SAO (シールドアート・オンライン)   作:ニモ船長

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※ここからガチ回注意
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※でも前半ギャグ回注意



第七話 フェアリィ・ダンス

 

 「にゃあああああん!! ちょっとちょっとフカにゃん! なんで飛んじゃったのにゃん!」

 

 「いやーわりぃわりぃ、ちょっとぶちかましてぇ気分になっちまったのよ……ふっ……!」

 

 「い、いや、フカ次郎さん、そうは言ってもだな……マロン、限界が来たらすぐにログアウトするんだぞ!」

 

 「押すなよ! 押すなよ!! 絶っ対に押すなよ!?(迫真)」

 

 「何を押す気なんだいマソップ嬢! ってゆーか落ちそうになるからあんまり騒がないでちょ!!」

 

 

 アルン上空、いや上空というほど上空でもないけど、まあ上空での一幕である。めっちゃ上空多い。

 グラントの発案した五段式人間ロケットが打ち上げられて、少なくない時間が経過した。未だ世界樹の頂上は霞むほど遠くに見えているけど、どうやらそのロケット自体はバランスを失ったり墜落したりする事もなく、安定して真上に向かって上昇する事に成功している様である。

 

 

 「あ、そーだ……ごめんみんな、ちょっと上揺らしていいかい」

 

 「騒ぐなって言った矢先になんだよ、こっちだって結構大変なんだからな」

 

 「あー、いや、その、ちょっとアイテムを出したくてですね」

 

 「アイテム、何なのにゃん?」

 

 

 殿として自分も含め五人分の体重を支えながら飛んでいる馬鹿力シルフ美女と落武者男の嘆願に全く興味を示していないゼロの魔法使いを除いたインプの二人が、グラントの言葉に疑問を呈する。

 

 

 「じゃじゃーん、これ見えるー? 俗に言う写真用アイテムでーす!

 いや、万が一全く上に辿り着けなかったー! ってなった時に、せめて写真さえ撮れれば映るものもあるなかって」

 

 「見えねーよ常考」

 

 「見えるわけないだろ落武者男」

 

 「この状態でどうやって上を見ろっていうにゃん」

 

 「あーそろそろ俺の羽根がバーニンだわー」

 

 

 バーニンってなんだ。バーニングか。フカ、お前はイカロスか。

 人には厳しいくせに自分はロケットのてっぺんで写真用アイテムをブンブン振るもんだから落武者男、それどころじゃないフカを除く女性陣から総スカンである。でもまあ、そのアイディア自体は別に悪くはないんだけど。

 さて、一回話題をフカに戻して。どうやらそろそろ彼女の滞空限界が近いようである。一応既に墜落すればただでは済まなさそうな高度にまで飛んでいるので、最後尾のプレイヤーは飛行限界ギリギリの瞬間で落下を開始して、地面との激突瞬間にちょびっとだけ残した滞空猶予を使って不時着する……と、グラント達は前もって取り決めていたのである。

 

 

 「はぁ…はぁ…はぁ……。なんだよ、結構飛べんじゃねぇか。ふっ……」

 

 「何かフカ次郎ネキが言い出したぜパイセン」

 

 「うーんそっから始めちゃー間に合わないんじゃないかなぁ」

 

 

 そして、フカ次郎がそろそろ限界である事を四人も悟り、次に最下部を担当するハルキが羽根を実体化させて身構える。

 

 

 「なんて声出してやがる……マソップ……グラントぉ……!!」

 

 「あー引っ込みつかなくなってる奴だー」

 

 「もし打ち切りになったらギルティだぜ」

 

 

 どっかの死にかけの団長みたいな事言い出したフカに、グラントとマソップ容赦ない追撃である。

 

 

 「俺は、シルフの歴戦のプレイヤー、フカ次郎だぞ。こんくれぇなんてこたぁねぇ……」

 

 「あー、あーもう、もう良いから早く降りなって、墜落しちゃうよー??」

 

 「いや、そこまでやったんならむしろ最後まで通すべきだぜ常考」

 

 「もうやめてマソップ、フカ嬢のライフはとっくにゼロよ!!」

 

 

 空気読みなさいマソップ。散々煽られちゃって引っ込みがつかなくなってるフカ次郎、歯をガタガタ言わせながら必死に言葉を続ける羽目になってる。残酷か。

 

 

 「……仲間を守んのは俺の仕事だ。

 俺は止まんねぇからよ、お前らが止まんねぇかぎり、その先に俺はいるぞ! だからよ、止まるんじゃねぇぞ……!!」

 

 「ダウトー! 止まんねぇ限り道は続く、の下りが省略させてるぜー!!」

 

 「マソップ嬢最近ちょっと引用の精度が上がったからって他人を煽っちゃダメだよー?」

 

 「……いい加減二人とも黙ってくれよ!!」

 

 「ハルにゃんに一票だにゃん!!」

 

 

