Q.グラントとハルキではどっちの方が変人プレイヤー?
A.常識があって良識がないのがグラント、良識があって常識がないのがハルキ。
グラント「良識あるわ!」
ハルキ「常識あるわ!」
アスナ「誰が上手い事言えと」
だいいちわ むしむしランドは夢の国
アインクラッド第六十一層。
そこは虫の国。何言ってんのコイツと思うかもしれないが、ホントの事である。
と言えば大体今回の話がどういう話なのか想像がつくと思うので、食事中の閲覧はお勧め出来ません、ご了承下さい。
「むっしマウス、むっしマウス、
むっしむっしマウス」
「それじゃただのネズミーランドだぜ常考」
落武者男と鎖骨prpr女である。お前ら初っ端から、千葉とフロリダのアイツに消されるぞ。
というわけで、現在グラント帝国のメンバーは、アインクラッド第六十一層に昨日から滞在しており、そして本日とある遺跡型ダンジョンの中を闊歩している。時系列的には、あのリズベット行方不明からPoHとの遭遇までの間である。
「それにしても、すっごいなここ。出てくるモンスターが殆ど虫型なんて、この層だけなんじゃないか?」
「通称『むしむしランド』……殆どじゃなくて、全ての出現モンスターが虫型だそうっスよ。いやマジで」
『(。☉∆☉)ワァオ☆』
まだ昼間なので、遺跡の亀裂から外の光とツタの葉の様な何かしらの植物が侵入している。そんな外観をぐるりと眺めるハルキと、それに答えるオルス、便乗するトミィである。
そう、オルスの言う通り、この六十一層はちょっと他の層と比較してちょっとおかしな層なのである。要は全体的にマジで虫だらけなのだ。フィールドに出ればムシムシ、今いるようにダンジョンに入ってもムシムシ。何なら安全圏の街にすら、プレイヤーに危害は与えない超小型Mobがムシムシしているのである。具体的には……今朝グラント帝国のみんながこの層の宿屋で起床した際に、彼等の枕元にダニエルとかアリシアとかミハエルとか、そんなかわいい子たちがテクテクしてたりする感じである。
「うーむ、なんか下の方の層でも、モーモーランドの二層とかパズルランドの六層とか、何かクセの強い層は多かったけどさー。
四十七層の植物系モンスターもそうだったけど、ここに来て明らかにアーガススタッフの趣味がダダ洩れな層が出てきたよねぇ………………あ」
そして、そうして何となく呟いた……呟いてしまったグラントが、一瞬固まって。
「…………いや、別に変な想像してないっすからそのレイピアを下ろしてください副団長様、マジ頼むプリーズシルブプレッ」
「……………………」
彼は、真っ青にした顔で両手をブンブン振って、現在隣で鬼の如き目で自身を睨む副団長様、アスナに弁解するのだった。
「……なんで植物系モンスターが、運営の趣味だと思ったのか、説明してもらえるかしら?」
「え、説明していんすか」
「結 構 で す !!」
もはやドス声である。背中にまで垂れたその栗色の髪が一気に逆立つとばかりの怒号を放つ彼女に、涙目になる落武者男。
そう、彼等がこのむしむしランドにわざわざ足を運んだ理由は彼女にあった。この層が最前線として攻略された当時、ムシムシ過ぎてあんまりに女子キラーなこの層の攻略をついついサボってしまった事をダシに、攻略とはあまり関係がないとされていたこのダンジョンの再調査を団長に頼まれてしまったのだとか。そしてそんな困りに困った彼女が、どうか一緒にとグラント帝国に頼みに来たのが、昨日の夜の事だったというわけである。
ヒースクリフ鬼かよ。陰湿だわ。休んだ分働けって、そんなところまでプレイヤーに対してフェアじゃなくて良いわい。
「まったく……何でわたしがこの人と……」
「その人を頼ってやって来たのはそっちじゃないんですかねアーちゃん」
「あなた、じゃなくてギルドのみんなにです。敢えて一人に絞るなら、ハルる……ハルキさんに、です!」
何だかんだグラント帝国の力を借りる事の多いアスナさんである。この前もリズベット捜索を頼みに来てたよね。なんだかkobの下請けみたいになってるぞ。それでいいのかグラント帝国、それでいいのかグラント。
「……まあ確かに? ハルくんなら虫の一つや二つ、何ともないとは思うけどさ……女性プレイヤーじゃあるまいし」
そうだったわ、この時点じゃあグラントは、ハルくんが実は女性プレイヤーである事に気付いていないんだったわ。そんなおバカロングヘアー男を汚物を見るかのような目で見やっていたアスナは、しかし………。
「っっ!? いやああっっ!!」
直後にオンエアしちゃダメな悲鳴を上げる。
それに何事かと改めて彼女を見やったグラントは、そのkob副団長様が強張った顔で前方を指さすのを確認した。そしてその先を目で辿った自身も、思わずギョッとする事になる。
それは彼等の足と同じくらいの大きさの体躯を持つ、黒光りしたアイツだった。敢えて名前は言わない。どうやら上にはカーソルが存在する事から、その黒いアイツが一応はれっきとしたモンスター扱いである事が伺える。
「うわあ……なんかデカいぞ、現実世界のアイツよりデカいぞ……!!
