SAO (シールドアート・オンライン)   作:ニモ船長

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グラント「ハルくん」
トミィ「ハルキおねえちゃん」
オルス「ハルキ先輩」
マソップ「ハルキニキ」
アスナ「ハルるん」
クライン「ハル公」
アルゴ「ハーちゃん」
マロン「ハルにゃん」
フカ次郎「ハルさん」
ナツ「はるねーちゃん」

『純☆傑』


ハルキ「……みんな呼びたい様に呼ぶよな」
 



だいにわ 風魔忍法帖

 

 「それにしても、懐かしいというか、奇跡的というか」

 

 「そっすねぇ……まさかここがこういう形で残されてるとは俺も思わなかったよ」

 

 

 新生アインクラッド、第三層。ズムフトの街。

 基本的にこの新たに誕生した浮遊城は、あの二年間でグラント達が闊歩した当時のアインクラッドとは完全に仕様が異なっている。

 というのも、基本的なマップは当時と同一なものの、そこに生息するエネミーやフロアボス、そして安全区内にて発生するイベント等に関しては完全に刷新されており、しかもその難度はアルヴヘイム全体で比較するとかなり高めの設定にされているのだ。その為か、ALOプレイヤー達が必死になって攻略を進めて一ヶ月近くが経っている現在も、最前線はまだ十層にすら到達しておらず……いや、SAOでの攻略スピードと比較して遜色はないのだが、当時のデータを受け継いでその程度という位には高難易度なのである。

 そして、そんなだから、ここズムフトの街も、当時担っていたギルド結成の地としての役目からは完全に解放されているはずであり、その地にて設けられていたギルドルーム制度も廃止されていると考えるのが妥当ではないか……と、少なくともグラントは考えていたのだが。

 

 

 「……そしたら、まさかの一部屋だけ再現、かつ固有資産扱いになってるとはねぇ……全財産の殆どを使っちゃったなぁ」

 

 「でもこれでもう、誰に取られることもなくなったんだからいいじゃないか。資金はまあ、またコツコツ貯めようぜ。

 そうだ、トミィとマソップは? 今日はログインするって言ってなかったか?」

 

 「うむ、そうだって話だったよね。ま、もう暫く待てば来るんじゃないかなー」

 

 

 そうかそうか、と頷きながら懐かしの我が家……彼らがSAOにておそらく最も長い時間を過ごしたインスタントマップを見回して、中央に存在する長いテーブルへと歩み寄ったハルキは、そのままそこの木椅子に腰掛けてうーむと背伸びをする。

 ……その時、その光景を見たグラントの脳裏に、ある出来事がフラッシュバックしたのだった。

 

 

 (そういや、あの時もこんな感じだったよなぁ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 2023年、4月3日。そのとある一日のひと時のこと。

 この時点ではまだオルスやマソップが仲間になっておらず、全身鎧男トミィがギルドに迎えられて少し経った頃である。

 

 

 「……ね? ほらやっぱり、俺のネーミングセンスを分かってくれる人ってのはいるんだよハルくん。

 ここにいるキーリト君が、うちのギルドに入りたいって直々にやって来てくれたよ」

 

 「そんな訳ないだろ黙ってろ落武者男。……えっと、キリトさんだったよな? この間の三層フロアボス攻略、お疲れ様。

 それで、今日は一体どうしたんだ?」

 

 

 ……そう、そんな静かな昼下がりに、このまだまだメンバーに乏しいギルドに押し掛けてきたのは、あの黒コートの剣士、キリトだった。彼はあと数日でかの「月夜の黒猫団」に籍を置くことになるのだが、これはその直前に起きた珍事である。

 

 

 「あ、ああ。実はさ……頼む!!」

 

 

 マジで珍事である。

 なぜなら、この原作主人公ともあろう高位なお方が、その場で跳躍からのジャンピング土下座を敢行したからである。

 

 

 「誰か一人、俺と一緒に戦って欲しい奴がいるんだ!!

