたのである。

 

 

 (し、喋ったぁ!? あのトミィが!? メールの中でだけど!?)

 

 

 だが、それを盾男が口にする前に、トミィはヘルメットの面頬の前で、その人差し指をピンと立てた。まるで「喋った事はまだみんなには内緒で」と言っているかのように。

 そして、予想外の展開に思わずがくがくとグラントが首を縦に振ったのを確認すると、ようやくトミィは足を動かし始めた。

 

 

 「お……おお……?」

 

 

 どうやら彼はグラント達をこのはじまりの街のどこかへ連れて行こうとしているようである。水先案内役であるにしては足が壊滅的に遅い事にややげんなりしながら、グラントは周りの仲間に声を掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 「これは確かに、いつぞやとは大違いだぞ……マソップ嬢、はじまりの街ってどれくらいのプレイヤーがいるんだっけ」

 

 「『アインクラッド解放軍』のメンバーを含めると、総勢二千人弱……って、今日の人を辞書がわりに使うなスレはここですか」

 

 「そのスラング、お前が言うなスレにしか適用されないんじゃないの? 俺はどっちでもいいけど。

 ……まあいいや、そっか、二千人……それにしては人が少ないねぇ」

 

 

 ハルキと別れてからグラント達一行は、トミィの先導のもとはじまりの街の中央市場を練り歩いていた。例によってカタツムリスピードなので、グラント達も周りの様子や環境を比較的自由に見て回る事が出来るようである。

 

 

 「さっきの五コル案件にも驚いたけど……この様子じゃ、みんなまともにレベリングをする環境すら整ってなさそうだなぁ……」

 

 

 つい数分前のこと。近くに植えられていた街路樹から落ちた、何やら果実のようなアイテムをオルスが拾った際に、近くにいたここ在住のプレイヤーに詰め寄られたのである。すかさずオルスが対応したものの、グラント達とは違って翻訳ウィンドウを出していないそのプレイヤーには、例の判別不能な言語としてしか言葉が届いておらず。

 

 

 『ここの果実を売り捌けねぇと、こっちは今日の飯も食えねぇんだよ。お前さん、それがNPCにどれくらいで売れるか知ってんのか?』

 

 

 何とかグラントが取りなして落ち着いた現地プレイヤーは、憔悴した顔つきで秘密を暴露するかの様な声音で、続けたのだ。

 

 

 『なんと、五コルもするんだぜ』

 

 

 「五コルで大金だって騒いでるのに、軍は税金まで取り立てるって言うんだから、そりゃひどい話だわなぁ」

 

 「みんな、宿屋とかに篭りきりなんスかねぇ。いやマジで。

 下手にホームを買うのは、言い換えれば他の人に居場所を教えてる様なもんっスからねぇ、いやマジで」

 

 

 引き続きその男性プレイヤーから聞いた話によると、何でも午前中は街の所々を軍の徴税部隊が徘徊しているのだそうだ。宿屋の一室を使用すれば、一部の例外を除いて外からはその利用者を特定するには至らない為、実質的に徴税を免れる事が出来ると言うカラクリである。

 

 

 「軍、かぁ……」

 

 「どしたのパイセン」

 

 「いや、軍って、ALSの残党がこの街に流れてきたのが元々だって話だよね。

 ハルくんと俺はさ、随分前にリーダーのキバオウさんと会ったことあるんだけど、キツい人だったとはいえそんな横暴をする様なタイプには見えなかったような……」

 

 

 恐らくグラントが言っているのは、三層フロアボス攻略の時のアレだろう。(×血みどろ ○ち実ドロ)のLA争いをした挙句、話題のキバオウはんを全アイテムオブジェクト化による「めら☆ぞーま」で面子ごとものの見事にぺしゃんこに潰した、あの時のアレである。

 あの時のキバオウは確かに、新入りの自分達を訝しんでいるけらいはあったものの、どちらかというとその変態ビルドっぷりを心配してこちらの攻略組加入を渋っていた様にグラントには感じていたのだ。

 

 

