トミィ「ゆ〜くぞ、わ〜れら〜〜の♫」
マソップ「グ〜ル〜〜ト〜ラ〜マ〜ン♫」
グルトラマン「ヘアッ!!(ちょっと待って何でトミィ氏はその歌歌えるの? 世代ヤベーぞ?)」
「……それじゃあ、ここはALOの中に存在するアインクラッドの、百層にある紅玉宮の中だって言うのか」
「そういう事になるね。……大丈夫、結構込み合った話だったけど、呑み込めてるかい?」
「まったく分からん。マソップの言葉を借りるなら、今北産業ってやつだな」
「……あんの鎖骨prpr女ハルくんに何教えてやがる……」
まあ、グラントのしたらしい説明を一々文章に書き起こしてもめんどいので割愛させてもらった。要は
ALO内にSAOあるよ、
須郷ヤベーよ、
囚われてる三百人プラスアルファを助けに来たよ
……って言ったのだろう。よし、三行。え? 初見じゃ意味わからないって?
「とにかくそういう訳で、今二百人近くのALOプレイヤー達が他のSAO生還者の救助に向かってる。
俺はそこを抜け出してここにやって来たわけだけど……来てみて正解だったぜ、まさかこんな事になってるとは」
「……やっぱり俺だけじゃなくて親父たちも連れてこられたのは、完全に芹沢さんの独断だったのか。
だとしたら、何とかしてあの人からGM権限を奪い取ることが出来れば、SAOプレイヤー達の解放もやりやすくなる筈だよな」
「うん? セリザワ? フー? あいつ、須郷じゃないの……って、ちょっと、ハルくん!?」
そう言って、その目線の先でダウンから復帰しつつあるオベイロン芹沢(何か芸名みたいw)を見据えて剣を構えようとしたハルキは……しかし次の瞬間足をふらつかせてしまい、それを慌ててグラントが右手で支えた。よく考えたら彼女は数日の間自発的な五感操作をほぼ封じられていて、その再接続をして間もないのだ。その状態であれだけ動くだけでも、相当無理をしていたのだろう。
「うへぇ……こりゃ痛そうだな。……スー・フィッラ・ヘイル・アウストル!」
「え? ええ…………あ……」
驚くなかれ、ちょっとドギマギしながらもハルキの当時と変わらぬドレス姿を眺めたグラントが、その下腹部に未だに残る深いダメージエフェクトに気付くや否や、その前に盾を通した左手を翳して……なんと、治癒魔法を唱えやがったのだ。たちまちその傷は淡い光に包まれて癒えていき、ハルキのヒットポイントバーは上限まで戻り、そして精神的にも辛さが和らいだような気持ちになる。
「うーん、なんかちがう気はするんだけどさ、でもまあ、治癒魔法とか、まあ少しくらいなら魔法を覚えてもいいかなって」
そう、ちょっと頬を掻きながらぼやくグラントに苦笑いすると、彼から離れてハルキは一人で立ち、軽くジャンプをして、再び改めて剣を持ち直して……そして、落武者男の方を見ずに、言った。
「来てくれて、ありがとな。あんな別れ方したから、もうダメかもって……ちょっと思ってた」
「……そんな訳ないじゃん。こっちはもう君の入院先まで掴んでるんだぜ」
「え、こわっ。ストーカーってやつじゃないかそれ」
「解せぬ」
何があったって、どんな脅威に直面したって、この絆は壊れやしない。それを再確認して。だからこそ、こんな状況……目の前にいるのが、アインクラッドでのパチモンGMよりもはるかに質の悪い、本物の管理者だったとしても……二人の口元には、既に笑みが浮かんでいるのだ。
「じゃあ、
「……ああ。そうだな」
左手に盾を構え、左に立つグラント。
右に剣を構えて、右に立つハルキ。
メタ的にはもうこれ自体が、この作品におけるある意味勝利フラグである。まあ、あの時ホロウ茅場には勝ったと言えるのか怪しいけど。
でも、それでいいのだ。
「見てろよ、茅場」
……そう。
あの時を経て、今では。
「
この最終決戦を
「……やってくれたね、春花。君は……ほう、グラント君っていうのか……はて、どうやってここにやって来たんだろうね」
やがて、二人の数歩前まで歩み寄って来るほどには回復したらしい芹沢が、落ち着いた声で話し始めた。
「もう、僕は誰からもダメージを受ける事は無い。このアバターには既に無敵属性を付随させておいたよ。
君達に勝ち目はない。大人しく僕の言いなりになっておいた方が良いと思ったんだけど。……でも」
どうやら先程まで振るっていた大振りの斧は既に自身のストレージだかどこかに格納してしまっていたようである。その代わりに取り出したらしい長剣で、芹沢はグラントを差して、続ける。
「こんな開発エリアまでやって来る一般プレイヤーだ、どんな隠し玉を持っているかも分からないからね。……ちょっとまずは君を排除するところから始めるとするよ、グラント君」
「……っ!? まずっ……!!」
その言葉に何かを察したグラントが、慌てて芹沢に止めに入ろうとする直前に……しかし、その妖精王は既に高らかに叫んでいたのだ。
「システムコマンド。アカウント名『Grant』の位置座標をデータサンプル保管領域に固定。加えてUI機能のロック」
「―――グラント!?」
つまりそれはグラントを開発者専用のエリアにて監禁し、現実世界への脱出をも制限するというもので、事の重大さにようやく気付いたハルキが悲鳴じみた声を上げる。
だが、しかし、である。その号令がその場に響き渡ったというのに、グラントのアバターはどこへも転移する様子を見せなかった。直ぐに我に返ったその盾男は急いで左手を振るが、自身のウィンドウは問題なく可視化させる事が出来た。
……あれ?
