SAO (シールドアート・オンライン)   作:ニモ船長

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みーこ「実は私とマロンちゃんは、SAOのコンシューマーゲーム、ソードアート・オンライン フェイタル・バレットの中に登場するNPCをモチーフにしてるんだよー!」

マロン「持っている方はぜひ会ってみてにゃん! とんでもない情報が聞き出せるかもだにゃん!」
 


第六話 大丈夫だ、問題ない。

 

 「な、なんでフカにゃんがここにいるのにゃん!?」

 

 「それはこっちのセリフだっぜマロンちゃん!? インプ領は大丈夫なのかい!?」

 

 

 アルヴヘイムの中心に悠然と聳え立つ世界樹。その内側に伸びる筒状のドームの底で、とある二人の妖精たちが両手を繋いでわちゃわちゃ騒いでいる。

 シルフのフカ次郎とインプのマロン。隣接もしていなければ勢力にも大きな差がある二つの種族だが、それにも関わらずその関係性は極めて良好だった。このPK推奨のALO内においても、お互いのプレイヤーがお互いを事情なく斬ることすら殆ど無いほどである。

 理由はただ一つ。シルフもインプも、共通の敵としてサラマンダーに相対しているからである。

 

 

 「大丈夫にゃん。サラマンダーの包囲網は、インプのみんなで追い払って何とかしたにゃん! だからこれからは自由にインプ領から出入りする事が出来るのにゃん!」

 

 「追っ払ったって、あのまったりインプちゃん達がかい? そりゃびっくり仰天だけど、どうやってさ!?」

 

 

 うわあ、結構有名だったんだね、インプのALO内随一のほんわかっぷりと、サラマンダーの包囲網。まあ普通に考えても領地全体に包囲網を敷くとか、かなり悪質だったよね。フカ次郎のその真っ当な疑問に、マロンは何とも、なーんとも微妙な表情を浮かべる。

 

 

 「……あの子が、インプのみんなを変えてくれたのにゃん。……良くも悪くも」

 

 

 確かにインプは変わったよね。変わり果ててしまった。

 その元凶……いや、先駆者となった一人の剣士を思って、二人は頭上に天高く広がるドームの頂上を見上げて……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「良かった、合ってた。お前ならきっと……ここに行くと思ったんだ」

 

 「あー……お見通しって訳かぁ」

 

 

 円柱形に世界樹の幹をくり抜いたかのように存在するドームの上空。目算一キロ以上の高さを誇っているマップのあと天井のゲートまで二百メートル近くという地点で、二人のプレイヤーが万感の思いで邂逅を果たしていた。

 

 

 「おかえり、ハルくん。またこの世界に来てくれて、ありがとね」

 

 「ただいま、グラント。……会えて、良かった」

 

 

 ハルキは彼と繋いだ左手を大きく引く。グラントは引かれる右手に合わせて身体を上に上げて、自身の羽根で姿勢を戻して彼女の横に並び立った。

 

 

 「よし、ハルくん。続きは後に取っておこう。今はこの状況を何とかしないとだね」

 

 「ああ、元よりそのつもりだ。ここを早く切り抜けて、一度やり直そう。このままじゃ無謀だ」

 

 

 グラントはハルキの方を見やった。

 その容姿はSAOの頃と比べるとやや女性らしくなっていた。恐らくALOではアバターがランダム生成させることに起因するのだろう、短髪である事に変わりはなくともその黒髪は風で揺れる程には伸びているし、かなり控えめだった肢体も僅かに柔らかさと丸みを帯びているのが分かる。

 

 

 「うーむ、確かにその通りなんだけどさ、ちょっと事情があって」

 

 

 ハルキもちらりとグラントに向き直る。

 こちらはあまりSAOで見慣れた彼の姿と殆ど変わっていない。後に聞いた話だと、グラントはわざわざ髪型変更用のアイテムを課金して取り寄せてロングヘアーにしているらしい。バカなのか。そんななので、あの頃と変わったことと言えば、服装の違いと、茶髪がサラマンダー特有の赤髪となっている事くらいか。それ以外は変わらず、前と同じようにお世辞にも屈強とは言えない中肉中背の見た目をしていた。

 

 

 「……事情? どういうことだ?」

 

 「えっと。……ごめん、すぐには説明できないんだよね。

 でも、俺はあのゲートの先を見ないとダメなんだ。少なくとも……このグラントクエストが、本当にクリアできるクエストなのかを確かめるために」

 