みんな、あれ見えてるかい?」
『ヾ(((;ꈡ▱ꈡ;)))ノ 』
「△☆▲※◎★●!?」
どうやらここにもアイツが苦手系男子がいたようである。トミィは分かり易く全身鎧姿で身体を仰け反らせ、オルスときたら思わず自分のメイスを一度取り落としている。何と言うか、翻訳ウインドウがもう出ていて対話可能だというのに台詞がアレな時点で、色々と察することが出来るよね。
「い……いやいやいやぁグラントさんこっちくるこっちくる!! 何とかしてください何とかしてえっ!!」
「い……いや俺に言われても攻撃手段ないしってマジでこっち来てる!!
トミィ氏、遠隔射撃で焼き払ってちょ!!」
『ヾ(◎o◎,,;)ノぁゎゎ』
グラントの命令を受けて、トミィは急いで自身のシステムウィンドウから投擲用に「溶岩石のかけら」を取り出そうとするが……如何せん特大サイズのアイツが迫って来てるのに落ち着いて対処できるわけもなく、手が震えて上手くウィンドウ操作が出来ない。全身鎧がめっちゃガチャついてすげぇうるさい。
「じ、じゃあオルス氏! 前に出てメイスで叩き潰して!!
大丈夫、相手は黒光りしたあいつ……つまりキリトだと思えばいい!!」
「あ゛?」
「すんませんっしたアスナさん……」
流石にそれはマズったぞおバカ落武者男め。完全にアーちゃんの逆鱗に触れてるじゃねーか。
それはともかく、幾らそう言ったところでソイツがキリトに見える筈もなく、オルスはもはやそんな命令聞いてる場合じゃねぇといわんばかりに後ずさり始めていた。
「そ、総員撤退!! マジ全力疾走で逃げ切ろう!!」
……そんなギルメン達の様子にグラントがたまらず号令をかけると同時に、その場の
だがアイツも中々な速さである。AGI特化のアスナさんは問題なさそうだったが、トミィを持ち上げているグラントとバランス型のステータスであるオルス、そしてそもそも走るのがめんどそうなマソップは着実に距離を縮められており……。
「はあ。まったく、みんなだらしねぇなあ」
……あっ。
そういえば、一人忘れてた。
「ほっ」
グシャリ。
「……ほぇ?」
「ちょwwおまっww」
「…………えっ」
『༼⁰o⁰;༽』
「……マジっすか、いやマジで」
上からグラント、マソップ、アスナ、トミィ、オルスである。そう、彼等は確かに全力で逃げていたのだが。
「ほら、倒してやったぞ。馬鹿な事してないでとっとと進もうぜ」
……たった一人、全く逃げるそぶりを見せなかったハルキが、そのアイツを思いっきり踏みつぶしたのだった。
「……ハルくん、今自分が何したのか分かってる……?」
「ん? ゴキ#運対を踏みつぶしただけだろ? 別に慣れてるし、どうって事は無いよ」
やめようハルくん、それ女子としてはヤバイやつだ。見なさい、今現在君から一番距離のあるアスナさんが、存在してはいけないものを見るかのようなすごい目で見てるじゃないか。
というかグラントがハルキを女子だって見抜けなかった理由これだわ。
「……えっと、一応聞いておこう。ハルくん、君は虫とか全然平気な人かい?」
「まあな。昔はオニヤンマを手掴みしたりとか、田んぼの中でヤゴを両手一杯に持って家帰ったりしてたし」
虫取り少年か。……まあ、今から考えれば奥多摩の自然に囲まれて育った彼女の環境的にあり得ない話じゃなかったとは思うけどさ。
だが、何度も言うようにこの段階でグラントは彼女を女子だとは思ってないし、何より利用できるツールがあればどんなにイレギュラーなものでも気にせず使いこなすのが彼のセオリーである。
「わ……分かった分かった、じゃあ君が隊列の一番前で。俺達に危害を加えようとしてきたムシ君達を容赦なくぶった切ってよろしく!」
「お、おう。……何でそんなにみんな、ホッとしたようなドン引きしてるような目で俺を見るんだよ」
純粋さがかえって異常をきたしている稀有な一例である。そんなハルくんを言葉通り前に押し出しながら、グラントは引き攣った顔のままギルメンと副団長様に合図を送ったのだった。
