SAO (シールドアート・オンライン)   作:ニモ船長

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マソップ「共通テストまであと一か月」

マソップ「二次試験まであと二か月強」




グラント「テスト受けてる場合じゃねえ!」

 


第2話 ゲームしてる場合じゃねえ!

 

 

 『ほら玄太郎君、f(x)は偶関数なんだから、x座標の全部を積分区間に指定する必要はないでしょ』

 

 「あー、そうでしたね……気が付きませんでしたよ」

 

 『何度も言っているでしょ、東都工業大学の二次試験は試験時間も長くて、数学なんて殊更膨大な計算を要求されるって。

 省略できる手間はなるべく省いていかないと、とても捌き切れないわよ』

 

 『マジで人間は計算の処理が遅くてワロタ。やっぱせっかくだからワイが来年度の入学試験を大学のデータベースから』

 

 「だからするなかれマソップ」

 

 『それは犯罪よマソップ』

 

 

 2025年、12月13日。現在午後四時半、黄昏時。

 東都工業大学の試験まであと三ヶ月。流石にこの状況で呑気にALOにログインする程の余裕もなく、玄太郎は昼夜問わずにここ小金井の予備校の寮室にて缶詰め状態で勉強に励んでいた。その苛酷っぷりにその短髪男は連日寝不足に悩まされており、何度かそんな彼の陣中見舞いとしてトミィや春花がここを訪ねたこともあったりする。

 因みにその際は春花が学寮の食堂を借りて作った手料理を持って来てくれて、それをトミィを含めた三人で団欒を囲んで堪能するのが習わしとなっているそう。だからって家族ごっこはしない。

 

 

 『……はい、正解ね。これで過去五年分の過去問は全部解き終わったわね。

 予備校の方の課題は昨日終わって、あとは共通テストの方だけど……ちゃんと対策は出来ているのかしら?』

 

 「ま、まあ……ただ理系科目に時間を取られて、社会の勉強がですね」

 

 『そうねぇ、玄太郎君もこの一年間で高校三年分の勉強を一からやり直して、高校卒業資格も取って。

 本当によく頑張っていると思うけれど、やっぱり時間が足りないわよね……だけど』

 

 

 そう、この十二月までの彼の受験勉強はかなりの苦難を伴っていた。普通なら三年間の学業に加えて、高校三年生の一年を掛けて志望する大学への勉強をするって言うのに、こちとら神代博士の言う通りの超ハードスケジュールである。

 救いといえば彼には気の知れた仲間がいる事と、その仲間達と仮想世界で会いながらも、運営会社が変わった後の仕様として、ALO内においてリアルのデータやファイルの閲覧が可能になった事だろう。そうして多くの人に励まされて、やっと何とか東都工業大学合格が見えてきたのである。

 

 

 『駄菓子菓子、どうしたんだぜパイセン。参考書への注視率が、今日になって三割近く下がってるぜ』

 

 「え、そんなんわかるんすか、このトンデモAI」

 

 『そんなこと分からなくたって明確よ、玄太郎くん。

 どうしたのよ、今日はどこか集中できていないみたいね?』

 

 

 その神代博士とマソップの指摘に、玄太郎は一瞬言葉に詰まって……そしてへへぇと顎をしゃくらせる。

 

 

 「……はあ、全く情けないよなぁ、せっかくここまで協力してくださってるのに」

 

 

 前方に置いてあるPCの液晶画面と、目の前に広げている過去問の参考書及びノート。そのどれからも目を逸らして、シャープペンを口と鼻の間に挟んでその場で天井を仰いで。

 ……そしてその短髪男は、ぽつりぽつりと話し出したのだった。

 

 

 「……ねえ、神代博士。

 VRゲームの中で放った銃弾が、リアルのプレイヤーの身体の心臓を停止させる。

 そんな事って……あり得ますかね」

 

 『……え……?』

 

 

 その言葉に、VR機械工学において今も世界の最前線に立つ女博士は、息を呑むように口をつぐんだ。

 

 

 『ぐぶぐぶぐぶ、二日前の、あの話だなパイセン。

 まだ北海のダンナはALOにキャラクターを作っていないようだぜ。今は待ちしかなさそうだな常考』

 

 『ちょっとマソップ、何の話?』

 

 

