SAO (シールドアート・オンライン)   作:ニモ船長

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グラント「もーあったまきた!石投げちゃおっと!!」


ハルキ「……こう言う展開、この作品多くないか?」

トミィ『(^^;;』


第二十話  解放軍からの解放戦 part1

 

 「おはよー! レジスタァーンスの諸君!」

 

 

 はじまりの街、とある路地裏に存在する秘密の酒場。そこはあまりに奥まった場所に存在する為、窓のある二階はともかく建物の一階は昼夜問わず明かりを付けなければ真っ暗である。

 そんな中、酒場の内部はカウンターに設置された照明アイテムのみが灯され、その闇に紛れて数十名のプレイヤーが各々のテーブルを囲んで息を潜めていた。

 

 

 「みんな体調はだいじょうぶー?? 二日酔いになってなーい??」

 

 

 自重しろ落武者男、折角みんな静かにしてるっていうのに。仮にもリーダー格でカウンターから声を掛ける役目があるとはいえ、言葉を選ぶべきである。

 

 

 「うむ。みんな昨日はよく眠れたようだね、いい顔をしておる。暗くて良く見えないけど」

 

 「くだらない事言ってないで、話を進めるぞ。

 みんなこの二日間、よく頑張って準備を進めてくれたな。おかげで今日にはクーデターの手筈が全て整った!」

 

 

 ほら、適当な事言ってるから、話をハルくんに横取りされてしまった。残念な阿呆の図である。

 グラント帝国のメンバーがここ、はじまりの街にやって来てから、今日で三日目である。実際はもう少し用意を整えるべきではないかという意見も浮上したのだが、レジスタンスとの協議の結果……グラントの立てたアインクラッド解放軍転覆作戦は基本的に物資の調達やステータスの向上をそこまで必要としていない事から、辛うじて街の各地で軍に対する反抗意識が萎えずに残っている今のうちに断行するのが上策であるという結論に落ち着いたのである。

 そう、今日は2024年、11月1日。はじまりの街、解放戦の決行日である。

 

 

 「いいか? 確かに、俺達レジスタンスは軍に比べると戦闘に慣れていないプレイヤーも多いし、装備や個人の能力、ステータスも心許ない。

 だけど、そんな俺達だからこそ、出来る事もあるんだ。それに軍が気付いていないうちに……奴らを、叩く!」

 

 

 グラントと打って変わってそのハルキの号令は、言葉自体はごく一般的なものとはいえ、緊張感と高揚感を適度にレジスタンス達に抱かせるとても高潔で勇猛なものだった。彼らの士気が数秒前と比べても一段と上がったのが、暗闇の中でも良く分かる。

 

 

 「だからみんな、昨日グラントに言われたことは絶対に守るようにしてくれ。そうすれば、俺達は必ず勝てる!

 この街の希望になるんだ。まだ、現実世界には帰れないけど……。でも」

 

 

 一区切りつけてから、ハルキは自身の愛剣、デルフィニウムを高く掲げて。

 

 

 「この街のみんなで! この世界の不条理に立ち向かえるように!!

 剣を持て!! そして戦え!!!」

 

 

 うおおおおおっっっっっ!!!!

 

 

 「なーんか美味しいところ、持ってかれちゃったなー」

 

 「ぐぶぐぶぐぶ、パイセン拗ねててワロタ」

 

 

 オルスとトミィがハルくんの鬨に合わせて思い切り吼えている。この二人も中々気が合ってるように感じる訳だが、その横でマソップがちょっと面白くなさそうなグラントに向かって、持ち前のニヤケ顔を崩さずに声掛けた。

 

 

 「……でもみんなのやる気も上がったし、結果オーライかな」

 

 

 まあ、計画を実行するという事になったのだから、もうウダウダする訳にもいかない。いかに素早く事を進めるかが成功のカギである事をよく分かっていたグラントは、宿泊部屋から出たままの軽装から戦闘用の装備に着替えると、両手をパンパンと払って、言った。

 

 

 「じゃ、俺達も最終準備を始めるとしますか!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 双頭の巨人が斧を振るうと、まるでプレイヤーが鞠の様に軽やかにボス部屋の空中を舞ってゆく。

 それはジャグリングさながらの現実離れした光景だった。今まで自分達が体験してきたフロアボス攻略とは何から何までが異なっていた……視界の端に見える仲間のヒットポイントバーが、まるで完了間際のダウンロードバーの様にごっそりと減少し、その値がゼロになったプレイヤーの表示が次々に消えていく。