 「なーんか、きな臭い気がするんだよねぇ。裏がある様な」

 

 

 現在の軍のトップは、あの時と変わらなければそのキバオウの筈である。

 二十五層での壊滅を受けて、自身のギルドからこれ以上攻略での犠牲を出さない為にやむなく前線を去ったその男が、このアインクラッド駆け出しの地に里帰りしてからその性格を歪めたというならば。

 そこには、彼を変えた、別の要因があったのではないだろうか。

 

 

 「裏といえばリーダー、さっきトミィがそこの角を曲がって路地裏に入ったっスよ。いやマジで」

 

 「マジで!? 早く言ってね!?」

 

 

 いくらトミィがノロマだとはいえ、流石に油断をしすぎた様である。グラントは慌ててマソップを促して、オルスの指差した通路から建物と建物の間の狭い道に駆け込んだ。

 そこはどう形容したものか、まるで現実世界でチンピラ共が「オラ、面貸せやコラ」とか言って人を連れ込んでカツアゲをするような、そんな人二人分位しか幅のない狭い通路だった。

 はじまりの街には実に多くの建物や施設が存在し、宿屋や武具防具店も露店から一つの民家の中に存在するものまで実に多様である(品揃えまで多様とは言ってない)が、基本的に街全体の構造としては単純であり、黒鉄宮を中心に環状に伸びる大通りに多少の枝道が存在する程度のものなのである。

 よって、この街を本格的に拠点にでもしない限りは、転移門のある広場、黒鉄宮に中央広場あたりの地域に存在する施設で需要は事足りてしまう筈なのだ。少なくとも、その盾男が知る限りでは、だが。

 しかしどうやら、きちんとはじまりの街を隅から隅まで踏破したいと考えると、そう甘い話ではないみたいだなぁ、とグラントは反省した。枝道が多少どころじゃない、こんな細道がこの広い街の敷地に無数に存在するのなら、こりゃあ軍の徴税部隊とやらもご苦労様である。

 

 

 「ね、ねぇトミィ氏……? お前さんは一体、どこに向かおうとしてるのかね……?」

 

 

 そのまま裏路地の角を何度か曲がり、いよいよ中央市場でのNPC商人の呼び込み声も聞こえなくなってくる程に奥深くへと足を進めているのを感じながら、ちょっとチキンな落武者男はトミィに確認を取る。まあでも実際に採光も悪くなっており、正直かなり不気味なエリアである。

 だが次のトミィから送られてきたメールによって、その疑問は一応の回答を得る事になる。

 

 

 『ここ』

 

 

 再び、絵文字ではなく意志をのせた言葉が送られてきたのにも驚いたが、その簡素な二文字を見て、グラントはひとまずトミィが向く方向へと視線を合わせ、その道の側面にある木造の扉を見やった。

 

 

 「ここ……?」

 

 

 身も蓋もない話だが、いくらマップが広くて建物が多く存在するとしても、それではすべての建物に立ち入ることが出来るかというと……実はそうでもない、というのはある意味RPGに存在する街の不文律となっている。主に制作側の負担の問題やゲームとしての容量の問題でそのような詳細が省かれてしまうというのが最もありがちな理由の一つだと考えられるのだが。

 この時も、いくら妙に細部を拘っているSAOとはいえ、果たしてこれが本当の「扉」なんだろうか……と、一瞬グラントは考えてしまっていた。こんな分かりにくいところに、しかも建物の陰に隠れて目立ちにくいスペースである。この路地裏スペースはよくある「なんでこんなところマップに作ったのか、結局最後まで分からなかったぜエリア」であり、結局のところその扉もグラフィックの一種なのではないか。

 

 

 「………扉っスね。いやマジで」

 

 「まさか、そんな地味なところにある扉が、開いて中に入れるなんて、そんなわけ」

 

 

 

 

 がちゃっ。

 

 

 

 

 「……………ホンマや」

 

 「サンキューマソップ嬢。俺も言おうとしてた」

 

 