 おとといの事。玄太郎は先の秋葉原での春花への言葉通り、北海いくらの動向を何とかこちらで補足できないのか、マソップに相談したのだった。彼女の言う所によると、SAO生還者でVRゲームのヘビーユーザーならば、まずほぼ間違いなくALOにて旧SAOでのキャラクターデータを復旧させた後に、各種ザ・シード規格のゲームへとコンバートしていくのだそう。

 つまり、SAO生還者である北海いくらが新規ユーザーとしてGGOにログインするのならば、ALOに彼がログインするタイミングを見計らって彼のデータに接触する必要があるのであり。何でもアミュスフィアにそれをダウンロードさせたユーザーの、視覚情報を共有できるようなアプリをマソップが即席で作ったそうで、それを北海いくらに受け取ってもらう必要があるのだとか。

 

 

 『ち、ちょっと待って。それ以前に、玄太郎君……さっきの話ってもしかしてあのネット放送局の、「MMOフラッシュ」での一件の事かしら?』

 

 「あ、やっぱり知ってましたか。まあそんな感じです。

 Mフラの『勝ち組さんいらっしゃい』っていうコーナーに出演中だった、ゼクシードなるプレイヤーが……そことはまた別のVR空間であるGGOにて、中継画面で映っていたところを、銃で射撃されて。

 それ以来、一度も彼はGGOにログインしていない」

 

 

 そして、そのほぼ同時刻に、心不全を起こして死亡しているのだ。

 

 

 『……SAO生還者としてはすごく気になる話題であるというのはよく分かるけど、でも現時点のアミュスフィアにユーザーの脳を焼き切る程の出力はないわ。

 それに、VRゲームのヘビーユーザーが衰弱死する事件は近年増えているけれど、そのどれ一つとして死因が脳にある事件は存在しない筈よ?』

 

 

 ……実はちゃっかりVC―――VR環境に関わる犯罪群(Vurtial Crime)に関して一通りの探りを入れていた神代博士だった。そりゃそうだろう、なんせ数年前には元恋人が前代未聞のトンデモVCを巻き起こしたばっかりなのだ。

 

 

 「あれです、サブリミナル効果とかでユーザーに暗示を掛けたり、自己認識的なアレに何かしらの影響を与えたりは出来ないんすか? 出力制限はあっても、五感知覚に干渉できることは出来るんでしょ?」

 

 『ぐぶぐぶぐぶ、その件に関しては既にアミュスフィアが開発される段階で議論済みだそうだぜ。

 結論としてあのVR機器には、一定以上のレベル振幅のある信号が生成できないようにリミッターが付けられているし、個人のユーザーに対してトラウマを突く様なものでもない限り、対象者の心臓を止める事なんて無理ぽだぜ』

 

 

 ふむう。玄太郎は改めて液晶画面内の神代博士に向き直った。彼女も表面的には余裕のある声音でその危険性を否定しているが、その表情は真剣そのものであり、一連の事件の時間的な符号性を偶然の一致と言い切ってしまっていいのかをまだ決めかねている様子だった。マソップは相変わらず、何にも変わらず。

 

 

 「でもね、神代さん。どうやら二人目の被害者がいるかもしれないらしいんですよ。

 それで、その被害者の友達が俺のSAO時代の仲間でして」

 

 

 そこからは皆ご存じ、あの秋葉原での一件である。GGO歴戦のプレイヤー、薄塩たらこが心不全にて死亡、旧友だった北海いくらとの再会……そして彼が決意した、GGOへの再調査。

 

 

 「……てわけです。それで、今は北海いくらさんの行動待ちってところだし、まあ何かを騒ぎ立てても仕方ないんすけどね」

 

 『そういう事だぜ。分かってんなら早く集中して勉強しろ落武者男』

 

 『ごめんなさいね、うちのマソップが』

 

 

 マソップ容赦ねぇ、玄太郎涙目である。確かにンなこと言ってる場合じゃねーって言うのは分かるけれども。

 だが、彼女の姉貴分の方の女博士は鋭かった。だって次の瞬間には、玄太郎が何に一番気を取られているのかを見抜いていたのだから。

 

 

 『……ねえ、玄太郎君。

 あなた、つい春花さんか拓也君辺りに、その事を伝えてしまったんでしょう』

 

 「ぎくっ」

 

 

