グラント「侍雨沢先生?」
ハルキ「昨雨沢先生?」
マソップ「作雨沢先生?」
小説家「銃が出てくる作品ばかり書いている小説家雨沢先生」
白昼。
岩と砂ばかりの荒野と砂漠がフィールドの大半を占めるGGO世界だったが、そんな中にも世界大戦が勃発した後という設定の、今や荒廃した廃墟のエリアがいくつか点在している。
「オールドサウス」と呼ばれる、SBCグロッケンの北西に位置するエリアにもその様な荒廃したビル群は存在し、その間を走る道路には障害物として活用できそうな物資がうち捨てられていた。
「サウスってのに
「やめておけピト。目を付けられる可能性がある上に、俺達にメリットがない」
えー、とタトゥーの入った顔で拗ねた様な表情を作るピトフーイに付き合って会話をしているプレイヤーの名前はエム。二人の背後を歩くハルキの肩幅の二倍以上はあるであろうがっちりとした体形を緑の迷彩服に包んだ、頭のブッシュハットがトレンドマークの大男である。
「えっと……お二人はお知り合いなんですか?
突然ですが、随分と仲が良い様なので」
「あら、そう見えるかしらー?
でも残念、コイツはまあちょっとしたパシリみたいなもんよ」
「……えっと、エムさん、だったか? ……なんでちょっと嬉しそうなんだ?」
そりゃーエムがエムで、ピトフーイがピトフーイだからなんだけど、まあそれは後で。とにかくそんな二人のどことなく奇妙な関係にイマイチ合点がいかずに首を傾げるハルキと北海いくらだった。
いやね? 別にGGOのプレイヤー二人が仲良くしゃべってる図はそんな珍しい訳もなく、とくに注目するべきトコロでもないんだけどね?
「そうなんですね、いえ……それにしては、
北海いくらの言葉通り、今そのオールドサウスの廃墟を闊歩しているのはその四人だけではない。その周囲には全身プロテクターを装備して顔を覆面で覆った、第一印象的には不気味なプレイヤー達が五人ほど、星型に陣形を組んでハルキ達を護ってくれているのである。
「いやぁ、最近仲良くなった用心棒さん達だからね。カタブツだけど、悪い奴じゃないから安心してくれていいってコトよ!」
「五人ともかなりの実力者だ。これまで一切彼等の情報が上がってこなかったことが寧ろ不思議なくらいに。
今日のBoBへの出場予定もないそうだからな、こちらに呼んだという訳だ」
な、なるほど? ハルキはちょっと不思議だった。能力や実績については把握しても、彼等とプレイヤー同士としての交流はあまり行われていない印象だ。まあ実際は一応このGGOもMMORPGだし、なるべくパーティーとチャットをしたくない系のプレイヤーも、いない事は無い……みたいな話を前にあの落武者男から聞いたような気もするけど。
「ま、ハルちゃんもまだニュービーなんだし、ちょちょいと人を撃ってればここのこういう雰囲気にはすぐになれるわよ。前はどんなゲームやってたのかしら?」
「あ……えっと、何と言うか、妖精とかが出てくるファンタジー系のゲーム、かな? そこでちょっと剣を振っててさ」
「分かったわそれ以上聞かない」
大体察したのだろう、何でハルキが手に入れたSPAS12を銃床とグリップの辺りを両手で持って構えてるのか。因みに代金は北海いくらの制止を押し切ってピトフーイが支払ったそう。やっぱきな臭ぇ。
そして、どうやらその近接戦闘スタイルを確立するために、ハルキは北海いくらやピトフーイのアドバイスを受けて、ついに今まで一切振り分けてこなかったステータスポイントを振ったようだった。具体的には、とにかく射撃技術よりヘビーな銃火器を取り回すだけの力が必要という事で、STRを重点的に、そして余ったポイントでちょっとだけDEXを上げたとか。そこでAGIを選ばない辺りに彼女のリアル志向が、DEXを選ぶあたりにアイツへのリスペクトを感じるね。
