シノン「ジ・エンド」
シノン「どんな時もチェック・シックスよ」
シノン「体育用のスパッツ穿いてるから」←
シノン「こっ、この……」
マソップ「上げて落とすスタイルヤメレwww」
「……まあ確かに、裏口とは言ってたけど」
グラント達が目的地のドームへとたどり着いたのは、それから十分近く経ってからだった。
オールドサウス、廃墟エリアの西側に位置するその大型施設は、その円形の敷地のうち東側に位置している。そこには前述した通りにピトフーイの雇った刺客たち五人が外部からの侵入者を妨げるように立ちはだかっているが、今回グラント達が訪れたのは敷地の北側である。そこに存在する裏口から、アナザールートとしてダンジョンの中に入り込める抜け道が存在する……と言うのがツェリスカがフレンドから入手した情報だったのだが。
「これって……ダクトじゃん」
「ダクトね〜。潜入任務では定番ね〜」
ダクト。空調、換気、排煙など、施設内の気体管理の為に引かれる大型の管である。どっかの大ハードな刑事さんとか、施設内に捕まってから脱走する系ミッションとかでいつもお世話になっているアレである。
「ま、まあ俺はなんというか……チビアバターになっちゃったし、問題なく入る事は出来るとは思うけど。そっちは無理そうですねぇ」
「あら、そんな事はないわよ〜? 私だって匍匐前進すれば……ほら、なんとかなりそうじゃないかしら?」
「ちょっ!?」
だからってその場で這いつくばるなツェリスカさん。やめてくれ色々目が行くから。なんだかわざとグラントをからかってやってるっぽいけど。そんな魔性の女だったか無冠の女王。
「ご、ごほん。いずれにしてもツェリスカさんはここで待っててください。出来ればその、正面玄関にいるっていう見張り達の監視をしてくれれば助かりますけど」
「あら、そう? ダンジョン内にはエネミーもいるのよ? ちょっと心配なのだけれど〜」
確かにハルキ達は四人という物量的にも、それぞれのパフォーマンス的にも十分な戦力があったからこそ、このダンジョンの最深部まで突破出来たのだ。だが、ただでさえ武器を持たない信条のグラントは今回、GGOでは更に交戦すら極力しない制約を自らに課しているのだ。
……まあ、それでもあのSBCグロッケンでの怪しげなガンショップにて、一応武装自体は購入しており、今でもそれはグラントの腰のホルスターに引っ提がっているのだが。
「……大丈夫っすよ、これでもVR戦闘には慣れてるんで。
それに、あんまりツェリスカさんを巻き込んじゃっても、申し訳ないですから」
既にここはダンジョンである。グラント達も頑張ってハルキ達を探したけれど、もう既に
だけど、もしそれも出来なくなってしまい……そして、
(そしたらその時は)
要は天秤である。片方は彼自身のこれまでの軌跡。神代博士のような研究者になる為に、一年間将来の為の勉強をして積み上げて来た過程。それらは一重に、彼が
そして片方は仲間達の命だ。デスガンの脅威に晒されながらも、真相を探そうとしている彼女達を止める事が出来るのは、自分しかいない。
……どちらの方が重いかと言えば、グラントの主観で言えば、決まっていた。
「ねぇ、グラントくん。
あなた……引き金を、引ける?」
そんな彼の尋常ならぬ悩みを、その場で服を払って立ち上がるツェリスカも薄々とは察していた。もちろん詳細はよく分からなかったが、だがそれのために彼が何を渋っているのかはいい加減見当が付く。
即ち、他人に銃口を向けて、引き金を引けるか。
ゲーム内で、ではあるが、人を殺せるか。
「……さあ」
だが、それに対しても、グラントはそう一言返すのみだった。
「ピト、北海いくら、ハルキ!! みんな無事か!?」
「私がこの程度で死ぬわけないじゃない! あー、ひっさびさに楽しいわぁ!!」
「こっちも大丈夫! ほらホッカさん、しっかりしろって!」
「も……もうダメです……何ですかあれ……」
上からエム、ピトフーイ、ハルキ、そして北海いくらである。四人はダンジョンの最終到達ポイントであるスタジアムに昇降機で昇ると、そこにポップしたダンジョンボスと相対していた。現在は電磁スタン弾で足止めしながら競技場の端に取り付けられていた梯子を登って、観客席エリアにて集まって作戦会議中である。
「結構電磁スタン弾って高いのよー? これじゃあすぐにユキチが飛ぶわー」
「まあ、今回は必要経費だと考えるしかないな、何しろ」
基本的にGGOにて銃弾作成に掛かる費用はかなり高めであり、後に「炸裂弾」を作成した某スナイパーもその嵩むコストに唸っていたとかいなかったとか。
だがそれすらも仕方のない事とエムが割り切ったのには理由があった。何でピトフーイの予算に関してエムが口出ししてんだと思ったそこのキミ。まあその内解説しよう。
「相手は『マンハンター系』のクリーチャー。ガンマンの天敵だ」
マンハンター。SAOFBをプレイした人は分かってくれると思うけど、この系列のエネミーはマジでメンドくさい。
狼が熊のように屈強になって二足歩行しているような外見と、研ぎ澄まされた鉤爪。銃撃による仰け反りが殆どないスーパーアーマー状態で突進してきて、致命的な一撃を繰り出してくるだけでなく、火球を吐く遠距離攻撃も兼ねそろえている。その為に安全地帯からの撃ち合いの様な作戦はまるで通用せず、スナイパーのように遠距離狙撃が出来るプレイヤーでなければ、ひたすら逃げ回りながらチマチマと体力を削る消耗戦に持ち込むしかない。
