SAO (シールドアート・オンライン)   作:ニモ船長

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「死んでもいいゲームなんてヌルすぎるぜ」




マソップ「まさかの公式イwキwリwトw」


マソップ「あれ、パイセン?」
 


第十話 大きな(×栗の)木の下で

 

 

 「……この子は、人前で話す事が苦手な子でしてね」

 

 

 2025年、1月22日。午前十一時半。

 東京都調布市に位置する某病院の一室にて、その男……痩せた身体ながら高い身長を持った、親しみやすく、或いは頼りなさげな雰囲気を持った男性は、静かに話し始めた。

 

 

 「ものをすぐに早とちりして突っ走っていくから、他の子ともあまり足並みが合わなくて。いつも友達の間では仲間外れにされがちだって、小学校の教師からも度々指摘されるほどでした」

 

 

 彼はそう言いながらも、目の前の少年……病室のベッドに横たわり、頭にナーヴギアを被ったまま昏睡する、まだ二次性徴を経ていない幼く小さな身体の少年を柔らかい目で見つめる。

 

 

 「でも、ただの目立ちたがり屋と言うわけではなかった。この子がそうして先走ってしまう理由は、いつも自分の周りの友達や家族の事を子供なりに考えていて、常に自分が何かをしなければいけないなんて変な責任感を感じているからなんです。

 この子は、そういう子だった。誰よりも優しくて、純粋な子だった」

 

 

 ……だが、彼の両目からは、そのあたたかな言葉とはまるで対照的に、大粒の涙がぼたぼたと流れていた。

 

 

 「……どうして、どうしてそんなこの子が、こんな酷い仕打ちを受けなければならないんだ……!!

 全部、全部あの、茅場とかいう男のせいで、うちは無茶苦茶に引き裂かれてしまった……!!」

 

 

 そうして、男は急に右手を振り上げて拳を作ると、何度も何度もそれを自身の座る椅子の手摺りに叩きつけた。まるで発作のようになされるその行為は今日が初めてのものではないらしく、その手摺りには修繕用のテープが何重にも巻き付けられている。

 

 

 「富井さん! 落ち着いてください!」

 

 

 やがて病室にはその騒音を聞きつけた看護師が駆けつけて、彼のその行動を止めるべくその腕を両手で押さえる。するとその男は我に帰ったように拳を開くと……その、指の爪で切ったのかだらだらと血を流す手をだらんと下げて、その場で咽び泣いたのだった。

 

 

 「……信田君、といったね。君は、息子とこのSAOというゲームの中で行動を共にしていたと聞いているよ。

 君にここに来てもらった理由は他でもない。教えてほしいんだ。君が見たこの子の事を。この子は既に、その……死んでしまっているわけじゃないと、あの世界でも生きたと言う確かな確証を……私に、そしてこれからここに来る妻にも、聞かせてくれないか」

 

 

 そのようにその男が懇願した先には、一連の様子をベッドを挟んで廊下側の椅子に腰掛けていた青年、信田玄太郎がいたのだった。

 

 

 「……この子は、初めて会った時はそれは不思議な奴でしてね。何せ全身鎧づくめだったし、ゲームの中でも変に偏った育ち方をしてたから、俺もかなり手を焼きましたよ」

 

 「……はは、そうでしたか」

 

 

 こう言う真剣な場だから余計な茶々は入れたくはないが、それでも一言、お前人の事言えないだろ落武者男。

 

 

 「……でもお父さん、あなたの言う通りですよ。

 この子はいつだって真っ直ぐだった。まあ、妙に煽りが目立つところもあったけど、うちのメンバーが行方不明になった時誰よりもそいつを心配してたのはこの子だったし、なによりも……彼はまだ子供なのに、一人で街の外に出て命の危険に身を投げながら、それでも強くなろうとした、そう言う奴でしたよ」

 

 

 ―――ベッドで眠る少年の名前は、富井拓也。

 かつての浮遊城にて「トミィ」の名を冠した、全身鎧、両極端フットワークの持ち主にして、「グラント帝国」の欠かせないメンバーの一人だった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『おっ、パイセンどうだった、トミィチュワァァンの様子は?』