 めっちゃわちゃわちゃする上二人に下二人がガチギレ寸前状態である。そんな中セリフを言い切って解放されたとばかりにロケットから切り離されたフカ次郎が、とても安らかな笑顔で地上へと落下していく。

 

 

 「うおぉっ!? こ、これは結構バランス力が試されるぞ……燃えてきた」

 

 「うわあ、ハルくん、変なスイッチが入っちまったぞ……」

 

 「……思い出しますねぇ……(白目)」

 

 「思い出すって、何をにゃん?」

 

 

 フカに変わって殿になったハルキの力む様子に、またまたグラマソコンビが何か言い出した。ただ今回は別にハッスルしていないようで、気になったマロンが二人にその詳細を尋ねてみる。

 

 

 「い、いやぁ……その昔、何度かハルくんと練習試合やった事あるんだけどさぁ……」

 

 「パイセンの防御が崩れなくて、ハルキニキは意固地になってそれから数時間もの間パイセンを解放せずに打ち込み続けたっていう事件が何度かあったのだぜ。

 それでいて結局今の今までちゃっかりガードを崩させないパイセンも大概だがな、ぐぶぐぶぐぶ」

 

 

 練習試合、ようはSAOでの模擬デュエルの事だろう。何やってんのハルくん。そりゃまあ、この盾男防御力だけなら二刀流キリトすら撃退しかねないくらいのもんなんだぜ。ヒースクリフといい勝負ってくらいなのに、そりゃハルくんが敵うわけもなく。

 ……まあ、一応武芸者として見過ごせないっていう気持ちも分からないではないけど。

 

 

 「まあそれに限らず、ハルくん基本まともだから頼りになるんだけど、一回熱くなると、そりゃまぁ手に負えなくなる節があってですねぇ……」

 

 「あー……なんか心当たりあるにゃん……」

 

 

 まあインプのみんなをあれだけ猟奇的にけしかけたくらいだもんね。仕方ないね。眠れる虎は怖いんだなぁ。ハルくんのデフォルトを眠れる状態、とするならだけど。

 忘れちゃいけない。グラントのみならず、ハルキもSAOが誇るおバカの一人なのだ。

 

 

 「は、ハルにゃん、あんまりその、下で意気込まれると、その……」

 

 「マロン、今ちょっと黙っててくれ。……あんな軽いノリでフカ次郎さん、これをこなしてたのか……!!」

 

 「ううう……!!」

 

 

 しかし、おや。そうしてまた幾ばくかの時間が経過した後に、ハルキに現在肩車されているマロンが、何とも言えない悶々とした表情を浮かべ始めたぞ。その弱々しい声音に上二人も何かしらの異変を感じ、思わず彼女に問いただしてみる。

 

 

 「ま、マロンちゃん大丈夫かい? 何か只ならぬ雰囲気を感じるんだけど……」

 

 「大丈夫だぜマロンネキ、ここで漏らしてもハルキニキが被害を被る事はないぜよ。仮想世界だしな、ぐぶぐぶぐぶ」

 

 「にゃあああんダイレクトにいうなにゃん!!」

 

 「えっ」

 

 

 マソップ今日まじどーした、容赦ないにも程があるぞ。これには流石のハルくんも我に帰って頭上のマロンに注目する。

 

 

 「……いや、まだ大丈夫、大丈夫にゃん、ただ、ハルにゃんにあんまり動かれると……」

 

 「ハルくん、乙女のメンツがかかってる。自重なさい」

 

 「……お前にだけは言われたくなかったよグラント。あ、でも、そろそろ俺も飛行限界近づいてきたぞ」

 

 

 おお、これは良いタイミングである。……まさかハルくん、逃げようとしてないよね?

 

 

 「マロン、出番が終わったらすぐにログアウトしよう。君の身体はフカ次郎さんと俺で何とか受け止めてあげるから、心配しないで」

 

 「うう……ありがとにゃん……」

 

 

 ハルくんこういうところでは天使である。というか周りが悪魔だったのか。とにかく、そう気の知れたインプの友達に告げると、いよいよその場から離脱する為に身体から力を抜いて、

 

 

 「じゃあ、グラント。……頼んだぞ!」

 

 

 マロンの脚から手を離して、目下に広がる空にその身を投げたのだった。

 

 

 「……ん、やるだけは、やってみるさ」

 

 

 グラントはその意志を受け継ぐかのように、静かにそう頷くと、ロケットに残ったマソップとマロンに向かって声を張り上げる。

 

 

 「よーし! あと少しだ! やれるだけやってみようぜ!!」

 

 

 

 

 

 「にゃああんそれどころじゃないのにゃああん!!!」

 

 「わーっ! わーーーっ!! 悪かったよー!! だから今はやめてくれええええっ流石にフォロー出来ないからぁぁぁ!!!」

 

 「パイセンまで慌てててワロタ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……死ぬかと思った……」

 

 「ぐぶぐぶぐぶ、マロンネキの尊い犠牲に、敬礼!」

 

 

 犠牲になってません。これ重要。

 マロンは偉かった。ちゃんと自分の飛行限界まで我慢し切って、離脱した瞬間にログアウトしていったのだ。ちなみに既にその人間ロケット……既にグラントとマソップだけになってしまったそのロケットはアルンの遥か天空を舞っていて、高度的にアルンの安全圏エリアからも脱してしまっている。というわけでログアウトしたマロンのアバターは今現在真っ逆さまにアルンに向かって落っこちてるのだけれど……まあそちらはハルくん達に任せるとしよう。

 っていうか、よく考えたら仮想世界で漏らしそうとか、あんのか?

