オベイロン「見ろ! 人がゴミのようだ!!」
グラント「オベイロンムヌカ説」
ユイ「アナグラムを考えましょうか?」
キリアス「バルス」
「ここが……SAOの、世界……なのか」
サクヤのその言葉に同調する様に、背後のシルフのプレイヤー達を始め、彼女の横に並ぶアリシャ、ユージーンもその周囲を呆然と見回す。それに応えたのは、彼等とは少し違った意味合いで、しかし同じように目の前の光景に心を奪われていたグラントだった。
「……うんにゃ。ここが正真正銘、浮遊城アインクラッドの第一層だよ」
そこは確かに、SAOプレイヤーなら誰もが記憶に焼き付いているであろう、アインクラッド第一層のはじまりの街だった。二年前のデスゲーム開始以降、攻略組に入らずに外部の救出を待ち続けた大勢の人々が過ごした、アインクラッド最大の安全区である。
だが、その二か月ぶりに目にすることになった転移門広場は、当時の様な完成されたグラフィックを保っておらず……その所々に欠損が生じさせており、地面の切れ目からはアインクラッド以下に広がる雲海が覗いていた。よく見れば黒鉄宮の左右に聳える側塔の頂点も、まるで巨人がその先をもぎ取ったかのように無くなってしまっている。
「ぐぶぐぶ、よっぽど余裕がないと思われ」
それはそうだよね。SAOのコピーサーバーとはいえ、アルヴヘイムまるまる一つを追加した上でこちらを残しているのである。なるべくこちらの容量は削っておくに越したことはないのだ。
それが今のアインクラッドか。グラントはどこかもやもやしていた。デスゲームとしての役目を終えたあの異世界は、しかし今ではただの膨大なデータとしか扱われるばかりか、さらに極悪非道な人体実験場として使われているというのだから、何とも皮肉めいた運命というか……どこかやり切れないというか。
「……それにしても、ここには何も変化がないんですねぇ。
「あんなとこっテ? 何の事だイ?」
アインクラッド第一層、はじまりの街、転移門広場。
それは、あの茅場晶彦が正式サービス開始日に1万人ものプレイヤーを一度に集めて、そして彼等にこの世界からの脱出が不可能である事を告げた因縁の場所なのだ。もしあの須郷がSAOプレイヤーの当時残した感情を再現してサンプリングしたいのだとしたら、この場における彼等の驚愕や絶望は欠かす事の出来ない貴重な材料である筈で。
「……いや、ここは無理だろうな常考。あの状況を再現するには、一万人のプレイヤーがいるっていう印象が必要不可欠なんだぜ」
神代マソップの指摘通り、あの瞬間を再現するには、一万人のプレイヤーが揃って紛糾し狂乱した様を演出する必要があって。それはちょっと無理難題というものだ、ただでさえ容量を控えているというのに。
「……よく分からないのだが、それではこの広場を残している理由は何なんだい?」
疑問を呈したのはサクヤである。あんまり話している場合ではないと思ったそこのキミ。よく考えよう。現状解決しなきゃならない問題が一つある筈だ。
「もしかしたら、ここが現地での管理エリアなのかな」
こちらの実験の管理は、基本的にはALO側で……恐らく世界樹の上にあると推測される開発者用エリアにて制御されている、と考えるのが妥当だ、何度も言うようにロスト・アインクラッドにそんなものを搭載する余裕はない。
だがそれでも、アインクラッド側にもある程度実験者が入り込める余地が必要だろう。現場での動作の調整等、ALOやレクト本社から遠隔的にいじっているだけでは確認できないものが……ないとは言えないのではないか。
それはつまり、実験場として残したエリアとは別に、現地にスタッフ待機用のエリアが必要なのかもしれないという事で。
「……小難しい話は分からん、つまりどういう事だ」
「つまりだねユーちん。
もしここがそういう管理エリアだったらまあ初めにここに転移する様になってるのは寧ろ当然な訳でして。
それで、その上で今のところ、
「は?」
「何だっテ?」
「……貴様」
「途端に非難轟々でワロタ」