 

 「ん、まあなんというか、キミノソ-ツォ-トォ-リダヨ、うん。ナーヴギアを被って寝たきりってとこかな。

 でも、リアルの体が何かしら体調不良とか起こしてないかだけは心配だったからなぁ。そこが何ともなくて良かったよ」

 

 『なるほど、乙。こっちも一応オルスニキに探りを入れたんだがな。

 どうやら向こうはリハビリが終わった直後に母国に帰っちまったらしくて、連絡が取れなかったZOY』

 

 「そっかぁ……オルス氏がいればこっちも心強いし、何よりも会いたかったんだけどなぁ。

 ……じゃあこれで、後はハルくんだけか」

 

 『そういう事だな常考。ハルキニキの入院先は調べるまでもない、例の事件の際にニュースで報道されてたくらいだからな、ぐぶぐぶぐぶ』

 

 

 なぜ、秘匿扱いされていたトミィやオルスの入院先まで特定できたのか。

 まあ、とは言ってもタネはなんて事もない。あれ以降もグラント帝国の他のメンバーと連絡が取れるよう、玄太郎は幾度となく神代博士を介して彼女の知り合いらしき総務省の役員に打診を打っていたのだが。

 そうしたらなんと、逆にトミィの家族が彼とSAO内で過ごしていた人物と面会をしたいと、玄太郎とは別に総務省に申請を送っていたそうで、双方の合意が取れたという事で特別に接触が許可されたのだった。

 そしてオルスは……マソップがゴリ押した。うん。よく考えたらSAO被害者で在日でない外人ってかなり限定的なキーワードである、彼女がAIの本領を発揮してトンデモねー速さで日本中の病院に直接確認を取りまくって見つけたそう。

 

 

 『それで? ハルキニキの所には行くんだぜ?』

 

 「……いや、行かないでおくよ」

 

 

 だが、せっかくグラント帝国最後の一人にして、彼の一番の相棒の入院先も突き止めたというのに、玄太郎はそこへ行くつもりはないようである。代わりに彼はマソップとの通話を切らずに、今彼がいる病院のロビーに設置されたテレビから流れる映像を見る。

 そこではちょうど、あの彼女を襲った忌々しい事件の報道が為されている。

 

 

 『第一発見者は、地元に帰省で訪れていた一人のサラリーマンでした。新年の挨拶も兼ねて向かった先の民家で、インターホンの呼びかけに応じなかったことを不審に思い警察に通報したところ、屋内からは居住する一家二人のみならず、複数人の児童も含めて全員がVR機器を着用したまま意識不明の状態で発見されたとのことです』

 

 

 いや、おかしいだろ。玄太郎は歯噛みする。まず、インターホンに応じなかった程度で通報するのか。たまたま一家全員が新年の旅行で出向いていた可能性は考えなかったのか。

 それにだ。「VR機器を着用したまま意識不明の状態」って、それは端から見ればフルダイブ型VR機器を使用している人間がなるべき普通の状態ではないのか。それを見ただけでどうして彼らが自発的にログアウト出来ずに昏睡状態に陥っていると考えられるのか。

 

 

 (こんな分かりやすい違和感が、でも世間じゃ全く騒がれない。

 それが、今のフルダイブ型VR技術に対する偏見って訳か)

 

 

 玄太郎のような素人が考えても明らかに生じている矛盾点に、しかし大衆は「VR機器は人を社会的に抹殺する」という根拠のない偏見の為か気付くことがない。無論ALOをプレイしているようなユーザーは今回の事に関して少なからず違和感を抱いている人も多いかも知れないが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()には、SAO事件が残した現実世界への禍根は根深いのである。

 

 

 「……今俺がハルくんのところに行けば、レクトの誰かと接触しちゃう可能性がなくはないからなぁ。

 あの、第一発見者のサラリーマンとか、明らかに怪しい訳で」

 