 

 

 「それにしても、もうかなり飛んでるはずなのになぁ……まだ世界樹の下に垂れる枝一つにも差し掛からないなんて……」

 

 「まあ、キャパ的にはあり得ない話ではないんだぜ常考。

 パイセン忘れたか? ここはSAOのコピーサーバーだぜ、アインクラッドの一層から百層までが丸々入る程の3D空間が、デフォルトで搭載されてるんだからなー」

 

 「なーるへそねぇ……そう考えたら確かに納得かも……」

 

 

 確かにそうだ、一万人ものプレイヤーを収容しても定員オーバーにすらならないあの浮遊城をすっぽりと包むくらいには高さのあるオープンワールドなのだ。その高度をフルに活用して世界樹が形成されているというのなら、その規格外な大きさも納得のいくものである。

 

 

 「……もしこの世界樹の上に都市を作っているのなら、二つ揃って相当な手間が掛かってるとしか考えられないよねぇ……これだけのデータをラグやバグを殆ど発生させずに稼働させてるんだから……」

 

 

 だからこそ、疑わしいのも事実ではあるのだが。つまり、それだけ世界樹と空中都市という大規模オブジェクトに製作の手間を掛けているのに、そこにプレイヤー達を立ち入らせないというのは不自然である、という意味で。

 

 

 「な、パイセン」

 

 「……んん、どったのマソップ嬢」

 

 

 と、その事に関してグラントが思慮にふける前に、彼を背負うマソップが質問をした。

 

 

 「……パイセンは、この事をハルキニキにはどう説明するつもりなんだぜ?」

 

 

 先程グランドクエストにてグラント達に助太刀してくれたハルキに対し、その盾男は事情も話す事なく自分のすべき事に彼女を付き合わせたのだ。それに対し何も聞かずに協力してくれた彼女には……ちゃんと今自分が何の為に動いているのか、それを説明するのが筋というものではないだろうか。

 

 

 「いや、詳しい説明はよそう。マソップもなるべく控えてくれると助かる」

 

 

 だが、そんなマソップの問いにグラントは上方に臨む世界樹の枝を見やると……やんわりと首を横に振った。

 

 

 「ハルくんはSAOにログインするまでゲームをプレイした事なかったって言ってたし、このALOが、彼女にとっては人生初めての、遊びとしてのゲームになる筈なんだ。

 せめて、デスゲームから解放された今くらい……ハルくんには、普通のゲームを楽しんで欲しいな。俺達が今やってるような面倒ごとに、なるべく巻き込まれて欲しくない、かなぁ」

 

 「……ワイにはよくわからんな。世界を調査するんだから、人手は多い方がいいと思うぜ常考」

 

 「……いつか、わかる日が来るよ。マソップなら」

 

 

 人間の習性や行動についてデータとしては理解していても、その細かい機微を把握するにはまだ経験の浅いらしいマソップは、その頭上から降りかかる言葉を意外そうに聞いた後に、ぶすっと呟く。それをグラントは笑って宥める。彼はいつの日かマソップがその様な配慮や思いやりを理解できる様になる事を確信していたのだ……例えそれが、万人にとっての最適解ではない独善的なものだったとしても。

 

 

 「……でも、パイセンがハルキニキを大事にしてるってことは、よく分かったぜ。

 とゆーわけで、爆ぜろ、リア充っ!!」

 

 「ちょっ……なぁあああっっ!?」

 

 

 そして、そんなグラントの様子に悪戯の様な表情と、あとちょっぴりの羨望の色の混じった顔を浮かべると、仕返しとばかりにマソップは両手で、グラントを思い切り空中に押し出した。……この瞬間、マソップの飛行時間は底を尽きたのだった。

 

 

 「ま、マソップ嬢!? 一体……!?」

 

 「そう言う事なら、パイセン……早くみんなでまた『遊べる』ように、このALOの謎を解き明かそうぜい!!

 羽根が羽ばたく限り……飛べーい!!」

 

 

 それは確かに、精一杯のマソップの逆襲だったと言ってもいい。なぜなら、あれだけSAO内では内向的で、動的な行動を控えていたはずの彼女が……今この瞬間だけ、目を大きく見開いて拳を突き上げ、「感情」を露わにしていたのだから。

 

 

 「……よーし! やったらぁぁぁぁ!!」

 

 

 ここでヘタったら、男じゃない。そう思ったグラントは、左手を立てて握るような動作をして、飛行補助コントローラーを実体化させる。

 そして、その出っ張ったボタンを親指で押し込みながら……力一杯手前に引く!