 

 二人はドームの頂上を見やる。前にも述べたようにそこには四分割された壁によるゲートが確かに存在する。

 だけどよく考えてみるとちょっと変だ。このドームと外界とを繋ぐあの石扉にはそれはそれは豪勢な装飾が施されていたというのに、空中都市の入り口であり、且つゴール地点であるこのゲートには、全くと言ってそれがない。演出としてあまりに簡素すぎやしないだろうか。

 

 

 「ハルくん、お願いだ、信じてくれ。もしかするとそれが……このALO全体を揺るがす大問題になるかもしれない」

 

 

 それは、出会い頭に口にする話題としてはあまりに突拍子のない話である。ハルキとしてはそんな大層な事に巻き込まれるつもりではるばるこのラストダンジョンの奥までやってきた訳ではなく、ただ目の前の一人の妖精に……いや、人間に出会うためにここまでやって来たのである。

 だけど、ハルキは彼の相棒であると共に、彼の良き理解者でもあった。SAOでも、結果としてグラントのやる事の意味を把握しきれない事も多かったが。

 それでも彼女は知っていたのだ。この男が何かを隠している時は、必ず誰かを想って、何かを背負っているのだという事を。或いはそれを誰かに話す事で、余計な面倒ごとに巻き込みたくないからだという事を。

 

 

 「……分かった、信じるよ。で、俺はどうすればいい?」

 

 

 ツンとした表情ながらも首肯したハルキに、グラントは申し訳なさそうに肩を含める。だが次の瞬間には何とか状況を打開しようと頭をフル回転させていた。

 

 

 「大体、幾ら何でも現状どうにもならないぞ。どんどんガーディアンは増えていくし、あの天井まで突破するってのは流石に厳しいと思うんだけどな」

 

 「うん、そうだなぁ。確かに、飛べるハルくんと飛べない俺とじゃあ長くはもたないかぁ……どうしたもんかな。

 せめて、あのゲートの向こうに何があるのかさえ分ればなぁ……」

 

 「それなら」

 

 

 だが、そのグラントの言葉にハルキは何かを思いついたらしい。

 

 

 「突破する事は無理だと思うけど、奥を覗く事は出来るかもしれないぞ。俺の種族、つまりインプは暗闇での暗視に優れているんだ。それがあのSAOの索敵スキルのようなものだとしたら……もしかすれば、ゲートの向こう側を覗き見する事も……!」

 

 

 厳密にはちゃんとこのALOにも索敵スキルは存在するのだが、インプには種族特権として索敵におけるエクストラボーナスが付随されている。もちろんそれは程度としては索敵スキルに及ぶものではないが……されどこの状況ではそれが最も現実的な打開策になろうとしていた。

 

 

 「……よし、それで行こう。要は一瞬でもハルくん、君だけでも上げられるだけ上に上げれば良いんだね」

 

 

 下を見下ろすと、まるでそれ自体でドーナツ状の床を形成するかのようにガーディアンがびっしりと集まって、グラントとハルキ二人に向けてディストーションのかかった魔法の矢を放とうとしていた。

 

 

 「……信じてくれて、ありがとね」

 

 「なーに、こういうのは慣れてるよ」

 

 

 だが、二人はそんな状況でも口に笑みを浮かべていた。あのデスゲームですら、彼らは常識を超えた修羅場を何度も潜っているのだ。

 そうして、お互いを繋いでいた手を離し、そのままコツンとその手で作った拳をぶつけ合うと……ハルキは自身の羽根を消失させた。

 

 

 「じゃあ、いっちょ行きますか!」

 

 

 彼女はグラントを上に押し出すようにして落下を始める。そのなけなしの推力によってその場に留まったグラントが盾を構えた瞬間……ガーディアン達の光の矢による一斉掃射が始まった。

 

 

 「ハルくん……頼んだぜ!!」

 

 

 三百六十度、やや下方から飛んでくる矢の内、自らに命中するものを盾で真下に弾き返す。そうする事によって、グラントは羽根を使わずとも細かいノックバックでその場に浮くことが出来ていた。

 それだけではない。そのパリィによって下方へと飛んでいった光の矢の先には……ついさっき落下を始め、ガーディアンと同じ高さまで下降したハルキが待ち構えている。

 

 

 「了解! これでも、くらええっ!!」

 

 

