SAO (シールドアート・オンライン)   作:ニモ船長

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マソップ「問題です! ALO内でシルフの美女って言ったら、誰でしょう?」

グラント「おっ! リーファちゃんいよいよ登場かー!?」



マソップ「正解はCMの後で」



第五話 そんな装備で大丈夫か?

 「しっかし、サク姐も随分待たせてくれたもんだぜ……お正月だから仕方ないけどさぁ。

 シルフ領主館に突っ込んだあの日から一週間以上も、スイルベーンで待たされて周りから晒し者にされたこっちの身にもなって欲しいっす……」

 

 「まあまあ旦那、そう怒んなさんなって。それだけ待った甲斐あって、こーんな美少女がガイド役で付いて来る事になったんじゃーん。むしろ領主様に感謝しろって、な?」

 

 

 2025年、1月11日。

 あの大晦日にてやらかした大立ち回りによって、グラントは晴れてサクヤのバックアップを受けて世界樹へと向かう事になったのだが、実際の出立はそれから一週間以上にもわたって延期されたのだった。無理もない、この時期は所謂お正月であり、いくら領主と言えどもプレイヤーそれぞれのリアルでの都合を無視してまで、こんな落武者男ごときの護衛命令を言い渡せやしないのだ。というかそんな事で文句言ってるグラント大丈夫か。初詣行ったのか?

 

 

 「行ったわ! ついでに近所のガキに羽子板でサバゲ―吹っ掛けられたから、全部ジャストガードしてやったわ!」

 

 

 うわあ、大人気ねぇ。いや待てよ、ガードって事はやり返してないのか。偉い。でも負けてはやらないらしい。

 そして新年の夜が明けて十日が経った昨日。晴れて正式にサクヤ直々の要請を受けてグラントのもとに馳せ参じ、以後今の今まで行動を共にしているのが……現在グラントの隣で、その雄大な世界樹を見上げているシルフの少女だったのだ。

 彼女の名前は、フカ次郎。シルフ内ではそれなりに名の知れた美女兼実力者で、今回は自身の所属するギルドを一時離脱してこの落武者男に付き合う羽目になっている模様である。

 ところでグレネードランチャーって、いいよね。ALOにもあればいいのに。え? 何の話かって?

 

 

 「まあ、フカ嬢のお陰で特にいざこざに巻き込まれる事なくここまでこれたし、結果オーライってかー」

 

 「そうそう、私くらいになれば、大体どの地域をどの種族がテリトリーにしてるかが大体分かるんだぜー?

 ま、まだまだニュービーの旦那もちょちょいーっとこのフカ次郎の手ほどきを受ければ、すぐに分かるようになると思う、さっ」

 

 

 もうアルンまで来ちゃってるんですが。いつレクチャーするんだよ。

 グラントとフカ次郎は、さっきから言っている通り既に目的地……世界樹の麓にまで到達していた。そこにはアルヴヘイムの中心にして、世界最大の都市、アルンが広がっている。

 そこは積層状で古代遺跡めいた、スイルベーンとはまた違った神秘性を湛えた街だった。現在は昼だが、これが夜になると篝火や鉱物灯、魔法の光が色とりどりに輝いて、まるで星屑を巻いたような現実離れした光景を現出させるのだ。そこはまさにこのALOにて、最終目標であるグラントクエストに挑むための最前線の街として相応しい荘厳さが備わっていて、またそこを行き交うプレイヤー達も、シルフ領でこれまで目にした安全地域とは違って実に多種多様な種族が入り混じっていた。

 

 

 「うっわあ……それにしても随分とまた、ここには人がいるんですねぇ……なんかこのゲームの特性的に、みんな自分の種族の領地で大人しくしてるのかと思ったけど」

 

 「んま、どっかの旦那みたいにレネゲイドされてなくても、ここまで出てきて他種族のプレイヤーとイチャコラしたいなーって輩もたくさんいるのさ。

 ま、でも結局はそんな感じで浮足立ってる奴とねんごろになっても、長続きしないのがオチってもんだぜ。この前も」

 

 

 「……この前も?」

 

 

 「…………」

 

 

 「……この前も?」

 

 

 「……旦那はグラントクエストを受けるためにここに来たんだったかー? とりま、まずは世界樹の真下まで歩ってみるかー」

 

 「……この前も?」

 

 「百合は美しいよね」

 

 

 あー。グラントは察した。アルンでの逢引き経験、あるんだなこのオナゴ。それで何だかんだあって最後にはその彼氏にフラれたと。あれだ、ルックスと社交性には優れているのに、どういう訳か男に恵まれない系女子だ。可哀想フカ次郎。

 

 

 「ねーねー、そういう旦那はどうなのよ? カノジョさんとかいらっしゃるー? まあ、スイルベーンであんな事やってるくらいだし大体は察するけどな!」

 

 「なら言わんでよろしい。大体始めてから一か月も経たないのにそんな関係築けませんー……築けそうな黒んぼ野郎の事なら知ってるけど」

 