 『ぐぶぐぶぐぶ。そいつがレクトの社員で、ハルキニキ達をALOに取り込んだ可能性も検討するべきだろうな』

 

 

 他の三百人のSAO生還者と違って、ハルキはまだ昏睡状態に陥ってから日が浅い。その間にリアルの彼女の容態を確認すべく、レクトから須郷の手先が遣わされるかも知れない。

 そしてマソップの言う通り、その第一発見者がそもそもレクトの人間である可能性を考えれば……今下手に情に動かされて身バレしてしまう危険性はなるべく避けるべきだろう。

 

 

 『了解したぜ。それなら、当初の予定通りにやるとするか』

 

 「ん、そうだね。……少なくとも、その前にトミィに会って家族に話を聞くことが出来て良かったよ。

 それで、マソップ」

 

 『おう、そっちはもう既に調べがついてるぜ定期。でも、どうやら接触するまでも無かったようだぜ』

 

 

 そのマソップの言葉に玄太郎は些か驚いた様子だったが、やがて少しだけ口角を上げると。

 

 

 「……じゃあ」

 

 『おう。そーゆーことだな。

 

 

 

 

 

 ……「彼」は、既に動き出しているみたいだぜ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いヤー、やっぱり無理ゲーだったネー! ドラゴンライダー隊をフル装備で総動員したのニ、全く歯が立たないんだからネー」

 

 「まあ、全滅しなかっただけましと言うものだろうさ。せっかくの投資が無駄にならなかった事を、ひとまずは祝おうじゃないか」

 

 

 さて、場面は大きく変わる。

 ここは妖精郷アルヴヘイムの中心、世界樹の麓の都市、アルン。夕焼け空の陽光を浴びて、オレンジ色に染まった巨大樹を囲むように存在するその都市の、数日前にはあの落武者男たちが多段ロケット式飛行による世界樹攻略を敢行した、あの北側に位置するテラスに……現在、ALOの歴史でも何度と見られない大軍勢が駐屯していた。

 細かく見ていると、そこにいるのはレジェンダリーウェポン級の装備を纏った、五十を下らない数のシルフの戦士達と、総員としては十人足らずの少数精鋭ながら、一人一人が神話に登場するかのように巨大なドラゴンを従えているケットシーの最終戦力、ドラゴンライダー達である。彼らはお互いの武功を労いながら、それぞれ治癒魔法を掛け合って減少していた体力を回復させているようだ。

 そして彼らの眼前で、彼らの領主である二人の女性……とうもろこし色に輝くウェーブヘアにその両脇から突き出た三角形の大きな耳を持ち、小麦色の肌の上からワンピースの水着に似た戦闘スーツを纏ったケットシーの領主、アリシャ・ルーと、和風の長衣の裾から覗く真っ白な素足に、深紅の高下駄を突っ掛けているダークグリーンの長髪を持つシルフ領主サクヤが、まるでどデカい一仕事を終えたかのように疲れ切った声で会話を交わしていた。

 

 

 「……サクヤ、アリシャ・ルーさん。

 今回は、あたしとおに……彼に協力してくれて、ありがとうございました」

 

 

 そこに歩み寄って声を掛け、感謝の意を述べたのは、シルフの中でも指折りのトッププレイヤーにして、今日までとある黒いスプリガン――言うまでもなくあの黒んぼ剣士である――と行動を共にしていた緑がかった金髪の少女、リーファである。

 彼女はどうしてもグランドクエストを突破したいと意気込んでいた、先述した黒んぼ剣士、誰とは言わないが黒んぼ剣士に協力して、今日までの三日間をかけてシルフの首都スイルベーンからここアルンに向かう旅の水先案内人を務めていた。

 そうして旅の工程だけでいえば先のグラントとフカ次郎とほぼ同じようなチャートでアルンに到着し、黒んぼとリーファは先程までALOの最終目標であるグランドクエストに挑戦していたのだが、その時に彼女達の援護に駆けつけてくれたのが、目の前のシルフとケットシーの連合軍だったのだ。結果として黒んぼ君はあの落武者男達が突破できなかったガーディアンの大軍を突破、しっかりと原作主人公としての格の違いを見せつけながら世界樹の上層に侵入していった……と言うのが、つい数分前の出来事である。

 え? レコン? レンコン? なにそれおいしいの? 

