Q.結局オルスって何人なの?
マソップ「正解はCMの後で」
「……とうちゃーく」
到着。
いやどこにって言われれば、ここはアインクラッド第七層。最近プログレッシブの最新刊が発売されて、初めてお披露目となった層である。
この層、六層迷宮区から登ってきてすぐ近くに、いわゆる主街区であるレクシオという街が存在するのだけど……実際はマップの中心部に存在するもう一つの街、ウォルプータの方が規模が大きく、また層全体の目玉を司るエリアなのだ。
そしてここがウォルプータ。その入り口をくぐり、港町(海というより、層の外周に沿って大きな湖みたいになっちゃってるけど)の喧騒の中、グラントはマソップとトミィの三人で街のとある施設へと向かっていた。
「ぐぶぐぶぐぶ、パイセンやけに元気がなくね常考」
「いやー、うん。
ったくもう、しょうがないなー。あんだけ念を入れて言ったのによー……」
『(´×ω×`)』
なんかおバカ男がらしくないこと言ってる。どうしたんだろう。まあ見ていけば分かるんだけど、それにしてもだ。
というのもね? 実はこの街、ただの綺麗な港町ってだけじゃないのだ。その景観や街を支える(という設定の)一大事業が存在しており……グラントのような短絡的バカ落武者男ならば一度はそこに足を踏み入れて、地獄を見るのがお約束だってのに。
「そのとーり。
ベータテスト時代にどんだけのプレイヤーが、ここで脱落したと思ってんねん……あ、いたいた」
―――そう。
SAOベータテスターにとってこの七層の一大都市は、テスターの五割が攻略から脱落したとまで噂されるトラウマスポットでもあり、他ならぬグラントもその犠牲者の一人だったのである。
そして、そのトラウマの原因となったある施設の中に入ってすぐのホールにて……お目当ての人影、グラント帝国の残りの二人と、その前に立ちはだかるコワモテのNPC二人を発見して。
そのギルドマスターは、ため息混じりに声を掛けるのだった。
「こらー、オメーら!!
マジでカジノは程々にって言ったでしょうがー!!」
ウォルプータ。ここはカジノの街である。
階段状の街の突き当たりに存在するグランドカジノ……ここで破産し全てを失い、攻略が絶望的になったベータテスターは数知れず。結果としてこの後の十層までのフロア攻略よりも、ここの誘惑に勝てるかどうかがベータ攻略の最大の要とすら言われるほどの要注意エリアなのである。
「まったくもー。お主がいながら、どーしてこんな事になってんのかね……ハルくん」
「……面目、ない」
残りのギルメン達に合流してから直ぐに発したグラントのぼやきに、いつになくしおらしく答えたのは……なんとあのハルくんである。まさかの立場逆転である。
ここらで何が起きているのかを説明しよう。この日の朝に、「『アンバームーン・イン』と呼ばれる七層ウォルプータの宿屋は今までで五本指に入る極上の宿屋だった」という情報を親友のアスナから聞いたハルキが、それならせっかくだしみんなで行ってみないかとグラント達に提案したのが事の始まりだったのだ。
しかーし、カジノに対して相当のトラウマがあったグラントは、旅行に行くのは結構だけどカジノはやめとけと、いやまあ行っても良いけどほどほどにしとけと冷や汗ダラダラで念を押した上で、じゃあ今日の夕方に現地集合でー、と……取り敢えず今日の夕方まではなるべくカジノに近づかないように徹底的に予防線まで張って、先に現地へと向かうハルキとオルスを見送ったのだ。
だけどまあ、ハルくんだし、まさか
「いや、俺は何もしてないからな? 本当だぞ! 本当だから……頼むから信じてくれよぉ……!」
「……随分必死なあたり多少の誘惑には駆られたみたいだねぇ」
「流石パイセン、弱みを握るや否や煽りに煽る鬼畜の所業」
『(´•ω•`๑)』
弱りに弱った相棒に容赦ない追撃、早速人間としてのゲスっぷりを十二分に発揮する落武者男の図である。
とはいえ、流石にグラントもこの状況を引き起こしたのが彼女じゃない事くらいは察しが付いている。時系列的にマソップ加入後ではあるとはいえ、まだハルくんがギルドから一時離脱する前なので、彼女はまだまだSAOのシステム知識に関しては壊滅的で、カジノとかそういう複雑な仕組みに対応できるはずもないのだ。
というかそもそも、ハルキはそんなだらしない娘じゃないんだぞ。
「……まあ、そこは疑ってないよね。うん
ってことでオルス。テメーやりやがったなコラ」
「○%$■☆♭*……!?」
―――だったらやらかしたのはもう、オルスしかいない。
事実、今の今になってもグラント達に構わず目の前のコワモテNPC二人に向き合って立ったまま、オルスは動く事が出来ないでいたのだ。
……そして、その背中越しに、グラントが可視化されたオルスのウィンドウを見ると。
「うわっ、横文字キライ読みたくない……って、おまっ、かーっ!!