 「えー、なら別ゲーの知り合いを引っ張ってくりゃいーじゃーん。何か雰囲気的に旦那、これが初MMOじゃあないんだろ?」

 

 

 まあ、初めてにしては色々と手慣れ過ぎてるよね。色々と。しょっぱなからレネゲイドされたり、初々しさのかけらもないし。

 ただ、フカ次郎の最後の言葉を聞いて、グラントは少しだけ考えた。彼は帰還後すぐマソップに、SAO終了後に散り散りになってしまったグラント帝国のメンバーの所在を探るよう頼んでいて、その成果もあって現在トミィが原因不明の昏睡状態に陥っているという情報を掴んだわけだが。

 だが、実際のグラントとマソップ以外の三人の居住先は……いや、それどころかその入院先ですら、個人情報として基本的に秘匿扱いなのだ。彼らの容態が判別したのも、ひとえに神代博士の知り合いの総務省の役員からの温情措置によるものであり、実際に三人と再会できる日はSAOのオフ会でもない限りは、まだまだ遠そうなのである。

 みんなの居場所が分かればなあ。グラントは思う。あんな事があった後だから強要はしないけど、もしかしたらまた五人でバカやれるかもしれないのに。

 ……少なくとも、彼女だけはこの仮想世界に、きっと帰って来てくれるだろうに。

 

 

 「おー? おー?? どうやら訳アリだな、旦那。もしや忘れられない女でもいるんじゃねーのか?」

 

 「……微妙に合ってるような合ってないような事を言われて反応に困るんですが。女友達も男友達もそりゃいるけど、みんな連絡付かないからなぁ」

 

 「……ほんとーに、カノジョさんが、いた……だと……!?」

 

 「いや違うから。カノジョじゃないから。その恋愛脳どうにかしないとダメ女丸出しだぜ?」

 

 「むぐぐ。バッサリ切るじゃないか」

 

 

 ひどい。グラント自重しろ。お前人の事言えないダメ男だろ。

 

 

 「なんだよ、そこまでつっぱねる事ないじゃないか……あ、さては、何かやましい事でもあるんだな? おねぇさんには分かっちゃうぞー?

 そうだねー、例えば、結婚システムのあるMMOで、結婚してたとか」

 

 

 ずきっ。

 

 

 「シ、シラナイナー………ナンノコトカナー」

 

 「およっ!? まじですか! そうか貴様逆にリア充か!」

 

 「…………勘のいいガキは嫌いだよ」

 

 

 いや、違うんだ。グラントの動揺はなんつーか、フカ次郎の指摘が図星だったからではなく、結婚の理由があまりにあんまりだったからで。というかどんどん自分の情報が剥がされている現状に、グラントは少しずつ焦りを覚え始めていた。

 

 

 (いや……そりゃあさ。はじまりの街の一件が何とかなってからはハルくん………随分可愛くなったと思うけど。

 だからってそんな、ラノベじゃあるまいし)

 

 

 一応ラノベの二次創作です。すんません。

 それはともかく、要はグラント、今までアスナさんとかリズベットさん辺りの女性陣に嫌われ過ぎて、自分が女性から恋愛程ではなくても何かしらの好意を向けられるっていうイメージが湧いてないんだよね。あれだけキチガイムーブかましておいて、清々しいほどの奥手である。

 でも、あれ。グラントは少し、気になった。あの茅場もどきと戦っている時、確かに俺はハルくんに前触れもなく結婚を申し込むという外道っぷりを発揮したけど、あれ他の女性プレイヤーなら同じようにやれただろうか。アーちゃん相手だったら絶対無理だっただろうし、リズ姐さんでも正直辛いかもしれない。シリカチュワァァンならまあ……何とかなりそうだけど、それはそれでそもそも問題点がズレてる気がするぞ。

 

 

 「んー? んんー??」

 

 「……旦那? グラさん? だいじょぶ?」

 

 

 つまりなんだ、そもそもあの全アイテムオブジェクト化元☆気☆珠作戦は、ハルくんと共闘していなければ無理だったって事か? ……いやいやいや、それは今更確認するまでもない、あの世界じゃあハルくん程息を合わせられるパートナーなんていなかったに決まってる。例えくろすけキリトだったとしてもだ。

 あれ? じゃあ今俺は、何に違和感を抱いてるんだっけ?