「……まあ、プレイヤースタイルは人それぞれだからな。ファンタジー世界の剣技がこの世界でどこまで通用するのか、ひとまずは見させてもらおうじゃないか、ピト」
「アンタそれどれくらい本気で言ってんのかしらね……っと、到着っと!」
エムの冗談なのか本気なのかよく分からないその台詞に呆れ声を出したピトフーイが唐突に歩みを止める。それに準じてハルキと北海いくらも、目の前に建つ大型建造物を見やる。
「なるほど……ここがそのレア武器情報の目的地ですか」
「そゆこと。宇宙戦争が起きる前は見た目通りのスポーツの競技場だったそうよ。ただし、その地下ではアスリートたちの生体実験を行ってたっていうシナリオらしいけど」
「それは全然見た目通りとは言えないんじゃないのか」
「GGOというのはそういう世界だからな。まあ、正直にクエストの内容を追うプレイヤーもそこまで多くはないが」
そう、それはいわゆるドームだった。東京ドーム程ではないものの、その半分くらいの観客動員数のありそうなくらいには大型の屋根付き円形のスタジアムである。今の会話は上から北海いくら、ピトフーイ、ハルキにエムだが、そんな彼等の言葉もごもっとも、何だかんだでGGOは世紀末とかバイオとかエイリアンとか宇宙ものとか、SFがSFたる要素をこれでもかと盛り込まれたゲームであり、そういう割とマッドな設定も珍しくないのだった……ちょっとALO事件を経た身としては他人事ではないんだけど。ハルキはこっそり思う。
とはいえそれにしても、一体どこのどんな小説家がこんな無茶なプロットにしたんだろうね(責任転嫁)。
「その地下での実験体として造られていたロボットとクリーチャーが、今になって突如として蘇ったから掃討してくれってクエストなわけ。そういわれちゃあ、まあぶっ殺しがいがあるってもんよねー!」
「そしてそのクエストボスが落とす武器が今回の目当てだ。何でもGGOの国内サーバー内において十丁ほどしか存在しない『対物ライフル』ではないかという意見が多いのだが」
対物ライフル。
まだ登場していないけど、例えばGGO編本家にて登場するメインヒロインことシノンの持つ「ウルティマラティオ・ヘカートⅡ」。
あるいは外伝作品のSAOAGGOにてSHINCと呼ばれるコワモテ女戦士達が所有する「デグチャレフPTRD1941」。
そのような、通常のライフルよりも大口径の銃弾を撃つための大型銃火器の総称である。その威力の高さはGGO内でも再現されており、その手のマニアからは神格化され、ハルキの様な高校生にはとても手の届かない様な超高額で取引されているのだ。
そして、かくいうピトフーイもそのマニアの一人である。ある時にはシノンに入手したへカートIIを売ってくれるようド直球の売買交渉に出向いたりもする程であるとか。
「まあ、俺は銃の事はよく分かんないから、そういうのとは無縁だとは思うし……ピトフーイさん、もし俺のところにドロップしたら、今回は譲ろうか?」
「いやいや、ハルちゃんとホッカさんのスタートダッシュの為なんだから、遠慮しないでいいのよー!」
胡散臭いなあ。初心者に対物ライフルを持たせる気なのかお前さんは。よく見たらエムもこの相方の言葉に若干苦々しい表情を浮かべている。
「そ、それに私達は、ただGGOを遊びに来たわけではなくて……」
「そうだ、ピトフーイさん、エムさん。
最近、このゲームで薄塩たらこっていうプレイヤーの話を聞かなかったかな。一応そこそこ有名なプレイヤーだって聞いてるんだけど。
何でもいいんだ、噂でも、評判とかでも良いから」
そうだった、オメー等はフツーにGGOやってらんねぇ立場だったわ。北海いくらは薄塩たらこ事件の再調査が、ハルキはグラントにバレるまでになるべく成果を出しておきたいところなのだ。絶賛バレてるけど。