「……どういうことだ? システムコマンド、ALOに実装されている全魔法を発動」
「っ、ハルくん、後ろに隠れて!!」
さらりととんでもねえこと言いやがる。途端に、芹沢の周囲にどこぞのガドリングメイジ顔負けの何十にも重なった魔法陣が詠唱無しで作動し、その上方から火炎、真空、氷結……攻撃魔法だけでなく、一部の幻惑魔法まで混じって流星群の様になったライトエフェクトの雨が、ハルキを背後に庇ったグラントに降り注いだ。
「ぐ……あああ……!!」
これには流石のグラントも全てのダメージを殺しきれない。ただでさえ通常の防御では貫通のダメージが発生してしまう事は、あのスイルベーンでの特攻で十分検証済みである。
それでも致命傷を避けるべくクリーンヒットを抑えながら……しかしその盾男の目が光る。数多に降り注ぐ魔法の中で他のものとは時間差があるものを見定めて……その盾を滑らかに動かした。
すると、その魔法の炸裂したエフェクトでフレームレートがとんでもないことになってる空間から、いくつかの魔法が逆に芹沢へと跳ね返ってゆくではないか。
「ははっ、そんな事が出来るもんなんだね」
だがそれらに見向きをする事もなく、その緑衣の男は涼しげに笑う。反射された魔法は時折彼の腰や冠に覆われている頭部に被弾して爆発するが、先程も言った通り現在彼には無敵属性が付いており、ダメージが生じないのだ。おまけにどうやらペインアブソーバーまで彼個人のみ完全遮断されているっぽい。さっきと同じ轍は踏まない様である。
「……ちきしょー……やるな……」
しかし、それとは対照的にグラントはたったこの短期間の間に瀕死状態にまで追い込まれていた。ヒットポイントは既にイエローゾーンを割ってレッドゾーンに入っている……いや、どちらかと言えばあのバカみたいな攻撃で生き残っているコイツがむしろ化け物なんだけど。普通のタンクだったら貫通ダメージに耐え切れずに即死である。
だが、それほどまでの攻撃を受けたとしても、まだその落武者男の瞳から戦意は消え去っていなかった。
なぜなら。
「ほう、驚いたよ。まさかあれを耐えるなんて。それにしても何なんだ、やっぱり僕の権限に問題はないじゃないか、さっきはどうして……」
「簡単な話さ!!
