SAO (シールドアート・オンライン)   作:ニモ船長

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グラント「かええってきたぞ、かええってきたぞー♫」

マソップ「グ〜ルト〜ラ〜マ〜ン♫」

オルス「後のグルトラマンジャックっすね。いやマジで」



ジャック「ちょっ、俺グラン」
 


ロスト・アインクラッド 〜フェアリィ・ダンス〜
第一話 帰ってきた落武者男


 

 

 2024年、12月31日。

 ログインしたプレイヤーがログアウト出来なくなるという悪魔のゲーム、ソードアート・オンラインがクリアされ、電脳世界の中に囚われていたプレイヤー達が多くの犠牲者を出しながらも再び現実世界に復帰したのが、同年の11月7日のこと。それから二ヶ月近く経った、大晦日の夜の事である。

 

 

 「ヒィィッヤアッハァァァァ!! モノども震えろ敵襲じゃオラァァァァァっ!!!」

 

 

 出オチって楽しい。二回目だけど許して。

 とりあえず無視して、前置きを続けます。スイルベーン……「翡翠の都」とも呼ばれるその場所は、シルフと呼ばれる緑色の羽根を持つ妖精の住む一大都市である。華奢な尖塔が沢山の空中回廊で複雑に繋がり合って構成される町並みは、色合いの差こそあれ皆つややかなジェイドグリーンに輝いていて、それらが夜の暗がりの中に浮かび上がったその姿は、この「世界」に存在するあらゆる都市の中でも指折りの美しさを誇っていた。

 そう、この「世界」……アルヴヘイムと呼ばれる、九つの妖精種族の住う世界は、SAOサーバーの維持を同ゲームの開発元として責任を取り解散したアーガスに代わり受け持った、「レクト・プログレス」と呼ばれる会社によって運営されている。現実世界の人間はその世界への転身切符である「アルヴヘイム・オンライン」というゲームソフトと、先の事件の失敗を汲んで多くの安全面における改良がなされたナーブギアの次世代ハード機……「アミュスフィア」の二つを使う事で、この仮想世界に妖精として降り立つ事が出来るのだった……と言うのが、現在の仮想世界を取り巻く環境の一部概要である。

 

 

 「な……一体何なんだあのプレイヤー……!!」

 

 「て、敵襲、敵襲ー!! おい、お前は早くこの事を領主に伝えるんだ!!」

 

 

 さて、そろそろ話を戻そう。

 今現在、そのスイルベーンの街の入り口……いや、外壁のない都市の構造として明確な入り口はないのだが、外から街中まで続く街道を、一つの赤い影がそこまでは速くない速度で爆走していたのである。

 ……この作品において、それが誰によるものか、ちゃんと明記する必要って、ある?

 

 

 「よっしゃ! やっと着いたぜスイルベーン!! 殴り込みダァ!!」

 

 

 そう、この仮想世界には、あの男が帰って来ていたのである。

 先の鋼鉄の城の世界において、常人に思い付かない奇行を何度もやってのけ、男性プレイヤーからは奇異、女性プレイヤーから、そして最後には世界の創造主にさえ軽蔑と侮蔑の視線を向けられて……それでもなおその生き方を変えなかった、究極の頑固男にして変人プレイヤーの象徴的存在。

 ……いや、そんな表現すらコイツにはもったいない。とにかくこの話から作品に入った方はこれだけ覚えてくれればいい。

 盾しか使わない。ロングヘアースタイル。キモい。そんな盾バカ落武者男。それがこの男……グラントのプロフィールである。

 

 

 「オラオラぁ!! 俺ぁサラマンダーだぜ!! 好き放題暴れたるわぁぁぁ!!」

 

 

 そうそう、そこ重要だったか。

 グラントは現在シルフの統治するスイルベーンに向かって特攻しているが、当の本人はシルフではなく、その領地に隣接する土地を治める種族、サラマンダーに属していた。元々シルフとサラマンダーは種族間での友好関係が悪く、また上述の通りその二種属は支配域の物理的距離が限りなく近い為に、結果として結構な頻度でお互いの領土にて小競り合いが起きているほどなのである。