 

 

 「あ…………あばばばばばばばあば」

 

 「ちょっ!? 旦那、一旦落ち着いて!! えいっ、とうっ!!」

 

 

 やっぱダメだこの男、ハルくんみたいにちゃんと気持ちの整理が出来ると思ったら大間違いだった。その場で分かり易くひっくり返りそうになるその落武者男に、フカ次郎が仰天して思わずその背中を全力で叩く。めっちゃ痛そう。

 

 

 

 「約束の時間から遅れてずいぶん経つと思って来てみたら、パイセン何してんだぜ?」

 

 

 

 だが、大通りのど真ん中で迷惑も考えずにわちゃつく二人に、そのねっとりした声が掛けられて。聞き覚えのある声に、頭がオーバーフローしていたグラントが我に返って、その通りの先の十字路に立つ一人のプレイヤー……小柄な体躯のケットシーで、何故か武器は持っておらず両手を腰に当てて仁王立ちをしているその少女を見て。

 

 

 「……ごめんねマソップ嬢。ちょっとこの美女に襲われてた」

 

 「そうかお前が変態か」

 

 「あちゃー、勘違いされちゃったぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「んじゃあ、このカワイコケットシーちゃんが、旦那のカノジョさんですかい?」

 

 「フカ嬢、このマソップ嬢は百合も薔薇もイケる口だぜ」

 

 「フヒッ」

 

 

 若干キャラが被っている気がするフカ次郎とマソップ。まあフカの方がまともなのは間違いないよね。流石に鎖骨prprしないだろうし。

 という訳で、マソップもALOに参戦である。流石に付きっ切りではないとはいえ、グラント/玄太郎はALO内での進捗状況を神代博士と共有している為、いよいよグランドクエストに彼が挑むという事でマソップが加勢に進んで申し出たのだった。

 因みに、ALOでのサポートAIの役割を持つナビゲーションピクシーとしてではなく、ちゃんと一つのアカウントを作成してログインするプレイヤーとして、である。

 

 

 「それにしても、マソップ嬢はケットシーかあ。なんか猫っぽいし、身軽な種族なんじゃないの?

 ……で、なんでメイジなのさ」

 

 

 いや、別にいいんだよメイジでも? 実際ケットシーで魔法を覚えているプレイヤーは数多いのだから。ただ、仮にも神代博士のパーソナルAIで効率重視思考(だと思われる)のマソップが、ケットシーの身体能力を殺すビルドを選ぶものだろうか。現在マソップは通常のケットシーが身に纏うような肌の露出多い系装備ではなく、どっかの銀河皇帝が着ているような全身ローブを羽織っていて、まるで身体の輪郭が見えないのである。

 

 

 「ぐぶぐぶぐぶ、どうせワイは動くのがメンドいから格闘戦はやらないのだぜ。その時点でスプリガンやインプみたいな索敵、隠密系の魔法を覚える種族でもなければ、どれを選んだって大して変わらないのさー」

 

 「うわー……弱小種族を切り捨てるエグい分析力ですねぇ」

 

 「はえー、マソップちゃんはすごいんだねー」

 

 

 まあ、あれだけSAOでヒッキーだったんだから今更剣をぶん回したりはしないよね。だからメイジか。

 あれ、でもケットシーって、ビーストテイムが出来る代わりに、得意魔法とかもなくて魔法関連はそこまで充実してないはずなんだけど。

 

 

 「ま、それにどうせパイセンは盾スタイルだろうと思ってたのでな。ビルドの差別化的にもこういう方がいいだろ常考。何せ、今度のは支援が重要になって来そうだからな」

 

 

 そう言って、マソップが立ち止まった先には、幅の広い石段で構成された大きな階段がある。そしてその先では、一つの都市の飲み込むほどに大きい円錐形をなすアルンの表面をはい回る世界樹の根が寄り集まって一つの巨大な幹を形成しており。

 そして……そのど真ん中に、妖精の騎士を象った二体の石像に両脇を囲まれた、華麗な装飾の施された大きな石扉があったのだった。

 

 

 「さて、作戦会議と行こうじゃないか」

 

 

 マソップのその言葉に、グラントもフカ次郎もにやりと口角を上げて、頷いた。

 

 

 「えっと、フカ嬢。グランドクエストってのは、この目の前にある石扉を潜って、世界樹の内部をくり抜いたように存在するドームを上に上に飛んでいく、って事でいいんだよね?」

 

 「おうともさ! ただ行く手をとんでもねーかずのガーディアンが阻むから、結局皆殺しになるのがオチってもんよ!」

 

 「軽いノリで皆殺しにされててワロタ」

 

 

 このアルヴヘイム・オンラインにおける妖精たちの最終目的は、世界樹の頂点に存在する空中都市に到達し、そこに住まう妖精の王「オベイロン」と謁見する事で光の種族「アルフ」に転生する事だとされている。

 そのアルフという十種類目の種族は、自由に飛べつつも滞空制限のあるALO内にてその制約から解放されるという極めて夢のある特典が備わっており、それを求めて九種族が我先にと勢力を拡大させるべく奮闘している、というのが現状である。

 その空中都市のどのようにして向かうのか、という疑問の答えが、先のグラント達の会話である。世界樹の内部の筒状のドームを飛行して上へ上へと登り、行手を阻むガーディアンを退けて頂点を目指す……。

 

 

 「ま、メインは俺だね。正直この三人じゃあ一番バランスが良いのはフカ嬢だけど……フカ嬢、先陣切りたい?」

 

 「じ、じゃー私はこれで」

 

 「逃げるな無駄美人め」

 

 