 このままじゃ俺マジでおかしくなる……!!」

 

 「……お、おい! ひとまず顔をあげろって」

 

 「ふふーん、どうやらこのグラント様から溢れるあまりの威光に」

 

 「黙ってろって言ったろ」

 

 

 慌ててその場で長テーブルの席から立って、キリトに駆け寄るハルキと、その土下座する彼に向かってチャンスとばかりにギルドマスター用の大きな木椅子に座ったまま踏ん反り返るグラント。人間としての徳の違いがダダ漏れである。

 

 

 「頼む……頼むよぉ……ここ最近連日でアイツらに付き纏われて、まともに出歩けないんだよ……」

 

 「アイツらって、誰のことだ?」

 

 

 よく見たらキリトさん、既に半ベソ状態である。最近二十五層の攻略が終わり、アスナとのコンビも解消してフリーとなっていた筈の彼に、一体何があったと言うのだろうか。まさかアスナさんが恋しくなったのだろうか。

 しかしそんな彼の口から出てきた人名は、マイナー過ぎておそらく誰もが忘れている、アイツらだったのだ。

 

 

 「『風魔忍軍』ってギルドの二人組に、伊賀者とか言われて勝負しろってさ……受けない間はいつまでも追っかけ回すって、そりゃもう酷いんだよ……」

 

 「風魔、忍軍」

 

 

 プログレッシブを読んだ方、覚えていらっしゃるだろうか。

 ギルド「風魔忍軍」のコタローとイスケ。アインクラッド第二層にてアルゴからエクストラスキル……「体術スキル」の習得条件の情報を奪取すべく彼女を追い回していたところを、通りすがりの「伊賀者」であるキリト(……と言うよりはその場に突如現れたトレンブリング・オックス)によってまんまと退散させられてしまったあの二人組である。

 

 

 「ああ、風魔忍軍ねぇ、俺知ってるよ。

 あれだろ、あのバカみたいにAGI上げまくった回避タンクばっかりのメンバーで、困ったらすんげースピードで逃げて他のプレイヤーにタグをなすりつけてく、あの超迷惑なギルド」

 

 「そうそう、それだ! ……って、グラントさん」

 

 「うむ、俺もベータテスターだからねぇ、よーくわかるよキリト君、ちなみに君の噂もよーく聞いてますわ」

 

 「アッハイ」

 

 

 実際ベータテスター内でもキリト君の強さに定評こそあれど、評判自体はそこまで良くなかったりする。そりゃそうだ、レイドバトルの類で戦闘の最後の最後にLA掻っ攫っていくスタイルとか、風魔忍軍の連中のこと言えねーヤツだろ。

 

 

 「とにかく、それで二層でアルゴを助けてから妙に因縁付いちゃってさ……アスナと一緒だった頃はこっちも二人組だったから睨みをきかせていられたんだけど、今フリーだから……」

 

 「それで、俺達に一緒に退治してくれ、と頼みに来たって事か」

 

 

 頷くキリト君。ビーターとか言ってあれだけカッコつけてもまだ中学生である。そりゃ複数人に付き纏われたりしたら怖いよね。そういうのは素直にアスナさんに頼みに行けばいい様な気もするけど。

 だがここで変にその彼の依頼に対して乗り気になったプレイヤーがいたのだから仕方がない。

 

 

 「……なるほど、用件は分かった。

 それで? 伊達に忍者を名乗る訳でもないだろうし、果たし状は貰ったんだよな?」

 

 「は、果たし状ですか……!? えっと」

 

 

 これでロールプレイじゃないから怖いよハルくん。若干グラントも引いてるじゃねーか。キリトに至ってはもはや敬語である。

 

 

 「えっと、果たし状なのかは分からないけど、今夜の七時に、十層、千蛇城を基準として城下町一丁目にて待つって言われたんだけど……」

 

 「ほう、風魔衆が町内での決闘を御所望とは、分かってるじゃないか」

 

 「ちょっとハルくんまじ怖いんですけど」

 

 「よし、そうと決まれば行くぞキリト。グラントは来るか?」

 

 「あ、いや……俺はちょっとやめとこーかな。向こうが二人組なんだから三人で行ったら卑怯でしょ」

 

 「えぇ……いや俺としてはなるべく人数がいてくれた方が」

 

 「いい心がけだグラント、それなら俺とキリトで正々堂々真っ向勝負してくるとしよう」

 

 「……イッテラッシャ-イ」

 

 

