「カエルの肉! ゲテモノなほど旨いって言うからな、あとで料理してくれよ」
グラント「だが断る」
マソップ「くうくうお腹がなりました」
ハルキ「カエルか! 現実世界に帰ったら食べたいなあ」
アスナ「ちょっ」
2024年、11月1日。はじまりの街、解放戦。
時刻は既に昼下がり。正午前から始まったそのSAO史上類を見ない大規模な圏内戦闘も、いよいよ佳境に差し掛かりつつあった。
「なんやこら……一体何が起きたちゅうんや!」
そんな勝手知るはじまりの街の変わり果てた姿に、その入り口にて思わず自らの数名の部下と共に立ち尽くす男がいた。
「わいがおらへん間に、何が起こってん……!?」
今日この瞬間までアインクラッド解放軍の副リーダーを務め、彼らの強硬的な振る舞いを実質的に取り仕切っていた男、キバオウは、しかし目の前に広がっているその光景に思わず目を疑っていた。
昨日までは大手を振って街中を練り歩き、人々から我が物顔で税金を徴収し……抵抗するプレイヤーを暴力によって黙らせていた、はじまりの街が誇る軍の兵士達が。あの彼らが、その横暴を働いていた一般プレイヤー達に、逆に袋叩きにされているのである。
完全に場の流れは一般プレイヤー側のものとなっていた。今までの抑制による鬱憤もあったのだろう、やってみれば案外立ち向かいうるものだという事実に気付いてしまった反乱者達は、もはや一切の遠慮なく軍の兵士達を蹂躙している。一方で軍の人間はあろうことか最早多くが戦意を失っている様で、脇目も振らずに逃げ惑う者から、もはや抵抗を諦めて連行されているプレイヤーまでいる有様である。
「なんでや……シンカーは、わいが始末した筈やのに……!!」
そう、キバオウこそが、現アインクラッド解放軍のリーダーであるシンカーをこのはじまりの街から追放した張本人であった。対立関係にあった彼と一対一での対話を持ち込み、その場で回廊結晶を用いて地下迷宮ダンジョンの奥底に放逐してしまったのである。
だからこそ、彼は大いに驚いていた。長く続いていたはじまりの街での軍の内部分裂もようやく収束する兆しが見え始めたというのに……その数日後には、これだ。
何がこの、驚天動地の動乱を引き起こしたのかをキバオウは考えた。そしてその最も可能性のある原因として、真っ先に思い浮かぶのは。
「あいつ、一体何企んでいやがるんや!?」
自らが行ったのとほぼ同じ手法で、自らをこの街から放逐したあの、ロングヘアー……をばっさり切った短髪の盾男である。二年近くして再び姿を現したと思えば、自分を第一層ではここから一番遠い安全圏、トールバーナへと追いやり。
そして急いで戻ってみれば、はじまりの街が大きく様変わりしていたと言うのだから、彼の関与を疑う余地が何処にあるのか聞きたいぐらいだった。
あいつを見つけ出さなアカン、キバオウは思った。こうなった原因があの男にあるのなら、あいつをしょっ引いてなるべく早くこの騒ぎを収めないといけない。それが今の自分に出来るベストだと、かつての攻略組リーダーだった男は気持ちを切り替えて。
そして、彼の名前を叫んだ。
「グラントぉぉぉっ!! 覚悟せいぃぃっ!!」
「随分と早い再会になったもんだな、お嬢ちゃん」
さて、キバオウがはじまりの街に到着したのとほぼ同時期の西四区の大通りである。
今やレジスタンス達の希望の星となった剣士ハルキが、唐突にその場に現れた一人のプレイヤーに向き合っていた。
その全貌はフード付きマントに隠れてまるで判別が不明であるが、辛うじて覗く下顎部の角張りを見るに、男性プレイヤーである事は間違いなかった。
いや、そんな事はハルキも間違いようがないのである。なぜならつい先日、彼女はその男の率いるPK集団の襲撃を受け、絶体絶命の危機に陥っていたのだから。
「お前は、このデスゲームが始まった頃から……この街を荒廃させようと目論んでたのか」
「おいおい、そんなけったいな計画を建ててたわけじゃねぇよ。ただ、このSAOが始まった直後は、俺達もこの街しか実験場所がなかったってだけさ」