 開いちゃったのである。開いちゃったのなら仕方ない。

 フツーにトミィが両手で押すと、結構小さい扉なのに観音開きでばかっと開いてしまったのである。強いて言うならば、西部劇に出てくる酒場の入り口のあの扉がちゃんと上も下もある奴である。分かりにくくて申し訳ない。

 だがそんな減らず口を叩いてられるのも今のうち。こっちの気も知らずにトコトコと中に入っていったトミィにグラントは本日何度目か分からないため息をついて。

 そうして、中へ入った彼等は、そのため息を再び飲み込むほどの驚きを、しかも何度も味わう事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「これは………!?」

 

 

 それから十数分後。

 勇気をもって黒鉄宮に足を踏み出し、共にデスゲームに閉じ込められたリアルでの妹分の生死を確認し終えたハルキが、彼女を迎えに黒鉄宮に向かったオルスに連れられて、先程のグラント達の様にその路地裏の小さな扉を開いて。

 そして、彼らと全く同じリアクションを取る事になった。

 

 

 「おー! ハルくん来たかい! ほら、こっちに来てちょっと早めの昼食と洒落込もうぜい!」

 

 「パイセン早速馴染んでてワロタ」

 

 「あの硬かったパンがクリーム付けるだけでこうも柔らかくなるとは、現地の知恵っスねぇ。いやマジで」

 

 「い……いやいや。それよりもだな」

 

 

 ハルくんから向かって左側のテーブルに陣取ったグラント帝国のメンバーが陽気に声を掛けるが、彼女からすればそれどころじゃない。

 

 

 「こ、ここは一体、何なんだ!?」

 

 

 そこは路地裏の外観に偽らない、秘密の酒場といった見た目をしていた。目の前にはグラント達が座っているもの以外にも複数のテーブルが存在し、奥にはバーカウンターまで完備されている。

 だが、そのさらに奥に存在する酒棚に入っているのは大量の回復ポーションであり、その横に並ぶ小型のショーケース……恐らくリズベット武具店に存在したものと同一のものと推測される……の中には、どういうわけか初期装備のスモール系装備を始め、一応購買品としては一層最強装備であるブロンズ系装備など実に大量の武器が陳列されていた。

 そして極めつけは、その周りの少しだけ開けたスペースで、それらの武器の試し振りをしたり、それぞれ実体化させたなけなしのコルをかき集めて、テーブルの上で開かれたNPC露店の価格表と睨めっこをしたりする、少なくない数のプレイヤーである。

 

 

 「こんな沢山の武器やプレイヤー……軍にばれたら黙っちゃいないぞ……!?」

 

 「ええ、だからこうして、隠れてこっそりと集め集まっているんです」

 

 

 思わずそう呟いたハルキに返答した男性プレイヤーがいた。気さくそうな細身の体型と、背中に背負う三又の槍が対照的で、何とも印象に残りそうなプレイヤーである。

 

 

 「初めまして、『純傑』のハルキさんですね。お噂は聞き及んでいますよ。暫定的にここを取り仕切っている、北海いくらと言います」

 

 「ホッカ……飯倉、さん」

 

 

 こうやって文章に書き起こしてみるとハルくんが盛大な勘違いをしているのが分かるのだが、口上では「北海いくら」も「ホッカ飯倉」も発音が同じなので看過されてしまうのである。北海いくらさん、残念である。

 因みに例の黒んぼ剣士も、彼女と全く同じ認識違いをしていたりする。

 

 

 「それじゃあ、ここは」

 

 「はい、その通りです。

 ここは、軍の独裁体制に抵抗する、レジスタンスの隠れ家になっています」

 

 「レジスタンスだって……!?」

 

 

 上層プレイヤーの中でははじまりの街の内情を誰よりも把握していた自信のあったハルキだったが。今度のことは流石に予想斜め上だったようだ、北海いくらの言葉を反芻しながらも、未だに事態が飲み込めていないようである。

 

 

 「これでも私、第一層のフロアボス攻略では、攻略組と一緒になって戦ったんですよ。お恥ずかしながら途中でドロップアウトしてしまったんですけど、この街にいるプレイヤーの中ではレベルは高いほうで。