 なんかスイッチが入っちゃったハルくんに連れられて、キリトがヒィヒィ言いながらその後を歩いていく。そして数秒後には二人とも、ギルドルームから退出してその姿を明滅させたのであった。

 それを見送ったグラントは、一息ついてテーブルに足を乗っけると。

 

 

 「……ねぇ、いくら怖いからって、別に置物みたいに存在を消す必要はないんだよトミィ氏?」

 

 『( °ω° )』

 

 

 ……その部屋の端にてフルアーマーを纏ったまま、微動だにせずにその一幕を見守っていたギルドの新メンバー、トミィに呼び掛けたのだった。

 そして彼からの返信を見てため息をついて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……ちょっと、十層はねぇ」

 

 

 一人そう呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……しかし、ここは和風だよなぁ。まさかこの世界にこんな日本っぽいところが存在するとは思わなかったよ」

 

 「だよな。俺も初めてここに来たときはそりゃビックリしたもんだったぜ。出現モンスターもカタナソードスキルなんてもの使ってくるしな」

 

 「そんなものもあるのか……うーん、刀のソードスキルがあるなら使ってやらないことも無いけど、まだプレイヤーで覚えた人間はいないんだろ?」

 

 「ああ、今のところは敵しか使えないみたいだな。気長に待とうぜ、そのうち出現条件が情報屋にでも上がるさ」

 

 

 この時点で既に相性の良いこの二人。まあお互い剣士だし、通じるところがあるのだろう。一人はちゃんとソードスキル持ちで、一人はどういうわけかソードスキル放棄してるけど。

 というわけで現在午後七時前。ハルキとキリトは噂の忍者二人組と相まみえるべく、アインクラッド第十層安全区、千蛇城下町まで出向いていた。街の向こうでは、ここの迷宮区であり、ベータテスト時代は攻略の最高到達点であった千蛇城(という名でも外観はフツーの迷宮区だが)が満月をバックに聳え立っている。

 

 

 「それで、ハルキはその、城下町一丁目っていうのがどこの事なのか知ってるのか? そんなエリア名はこのマップのどこにもなかったと思うけど……」

 

 「いや、詳しくは知らないけど。

 でも基本的に丁目っていうのは、現実世界の東京都においては……たしか皇居に近い区画が一丁目で、そこから離れるように番号が付けられているってのがセオリーだった筈だよな?」

 

 「へ、へぇ……よく知ってるなそんな事。

 それじゃあ、それをここに当てはめると……皇居が千蛇城で、この街の中で一番千蛇城に近い地域って事か……あれ」

 

 

 いいねいいね、リアルとゲーム内の知識を交えた、すごくプログレッシブっぽい会話してるね。最近アニメ化も決定したし、一緒に便乗しちゃえば、何かの間違いでハルくんもちらっと出演できるかもよ? 出来るとその気になっていたお前の姿は(ry

 だが、キリトはここで周囲を見渡した。現在の位置はその圏内マップの中でも端の方で、人通りも少ない。実はこの千蛇城下町は普段プレイヤー達が利用する各施設とは別に、和風好きの好奇心をくすぐる様な細かなマップの作り込みが為されているエリアがちらほらあるのだが……ここはまさにその物好きの集まる、趣味マップに該当する地域だ。

 

 

 「……もしかして、一丁目って、ここじゃないか?」

 

 

 そう、キリトが低く呟いたその時。彼の前に……「初撃決着モード」におけるデュエル申請のシステムウィンドウが表示されたのだった。その送り主はちゃんと「コタロー」と記されており、思わず隣のハルキの方を見ると、どうやら彼女もイスケからの挑戦状が送られているらしく、目の前に出現した半透明の白い板を眉を顰めて覗き込んでいるのが確認できた。

 

 

 「なるほど……向こうは既にこの街のどこかに潜んでいるのか」

 

 「みたいだな。具体的な数値は知らないけど、確かデュエル成立条件としてお互いの距離に制限がある筈だから……あの二人が圏外に出てるって事は無いと思うよ」

 

 「了解。じゃあ、この申請を受諾してカウントダウンが終われば……戦いが始まるってわけだな」

 

 