だが、こんなそこそこ中堅プレイヤーのうろつくフィールドまで足を運んだ甲斐もあって、ピトフーイとエムにはどうやら心当たりがあるようだ。
「ああ、最近話題になってるアレ? あの、ゼクシードとたらこが長いこと、ログインしてないってやつ?」
「ネットで話題になっていたな。ただGGOプレイヤーの殆どが信じてはいないようだったが」
ハルキと北海いくらは顔を見合わせる。どうやらもう少し話を聞き込む必要がありそうだ。
「どっちもGGOじゃ有名なプレイヤーよ。ま、ゼクシードって方はあんま評判は良くなかったけどね。
二人とも「死銃」ってヤツに撃たれてから、ログインしてないのよ。それで、撃ったソイツが、リアルでも二人を殺したんじゃないかって……ほんっと、バカよねぇ」
「……どうして、バカなんだ? そこまで分かってるなら、もう冗談事じゃ済まないんじゃないのか?」
「あのねぇハルちゃん。
今のアミュスフィアにはそんな、人を殺すような動作はどうしても出さないようになってるのよ。視覚、聴覚、嗅覚、味覚に触覚……どれを取っても過剰な信号が出ないように調整されてるんだから。
ほんっと、
「……おい、ピト」
つまらない。その言葉に何となく認識の齟齬を感じたハルキだったが、そこでエムがやんわりとピトフーイを嗜めるように介入する。するとああ、と首を振ったその熟練女戦士はすぐに表情を再び明るくして、
「ま、そういう訳だからGGOで人が死ぬなんて、絶対にありえないのよ。だからハルちゃん達も安心してGGOを楽しんでくれればいいわ、まずは」
……そういいながら、突如として自身の抱えていたアサルトライフル、KTR09の銃身を起こしたのだった。
「あいつらをぶっ放すところから、始めようじゃないの!」
「―――二人とも、近くの物陰に隠れろ!!」
その切迫したエムの声に先立つようにしてハルキはその場で足を蹴り、北海いくらの腕を引っ掴んでそばの廃材の後ろに飛び込んだ。
直後、彼女達の背後で何やら重たい物体が空を裂く様な、そんな小さな音がいくつか一瞬で突き抜けていく……かと思えば、今度は反対にこちら側からドーム側に向かって轟音が鳴り響く。恐らくピトフーイの連れてきた用心棒の覆面プレイヤー達が応戦しているのだろう。
これが銃弾ってやつか。ハルキは腰をかがめながら、ごくりと唾を飲む。まったく見えなかった。バレットライン―――弾道予測線ともいい、敵の狙撃照準が赤いラインとして表示される―――がなければ、避ける事なんてとても出来そうにない。だが幸いなことに、見れば反対側の路上に転がっている廃車を陰にして、ピトフーイとエムも無事に安全を確保できている様だ。他の五人も、それぞれ諸々にスペースを見つけてその身を守っている。
「ハルキさん、ここは応戦しましょう!」
「お、応戦ったって、これじゃ相手の姿も見えてないんだぞ……!!」
意外にも弱腰になっているハルキの図である。まあガンゲー初めてだしちょっとビビるのは分かるけど。そんな彼女の様子に一瞬面食らったような顔をした北海いくらだったが、すぐにその不慣れさを察して、早口で解説する。
「いいですか、銃と言うのは銃弾を撃ちだしている訳ですから、いつか尽きてリロード……弾の再装填をしなければいけないんです。
私達が狙うのはその瞬間です! この銃撃が止み次第、すぐに敵を……」
「―――斬るっ!!」
「撃つ、です!! ―――ああっ!?」
まさかの早合点である。北海いくらの説明が終わらない内に銃撃が止んでしまったのもあって、ハルキはその瞬間に廃材からその身を躍らせたのである。
(……むむ、相手は……何だあれ、ロボットか?)