「実験場所、だと?」
目つきを鋭くするハルキに、その男……SAO最大の人殺しギルド、ラフィン・コフィンのリーダーを務めていた男、PoHは肩を竦めて嗤った。
「初めから好き勝手に殺しが出来る程、俺達も余裕はなかったのさ。それとなく噂を吹き込んだり、うめぇ話を教えてやるだけで、面白れぇほどプレイヤーが喰い付いてくるってもんだ。
まあ、上の層が解禁されて俺達がここを離れた時には、この街もすっかり腐り切っちまって手応えがなくなっちまったがな」
「……お前達のせいでひどく苦しんだ人間がいる事を、今更お前に教えても通じるとは思わないが」
明らかにPoHはこちらを挑発している……それを見抜いていたハルキは、あくまで冷静に言葉を連ねる。だがその声音には抑えきれぬ怒りが込められていた。
「この街からお前達レッドプレイヤーという禍根を断つ為にも、俺は引き下がる訳にはいかない。
諦めて投降しろ。ここは圏内だ、お前に俺を殺す事は出来ない」
そう、ハルキが言う通り、ここは圏内なのである。あらゆるプレイヤーが、あらゆる攻撃に対しシステムの保護を享受する安全圏においては、基本的に犯罪者プレイヤーはその手口の大部分に制約を受けてしまうのだ。
加えてPKを専門としている犯罪者プレイヤーは、きちんとレベリングを行い常に最前線で戦う攻略組に比べると、全体的に些かレベルが低い傾向がある。つまりは今PoHがまともにハルキと圏内戦闘をしたところで、攻略組同然の高レベルプレイヤーとなった今の彼女には勝ち目はほぼ無いと言っていいのである。
「へへ、まあ、その通りだな。今の俺に勝ち筋はねぇ。
だから、ここは一つ、賭けなんてどうだ?」
「お前みたいな大罪人に、交渉する権利があると思うのか」
「まあ、そう焦るな。……今から俺とおめぇで、デュエルをする。
おめぇが勝てば、俺はこの街から手を引こうじゃないか」
ハルキは眉を潜めた。
確かにその提案は聞くに値するものではある。仮に軍の転覆に成功したとしても、ラフコフのメンバーに目をつけられてしまっては……今度は犯罪者プレイヤーとの争いが始まってしまい、街のみんなが思い描くような平和で安らかな日々が訪れる事は無くなってしまうかもしれない。そのリスクを、今自分の身を犠牲にする事で無くすことが出来るのならば、それが最善の方法かもしれない。
だが、レッドプレイヤーであるPoHからすれば、何とかしてこの場はデュエルに持ち込み、あくまで通常の戦闘での勝負を挑みたい状況なのである。ハルキがそれを了承すると言う事は、進んで彼の術中に嵌る事を意味しているのだ。
「……お前が勝ったら、どうなる」
「おめぇが知る必要はねぇだろう。
何せ、今からやるのは『完全決着モード』のデュエルだ。俺が勝てば、おめぇはここで命を散らすのよ。
だがおめぇが勝てば、アインクラッド中にレッドプレイヤー筆頭の俺が死んだ事が知れ渡る。そうなりゃ誰もおめぇらには手は出してこねぇさ」
完全決着モード。
それは彼女達SAOプレイヤーがこれまで幾度となく行ってきた腕試しとしての儀式が、本当の殺し合いに変わる臨界を指していた。その様な意味では、実にレッドプレイヤーらしい提案だったと言える……今のPoHはカーソルをグリーンに戻している様だったが。
そして次の瞬間には、ハルキの目の前に、デュエル申請のウィンドウが表示されていた。
(……グラント、早く気付いてくれ)
ここでPoHを逃してしまうことが、最良の策だとはハルキには思えなかった。もし相棒の彼が彼女の現状に気づいて駆け付けてさえくれれば、人数差を考えても事を有利に進めることが出来るはずなのだ。
となれば、今の自分がすべき事は、グラントがここにやって来るまでの、時間稼ぎだ。
「……いいぜ。受けて立とう」
デュエル申請を受諾し、ハルキは改めて剣を握り直す。だが彼女はその武器を構える事をせずに、デュエル開始までのカウントダウンが行われる間に必死に頭を動かしていた。
(まずは麻痺毒でこちらの動きを封じるのがこいつらのセオリーだ。だから、搦手に最大限警戒して戦えば、致命傷を受ける事は少ないはずだ)