 

 

 「いや、気にする事はないさ。彼が提供してくれた大量の資金のお陰で、こちらもサラマンダーに匹敵する勢力を得る事が出来たんだ。

 今回の事は、その良い予行演習になったよ」

 

 「そうだネー。でも、サクヤちゃん、やっぱり現状じゃあやっぱりグランドクエストの達成は不可能に近いっていうのが、これではっきりしちゃった訳だけど、これからどうするつもりなのかナ」

 

 

 ふむ、とサクヤは暫し黙考した。

 確かに、今回彼女達は現在のアルヴヘイム・オンラインに存在するものの中でも特に最上級の戦力を持ってグランドクエストに臨んだのだが、それでも出来たことといえばあのスプリガンのプレイヤー一人を上へ押し上げたくらいである。もちろんこちらも総力戦ではなく、今回はなるべく犠牲を出す事を避けた、抑えめの戦法を取っていたのは事実だが……それでも、これはあんまりに難易度が高すぎるのではないだろうか。

 

 

 「……あの男、どこで何をしてるんだか」

 

 

 シルフ領主は嘆息して、ちらりと空を仰ぐ。彼のガイド役として派遣させたフカ次郎は数日前にスイルベーンには帰ってきており、彼女からグラントクエスト自体には失敗したものの、世界樹の外側から多段飛行を試みて上部の写真を撮った事は聞き及んでいたし、その後ALOの情報サイトにてその写真も確認している。

 だが肝心の彼からはあれ以来全くの連絡がない。こちらはせっかく将来を見込んでレネゲイドとしての彼に投資をしたと言うのに、これでは割りに合わないと言うものだ。

 

 

 「あ、あれ!? ちょっと、サクヤ、あれって……!?」

 

 

 だが、そこで彼女の思考は中断されることになった。突如としてリーファがその和服の裾を引き、アルヴヘイムに広がる夜空の一方を指差したのである。

 

 

 「さ、サラマンダー!? サクヤちゃん、サラマンダーだよ!!」

 

 

 そう、その指差された先から、大勢のサラマンダーの戦士達が、ここアルンに向かって進軍してやって来ているのが見えたのだ。それも、先日サクヤとアリシャ・ルーはアルン高原と呼ばれる中立域にてサラマンダーに同盟協定の調印式を襲われたばかりなのだが、当時と変わらずその頭数はかなりの数を誇っている。

 

 

 「……総員、戦闘態勢」

 

 

 アルンは中立域内に位置し、基本的に中立域に存在する都市では例え異種族間でもお互いを攻撃する事は出来ないのだが、少し前にキリトとリーファがここで戦闘を行なったように、アルンの中でも人通りの少ない、いわゆる「市街地」でない幾つかのスポットでは、その安全域としての制限が解除されている。 

 だからこそ、領主の矜持として反射的にそう告げたサクヤに従って、その場の全員が身構えた。いくらこちら側が最大火力を備えているとは言っても、物量で上回るサラマンダーに押し切られてしまう可能性も無いとは言えないのだ。

 しかし、である。

 

 

 「……これは、どういうことだ……!?」

 

 

 ……だが、やがてその場に降り立ったサラマンダー達は、そのシルフ・ケットシー連合軍を見るや否や戸惑いの声を上げ始めたのである。

 そして、そんな部下達の間を練ってサクヤとアリシャ、リーファの元へと歩み寄ったのは、つい半日前に例の調印式襲撃の際に顔を合わせていたサラマンダーの将軍、ユージーンであった。

 

 

 「……ユージーン将軍。この場で私達を討つ気でいるのなら、シルフ・ケットシーとの本格的な全面戦争はやはり避けられないものとなるぞ」

 

 