どうやら先程の銃撃戦で既に数体倒しているらしく、ハルキの眼前では火花を散らした部品の様なものが転がっている。そしてそれらの横でドームの入り口になお立ち塞がる「敵」の正体は……少し等身大より大きめの人型が四体、いわゆる機械人形の集団だった。
素体にライフルの反動に耐える為の最低限の装甲だけが取りつけられたような、そんな見た目としてかなり細身の体部分の上で、バイクのヘルメットの様な頭部からモノアイが光っている。何かどうせシナリオ的には実験体の失敗作とか設定が付いてそうだけど、取り敢えずハルキは深く考えるのを辞めたようだ。
「ちょっと待て、突発的な行動は……」
「まあまあエム、黙って見てようじゃないの」
慌てて彼女を制止すべく声を張り上げようとしたエムだったが、それをピトフーイがニヤニヤ笑ったまま押し留め、自身の持つアサルトライフルを胸から下ろす。そして何を思ったか、立て続けに覆面プレイヤー達に合図を送り、銃撃を止めるように命じたのだ。
「おいピト。どういうつもりだ」
「エム、あんたは不思議に思わなかった? あの異常なまでの近接戦闘への執着。
いくらガンゲー初心者だからってああはならない事は、あんただって分かってるでしょ」
「それはそうだが。それに裏打ちする実力があるかどうかは別問題だ」
「それだから、確かめようって言ってるのよ。あんただってさっき言ったでしょうが。
……あの子が本物の、『
エムはその相方の言葉に大きく目を見開いたが、直後に辺りに轟いたハルキの怒号に再び顔をそちらに向ける事になる。
「う……らあああっっ!!」
相変わらず男より男らしく鬨の声を上げながら、どうやら「リロード」とやらを終えて再びライフルを構えだした、目の前の機械人形に向かって大きく飛び上がる。そうして敵のバレットラインから逃れつつ、身体を空中で錐揉み回転させながら目当ての敵の眼前に降り立つと同時に、振り上げたSPAS12で一閃。
これがゴツいターミネーターみたいな敵だったらこうは上手くいかなかったかもしれないが、ここがGGOというゲームであった事と敵の骨格がお粗末であった事が幸いして……そのハルキの体重が乗った高STRでの一撃は、見事に敵の銃を右腕ごと吹き飛ばしたのだった。
(浮かれるなよ! ここからが正念場だ!)
そう、そんなトンデモパフォーマンスをしても、実際にはたかが一体の部位破壊をしたに過ぎない。あと三体は周囲に同様の敵が群がっている現状、予断を許さない状態である。
時を同じくしてそのエネミーたちが全員自身の持つ銃の装填を終える音を聞いたハルキは、片腕になった目の前の機械人形の背後へと滑るように回り込む。次の瞬間には彼女に向かってその残りの敵が一斉掃射を始めていたが、幸い彼女は戦場の一番端側に位置していたために、その機械人形を盾にする事が出来たのである。
「……っつ!」
だが、当然それで敵のライフル掃射から完全に身を守る事が出来る訳もない。何度も言う通りかなり細い骨組みのエネミーである上に、その身体も小口径高速弾を防ぐだけの強度はないのだ。足を、腕を、脇腹を貫く不快な衝撃に、思わずハルキは歯を食いしばって……そして。
「……ああ、くそっ!! だりゃあっ!!」
そして、性懲りもせずさらに大胆な一手を打ったのだった。
このままではジリ貧であると感じたのか、一瞬半歩その盾にしていた機械人形から離れると、その場でフィギュアスケートの選手の様に空中で一回転して、その勢いを乗せた回し蹴りを放ったのである。
当然、それを受けた片腕の機械人形は前方にぶっ飛んでいく。そして間髪入れずにハルキもその後に続いて突進した。相変わらず身体の節々を穿つ銃弾の為に体力がそろそろ半分を切ろうとしているのだが、ここまで来たら賭けだ、気にしている場合でもない。