芹沢さんも、真の意味では無敵じゃないって事だ!!」
そう、なぜなら、その爆風に紛れて、ハルキが芹沢の背後を取る事が目的だったのだから。
「……何?」
「たあああっっ!!」
芹沢が振り返った時には、既に回り込んだハルキが、地を這うかのように身体を落として、下段から斬り上げていた。その剣筋は、鈴風流も含めて現実世界で修練する剣道の法則からは大きく外れていて……しかしその剣速は神速の域に達していた。裏切られた上に一度は襲われかけた相手に、こうも果敢に立ち向かえる辺りはホントにカッコいい。
そして、だから、もちろん。彼女同様に剣士としての日々を過去に持つ芹沢は。
「ぐっ……これはっ……予想外だね……!」
―――それを、無意識のうちに自身の剣で受け止めざるを得ないのだ。
「芹沢さんっ! これが、俺の、今の!!」
だがそこで留まらない。ハルキは全力で振ったその自身の剣から、まるで一を零にするかのように力を抜いたのだ。そして、思わず前へとつんのめる芹沢を受け流すように彼の側方に回り込むと。
「俺の、剣だあぁぁっっ!!」
そのまま、彼の胴を横薙ぎにすべく剣を一閃させる。それは完全に芹沢の虚を突いた一撃であり、ダメージはどうあれ彼にその決定打を撃ち込まれたという事実を刻み込むには十分なものの筈だった。
筈、だったのだ。
「……そうだね。あの頃とは比べ物にならないくらいに、疾い。
でも、それだけだ」
なんと、芹沢はいつの間にか前に振り下ろしていた剣から両手を離しており、ハルキの剣が彼の身体に打ち込まれる直前にその腕を後ろ手で受け止めていたのだ。そして、次の瞬間には再び身体を回転させて、宙に放り出されたその自身の剣を再び掴むと、先程のハルキの会心の一刀に引けを取らない刹那の剣をいとも簡単に振るって見せたのだった。
……なんかオベイロンの見た目でまともな剣術をやっているのが目新しい。なんかちがう。
(くそっ……やっぱり、強い)
一体何年のブランクがあるっていうんだ、ハルキは剣の先で彼の剣の軌道を微妙に逸らしながら身を捩ってその軌道から逃れる。これじゃ、本当にあの頃と何も変わっていない。あの頃と同じ、芹沢は
だがどうやらその一瞬の攻防は、どうやら彼の対抗心に火をつけるには至った様だった。すかさず後ろに退いたハルキに追い打ちをかけるべく、次の剣で彼女に襲い掛かったのだ。
(……来い……!!)
対してハルキはどういうわけか剣を右手に持ち、左手をやや後方に広げた。それはまるで敵の剣を受ける体制としては脆弱で、論外な構えだった。
……彼女が、剣を受け止めるなら、の話である。
「よっしゃー、任されたぜ!!」
伸ばした左手に、相棒の右手が繋がれる。それを認識した瞬間に、ハルキはその左腕を思い切り……
すると、連結した先のグラントが、その彼女の腕に合わせて飛び出ながら、芹沢の剣を自身の盾で弾き返したのである。
「……っ!?」
「よーし
すると、今度はグラントが自身の右手を、まるで
このある意味ユニークすぎて誰も真似できなさそうな立ち回りは、先程とは違って完全に芹沢の想定外だったようだ。遂に彼は攻撃態勢を中断して回避行動に全力を注ぐことになり。
……そして、ついにその頬を、ハルキの剣先が捉えたのだった。
「ふーん……」
何度も言う通り、無敵判定の為にそれによっても芹沢には一切のダメージが入っていない。というか、そもそもこの戦闘そのものに意義があるのかあも甚だ疑問である。だって向こうはペインアブソーバーもマックスにしている訳で、倒してもキリトがオベイロンにしたような制裁の意味合いすらないのである。
だが、その上で、グラントとハルキが彼に立ち向かう意味は、別にあった。
「……なるほどね。僕にGM権限を使わせまいとしてるのか」
そういう事だ。つまり、先程からこの男、「システムコマンド!」とか口で命令してみたり、右手のウィンドウをいじったりする事でGM権限を行使しているのである。そこが前のホロウ茅場という生体でない存在との違いであり、管理者であろうが一プレイヤーとしてこの仮想世界に降り立った時点で、そういう自発的なアクションがないと特殊コマンドを発令できないのだ。
「それにしても、随分と息があっているじゃないか。仮想世界にも驚く程に順応している。……もしかしたらグラント君、君は春花と、あのSAOの中で共闘した事があるんじゃないかな?」
あるどころか。グラントは自身のヒットポイントを見やって盾をより堅実に身構える。
彼はスイルベーンから世界樹にフカ次郎と向かう中、実はいくつかの魔法を彼女から教わっていて、例の治癒魔法もその一つだった訳なのだが……しかし回復手段としては些か初歩的なものであり。先程ハルキが立ち回っている際に自分に掛けておいたものの、そのヒットポイントは全快に至っていない。
この戦いにおいて戦闘不能になってしまえば、後に目の前の彼含めレクトの人間に何をされるか分かったものではない。万が一さっきのように何かしらの不具合が生じて、何も手を加えられる事もなく正規の手順でどこぞの中立域の都市に飛ばされたとしても……それはそれで問題だ、ここに戻ってこられなくなる。
まあ、それを抜きにしても、今二人が退くわけにはいかない理由があるのだが。
―――グラント、どうする?
―――うーむ、そうだなぁ。今回のお相手さんは中々頭が回るみたいだしなぁ。あれこれ考えるよりも……。
―――突っ込んだ方が、早いか?
―――バカバカバカ、早まらないでちょ!!