融資クエストが始まってんじゃねーか!! 返済金額は……二万kコル!?」
……その場の空気が凍りついた。
二万kコル。kとはキロのこと、つまり掛ける千だ。つまりは万掛ける千、二千万コルの事である。
「に、二千万コルって……いや待て待て!!
おかしいだろ、ここって所持金がスッカラカンになる事はあっても、いわゆる借金を抱えるような事にはならないんじゃないのか!?」
伊達にサブリーダーを務めていない、金銭感覚も一番まともなハルくんは顔真っ青でグラントに詰め寄るけど……残念ながら彼は嘘をついていない。
「……ベータ時代からあった、当時の史上最悪クエストの一角。
カジノで大損したプレイヤーに確率で発生するの。オーナーっぽいNPCがやって来て、折角だからお金を融資しようって言ってくるの」
発生条件エグすぎだろ。プレイヤーを確実に借金地獄に叩き落とす気マンマンじゃねーか。
つまりだ。所持金スッカラカンになって、今後どうしようって絶望するプレイヤーに「お金を貸してやるからこれを軍資金にしてもっと増やして立て直せ」って言ってくる訳だ。うまく当たれば大儲け、そのNPCへの返済額を持ってしても有り余る大金を稼ぐ事ができる……と、そう甘ーく囁くのである。
実際は最悪だ。融資なんて受けた日が最後、さらに大損してお金を返済できず、さらに融資を受けざるを得ない状況に追い込まれて、気付けばあり得ないレベルの金額を請求される事となるのだ。
「……んで、しょうがないから無理矢理脱出しようとしても、コワモテのNPCに捕まって身動き取れなくなる。今みたいにね」
そしてコイツらも前に戦った衛兵NPCと同じで、撃退不可である。そもそも圏内だから攻撃とか意味ないし、当時の有志からの報告によるとそもそも出口にシステム障壁が発生していて、奇跡的にコワモテ達を振り切ったとしても結局逃げられないのだとか。
因みにさっきオーナーっぽいNPCがいるって言ったけど、実は闘技場のオーナーは、それとは別個でキャラクターとして存在しているので……その下っ端ってところだろうか。詳しくはSAOP七巻にて。
「ど……どうするんだよそんなの!? いやっ、俺の監督不行届なんだけどさ……。
分からなかったんだよ……何話してんのかすら分かんないのに何が起きてるかなんて分かる訳ないじゃないか……」
「ぐう正論すぎて笑うわw」
これにはマソップも、ハルくんに同情せざるを得ない。そうだよ、そもそも言語が分かんないオルスの管理なんてできっこないのだ。仮にこの外人がNPCと喋ってんのを横で聞いていたとしても、それでも彼女は内容をこれっぽっちも理解できる訳ないんだぞ。
……因みにこれ、一度受けるとパーティー人数分の融資がなされる仕様だ。つまり、オルスが勝手にクエストを受けて融資を受ければ受けるほど、ハルくんもきっちり同じだけ負債を抱える扱いとなっており、だからこその圧倒的な返済額、加えてコワモテNPCが二人いるのである。
『(|||O⌓O;)』
「お……オルス何てことしてくれたんだよ……」
「○×$※&*#&@?」
「お前全然反省してないだろ」
「こればっかりは何言ってんのか分かんなくても分かるよねぇダメダメ外人男が」
すっとぼけた顔しやがって。「え? 俺が悪いんスか? いやマジで」とか言ってそうだわ。湯水のようにカネを使うボンボン御曹司みたいな所業である。
騙されねぇぞ、オメー額がこんなに膨れ上がってる時点で、融資してもらったの一度や二度じゃないだろ。確実に内容を把握した上での確信犯である。ギャンブルの誘惑に勝てなかったダメ男の末路である。
「とにかく何とかしないと。ハルくん、うちの総資産っていくらくらいだっけ……?」
「最近装備の買い替えにだいぶ使っちまったからな、取り敢えず金額としては七万コルくらいだったと思うけど……どうすれば良いんだ……端にも棒にも掛からないじゃないか……!!」
「これは間違いないZOY、借金取り立て人にもう少し待ってもらえるよう頼み込む為にワイ
「良い加減にしなさい鎖骨prpr女」