 羽根を広げて滞空すると、その長刀を真上に突き上げて、彼女はそう意気込む。そしてグラントによってベクトルを変えられて自身に向かってくる光の矢に刃を接触させると、周囲で弓を構えるガーディアン達に向けて軽く何度も振り下ろす。

 すると剣筋に再び弾き返された光の矢が、その射手であるはずのガーディアン達に向かって飛んでいき、その胸部に突き刺さっていく。そのまるで何度も打ち合わせたかのような鮮やかな連携を、遙か下方からその様子を見上げていたフカ次郎とマロンは唖然として見守る事しか出来なかった。

 実際下から見たら結構綺麗な光景である。ドームの中央にあるハルくんから、放射線状に光の矢が周りに反射して飛んでいくのだから。

 

 

 「す、すげぇ……すげぇよ旦那!!」

 

 「は、ハルにゃん只者じゃないとは思っていたけど、ホントに何者なんだにゃん……!?」

 

 「あの二人が誰か、知りたいかえ?」

 

 

 そこに、役目を終えたとばかりに下降しながらマナポイント回復ポーションをガブガブと飲むマソップがやってくる。そして思わず首をガクガクと縦に振る二人を見て、彼女はやたら自慢げに、言うのである。

 

 

 「……あの二人はな、かつてある世界で王となろうとした……最大級のバカ野郎なんだぜ」

 

 

 再びグラントの盾が光の矢を跳ね返し、それをハルキの剣が一閃。その場で射撃をしていた最後のガーディアンが弾き返された光矢に額を貫かれて大きく爆発する。それでようやく、二人の周囲を取り囲んでいた守護騎士達を纏めて返り討ちに出来たと言えるだろう。

 

 

 「今だ! グラント!!」

 

 「おーう!!」

 

 

 心なしか、グラントも少し前までよりも楽しそうだ。まあ当然か、何とかして探し出そうと思っていたグラント帝国のメンバーの……しかも一番心の通う仲間と、また共闘出来ているのだから。

 そんな彼は身体を背泳ぎをするかのように上向きにすると、ラッコの様に腹の上に両手で盾を構える。そこに全ての矢を弾き返しきったハルキが羽根で上昇して向かい、彼のすぐ上で飛行を中断すると……その盾の上に両足を乗せる。

 この瞬間、彼女の滞空時間はリセットされた。あとはここから時間とリポップするガーディアンの許す限り、全速力で天井まで飛び上がるまでだ。

 

 

 「「いっけええぇぇぇっ!!!」」

 

 

 ハルキはグラントの盾を強く蹴って飛び上がった。まるで紫電が走るように一直線に上昇するハルキは、直後にその場に出現した十体を超える新たな守護騎士を振り切っていく。

 だがそこで恐るべきことが起きた。彼女の眼前、ゲートの数十メートル前の地点で、まるでそこより上と下のエリアを寸断するかのように、おびただしい数のガーディアンがポップし始めたのだ。外側から中心に向かって、それで遮断壁でも作るのかとばかりに、数十体ともいえる数の守護騎士が一斉に姿を現し始める。

 ここが潮時だ。彼女は直感し、全神経を自身の目に集中させた。視界の端が放射線状に歪み、中心がズームされたかのように明瞭になるような感覚を抱きながら、彼女はその目の前に広がる真っ白な天井のゲートを凝視する。インプ領で彼女が実際に暗視を体験した際は、暗闇の中に広がる地形と、その場にいるプレイヤーのシルエットが特殊なカメラを使っているかのように見えたものだったのだが。

 だが、そこでハルキの目に入ったのは―――虚無、だった。

 

 

 

 

 「…………え?」

 

 

 

 

 暗視中に「何も見えない」という状況が生じたとき、考えうる可能性はそう多くない。何故ならシステム障壁がそこに生じていたとしても、その奥に広がる景色という視覚情報はその遮断を超えて視界に入る筈だからである。

 だからこそ、そこが虚無である、という事実は……その奥に一切のマップ情報が存在しない、という事になる。

 

 

 (い、いや……ちょっと、距離が離れすぎてたのかも)

 

 

 ハルキは我に返って、今一度ゲートに肉薄しようと羽根を振るわせようとして……しかし、時すでに遅い事を知った。次の瞬間には、遂に異常な程に増殖したガーディアン達が、ハルキの眼前の視界全てを覆い尽くしたのだから。

 

 

 「…………これは」

 

 