「それにしても」
天井から降ってきたミノムシ型モンスターを剣で迎撃し、
「こんなにムシムシぃダンジョンのボスって、一体どんななんだろうねぇ」
定期的にせかせかと襲い掛かってくるカマキリ型モンスターを斬り捨てる。
「ちょっとグラントさん、変な想像をさせないでくれます!?」
「でもアスナ、そんなに虫が怖いなら身構えは必要だと俺も思うぞ?」
「……ハルるんまでそんなこと言って……」
「ぐぶぐぶぐぶ、さっきから観察してたが、どうもこのダンジョンはドッキリ系だったりキモい系だったり、海外のムシパニ系の映画っぽいテイストで構成されてるようだZOY」
「確かに、ダンジョンボスがトラウマ系である可能性は十分に考えられるっスね。いやマジで」
「……そんな……」
悪気なく、しかし着実にアスナを追い詰めていくグラント帝国の皆さん。一応は彼女も、血盟騎士団での部下たちを率いるよりもグラント帝国に力を借りた方がこういう場合には頼もしい、と考える程には彼等を信用しているのだ。その彼等からこの仕打ちである。可哀想。
「まあでも、そんなに気負わないでよアーちゃん。いざって時はハルくんがいるから」
「地球には、ハルくんがいる」
「ハルキ先輩半端ないって、いやマジで」
「ちょっと待ってマソップ嬢とオルス氏、その枠は俺が取りたいから取り消してくれる?」
「面子を保つのに必死ですねグラントさん」
『◝(๑꒪່౪̮꒪່๑)◜』
ハルくんは何か言い返そうとしたけど、それ以上にキレッキレなアスナさんが言葉のレイピアでグラントをメッタ刺しにしてたので黙っておいた。とどめを刺さないあたりに彼女の優しさを感じるね。
そして、その代わりに、たった今ポップした蜂型モンスターを退けながら、皆に呼びかけるのだった。
「おーい、そのボス部屋にもう着いたみたいだけどー?」
ビクッと、他の五人が肩を震わせる。いや、別にグラントとオルスはそこまで虫が嫌いって訳ではないらしいんだけど、まああの黒光りを見てしまって、ちょっとビビってるみたいだよ。
そんなわけで、ハルくんの言う通り、一行はいつの間にか、ドーム状の大部屋へと足を進めていた。側壁の所々にガラスが割れた窓が取り付けられていて、外のマップがそこから垣間見える事から、どうやらここはインスタントマップではなく、一応六十一層の全体マップと地続きのエリアであるらしい。
「……よーし、みんな集まろっか。どこからボスが出てくるかもわかったもんじゃないし、お互いがお互いを守る事が出来る様にしておこう」
そのグラントの言葉に、六人とも六角形上に背中を寄せ合って武器を構える。明らかに一人だけレベルの低いマソップのところが弱点な気がするけど、気にしない。
だが、いつまで経ってもボスはその場にポップしない。十秒、二十秒……ついに四十秒を超えて、いよいよこれはおかしいぞとグラントが警戒を解こうとし始めた、その時。
「ぐ……グラントさん」
やはりそういう事に一番早く気付くのは、この中ではダントツにまともな感性を持つアスナだった。そのまま、返事を待たずに続ける。
「……なんだか、羽音が聞こえますよね……?」
「……えっ」
ぶーん。
ぶーん。
ぶーん。
「こ、これって……!?」
「グラント、上だ!!」
すごく、すごく嫌な予感がする盾男に、直後ハルくんが鋭く呼びかける。それに従って、上を向くと、だ。
「……あ……あぁ……!!」
違ったのだ。
ダンジョンボスが、
「……マソップ嬢、
「ぐぶぐぶぐぶ…… いっぱいとしか」
そう、天井には、マジで大量のムシャウォヴィチさん達がいた。ちょっとグロテスクなので全部モザイク掛けたいレベルだ。ナーヴギアの無駄に高い解像度のせいでくっきり全部見えてしまうのがイヤらしい。
そして……そのムシャウォヴィチさんやムジャンガさん、ムシウタスさんなどなど一同が、一斉にグラント達に向かって下降してきたのである!!