 ハルキの確認に、キリトが頷いて背中の片手直剣を引き抜く。そして二人はお互いに合図をすると……同時にその受諾ボタンを押したのだった。

 すると、彼らからそう遠くない場所に、デュエル開始までのカウントダウン表示が浮かび上がった。基本的に()()はデュエル相手との真ん中に発生するものであることを考えると、どうやら相手がキリト達のすぐそばにいる事は間違い無いとみていいのだろう。

 

 

 「それじゃ確認しておくけど、向こうはAGI極振り……ああ、つまり、めちゃくちゃ足の速い連中で、基本的には回避からのカウンターや搦手を多用してくる。だから向こうのペースに下手に乗ろうとしないで、落ち着いて一つずつ対処をしていくように」

 

 「あいわかった。一応こっちも準備はして来てるからな、そう簡単に負けるつもりはないさ。

 見てろよ……忍者衆だかなんだか知らないけど、直接言ってやりたいこともあるんだよな」

 

 「さ、さいですか」

 

 

 先程からどこかテンションのおかしいハルくん。どうも彼女の信念的にその「風魔忍軍」に対して、どこか頂けない部分があるようである。そんな暫定パーティメンバーに、自称コミュニケーションスキル皆無なキリトさんはかける言葉もなく……冷や汗をかきながら一つ相槌だけ打っておいた。

 

 

 「それじゃ、もう始まるぞ……困ったらお互いを呼ぶのを忘れずに」

 

 「ああ、そっちも簡単にくたばるなよ?」

 

 

 そして、その彼の号令に合わせて……キリトは片手で、ハルキは両手で同時に自身の前に剣を構えると。

 

 

 「GO!!」

 

 

 カウントダウンがゼロになると同時に、その場から前方に駆け出した!!

 

 

 「……っ!! ハルキ!!」

 

 「おうっ、了解っ!!」

 

 

 そして、その直後。

 やはり敵はどこか中距離の物陰からこちらを伺っていたらしく、暗闇の中でもライトエフェクトに照らされる無数のピックを確認したキリトが、暫定パートナーに合図を送った。するとハルキも返事をするよりも早く、キリトと()()()()()()()()()()()()()()()

 するとどうしたことか、彼らの身体に向かって迫り、そして突き刺さらんとした無数のピックは、しかし彼らの眼前で紫色の障壁に阻まれて……ダメージを与える事なく地に落ちていくではないか。

 

 

 「なっ……何事でござるかっ!?」

 

 「確かに手裏剣は当たったでござる……!?」

 

 

 そして、分かりやすく驚くコミカルな声が、闇夜に紛れた長屋の影から聞こえて来る。おバカである。キリトとハルキはお互いに頷き合うと、その場でハの字に散開すると、そのまま自分のデュエル相手に向かって肉薄していった。

 タネあかしをすると、いやタネっていうかそういう仕様なのだ。つまり、SAOにはタッグデュエルのようなルールがないので、圏内で二対二の構図を作るには先程のように、それぞれ一人ずつデュエルを組んでスポーツの団体戦のような形式を取るしか無い。

 だがそれは逆に言えば、相手の攻撃を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事が出来れば、それはただの圏内での攻撃として処理される為に無効化する事が出来るのだ。

 

 

 (だから、初めに『困ったらお互いを呼ぶのを忘れずに』ってハルキに確認を取っておいたけど……まさかこんなに上手くいくとはな)

 

 

 もちろん、発案者はキリトである。この時期ハルくんはまだ、色々とゲームのゲームたるアレが分かってないのだ。実際さっきまで彼女もキリトのその案を聞いても半信半疑だったりしたし。

 

 

 「とにかく……先手は取ったぞ!!」

 

 

 そして彼はそう相手に言い聞かせるように言い放ちながら、自身の剣を「レイジスパイク」のライトエフェクトに輝かせた。そして、接近した事で索敵スキルが発動し、可視化された敵……コタローの輪郭に向かってその剣先を突き込んだ。

 

 

 「ま、まだまだっ!! 忍の力はこんなものではないでござる!!」

 

 

 だがさすがはAGI超特化集団の一員である。通常のプレイヤーでは間違いなく回避不能なタイミングから、一気にバッタのように跳躍して迫り来る剣を避けると、そのまま長屋の瓦屋根に登って逃げ出してしまう。