 表情に険を出しながら冷静に告げるサクヤと、彼女の前で長刀を構えるリーファ。そして、その言葉に合わせて自身の従える飛竜に乗ったアリシャ・ルー。

 だがその女領主達の前に立つ猛炎の将も……彼の部下たちと同じ様にその右手に魔剣を握る事は無かった。

 

 

 「……俺は、グランドクエストをシルフとケットシー両勢力が突破しかかっていると聞いて、その連合軍にサラマンダーも合流した方が良いというモーティマーの指示に従って駆け付けたまでだ。

 だが、これは……お前たち、グランドクエストは失敗したのか……?」

 

 

 そのユージーンの言葉に、その場の女性プレイヤー三人はそれぞれ呆気に取られた様な表情で、顔を見合わせる。

 

 

 「さ、サラマンダーが、協力だっテ!? ウチと? シルフと!?」

 

 「……俄かに信じがたいのだが」

 

 

 サラマンダーにおいてユージーンが「武」の象徴とされているならば、彼の実の兄であるサラマンダーの領主ことモーティマーは「知」の偶像となるほどの智将とされており、シルフ・ケットシー同盟調印式襲撃事件の黒幕でもある。

 だがその手腕は確かなものの、それでもサラマンダーの他種族における強硬的な姿勢はあくまで固持している節があるのだ。その彼が何を間違っても、他種族と、しかもよりによって敵対勢力であるシルフと正攻法で手を組もうとするはずもなく。

 

 

 「……一番耳を疑ったのは、他ならぬ俺だ」

 

 

 そして、その事は他ならぬユージーンが一番よく分かっている筈なのだ。だからこそ彼は只ならぬ違和感を覚えながらここまで飛んできたのだが。

 そしてさらに、来てみれば来てみたで目当ての二種族は既にグランドクエストへの挑戦を終えており、いよいよサラマンダー軍は混乱を極めていたのである。

 

 

 「なによ、それ……?」

 

 

 領主達の話を聞いたリーファは、何か嫌な予感を感じて腰に差していた得物の柄を握る。

 話を整理してみれば、サラマンダー領主ことモーティマーの突然の方針転換に伴って、サラマンダーもこちらに合流しようとしたという事になるのよね。だけど今回のグランドクエスト挑戦は、あくまでお兄ちゃんを世界樹の上に届けるためのもので、本格的な攻略をしようとしてたわけじゃないんだよね。仮にサラマンダー側がアルンにいる諜報部隊……とかからその情報を手にしたとして、シルフもケットシーも総力をここに持ってきている訳ではない事くらいは、あたし達の人数を見ればわかりそうなものだけど。

 

 

 「そのモーティマーさんって人、随分情報の仕入れ方がずさんじゃない……?」

 

 

 思わず漏れてしまったその言葉に、領主三人が揃ってリーファの方を向く。悪気はなかったとはいえ、敵対関係にあるサラマンダーの、しかも領主の悪口を呟いてしまった事に慌てて彼女は手を振って誤魔化そうとするが。

 

 

 「……いや、リーファ。君の言う通りかもしれない」

 

 「サラマンダーだって何度もグランドクエストに挑戦して、そのたびに全滅してるんだよネ。なのに、今のウチらの戦力でその攻略に至るって安易に考えるなんて、『知』のモーティマーらしくないんじゃないかナ」

 

 「……何が言いたいんだ?」

 

 

 しかし、立て続けにリーファの言葉に賛同するサクヤとアリシャに、ユージーンは当惑した表情を向けて……だが直後に一つの可能性に思い当たったのか、その鋭い眼をさらに見開く。

 

 

 「……なあ、ユージーン将軍。

 その指示は、モーティマーから()()言い渡されたのか?」

 

 

 

 

 

 

 「……いや。

 ジータクスと呼ばれる、わが軍のメイジ隊の隊長から、モーティマーからの伝言として伝えられたものだ……まさか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そのまさかだよーん! 騙してごめんねテペペロっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……全く、遅いぞ」

 

 「サクヤちゃん、この人の事知ってるノ?」

 