 その男は、自らの部下がその命を盛大に散らしているというのに、まるでその危機を打開すべく動くことが出来ないでいた。それどころか、目の前で繰り広げられているその惨状を見ても、どこか夢を見ているかの様な感覚に囚われていたのだ。

 当然である。その有様は、一層フロアボス攻略の時に尊敬するリーダーがポリゴンの切片となって霧散した時から、彼が一人夜な夜な恐れ怯えていた事態そのものだったのだから。

 そうだ、これはきっと夢。毎日のトップギルドのリーダーとしての重責に疲弊した精神が見せる、ひと時の悪夢……。

 

 

 「キバオウさん! キバオウさん!?」

 

 

 自らを呼ぶ声に、アインクラッド解放軍副リーダーを務める男、キバオウはいつの間にか瞑っていた目を開く。

 

 

 「なんや、ホンマに夢か」

 

 

 睡眠不足というわけでもなかった。

 というのも、軍がはじまりの街で規模を大きくしてからは、現地プレイヤーとの圧倒的な実力差からキバオウが直々に多くの策を打たなくとも街全体の掌握が出来てしまうのだ。なので彼が何か休息の時間を削って行動を取ると言った事は、このデスゲームが始まってから約五ヶ月間の攻略組としての生活以降は殆ど起き得なかった。

 だというのに、キバオウは唐突に夢を見た。まるでナーブギアを被ったその頭が、脳が彼にその幻影を見せようとするかの様に、いつの間にかキバオウは自身の部屋、黒鉄宮の敷地の中に存在する大部屋―――縦長の間取りから考えると舞踏室という設定だろうか―――の一番奥に設置したテーブルに突っ伏していたのだ。

 

 

 「どないしたんや、まだ昼にもなってへんで」

 

 「いや、それが……キバオウさんの、その……さ、鎖骨? をぺ、prprしたいなどと宣っていたプレイヤーを複数名捕縛したしまして……」

 

 「……なんやて?」

 

 

 巨大組織、アインクラッド解放軍を実質的に支配するキバオウでさえも、その部下の何とも歯切れの悪い報告を受けて、目をぱちくりさせてしまった。

 

 

 「事情聴取をしようにもキバオウさんにお目通りをと、その一点張りで……その、余りの頑固さに少々扱いに困っておりまして……」

 

 

 キバオウは考えた。鎖骨がどうというのは良く分からないし考えたくもないが、そこまでして自分に面会したいというのは何かありそうである。

 もしかすると「あの方」からの使者である可能性もないとは言えないのではないだろうか。

 

 

 「ここまで連れて来てや」

 

 「は……? いいのですか?」

 

 「問題あらへんさかい、早うしろ!」

 

 

 やがて数分後には、その開け放たれた大扉から、「やめて…私に乱暴する気でしょう!? エロ同人みたいに!」だの、「ここで出会ったが一年と三百六十日目! ……あれ三百六十一日目?」だのと締まりのない叫び声を上げる五人組の集団と、それを何とか黙らせようと苦労している自分の部下がのろのろとやって来ていた。その軍のプレイヤー四名がこちらを見るなりサッと直立し畏っているのに対して、彼らの連れてきた五名のプレイヤー達は一向に遠慮をする気配がない。むしろ寛いでいる。

 

 

 「ジブンらが噂のプレイヤー達やな? このキバオウに手ぇ出そうとするなんてええ度胸してるやんけ」

 

 

 ドスの効いた声でそう言ってみれば、話題の五人は其々ばらばらの反応を見せる。

 一番後ろにいるピンク髪の女性プレイヤーは何故かその言葉にうっとり恍惚とした表情を浮かべ、その手前の全身鎧の男と金髪の大男が顔を見合わせている。先頭に立つプレイヤーはフードを目深に被っている為表情が窺い知れず、その横の短髪の男性プレイヤーはせっかくの少しは精悍そうな顔を弛ませて、わざとらしくひくつかせている。

 

 

 「へ、へい、オラたちゃ、ただこれをキバオウさんに渡したかっただけで」

 

 

 とは短髪男のセリフである。引き続きヒクヒクしながら、彼はポケットの中から包みを取り出して、キバオウに捧げた。

 

 