 おまけに何よりこの世界……「アルヴヘイム・オンライン」は、SAOとは違ってPKが推奨されている。

 

 

 「ば……バカかお前!! シルフの領土内じゃ、こっちはお前に攻撃出来てもお前はこっちに攻撃できないんだぞ!!」

 

 「ふっふっふ……そんなの」

 

 

 そう、基本的に他種族同士が争う場合、それはいずれの妖精もが支配していない、「中立域」によって成されるものである。わざわざ自分の種族の領地でもない都市に向かって、しかも喧嘩を吹っかけながら突入するプレイヤーなんて、おそらくこのアルヴヘイム・オンライン……通称ALOのサービス開始から一年経つ現在でも指を折るほどしかいないだろう。

 だがグラントである。しかしグラントである。そう、グラントである。

 

 

 「構うもんかー!! 元より俺は盾一本の男だぜーー!!」

 

 

 やっちゃったZE☆。しかもこの男武器を持っていない。いや、一応初期装備の剣はアイテムストレージに入っているらしいけど。まあ既に交戦中だし、取り出すにはもう手遅れだよね。

 スイルベーン内から騒ぎを聞いて駆けつけた多くのシルフは、そして中立域にてグラントの思惑に気付いたのか彼の背後から彼を追って来ていた数名のシルフは……この言葉を聞いていよいよ、「このロングヘアー男は一体何を仕出かそうとしているのだろう」的な疑問を、「あ、違う。この男ただのバカだ」という憐憫に変えたのだった。

 

 

 「……その盾だけは例外のようだが、その身体に纏う装備は完全に初期装備そのものだ。

 恐らく近日新しく始めた勝手を知らないニュービーのだろうが、だからといって領地に侵攻して来たサラマンダーを見逃す訳にはいかない」

 

 

 そんな中、スイルベーンから出てきた数十人にものぼるプレイヤーの中から、一人の男性プレイヤーがグラントの前へと歩み出た。シルフの平均身長と比べるとやや大柄な体躯を持ち、グラントのそれとは違い背中まで垂れた緑髪を編み込んで纏めているその男は、シルフの最強剣士の名誉をある女性プレイヤーと競う程の腕を持つ、歴戦の戦士だった。

 名を、シグルドという。

 

 

 「へー、ずーいぶんと堂に入ったロールプレイじゃないの。お前の本質は知ってるぜ。一日中ゲームしまくって両親を泣かせた挙句いい歳して稼ぎのないイキリニートってとこだろ」

 

 「イキっ……!?」

 

 

 おいお前、それゲーム内で言っちゃダメなやつだろ。せっかくみんな現実世界から離れてこの妖精世界を楽しんでるというのに。周りのプレイヤーもうわぁ……ってすっごいゲンナリした表情してるよ。せっかく超実力派(笑)シグルドが周りのプレイヤーにリーダーシップを取ろうと偉ぶったのに、グラント一発でノックアウトしてる。

 だがやはり一部、シグルドの傲慢さを快く思っていなかったシルフのプレイヤーは小さく呟いていたりする。

 いいぞ。もっとやれ。

 

 

 「……斬られる覚悟は、出来ているんだろうな」

 

 「へ? 俺が、お前に? イキリニートに?」

 

 「…………総員」

 

 

 どっかの水の女神みたいに人をニート呼ばわりするね。お前そこまで言って自分もそうだったら目も当てられないぞ。

 というか単身敵に突っ込むムーブかましてるお前の方がイキってないか?