まあ実際は、それプラス素材とかの資産を合わせてもう少し多めに見積もっても良いのだけど、そこまでしちゃうと今後のギルド運営に多大な支障が出てしまう。っていうかマソップ、ワイ「ら」っていうのやめろ。何がとは言わないけど、もう彼女のこと気付いてたのか。
……なので、こうなったら選択肢は二つだ。一つは同じギルメンとはいえ、まだハルキ&オルスとパーティーとして連結していないグラント達が、何とかカジノ外からお金をかき集めて支払う方法。
だけどこれはかなり手間が掛かるし、その間ハルキ達はこの広場にて待ちぼうけである。一日二日で払える額じゃないし、現実的じゃないよね。
「ぐぶぐぶぐぶ、じゃあどうするんだぜパイセン」
『(•’ ’• ۶)۶?』
―――なので、ここは二つ目の方法で何とかするしかない。
「……こうなったら仕方ない。
「クエスト本来のルートって……このクエストに続きがあるってことか?」
漸く少しは元気を取り戻したハルキの質問に、グラントは説明する。
「そりゃ、ちゃんと突破口を用意しておかないとみんなSAOやめちゃうじゃん? ……まあ、今はデスゲームだから辞めようがないけど。
大まかに、二つのパートに分かれてるの。一つ目は純粋にボードゲームとかスロットで増やす方法で、こっちは少なくとも命の危険はないけど、スッたらどんどん返済額が増えていくリスキーなヤーツだね。大体コイツのせいで負債がどんどん増えていくってわけ。
で、もう一つの方が」
「もう一つの、方が……?」
恐る恐る尋ねるハルキの、その後ろで動向を見守るトミィ。そんな二人に向かって……この期に及んで我関せずな態度を見せるオルスの頭を引っ掴んで、そのギルマスは告げるのだった。
「もう一つの方は、債務者の努力いかんで何とか出来るヤーツね。
つまり、
「%$■☆♭◎&@? ♭#▲□&○△#?%◎!!」
……そんな風に笑ってられんのも今のうちだぞ外人男。
「■■■■■■!!?? ▲▲▲▲▲▲▲!!!!」
「オイオイオイオイオイオイ!!?? バカバカバカバカバカバカバカ!!!! かな?」
―――ひとまずオルスの絶叫とハルキのおバカ分析はスルーして、さっきの落武者男の説明に補足を入れておく。
モンスター闘技場。このウォルプータ・グランドカジノの最大の特徴だ。闘技場内に登場する二体のモンスターの内のどちらが勝つかをプレイヤー同士で賭け合う仕組みとなっている訳だが、先の融資クエストの返済に追われているプレイヤーの場合は例外で、その闘技場に行こうとしても別のエリアに転送される事になる。
「それがここ。元々の闘技場そっくりのインスタントマップってことだね。だから周りの観客はプレイヤーじゃなくて全員NPCだし、いわゆるオッズも勝手に決められてる」
「なるほど、どうりでなんか周りがよそよそしいなって」
さっき、返済方法の一つに闘技場の選手になるって言ったけど、プレイヤー同士の賭け事である本物の闘技場にプレイヤーが出場してたら、みんな同情したり戸惑ったりでまともなギャンブルなんて出来る訳がない。
そういう訳でインスタントマップだ。現在観客席に並んで座るグラント達の視界の先では……訳も分からず突然闘技場の檻の中に飛ばされたオルスが、早速一回戦のエネミーと交戦中だった。ちなみに一対一の形式なので、ハルキは今回免除である。
「マソップ嬢、ちゃんとオルスに賭けてきただろうね? 因みにオッズは?」
「ぐぶぐぶぐぶ、ちゃんと五万コル賭けてきたぜ常考。因みにオッズは三倍だったZOY」
……つまり、オルスが勝てば、賭けた分の五万コルは十五万コルになる。かなり割が良い気もするけれど、返済額を考えるとすずめの涙だったりする。
それだけじゃない。実はこのクエスト、ベータ時代は対戦相手のエネミーに負けるとカジノ入り口のホールに飛ばされて、賭けた分の金額の損失だけで済んだものだったのだが……実は内部的にはちゃっかり死亡扱いになっている事が当時の有志班によって検証されていた(具体的には負けた人間のカーソルが一瞬グレーになるんだとか)。
今となってはこれもまた、一種のデスゲームなのである。