 

 

 「う……うっひょおおおおっ!?」

 

 

 途端にグラントの背中にサラマンダーの赤い羽根が現れて、その身体が猛スピードで急上昇を始めた。

 五人分の飛行とは言っても、はじめのフカ次郎やハルキの頃の飛行は上に負ぶさる人数の分だけ質量の負荷がかかる為、飛行速度もそれに伴ってやや緩やかになっていたと言える。それに対して、今のグラントは正真正銘、自身以外で一切の重りのない……フライトするに最適な状況下なので、その速度はロケット発射当初と比較すると倍以上にまで高速化しており、思わずその暴力的なまでの浮遊感に心が怖気付きそうになる。

 だけど。グラントにとってこの挑戦だけは、誰にも譲る事が出来ないものだった。皆の前では馬鹿みたいに振る舞って……いや、あれはあれで別に演技じゃないんだけど。

 でも、自分が今まで考えていた事、このALOを一つの世界として守りたいという気持ちが、決して無駄ではなかった事を知った以上……ここで引き下がるわけには行かなかったのだ。

 

 だって。彼女は、確かにこの世界に来てくれたじゃないか!!

 

 

 「とっ……どけよおおおっ!!」

 

 

 身体を切る風の音がグラントの聴覚を支配する。加えて空気抵抗が風の塊となって顔にのしかかり、思わず目も詰まってしまう。それでも負けじと、気の遠くなる程の時間、補助コントローラーを更に更に手前にグイグイ引いて……。

 その瞬間だった。

 

 

 

 

 

 (……あれっ?)

 

 

 

 

 

 

 抜けた。

 それがグラントの抱いた第一印象だった。

 つまりは、先程まで全身を襲っていた風切る音や風圧が、ある地点より上昇したところでぴたりと止んだような、そんな感覚。雲や風といった環境エフェクトの範囲を突破したその先にある、いわば虚無の世界。

 

 

 「せ、世界樹は……!?」

 

 

 目を開けて、急いで世界樹を見上げる。やはりまだ高度として、世界樹の一番下の枝にすら届かない状況に変わりはなかったのだが、それでも先ほどと比べれば大きな前進だ。少なくとも枝の外見を目視できる範囲にまでは到達している事が分かったのだから。

 グラントは先程からなんとか右手に握りしめていた写真用アイテムを顔の前に持ってくる。これには撮影用にズーム機能が付いているはずだ。ちょっと覗いてみようじゃないか。

 

 

 (どうやら、少なくとも世界樹の上に「道」があるのは確定、らしいね……)

 

 

 写真用アイテムの倍率を上げて覗いた先では、確かに枝の中央に人工的に道が作られている様が映っている。なのでこの世界樹がプレイヤーが出入りできるマップである事は間違いないようである。

 そして、グラントの頭上にはまだまだ多くの枝が迷路のように蛇行し分岐し、さらにその上には世界樹の葉に覆われた未知のエリアが存在する。道が存在したのだから、そこに空中都市も実在する可能性は……現状では否定できないだろう。

 

 

 (くそっ、あともう少しで、あの枝に……って、ん?

 あれは、一体……!?)

 

 

 近いようで遠い枝との距離に苛つく気持ちを持て余した、その時。グラントは視界の奥に……とある一本の枝の先が、何やら金色に光るのを見て。

 しかし彼はそこで思考を中断せざるを得なかった。彼自身の、滞空時間が底を尽きたのである。

 

 

 「し、しまった……っ!!」

 

 

 くそっ、ここまで来たのに。彼は歯噛みする。もしこれまでの自分達の行動が運営側に知られていたら、次また同じような手が使えるとも限らない。何とかしてこのチャンスをモノにしないと。

 

 

 「まだ……だぁ!!」

 

 

 グラントは上昇から停止、落下までの一瞬で、枝の辺り、そして金色に光ったポイントに大体の検討をつけて、無作為に写真用アイテムを発動できるだけ発動させた。その動作に合わせて、何度もストロボのようにそれが明滅したのを確認する。

 取り敢えずはこうすれば、ピントさえブレてなければ世界樹の様子が少しは分かるかもしれない。ここまでやれば、現状では精一杯の事をやったと言えるだろう。これで許してくれよ、マソップ、みんな。

 あとは、思う存分、スカイダイビングを楽しむのみである。

 

 

 「どーだ。びびったか。レクトさんよぶるああああぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 スカイダイビングが始まった。ロングヘアーが宙に浮かんで狂喜乱舞し、瞼や口の中に物凄い勢いで風が入ってきて顔がすんごい事になってる。見られたらヤバいやつだ。絶対黒歴史になるヤーツだ。

 だけど、そんな事になりながらも……グラントの意識は、眼下に広がる雄大なアルヴヘイムの世界に向けられていた。

 世界樹を囲むように聳え立つ山脈の向こうには、サラマンダー領の砂漠地帯やシルフ領の森林地帯を始め、プーカ領には雄大且つ悠久な草原が緑一色に広がり、ウンディーネ領やケットシー領では海が陽光に反射して煌めいている。インプ領はその地理的特徴からやはり暗がりにしか見えなかったが、スプリガン領、レプラコーン領、ノーム領にはそれぞれの土地に遺跡や大きいレンガの家屋、谷をくり抜くようにして存在する集落が黒点の様にぽつりぽつりと見て取れる。

 みんな、この世界で生きている。グラントは思った。それは本気で生活している訳ではないかもしれないけれど、みんなそれぞれのやり方で、この世界で楽しみを見つけようとしている!