 だから、軍の治安維持による締め付けが厳しくなって、周りが食事を買うお金もないって訴えだしてからは、定期的に上層のフィールドでモンスターを狩って、それで手に入れたコルを分配したりしていたんです。ここじゃ十コルもあれば大金持ちのような認識ですけど、ちょっと上の層の主街区に行けば武器でも宿屋でも、千コルは持っていないとまるで利用できないですものね」

 

 

 そう話しながら、北海たらこは目を細めて、その場にいる総勢三十名前後のメンバーを見やる。システム的にも軍に目を付けられないように、彼らはギルドとしてもパーティーとしても連結している訳ではないのだと、ハルキは彼から説明を受ける。

 

 

 「私たちは、そんな現状をいつか打破するためにそれぞれ貯めたお金で武器を買って、たまにこっそり集まっては街の外の草原でモンスター相手にレベリングをしています。

 デスゲームが始まった直後は街の外に出るのも決死の事でしたが、あんな軍でも最低限の治安維持は行なっている様で、今では決まった時間内なら自発的に圏外に出る事を許されているんです。

 今はまだまだ力不足ですけど、そうして少しでもステータスを上げて武装すれば、あの軍の部隊に負けない勢力をいつかは作り上げる事が出来ると……そう思っていたのですが。

 どうやらハルキさん達がここに来たという事は、その予定も少し繰り下げられるかもしれません」

 

 「……どういうことですか? まるで俺達が、ここに来ることが分かっていたような言い方ですけど」

 

 

 未だに戸惑いを隠せず、そして若干訝しげな感情を滲ませて、ハルキが北海いくらに問いかける。

 珍しくちょっと大人気ない気もするが、彼女としてもあまりこの街に良い思い出が無いためか、少々疑心暗鬼になっているところがあるようだ。もしかすると彼等もまた軍とは別の思惑で何かしらの犯罪行為を企てようとしているのではないか、といった様に。

 だがそんな心の燻りは、その場に唐突に掛けられた、澄んだ声によって払拭されることになる。

 

 

 

 「ぼくが、ほっかさんにいったんだよ」

 

 

 

 「……え?」

 

 

 その声の主を周りを見渡して探るハルキ。北海いくらが仕切っているというプレイヤー達は、今行っているそれぞれの作業に集中していて、とてもこちらに話しかけたとは考えにくい。そう考えて先程も確認した、グラント帝国のみんなが座っている席を見やって。

 一人、こちらを向いて立っているプレイヤーを発見したのだ。

 

 

 「ハルくん、きっとびっくりするぜ」

 

 

 そう言うのは例の落武者男である。彼のその台詞に、他のメンバーも揃って首を縦に振る。

 

 

 「でも、彼も勇気を振り絞って教えてくれたんだよね。だから、あんまり驚かないで……っていうのも無理な話だよねぇ。ごめん」

 

 「さっきリーダー、二、三分は完全にフリーズしたっスからね。いやマジで」

 

 「人には驚くなって言っといて、自分はガッツリ驚いちゃう! そこに痺れる憧れるぅ!!」

 

 「むむむ、悪かったよ。……ごめんね、トミィ氏」

 

 

 

 「トミィ……?」

 

 

 出会ってそうそうに、彼女の剣を吹っ飛ばし。

 会話を求める彼女に、顔文字を送って意志を伝えて。

 そして、彼女が雪降る森からギルドルームに運ばれたあの日、その身体に身を預けて涙した、そのトミィが。

 トミィが、今まで一度も外さなかったフルフェイスマスクを、解除した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「こんにちは、ハルキおねえちゃん。

 トミィです。ことしで、十才になります。

 いままでだまってて、ごめんね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ワイはショタも問題なくってよ。システム・オールグリーン!」

 

 

 …………雰囲気をぶち壊しかねない発言をしたマソップに対しては、訴訟も辞さない。

 

 

 

(part2へ続く)

 

 

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