 「……貴様は……!!」

 

 

 三者三様。サクヤはあきれ果て、アリシャは興味深げに、そしてユージーンは忌々しいものを見る様に。

 そんな三種族の領主の……そして彼等を囲む大人数の中心に降り立ったその男は、文字通りテヘッと笑ってペロッと舌を出していた。その姿を一か月近く前のスイルベーンにて見たことのあるリーファは……思わず目をぱちくりさせながら、その名を呼んだのだった。

 

 

 「……グラント、さん!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「サク姐お久っす、連絡遅れてごめんち! アリシャ・ルーさんっすね、うちのマソップがお世話になってます。

 そしてユーちん! よぉくもまあ、この俺をサラマンダーから追放しやがったなぁ!!」

 

 

 「全くだ、こちらから直々にお前を探し出して、拷問してまで報告を聞き出すところだったぞ」

 

 「あ、マソップちゃんの知り合いなのネ? じゃあ悪い人じゃなさそうだナ!」

 

 「……追放したのは俺じゃなくてモーティマーだ。今でも正解だったとは思っているがな」

 

 

 とにかくまず、三人に同時にしゃべりかけるのやめろ落武者男。それぞれ同時進行させるのメッチャしんどいわ。

 という訳で、黒んぼ剣士……ああめんどくせぇ、キリトのグランドクエスト突破から数分後。突如としてその場に乱入してきたグラントに、シルフ、ケットシー、サラマンダーの三勢力は固唾を飲んでその成り行きを見守っていた。

 

 

 「……ルーはこの男の事を知っているのかい?」

 

 「いや、彼の知り合いのマソップって子の事を知ってるのサ。

 ケットシーで一躍有名になったんだヨ、初ログインしてすぐに世界樹の方角に伸びる街の坂道で、後ろ幅跳びを連続で行なってケツワープをやろうとした変人女性プレイヤーがいるってナ」

 

 

 何やってんだよマソップ。まあ確かにそれが上手くいけば、障害物とか関係なく座標的に最短距離でアルンに直行できるかもしれないけど。成功すればの話である。するわけないんだよなぁ。

 ここにガドリング魔法詠唱スタイルが発覚したらどうなっちゃうんだ。恐ろしい子……!

 

 

 「……つまりグラント、貴様が俺に偽の情報を握らせたという事か」

 

 「うんにゃ、そういう事だね。

 俺はレネゲイドされた身だからサラマンダー領には入れないけど、首都のガタンからアルンまでの経路は大体決まってるようなもんだから、後はその道中に張り込んで領土から出てきた奴と、ちょい取引をさせてもらったんだぜ」

 

 

 サラマンダー軍の主だった熟練プレイヤーは、例の調印式においてシルフとケットシーに大打撃を与える為に殆どユージーンと行動を共にしていたと言ってもいい。無論、余力を首都のダナンに温存していない事はないが……しかしそんな中で積極的な戦力足り得ながら、ユージーンとは別に動いていたサラマンダーが存在したのだ。

 それがジータクスと呼ばれるプレイヤーだった。サラマンダー軍のメイジ隊を担っている彼は、ルグルー回廊と呼ばれる地域にて、アルンに向かうキリトとリーファの暗殺を任されたのだったが、ものの見事に返り討ちに遭ってしまったのだ。それによって、本来その後はユージーンの部隊と合流する筈だった彼らメイジ隊は、しかし自種族の領土の首都であるダナンまで引き戻されることになってしまい……その任務失敗の報告も兼ねて、もう一度首都を出発していち早くユージーンに合流する必要があったのだが。

 そうしてサラマンダー領を出たところで、待ち伏せていたグラントに見つかってしまったのが運の尽き。

 

 

 「……ジータクスめ、それであの直後にログアウトすると言い出したのか」

 

 「まあまあ、彼を責めないであげてよー。俺がめっちゃねっとりうっとりしつこーい勧誘をした結果なわけで」

 

 