 

 

 (ああ)

 

 

 ぐっちゃぐちゃの顔で、一つため息をつく。その景色を見られただけでも、俺はここに来て良かった。アインクラッドから引き継がれた仮想世界は、確かにこうして生きているのだ。かつて自分が愛したあの世界の事を、このアルヴヘイムは確かに受け継いでいるのだ。そんな、SAOとALOという二つの世界が混ざり合った、螺旋世界。

 

 

 (……俺はやっぱり)

 

 

 やがてアルンが目に見えて近づいてくる。現在グラントは隕石の様にもの凄いスピードで地上に接近しているので、恐らく墜落した際には衝突によるダメージでヒットポイントを全損させてしまうだろう。その事実は彼を()()()()()()()()()()のだが。

 だがやがて下方から聞こえてきた、自分を呼ぶ声を聞いて、グラントは今度はまた違った意味で仰天する事になる。

 

 

 「……グラントーーーっ!!」

 

 (は……ハルくん!?)

 

 

 見ると、まるで落下するグラントの軌道を横に逸らそうとするかの様に、遙か下方からハルキが全速力で斜めに向かってきているではないか。彼は慌ててその無茶な真似を止めさせようと口を開こうとして……直後にものすごい量の空気が口に侵入して、慌てて咳き込んで泣く泣くその相棒に目で訴えようとして。

 そして、見たのだ。彼女が、あのアインクラッドでたまに見せてくれた、満面の笑みを浮かべているのを。

 

 

 (……ああ。やっぱり。俺は、この世界が、好きだなぁ)

 

 

 そして、二人は大激突した。

 

 

 「ぶるああああぁぁぁぁっっ!?」

 

 「う、うわっ、わあぁぁぁぁっ!!」

 

 

 二人が二人揃って奇声を上げながら、それでもハルキの決死の体当たりが多少は功を奏したのか、その落下の軌道は真下からやや斜めにその向きを変えていた。そうして一瞬の後に彼等は……世界樹の麓の周辺に空中浮遊する、表面がまるで滑走路の様に細長い草原になった足場に叩きつけられたのだった。

 

 

 「だ、旦那!? ハルさん!?」

 

 「だ、大丈夫なのかにゃん!? だ、誰か、蘇生魔法にゃん!」

 

 「……ぐぶぐぶ」

 

 

 それを見ていた他の三人……グラントよりも早くロケットから切り離されて一足先にアルンに帰還していたフカ次郎、マロン、そしてマソップが、慌てて二人の元に飛んで駆け寄る。辺りには衝突時に発生する煙幕エフェクトが漂っていて、二人の生死は定かではなかったが。

 

 

 「……ははは」

 

 

 やがて聞こえた笑い声に……三人はその滑走路状の足場に降り立って、顔を見合わせた。そして、次第に晴れていくその煙の奥を見やってみると。

 

 

 

 「あはははっ! あははは……!!」

 

 

 

 ―――そこには、ぺたん座りをしながらまるで子供の様に屈託のない顔で大笑いするハルキと、彼女の下敷きになりながらも、その様子をポカーンと見つめているグラントの姿があったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うーい、やあやあグラさん、楽しんでるかーい??」

 

 「雰囲気酔いである事を祈るよフカ嬢」

 

 

 あたぼうである。このALOにてプレイヤーを泥酔状態にさせる様な付属効果の付いた飲み物なんて存在しないのだ。そんなのあったら健康に悪いし色々と問題だろ。……SAOには未公開アイテムとして存在したらしいけど。

 と言うわけで、グラント達のあの無謀な挑戦から暫くして。すっかり夜になってしまったアルヴヘイムの中心、アルンにて、彼等五人は取り敢えずの全員生還と、世界樹攻略の為の裏技発見を祝して、現在街の酒場エリアにて他のパーティーと合同で打ち上げを行っていた。

 そしてちょいと休憩とばかりに酒場のテラスに向かったグラントが、なんか追っかけてきたフカ次郎に絡まれて……今に至るのである。

 

 

 「おいおーいまっさか旦那ともあろうものが、こんなもんで終わらせようと思ってないだろうなぁ〜? アルンの夜はこれからだぜぇ〜?」

 

 「それ他の人の前じゃ絶対言わないでよ、絶対だぞ?」

 

 