 悪意がある。そう考えるのが妥当なのかもしれない。もしあのゲートの先に、本当にマップ情報として何も存在しないとするならば……それはALO中で世界の基本則として知れ渡っている、世界樹の頂点に存在する空中都市の存在、妖精王オベイロンの存在が……全て虚偽によるものだった、という事になるのではないか。

 もしかすると、グラントの調べている事って、これだったのか。

 

 

 (この世界で……一体、何が起きているんだ)

 

 

 背中に迫るガーディアンの攻撃を回避しながら撤退するハルキの視界の奥には、どうやら先に地上に墜落して伸びあがったらしいグラントを引っ張って、その場を撤退しようとしているフカ次郎とマロン、そしてマソップの姿が映っていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「だあーっ! 旦那も! ハルさんも! 無茶しすぎだっぜ!!」

 

 「……面目ない」

 

 「……俺は悪くねぇ」

 

 「流石、サラマンダーからレネゲイドされるだけの事はあるにゃん。すっごいめんどくさいにゃん」

 

 「だろー? でもパイセン、こんなもんじゃないぜ常考」

 

 

 はい、上から、フカ次郎、ハルキ、グラント、マロン……そしてマソップである。なんかうまい事五人組が出来上がってるし、ALO版グラント帝国でも作るか。いや、でもまあトミィとオルスが帰って来てからにしようか。

 現在何とか世界樹の内部から脱出した彼等は、今となっては懐かしいアルンの街並みと大きく広がる青空に……五人揃って肩の力を大きく抜いて、石扉の前の広場で腰を下ろしていた。

 

 

 「それで? どうだったのよハルさん? ドームのテッペンって奴は」

 

 「……悪い、一応可能な限り上って、暗視を使ってみたんだけどさ……。

 全然、何も見えなかったよ。ゲートの奥に何が広がってるのか、さっぱりだった」

 

 「むむむ、やっぱりゴリ押しでのグランドクエスト突破は無理があるにゃん。きっとあそこを突破する何かしらのキークエストかキーアイテムが存在するんだにゃん」

 

 「最終的なガーディアンのポップ数は、二十三十って数を軽く超えてたぜ。正確な数、知りたいかパイセン」

 

 「……いや、やめとくよ。みんなの言う通り、少なくともありゃ、明らかに正攻法じゃあ突破できないように調整されてるみたいだね」

 

 

 フカ次郎の回復魔法を受けて意識とヒットポイントを取り戻したグラントが、お手上げとばかりに両手を上げてその無謀さを認めた。まあ、身に染みて思い知った、というのが実際だろう。それでももう一回やれと言われればこの男、うっひょーって嬉々としてやりそうだけど。

 

 

 「……それにその何も見えなかった、っていうのが、真実な可能性もあるからなぁ」

 

 

 だが、隣のハルキ以外の三人に聞こえないように呟かれたその盾男の声に、彼女は軽く背筋を凍らせた。やはり、その事について、グラントは思い当たるところがあるのだろうか。

 

 

 「それで、グラにゃんはこれから、どうする気なんだにゃん? 一応フカにゃんとの契約も、世界樹でのグランドクエスト挑戦までだって聞いたにゃん?」

 

 「お、そうだったな。どうする? これで旦那が諦めるってんなら、仕方ないから私はちょっとアルンでのんびりした後に、スイルベーンに帰るぜぃ」

 

 「うーん、どうしよっかなぁ」

 

 

 ここでグランドクエストを諦めれば、ひとまずグラントの挑戦は一区切りがついたという扱いになるだろう。ただ現状のままではあまりに収穫がなくて、あれだけシルフの領主館で啖呵を切った身としてはサクヤへの手土産に困るし、もう少し粘りたいなぁ……というのがグラントの本心だった。

 

 

 「……まだ諦めたくないって顔してるな」

 

 「分かっちゃうよねー、ハルくんなら」

 

 

 うげー、とややげんなりした表情を浮かべながら、だがフカ次郎はその二人のやり取りをちょっと興味深げに見つめていた。

 ほほう。旦那はマソップちゃんがカノジョさんではないって言ったたけど、こっちはかなり良いセン行ってんじゃないのかい。どうやら二人とも、色々とまだそういう段階に至ってなさそうだけど。

 

 

 「はいはーい、ワイもそう思ってたぜ」

 

 「うんうん、マソップにゃんは頭がいいにゃん!」

 

 