「でもまあ、確か全五回戦のうち、四回戦目までは自分より下のレベルの敵しか出てこない筈だから……ひとまずは安心していいと思うよ、うむ。
という訳で、ハルくん、マソップ嬢、れっつらごー。トミィ氏はここでオルス氏を見ててちょ」
『ヾ(◎o◎,,;)ノ』
「おい、何しに行くんだよ?」
……しかし、そんなワケで今もパニックになって檻の中で逃げ回っているオルスを放置して、グラントはハルキ達に声をかけて歩き出してしまう。慌てて追いかける二人だったが、どうやらマソップはその思惑に察しがついているようである。
「パイセン、闘技場の次の試合が始まる前に、軍資金を増やす魂胆だな常考」
「そ。じゃないと、返済額には届かないから。
実はさ、あの闘技場ルート一本だと、確か要求される返済額の半額までしか稼げない仕様になってんの」
「……まじかよ」
……さっきパートが二つあると言ったけど、こういう事だ。
どういう事かと言えば、つまり普通にカジノで儲けるパートだけで頑張ろうとしても、まあ中々運の良さは続かないし、だけど闘技場パートのみでで堅実にやったところで……グラントの言った通り実は返済額に結局届かない様になっているのだとか。そう言えば観客はNPCだし、オッズ比も勝手に定められてるっていうのはそういう理由もあるんだろうね。
つまりである。このクエストにおいて一番大事なのは運ではない。運要素の強いカジノでの勝負パートと、ある程度は堅実に稼げる闘技場パート……この二つを
「だから、今からある程度カジノで儲けたら、すぐに欲を出さずに退散して、こっちに戻ってオルスニキに全額賭けるつもりなんじゃね」
「そうやって確実にお金を増やす事で、何とか返済額に届くよう工面しようって事か、なるほど……」
「ま、そういうわけですね、うむ。
だからハルくんはちょっとてー出さないどいて。むしろ俺達がちょーしに乗り出した時に、容赦なく一喝してくれればそれで」
「おーし、俺にピッタリだな」
さすが初期ハルくん、単細胞である。ただ決して無能ではないので、ちゃんと軍資金のキーピングをしつつ良いストッパーになってくれるだろう。
対するはグラントとマソップ。カジノの混沌に繰り出して、栄光を勝ち取ろうとする猛者二人である。でも、ベータ時代にカジノの利用経験があるグラントはともかく、マソップは大丈夫なのか。コイツが絡むとやべー未来しか思い浮かばないんだけど。
「……まあ見てろって。当たらなければどうという事はない!」
「当てなきゃダメなんだけどね?」
「……本当に大丈夫なんだろうな……?」
結論から言おう。
「……大丈夫、だった」
最近驚いてばっかのハルくん。しょうがない、何せ相手はSAOトップクラスの狂気のプレイヤー二人、グラントとマソップである。本来はこうあるべきなのだ……まあ彼女も負けず劣らずトンデモなんだけど。
「へーい、一万コルから始めて、現在三十二万コル頂きやしたー!!」
ハンパねぇなおい。フツーにオルスが今必死こいて頑張ってる分の二倍近く稼いでるじゃねーか。
「……俺それやっててまともに稼げてる人初めて見たんですけど。
あ、こっちもジャックポット当たったー」
「……こんな、こんなチョロいもんだったのか、カジノって……?」
ヤメレ、ハルくんが洗脳されかけてんじゃねーか。
取り敢えずマソップから。実は彼女が勝負しているヤツ、カジノゲームの中ではかなりマイナーなやつで、具体的には始めに一つの黒い球を逆さにした四つのコップのどれかに仕込んで、その後高速で場所の入れ替わったそのコップの中から黒い球の入ったコップを選ぶというものなんだけども。
よく考えて欲しい。マソップはAIである。思考や演算処理の高速化はお手の物であり、目視出来ないとか有り得ないのだ。普通のプレイヤーが見ても速すぎてブレブレでよく分からず、結局四分の一の賭けになってしまうそれも、マソップからしたら百パーセント的中の格好のカモなのである。
「んま、ここまで順当に行くと、この後カジノ側からイレギュラーな要素を追加してくる可能性も否定できないがな、ぐぶぐぶぐぶ……臨むところだぜ、もう一丁」