 さっきまで元グラント帝国の二人と一緒に何かしでかそうぜ的なノリを醸していた筈のフカ次郎が全力手の平返しである。もちろんそれを逃がすグラントではない、事もあろうかシルフ美女の首根っこを引っ掴んで彼女を連れ戻した。自重しろ落武者男。

 

 

 「という訳で、仕方ぬーから俺が基本的に先行するから、二人でサポートお願いっす。……まあ正直かなりの長丁場になりそうだから、今の内にトイレ行きたい人は行っておいた方が」

 

 「はいはーい、質問です」

 

 「お、どしたフカ嬢」

 

 

 びょんびょーんと、容姿端麗な美女らしからぬ幼稚さ全開で跳ねたフカ次郎がグラントに異議を申し立てる。

 

 

 「一人のプレイヤーが行くってなると、そいつの滞空時間がグランドクエストの制限時間そのものになるだろ? だからどんなに時間が伸びても、長丁場ってほどにはならないんじゃないのかい?」

 

 「あー……うん、まあ……そうなんですけどね」

 

 「お、パイセンどした。おっおっお?」

 

 

 途端に歯切れが悪くなった盾男に、図に乗ったマソップが問い詰める。確かにそのフカ次郎の指摘は的確である、これが集団なら飛行限界を迎えたプレイヤーを、他のまだ滞空時間に猶予のあるプレイヤーが引っ張って上っていき、その間に初めのプレイヤーが滞空時間を回復するというような集団コンボが出来るというものだが、ソロプレイならそれとも無縁である。

 だがどうやら……次のグラントの言葉から察するに、どうやら事はそれ以前の問題だったようである。

 

 

 「……実は俺、まだ飛べないんすよー。ごめんねフカ嬢、あれだけコントローラー使うなって言われたけど、実は今日までこっそり使ってましたっ! テペペロっ!」

 

 「んどりゃああああああっ!! しばかれたいのかオラァァァァァッ!!!」

 

 

 随意飛行を完全習得するまでの時間は、当人のセンスによっては個人差がある。

 というのも、背中から生える羽根というのは本来の人間が持ち合わせていない部位であり、それを自在に動かす為には一からその感覚を学ぶ必要があるのだ。要は自転車に乗れる様になるまでの期間が人それぞれであるのと同じ様なもので、後のキリトはこの随意飛行をマスターするのに一時間と掛からなかったそう。

 対してグラント、未だに飛行は苦手な様である。出来るだけ早く慣れる様に飛行を補助するコントローラーは使うなと、スイルベーンを出た直後からフカ次郎に再三注意されてたらしいのだが……どうやらこのバカヤローは結局その言いつけを守らなかったらしい。

 

 

 「と、言うわけで、なるべく飛行はしないでいこうと思うんですよー。だから滞空時間に関しては殆ど考えなくて良くて。その代わり、凄くじわじわ登ってくことになりそうだけど」

 

 「ひ、飛行しないでどうやって登るんだよ」

 

 「さてはパイセン……ゴリ押しだな?」

 

 「そ。まずはゴリ押しだね」

 

 

 どうやらグラントの行動は付き合いの長いマソップには想定済みの様である。それを彼自身も分かっている様で、ウンウン頷くと……ついにその盾男は、目の前の大きな石扉に向かって歩き始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そーゆーわけだから、とりあえずフカ嬢は援護、遊撃担当で。でも死なれちゃうと蘇生手段とか持ってないし、いのちだいじによろしく。

 じゃあ、まず手始めに。合図したら、俺に向かって真空魔法撃ってくれる?」

 

 「へ? へ??」

 

 

 左右に立地する石像から送られてきた、グランドクエスト挑戦の最終確認メッセージを受諾すると、あのSAOでのフロアボス部屋を思わせる重厚な音を立てて石扉が開く。その中に入って開口一番にグラントがそう指示したものだから、フカ次郎は顔を引きつらせて戸惑ったのだ。

 

 

 「い、いやだからどうやって上に行くつもりなん、旦那……?」

 

 

 グラントは遥か頭上に広がる、ドームの頂点を見やる。そこにはこれまた巨大な円形のゲートがあった。四分割された石板が十字に組み合わさり、中央を閉ざしている。あの場まで登っていけたら、その先には誰もが目指す空中都市が……。

 

 

 (……そんなものあったら、それはそれで問題なんじゃないかとも思うけど)

 

 

 二刀流とかレジェンダリーウェポンとか、やたら唯一性の高い存在のせいで忘れつつあるけど、ここはMMORPGの世界である。誰か一人のプレイヤーにあんまりユニーク性を付随させてしまえばそれは他プレイヤーの士気を削いでしまう為、この手のゲームではある種禁忌の要素なのだ。一部例外はあるにしても、原則として全てのプレイヤーが全ての能力を努力次第で手に入れられる事……それがオンラインゲームの暗黙の了解である。

 そんな中で、一種族が無限の飛行手段を得てしまったら、このアルヴヘイム・オンラインはどうなるだろうか。下方修正でも為されない限りはその優位性を崩す事は極めて困難な上に、そんな現状を知った今後の新規プレイヤーは迷わずアルフを選ぶだろう……そんな事になってしまっては種族間の人口差や勢力差が修復不能な程に崩れて、ゲームとして破綻してしまうのではないか。