 相変わらずロクなことをしない落武者男に将軍の目つきもさらに剣呑なものになるが、グラント全力スルーである。その一連の話を黙って聞いていたサクヤは、しかしここで口を開いた。

 

 

 「つまりグラント、君は今私たちが直面しているこの状況を意図的に作り出すために、ユージーン将軍を利用したという事かな。

 即ち、シルフ、ケットシー、サラマンダー……この三勢力を一堂に会す、という」

 

 「みんなでグラントクエストをやろー、っていう話なら、残念ながらさっきもう挑戦しちゃったヨ。ウチもシルフのみんなも、下手に戦闘してせっかく揃えた装備をロストしたり犠牲を出したりするのはイヤだしなァ……」

 

 

 それはやはり一種族の領主としては抱いて当然の懸念である。せっかく駆り出してきたそれぞれの切り札的精鋭部隊を、これ以上の勝ち目のない戦闘によって消耗する理由がまるで見当たらないのである。

 そして、彼女達以上に怒り浸透なのが、ユージーンである。

 

 

 「シルフ、ケットシーとの協力体制というのが貴様がでっち上げたものだと知れた以上、俺に貴様達と足並みを合わせる必要も無くなった訳だ。

 覚悟しろ、グラント。我がサラマンダー軍をこうも愚弄した罪は重いぞ。シルフ、ケットシーの者共も、ここまで来たからには我々に斬られてもらおう」

 

 

 その言葉にサクヤとアリシャ、そして彼女達の軍勢がハッと身構える。元よりこのALOはPK推奨のゲームである、そのユージーンの考え方は非情でこそあれ決して有り得ないものではないのだ。

 だが……それに対して、再び異を唱えたのはグラントだった。

 

 

 「ストーップ! そうすぐに血気盛んにならんでちょ!!

 ここに集まってもらったのは他でもない、誠に勝手ながら……みんなの力を貸して欲しかったからなんですよ。

 種族も立場も関係なく、ただのALOのプレイヤーとして。このアルヴヘイムを愛する妖精として。等しくみんなの協力が欲しいなって」

 

 「どういう事なの……?」

 

 

 リーファはそう呼びかけるグラントが、口調こそ普段のおちゃらけたものでありながらも、その瞳を笑わせていない事に気が付いた。大体、種族も立場も置き捨てて、なんて、このALOで成立する関係なのか。

 彼女のその問いに、グラントは軽く目を閉じて息を吐く。彼の次の一言を、その緊迫した状況の中でその場の全員が武器を構えながら待っていた。

 

 

 (……今度は俺が頑張る番だね、ハルくん)

 

 

 あのアインクラッドでは、はじまりの街のプレイヤー達に協力を求めて、グラントに代わってハルキが彼らに強く訴えかけたものだった。結果的にそれは絶大な効果を持って二人に力を与えたものだったが。

 だが、今回のグラントは当時の彼女のように元々その素行を評価されてはおらず、むしろALOの中でいえばかなりその評判は悪いだろう。そんな状況の中で、今から彼がALOプレイヤー達に呼びかけても、上手く彼らの心に届いてくれるかは……正直微妙なところだ。

 それでも、やるしかない。彼女の為にも、囚われたSAOプレイヤー達のためにも。グラントはそう覚悟を決めて、記憶の中の相棒に願を掛けて。

 

 

 「……このALOに、まだ目覚めないSAOプレイヤーが囚われている。

 だから、彼らをここから解放するのを、手伝ってほしいんだ」

 

 

 その真意を、遂に口にしたのだった。

 

 




 
※頭チンパンジーのマソップは冒頭にてああ言っておりますが、本来イキリトとはキリト本人を指して使われる言葉ではなく、キリトの武勇伝にあやかって粋がる人を対象に使われる蔑称です。使用自体もあまりお勧めは出来かねますが、少なくともキリト当人は(多少のイキり成分は…まあなくはないものの)SAO本編全体を通して苦難を乗り越えて成長する、真っ当な人間である事に十分留意して頂ければ幸いです。


マソップ「ウホッ ホーウ」
 
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