ハルくん相変わらずの脳筋である。というかお前らはさらっとシンクロ会話すな。なんかもう一種のシステム外スキル化してるぞ。
「そんなに僕と対等に勝負したいっていうのなら、乗ってあげない事もないよ。
だけど、春花はもう分かってるだろ? ゲームマスターとプレイヤーの間に、どれだけの差があるのか……いや。
僕と君たちに、どれだけ人間としての性能差があるか」
そう、傲慢さを隠しもせずに言い切る目の前のかつての先輩を見て、ハルキは表情を厳しくする。そこには、彼女の知る彼の姿は微塵にもなく……いや、当時からきっと、彼には彼女の思うような人格は備わっていなかったのだろう。その事を思うと今にも胸が締め付けられそうになる。
―――気を強く持って、ハルくん。
だが、そんな時に常に背中を押してくれるのが、グラントである。今も、軽めに彼女の頬を人差し指で突きながら……ちょっと待て。もっとこう、あるだろ、肩に手を置いたりとか。やり方がクソダサじゃねーか。
―――あの人と何があったのか知らないけど……少なくとも、今は
―――分かった、分かったから、そのプニプニしてくんのやめろ。……とは言ってもだな、攻撃も通らないし、ノックバックや痛みまで遮断されてるんだぞ?
―――うーん、そうだねぇ。正直最初はゴリ押しで攻撃を仕掛けて負荷をかけ続けるだけでも勝算はあるかなって思ってたんだけど、甘かったなー。
まあ、ペインアブソーバーで痛覚が遮断されている事が大きい気がするよね。相手を怯ませる方法がない以上、厳密には相手のGM権限の操作を止める方法が、現時点では存在しないのだ。その事に向こうがまだはっきりと気づいていない(あるいは敢えてしていないだけか)今がグラント達にとってはチャンスなのだが……。
―――ひとまず無敵の件は置いておいて、向こうのGM操作を阻止する方法は二つだね。右腕を斬り飛ばすか、口を塞ぐか。
―――……ひとまず無敵の件は置いておいて。俺たちに出来るのは右腕を封じる事か。口はどうやって塞ぎようがないし。
ひとまず無敵の件は置いておいて、の話である。残念ながら沈黙魔法の類は現在ハルキはもちろん、グラントも習得していないので、なんとかして無敵判定を覆して芹沢の右手に攻撃を加えるしかない。
―――そんな事出来るのか…? 芹沢さんにはダメージが通らないんだろ……?
―――分からないけど……今のところ、試行したい方法が一つある。上手くいけば、右手も口も封じる事が出来る……とは思うんだけど。
もう今更だからナチュラルシンクロ会話に関してはこれ以上突っ込まないけど、その内容が敵側に聞こえないというのは良い点だろう。だけどそんな長ったらしい意思交換をしていちゃ、そろそろ怪しまれかねないぞ。
「……うーん、何か考えでもあるのかな。僕としては、早く諦めてくれるのならそれが一番いいんだけど」
ほーらやっぱり気付き出した。そうため息まじりに話し剣を両手に構えながら、つかつかとこちらに詰め寄り出した芹沢に、一旦ハルキとの相談を中断したグラントは……。
「ふふーん、あんたが何モンだか知らないけど、たかが
いいかい、俺はあんたをひっくり返してヒィヒィ言わせる方法を考えてあるんだ。身の程をわきまえた方がいいのはそっちの方だぜ」
ハルキはそう啖呵を切って前に進み出たグラントを見つめる。
そうだ、こいつは一度、
「……僕を、倒す方法だって?」
「分かんないだろうなぁ、あんたには!」
だからか、彼にしては珍しく少し声を荒げながら、グラントはその場で大きく地を蹴って目の前の芹沢に肉薄した。それに動じずに繰り出されたゲームマスターの剣を盾で防ぐ……フリをして。
「おっ……!?」
芹沢は突如として自分の視界がぐらつくのを感じた。どうやら目の前の落武者男は丸盾の影に隠れて、自由な右手でこちらの足を取ったらしい。その歴戦の一手に彼がバランスを崩した隙に、盾男はその背後へと回り込む。
そして、なんとその場で芹沢を羽交い締めにすると、魔法の詠唱をし始めたのである。
「何をっ……!? たかがプレイヤーの分際で……!!」
「たかがプレイヤーだからって、舐めてかかったら大間違いだぜ! これでも……くらえーっ!!」
詠唱が終わると同時にそう叫ぶグラント。するとその芹沢を拘束する右手から青白い光が放たれて……なんと、その組みついた敵の右腕から、その身体を凍らせ始めたのである。
氷結魔法。ちなみに原作での出番はなく、アニメにてクリスハイトというプレイヤーが一瞬放ったのみの登場である。敵へのダメージが控えめなものの、その動きを拘束するエクストラ効果が付随されているその魔法は、しかし今芹沢の動きを封じるという目的には十二分に適した対処手段だ。
というかグラント、サラマンダーなのによく覚えられたね、ウンディーネが得意そうなイメージあるけど。よっぽど魔法系のスキルを上げてないと厳しいと思うのだけれど……そうか、SAOからの引き継ぎデータだもんな。ポイントは足りてるのか。
「な……動きがっ……!?」
「ダメージや痛覚は入らなくても、エクストラ効果は免れないよなぁ!?