 まあ可愛いゼロの魔法使い(注・髪は黄色)が手をブンブン振って言うから許されてるんだよね。マロンも上手いこと手綱を持ってる。何だかんだこの五人も悪くないチームになるかもしれない。

 ……せっかくそんな相性の良さげな多種族のメンツが集まっているのだ。どうせなら何か一つ、どっかんと打ち上げたいよね。

 

 

 「とはいえ、だ。あのドームからの突破は流石の俺も不可能と見た。これは何か状況を打開するような一手が欲しいところだなぁ。例えば」

 

 「ぐぶぐぶぐぶ、例えば空中都市に行くにあたって、あの世界樹のドームはフェイクルートであり、どこか他に真の、或いはGM用の抜け道が存在する……って感じか?」

 

 「なーるへそ? マソップちゃんのそれが正しいとすれば……およ? でも世界樹の頂上に空中都市がある以上、やっぱ木を登んなきゃまずいんじゃねーのかい?」

 

 「木を登るって言うと何だか不思議な気持ちになるにゃん」

 

 「不思議な気持ち? どう言うことだマロン?」

 

 

 ほーら、ちゃんと議論も出来てるじゃん。元祖グラント帝国のあのカオスっぷりと比較したら随分まともだよ。何せあっちにゃ顔文字しか発しないのと、言語が違って何言ってんのか分からないのが居たからね。

 何はともあれ、にゃんにゃんプレイヤーことマロンが何かを思いついたようである。気になったハルキがその真意を尋ねてみた。

 

 

 「うーん、だって木に登るって言ったら、木登りみたいだにゃん。まるであの世界樹の表面をよじ登っていくって言ってるもんだにゃん……」

 

 

 

 

 

 「あ」

 

 「ぐぶ」

 

 「およ?」

 

 「にゃ……ん?」

 

 「え? え?」

 

 

 五人は揃って顔を見合わせた。……いや、正確には分かってないのが一人。誰かはまあお察しの通り。

 

 

 「……そうだ、内側から行けないっていうなら」

 

 

 そこでようやく、全員が揃って目に光を灯す。どんなに境遇が違っても、ハルくん含めて五人とも立派なゲーマー魂を持ち合わせているのだ。

 

 

 「外から登れば行けるんじゃないかね!?」

 

 「ちょ、ちょっと待つにゃん! 流石に本当に木登りして行くには世界樹の傾斜角が厳しそうだにゃん……」

 

 「まあ、見た感じ取っ掛かりもなさそうだからな……俺結構木登りは得意だけど、ちょっとあれは難しそうだぞ……?」

 

 

 ハルくんが無理って言うならもうダメな気がする。野生児かよ。まあでも、目算富士山レベルでデッカい大樹を登り切るって言うのも無理がある話だよね。

 

 

 「いや、待てよ? なあマロンちゃん、ハルさん。この際大事なのは多分木登りする事じゃないと思うぜ。

 つまり、あの世界樹を外側から攻めるって事だ」

 

 「世界樹を……」

 

 「そ、外側から、にゃん?」

 

 

 ついにフカにもギアが入ってきた。と言うかいい加減グラント達のノリに慣れてきたんだろうね。朱に交われば赤くなるって言うけど、この落武者男は一人いるだけで数十人分の狂気が辺りに広がってるんだろうなぁ。

 

 

 「ぐぶぐぶぐぶ、ここまでの話を整理するZOY。

 世界樹を内側のドームから攻略するのは不可能なので、逆に外側から登っていくのが妥当と考えられる。

 しかし、よじ登る事は世界樹の形状や表面の起伏の無さから不可能に近く、別の方法を考える必要がある……ってところだな」

 

 「外側から……別の方法で、か。

 なあ、妖精の滞空時間ってどれくらいなのかな? それが切れるまでの間に世界樹の上まで、飛んでいっちゃうって事は出来ないかな?」

 

 「旦那、そりゃ逆ってもんだぜ。

 私達が飛んで世界樹の上に行けないように、滞空制限が設けられてるのさ。それで行けちゃったらゲームとしてつまんないだろ?」

 

 「グラにゃんもハルにゃんもまだニュービーだそうだから知らないかもしれないけど、実際にプレイヤー一人が世界樹の外から飛んで行こうとすると、一番下の枝にも辿り着けなくて、全然飛距離が足りないんだにゃん。みんな一回はやって、やっぱダメだったかーってなるのにゃん……」

 

 「マロンちゃん、それだ」

 