そう、そういや転移結晶とかないし、上の層に行くには今や削除されているかも分からない迷宮区からゴリ押しで昇るしかないのである。まあ羽根があるから数層は上まで登れるかも知らないけど、これが七十層とかだと時間がいくらあっても足りないよね。これが逆にスタート地点が最上層だったら、降りてけばなんとかなりそうな気もするけど。ならないかな。
そこんとこあんまりにノープランである。まあ神代マソップのマップ転移はあるんだけど、みんな散り散りに展開することが前提の今回、一々彼女の転移能力を使うというのも非効率だ。と言うわけでそういう無計画さにサクヤ達もドン引きしたのだった。これは仕方ねーぞグラント。予測できたろーに。
「ま……まあまあ、ちょっと探ってみるからさ、ねっ? ネー?」
仮想世界の表情変化って分かりやすいんです。すっごい勢いで冷や汗ダーダー流しながら、ばたばたと広場の中心に存在する石塔に駆けていく落武者男。とは言っても、SAOじゃあ転移門はあくまで、転移結晶使用の際の目的地として機能するだけで、それに直接接触しても何もないと思うんだけど。とりあえず逃げたかっただけだよね、きっと。
「うーむ……だからってじゃあスタッフ達は結晶を使ってるかって言ったらそれはなんか違う気がするし……」
背後から領主達三人の冷たい視線と神代マソップの生暖かい視線が突き刺さるのを感じながら、グラントは必死に考える。結晶と言っても所持上限のあるアイテムを拠り所にしちゃあ、もし切らした際に困るだろうからね、何か別の方法があると考える方が妥当だろう。
じゃあきっと、アイテムを使用しないで移動する方法がある筈だ。というか、なんならスッポンポンになったって取ることができるような緊急手段がある筈だ。
そんなの、システムウィンドウを開くくらいしか取る手段はないよなぁ。でも一応その中身は一通り確認済みだし。ああ、そういえばSAOと違って、ALOは左手を振るんだよなぁ……………。
「…………もしかして」
ごくりと息を飲んで姿勢を正すと、グラントは自分の
するとだ。一つ涼やかな音が鳴り響いたと思ったら、次の瞬間には視界の右半分に、ALOで普段開かれるものとは違うウィンドウが表示されて。
「ビンゴだ! みんな、右手を縦に振ってみて!」
そこには、アインクラッドの地名が、いかにもワープの為の行先選びという様相で第一層のものから降順にびっしりと並んでいた。恐らく三百人とは言ってもある程度場所が被っているケースがあるのだろう、その数はざっと見て約百箇所くらいか。
「な、なんかいっぱい出てきたヨ!?」
「これが、我々が向かうべきエリアのリスト……という事か」
「……うむ、そうだと思われ……あれ?
ねぇマソップ、ハッキングしてる君ならとっくに知ってたんじゃないの?」
「うん、知ってた」
「ぐう畜だなおい」
いじめである。落武者男もげんなりである。
だが、そうしていじけたついでにその右手のメニューを雑にスクロールした際に……彼はとある項目に目を止めて、そして人知れずその場で立ち尽くすことになる。
「どうやらここ、アインクラッドのコピーデータ、『ロスト・アインクラッド』での限定機能として、SAOでのシステムウィンドウ開示動作……つまり右手を縦に振ることで、任意のタイミングで転送することが可能の様ですぜ。加えて自身が触れているプレイヤーもその転移の対象に含まれるとのこと。
自力でデバックメニューを発見したと、その気になっていたお前の姿はお笑いだったぜ」
「……くだらん」
ユージーンが一蹴である。なんか助かった気がしているグラントである。流石にこのノリについて行けるほど軟派ではないらしい。当たり前か。結果としてサクヤもアリシャもさっき以上にドン引きである。
「……とにかく、そうと分かったのなら人数を分担して、それぞれリストの上から取り掛かるとしよう。
一つのエリアに十人程度として、一度に二十箇所を対処するというのでどうだ?」
「そうだねサクヤちゃん、SAOプレイヤーのみんなもいきなり大所帯で押しかけられたらビックリするだろうし、それくらいでいいんじゃないかナ」
「……あいあいさー! じゃあ、この中で一番多いのはインプのみんなだから……おーい、インプのみんな!」