おまけにも一つ教えてやるよ! 氷結の状態異常時は、拘束時間が短い代わりに、その間
そんな事、ただゲームを上から見下ろしてるだけのお前さんじゃ、分からないだろって言ってるんだよぉぉ!!」
なんと。そんなつよつよ効果があったのか。もちろんその魔法によって氷に覆われた箇所に限るのだろうけど。加えてその拘束時間も、もって五秒以下とかそういうレベルである。仮にメイジが遠距離から敵に向かってその魔法を撃ち込んだとしても、パーティプレイじゃないと追撃も出来ないだろうし、近接メイジとか訳わかんないことするにはステータスが中途半端になりかねない。グラントがそれを実現させてるのも、全てはSAOでの高ステータスのおかげなのだ。
そして、たった今芹沢の右腕から生じた氷は、遂に彼の首下から腰までを拘束するに至った。残念ながらこちらも氷結魔法としては低位のものだからか、全身の凍結には至らなかったようである。
……だが、GM操作の肝となる右手を切断するには、ノルマは十分達成していると言えるだろう。何せ、拘束の解除まで、あと五秒前後ほどは残されているのだ。そして。
「今だハルくん!! やっちまえぇぇ!!」
―――そう、半身を凍らせた芹沢の目の前には、既に相棒の意図を汲み取っていた、ハルキがいるのだから。
(……ああ、やってやるよ)
左手で半円を作り、その中に剣を納めていく……そんな居合い構えの様な姿勢を取る。そして、深く腰を落とし、極限まで意識を深く、鋭く集中する。
そこには、過去も未来もない。これまでの事も、これから起こり得る事も関係ない。起こした過ちも、起こり得る差響も、何一つとして彼女を惑わす事はない。
ただそこにあるのは、今を生きる意志だけ。愛する人の為に戦いたいという、ただ一筋の純粋な信念だけ。
「…………っ」
ハルキが無音の気合いと共に左手の円環から放った居合斬りを、芹沢は視認することが出来なかった。
いや、違う。視認する事など不可能なのである。前のPoHの時と同じだ。
その絶技の速度たるや、ALOの世界を映すフレームの処理速度を……完全に上回っているのだから。
「……な……!?」
「どーだ、うちのハルくんの、トンデモ剣は」
その抜刀のコンマ数秒前には芹沢から離れていたグラントが、目を剥いて驚くその緑衣の男の背中を引いて、地面に叩きつけながら……彼に向かって、誇らしげに宣告するのだった。
「神の右手、取ってやったぜ」
……仰向けになって倒れた芹沢の右腕からはダメージエフェクトが漏れ出ており、そこにある筈の手首は完全に損なわれていた。
かくして、絶対的存在である筈のGMの右手は、しかし無力である筈のプレイヤー二人によって、切り落とされるに至ったのであった。
「……馬鹿な、システムコマ、がっ……!?」
「させないよ、芹沢さん」
そして、右手を切断されたと気づくや否やすかさず、残されたもう一つの手段である、口頭によるコマンド指示を実行しようとした芹沢の言葉は……しかし途中で遮られた。
ハルキが、間髪入れずに倒れた芹沢の口に剣を突き刺したのである。
「もう俺は、あなたが怖くない」
そう、敢然とした決意を口にしながら。
「よーし、ちょっとだけ、持ち堪えてくれよ……!」
一方、グラントは彼から斬り飛ばされた右手首を空中でキャッチするや否や、可能な限りの速さでそれを縦に振る。すると本来は芹沢側が操作する筈の管理者専用のシステムウィンドウがその場で可視化された。
(こっからは、時間勝負だ)
ALOにて部位欠損した際の、切断された方の部位が消失するまでの時間は極めて短い。先のアルンでのサクヤ始め領主達との戦いでグラントがユージーンの手を切断して投げるシーンがあったが、あれも素早く手首を切断して背後に放り投げて、それを一瞬でアリシャが切り裂いてくれる、というここまでを予め想定しての判断なのだ。
なので今回も、おそらく行えるGM権限の操作があるとしたらたった一回だろう。グラントは全神経を集中させてその表示を睨んで、急いでそのウィンドウを操作して……。