 流石に色々とアブナい台詞である。まあ深い意味がない事はグラントも良くわかっているので特に何も感じなかったが、あんまり無用心だとアレだぞフカ次郎、気を付けなさい。

 

 

 「ほら、向こうにめっちゃイケメンいるよ? 見た感じ手持ち無沙汰っぽいし、フカ嬢行ってきたら? ……さっきの言うのはナシな」

 

 「ガッテン承知の助〜! ちょっくら行ってくるさー!!」

 

 

 流石はイケメンに目のない残念美人。グラントの策略にまんまと乗って向こうに走って行ってしまった。そっちにはなんかめっちゃゴツいノームのオッサンしかたむろしていないというに。

 

 

 「パイセン……お主も悪よのう」

 

 「いえいえ、お代官様ほどでは……って言うかフカ嬢に俺の居場所を教えたよね?」

 

 「フヒッ」

 

 

 一難去ってまた一難。と言うわけで次にやって来たのはマソップだった。相変わらず全身をロープで纏ったそのケットシーは、先程宴会芸とかいって夜空にガドリングガンの様に魔法を撃ちまくって、酒場中のプレイヤーの注目の的になったばかりである。あのSAOでの監獄エリアに潜んじゃうほどの慎重さはどーした。

 

 

 「……それで、写真の方はどうだったんだぜ?」

 

 「うーん、一応取れたし、ピントもズレてはいないんだけど、でも詳しい事はやっぱりそっちで調べてもらえると助かるかなぁ」

 

 「ぐぶぐぶぐぶ、がってんだぜ。こんなのリンリンの力を借りなくてもワイがちょちょいと解像してやるんだぜ」

 

 「ん、助かるよ」

 

 

 

 テラスに二人で寄りかかりながら、それとなく会話。これもなるべく人に注目されない為の一つの措置だったりする。当然だ、彼等のしている事は、場合によっては運営を転覆させかねない要素をも孕んでいる可能性がある上、未だ目覚めぬ三百人のSAOプレイヤーの命にも関わるやもしれないのだ。おいそれと他人に漏らして良い事柄でないのは明白である。

 だと言うのに。その不文律は、次の瞬間グラントによって打ち砕かれようとしていた。

 

 

 「あと、マソップ。一応後で神代さんにも相談するけど……この写真、場合によってはALOのコミュニティサイトとかで拡散、とか出来ないかな」

 

 「……情報を公開する気なんだぜ?」

 

 「うむ。あまりに運営にとってヤバそうなやつだったら、ちょっと考えるけど。

 もしかしてレクトにはALOプレイヤーにグランドクエストをクリアさせる気がないのかもしれない、って認識を、都市伝説レベルでいいから世間に広めておいた方が、将来への牽制にはなると思うんだよね」

 

 

 もちろん、先程も述べた通り、ただ位置的な都合からグラントには見えなかっただけで、本当に空中都市が用意されている可能性は否定できない。だがグラントが撮った写真……道はあるものの、それ以外に何一つとして人工的な施設の無い殺風景な枝の写真を大衆に見せれば、少しでも彼等の危機感を煽る事が出来るかもしれない。

 

 

 「またロケット式に飛ぶにしても、今度は五人どころか数十人で飛んだって枝にすら届くかすら分からないんだ。でも、今のままじゃ俺達に人を集めるだけの材料がない。その辺りをSAOでは『純傑』君が担ってくれてたんだけどさ」

 

 

 確かに、はじまりの街にしろ、中層プレイヤーにしろ、当時グラント帝国が現地プレイヤーからの信頼をある程度得ていたのは、よく考えればハルキがそれまでに積んだ善行によるところが極めて多いのである。だが今回、グラントは彼女を巻き込まない道を選んだのだ。その上で人々の目を集める為には、それだけの、信頼に足る情報の開示が必要だった。

 

 

 「……パイセンの言いたい事はよく分かったぜ。でもそれは今すぐ即決、って訳にはいかない案件だぜ常考」

 

 「そうだね。現実世界で、神代さんともちゃんと話し合おっか」

 

 

 「話し合うって、何がにゃん?」

 

 

 うわっ!? とグラントはその場を飛び退く。見ると、そこではマロンが、彼の驚きように首を傾げていた。

 

 

 「び、びっくりしたー……いやいや、こっちの話。あんまりマソップが他のパーティーの面子と大騒ぎするから、ちょっと話し合う必要があるって」

 

 「月夜ばかりと思うなよ」

 

 

 突然の落武者男の裏切りに倫理観のかけらもなく叫ぶマソップに、マロンはしかめっ面を浮かべる。

 

 

 「もー、マソップにゃんは悪い子だにゃん! こっちに来るにゃん、こうなったら一から教育し直してあげるにゃん!」

 

 「どうしてこうなった!r( ^ω^ )ノ」

 

 

 顔文字やめいマソップ、トミィの特権ぞ。

 それはともかく、可愛い女の子でもないくせに舌を出してゴメーンと合図を送るグラントの目の前で、マソップはマロンに連れられて酒場の奥へと姿を消して……。

 

 

 「あ、あとグラにゃん!」

 

 「あ、はい何すか」

 

 

 唐突に名を呼ばれたグラントが返答すると、酒場へのドアを半分潜った状態で、マロンは彼にニカッと笑うと、

 

 

 「えっとね、今からグラにゃんのところに、すっごく可愛い女の子がやってくるのにゃん! 衣装もこのマロンにゃんが一緒に選んであげたから、問題ないのにゃん!