 

 

 「総員、突撃!!」

 

 

 仮想世界の表情変化って分かりやすいんです。その目を面白いほどに血走らせたシグルドのその号令と共に、なんか締まるに締まらない雰囲気を持て余しながら……総勢百人近くのシルフがその一人のサラマンダーに、帰ってきた落武者男に攻撃を仕掛けたのだった。

 

 

 

 

 このALOには、ソードスキルがない。

 後にエギルの言ったところによると「どスキル制、プレイヤースキル重視、PK推奨」である。その表現の通り、ゲームシステムの活用よりも、現実世界での運動能力や反射神経の方が強さに繋がりやすい仕様となっているのである。その象徴として、この世界には普通のMMORPGには当たり前に存在するレベルすら採用されていないのだ。経験値は存在してもスキルを育てる事しか出来ず、ヒットポイント等の直接のステータスは一朝一夕では上がらないとか。

 その代わり、この世界には魔法が存在する。プレイヤー間の運動能力差を埋める最大の要因としてそれは活躍するのだが、その種類も種族によって多種多様である。逆に言えば運動が苦手なプレイヤーがこの世界に参入する時は、治癒魔法に優れたウンディーネや、火炎魔法を得手とするサラマンダーのようなPKに対して有利となる種族を選択する事が望ましく、逆に幻惑魔法というあまり対人戦には向かない魔法しか覚えないスプリガンなどの種族にすると少し苦労すると言うのがセオリーのようだ。キリトくん、スプリガンって最強らしいよ(大嘘)。

 

 

 「あっ……やべっ」

 

 

 長ったらしい説明を申し訳ない。先に説明を終わらせて早くストレスフリーになりたかったんすよ。

 でも、それも意味がないわけじゃないんだよ? だって、四方八方から押し寄せるシルフ相手にグラント、早速盾を後ろに引き絞ってるんだもの。それ「スレットフル・ロアー」でしょ。ないんだってソードスキル。

 

 

 「ま、参ったなぁどーしよ……あでででっ!!」

 

 

 慌てて盾を構え直すももう遅い。三百六十度全方位から振り掛かってくる刃の中でも部位的に致命傷になりそうなものを盾で何とかさばきながら、たまらずグラントはその場で大きく跳躍して攻撃を逃れようとする。

 だが、何度も言っているけどここはSAOではなく、剣と魔法の世界、ALOである。空中で一瞬一息ついたグラントの真正面に、ブーメランや矢の形状をした緑色の刃、つまりシルフの真空攻撃魔法が襲い掛かってきているのだった。

 

 

 「おっ……おおお、おおー!!」

 

 

 驚いたグラントはそれでも意地で盾を風の刃と自身の身体の間に割り込ませる。直後に、SAOでは滅多に味わうことの無い独特の爆発のような衝撃が盾を震わせて、次の瞬間グラントはそのノックバックによって街中へとすっ飛んでいった。

 

 

 「ぐぇぇ……なるへそ、これが魔法ってヤーツか……おっと」

 

 

 しかしこれが普通の戦闘ならまだしも、現在グラントはスイルベーンにいる全てのシルフのプレイヤーを敵に回している状況である。のんびりと地面を転がっている場合でもなく、その落武者男は地面に叩きつけられる直前に下に盾を滑り込ませて、まるでスケートボードの様に墜落の衝撃を吸収させながらさらにシルフの集団から距離を取った。

 

 

 「な……!! あいつ、逃げる気か……!!」

 

 「追えっ!! あの侵入者をシルフ領から排除するのだ!!」

 

 

 背後から聞こえるそんなシグルド達の声に肩を竦めながらグラントは街中を全速滑走する。スイルベーンは街並みとして、幾つか乱立する尖塔とそれらを繋ぐ空中回廊を除けば基本的に低層の建造物が多い。その事に移動しながら気付いたその盾男は、勢いの失われた盾から飛び降りて助走を付けると、近くの天井がドーム状の構造をしている建物に跳躍する。

 

 

 「屋根の上を走って逃げるって、定番ながらやってみたかったの……さ!」

 

 

 当然ただ飛ぶだけじゃあ屋根まで飛び移る事はできないので、その円弧を描くドームに辛うじて届いた、両手に持った盾を思い切りぶつけて……それを押し下げる様にして身体を上に持ち上げた。そしてそのまま前方中帰りをするかの様に一回転をして、何とか屋根に降り立つ事に成功したのだった。この男そんなに機動力あったのか。