「ハッ!!(直立不動)」
今の今まで敢えて触れなかったけど、何が起ころうとも誰に話しかけられようとも、微動だにせずに上官たるグラント(本来はハルくん、暫定的にグラント)の指示を待つとんでもねぇ組織力である。そのヤベー女戦士達とグラントを、周りのみんなが見てはいけないものを見るかの様に見守っている。
「それぞれ他種族との合同隊と、インプだけの単独隊で別れることになるから、適宜連携のほどよろしく! みんな他の種族とも仲良くね!」
「Sir,Yes Sir!」
「……心配だわー……おーい、マロンちゃん、領主さんってどなた?」
「ん? グラにゃん? えっとね、向こうにいるみーこちゃんが今のところの領主だけど……今呼ぶにゃん、おーい、みーこちゃん! グラにゃんが話があるって」
「ハッ!! 何でありますか!!」
「…………えっとね、取り敢えずその軍隊言葉をやめて、みんなにもフランクに話すよう強く言いつけておいてくれる?」
「はーい、了解! グラントさんがドン引きしてることに気付かないなんて、私ってホント馬鹿!」
「……いつものみーこにゃんだにゃん。安心するような、ちょっといたたまれないような……」
サッと、まるで効果音が鳴るかのように態度を一変させたみーこは、すぐに同胞の下に向かって何かをどやしつける。すると彼女達はその瞬間から隊列を解いて、次の瞬間にはほんわか空気を醸し出しながらシルフやケットシー、そして宿敵たるサラマンダーに向かっていく。マジ怖いわ。ほんわか殺されそうだわ。
「で、だ。こっちはマロンちゃんに伝えておくね。君が一番柔軟に対応できそうだし」
「にゃー? 褒めたって何も出ないにゃん?」
見れば、既にALOプレイヤー達の指揮権はグラントからそれぞれの種族のリーダーたちに自然と移って行っている様である、グループに分かれてそれぞれサクヤ達の言葉を聞いていて、もうグラントの指示を待っている気配はない。
これを好機と、落武者男は隣のインプに小声で囁いた。
「ちょっと予定変更で、今から俺はみんなと別行動を取ろうと思っててね。
だから先に言っておくんだけど、その右手のメニューの行き先を一通り網羅してSAO生還者達を確保出来たら、
その意味深な言葉に首を傾げるマロンに、グラントは一つキモいウィンクをすると……再び右手のメニューウィンドウを開いて、そのエリアリストを下へ下へとスクロールする。
そして、その
―――それは、本来あるべき場所ではなくて。
―――それは、二年の歳月をかけても遂に、SAOプレイヤーが
「……ここって、どこなんだにゃん?」
マロンは、再度小首を傾げた。
ゆめを見ていた。
長いゆめを見ていたような、そんな気がしていた。
じぶんの周りに、たくさんの人たちがいた。
そして、その人たちと、まいにち楽しいことをいっぱいした。
みんな、すごくへんな人たちだったけど、でもそれは自分もおなじことで。
それで、みんな……すごくやさしくしてくれたのだ。ほんとうの顔をかくしている自分になにも言わないで、ちゃんと一人のなかまとしてみとめてくれていた。
でも、それはやっぱり、ただのゆめだった。
目ざめてみたら、まだ自分はあのあれちのどまんなかでさまよってた。
まわりにみんなはいなくなっていて、かんぜんにひとりだった。
……いや、ちがうんだ。
はじめから、ぼくはひとりだったんだ。
「…………ひどい」
なにもかもが、自分からぬけおちていくような気がした。
からだはよろいづくめのままなのに、からだの内側からだいじなものが、よろいをすき通ってぜんぶなくなっていってしまう。
「…………ひどいよ」
お月様の方をむいて、かみさまに祈る。
おねがい。みんなを、ぼくからうばわないで。
みんなとのおもいでが、うそだったなんて、言わないで。
……だけど、そんなねがいに返事をするようにその場にあらわれたのは、よろいのせいでうまく動けなくなって、だれも助けてくれないなかで必死になってにげまどった、あのモンスター達で。
……そっか。
ほんとうは、わかってたんだ。
がっこうでもそうだったもん。だれも、ぼくのはなしをきいてくれなかったな。