 どうか、褒めてあげて欲しいのにゃん!」

 

 「……可愛い、女の子? え、俺に? ……あ、はい」

 

 

 まあ、唐突にそんな事言われたってびっくり半分、おっかな半分、ちょっと嬉しいって感じだよね、分かるよ。うん、分かるよグラント。そんな彼を見て、マロンは満足げに酒場の人混みの中に消えていったのだけど。

 でもさグラント、お前打ち上げでやってくる可愛い子って、このパターンで二回目だろ。メンバー的にも察する事は出来なかったのかい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……グラント?」

 

 

 

 

 

 

 「…………どしたの、それ」

 

 

 振り返ったグラントの先には、確かに美少女がいた。

 ラベンダー色で仄かに光沢のある生地を三段、フリルのように重ねたスカート部分と、首元に広がる紫色のアネモネの花(みたいな花)が印象的なそのドレスを見に纏って、もじもじと両手を重ねて目を泳がせているのは……少々見た目が変わっても見紛うはずも無い、あの剣客少女、ハルキだった。

 

 

 「え、えっとだな……さっき、マロンと一緒に買ってみたんだ。

 ……その、あの時のドレスに、似てるだろ」

 

 

 確かに。あの時……数ヶ月前にはじまりの街にて、軍の解散が宣言された夜にグラントが彼女に贈ったあのフリル付きのドレスに、今の格好はどことなく雰囲気が似ているところがあった。

 

 

 「……あー、えっと、その……うん! とっても似合ってます、とっても……すごく」

 

 「あ……はは。そんなにびっくりされると、それはそれで、こっちも緊張するだろ……」

 

 

 だが、あの時は彼女が変に男らしく振る舞うことからの卒業の意味も兼ねての変身だったのに対して、今度は純粋なおめかしである。それが彼女にとってどのような意図があるのかがさっぱり分からず……というか上手く考えられず、グラントはその場でドギマギしながら硬直してしまっていた。

 そりゃそうだ、控えめな肢体とは言ったが、それを持って有り余るほどには彼女はもともと可憐な美少女なのである。普段は男っ気がそれを相殺しているだけで。……ALOじゃアバターはランダム生成だけどね?

 

 

 「でも、どうしたの……? また、何か嫌な事でもあった……?」

 

 

 完全に当てられてしまいながらも、そのイレギュラーなイベントになけなしの思考を働かせて、グラントはそう尋ねる。また自分らしくある事に対して、何か思うところが出来てしまったのだろうか、と。

 だがその問いをハルキは苦笑いして否定すると、意を決した様にグラントの方に一歩、詰め寄った。

 

 

 「なぁ、ちょっと手を貸してくれよ」

 

 「へ? 手?」

 

 「そ、両手」

 

 「は、はぁ……って、おおお!?」

 

 

 訳もわからず彼女の指示に従ったグラントのその両手を掴むと、ハルキは突然羽根を広げて、グラントを連れて酒場の遥か上空まで飛び上がったのだ。幸いそのテラスには誰もいなかったので、その行動が他人の目につく事だけは避けられたが。

 

 

 「え、えっと……?」

 

 「フカ次郎さんに教えてもらったんだ、何でも彼女も知り合いから教わったらしいんだけどさ。

 グラント、ホバリングは出来るんだろ? そのまま、横に移動できるか?」

 

 「え……あ、うん」

 

 

 出来るのかよ、飛べないのに。それ結構高等テクなんだぞ。後にリーファさん――恐らくフカに教えたのも彼女だろう――がもう少し洗練されたのを開発するんだけど。

 

 

 

 

 それを彼女はこう呼ぶのだ。

 ―――フェアリィ・ダンス、と。

 

 

 

 

 「お、そうそう! ……じゃあ、まあ、後は適当に、な」

 

 「適当にって……うわっ!?」

 

 

 そして、少女はグラントの手を引いて、アルン全体ににわかに流れてくるBGMに合わせて……踊り出したのだった。

 以前は小っ恥ずかしすぎて歌舞伎踊りを始める大失態を犯したハルキだったが、彼女自身は実家の……要は鈴風流の方針としてほんの少しだけ剣舞を嗜んでいて、その類の身体の動かし方には多少精通している。なのでフカ次郎から宴会の席で教わっただけでも、その妖精の踊り方をある程度再現出来た上、そんな素養の全くないグラントを適宜引いたり押したりしてリードする事が可能なのだった。