 まあ何にせよ、これでこちらを追うシルフプレイヤーのと間には高低差が出来た為、彼等による物理攻撃を心配する必要性が無くなったというものである。あとは例の魔法攻撃だけに警戒すれば……。

 

 

 「シグさん、あいつ屋根の上に逃げてますよ!!」

 

 「よし、総員飛行して追い詰めるんだ!!」

 

 「ひ、飛行!? どゆこと……って、でええぇぇぇ!!??」

 

 

 うん、まーた落武者男は見落としていた様である。この世界のプレイヤーはみんな、飛べるんだよね。そこがこのALOというゲームの最大の売りであるわけで。……まあでも、よく見ると中には飛行があまり得意ではないのか、補助コントローラーを使っているプレイヤーもいるのだけれど。

 

 

 「ま、まじっすか……これはまじでバヤいぞだだぁ!!」

 

 

 これには流石にグラントも焦りに焦っている様である。無理もない、下手に相手に三次元的な対応を取らせてしまったが為に、もはやさっきまでの方が良かったと言えるほどに攻撃が激化してしまっているのだ。前から、左右から、背後から、そして上方から襲いかかってくる攻撃を何とか盾で凌ぎ切ったかと思ったら、次の瞬間四方八方から魔法攻撃が空襲の様に降り注いでくる。あのSAOにて鉄壁のガードを誇っていたグラントの防御技術を持ってしても、現在彼のヒットポイントは既にイエローゾーンの域まで減少していたのである。

 

 

 「うっひゃぁぁ……ぶ、武器攻撃はともかく、魔法の当たり判定が大き過ぎてガードし切れない……どわっ!!」

 

 

 遂に攻撃のノックバックに体勢を崩してしまったグラントは、その瞬間に斜面となっていた屋根で足を滑らせてしまう。思わずその場ですっ転んでしまい、そのまま傾斜にそってゴロゴロと転がって路地に落っこちてしまったのだ。いくら低い建物が多いとはいえ、落下してみればそれはそれは怖いもので、しかも回転しながらとなれば情けない叫び声の一つや二つは上がってしまうのである。今度は盾で衝撃を殺せずに盛大に尻餅を付いてしまったグラントが、若干回ってしまった目を瞑って何度か頭を振った、その時。

 

 

 「やった! 敵が裏路地に落っこちましたよ!」

 

 「シグさん、俺が魔法で仕留めます!!」

 

 

 しまった、と盾男が顔を上げた時にはもう遅い。既に一人のシルフプレイヤーから放たれていた魔法が、彼の眼前にまで迫っていた。

 

 

 (ちきしょー……魔法を撃たれるとダメージを殺し切れないんだよな……なんかちがう……)

 

 

 実はグラントは先程から、敵のプレイヤーから放たれる魔法を完全に防御し切れない事に焦れていたのである。

 ALOでの盾の仕様はどうやらSAOのものとほぼ同じらしく、例によって基部防御による耐久値減少無効化などの技術は相変わらず適用されるのだが、如何せんSAOにはALOの魔法の様に広範囲に当たり判定の存在する単発攻撃はほぼ存在しないのだ。相手のソードスキルという「点」の攻撃を基部という「点」で防御する事は出来ても、魔法の様な「面」の攻撃を「点」で防御する事ははっきり言って不可能であり、それをどの様に盾に受けても貫通ダメージが発生してしまうのである。

 故にこの時、グラントはやけっぱちに左手の盾を身体の内側から外側に思いっきり振った。下手に精密なことを考えても駄目だと思った瞬間、身体が降りかかってくる魔法を除けようと自然に動いたのである。

 その時だった。

 

 

 (あれ……? お…よっよ、よ??)