「ひ……ひっやぁぁああーーーっっ!!!」
これにはアスナさんはもちろん、流石のグラント達も一目散に逃げ惑い始めた。ハエ柱とはいうが、そんなノリでモザイク野郎どもが頭上から降ってくるのである。怖い。キモい。流石に。
だが、今度もまた、
「え、ちょっと、おい!? みんなで迎え撃つって手筈じゃ……うわあぁぁっ!?」
「は……ハルくーーん!?」
『(╬⁽⁽ ⁰ ⁾⁾ Д ⁽⁽ ⁰ ⁾⁾)』
そう、やっぱりハルくんである。てっきり真正面から激突するかと思ったら、次の瞬間その場から蜘蛛の子を散らすように逃げていった仲間達に戸惑いの声を上げた彼女に向かって……ソイツらは降り注いだのだった。
「り、リーダー、助けに行かないとまずいっスよ!? いやマジで」
「ぐぶぐぶぐぶ、どうやら一匹一匹の体力は殆どないと言ってもいい位だけど、集合体になるとそれなりの量になるっていうパターンみたいだな定期。
ハルキニキのヒットポイントゲージを見てみろよ。確実に減ってるぜ」
オルスとマソップの声に、グラントははっと顔色を変える。確かに、左上に表示されているハルキの体力が、まだまだ時間的には余裕があるとは言えジリジリと削られているのが見て取れる。そりゃそうだ、今現在四方八方からフルボッコにされているのだから。彼女も彼女で剣を振りまくってるけど。
彼はちらりとアスナさんの方を見る。ダメだ、あの子ついにやべーことになってる。ボス部屋の端っこでうずくまって、ひたすら何か呟き始めてる。可哀想に、清廉潔白な乙女には厳し過ぎる試練だったのだろう。
(……でも、どうやって!?)
グラントは周りを見渡す。そこがドーム状の大部屋である事は確認済みだ。そして所々に割れた窓があって、そこから外の景色が……。
窓から、外に繋がっている……!?
「……こーなったら、一か八かだ」
一つプランを思いついたグラントは、意を決して盾を構えて、それをソードスキルのライトエフェクトで光らせる。
「団員を守るのは団長の仕事って、どっかの誰かが言ってたもんなあぁ!!」
別にそれって、特定の誰かのみが言うセリフってわけでも無さそうだけど。まあでもそれが誰なのか、大体分かる様な気もするからノーカンか。どっかの止まらない団長とか。ツンデレ団長とか。
ともかく、彼はそう言いながら、盾ソードスキルである「ハウリングホール」を発動させた。何回も使ってるから今さら効能を書く必要もあるかは分からないけど、念のためもう一回書いておこう。それは、「既に発動した技も含めてその後の攻撃を盾に一定時間引き寄せる」と言うものだ。
そして、現在は敵の一匹一匹の体当たりが、攻撃として適用された様だった。つまりハルくんを集中攻撃していたムッシー一族は、一斉にその矛先をグラントに向けて猛突進を敢行したと言うわけなのだが。
「う……おおおめっちゃ怖え!! こえーよー!!」
一斉にこちらへと押し寄せるその流星みたいになった大群に並々ならぬ恐怖を感じながら、その盾男は壁側へと全力ダッシュする。なんかめっちゃ周囲のギルメンからの視線が痛いが、ここは気にしないでおく。
「よーし、ムシぃのムシぃの!」
……なぜなら、彼の向かう先には、六十一層の広大なムシムシマップへと繋がる、割れた窓があるのだから。
「……飛んでけぇぇぇぇっっっ!!!」
そして、グラントはそこ目掛けて、盾を思いっ切りブン投げた。
するとそのムシの大群は、それに従って一斉に窓から外へと飛び出して、吹っ飛んでいく盾を追ってそのボス部屋を後にするのだった。
マジかよ。物理的にボスをエリアから強制退場って、なんというかゲーム的にいいのか。まあ、やってる事はふる♡かうんたーの応用ってだけなんだけど。ここがインスタントマップなら出来なかった力技である。
「ふぅ……ひとまずはこれで安心っと」
何やってんのコイツ的な視線が、そんなのありかよオメー的な視線に切り替わるのを肌で感じながら、グラントは回復ポーションを懐から出して立ち上がっていたハルキに手渡す。その彼女も身体の所々から赤いダメージエフェクトを発生させていて、正直見るに耐えない。服が破けなくてよかったね。いろんな意味で。
「なあ、グラント」
「……えっと、何? その微妙に苦いものを噛み潰したかの様な表情」
そう、そう話し始めたハルキの顔色は、確かに心なしか青ざめている様に見えて。もしかして今ので毒でも食らったかと慌ててストレージを弄り出した落武者男を……しかし彼女は制止して。
「ごめん、俺、今ちょっと分かったかも。……虫が怖いって感覚」
「……えっ」
それはヤバいぞ。グラントも顔を痙攣らせ始める。ハルくんまでダメになったらこっからどうやって帰るんだよ。みんな楽しい夢の国むしむしランドから、ただの虫地獄に早変わりだぞ。
「い、いやな……? 別に今でも虫自体は怖くないと思うんだけどな? ……ちょっとあの量の虫の大群には、流石に俺も遭った事無かったし……」
「ああ、そういうことか。
なら安心だぜ? 今ハルくんも見ただろ? 俺がチャクラムのソードスキルを使って、あのムッシー衆をみんな追っ払ったの」
「……ちょっと待て落武者男」
『ゲッ!(꒪ꇴ꒪|||)』
「……今、チャクラムのソードスキルを使ったって言ったっスよね。いやマジで」
「ぐぶぐぶぐぶ、言ったな」
「キリトくんはゴキ#運対じゃないキリトくんはゴキ#運対じゃないキリトくんはゴキ#運対じゃないキリトくんはゴキ#運対じゃない」
アーちゃん実は結構刺さってたのねそれ。流石にないから安心しなよ。……もしかして心当たりあんの?