だが前回のハルキがそうだった様に、そう肝に銘じていても敵の思いがけぬ行動によって、致命的な何かしらの攻撃を受けてしまう可能性はゼロではない。問題はその時、どの様にして切り抜けるか、である。
(……いや、仮に麻痺状態になったとしても、俺はただ一言「降参」と言えば、少なくとも死ぬ様な目には合わないはずだ。デュエルを途中で放棄してしまえば、向こうは俺のヒットポイントを減らす事は出来ない筈なんだ)
それが彼女の切り札でもあった。これが圏外であれば、デュエルの継続に関係なく武器による攻撃は有効とみなされる為、そこには常に生死の危険が付き纏うのである。
だけど。デュエル開始まで二十秒を切り、ようやくハルキはのろりと剣を中段に構えながら、そんな自分の楽観的思考に反駁した。
(それを、あいつ自身が気付いてない訳が無いんだ。わざわざ勝手の効かない圏内まで踏み込んできているんだ、そのリスクを把握してない訳がない……それに俺も、さっき圏内を盾にするような事を言っちまったからな。つまり)
ハルキは考えを纏め上げて、その不可解さに武者震いを覚えた。
(あいつが俺を本気で殺す気なら、その方法は一つ。俺が「降参」と言う事すら出来ない速さで、デュエル開始直後にこっちのヒットポイントを全損させる事だ。
だけど……俺とあいつは今、全力疾走したって数秒はかかるくらいには離れている。ピックを使ったって急所に当たったとしても一投で俺を殺す事は不可能だし、そもそも武器を投げたところで俺が避けない保証だって向こうにはない筈だ)
そう、今の彼女達の位置関係からして、どう動いたところでPoHにハルキを確実に倒す方法がないのだ。まさか彼女がデュエルという勝負の形に固執するような、頭の硬い人間だとは彼も考えていないと思われ、ますますPoHの思惑は不可解である。
やがて遂にデュエル開始まで五秒を切ってしまった。もしハルキの予想が正しければ、この勝負は一瞬にして雌雄が決する。そろそろ彼女も自身の行動を選択せねばならない。
ハルキは目の前のSAO最大の殺人者に目を移した。やはりPoHはあくまで自身の得物で勝負を仕掛けるつもりの様である。短剣を順手に持ち、こんな状況だというのに口元に笑みを絶やさずに構えるその立ち振る舞いは、まるであの迷いの森での彼そのものの様で。
迷いの森での、PoHの……出で立ち?
「ーーーーーっっ!!」
その時。ハルキの身体を、電撃が走るような直感が暴れ回った。もしその思い付きが正しければ、彼女は今の今に至るまで、既に致命的な勘違いをしていた事になる。
(間に合え……っ!!)
見ると、カウントダウンは既に一秒を切っていた。ハルキは急いで剣を脇構えにして、斬り上げの様な動作で……彼女の周囲を円を描く様に薙ぎ払ったのである。
「……何?」
「や……やっぱりか……!!」
ガツンと、金属と金属がぶつかり合う衝撃がハルキの腕に伝わる。彼女の右斜め後ろにて、どういう訳か宙空で剣がつっかえたかと思うと。
「……見破られた……だと……!?」
聞き覚えのある男の声の後に、すぅ、と耳を撫でる様なサウンドエフェクトが辺りに響き渡り。
次の瞬間にはそこに、何もなかったはずのハルキの背後から……つい前まで遠くに離れていた筈のPoHが、姿を現したのである。
「チッ、アテが外れたぜ」
自身の策を見破られ、初めて焦りの声を上げたPoHを、ハルキは剣で強撃する事で引き離した。そして振り向きざまに、不意を狙って彼女に斬りかかってきていた……先程までハルキが目視していた「もう一人のPoH」に小手打ちを放った。そしてその手から武器が離れたのを確認するや否や、その無防備な額に剣を叩き込む。
「何で、分かった」
「簡単なことさ。だからこそ俺も気が付かなかったけどな。
俺はお前を知らない。お前の外見も、お前の服装も、あの時俺は見ていなかったんだ」
結論を手短に言えば、つい先程までハルキが話していたフード付きマントの男は、PoHではなかったのである。