「おいマソップ、そこまでだ」
早速ハルくんストッパー稼働である。横で息巻いているピンク髮の女性プレイヤーの首根っこを容赦なく掴んでテーブルから遠ざけるのだった。
「マソップ嬢が三十二万かー……ふっふっふ、俺もあともう一回ジャックポットが当たれば二十七万に」
「……くそ、こうなると止めて良いのか分からないぞ……なぁ、あっちのルーレットとかはやらないのか?」
「あれね、マスターの赤黒ネクタイの色の大きさで入るポケットの色が予測できるって話だったけど、的中率が六割とかそんなんだったっけ……まあ、のんびりやる分には利益が出ると思うけど、今みたいに短期集中って場合は四割を立て続けに引いて損する可能性もあるからなぁ……っと、そうだった、そろそろオルス氏の第二回戦が始まるか。
ハルくん助かった、その調子で今後のストッパーもお願いね」
「お、おう……」
むむ。ハルキは焦った。なんか今回のグラントは、普段のお調子者っぷりが薄れてテキパキしていて調子が狂う。むしろ頼もしいくらいだ。
ちなみに、グラントの方も解説しておこう。彼も現在立て続けにスロットにて大当たりを当てまくっているのだけれども、当然ベータ時代からこうだったわけじゃない。
じゃあなんで今こんなに調子が良いのかって話なんだけれども……スロットで必要なものを考えてみよう。運の良さはもちろん、気運に乗れるだけの
……器用さ。つまりはDEX極振りでだいぶ補正が掛かってるっぽいね。他のゲームでちょくちょくある「LUC」―――つまり運の良さのステータスがSAOにはない分、もしかしたらDEXがそこんとこを担ってるのかもしれない。
(でもそれにしても今回はちょっとヘンっていうか、異常っていうか……だって、まるで一度体験したことがあるみたいにいろいろ知ってんだから……なぁ……)
……ん?
「……もしかしてお前も、
ぴたりとグラントの動きが止まる。
そして少しの間の後に、その全身が震え出した。
「……ヒッカカッテナイヨ」
引っかかってたんかい。オルスのこと言えねーじゃねーか。
なるほどね。リアルでのコイツの家庭環境を考えても(ALO編設定置き場にて記述アリ)よもや借金がどうのこうのって感じじゃなかっただろうし、妙にこのクエストについて詳しい辺りとか、考えてみたら明らかに不自然だったよね。
「ダイジョーブ、カエセルンダヨ」
「おい」
「ウマクイクヨ、カジノイイトコ、フシギナコ、マジデカジノ……イヤマジデェェアァァァッッ!!!」
「お……おーい!? グラントー!?」
当時の黒歴史をダイレクトに掘り起こされたグラントさん、泣きながら走り去ってしまう。フルボッコである。そして別に責めたりする気は無かったんだけど、結局はいつものクソザコ落武者男だった事を知って……ちょっぴり安心したハルくんであった……。
「って言うわけで、実はパイセンも当時調子に乗って、融資を受けちゃったゴミカスだったって事だぜ常考」
「わざわざ言わなくて良くね? えなんで言っちゃうの? トミィ氏ドン引きしてんじゃん?」
『(இдஇ; )』
「……ちょっとがっかりしたけど、まあ……ごめん、フォロー出来ない」
ぐすん。グラントは涙ぐんだ。何気に最後のハルくんの台詞がエグい。
まあそう言いながらも、現在すでにオルスは四回戦目までを順調に勝ち抜いていた。そしてその試合の合間にカジノでちょくちょく稼いで、さらにその金額をオルスの勝負に上乗せして……と画策するうちに、最後の五回戦目のオッズでギリギリ返済額に届く程度のお金を稼ぐ事には成功したのである。
「大丈夫かな、オルス」
「一度経験したパイセンの言葉によれば、次の敵は挑戦者のレベルと同じか上のエネミーが登場するらしいからな、ぐぶぐぶぐぶ」
「……そーですよ、あん時は他の人とパーティー組んでたからその人に闘技場やってもらって、その間になんとかカジノパートの方に回って今みたいに工面したんですよ、はい」
だからここのカジノ自体にも結構詳しいのね。加えてトラウマもひとしおってとこか。