 

 グラントは一瞬頭を抱えるように両手を上げて、次にすっくと立ち上がると……やがてその表情に気持ち悪い笑みを称え出した。

 

 

 

 

 

 「……俺、閃いちゃったかも」

 

 

 

 後にこの盾男の思い付きを、キリトはこう評する。

 「馬鹿だけど、頭がいい」と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――確かに、一人の持つ滞空制限内じゃあ高度が足りないかもしれないよね。

 だけど、それはあくまで一人で飛ぶ場合の話でしょ? ここにはハルくんに、フカ嬢、マソップ嬢に、マロンちゃん、そして俺の五人がいるんだぜ?

 

 

 世界樹の内部ドームにつながる石扉は世界樹から見て南側に位置している。そこにグラント達は先程まで屯していた訳なのだが……現在そことは打って変わって、彼等はアルンの北側に位置するテラスに移動していた。

 そのスペースは時々フリーマーケットやギルドイベントに利用されているらしいのだが、少なくとも今日は閑散としていた。アルン北側は大した建築物もないために観光客の姿も見えず、あまり人に見られたくないトンデモバカをやらかすには格好の場所なのである。

 加えてアルン全体を見ても、そのテラスは一番標高が高い。フライト開始地点としてはベストである。

 

 

 ―――だったら、みんなの滞空制限を最大限活用できる方法を考えるべきじゃないかなって。

 具体的には、みんなでロケット式に肩車するんだ。五人一体になって飛んで、一番下のプレイヤーから順に飛行する。そうすれば、一番上のプレイヤーは……案外良いところまで行くかもしれないよ?

 

 

 「旦那、ほんとイカれてやがるよな、ここまで来ると一周回って気に入ったぜ!

 ちょっと結婚してほしいんだけどさ、このあと暇?」

 

 「ち、ちょっ、フカ次郎さん、何をいきなり!?」

 

 「ハルにゃんウブなんだにゃん…! 流石に冗談に決まってるだにゃん!」

 

 「え? え? あ、そうなのか? ほんとに?」

 

 「……いやまあ、ついさっきまで百合は美しいって言ってたぐらいだし」

 

 「当人のパイセンが一番冷静で草生えるわwww」

 

 

 と言うわけで、五人はグラントの案に沿って現在、ロケット式にお互いを肩車している。一応体格順に下から組み上げるべきなんだけど、その、一部の女性プレイヤー――今回はマソップとマロンが該当する――が、衣装的に見えてはいけないものが、特にグラントに見えちゃいけないので、少々変則的になってしまっていたりはする。

 具体的には、長身意外と力持ち美少女のフカ次郎が一番下、次からはあんまり身長差のないハルキ、マロンと続いて……最後に小柄なマソップ、そして唯一の男性プレイヤーであるグラントである。

 よく考えたらグラント以外女性プレイヤーじゃねーか。落武者男自重しろ。

 

 

 

 「よし、じゃあ行くとしますか!」

 

 「うわわっ、おい落武者男! 上で変に動くな騒ぐなぁ! バランスが崩れる!」

 

 「ハルにゃんも騒がないでにゃん! これ倒れたら大惨事だにゃん!!」

 

 「おまんら、ここは仮想世界だから骨折も事故もないぜよ常考」

 

 「ほーい駄弁るのはそこまでにしとけー一番下の私が一番辛いわー」

 

 

 セリフ順とロケット順が合ってなくて申し訳ない。仕方ねーじゃん、みんなグラントの上に乗るの嫌がったんだから。え? そこ関係ない?

 

 

 「じゃ、じゃあみんなでカウントダウンをしよう、ね? そしたら恨みっこなしだ。

 さー、じゃー、いくよー!!」

 

 「た、タンマ! グラにゃんタンマにゃん! な、なんか急にトイレに……」

 

 「ちょ、それはまずいぞ! マロン、今すぐログアウトして――」

 

 「れっつらごおおおおっ!!(フカ次郎)」

 

 「わあああフカにゃんひどいにゃああん!!」

 

 

 

 

 

 やべえ久々にカオティックだ。楽しい。かくして五者が五者とも全く息の合っていない状態で、晴れてそのグラント式ロケットは発射したのだった……。

 

 

 

 




 


マソップ「40代、既婚者。リアルでも同じ口調。夫からドン引き」

マロン「言わないでにゃん!!」



トミィ『(ಡωಡ)』
 
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