 

 

 魔法が強引に振り払われた盾に直撃……いや、それが、どうやら直撃ではなかったのだ。まるで左にスライドする盾に多段ヒットするかの様な衝撃が、グラントに伝わってくる。加えてヒットポイントバーの減少も、先程までと比べて段違いに少ない。

 

 

 (……もしや)

 

 

 グラントの目に光が戻る。彼はすぐに立ち上がって、路地道から大通りに抜け出す為に一目散に駆け出した。だが相手はスイルベーンを拠点にする、この街を知り尽くしたプレイヤー達である。すぐに道の先に新たな一人のシルフが回り込み、こちらのヒットポイントを削り切る為に魔法の詠唱を始めたのだった。

 だが今度はグラントも何かしらの勝算があるのか、落ち着いて前に向かって盾を構えた。

 

 

 (……もし俺の今の考えが合ってれば、剣だけじゃなくて)

 

 

 直後、詠唱を終えたシルフが、先程彼が受けたものと同じ、真空攻撃魔法を放ってきた!

 

 

 (……魔法も、防御出来るハズ!)

 

 

 それまでのグラントは、いわばスナイパーの様に精密に相手の攻撃と自身の防御との接触面を調整していたので、盾を大きく振る事は比較的少なかったと言える。そんなことをしてしまえば手元がブレてダメージが貫通する恐れがあったからだ。

 だが今回、グラントはフルオート銃でランガンするように盾を、先程と同じように右から左に振った。だが今度はヤケになってではなく、まるで目の前に迫る光矢を撫でるように感覚を集中させて。

 

 

 「……これで、どうだぁぁっ!!」

 

 

 

 

 その瞬間、魔法を放ったシルフの背後に追いついたシグルドは、目の前で起こったそれを、すぐに現実のものと認識する事は出来なかった。

 仕方のない事である。彼がグラントのプレイングを見るのはこれが初めて……彼が如何に妙な事を思いつく事だけは天才的であるかなどという事を、今まで知る由もなかったのだから。

 

 

 「まほ♥かんた、なんつって」

 

 

 その声は現在……胸に赤いライトエフェクトという風穴の空いたシグルド達二人の頭上を、悠々と飛び越えたグラントによって呟かれたものである。

 説明しよう。後のキリトが言ったところによると、どうやらALOの魔法はその大部分がエフェクトである一方、その中心に一ビットだけ実体が存在する。そして後のグラントが言ったところによると、その一ビットの実体は対象に着弾した瞬間にその場を荒ぶるように動き回り、それにプレイヤーが触れる事で「多段」ダメージが発生するのである。

 つまり、魔法攻撃は「面」ではない。着弾と同時に発生する微小時間での「点」の連撃が、その攻撃範囲を広めているのだ。

 

 

 (そこまで分かればあとは簡単。実体がどーゆーふーに動くか、さっきので何となくは分かったから、あとはそれを盾の中心で辿るようにして防いで。

 あとは魔法が実体持ちなんだったら……パリィで跳ね返せるよね)

 

 

 とはいえ着弾の瞬間においてその一ビットの魔法の本体は、後のキリトの「魔法破壊(スペルブラスト)」の様に存在そのものを破壊でもされない限りは、対象に多段ダメージを与える挙動をする事を最優先事項としてプログラムされている様なのである。なので魔法による「点」の連撃を防ぎ切った、その瞬間を狙ってパリィを敢行すれば……その瞬間に逆方向にベクトルを与えられた魔法はまるで盾から反射するかの様に詠唱者へと跳ね返ってゆく。……勿論そんなことまで今のグラントは分かっちゃいなかったけど、そこはなんとなく雰囲気で察したのだろう。

 かくして、ALOにおいてもグラントのシールドアートが早速炸裂である。彼が跳ね返した魔法は、その詠唱を行ったシルフのプレイヤーと彼の背後にいたシグルドを纏めて貫き、そんな二人を盾男が飛び越えた後に、その風の刃が辺りに小爆発を引き起こしたのだった。

 うわぁ、魔法って怖え。グラントは思った。剣とかでぶった斬られるのもたまったものではないけど、相手がボスエネミーでもないのにいつも爆死する危険性を考えないといけないなんて。いや待て、シグルド達死んでないぞ。

 

 

 「ま、魔法を、跳ね返した……!?」

 

 「お、驚いている場合か! その道の先は―――っ!!」

 

 