だれも、ぼくのことをたすけにきたりはしない。
たとえ、かみさまでも。
そうだったんだ。
これが、うんめいなんだ…………。
「…………とでも、思っていたのかぁ?」
直後の事だ。
アインクラッド第二層荒れ地エリアにて、モンスター達に囲まれて、自身に訪れるであろう死の宣告に目をきつく瞑って備えていたその少年の目の前に、突如として何かが飛来して爆発を引き起こした。
「……え?」
予想外のその展開に目を丸くして、少年は目を見開く。
魔法だ。いや、それが本当に魔法なのか、それとも
「メイジ隊、一旦後方に下がれ!! リンドウ隊は前進、モンスター達の掃討に掛かれ!!」
すると、その号令が後方から聞こえてきた次の瞬間、少年は自分の頭上を飛び越える様に多くの戦士たちが……なんとその背中に羽根を持ちはためかせて、自分のすぐ目の前に急降下して降り立ち、モンスター達に斬りかかっていくのを見たのだった。
「……君。大事はないか」
振り返ると、そこには深緑色の艶やかな直毛を背に長く垂らした、緑装の女性が、こちらに手を伸ばして微笑んでいた。現在の自分の置かれてる状況が分からない少年は思わずその手を取って立ち上がるが、同時に疑心暗鬼になっていた為か、目の前の彼女が手にしていた長刀を目にした途端に、自分を斬るつもりかと顔を強張らせる。
「あ、いやいや。君を傷つける気は微塵にもないから安心してくれ。むしろその逆で、我々は君達を助けに来たんだ」
「きみ、たち……?」
緑装の女性はその少年の様子に、どう説明したものか、と少し困ったような顔で首を傾げていたが。
「ぐぶぐぶぐぶ。サク姐、ここはワイに任せるんだぜ」
「……………………え?」
その新たな声に、少年の息が止まった。
それは、あの夢の中で彼が行動を共にした、仲間の一人で。
共に寝て、共に食べて、時には共に戦った、あのヘンテコ極まりないギルドの一員で。
「……マソップさん……なの……?」
「ワイがマソップかどうかはオレが決める事にするよ。……トミィチュワァァァン」
「……マソップさんだぁ……!!」
今ので分かるんかい、少年……ことトミィ氏。当時のゼロの魔法使いアバターから神代アバターに完全に外見が変わっているというのに、躊躇わずにフルフェイスヘルメットを解除しながら、そのマソップに飛びついて泣きじゃくり始めたのだ。
「どうして……だって、だってあれはゆめで……ぼくはまだここでさまよってて……」
「トミィチュワァァァン、落ち着くんだぜ。
たぶん今のユーは、
「……え、え?」
神代マソップから離れて一人で立ったトミィは、恐る恐る一歩足を繰り出してみる。するとどうだ、あれだけ重くて前に進まなかったはずの足が……面白いほどに前に進むではないか。
そりゃそうだ、すでにここはALOで、STR極振りとか重量制限とかのルールも完全にリセットされているのだから。
「え、ど、どうして……だって」
「トミィチュワァァァン、よく聞くんだぜ。
ここはSAOじゃない。キリトによってもうゲームはクリアされてて、ここはSAOに似せられた別の世界なんだぜ」
「べつの、せかい」
「ALO、という、SAOとはまた違うゲームの中の世界さ」
マソップの言葉を継いで、サクヤが口を挟む。
「君はここに、SAOからそのプレイヤーデータを移されて、この世界に囚われているようだ。だから我々は、そんな君達……あと三百人いる元SAOプレイヤー達を現実世界に解放するためにここに来た、という訳さ」
トミィは確認の意を込めて、マソップを見上げる。それに素直に頷いてあげればいいのに、歯を見せて変に笑うその鎖骨prpr女に……トミィの目から、一気に涙が溢れだす。
「じゃあ……じゃあ、あれは……ゆめじゃ、なかったんだね……?」
「……おう。よく分からんけど」
「オルくんも、ちゃんといるんだよね?」
「肯定だ( ・`ω・´メ) ……ただもう自分の国に帰っちまったけどな」
「じゃあ、……じゃあ」
自分の居場所であり、そして欠かせない大切な存在だった仲間が、ただの自分の夢想の中のものでなく実在したという事実に泣いて喜びながらも。