 「さ、さっきキバオウさんの友達って名乗る人から渡す様に頼まれたんでさぁ。何でも上層でしか手に入らない、一定時間レイド全員の最大ヒットポイントを倍増させるアイテムだとか」

 

 

 キバオウは眉を上げた。

 実はアインクラッド解放軍は、前にこのはじまりの街に突如として発生した地下迷宮型ダンジョンを独占攻略しようとして、そこでポップするモンスターの予想を超える高レベル具合に辛酸を舐めた経緯がある。相手のレベルが高ければ高いほどレベリングとしては格好の条件ではあるので、レベルを上げずとも自分たちのステータスを一時的に強化できるアイテムの存在があるとすれば……それは願ってもいない話なのだ。

 そんなに美味しい話を、誰とも知らぬ人間が持って来るはずもない。「キバオウさんの友達」からの贈り物だとこの男は言ったが、それはつまり、「あの方」から自分宛に届けられたものだと考えて良いのだろうか。

 

 

 「ほう? 軍とは無縁な一般プレイヤーにしては、ええ心掛けをしとるやんか。横取りせーへんかったことは褒めたる」

 

 

 そう言って、キバオウは男の手からその包みをひったくると、お返しに剣でそのプレイヤーの頭を斬りつけた。圏内なのでダメージが発生する事もオレンジカーソルにもならない事も承知の上である。おかげで、その短髪男は「ヒイッ!?」とまた間抜けな声を出して大広間の地面へ這いつくばることになった。

 

 

 「優しいんやなぁ、あの方は。わいが困ってる時にいっつも手ぇ差し伸べてくれるんやで」

 

 

 そう言って、キバオウはその包みを開ける。やがてその直方体の固形物の正体が、何らかの結晶アイテムである事に気付いたキバオウは、ついに布を取り払って。

 

 

 「こ、こら……どういう事や?」

 

 

 違和感を覚えたのである。

 SAOに存在する結晶アイテムには色分けが成されている。理由は言わずもがな、外見でその結晶がどの様な機能を持っているかをある程度判別できる様にする為なのだが。

 本来ヒットポイント回復系の結晶アイテム、俗に言う回復結晶は、ポーションの色と同じ、血で染めた様な赤い色をしている筈なのに。今その短髪男から渡された結晶の色は……目が覚める様に、青い。

 キバオウは知っていた。つい先日、同ギルドのリーダーであり、自分にとって目の上のたんこぶの様な存在だった男、シンカーを地下迷宮ダンジョンに放逐した際に……密かに懐に持ち合わせていた、あの結晶と同じ色。

 

 

 「残念だったね、キバオウはん」

 

 

 見ると、這いつくばっていた男が膝立ちになり、肩を竦めてにやりと笑っている。その顔を覗き込んだキバオウは、ようやく記憶の底からその男の正体を探り当てたのだった。

 

 

 「ジブン、まさか……グラントか!?」

 

 「おっ、よく分かったね。髪型変わるだけでだいぶ違うでしょー」

 

 

 そう、次にキバオウが何か行動を起こそうとした時には、既に彼の手の中にある結晶アイテム……回廊結晶が砕け散り、気付けば自分と重なる位置に光の渦が生じているのを見て。

 

 

 「会っていきなり、ばいばいきーんだぜ。

 ……コリドー・オープン!!」

 

 

 その場から、姿を消したのだった。

 

 

 「き、キバオウさん!?」

 

 「貴様ら、キバオウさんに何をしたァ!?」

 

 「おっと」

 

 

 横で一部始終を見ていた軍の兵士達が、慌てて目の前の五人に向かって武器を抜こうとしたが。その手が武器の柄に触れる前に、彼らの身体は宙空を舞い、刹那の後に大広間の壁に打ち付けられていた。短髪男……グラントの背後にいた四人が、それぞれの隠し持っていた武器で彼らを打ち据えていたのである。

 

 

 「なんか……こんなにあっけないもんなのか、軍って」

 

 

 兵士達をキバオウも飲み込まれた回廊結晶の光の渦に放り込みながらフードを脱いだのは、我らがグラント帝国、サブリーダーのハルキである。なのでもちろん金髪大男はオルスであるし、全身鎧男はトミィ、ピンク髪はマソップある……グラントとハルキ以外のみんなは、キバオウと面識が無かったので変装の必要がなかったのだが。