 しかし、何はともあれ、だ。そのモブシルフ君達が気づいた様に、その裏路地から飛び出したグラントは、目の前に広がる景色に心の中でガッツポーズを取る。背後には「風の塔」と呼ばれるスイルベーン中央の翡翠色の尖塔が存在し、現在その裏手に出た形になったグラントの視界に、おそらくスイルベーンで最も美しい外観を持つ三階建ての建物……つまりはシルフ領主館が飛び出してきたのである。

 その周囲は深い水堀で囲まれており、北と南にある二本の橋だけで街の道路と繋がっている。そしてそれぞれの橋のたもとには二人のNPCガーディアンが、そして水堀の中には謎の水棲型モンスターが存在するらしく、また領主館の敷地内では、出入りの許可を得ていないプレイヤーは飛行能力を失う結界が張られている為に部外者は立ち入りすら認められない。正に難攻不落の要塞である。

 だがグラントがサラマンダーでありながら敵対関係のシルフの都市に特攻したのは、実はこの領主館に用があったからである。せっかくここまでやって来れたのだから、何とかして侵入をしたいものだと、彼はそのまま直径にして百メートル以上はありそうな円形道路を領主館目掛けて一直線に突っ切ろうとして。

 そして、そこに仁王立ちになって剣を構える、一人の妖精に気付いて……立ち止まった。

 

 

 「……シルフのみんなを相手にして、シグルドまでやっつけちゃうなんて。

 ニュービーなのかベテランなのか知らないけど、随分目立ちたがりみたいだね」

 

 

 シルフの少女にしては少しばかり骨太の体に、眉も目もきりっとした作り。長い金髪を纏め上げたポニーテールが月光に光り、その佇まいからは可憐さだけではない、剣士としての凛とした気迫が伝わってくる。

 

 

 「でも、それもここで終わり。

 ここから先はあたしが通さないんだから!」

 

 

 彼女の名を、リーファといった。

 シグルドとシルフ最強剣士の称号を争うもう一人のプレイヤーその人にして、あのSAOをクリアに導いたキリト……リアルでの名を桐ヶ谷和人の妹、桐ヶ谷直葉である。

 

 

 「……金剛の構え」

 

 

 その場に漸く追いついた他のシルフプレイヤーが、二人の対峙を見て、しかし横槍を入れずに離れて成り行きを見守る。それはこのリーファという少女剣士が一対一の勝負を邪魔されるのを嫌っているという事が、シルフの誰もが知っている事実として浸透している事を意味しているのだが……対してグラントはそんな野次馬どもを見回してため息をつくと、肩を竦めて目の前の少女の剣の構えを看破する。

 

 

 「……へぇ。ちょっとは剣が分かるんだ。そんな事指摘されたの、初めてだよ」

 

 「そりゃどうも。剣道の心得があるってなら、このALOじゃそれなりに強いプレイヤーなんだろうね。……けどさ」

 

 

 そして、グラントも閉じていた目を開く。その時の彼の表情を、後のリーファはまるで「懐かしい旧友に再会したときの様な表情」と語る。

 

 

 「こっちもそれなりに鍛えられてるんだよね。……なんせ長いこと、モノホンの剣士の剣術を見てきてんだからな!」

 

 

 一瞬グラントの脳裏に、あの黒髪に深紫の瞳と剣を持つ剣士の姿がフラッシュバックする。その短い感傷に口をニヤリと歪ませながら、その盾を大きく掲げる。

 

 

 金剛山が大地に直立して不動であるかの様に、刀を体の正中線に立てる。この構えをしているうちは相手のあらゆる技を簡単に防げるって訳。今の剣道じゃあもう使われることのなくなった剣術だけど、一部の流派じゃあ武道の教養として教え込む場合もあるらしいな。

 

 

 (良いこと教えてくれたよね……ハルくん)

 

 

 だからこそ、グラントは動かない。向こうが山の構えなら、こちらも無闇に突っ込む事をせず、ただその均衡が崩れるのを待つ。

 

 

 「…………っ!!」

 

 