そして、いよいよ前で盾になってくれていた可哀想な機械人形が、その飛んだ先にいた二体のエネミーを巻き込んで倒れるその瞬間、ハルキはその目の前の装甲に足を掛けて再び跳躍する。だが今度は先程の様に大上段からの斬り下ろしを敢行する事はなく……左手を銃身に添えて、空中で右手の指をトリガーに掛けて。
そして、そのSPAS12を、本来の用途として―――撃った。
(……反動、思ったよりは重くないけど。
でも馬鹿にならないな、気を付けないと)
SPAS12自体が散弾銃の中でもかなり重いおかげで、その分射撃時の反動も軽減されているのである。そういう意味では近接戦闘(物理)との組み合わせとしては、この銃案外当たりだったりするのだろうか。
そして、ショットガンは近接距離において最も高威力を発揮する銃である。その条件に寸分も違わず適したこの現状でも、彼女の目下で倒れる三体の機械人形に散開発射された銃弾は狙い違わずに全てそれらの装甲に炸裂し、まとめてそのヒットポイントを削り取った。
そうして機能停止する敵を確認しながら、ハルキは一瞬息を吐いて地面に着地して。
「―――これで、最後だ」
すぐ背後にいる、まだ倒し切れていない最後の一体の首に向かって、その場で円弧を描くように横薙ぎに、愛銃を振り抜くのだった。
よく暴発しないよね。
「いやー、ハルちゃんすっごいね! いいね! マジでいいね!!」
「私もびっくりしました。それで助太刀する余裕が無くて、すみませんでした……」
「とんでもないよホッカさん。むしろ勝手に突っ込んで、ごめんな」
「……今回は無事だったが、次からは無茶はしないでくれ」
語彙力が死んでるぞピトさん。まあ気持ちは分かるけども。
他のプレイヤーに獲物を横取りされたくないという彼女の意向によって入り口に覆面さん達を待機させ(ALOでやったら大ブーイングだよね)、ハルキ達はドームの中へと潜り込んでいた。GGOでの実力者二人の高火力や意外にも射撃の腕がいい(と、エムに太鼓判を押されていた)北海いくらの活躍もあった為に、ダンジョン探索もトントン拍子に進んでいる。
その構造としてはスタジアムのグラウンドに通ずる入退場口がどの方面からも瓦礫で塞がれており、地下の研究室に存在するエレベーターを使って潜入するという仕組みになっている様で、どうやらその競技場にこのダンジョンのボスがいるのではないかというのがピトフーイとエムの推測だった。
「それにしても、ハルちゃんは前のゲームでもあんな動きをしてたのかしら? 何だかファンタジー世界で培ったと言うよりも、リアルのアスリートとかがやりそうな動きだったじゃない」
「あー……まあ、俺はあっちでもプレイヤーとしては結構異端だったからなあ……」
自分でそれを認めたことに思わず苦笑するハルキ。この作品の初期の方でも言ったけれど、このおバカは例の落武者男よりはマシだと思っているだけで、通常のプレイヤーと自分とでスタイルに差がある事はちゃんと自覚済みなのである。
「なになに、じゃあハルちゃんはリアルでは実はスゴい人だったりするのかなー? 気になるわねー?」
「おいピト、リアルの詮索はマナー違反だろう。
だがハルキ、そのプレイヤースキルは、一般的なVRMMOプレイヤーのそれを大きく凌駕している。きっと今後のGGOでの戦いにおいても大きなアドバンテージになるだろうな」
凄腕プレイヤー二人に褒めちぎられたハルキはもちろん悪い気はしなかった。だがその様な経験はあのSAOでも、ALOでも度々あった事だ。やっぱりハルキさんは凄い、だとか、我々中層プレイヤーの希望の星だ、とか。