 だが、過去に一度よりによってキバオウをコテンパンにやっつけてしまったグラントは生半可な変装じゃバレるかもしれないと言う事で、そのロングヘアーを泣く泣く切るに至ったのである。

 ……いや、まあこの世界において髪を切るという表現は正確ではなく、正しくはヘアスタイルを変更したというだけなのだが。

 

 

 「いや、時期とか条件が良かったのも大きいんじゃないっスかね。いやマジで。キバオウさんも何か焦ってるような感じだったっスから。いやマジで」

 

 「ぐぶぐぶぐぶ……これだけ大きな組織なんだから、一枚岩なワケないでしょ常考。きっと内部で一人のオンナを巡って対立があったに違いないんだぜ」

 

 「ほらみんな、無駄話してる場合じゃないよ。

 じゃあ、マソップ嬢はここで待機して、レジスタンスはじめこっちの勢力のみんなの情報を整理して、逐次教えてちょ。

 俺はとりあえずみんなに作戦開始の合図を出すから、あとのみんなはもう街でおっぱじめててくれぃ!!」

 

 

 グラントのその指示に、四人が頷き合う。そしてマソップは先ほどまでキバオウが座っていたちょっと豪華そうな椅子に遠慮なくどっかり座り、オルス、トミィと、そしてハルキがこの部屋から出る為に扉へ向かおうとして。

 

 

 「ハルくん」

 

 「……ん? どうした?」

 

 

 振り返ったハルキに、グラントが親指を立てる。

 

 

 「……暴れろ!」

 

 

 お返しに不敵に笑ったその剣士は、扉を勢い良く開け放った。

 

 

 

 

 

 

 

 『みんなで一斉にウォーってする前に、まず俺達だけで黒鉄宮に行こうかな』

 

 『ん? それってなんか意味あるのか? あそこって別にギルドホームとして機能している訳じゃないんだから、占拠しても何にも恩恵が得られないんじゃないか? 陣取り合戦でもないのに』

 

 『まあね。でもギルドホームとして使っている以上、あそこには多分軍の実質的なリーダー、つまりはキバオウはんがいるはずだよね。

 まずは彼をどこかにうっちゃったほうがいいよ。下手に指揮取られても面倒だし。ま、彼は犯罪者プレイヤーとかじゃないから、行き先はトールバーナとかでいいんじゃない?』

 

 『回廊結晶を使うんスね。所有者から他の人に渡っても、五秒間だけその使用権が元の所有者にも共有されるってルールがあるの、知ってるっスよね? いやマジで』

 

 『うむ。結晶アイテム固有の特性だよね。

 加えて結晶アイテムは中々レアアイテムだから、ここからトールバーナ程度の距離じゃ多分向こうも転移結晶を使わずに徒歩で帰ろうとする筈だよ。だから少なく見積もっても三時間は稼げるって算段なわけ。

 そういう訳だから北海いくらさん、俺が合図するまで、みんなを待機させておいて下さいな』

 

 『……分かりました。その作戦で行きましょう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒鉄宮が乗っ取られた。

 キバオウから直々に送られたその一報は、はじまりの街の各所を練り歩いていた徴税部隊の心境を大きく揺るがした。

 

 

 「乗っ取られたって……あそこは軍の本拠地だぞ……?」

 

 「いくらキバオウさんが言った事とはいえ、ちょっとあり得ないよなぁ……」

 

 

 だが、この後に及んでまだ呑気な事を言っているこのマヌケな徴兵部隊の兵士達は、次の瞬間彼らに向かって掛けられた悲鳴に、その顔色を変える事になる。

 

 

 「た、大変だぁ!! こ、黒鉄宮の中から……なんか見た事のない三人組が、な、仲間達を蹴散らして……」

 

 「みなさん!! 今です!!」

 

 

 その場に駆け込んできたもう一人の軍のプレイヤーの必死の訴えを遮る様に、辺りに凛とした声が響き渡った。兵士達が不思議に思ってその声の主を探すと、目の前の建物の屋根に……一人の細身の男が立っていた。

 

 

 「戦闘、開始!!」

 

 

 瞬間。

 なんとその男―――北海いくらという、奇妙な名前の持ち主である―――の立つ屋根の下、その長屋の様に連立する建物の窓から、剣やら兜やら、なんなら果物やインゴット、さらにはコルまでもがまるで雨の様に兵士達に降り注いだのである。