「……うへへへへ」
……その右手がポリゴンとなって消滅する。だが、そのサウンドエフェクトが周囲に鳴り響く中、肩を震わせて気色悪く笑うグラントを見て、芹沢は訝しげに顔を顰めて……次の瞬間、驚愕に顔を痙攣らせた。
声が、出ないのだ。口を動かして言葉を発生させようとしても、一切の文言が発声されない。
その様子を確認したハルキが、顔に気持ち悪い笑みを浮かべているグラントを見て、やはりニヤリと笑う。
「やったな」
「うへへ、うむ」
……そう、グラントは、芹沢の個人設定欄から、彼のボイス音量をゼロに設定する事に成功したのだった。それにより、その妖精王は右手が復活するまでの数分の間、一切の口頭コマンド指示をする事が出来なくなったのである。
もう、お気付きであろう。この時点で、芹沢は時間制限付きで、すべてのGM権限操作の手段を失ったのだ。
―――ホントは無敵属性の解除をしたかったんだけどねー、ちょっとパッと見どこに該当の欄があるのか分からなかったからさぁ。
―――まあ、仕方ないよ。無敵を解除したってまた戻される可能性も高いんだし。寧ろ、
だが、その時である。
―――……!? どしたの、ハルくん……!!
グラントが異変に気付いてハルキを見やると、そこには異様な光景が広がっていた。
右手を失い、口の中に剣を差し込まれている芹沢が、しかしGM権限と関係なく、純粋にその刃を左手で持って引き抜きながら、強引に起き上がり出したのだ。その表情からは完全に余裕が消え去っていて、遂にその在りし日の鈴風流最強の剣士が本気を出し始めた事が容易に察知できる。
事実、そのオベイロンとしての高ステータスと芹沢としての猟奇的なプライドが相まって、現在逆に驚く事になったハルキをその剣ごと、彼は掴み上げていたのである。
「……っぐ……!!」
大人の男の力……をも超えた圧倒的な力に彼女は何とか抵抗して抑え込もうとするが、不意を突かれたこともあってかあれよあれよという間に剣を持ち上げられ、その身体は遂に宙に浮いてしまう。
そして……芹沢は、左腕一本でハルキを振り回すと、彼女をドームの壁に向かって大きく投げ飛ばしたのである。
「う……ああぁぁっ!!??」
「ハルくん!!」
そのあんまりな絵面の酷さも去る事ながら、投げ飛ばされたハルキが自身の紫色の羽根を展開させてもなお減速しない様子を見て、グラントは急いで自身の飛行補助コントローラーを出し、彼女が向かう先を見計らうと、そのグリップのボタンを押し込む。
随意飛行では基本的に飛行速度も自身の裁量によっての調整が可能である為、はじめは緩やかでだんだんと加速するパターンになる事が多いが、今その落武者男が行なったようにコントローラを使用した際はそのグリップの倒し具合やボタンの押し込み具合で速度が決まる為、逆にそれを利用すれば一気に最高速で飛ぶ事も可能だったりする。
というわけでグラントは次の瞬間、弾かれたように物凄い速度で飛び上がってハルキに追い付くと、彼女が壁に叩き付けられる直前にその間に割り込む事に成功したのである。
「……助かったよ。ありがと、グラント」
「……ぐえぇ……まあ、世界樹から落ちた時にハルくんも受け止めてくれたからさ」
「お互い様ってか、はは」
だが、その衝撃は尋常じゃないレベルのダメージを二人に与えていた。ハルキはグラントが下敷き(というより横敷き)になったお陰でヒットポイントは三割ほどしか減少させていなかったが、その落武者男の方はイエローゾーンまで削られていた。それだけハルキの飛ばされた速度が速かったという事なのだが、それはつまり彼女を投げ飛ばした芹沢のパワーが、やはりオベイロン仕様と言うべきか、GM仕様と言うべきか……一般プレイヤーの備えるレベルの数値を軽く飛躍していることを意味していて。
さらに、である。そうして壁に打ち付けられてから地面まで落下し、それをハルキが羽根を使ってグラントを抱えながら何とか不時着したその時には、もう既に芹沢は目の前まで詰め寄っており。