 そう考えると、レネゲイドされたアウトロー達のみがアルフへの転生切符を手にすることが出来るという説も、転生特典がレネゲイド本来のペナルティと相殺されることも相まって、意外と現実味が増してくるのではないだろうか……しかしその実際の真実は、まるでそんな推測からはかけ離れたものなんだけど。

 

 

 (ま、でもどの道好都合だ。多分今の俺にとって、この上に行くことが一番……運営側の動向を探るのに最適な手段だろうし、その後も好きに飛び回ることが出来るなら調査に役立つよね。まだ上手く飛べないけど)

 

 

 盾を背中から外して左手に構え、右足を半歩引く。まだ頭上に敵の姿はない。今のうちに大きく飛距離を伸ばしておくべきだ。

 

 

 「おーい、旦那―? 聞いてるかー? このパターン二回目だそー? 寒いぞー?」

 

 (それに、この問題が解決すれば……みんな、仮想世界に目を向けてくれるかもしれない)

 

 

 横でギャンギャン喚くフカ次郎を他所に、グラントは一つ息を吐いた。

 

 

 (そしたら、またみんなで)

 

 

 あの世界で、グラントが「王」となる事は結局、叶わなかった。指導者と民を失い、世界そのものも終焉を迎え……今では悪魔的なゲームとしてのみその名が知れ渡っているあの世界。

 その生き写しの様なこのアルヴヘイムという世界を、グラントは放って置くことが出来なかったのだ。このゲームなら、現実世界からデスゲームとしか認知されなかったSAOに代わって、多くの人々の心の中に息づくのではないか。

 

 

 (これは、その第一歩だ)

 

 「……パイセン」

 

 

 ついにマソップまでもがフカ次郎を取り残して、グラントに話しかける。お前ら原作キャラクターを蔑ろにし過ぎだぞ。まあフカは外伝キャラだけど。

 だけどまあ、フカの呈していた疑問は、直後のグラントの行動を見てれば分かるだろうから……そんなものか。そんなものか?

 

 

 「そんな装備で、大丈夫か?」

 

 「……大丈夫」

 

 

 それじゃあ、グラントが何しでかすかを見てみようじゃないか。……とは言っても本人も言った通り「ゴリ押し」だから、あんまり目新しいものでもないけど。

 

 

 「問題、ないッ!!」

 

 

 そう言った後、グラントはその場から飛び上がる……事なく、何と筒状のドームの端、頭上のゲートまで伸びる樹の枝が網目のように絡み合った側壁に向かって駆け出したのだ。

 そして、端までやってきたかと思うと、その場で地を蹴って、壁に足をつけて。

 

 

 「え……えええっ!? 旦那忍者か何かかよ!?」

 

 「フカ次郎ネキ、魔法の詠唱をよろ」

 

 「え、ああ、おう……」

 

 

 ウォールラン、である。SAOと同じサーバー、同じプレイヤーの挙動環境だからこそ出来る芸当である。そうして、グラントは出せる最高速度で壁を垂直に駆け上った。

 ただしそれでも、普通に飛行して向かうよりも圧倒的に遅い上昇速度である。それに、前も言いたかったけど、そもそもそのウォールランは壁伝い、つまり水平方向に向かって走るべく編み出されたシステム外スキルである。それを壁を登るように垂直方向に向かってやるものなら、その発動時間も極めて減少するだろう。

 よって、壁を登り出してから十秒と経たないうちに、グラントは自分の足が壁から剥がれ掛けているのを感じた。このままでは勢いを失って真っ逆さまである……だがその落武者男は足が壁から離れるその瞬間に、逆上がりの様に強く壁を蹴って、自身を宙に踊らせて、ドームの中央近くにまで身体を持ってくると……その場で左手の盾を、地面に向けて構える。

 

 

 「今だフカ嬢! 撃てーい!!」

 

 

 「お、おおー!!」

 

 

 丁度良いタイミングで詠唱を終えたフカ次郎が、真空魔法を彼に向かって放つ。それを、正確にはその魔法の実体を取りこぼす事なく盾で受け切ったグラントは……ヒットポイントを減らす事もなく、その衝撃を利用して大きく上方へと飛んで行ったのだった。今度のは随意飛行時と負けず劣らずの上昇速度である。

 

 

 「うわー……何というか、バカというか、天才というか」

 

 「バカをやる為に、天才になる、それがパイセンだぜ」

 

 

 従来のプレイヤーではまず考えつくことのないだろうその挙動に、呆れ果てるフカ次郎の肩を、マソップが大袈裟にポンポン叩いて、

 

 

 「さて、ワイらも行くとしようぜ」

 

 

 頭上のグラントを見据えて、その黄色い羽根を羽ばたかせた。

 

 

 「おおー、出てきた出てきた、こいつがガーディアンかー」

 

 