 いや、おかしいだろ、フォローがリードって。まあ、だから完全再現ではないんだけど。それにぶっちゃけ夜空丸ごと使えるから転倒とかないし、誰に見られてないしで割と何でもありなのである。

 

 

 「なあ、グラント。どうかな、俺、綺麗かな」

 

 「……ん、すごく、綺麗だ」

 

 「……そっか」

 

 

 手と手だけで繋がれた状態で、二人の体が大きく離れる。

 

 

 「俺さ、あの世界が終わって、やっと現実に戻れたってのに、ずっと何かやり切れなくてさ」

 

 「……うん」

 

 「俺達、頑張ったよな。茅場晶彦に正面から喧嘩吹っかけて、しかもシステムエラーまで起こしてやって、ギリギリまで粘って……あの世界を肯定したいって思って、その為にやれるだけの事は全部やったつもりだった。

 なのに、俺なんでか、まだやり残した事がある様な気がしてて。『ハルキ』としての役目はもう終わったと思ってたのに、俺は……まだハルキで居たがってた」

 

 

 グラントはその時、自分の周りをそれこそ妖精の様に軽やかに舞うその少女から、まるで魔法の粉の様に何かきらりと光るものが後を引いているのに気づいた。

 ……ハルキの、涙だった。

 

 

 「それで、俺はここにまたやって来たんだ。俺が突き止めなきゃいけないものって、何なのか。胸を張って、あのSAOでの日々が楽しかったって言うためには何が必要なのか、それを知りたくて……グラント、お前に会おうと思ったんだ」

 

 「俺に……会おうって……?」

 

 

 普段の彼女からすると考えられないくらいにあまりにパーソナルな理由に……しかもその渦の中心に自分がいるという事実に、グラントは面食らって彼女に聞き返す。

 

 

 「ああ、そう。あの世界で長いこと一緒にいたお前とまた会って、何か一つまた馬鹿なことやれたら……何かを思い出すんじゃないかって、そう思った。

 だけど実際にやってみて、気付いたんだ」

 

 

 最後にグラントの目の前でくるりと一回転した後、ハルキは両手でグラントの腕を持って、彼に笑いかけた。

 

 

 「―――ものじゃない、気持ちでもない。

 人だったんだ。誰かと行動を共にして、共に戦って、辛いことや苦しい事を分かち合って、そうやって誰かと絆を結んでいる事が、現実世界と本質的に何も変わらない、俺にとっての生き甲斐だった。

 トミィやオルス、マソップに、北海いくらやシンカーさん、はじまりの街のみんなに、中層プレイヤー達のみんな……そして。

 そして何よりも、グラント、お前との絆が、俺が現実に戻って、失ったものだったんだ」

 

 

 グラントが彼女の泣き笑いを見たのは、これが二回目だった。

 だが一回目のそれと今度のは、彼には全く別のものの様に思えた。あの時の彼女は自己否定感に押しつぶされそうになっていたが、今は違う。彼女が流しているのは……きっと、嬉し涙だ。

 

 

 「グラント。俺はお前に、本当に色んな気持ちを伝えたいけど……口下手だし、イマイチ纏まらないし、頭がパンクしそうでそんなのいちいち口に出す事は出来ない。

 だから、一言で言わせて欲しいんだ。ちゃんと、それだけで全部お前に伝わる一言を、言わせて欲しい」

 

 「……ハルくん」

 

 

 満天の星空。それは今の二人に、いつぞやの最終決戦の場を想い起こさせていた。あの戦い自体はどんなに控えめに言っても楽どころか、最悪だったとしか言えない状況だったのだが。

 だけど、そんな中でも、二人は二人ともあの場所を、どこか特別な場所として記憶していたのだ。それはきっと、グラントがあんまりな理由でハルキにプロポーズをした……からではなく。

 「必ず会いに行く」と、どこか運命じみた約束を交わした場所だったから。

 だからこそ、ハルキはあの父親との試合の場で見出した気持ちを、彼に伝えようと決心していたのだ。

 

 

 「グラント」

 

 

 だからこそ。

 ソードスキルを持たない剣士は、武器を持たない盾男の胸に、そっとその身体を預けて、告げたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……お前が、好きだ。

 許されるなら、ずっと、共にいたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

DISCONNECTION

POWER DOWN

 

 

 

 

 

 

 

 ……そして、次の瞬間、ハルキは意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……え」

 

 

 突然、自身の胸の中でずしりと重くなったその少女に、グラントは慌てて彼女を抱き起こそうとして……。

 その深紫の瞳の焦点が、まるで合っていない事に気が付いた。

 

 

 「は……ハルくん!? ねぇ、ハルくん!!」

 

 

 そして、彼のその叫びも、彼女には届かなかった。

 

 

 

 

 

 

 なぜなら、次の瞬間には、グラントが抱えていた筈の少女の身体は、まるでそれ自体が幻であったかのように霧散してしまったからである……。

 

 

 




 
マソップ「紫色のアネモネの花言葉は」



マソップ「『あなたを信じて、待つ』」
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