 バカヤローである。ALO事件の際はそもそもみんなとの連絡が取れなかったために、それに関して神代博士とマソップ、そして玄太郎との間でしか話が広がらず、その後も彼女達との協議の末に他のプレイヤーには時が来るまでなるべく黙っておこう、と落ち着いて決めることが出来たのだ。

 だが今回、言うなれば玄太郎は既に致命的なミスを犯してしまっている。具体的には、北海いくらの話に動揺するあまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 

 「ま、まあ北海いくらさんの話は彼女ももう聞いちゃってるわけだし、隠すも何もない気もするんですけどね。

 ……ただ、やっぱハルくんだからなぁ。じっとしてるのは不本意だろうからなぁ」

 

 『北海の旦那のデータへの干渉とその観察もあのズムフトのギルドホームで行う事になるだろうし、トミィチュワァァァンにも隠し通せないだろうな常考』

 

 『私達だけならあの時みたいに、いざという時に静かに事を進められるかもしれないけれど、それが出来なくなってしまっているのね。しかも玄太郎君は勉強があるから、思うように動けない』

 

 「そういう事っす。あーあ、もうちょい言葉を選ぶべきだったなー」

 

 

 そういう訳で、もしかするとまた春花がGGOに殴り込みたいと言い出すかもしれないし、そこにまだまだ子供なトミィまで加わったらたまったものではない。こんな時にオルス氏がいて一緒に彼女達を止めてくれればと思うが、残念ながらSAO帰還から一年以上経っても彼の消息は掴めないままである。

 

 

 『……そういう事なら、この件に関しては私も少し調べてみる事にするわ。何か分かる事があればすぐにあなた達に伝えるから、玄太郎君は皆になるべく早まった行動に出ないようにって伝えておいてくれる?』

 

 『北海の旦那にもGGOへのログインは少し待ってくれるように言った方が良さそうだな常考。パイセン彼の連絡先知ってんだろ? メッセよろしクレメンス』

 

 「了解っす。悪いっすね。俺がこういう状況でもなければもうちょっと自分で何とかするんですけど」

 

 『気にしないで。またSAO事件の様な事が起きるのは私もごめんだわ。それに……違うでしょ、玄太郎君』

 

 

 そうして、再びこのメンバーでの調査が……いや、今度はグラント帝国のメンバーも若干関わってしまっているが、いずれにしてもこの一年間殆ど波風の立たなかったVR業界に、新たな風が吹きつつあり、それに対するグラント達の物語が始まってしまうのだった。

 そう、()()()()()()()()()()

 

 

 『玄太郎君。あなたは、()()()()()()G()G()O()()()()()()()()()()()よ。心配でしょうけど、自分の事を最優先に考えて』

 

 「……ええ、まあ、そのつもりですけど」

 

 

 そう警告する神代凛子の瞳は真剣そのもので、玄太郎も苦笑いしながらそれに頷き返す。

 

 

 「まあ、実際言わせてもらうなら、こちとらそんな暇ないんすよ。もう退寮の用意もして明日の午後にはここを出る予定ですし、実家に帰っても受験後ならともかく、この時期にアミュスフィア被ってるところなんて見られたら、まじで殺されますわ」

 

 『……ふふ、そうね』

 

 

 意外にも厳しい信田家なのだった。両親の意向としてはなるべく早く彼を自分達の手元に戻したい様で、玄太郎が一月中旬まで続く浪人生用の冬期講習コースを受けないことにしたと知るや否や、途端に帰ってこいと全力コールが掛かったとか。その為本日も午前中は部屋の整理をして荷物を宅配業者にトラックで運んでもらっていたのだ。

 

 

 「そんな感じなんで、マソップ嬢とも暫くALOじゃあ会えなくなるかなぁ。ちょっと寂しいけど、まあ端末を介していつでも連絡は取れるし今更かね」

 

 『ぐぶぐぶぐぶ、ワイの事よりハルキニキと会えなくなる方を心配した方が良いんじゃねリア充死すべし。

 そういえばこの前パイセンがリアルでハルキニキと出掛けた時、どういう訳かひょっこりさん☆出来なかったんだが』

 

 「だろうね。そんな事だろうと思って俺もハルくんも携帯端末の電源切ってたから

 

 『くたばってしまえ落武者男』

 

 