とにかく、そう。グラント帝国の他の四人が指摘する様に、グラントのやつ、どうやらチャクラムのソードスキルを使って虫を追っ払っちまったらしい。
……つまり、盾はまた、ここに帰ってくると言うことである。
「い……いやだってあの盾俺気に入ってるし、こんなところで無くすなんて絶対ヤダったんですおわわっ」
その時。
帰ってきたよー! とでも言いたげに、すぽーんと音を立てる様に先程の窓から……グラントの黒塗りの盾が飛び込んで、彼の左手に収まった。そういやこの段階じゃまだラディウス・バックラーじゃなかったよね……なんて言ってる場合か。
言ってる場合じゃなかった。次の瞬間、また例のアイツらが窓から、ボス部屋の中に入ってきたのである!!
「ひゃああぁぁぁーー!! ハルくん助けてぇぇぇ!!」
「お、俺でもこれはもう怖いから無理だよぉぉぉ!!」
「そ、そんなぁぁぁ!! し、仕方ない……!!」
再び放射線状に逃げ惑う一行、そしてグラントの盾を追いまくるダンジョンボスのムッシーくん達。マジで黒い彗星である。いやそんなカッコいい二つ名付けるのはおかしいか。彗星はもっとこう…バァーッて動くもんな!
とにかく、思わぬ事態に気が動転してしまったグラント、その場で盾を放り投げてしまう。お前それやったらムシムシ達が本当に盾に殺到して、耐久値を喰らい尽くしちゃうぞ。なんたってそれ一層の盾なんだからな。
……だが、その時、グラントは投げる方向をよく考えていなかった。
「……あ、マズっ」
それは、蹲ったアスナさんの頭上を綺麗に放物線を描いて飛んで行ったのだ。つまり、今ムシムシ君たちはアスナの背後に転がる盾を……いや、最早アスナさん目掛けて突っ込んでいるのである。
そして、その時だった。今まで精神崩壊状態だったその細剣使いが、ゆらりと立ち上がって。
「……そこを、どきなさい……!!
はああああぁぁぁぁっっ!!」
「テ-レッテ-」
……自分の持つレイピアを、勢いよく引き抜く。
「いやあああぁぁぁっっ!!!」
「あたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたた、ほぅわっちゃあ!!」
そして、キリトも真っ青な勢いで、流星群の如く刺突の連撃を繰り出し始めたのだった。その一つ一つが、的確に虫ーズの一匹一匹を串刺しにしており、そのあんまりなオーバーテクニックにグラント帝国のメンツは茫然自失状態である。やっぱ原作ヒロインは違うわ。
「はぁっ、はぁっ……これで、終わりよっ」
「お前はもう、死んでいる……」
ちなみにさっきから太字で喋ってんのはマソップである。
……かくして、晴れてこの遺跡型ダンジョンのボスは、一匹残らずアスナさんの結城百裂剣によって消し飛ばされたのだった。
そして、この後遺跡を出るまでの間も、ついに吹っ切れた彼女が一人でムシムシモンスター達をレイピアで蹂躙していく様を見て……ハルくんを除いたグラント帝国のみんなは密かに彼女を「
だが、後のALOにて彼女がバーサクヒーラーの渾名を付けられた際に、彼らはどこか遠い海を見つめる様な目をしていたというのは、また別の話である……。