「な……!!」
「くそっ、グラント!!」
咄嗟に二人同時に掛け声を上げて、そのものを言わぬ剣士から繰り出された殺人剣をグラントは盾で、ハルキは剣で横一線に並んで何とか受け止める。その破壊力と斬り込みの鋭さに、そのまま二人とも反動を受けて壁に身体を打ち付けられてしまう。
―――う、る、さ、い、な、あ。
声なくとも、そう呪っているのが分かる。
さらにそこで満足する程、芹沢も楽観的ではなかった。何度もその爆発的な攻撃力を誇る一撃が、しかも彼がリアルでも得意としていた雨のような連撃として、二人に降り注ぐ事となった。
「ぐ……あっ……!!」
「ハルくん……耐えるんだ……!!」
ハルキの持つ剣はグラントから渡された初期装備のもので、耐久性は極めて低いといって良いだろう。敵から放たれる連撃を受け止めるたびに、その剣は何度も手の中でぶるぶると震え、いつ限界が来てもおかしくない様子を見せる。
グラントにしても、魔法ではなく直接攻撃な為に基部防御自体は出来るものの、一撃一撃のノックバックが強すぎて盾が上手く固定できずに、じわじわと貫通ダメージを貰ってしまう。加えて彼の盾も市販のものとは言え、レアリティも低く、初期装備に毛が生えた程度の耐久力しかない。
ただでさえオベイロンが高速で剣を振り続けているだけでもびっくりなのに、無表情で黙々と敵を斬り付けるその姿は、芹沢の冷酷な一面を如実に表しているかの様だ。このままでは、二人とも押し切られて全滅を余儀なくされてしまい……!!
「ファイアブレス、撃て――――――ッ!!」
だが、その時。
グラントとハルキの視界を、何処からか炸裂した紅蓮の劫火が薙ぎ払った。これには流石の芹沢も本能的に危機感を感じたのか、その場から大きく飛び退いて距離を取る。
苦境から解放された二人は一瞬呆気に取られて顔を見合わせるが、その疑問はすぐに一つの確信へと変わる。そして、今に目の前で揺らめく猛炎の隙間から……彼らの予想通りの光景が浮かび上がるのを確認すると、その拳をぶつけ合った。
彼らのいる紅を基調とした筒状のドーム。その側壁上部に存在する、放射線状に開かれたひび割れのような穴から、グラント達がアルンで集結した際にお目にかかった、あのケットシーのドラゴンライダー隊が内部へと飛び込んできたのである。
「グラント! 来てやったぞ!!」
「どひゃー、えらい事になってんなー!」
「これって一体、どういう状況なの!?」
続いて、そうドームの向こう側から聞こえる声は、紛れもなくあのシルフの女領主のサクヤと、彼女の指揮下で今まで行動していたフカ次郎とリーファである。
「どういう状況もあるまい。今あの盾しか持たない痴れ者が立ち向かっている、あの男を倒せばいいのだろう」
「流石サラマンダーの脳筋将軍だにゃん。かませ犬にはぴったりだにゃん……何でもないにゃん」
続いて、シルフの三人に並んで現れたのは、サラマンダーの将軍であるユージーンと、インプのマロンである。そのにゃんにゃんプレイヤーはグラントと目が合うと、パチリと可愛くウィンクをして彼に伝える。
作戦通り、みんなを連れてきたにゃん、と。
「ハルキおねえちゃん、グラントにいちゃん!!」
そして。
その余りに懐かしい軽やかな声音に、二人は一瞬の思考停止の後にそれの聞こえた方向へと振り向いた。
「と、トミィ氏!? 君がここに囚われてる事は知ってたけど……どうして」
「……トミィ、どうしてここに来たんだ。ここはSAOじゃないんだ、戦い方を知らないと危険なんだぞ?」
二人はその、数ヶ月ぶりの戦友との再会に、パァッと顔を明るくして……だがすぐに現状を思い出して、当時の鈍足フットワークが嘘のように軽やかに駆けてくるトミィに対して、優しく咎めの言葉を口にする。
だが、二人の前に立ってフルフェイスメットを外したトミィは……やはり威勢よく、言ったのである。
「いやだ! ぼくだってグラントにいちゃんの力になりたい! ハルキおねえちゃんを助けたい!!