 キリトは小さく舌打ちをしながら自身も地を蹴る。その飛距離は流石に屋根まで届く程ではなかったが……しかし足のついた長屋の壁を勢いのままにさらに踏みしめて、そのまま垂直に壁を登るようにして屋根の梁に手を届かせる。SAO本編でも度々目にした、本家ウォールランである。

 

 

 「逃すか……よ!!」

 

 

 そして屋根の上に飛び移った彼は再び索敵スキルを発動、辺りを見回す。すると自分が追っていたコタローの影がここから更に屋根伝いに三軒ほど行った先に……そして、なんと自分よりも早く屋根に登っていたハルキがイスケを追って前方で走っているのが見えた。

 

 

 「だぁっ、もう面倒な奴らだな!! 飛び道具だけが忍術だと思ってんのか!!

 そっちがその気なら!!」

 

 

 ……そう、痺れを切らしたかの様に叫びながら、予め実体化しておいた短剣―――あれは一層はじまりの街を始めとしたあらゆる圏内エリアで購入できる初期装備の短剣、スマートダガーだ―――を三本、指と指の間に挟み込みながら敵に投げる、彼女の姿が。

 

 

 「なっ……ま、まさかそこの伊賀者に加えて、きさまも他藩の透波かっ!!」

 

 「だからそれだよ、それ!!」

 

 

 その投擲技術はそれはそれは見事なもので、AGI全開で走りまくる敵忍の動きを読み切って、その走る先を的確に見定めて牽制を加えている。そのせいで気付けばイスケは、折角超高速で逃げ回っていると言うのに、その行動範囲が着実に狭まっていた。

 すげぇ。キリトはチューニ魂をくすぐられて思わずそう呟いた。マジの忍者同士の戦いみたいになってる。いいなぁ、俺もやりたい。

 だがこっちだって……ハルキにはない、こいつがある!!

 

 

 「でやぁぁっ!!」

 

 

 すぐにキリトは自身の剣を背負う様にして、上段突進技「ソニックリープ」を発動させ、彼のAGI寄りのSTR型で可能な限りの速度を出しながら……思い切り屋根からさらに飛び上がる。すると彼の体はシステムアシストを受けて大きく夜空に飛び上がり、そのまま速度を殺さずに前方を駆けるコタローの少し前方までワイヤーアクションのように滑空してゆく。

 

 

 「お……おのれっ、むささびの術かっ……うごっ!?」

 

 

 さっきも書いた様にキリトはAGI特化型ではないので純粋な走行速度はコタローに劣るが、そこにソードスキルのアシストが加われば、瞬間速度ではその敵忍を上回る。そうして突如として上方から目の前に突っ込んできた黒の剣士に驚いたコタローは何とか彼を回避しようとするが……最高速で走っていた事がどうやら裏目に出た様である、急停止が出来ずに瓦屋根に足を躓かせて、キリトのすぐ横を通り抜けて盛大に転がって屋根から落ちていった。何というマヌケ。本来なら、足で踏み止まる力はSTRが担ってるからね。

 

 

 「こ、コタローっ!! おのれよくもっ!!」

 

 「余所見してる場合かっ!!」

 

 

 そんな可哀想な相棒に声を上げるイスケを、ハルキが一喝した。この目の前の風魔の名を騙る忍者は、動き自体は素早くともその動きが直線的なけらいがあり、そのクセを見切ってしまえば相手の動きを見ずともある程度予測が出来る事に彼女は気が付いていた。そうして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事で、今度こそ本格的に彼をその場に膠着させているのだった。なるほど、確かにAGI特化で素早さが上がっても、その人の状況判断の速さは生体準拠だもんな。

 しかしだ。んな少年漫画みたいなこと出来んの多分お前だけだぞ。マジでプロファイターである。

 

 

 「く、くっ……影縫いの術とは……!!」

 

 「笑わせんなっ!!」

 

 

 そうして足踏みしているイスケに好機と見たハルキは身体を低くして彼に突撃した。剣を右手で逆手に持ち、すれ違うようにしてその脇腹を裂こうとした彼女は、しかしそれを何とか阻もうとした敵の短剣とかち合って。

 ……そして、予め腕組みをする様に交差させていた左手で、剣を()()()()()()()()

 

 