 こっちはこっちで春花とのものとは別な意味で良いコンビである。そのテンポの良い掛け合いに神代博士も苦笑を浮かべる。

 だが、彼女も気付いていなかったのだ。その目の前の可愛い(……?)教え子に、既に試練の時が目の前まで近づいている事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その翌日の午前九時過ぎの事であった。

 前述の通り、午後には退寮する予定の為にこの日は予備校の授業をもう取っておらず、身辺の整理と学寮での最後の勉強にその午前中の時間を費やそうと考えながら……玄太郎は朝食を食堂にて済ませて、現在携帯端末で軽くネットサーフィンをしていたのだが。

 

 

 「……あんの、トッキリ野郎め……」

 

 

 また何か言ってらぁ。キリタンポにゴキブリトときて、今度はトッキリかよ。何かスケールダウンしてないか。

 とにかく今玄太郎が見ているのは、あのシンカーたちが管理しているVRMMOゲーム情報サイト、「MMOトゥデイ」のニュースコーナーだった。先の話で話題に上がったGGOだが、実は現在かのゲームタイトルはVRゲーム界隈ではそれなりに話題になっているのだ。

 ただし、玄太郎達が耳にした殺人事件疑惑の一件で、ではなく。

 

 

 「あーいつ、このタイミングで第三回BoBに出場するって……」

 

 

 ……前回ゼクシードが優勝したという、GGO最大の大会、BoBの第三回大会がこの日、行われるからであり。

 ―――そして、その全出場者名リストの中に、「Kirito」の文字があるのだった。

 

 

 (さてはトッキリも気付いてるのか。例の一件について)

 

 

 もしそれが本当に起きている事件なのだとしたら、向こうのターゲットとして、ゼクシードと薄塩たらこの共通点である「GGOのハイレベルプレイヤー」な事が条件に入るだろう。そしてつい最近までALOで彼の名前をフレンドリストで確認していた事を考えると、どうやらキリトはこのBoBに合わせてALOからGGOにコンバートしたとみてほぼ間違いないのではないか。

 もちろん、似たような名前の別人さんかもしれないけど。玄太郎は思う。もし、それらの推測が正しかった場合を考えたら、その目的は、恐らく。

 

 

 (……犯人に、接触する気なのかい……?)

 

 

 

 

 

 

 

 『パイセン、一大事だぜ』

 

 

 その時。

 突然画面に通知として届いたマソップからのメッセージを、玄太郎はその因縁の黒の剣士の事すら忘れて……唖然として見つめる事になる。

 

 

 

 

 『ハルキニキのアカウントが、ALOのプレイヤーデータから消失してる。

 恐らくあのノーキン剣士は……GGOにコンバートしたと思われ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……それにしても、本当に良かったんですか、ハルキさん」

 

 「ん、まあ……後でこってり怒られるような気はするけどさ。

 たった一日こっちに来るってだけなら何とかなるかなって。今日はあいつ、寮から出て実家に帰る日だし、忙しくてこっちに構ってる暇はないと思ってさ」

 

 

 とことん甘ぇぞノーキン娘め。マソップのスペックを完全に忘れている残念ハルくんの図である。

 という訳で、意外とトラブルメーカーな彼女は現在、絶賛GGO内にログイン中だった。その横には、これまた玄太郎達に気付かれないようにA()L()O()()()S()A()O()()()()()()()()()()()()()新規で登録したアバターを操る、北海いくらがいる。

 

 

 「何でもこのGGOというゲームは、コンバート前のアカウントのプレイ時間に比例してレアアバターの出現率が上がるそうですよ。

 私はこんな、特徴もない男兵士のアバターですが、そちらはどうやら良いのを引き当てたんじゃないですか?」

 

 「んー、どうなんだろう……こういう世界だし、むしろ没個性な方が隠密行動には向いてそうだけど……まあ、そう言ってくれてありがとな」

 

 

 そう言う北海いくらは確かに、多くのFPSゲームやサバイバルゲームで目にするようなやや細身で迷彩服を着た、歩兵の格好をした標準的な男のアバターだった。

 だがハルキの方は、ここに来て遂に女性アバターである事の本領を発揮した様だった。艶消しのなされたシルバージャケットを黒のタンクトップの上から羽織り、ミルタリー色のカプリパンツを履くその姿は……あの秋葉原でのリアルの彼女の格好に似ていながらも、どことなくSF映画に出てくる、苛酷な環境を力強く生き抜く女性キャラクターの雰囲気を感じさせる。