ぼくはたたかうよ! ここで、みんなといっしょに!!」
SAOではあり得なかった彼のその明確な意思表示にやや驚く二人だったが……その瞳に宿る確固たる意思を認めたハルキが、それでもなお諌めようとしたグラントの肩に手を置いて、ゆっくり首を横に振る。
そして、しゃがみ込んでトミィと目線を合わせると、
「じゃあ、トミィ。約束してくれよ、危なくなったらすぐに後ろに下がってくれ」
「……分かったよ。仕方ないなぁ。
君がヒットポイントを全損させたとして、少なくともSAOみたいに死んだらお終いって訳じゃないとは思うけど……それでも、用心してね。
今の君がこのALOでどういう扱いなのかが分からない以上、何が起こってもおかしくは無いから」
「……分かった。やくそくする。ゆびきり」
そして、トミィはからっと笑って小指を突き出してきた。それにグラント達も小指を合わせようとして……お互い指がかち合ってなんかビミョーな感じになる。ワロタ。
だが、そんなひと時を三人で過ごせた事を嬉しく思ったのか、グラントは自然と口に出していた。
「おかえり、トミィ」
「全く、ワイに隠れてそんなお楽しみをしているなんて、けしからんもっとやれおねショタは正義パイセンはポイー」
そして。そこまでオールスターが集結しているのなら、当然コイツも来ているに決まっている。最後めっちゃ詰め込むやん。
というか、最低でも彼女……神代マソップには来て貰わなければ困るところだったのだ。何せ、彼女がここでグラントと合流したという事が、主に二つの大きな意味を孕んでいるからである。
「……へへ、どうだ、セリザワさん? よ。
その落武者男のセリフに、芹沢は大きく目を見開く。確かに、この段階で実は計画が、ここにいるグラントのみならず多くの一般プレイヤーにバレていたとなれば、それはもはや力技でどうにかなる問題ではない。一人では何の力も持たない一般プレイヤーも、多く集まれば発言権は指数関数的に強くなるのだ。
そして、もう一つの意味。こちらが最も大きな要因である。簡単な話だ、自分たちの種族を率いていた筈のシルフ、ケットシー、サラマンダーのリーダーが、そしてALOとSAOを繋ぐマップ転移を持つマソップがここに来ている時点で、それは。
「残念だけど、
俺たち以外のALOプレイヤーが、羽根も持たないイレギュラーな彼らを見たらどうなるだろうね。彼らの実名とか、情報は現実世界にもダダ漏れだし、いよいよ隠し事は出来ないぜ」
……そう、ここでのグラントとハルキの真の目的は、下層にてSAOプレイヤーの救助が行われている事を、他ならぬ芹沢に気付かせない為の時間稼ぎと釘付けだったのである。なるべくGM権限を使わせまいとしていたのも、自身が不利になるからという理由以上に、現在のロスト・アインクラッドのデータを覗かれてはこちらの計画が一発でバレてしまう危険があったからなのだ。
「フカ嬢、マロンちゃん。ハルくんの親父さんと門下生の子供達を守ってあげて欲しい。
……言うのが遅れちゃったけど、こんな所まで来てくれて、ありがとうね」
「がってんだいっ! なーに、ハルさんの親御さんってなら喜んでよしなにしちゃうぜ! ごますりごますり」
「ほーらみんなー? もう大丈夫だにゃん! このマロンお姉さんが、みんなの事を守ってあげるからにゃん!」
「……みんな」
一応先程グラントから作戦の概要を聞かされてはいたものの、その一連の流れを経て本当に多くのプレイヤーが自分を助けに来たのだと言う事を実感したハルキは、何か胸に込み上げてくるものを感じて、一度ギュッと目を瞑ると一歩前に出て、その場の全員に深く頭を下げた。
「ありがとう……みんな、本当にありがとう……!!」
その姿を暖かく見守るALOプレイヤー達を、さらにリーファは感嘆の意を込めて見回した。これだ、これなのだ。種族間でどんなにいがみ合っていたとしても、ゲーマーとしての根本が同じである以上、必ず重ね合わせることの出来る、大きな絆。
「……これが、ALOプレイヤーだ。SAOのデータを受け継いだ、生まれ変わったこの世界に存在する、もう一つの現実だ。
さあ、観念してくれないかな。ここからどう動いたところで、もう既にあんたは詰んでるぜ」
その絆を背負って、グラントは最後にそう、目の前の妖精王に……いや、盗人の
「……ふふっ」
だが。
「ふふ、はははっははははっ…………!!」
その場で、ようやく部位欠損から回復した芹沢は、ボイス音量を元に戻しながら、笑っていたのだ。
「ああ、哀れなプレイヤー達、そんな事で、そんな程度の事で僕を追い詰められると思っていたのかい? ああ、全く、こいつは傑作だよ!
……君達を、この世界から
ああ。
それは。
つまり。
「……システムコマンド」
その芹沢の言葉に、いち早く次の彼の行動を予測したのはマソップだった。
いつになく焦った表情をした彼女を見て、グラントが次にそれを察する。
だが、所詮彼ら二人が気付いたところで……GM権限を取り戻してしまった彼を止める事は不可能だったのだ。
「現在ALO全域に存在する全プレイヤーの、