彼はPoHの手下のプレイヤーの一人で、本物のPoHの声に合わせて演技をしていたのである。その真の目的はPoHがあくまでその場にいるとハルキに信じ込ませる事だったのだ。
そして、デュエル開始と同時にPoH本人はハルキの背後に忍び寄り、その喉を掻っ切るつもりだったのである。「プレイヤーを殺した回数に比例してプロパティが上昇する」というその凶悪な特性によって、SAO内に数ある武器の中でもトップクラスの威力を誇るその短剣、メイト・チョッパーならば……攻撃する部位によっては、ハルキのヒットポイントを一度に全損させることも可能だと判断したのだろう。
(あの時気付かなかったら……俺は死んでた、か)
だが、デュエル開始直前にハルキは目の前のプレイヤーを見て、気付いたのだ。いかにも犯罪者プレイヤーの典型の様な装備をしていた男をPoHと見なしたそれが、自分自身が勝手にそうだと決め込んでいた偏見であった事に。その外見だけでは、その男が本当にPoHなのか判別できないという事に。
なぜならあの迷いの森では、PoHが姿を見せたときにはハルキは麻痺を食らって倒れ込んでいたのだから。その後も背後から武器を突きつけられていたのみで、彼女は彼の姿を一度も見ていなかったのである。
「だけど……お前、今透明に……それに、オレンジカーソルじゃないか……!?」
だが。ハルキが自分の推測によって説明がつかない事……つまり本物のPoHがデュエル開始の瞬間まで、なぜか透明であった事、そしてその男のカーソルが、圏内である筈なのにオレンジである事に対する疑問を呈している隙に、相手は既に次の攻撃をすべくメイト・チョッパーを振りかぶっていた。
慌ててハルキも迎撃するが、先の攻防で完全に油断を解いたPoHの短剣は、それぞれ絶妙に違う位置から彼女の急所を狙う、とても素人武術とは思えない鋭利さを備えており、流石のハルキも安易に攻撃に転じる事が出来ずに押し込まれていた。
(こいつ……まさか、現実世界でも人殺しを……!?)
だが、ハルキがその予感を思わず確かめようと口にする前に……辺りに、彼女のよく知る声が響き渡った。
「ハルくん! 君なら、勝てる!!」
ハルキが今一番聴きたかった声が、すぐそばから聞こえてきて。
ふっと、彼女は肩の力が抜けるのを感じた。意識が渓流の冷たさに触れたかの様に鋭敏になり、散漫になっていた闘志が剣の切っ先に収束するのを感じる。
ハルキの雰囲気が変わったのを感じ、舌打ちをしながらPoHは短剣を翻す。複雑な動きで相手に動きを誤認させ、隙を作った瞬間に正中を串刺しにする算段だった。
だが、目の前の剣士はその全てに引っかかる事なく、流れる様にPoHの懐へと沈み込んでいった。一瞬視界から消えたハルキから逃れるために、彼は今まで踏み込んでいた足を後退させて。
そして、刹那。
ハルキの剣は、止まっていた。
いや、PoHには止まっている様に見えた。
それが、彼女のあまりの剣の疾さにグラフィックがついて行っておらず、処理落ちを起こしている事によるものだとPoHが気付き、身を引いた時には……彼の左腕と左足は既に宙を舞い、ポリゴンの欠片となって霧散していたのだった。
「……降参」
そう言ったのは、剣を鞘にしまいながらも未だ残心を残すハルキだった。彼女の数歩前にデュエル終了の、そしてPoHの勝利を示す表示が映し出される。
だが、本当に勝利したのがどちらか。それは一目瞭然であった。
「お……俺が……こんな……小娘に……!?」
それは部位欠損の為に立つ事さえままならず、その場で転がったPoHがほんの小さな声で発した言葉だったが、ハルキはそれを聞き取ると、構えを解いて言った。
「薄い剣は鋭いが脆く、厚い剣は鈍いが丈夫だ。
俺は人一人救うのも精一杯ななまくらだけど、お前みたいな人を弄ぶだけの薄っぺらい代物に、遅れを取るわけにはいかない。
お前らがこれから何をしようと、何度でも立ち向かってやる。俺が」
「一応、俺たちが、ね」
格好いい言葉を言いながらも、足元のふらつくハルキを、ようやく駆けつけた短髪男が支えて、付け足した。その一歩手前では、オルスが鈍足のトミィを抱え、ハルキに代わって身構えていた。