 それは突然のことだった。リーファはまるで夜の帳に溶け込む様に静かに、しかし燦々と燃やした闘志を纏った小手面を打ち出していた。それはリアルの彼女の剣道における得意技であり―――。

 

 

 「……っな……!!」

 

 

 しかし、シルフの中でも五指に入る剣のスピードの持ち主と呼ばれたリーファの剣は、しかし意外な形で防がれる事となった。

 

 

 「畳返しーって、こんな感じなのかなぁ。いやー違うか」

 

 

 どうやらグラントは、少なくともリーファか「小手」を狙うだろうという所までは読み切っていた様である。それを見越して彼は盾を剣が接触する瞬間に……「畳返し」の言葉通りその表裏をひっくり返して、その剣先を盾の裏に存在する腕を通す為の取手で挟み込んだのである。

 

 

 「相手が同じ土俵に乗ってくれると思ったら……大間違いだぜ!」

 

 

 いや、どっちかというとお前が空気読めよ。まあ剣持ってないし仕方ないけどさ。

 ともかく間髪入れずに剣を封じた盾ごとその場でグラントは蹴り上げる。それにつられて自身の剣が宙を舞ったことに驚きながらも、しかしそこはさすが古参プレイヤー、リーファは落ち着いて背中の羽根を使って飛び上がり、空中で愛剣の柄を握ると盾から引き抜く。その時の反動で盾は彼女の後方に向かって大きく飛ばされていき……。

 

 

 「……っ!? しまっ……!!」

 

 

 そして、リーファは正面にいるはずだったその男が、彼女が宙に浮いた瞬間にその下を走り抜けていた事に気付いたのだった。

 初めからグラントは彼女と勝負の決着をつける気は無かったのである。そりゃそうだよね。相棒の手解きを受けて剣道系の相手に耐性のあるグラントと、純粋にプレイヤースキルが非常に高いリーファがまともに戦えば、その勝負は総力戦かつ消耗戦になるだろう。そんな事になったら例え彼女に勝ったとしても、領主館に辿り着くはおろかその後疲れ切った所を周りのシルフプレイヤーに袋叩きにされてしまう。え? それはそれで悪くない?

 

 

 (よっしゃ! あとは、どうやって領主館に忍び込むかだ!)

 

 

 グラントはリーファによって飛ばされた盾を野球のフライボールキャッチの要領で回収すると、思考をフル回転させて考える。目の前の橋のそばにいるNPCガーディアンに勝負を仕掛けるといううのは、SAOにて衛兵NPCにちょっかいを仕掛けた際に見舞われた惨事を考えるとちょっと気が引ける。かと言って「領主館」の敷地は水堀の外まで含まれており、その堀を飛んで越えることは不可能である。当然その堀もただのジャンプでは届かないほどの幅を誇っているだろうし、万が一堀の中に落っこちてしまったものなら水棲型トンデモモンスターに喰われるのがオチである……。

 ん? 待てよ? 食われるって事は、攻撃を受けるって事だよな?

 

 

 「こ、こらー!! あたしを置いてくなー!!」

 

 「オレだけでなく、リーファからも逃げおおせるとは……」

 

 

 勝手に勝負を放棄された事に怒るリーファと、彼女に追い付いて長い息を吐き、苛立ちから一周回って呆れた様な声を上げるシグルド。だが二人とその他大勢のシルフプレイヤーの前で、グラントは最後のおバカプレーを敢行しようとしていた。

 

 

 「やるっきゃねー! アイキャンフラァァァイ!!」

 

 

 何とグラント、橋のNPCガーディアンを刺激せずに、脇から堀に向かって全力ジャンプをしたのである。先程も言った様にその堀の水路の中にはトンデモエネミーが潜んでいるというのに。

 かくして、ロングヘアーが宙を舞って目も当てられない事になっているグラントの真下から……そいつは現れた。夜の闇に紛れて詳しい全貌は掴めなかったが、巨大なジンベエサメのような体躯のモンスターが、空中のグラントを丸呑みさんとばかりに水面から飛び出してきた。