 もちろんそれらを投げているのは、このはじまりの街に住む一般市民の皆さんである。グラント達が主要の作戦を立て最低限の物資を整えている間に、レジスタンスが昨日のうちに可能な限りの仲間を密かに集っておいたのである。軍の恐慌支配にみんな萎縮してしまい、あまりその成果は期待できないと思っていた彼等だったが、実際に敢行してみれば意外にも多くのプレイヤーが助力を決意してくれたのである。

 

 

 「な……何をする! 一般市民の分際で……ぐわわわわっ!!??」

 

 

 威勢よく反駁する軍のプレイヤー達だったが、立て続けに発生するノックバックと紫色の閃光に、堪らずその場で一人、また一人と蹲る。持っている武器で振り払おうにも、ここは圏内なので他人から投げられたアイテムを断ち切ることすら出来ないのである。

 

 

 「A隊! 突撃、開始!!」

 

 

 やがていつまでも終わらない強撃の雨が止まぬうちに、今度は建物の扉や路地裏から、それまでの静けさから考えられないほどの怒号が聞こえたかと思うと、一斉にそこからプレイヤー達が通りに駆け出してきて、兵士達に殺到した。

 

 

 「お、お前たち軍に逆らう気か……!」

 

 

 そんな彼らの訴えは当然、反乱プレイヤー達には届いていない。その防具は意外にもいつもと変わらぬ初期装備であるし、武器もショート系装備とブロンズ系装備と、所詮は一層で購入できる程度の品々である。

 だが、そんな貧相な装備でも束になって一人を袋叩きにすれば、いくら高レベルプレイヤーとはいえなす術なくその場で防御に徹するしかないのである。

 

 

 

 

 

 『この世界じゃ、レベル差は実力の絶対的な指標だって、よく言うよね』

 

 『ああ。レベリングを如何に効率よく行えるかが、このアインクラッドで強者であり続ける秘訣だって……キリトが言ってたよ』

 

 『確かにその通り。キリトの奴も流石に分かってるねぇ。

 でも、なんでそんなにレベル差が致命的か、分かる?』

 

 『スキルの取得数、装備できる武器のバリエーション、要因は沢山あるぜパイセン。

 まあ……ワイなら、そんなのよりももっと単純なのを挙げるけどな』

 

 『その言い方だとどうやらマソップ嬢は分かってるみたいだねぇ。

 そ、まああくまで答えの一つだけど、その理由は……このSAOに於ける戦闘の多くが、一対一で行われるからじゃないかい?』

 

 『確かにそうっスね…モンスター相手ならともかく、対人戦は基本デュエル、つまり一騎討ちで行われるっスからね。いやマジで。

 弱いプレイヤー同士が、協力しあうって事が、プレイヤー間では出来ないっスよねぇ。いやマジで』

 

 『あ……そっか。じゃあ、みんなで力をあわせられるたたかい方が』

 

 『そういう事だね、トミィ氏。

 それが、圏内戦闘だよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「すごいな……! これなら、軍に勝てるかもしれない……!!」

 

 

 二日前まではまるで予想だにしなかった光景に、指揮のために剣を振りながら、北海いくらは全身を震わせていた。

 つい前まで、彼らは軍に屈するしか無かったのだ。はじまりの街の治安維持を目的として謳うかの巨大組織が、その声明を真摯に遵守していたのは、彼らが二十五層の大敗からここに流れてきてほんの一ヶ月程度の事だった。

 それ以降は軍の内部で、物資の均等分配など現地プレイヤーのサポートを主張する一派、有り体に言うならば軍に吸収される前の「ギルドMTD」のメンバーと、街全体に徹底的な支配体制を敷こうとするキバオウ一派の抗争が、そこに住む関係のない人々を巻き込んで長い間行われていたのだ。

 北海いくらはそんな中で、初めは元ギルドMTDのメンバーに支援を行っていた。そのギルドのリーダーであり、今の軍のリーダー―――残念ながらその実権を殆どキバオウに奪われてしまっているが―――のシンカーと知り合いだった為、彼から託された物資やコルを、そのキバオウ率いる一派に隠れて周囲のプレイヤーに均等に分配していたのだ。

 だか、徐々に強硬派の勢力が増大し、シンカー達がその権力を次第に失いはじめてからは、それを続ける事も難しくなってしまった。そんな中で彼はこのままではと将来を案じ、密かにレジスタンスを結成したのだが。

 

 

 「引き続き標的が抵抗をやめるまで攻撃を続けろ! 相手一人に、必ず三人以上で攻撃を仕掛けること!