 飛べはせずとも空中での体勢保持くらいは自分の羽根でなんとか出来るグラントが、上に飛ばされながらも身体を水平に保って、上方の側壁からポップしたその敵…… 全身に白銀の鎧を纏い、鏡のように磨かれた兜を被って右手にプレイヤーには扱えそうにない長大な剣を持った、そんな守護騎士、通称ガーディアンを見据えて呑気にもそうぼやく。

 だがすぐに意識を切り替える。直後には頭上まで迫ってきたそのガーディアンの剣を身を捩って紙一重の所で避けると、持ち手側の腕を両手で掴んで組み込み、その大きな体躯の背中側に回り込む。まるで空中で柔道の寝技をやっているかの様なそのムーブにちょっとフカ次郎が苦い顔をしたけどそんなの気にしない、間髪入れずにその盾男はガーディアンの灰色の羽根を生やした背中を蹴ってさらに跳躍する。

 

 

 「ふーん、確かに一体ずつ相手にするよりは効率的だよなぁ。このフカ次郎ちゃんも昔、このグランドクエストにシルフのみんなと挑んだ事あるけど、幾ら羽根持っててもガーディアンとの戦闘中に構わず上に進むってのも無理ゲーだったし、この様子だと案外グラさん良いとこまで行くんじゃね………………」

 

 

 

 「…………あ」

 

 

 そう。フカ次郎はここで気付いたのである。

 グラントのやっている事は、要は直接的な戦闘をなるべく避けてあくまで突破に特化しよう、という作戦である。それは逆に言えば、ドームにポップするガーディアンの数は増えども減らないという事実に直結する。

 そして、グラントがガーディアン達を足場にどんどん上がっている現状を鑑みると、置いてけぼりにされたその守護騎士が真っ先にヘイトを向けるのは……。

 

 

 「私達はザコ処理役かよおおおお!!」

 

 「今更気付いててワロタ」

 

 「旦那も! マソップちゃんも! 何も言ってくれないからぁぁぁぁ!!」

 

 

 敢えて言わなかったに決まってんだろ。隠蔽工作は基本、これ絶対、例外なーしである。

 一応確認しておくと、現在の三人の位置関係は上方向から見て、上方からポップするガーディアン達、グラント、グラントが突破したガーディアン達、マソップとフカ次郎、という感じである。そのグラントより下側に位置するガーディアン達が、一斉にフカ次郎達に押し寄せてきてるんだから溜まったものではない。しかもグラントが突破するたびにそれらは増えるのである。

 

 

 「く、くそったれ〜……こうなったらやるっきゃないか、マソップちゃん! 魔法の支援宜しく……およ?」

 

 「まー、見てなってフカ次郎ネキ」

 

 

 今度はマソップが何かをやらかそうとしている様である。身に纏った全身ローブに付いたフードを被り、割とマジで見た目が銀河皇帝になった彼女は、ゆらりと両手を頭上に掲げて。

 ……そうして、息を大きく吸った。

 

 

 

 「エック・フレイギュア・スリール・ゲイール・ムスピーリ、セアー・スリータ・フィム・グローン・ヴィンド、エック・バルパ・エイン・ブランドー・ムスピーリ・カッラ・ブレスタ・バーニ・ステイパ・ランドル・ドロート、セアー・スリータ・フィム・グローン・ヴィンド、エック・バルパ・エイン・スプリュート、スミューガ・ステルクル・オービナ、エック・スキート・トゥトゥーグ・スマール・ストリーダ、エック・フレイギュア・スリール・ゲイール・ムスピーリ、エック・スキート・フリョーリル・イスカドル・エール」

 

 

 「ちょおぉぉぉっと、待ったあぁぁぁぁぁっっ!!??」

 

 

 ……なんかメッチャ早口で魔法の詠唱を始め出した。途端にもの凄い勢いでマソップの周囲に魔法陣が飛び回る。しかも詠唱速度にエフェクトが追いついておらず、魔法陣が重なるに重なってメッチャ動作が重くなってる始末である。

 だがその代わり、マソップの手よりちょっと先の辺りから、火炎魔法だの真空魔法だの氷結魔法だの、色とりどりの魔法がバカみたいなrpm(rotations per minute……本来は一秒に於ける回転数を表す単位で、銃の連射速度などにも使われる)でガーディアンを一掃し始めたのである。

 

 

 「AIなめんな、ファンタジー」

 

 

 そう、それがこの超高速詠唱の秘訣である。

 基本的にALOにおいて魔法を使用する際には、その詠唱文句を正しく理解し、正しい発音で唱えないと失敗するというペナルティが課せられている。これがプレイヤーの向き不向きにも多少影響しており、つまるところALOの魔法は、大量のスペルを覚える暗記力だけではなく、白兵戦や突然の奇襲にあった際などでも詠唱文句を正しいスペルで、且つ正しい発音で紡ぐだけの胆力まで要求するという、なかなか厄介な要素なのであるが。