 「なっ……これは空蝉の……」

 

 「ああもう! 何でも忍法扱いするな! ……ぅらっ!!」

 

 

 さっきから当たりが激しいハルくん、ぶっちゃけグラントに対して以上である。

 ともかく久しぶりに見たよ、その鞘をデコイにするやつ。あの第二層安全圏「タランの村」での対衛兵NPC戦以来のお披露目である。そうして鞘ごとぶつけた剣を鞘から抜きながらイスケの背後まで走り切ると、そこから急停止する反動を利用して背後から後ろ回し蹴りを放つ。

 

 

 「で……できるっ!!」

 

 

 イスケもまた屋根を転がって地面へと落下していく。それを確認したハルキは、一連の駆け引きを固唾を呑んで見守っていたキリトに合図をすると、合流して屋根の上から敵二人を見下ろした。するとそこには、まるで示し合わせたかのように折り重なって横たわる忍者二人の姿が。

 

 

 「これ以上やるっていうなら、引く気はないが……もう勝負はついたんじゃないかな」

 

 

 とはキリトの言葉である。実際に彼とハルキのヒットポイントは一ミリも減少していないというのに、現在コタローとイスケのそれは落下によるダメージのせいか三割近く削れており、初撃決着モード(とはいえ、初撃が当たらなかった場合は相手の体力の半分を削ったプレイヤーの勝利となる)でのデュエルにおいてそれはもはや大勢は決したと言える程度のものだ。

 

 

 「ふ、不覚……!! 拙者達の他に、このように忍術を使える輩がおったとは……!!」

 

 「おのれ……さすがは伊賀の忍者衆よ……」

 

 

 

 

 

 

 

 「おい」

 

 

 

 

 

 

 

 直後。

 キリトのすぐ横で、恐ろしく低い声で(おおよそ女子のものとは思えないドス声で)そう、呼びかける剣士がいた。

 

 

 「お前ら、風魔の忍者衆だと名乗っているそうだな」

 

 

 「い、いかにも!」

 

 「ギルド『風魔忍軍』のコタローとイスケと言えば拙者たちの……」

 

 

 「ならば、問う」

 

 

 キリトさん、そのパートナーのありえねぇ気迫にちょっとずつ距離を取り始めている。怖いよね、分かる。こっちも怖い。もちろん忍者のお二人さんも。

 

 

 「風魔の忍者、お前たちの主君は、だれだ」

 

 

 「……むっ……?」

 

 「しゅ、主君……?」

 

 

 その問答にさらに目を吊り上げて、ハルキは腕を組んで言い放つ。

 

 

 「時は戦国、一族の長たる風魔小太郎を始めとした風魔衆は、天正十八年に北条が滅亡するその時まで一貫してかの豪族に仕え続けた事を知らないとは言わせないぞ。

 答えろ、この世界においてお前たちの主は誰だ。まさか守るべき主君を持たずして風魔衆を名乗っている訳ではないだろうな?」

 

 

 まさかのガチ勢である。なるほど、そういう怒りだったかー。突然に知識を求められたコタローとイスケも困ってるぞ。そりゃ、忍者カッケーって思っただけの人間がそんなとこまで一貫性を持たせている訳ないだろうし。ちょっと凝り性が過ぎるってもんだぞハルくん。

 だけどね? さっきも言ったけど、この時点での彼女はリアルとゲームの区別が付いていないのである。そりゃリアルで突然風魔衆を名乗る団体が出てきて、そのくせパチモン臭漂わせてたらその手の人は怒るじゃん?

 

 

 「加えてそこのお前。さっき俺達の事を『他()の透波』って呼んだな。

 風魔衆は北条が滅亡した後は江戸にて野盗となり下がり、戦国の世が終わると同時に風魔小太郎も捕縛の後に処刑されたと聞くが、そんな風魔衆がどうして江戸時代以降に設けられた『藩』という言葉を使うのか説明してもらおうか」

 

 「……諸説アリ」

 

 

 めっちゃ小さい声でキリトが屋根を降りて、その陰から囁く。うむ、それ大事だよ。かなりハルくんの偏見混じってる気がするし。

 とにかく、唐突に始まった彼女のガチ問答に、忍者(笑)の二人は冷や汗をダラダラ流しながら言葉を詰まらせていた。ここで肯定でも否定でも良いから何かしら言い返さないと、忍としての沽券にかかわる事は二人とも分かっていたけど、ぶっちゃけそこまで考えてギルド名付けた訳じゃないしそんなのは土台無理な話であって。