 おまけに現実ではなかなか伸びずに悩みの種だった髪の毛が、背中に垂れるまでに伸びているのだ。予想だにしなかったカッコよくて綺麗な姿に喜びながらも、何だかルックスとしてアバターに先を越されたような……そんな微妙な気持ちを現在彼女は抱いていたりするのだった。

 

 

 「で、だ。

 今は午前九時過ぎで、今日の午後八時から例のBoBが始まる。その時間になったら俺達は大会の観戦エリアまで出向いて、聞き取り調査をするとして……それまでの時間は、ひとまずこの世界の事を把握しながら情報収集、って感じで良いんだよな?」

 

 「……はい。取り敢えずは装備を整える必要があるでしょう。こういうゲームでは見た目や能力でも力量を測られてしまうと思いますので……ですが」

 

 

 「薄塩たらこ」というプレイヤーに一体何があったのか。

 その真相に対して、この段階では二人とも殆ど推測はしていなかった。ゼクシードと呼ばれるプレイヤーがゲーム内で銃撃を受けたのちに死亡したという一件はハルキも、そしてやはり北海いくらも聞き及んでいたのだが、その行為自体は「ゲーム内通貨現実還元システム」……つまりゲーム内にて資金稼ぎを行うことの出来るGGOならば逆恨みとしてあり得ないものではなく、偶然の一致として重度の不摂生だったゼクシードがその瞬間に発作を起こした可能性も十分に考えられると……あの秋葉原での邂逅以降、玄太郎を介さずに行われた二人での相談にて合意に達しているのだ。

 

 

 「ですが、ハルキさん。

 これはあくまで、私の気持ちの整理の問題ですから、貴女がここに来なければならない理由は一切ありません。

 だから、約束して欲しいんです。もし何か危ない事が、命の危険を感じるような事があれば、すぐに離脱すると」

 

 「……それはホッカさん、あなたも同じだよ」

 

 

 今回の件に関して、どういう訳か玄太郎は介入する事を渋っている。

 それが、彼が今後控える受験の為()()()()事をあの数日前の彼の様子からハルキは気付いていた。それが一体何に依るものなのか、ALOとGGOで彼が違うといったものが何であるかは皆目見当が付かなかったが……それでも、そこに何かしらの特別な事情がありそうであるという事くらいは彼女も察することが出来た。

 

 

 「だからさ、今回はあいつ抜きでいきたいんだよな。グラントは、SAOでも俺が因縁と決着をつける後押しをしてくれて、ALOでも何度も博打を打って俺を助けに来てくれて。

 そんなあいつの未来が決まるかどうかって時に、俺達が今やってるような面倒事には関わってほしくないんだ。……もちろん、ホッカさんのしてる事が面倒だって意味じゃないぜ?」

 

 

 前に世界樹を外から飛んでるときのグラントと殆どおんなじ事を言ってのけるハルキであった。さすが、相棒ともなると考える事も一緒である。その事は知らなかったが、北海いくらもそれに暖かい目で頷いた。

 

 

 「ええ。分かっていますよ。だからこそ、彼を心配させない為にも、無理は禁物ですからね。

 それじゃ、行きましょうか。装備に関しては遠慮なく選んでください。折角なのでお金は私が払いますから」

 

 「い、いやそれは流石に悪いって言うか……なんかモンスターを倒したら落とすみたいな、そんなのはないのかな……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ねぇ、そこの美人さん!!

 もしかしてレアものをご所望かい!?」

 

 

 

 

 

 

 

 唐突に聞こえたその声は、ハルキと同じで、他のタイトルと比較しても男性ユーザー過多なGGOにしては珍しい女性のものであり。彼女と北海いくらは、現在二人がいるGGOの主要都市「SBCグロッケン」に響き渡ったその大声の発せられた方向に……若干おっかなびっくり振り返った。

 

 

 「ちょうど、いい話があるよぉ?」

 

 

 スタイルの良い身体を、濃紺のつなぎで包み。

 褐色の肌に黒のポニーテール、両頬に幾何学文様のタトゥーを入れた、その女性プレイヤーは。

 

 

 

 

 「……あはっ」

 

 

 

 

 ―――名を、ピトフーイと言った。

 

 

 

 

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