 C隊とD隊も、それぞれ攻撃開始!!」

 

 

 街の各所で鬨の声が轟く。今やこのクーデターは街中に広まり、軍全体を揺るがすに相応しい市民戦争がここに勃発したと言って良いだろう。作戦通りに事が進んでいるのなら、今キバオウは一層において最もはじまりの街から遠い安全圏、トールバーナの街に飛ばされてしまった筈なのだ。軍全体の統制が取れていない今のうちに、叩かないと。

 しかし、そんな彼の思惑は、次の軍の兵士達の奮起によって、揺らぐ事になる。

 

 

 「ちっ、一般プレイヤー風情が……舐めるなァァァァッ!!!」

 

 

 なんて事はない、まず一人の兵士が、持っていた両手斧を大きく振り回したのである。その武器がライトエフェクトを発しているのを見るに、おそらくそれは両手斧広範囲ソードスキル「ワールウィンド」だろう。

 すると、周りで攻撃を加えていた味方が、一度に五、六人は大きく弾丸の様に吹き飛び、その場で昏倒してしまったのだ。

 

 

 「………っ!」

 

 

 夢から目が醒めた思いだった。これが現実、これがプレイヤー間のレベル差である。こちらが大勢で突撃してようやく相手を怯ませる事が出来ても、向こうがたった一振りすれば大損害である。

 そしてさらに悪い事に、その当たり前かつ単純な事実に、軍の兵士達も気付いてしまった様だった。彼らの顔は先程までの必死な形相から、幾ばくか落ち着いた、引き締まった表情に変わっていた。

 

 

 「まずい……」

 

 

 北海いくらは焦った。今まで言わば奇襲の様な形で攻め込んでいたからこそ、自分達を格下と決め付けていた軍の連中を出し抜けていたのだ。そのカラクリに気付かれてしまっては、寧ろこちらが不利な展開に持ち込まれてしまう。

 自分が出るべきだろうか。少なくとも今、あの場で戦っている仲間達よりかはレベルは高いのだ。戦闘の経験も彼等よりは積んでいる、少しは敵へのプレッシャーを稼げるかもしれない。

 

 

 (よし、こうなったら一か八かだ……!!)

 

 

 

 

 

 だが。彼がそう思った刹那のことだ。

 

 

 

 「大丈夫、任せろ!」

 

 

 

 彼の真横を、一陣の風が吹き抜けた。北海いくらは思わず振り向き、そして再び戦場となっている大通りを見やって。

 そこで目撃したのだ。今し方自分のすぐ横で踏み切って躍り出たのだろう一人のプレイヤーが、深紫の剣を掲げて……そのまま、目下の軍の兵士に向かって大上段から振り下ろしたのだ。

 

 

 「な、一体………ぐわぁぁぁぁっ!!??」

 

 

 唐突な襲撃に混乱し、しかし戦ってみればどうと言うことのない……そう思った直後の出来事である。あまり身構えもせずに自身の両手斧でその剣を防ごうとしたその兵士は、直後に生じた落石の様な凄まじいノックバックを受けて、何度も地面を跳ねた挙句に街路樹に頭から激突したのである。

 

 

 「な……な……今度は一体何なんだ……!?」

 

 

 これには軍のプレイヤーどころか、反乱勢力のプレイヤー達も驚いて立ち竦んだ。

 このはじまりの街では無類の強さを誇っていた軍の徴税部隊のメンバーを、たった一撃で圧倒したのである。そんなプレイヤーの存在なんて、彼等からすればまるで夢物語の様なものであり。当然誰によるものかなんて事は皆目見当が付かなかったのだ。

 ……いや、レジスタンスのメンバーを除いて。

 

 

 「今まで見過ごしてきちまった分、今日はたっぷりと暴れさせてもらうぜ」

 

 

 その言葉に北海いくらの目が輝き、レジスタンスから歓声が上がり。そして軍の部隊の男達は顔色を再び変える事になった。

 そんな中で、彼らの中心で、大通りのど真ん中で。先程振るった剣を軽く回し、両手で持ち直すと。

 彼女は、言った。

 

 

 

 

 「『純傑』のハルキ、参る!!」

 

 

 

 

 

(part2へ続く)

 

 




 
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