 だが、マソップはAIである。人間の様な五感に頼った挙動をしていない彼女が言い間違いなんてする筈もなく、また早送りにしたテレビ番組の音声の様に……スペルに最適な発声をそのまま幾らでも高速化出来るのだ。因みに現在の詠唱速度で止めた理由は、これ以上速くするとサーバーに負荷が掛かってバグや予測不能な事態が発生する可能性があり、何より運営側にそれを感知されれば対策を立てられてしまうからだとか。

 なるほどね、だからケットシーなのか。種族として得意な魔法はなく高位魔法もあまり覚えないものの、多くの呪文を一様に覚える事が出来る利点がある。そのメイジとしての余りにぶっ壊れた性能から、後にその実力を知った同種族の人々から、ガトリングメイジとか言う世紀末にヒャッハーしてそうなあだ名を付けられる羽目になったとか。GGO? どうするマソップ? あっちでもガトリングガンムーブやる?

 

 

 「も、もしかして、とんでもねー連中に関わっちゃったんじゃないかい私」

 

 

 フカ次郎は流石にビビった。仕方がないだろ、頭上を見ればグラントが曲芸みたいにぴょんぴょんガーディアンを飛び越えて、たまに上に跳ね上がった敵の剣を盾で防いで、そのノックバックでさらに上昇するキチガイムーブを、横を見ればマソップが恍惚とした表情で魔法を乱発して結構な速度でガーディアンを撃ち落としまくるというトンデモムーブをかましてやがる。

 彼女は思った。これ私、必要なのか?

 

 

 「おーいフカ嬢ー!! 回復魔法プリーズー!!」

 

 「お……っ! おーう!」

 

 

 そうだ、旦那が上を登って、マソップちゃんが下で暴れてて、誰も回復する要員がいないではないか。マソップちゃんも回復魔法を習得はしているだろうけど、あの様子だととても今のグラントの悲鳴なんて聞いちゃいないだろう。

 よし、そうとなれば頭脳担当で行こう。フカ次郎は思った。この二人ノリと勢いと戦法はぶっ飛んでるけど、案外全体を見られなくなりがちな傾向がある。こんな時魔法も近接戦闘もこなせるこのフカ次郎ちゃんなら、きっと二人の素晴らしいサポーターになれる筈だ。

 

 

 「よ、よーし、待ってろ、今回復してやる」

 

 

 ここまでが完全に置いてけぼりのフカ次郎が、ついに覚悟を決めた。なーに、世間でも言うじゃないか。当日ダメだったら悩め、当日に、って。

 

 

 「へい世界樹! 俺のなまらイカすフェアリーウィングで登ってやるよ!」

 

 

 そうして、魔法を唱える構えに入って、シルフの美女は最後に大きく叫んで自分を鼓舞したのだった。

 

 

 「……今日は逃れられると思うなよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「や〜ら〜れ〜た〜」

 

 

 さっきのかっこいー台詞はどこへやらである。あれから小一時間が過ぎた現在、ガーディアンの一太刀をもろに食らってしまったフカ次郎が、飛行限界も相まって真っ逆さまにドームを落ちていった。

 とはいえ、ヒットポイントはまだイエローゾーンを割っていない。流石ALO古参プレイヤーである、そのステータスはSAOのアバターデータをコンバートしているグラントやマソップ達に引けをとっていない……マソップはあっちでも弱かったから心配だけど。

 現状としては開始直後とあまり変わっていない。なんだかアリの大群の様に上空を埋め尽くす様になってしまったガーディアン達の合間を何とか練りながら上に上に跳ね飛ばされるグラントの下で、マソップとフカ次郎は飛行限界ギリギリまで敵を引きつけ牽制した上で、適時羽根を休ませる為に下に降りてまた戻るというローテーションを行なっていた。

 

 

 「あでででで、いっくらなんでも、ガーディアンの数多くないっすかねマソップ!?」

 

 「ぐぶぐぶぐぶ。当社調べによると、現在秒間八体のガーディアンがポップしてるZOY。

 ……明らかに負けイベント扱いだぜ常考」

 

 

 秒間八体。一秒に八体、十秒で八十体、一分で四千八百体(※違います)、そりゃやばいわ。というかグラントがいるらしき所はもはやガーディアンが集まり過ぎて一つの球体みたいなのが出来上がってる。気持ち悪い。

 因みにキリトが一人でこのグランドクエストに挑戦した際は、最終的に秒間十二体まで増えたそう。

 

 

 「スー・フィッラ・ヘイル・アウストル! スー・フィッラ・ヘイル・アウストル! あー、こーりゃひどいわー」

 

 

 こちらも必死に回復魔法をグラントに掛けまくっているフカ次郎である。現在上で何が起きているのかはイマイチ目視できないものの、視界の右端にあるグラントのヒットポイントバーが、あの鉄壁の盾男の体力が目に見えてみるみる下がっているのがわかる。その為、ドームの底で再び飛び上がる余裕すら与えられずにその場で魔法を唱え続けるしかなく。

 

 

 「……おーい、グラさん。これは一回撤退した方がいいんじゃないのかーい?」

 