 だが、それに対してその落武者男は……身体を前に傾けて地面に向き合うような姿勢を取ると、目の前に盾を持ってきて、そのままその巨大水棲モンスターにボディプレスをするかのように体当たりしたのだ。

 

 

 「うわぁぁ……勇気いるね……」

 

 

 リーファは先の怒りを一瞬忘れた。グラントのあまりにあんまりな暴挙に、虚を突かれたかのように間延びした表情を見せる。だがそれも、次の瞬間には驚愕の表情に変わっていた。

 なぜなら、その水棲モンスターの攻撃をガードした事で受けた多大なノックバックを利用したグラントは、目の前の三階建ての建物の、きっちり三階……しかも中央部、領主部屋の窓の前まで飛び上がっていたのだから。

 そう、羽根による滑空による外的侵入は結界によって妨げられていても、純粋な跳躍によるそれは結界を作動させる条件に入っていないのである。

 

 

 「……お前、何者だ」

 

 「あんた、何者なの」

 

 

 後はその窓を蹴破れば、シルフの領主に手が届いてしまう。そんな男の名を……たった一人でスイルベーンを掻き回し大立ち回りを演じ、街のプレイヤー達の猛攻を反撃こそ殆どせずとも、全て凌ぎ切ってしまったその男の名を……シルフが誇る二大プレイヤーが問いかける。

 すると、それが微かに聞こえていたのか……空中で右足を大きく振りかぶったその落武者男が、音に聞けと言わんばかりの大声で……ついにその名乗りを挙げたのだった。

 先に言っとくけど、ツッコミはしないよ。もう手遅れだし。完全勝利UC流してあげよっか。

 

 

 「俺はグラント!! どっかの世界じゃ皇帝やってた、最っっ高にイケてる盾使いだぜぇぇぇ!!!」

 

 

 ……そして、その窓を蹴破った。

 NPCガーディアンとか今再び堀の水路に潜って行った巨大モンスターとか、どうもこの領主館はシステム的に手厚く保護されているきらいがあるのだが、どうやらその窓まで破壊不能オブジェクトになっている訳ではなかったらしい。まるでガラスが割れるような甲高い音と、それらが光の粒子となって消滅する際のサウンドエフェクトが合わさって少々耳に痛い音が辺りに響き渡る。だがそれに構わずグラントはそこから領主館の……その中枢たる領主部屋に足から突っ込んだ。本日何度目かも分からない空中からの落下に遂に手から盾を放り出してしまい、グラントは再び強かに背中を部屋の床に強打しつつ何度も跳ね回って、しまいには館内の回廊側の壁に干からびたカエルのようになって激突する。

 

 

 「……ぐえぇぇぇぇ……」

 

 

 ただでさえイエローゲージまで減少していたヒットポイントバーである。先ほどの水棲モンスターの一撃は例によって基部防御で無効化したっぽいけど、その後の部屋でののたうち回りがいちいちダメージ換算されたらしく、今や後ほんの数ビットで全損というところまでグラントの体力は減少していた。

 だが、そんな弱り切ったプレイヤーとはいえ、彼はあくまで多種族の領地に、しかもこんな機密性の高い場所にまで土足で踏み込んだ侵入者である。そんな彼にこのシルフの「領主」様も情けをかける訳もなく。

 

 

 「……さて。何から聞き出すのが一番いいんだろうね。

 こんな事をしでかしたんだ。どんな誹りを受けても、文句を言える立場ではない事は……分かっているかい?」

 

 

 現シルフ領主、サクヤ。

 蓬色の和服に身を包んだその女領主は、力なく部屋の床で横たわる落武者男の喉に、月光に艶めく太刀を突きつけていた……。

 

 

 

 

 

 

 




 
魔法破壊(スペルブラスト)……かなり後にキリトが考案し実践したシステム外スキル。新生ALOにて実装されたソードスキルが属性を持っている事を利用し、魔法に存在する一ビットの実体を相反する属性を持ったソードスキルで切り裂く事によって相殺させるというもの。



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