「俺たちが、そんな事させない、ってね」
そんな仲間達の様子に、ハルキは遂に張り詰めていた気を緩めたのか……その場でへたり込みそうになっていた。いくら背伸びしても年端もいかない少女である、思わず意識を遠のかせる彼女を、グラントは慌てて側の街路樹にもたれ掛けさせた。
「七層にあるクエストの中に、受注もクリアもすこぶるつきの特殊条件で、しかもワンチャンスのがあってね。それをクリアすると……自動的にステータスが『完全透明化』状態になるんだ」
「か、完全……透明化……!?」
グラントから告げられた衝撃の事実に、ハルキは力なく聞き返す。
「うむ。だけど武器を使った攻撃やオブジェクトの移動、スキルの使用とかで、その透明ステータスはすぐに解除されるからろくに使えたものじゃなくてさ。
たぶんそこのPoHはそのクエストをクリアして、透明化して君を待ち受けてたんだよ。ハルくん」
「だ……だからあいつはオレンジなのに、圏内に入れたのか……?」
初めにハルキが対面した、にせのPoHはカーソルがグリーンだった。だがハルキによって企みを見破られた本物の方のカーソルはオレンジである。考えてみれば、SAOで最も人を殺したプレイヤーである彼に要求されるカルマ回復クエストは……その難度が極めて高まりとてもクリアできるものではなくなっている筈なのだ。
だからこそ、PoHは「完全透明化」を使って圏内に侵入したのである。前にオレンジプレイヤーの圏内入りが実質的に不可能である事を身をもって思い知ったハルキにすれば、その新たな事実は極めて恐ろしいものだった。
「そう、ハルくん。俺達確かめたよね?
オレンジプレイヤーが圏内に侵入した事が、ばれたら。どうなるか」
「あ」
やがて自分達のいるその場に複数名ものと思われる足音が鳴り響くのを聞いたハルキが、ちょっと間抜けな声を上げる。グラントも彼女から、PoHと彼の部下一人に向き直って……ニカッと笑った。
「おおよそ、ハルくんを倒したらさっさと圏外に逃げるつもりだったんだろうけど。
その人たちしつこいよ〜。まともに逃げても敵いっこないぜ?」
「世の理を破り、街へ攻め込んだ咎人め!! 今こそ我々、『自警団』が成敗してくれん!!」
「クソッ……『純傑』のハルキ。それに……『阿修羅』のグラント。
この借りは、いつか必ず返させてもらう」
「ねぇ、だからその名前はさぁ」
PoHは動かない身体を無理矢理横に転がすと、右手で自身のシステムウィンドウを操作し、転移結晶を取り出した。それに気付いたグラントが阻止しようとして……諦めた。
無理に彼を黒鉄宮送りにしようとしても、恐らくかの自警団を名乗る衛兵NPCのクローン集団がそれを許さないだろう。今この大事な時にこの男と一緒に圏外に追い出されてしまってはたまったものではないのだ。
「……また会おうぜ」
だからグラントは、PoHがそう言って転移により、自警団から逃れるのを最後まで見届けることなく……街路樹にもたれて疲労困憊していたハルキを抱え上げて背負った。そしてギルメンのみんなに合図を出すと、みんなでその場を後にすべく歩き出した。
「ハラスメントコード、消しといてくれよぅ」
「……ああ」
頭越しに聞こえる短髪男のその頼りない声に、ハルキは思わず苦笑いしてその背中に顔を埋める。オルスとトミィの賛辞の言葉を受け取って、彼女が一安心して目を瞑った……。
「……ちょぉ、待ってんかぁ!!!」
彼の声が聞こえたのは、そんな時であった。
マソップ「やめて! キバオウさんのソードスキルで体力を削り切られたら、デスゲームでナーブギアに繋がれてるグラントの脳まで燃え尽きちゃう!
お願い、死なないでグラント! あんたが今ここで倒れたら、ハルキや北海いくらとの約束はどうなっちゃうの? ヒットポイントはまだ残ってる。ここを耐えれば、キバオウに勝てるんだから!
次回『グラント死す』。デュエルスタンバイ☆」
ハルキ「約束って?」
北海いくら「ああ!」