でも、せっかくDEX極振りでめっちゃカジノ運が上がってるみたいなんだから、返済が終わったら改めて一儲けして帰るのも手かもしれないけど。
「……そーゆーことするからまた破産するのね。
前にこのクエストやった時に何日かかったと思っとんねん……カジノと闘技場を組み合わせる攻略法が出たの、ベータテスト終了四日前っすよ……?」
悲惨すぎて目も当てられない。っていうかお前その後にアレ(GGO編にて詳しく)を経験するって、ベータ時代ベリーハード過ぎだろ。
だけどグラントは語る。その時に分かったこととして、闘技場のオッズ比やカジノゲームの運勢に関して、どうやらプレイヤーがぎりぎり返済額を支払える程度にはゲーム側が調整を行なっているらしいのだ。だからぶっちゃけいくら融資を貰ったところで、条件が厳しくはなるもののちゃんと返済は出来るようになっているとか。
「とにかく、これでオルス氏が勝ったらカジノからは撤退! 宿屋には泊まる! 以上! 文句ある!?」
「いや、お前のベータ時代を思い浮かべたらあまりに可哀想で、文句どころじゃないんだよ。大変だったんだな」
『。゚(゚´ω`゚)゚。』
「パイセン憐まれててワロタ……お、始まったZOY」
しかし。そんなグラントいじりもそこで終了である。それまでざわついていた周りのNPC観客が一斉に静まり返ったのだ。
直後に銅鑼が鳴り響き、蝶ネクタイをしたNPCがなんやかんや言って、満を辞して檻の中にまずオルスが登場する。見た感じかなりゲンナリしてる。当たり前か、既に四連戦を勝ち抜いているのだ。
そして、次に彼と対照的な位置に姿を現した、五回戦目のモンスターは……。
「……あれって、ドランクエイプか!?」
「え、マジ!? フツーに最前線クラスなんですけど……!?」
『ヽ ( ꒪д꒪ )ノ』
「ぐぶぐぶぐぶ、最悪のカードを当てたな常考」
ドランクエイプ。
SAO原作で言えば、シリカが三十五層「迷いの森」で迷って、キリトに助け出されるまでに襲われていたあの猿の事である。基本的には集団で現れるモンスターだが、今回は単体で登場である。
だけど単体だからって、グラントも言ってた通りこの時はまだ三十層~四十層が最前線である。ふつーに強敵である。
って言うか今更だけど、七層以外のモンスターが出る闘技場ってどうなっとんねん。ちなみに普通のモンスター闘技場の方は、基本的に七層のモンスター以外は登場せず、今回は特別仕様のインスタントマップだからこそ起きる事象だったりする。詳しくはSAOP七巻にて。
某国民的RPG三作目にてシナリオガン無視でボスとかまで出てくるモンスター闘技場があったような
「これはまずいんじゃないか、リタイアさせるとか……!!」
「うーん、オルス氏のレベルを考えれば倒せない敵じゃないと思うけど……リタイアは基本的にできないからなぁ、まあ様子見って事で」
「そ、そんな悠長な事言ってる場合か!? 待ってろ、あんな檻くらいこいつで叩き斬って……って、何やってんだ?」
「いや、実はアイテムの受け渡しに関しては繋がってるから、回復ポーション大量に渡そうかなって」
「息をする様に不正する! そこにシビれる! あこがれるゥ!!」
まあ、SAO編最終決戦時も、あんなラスボスエリアから録音結晶送るくらいである。まさかのシステムの抜け道である。
―――しかしだ。どうやらそんなグラント達の心配は、杞憂に終わりそうである。
「いや、でも、あれ? オルスって、あんなに強かったんだな……?」
ハルキの声に、その場の四人が一斉にかのグラディエーター男を見やる。
自分より図体の大きな敵が繰り出す棍棒を適宜回避しながら、その中でも威力の低い一撃を見極めてパリィして、体勢が崩れたところを片手棍のソードスキルで一撃。戦い方は極めて安定しているし、体力の減少値で言えばむしろかなり優勢である。
「……オルス氏、うちのギルメンの中でダントツに安定したステータスビルドの持ち主だからねぇ。ちょっとやそっとじゃやられんぞー」