それでも、彼女は一度たりとてその賞賛に甘んじて驕る様な事はなかった。それは彼女自身の強い意志によるもの……というよりは。
「あはは、ありがとな。
でも、俺だって、まだまだ敵わないプレイヤーはいるんだぜ」
例えばあの黒コートの剣士。SAOの迷いの森での一戦もそうだったが、新生アインクラッド実装の際もあのプレイヤーはグラント帝国の四人全員を相手取って互角以上の奮戦をして、遂にはそのギルドマスターが撤退を宣言するまでに追い込んだのだ。
例えば閃光の細剣使い。こちらとは一応互角の勝負を繰り広げていて実力差はそこまで無いと思われるけれど、彼女の放つそれこそ閃光の様な剣筋を、ハルキは未だに正確に弾くことが出来ずにいる。
そして、例えばあの盾男である。只でさえその防御を破ることが出来ないというのに、あいつは
(……何と言うか、「判断力」、だよなあ)
それが自分に圧倒的に足りていないものだと、ハルキは認識していた。そしてアスナはともかく、キリトやグラントには段違いにあるものとして。
特にグラントはそこが秀でている様にハルキは感じている。もちろんキリトも彼を凌ぐレベルではあるのだが、キリトの場合は判断力だけでなく、反応速度やVR適性、また情報力やステータス育成など、それ以外の多くの面においても卒のない、いわゆる「総合力」の高いプレイヤーであるように思う。
だがグラントの場合は「判断力」一強だ。彼自身は勢いとノリで生きているような大雑把な男であり、ものを考える事はあってもどこか抜けていて、ステータス育成も特に悩みもせずにDEXに全振りしてしまうようなお前が言うのかガサツなプレイスタイルであるというのに……その選択が全て、
「俺も、経験を積めばあいつみたいになれるのかな……」
待て、毒されるな。生徒の本分は勉強だぞ。
ともかく、その言葉、気が付けば口に出てしまっていて。思わず北海いくらとエムに怪訝な表情をされてしまったハルキは、再びあはは、と作り笑いをする羽目になったのだった。
「……なるほどね。そっちの世界には、ハルちゃんにもそんな事を言わせるようなプレイヤーがいるって訳ねー。そんな凄いとこがあるなら、一度私も行ってみようかしら」
だが、そんなハルキの胸中のどこまでを察したのか分からないが、ピトフーイはどうやらかなり正確に、かつ真面目に受け止めたようである。やはりニヤニヤと顔に貼り付かせた笑いを絶やさぬまま、歩みを止めてハルキへと振り返る。
「でもね、ハルちゃん。GGOも捨てたもんじゃないわよ。
次の戦いで、
そう、四人が今たどり着いたのは研究所の最奥地。既にその支配者たるマッドサイエンティストの姿は見えず、目の前にはボス戦の舞台となるグラウンドへと続く昇降機があるのみである。もうちょい作り込んでも良かったんじゃないか小説家さん(責任転嫁)。
それを前にしてのその女性ガンマンの言葉に、ハルキは何とも言い知れぬ思惑を感じて、何とも落ち着かない気持ちになる。忘れてはいない、今自分達はGGOを楽しみに来たのではなく、薄塩たらこの事件についての調査に来ているのだ。
そして、その彼がゼクシードと同じ、「死銃」と呼ばれるプレイヤーに撃たれた事実を知っていながらも、多くのGGOプレイヤーはその関連性に関して楽観的でいることを。あまつさえ目の前の女性プレイヤーは絶対安全を謳うアミュスフィアに対して、「つまらない」と述べた事を……ハルキは忘れていない。
(なんだろう、この感覚。
まるで周りが、
やがてエムが四人を乗せたエレベーターを起動させ、周囲にそれによる機械音が鳴り響く。
その中でハルキはそんな複雑な心境を持て余しながら、やがて左右に開いた天井から覗く、曇天を眺めていた……。