だが、あの世界での最後の瞬間を思い出して、その表情を再び曇らせてしまう。
「……じゃあ、やっぱり、ハルキおねえちゃんと、グラントにいちゃんは……」
あの最後の瞬間、彼は確かに見たのだ、パーティー及びギルドメンバーの表記から、そして黒鉄宮の「生命の碑」からも……SAOのあらゆる表示から、グラントとハルキの名前が消えてしまったのを。その存在が、ゲームから完全に抹消されてしまったところを。
でもまあ、あいつらはそう簡単にくたばるバカ共じゃあなかったんだよねー。
「パイセン達、ピンピンしてたぜ。一応は、だけど」
「ええ!?」
ガビーン、と効果音が鳴るかのようにその場でのけぞって驚くトミィ。まああれだけ死亡フラグ揃ってて綺麗に復活したんだからあいつ等も大したもんだよね。
……ただし、現状は手放しにそれを喜べる状況ではない。
「……ただ、ハルキニキは色々あって、トミィチュワァァァンと同じようにこの世界のどこかに捕まっちまってな。
それを助けるためにも、総勢二百人前後のプレイヤーと、パイセンが今頑張ってるってわけさー」
「……グラントにいちゃんが……ハルキおねぇちゃんを……」
説明し終わったマソップとサクヤの前で、トミィは一つ一つ飲み込むかのように彼女達の説明に出てきた単語をぼそぼそと呟くと、何度か頷いて、きっと顔を上げる。
あの時、疾走スキルと自身のパラメータのせいで、この二層で圏外で誰の目にも止まらずに途方に暮れる事しか出来なかった自分に、手を差し伸べてくれたのがあのグラントだった。そして、それから長い間正体を隠していたにもかかわらず、そんな自分を家族同然だと言って受け入れてくれたのがハルキだった。
こんどは、ぼくが助ける番だ。トミィは思った。二人の背中を追うだけじゃダメだ。今度は自分が、彼等の力になってあげないと。それが上手くいかないかもしれなくても……もう、そんなこと構わない。
だいじなのは、じぶんがどうしたいかだ。それをギルドのみんなが、ぼくに教えてくれたじゃないか。
「マソップさん、緑のおねえさん。あんないして」
「む? 案内?」
「どこに行く気なのかいトミィチュワァァァン」
その決然とした様子に神代マソップとサクヤは顔を見合わせて、そしてトミィに尋ね返す。
するとその少年は両手をぐっと、バンザイするかのように斜めに突き出すと、子供らしく威勢よく、啖呵を切ったのだった。
「グラントにいちゃんの、後を追う!
ぼくだって、ハルキおねえちゃんを助けたい!」
「……さて」
右手のメニューの項目の底。
第七十四層のエリアから階層を飛ばして存在していたそのエリアの名前は、先程のマロンはどうもピンと来ていなかった様子だったが……一方でSAOプレイヤーなら、恐らく誰しもが一度は耳にしたことのあるだろうもので。
現在、他のALOプレイヤー達にSAO生還者たちの救出を任せたまま、グラントは単身、その因縁の名前のエリアへと転移をし、果たしてその土地に降り立ったという訳なのだが。
「……一人で来ちゃったものの、なぁ」
彼の前には、一本の大きな道路があった。
その側面にはサーチライトの様に直線的な照明が上に向いて設置されており、まるで飛行機の滑走路の様だ。だがそこには人はおろかNPCすら影も形もなく、その通りの両側には小さな宮殿のような建造物が散見され、そしてその周りを囲む色とりどりの花の咲く花壇の迷路が、頭上の星明りと満月の光に照らされて朧げに浮き上がっていた。
そう。
「……へへ、どーだ、黒の剣士さんよ」
先に到達してやったぞ、ここに。
そんな、小さな威張りを心の中でかましながら、落武者男はその奥へと伸びる道を駆けていく。
(……たぶん、この先には、何かがある)
それは、こんな状況ではあまりに漠然とした推測だった。だが、それでもグラントには強い確信があったのだ。
「……たぶん、この先で、全てが終わるんだ」
―――アインクラッド第百層、紅玉宮。
このロスト・アインクラッドにはある筈のない、そしてあるべきでもないその全貌が、彼の行く道の先で月光に照らされて悠然と佇んでいた…………。