伊達にギルマスではないグラント、思いっきり自分にブーメランな分析をありがとうございます。ハルキもトミィも我が振り直せ。
ちなみに彼の言う通り、オルスはVIT寄りのSTR型であり、かつ補助としてAGIも上げるほどのバランスビルドである。だからその気になればタンクもダメージディラーにもなれるし、遊撃手としてあっちこっち飛び回るだけの素早さも兼ね揃えていたりする。ぶっちゃけグラント帝国内に於いて最も有用なメンバーである。
ステータスだけは。負債勝手に抱えたりしなけりゃ。あと何言ってるかさえ分かれば。
「でもパイセン、ぼーっとしてる場合じゃないぜよ。ほら、敵が回復してるぜよ?」
なにっ、とグラントも敵のドランクエイプを睨み付ける。
この大猿のめんどくさい特徴だ。右手に棍棒、左手に陶器瓶を持つコイツは、体力が減ると酒を飲む事で体力を回復する習性があるのだ。
「このままだと長期戦になって、先にオルスニキが消耗しちゃうZOY」
「むむむ……どうしよっかなぁ……あっ」
そんなマソップの忠言に、グラントは何かを思い付いたらしく、その場で立ち上がって、大きく息を吸った。
敵は酒を飲んで回復している。SAO全体に共通する、やたらリアルな仕様を考えても、これは……!!
「おーい!! オルス氏ー!!
麻痺毒だー!! 麻痺毒を、敵の瓶の中にぶっこめー!!
チックショウ言語が違って伝わらなねぇ!!」
「クッソワロタwww」
しかし。こんな状況の中で、ハルくんは冷静だった。
すぐに自分のメニューから翻訳ウィンドウを出して、「麻痺毒を瓶に入れろ!」と呟くと、出てきた外国語を見てトミィに見せる。
「put paralytic poison in a bottle」……あれ? そういや、これフツーに英語じゃね?
「……とにかくトミィ、今ここに映ってる言葉をオルスにメッセージで送ってくれ!」
『∠(・_・)ラジャ』
こうなるとトミィも絵文字のみとか言ってらんない。彼も新規メッセージを作成して、ハルキのウィンドウに浮かび上がる文言を写して。
すぐさま、送信。
「…… ♭□☆*#◎!!」
伝わったらしい。オルスは仕切り直しと言わんばかりに、酒瓶をグビグビ飲む大猿に向かってメイスを振り上げた。
「ダブルスイング」。片手棍の基本ソードスキルによる文字通りの二連撃が、初めに瓶に、次にその奥の顔面にクリーンヒットする。そしてたまらず敵が仰け反った隙に、オルスは自分のストレージを開いて。
「いけっ!! 今だオルス!! 決めろおおおおっ!!」
『彡(。o`・Д・)o 』
「オルス氏頼むー!! 返済がー!!」
「ぐぶぐぶぐぶ、返済がー!!」
―――オルスがドバドバと注いだ麻痺毒の入った瓶を思いっきり呷っちゃったドランクエイプさんは、その後まるでもぐら叩きみたいに彼にフルボッコにされる間、身動き一つとれずに横たわる羽目になるのだった。絵面が最悪である。
結局闘技場パートはオルスの完勝、そして本分たる返済も無事完了して、もうカジノはこりごりだ、そのアスナにお勧めされた宿にだけ泊まってトットと帰ろう……と、五人ともいそいそとカジノを出ようとして。
「……あれ? 宿代、どうするんだ?」
……そんな彼等を、カジノの光が手をこまねく様に照らしていたとかなんとか……。
A.実はフツーに米国人(何系とかは置いておいて。多分訛りとかはある)。つまり、オルスの言葉がワケわかんないのは言語の問題じゃなくて、彼の話し方がアレなだけ。いやマジで。
例.「The weather is good today(今日はいい天気ですね)」⇔「Blue sky full of dawn resurrected from the eternal jet black! Carve a sacred stigmata on me by the sun blightning!(悠久の漆黒より甦えりし暁光に満ちた蒼天よ! 願わくばその日輪にて我が身に神聖なる聖痕を刻み付けよ!)」(コレを超速ネイティブスピードで言ってる。翻訳ウィンドウまじで優秀である)
マソップ「チューニじゃねーか常考」