「ねえツェリスカさん、本当にそこで合ってるんでしょうね」
「ええ、間違いないと思うわよ~。信頼できるフレンドからの情報だもの~」
オールドサウスの廃墟の周りには、それはそれは連綿と広がる砂漠が広がっている。その一帯で砂埃に霞みながらも地平線に映るその街並みを目指して、疾走する二つの影があった。
言うまでもない。グラントとツェリスカである。なぜこの二人がハルキ達の行き先について把握しているかについては、まあ追々話すことになるから今は省略。
「グラントくん、追加情報よ~。
お友達さんはオールドサウス廃墟エリアの、スタジアム型のダンジョンに入っていったらしいわ~。ここって最近アップデートで追加されたダンジョンでまだ認知度は高くないはずだから、やっぱりお友達さんを誘ったそのプレイヤーはかなりのやり手みたいね~。
だけどその入り口を用心棒のプレイヤーさん達に守らせていて、正面から入ろうとしたら間違いなく戦闘になるから注意しろ、とのことだわ~」
むむむ。グラントは眉をぴくつかせる。ここまでもプレイヤーはもちろん、モンスターとすらなるべく遭遇しないように気を遣ってやってきているのだ。それがここに来て戦闘不可避な案件にぶつかるとは。
だがここで暫定相棒の銀髪女性ガンマンから、さらに追加の情報である。
「あら? その代わり、そのダンジョンには裏口があって、そっちはノーマークらしいわよ?
なるべく戦闘を避けたいと思っているグラントくんにはもってこいのお話じゃないかしら?」
「……ふ、ふーん……?」
ありがたい話だ、確かにありがたい話なんだけど。グラントは思う。
仮にそれが正しいとして、その「信頼できるフレンド」さん、ちょっと知りすぎていやしないだろうか。さっきもツェリスカさん、「最近アップデートで追加されたダンジョンでまだ認知度は高くない」って自分で言っていたじゃないかい。SAOの時のマソップに対して抱いていた様な、ほんのちょっとの違和感を、今回も何となく感じる。
(……まあでも、今はそんなこと言ってる場合じゃないか)
因みにマソップには現在神代博士の傍に付いてもらっている。基本的にデジタルデータに関してはマソップと情報をほぼ共有しているし、今回は彼女側から持ち寄られた話でもあるので、現在その高性能AIにはなるべく神代博士に余計な心配をかけさせないように、彼女にグラント/玄太郎のGGO入りを悟らせないようにいつも通り振舞ってもらっている。
……だが。そんなグラントにもたった一つだけ、
エロ本じゃないよ。
(ゼクシードも、薄塩たらこも
早くハルくん達を見つけないと。誰が犯人か……分からないんだから)
第三回バレット・オブ・バレッツことBoBの本戦は午後八時からだ。その時刻になれば観戦の為にGGOには多くのプレイヤーが押し寄せるだろう。そしてその集団を狙って犯人が現れる可能性は高いだろうし、なんならBoBそのものに出場して参加プレイヤーに殺戮の限りを尽くす危険性もある。
だがそれは夜になってからの事。まだ昼過ぎである現在、その殺人者……通称「死銃」ことデス・ガンが出没する確率は完全にランダムである。
そしてそれは、ハルキ達が突如ばったりとデス・ガンに遭遇して、撃たれてしまう可能性も否定できないという事を意味しているのだ。
「グラントくん、大丈夫かしら?」
「…………ええ、ばっちりですとも」
何としても今日中に、なるべく早く仲間と合流する。
そう言って聞かず、今も自分で気付いていないのか大量の汗を流し(仮想世界では感情を隠せないため)ているその少年を、しかしツェリスカはどこか不安げに、されどどこか不審げに見つめるのだった……。
※設定一部SAOFB準拠