 

 まあ、初めに逃げようとしたのがフカなら、初めに弱音を上げるのもフカである。当たり前である。こんな生産性のないチャレンジ、どんなプレイヤーでも基本的にサジを投げてナンボである。まあ有志が、クエストの難易度の検証の為とかで挑戦する可能性は無きにしもあらず、だけど。

 だがそのフカの声は残念ながら数百メートル上方で奮闘しているグラントには届く訳もなく、底を尽きてしまったマナポイントを回復する為にポーション系アイテムをガブ飲みしているマソップに至ってはそもそも聞いていない。このパターンこれで三度目である。今回に限っては仕方ないとはいえ、幾らなんでも扱いがあれだぞ。

 

 

 「ぐぐ……何でそこまでやるかなぁ」

 

 

 仕方ないから取り敢えず今を凌いで、後で文句を言おうと決めた彼女は、そうぼやいた後に羽根をはためかせて、再び飛び上がろうとして。

 

 

 

 

 

 

 

 「そりゃ、楽しいからじゃないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 「えー、そうかねぇ。負ける事が分かってるのに戦うってのは、ちょっと、なんか、なー」

 

 

 唐突に背後から聞こえてきた声に……しかし疲れていた為か、シルフの美女はその声主を確認せずにぼんやり返答する。

 

 

 「はは。まあ、そうかもな。

 でも、それって多分君が……まだバカに成りきれてない、って事なんじゃないかな」

 

 

 フカ次郎はようやく、振り返る。

 それは蝙蝠の様な羽根を背から伸ばした、一人の妖精だった。紫色の初期装備を見に纏い、羽根の合間にはすらりとした長剣を背負っている。そしてその深紫の瞳で上空のガーディアン達を見据えると、大きくその場で腰を落とす。

 

 

 「良い事、教えてやるよ。

 バカを止めたけりゃ……自分も、バカになる事だ!!」

 

 

 そうして、その短い黒髪がふわっと広がったと思った直後、その剣士は大きくその場から飛び上がった!

 

 

 「おわーっ! 乱入者かーっ! 確かにバカだーっ!!」

 

 「ああーっ!! もう行っちゃったのかにゃん!!」

 

 「……えっ」

 

 「えっ」

 

 

 妖精はそのままもの凄いスピードでドームを垂直に飛び上がっていく。低空に屯していたガーディアン達を手にした長刀を一閃させて下しながら、未だに魔法を狂った様に唱え続けているマソップの真横を通り過ぎた。

 

 

 「……そんな装備で、大丈夫か?」

 

 「大丈夫、問題ないッ!!」

 

 

 瞬間、マソップが歯を見せるほど口角を上げて言ったその言葉に、その剣士も笑いながら躊躇う事なく答える。流石に元ネタは知らないよね? まぐれだよね!?

 

 

 「……フヒッ」

 

 

 そのガドリングメイジを飛び越した妖精は、彼女の張った魔法の弾幕に乗じる様にして、上空の守護騎士の群れに突っ込んだ。スピードを殺さず敵の一刀を受けず、すれ違い様に斬り捨てるようにして更にグングン登っていき。

 そして、いよいよ戦闘の最頂点……あの盾男が四方八方からの攻撃を受け捌いている、そのガーディアンの群がる球体を見据えて長刀を脇に構えると。

 

 

 

 

 「グラント、避けろおぉっ!!」

 

 「……っ!?」

 

 

 

 

 瞬間。

 その二人のプレイヤーの間で、まるで電気信号の受け渡しをしたかの様に意思が伝心した。もちろんその場で何かしらの電気信号の送受信を行ったわけではないけれど。

 だがそれは、あの仮想世界で共に戦った仲間として、お互いの動きを見ずとも、目すら合わせずとも伝わる合図であり。

 

 

 「たぁぁぁぁぁああっっ!!」

 

 

 グラントが敵の一体を盾で大きく弾いて、現在足場にしている下の守護騎士の兜を踏み台にして、その場から大きくバックステップを踏んで飛び退く。その直後に、彼が今抜け出したガーディアンの球体が、下方から上に向かって裂帛の気合と共に振り抜かれた神速の剣によって……盛大な音を立てて爆散した。

 足場を失った盾男は慌てて両手を広げて近くにいる守護騎士を掴もうとするが、その場にいたエネミーは軒並み今の一刀で全滅した様である。ついに身体が宙を浮くのをやめて、遙かドームの底に墜落せんと落ち始めたその時。

 

 

 

 「……よう、久しぶり。グラント」

 

 

 「あ……ははは。ここに来てたのかい。……ハルくん」

 

 

 

 彼の手を掴んだその妖精……あの浮遊城でグラントと最後の瞬間まで共にいた剣士、ハルキが、少し照れ笑いを浮かべながらこちらを見やっていた……。

 

 

 

 

 

 

 




 
フカ次郎「可愛いリーファちゃんだと思った? 残念! フカ次郎でした!」



ハルキ「うーんこの」

 
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