 というかそれが普通だから。ハルくんがヤベー奴なだけだから。そのヤベー剣士はそんな風魔忍軍の二人を見て、小さくため息をついて。

 そして、晴れて引導を言い渡すのだった。

 

 

 「素早さや戦法、術だけが忍の道じゃない。その歴史や信念を知ってこそ真の求道者足り得るんだ。

 その努力を怠った時点で、お前たちの忍の心意気なんぞ!!

 

 

 

 ……薄っぺらいんだよぉぉ!!」

 

 

 

 「ごっ……ござるぅぅぅッ!!」

 

 

 風魔忍軍、完☆全☆敗☆北である。因みに敗因はハルキのトンデモっぷりだからまあ、仕方ないね。

 というわけでその怒号を聞いて、コタローとイスケはもう完全にデュエルを続ける気力なんて失せてしまったらしく、ギャン泣きしながらその場から全力逃走である。

 

 

 「……えっと、これで一件落着だな、ハルキ、おつ……」

 

 

 「……ああ、おつかれ」

 

 「オツカレシャーッシタ」

 

 

 ただでさえドン引き状態だったキリトである。それでも折角協力してくれたんだからとお礼をとそう呼びかけて……しかし未だにその鬼子母神の様なオーラを解いていないハルキに委縮する事になった。可哀想。よく考えたらコイツが全部掻き回しただけじゃねーか。

 

 

 「……まあこれで向こうも多少は懲りるんじゃないか。また勝負とか身の程を弁えない事を言いやがったら、その時は遠慮しないで連絡してくれよ」

 

 「お……おう。そうする事にするよ、うん。

 それにしても、ハルキってステータスを殆どいじってないのに凄い動きをするよな。このSAOは和風MMOゲームじゃないからダメだけど、もしここがそういうジャンルのゲームだったら、忍のジョブとかに……」

 

 「いや、いい」

 

 

 漸くまともなモードにハルキが戻ってきたのを見計らって、それでも保険にとそう彼女をほめたたえる黒の剣士さん。あなたもむささびの術使ってたんだから十分凄いと思うけど。

 だがそれをやはりきっぱりと否定する彼女は、でもどうも先程までのマジモードとは違ってどこか様子が変で。

 

 

 「えぇ……? いや、結構いい線行くと思うぜ? さっきもリアル忍者みたいでカッコよかったし……」

 

 「俺は忍者になる気はないから。侍ってんなら少しは考えてやってもいいけど」

 

 

 そして、そう澄まし顔で頑なになる彼女の頬は、少しだけ朱に染まっていたらしく……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (あー、あれって、そういうことだったのね)

 

 

 さて、それから年月は過ぎて、冒頭の新生アインクラッドのズムフトのギルドルームである。久しぶりに見るギルドルームとそのがらんどうっぷりから当時の事を思い出していたグラントは、それに加えて後にキリトから聞いたその騒動の顛末を思い起こして、一人納得したのだった。

 

 

 (ハルくんが忍者って事は……くノ一になっちゃうもんなあ)

 

 

 彼女の秘密を知った今だからこそ分かる結論である。加えて、くノ一というのはどうも、ビジュアル的にも実際の任務遂行においても何かしらのお色気要素が入る事がその手の媒体では多い訳で。

 なんならサブカル的には房術なんてものまで存在する始末で、流石にそんなの彼女もやりたくないだろうし、何よりもないからできないよね。

 

 

 「……おい」

 

 

 おや、そんなグラントのマジキモい妄想が、どうやら顔に出てしまっていた様だ。見ればテーブルの席に座っていたハルキが、背伸びをした格好のままこちらを睨みつけてくる。

 そしてその体勢のせいで無意味に無駄に強調されたそれに目が行ってしまったグラントは、まんまと直後に彼女によって放たれた短剣の餌食になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「………………えっち」

 

 

 

 

 

 

 

 ……そのらしくもない、初々しい呟きに悶えながら。

 

 

 

 

  

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