そして今回の敵はそんなマンハンター系の中でもかなり大柄だ。まるで戦車のように巨大な体躯に比例して、その索敵範囲も観客席エリアを含むフィールド全体を覆っているようであり、エムが遠隔射撃をしようとしてもすぐに火球に阻まれてしまう。かと言ってハルキが近接攻撃を仕掛けようにも、敵は一切怯まないせいでまるで手応えがない。
「アスリートを生体実験してたどり着いた究極生命体がアレって、このダンジョンの設定組んだ人、随分運営にケンカ売ってるじゃないの。
でも対処法がない訳じゃないわ。だいたいあのテの敵って、ダメージがやたら入る弱点がある筈だから」
「弱点、ですか」
そんな窮地に立たされていても尚余裕げなピトフーイに、まだGGOにログインして間もないのにボス戦を経験するハメになった北海いくらが、げっそりとした表情で聞き返す。その両腕には彼が自腹で購入したメインアームの、イスラエル産の名サブマシンガンことUZIが抱えられている。
「そ、弱点。普通のマンハンターなら頭に生えてる角が弱点なんだけど……あいつ、なんか折れてんのよねぇ。おまけに撃っても全然効いてないし。
こういう時は四方八方から一斉にブッ放して、エネミーが痛がるところを探すのが一番良いんだけどねぇ」
「そうか。そういう事なら、みんな」
さて。ようやく話の流れ的に出番が回ってきたように感じたハルくんの一声である。他の三人が一斉に振り向くのを確認して、彼女は更に早口で続けた。
「俺が暫くの間、スタジアムの中央であいつを引き付けておくよ。だからその間に手当たり次第に攻撃して、弱点ってのを見出してくれ。
スタジアムの外周を三等分するように散らばって、エムはその『長いの』で、ピトフーイは何かその、『丸いのがついてるやつ』で、そして北海いくらは……えっと、その『T字のやつ』で、それぞれ適正距離で撃ちまくるんだ」
ピトフーイ辺りで、それぞれの銃を指定した事を後悔し始めていたハルキであった。ちなみに正解を言うと、エムの「長いの」は「M14・EBR」、ピトフーイの「丸いのがついてるやつ」は「KTR09」(丸いのというのはドラムマガジンのこと)、そして北海いくらの「T字のやつ」は先程も紹介した「UZI」である。
まあそれはともかく。そのハルキの言葉に無茶だと止めようとした北海いくらを、やはりピトフーイが押し留める。どうやら今度もハルキの力量を測るつもりの様だ……いや、もしかするともう既に彼女の実力に気付いた上での判断かもしれないけれど。
「……出来るのね? ハルちゃん」
だからこその、その一言の確認に……ハルキは力強く頷いた。
「ああ。これが、
―――その時。そのハルキの長い黒髪のど真ん中に、背後からバレットラインが突き刺さったのを見たエムが……大きく声を張り上げた。
「危ない!! 全員、散開!!」
直後に四方向に大きく飛びのくハルキ達。ちょっとだけ北海いくらが遅れている。
するとハルキがいたその場所を中心にして半径二メートル前後の範囲に、巨大な何かが炸裂した。一瞬彼女の視界が紅蓮に染まったが、そのダメージ判定からは辛くも逃れる事が出来た様である。瞬く間にその場は辺り一帯の観客席ごと燃え上がり、今でもスリップダメージが発生するエリアを展開している。
「よし! 作戦決行だ!! みんな、散れ―――っっ!!」
どうやら敵がスタンから回復して、こちらにブレスを撃ってきたようだ……基本的に銃火器の照準に沿って発生するバレットラインだが、このモンスターに限りブレスの軌道上にその予測線は発生するのだった。その事実を落ち着いて呑み込み、その上で敵がどこに位置するのかを確認しようと振り返って。
振り返ったハルキの頭上に、そいつはいた。
(はやっ……!?)
驚きながらも冷静にバックステップを踏んでその、ロングジャンプでひとっ飛びに突っ込んできたダンジョンボスを回避する。ずしんと地面を揺るがすような音と衝撃を起こして、その場に降り立つ異形の怪物の見かけにそぐわない素早さに、その真正面に立って相変わらず剣客スタイルでショットガンを構えるハルキは、冷や汗をかきながらも我を失うことなく気合を入れる。
「よーし、行くぞっ!!」
直後にやって来たのは、それまでも何度もお目にかかった鉤爪攻撃である。右振り下ろし、左振り下ろし、そして両手での振り下ろしの三連撃で、こちらがどんな対処法を取っても基本的にそれらを阻止する事は出来ない。
故に取る事の出来る行動は一つ、回避のみである。
「う……おおおっ」
されど、回避する方法は二つ。こういう状況だ、まずありうる選択肢として後方に逃げるというのがあるが、その鉤爪攻撃は質の悪いことに突進性能が高い。AGI型のプレイヤーならまだしも、ハルキの様なほぼSTR極振り型の場合はまず逃げ切れない。
……なので、ハルキは初撃の時点で敢えてボスに突っ込むようにして、その地面に叩きつけられた右腕の内側に潜り込んだ。そのまま屈み、階段をスライディングをするように敵の股を潜り抜けながら……屈強な脚部を思い切り真一文字にぶっ叩く。そして背後まで回り込むと、おまけにもう一つとばかりにその巨大な背中に向けてSPAS12の引き金を引いた。
いくらステータスとしてSTRによって筋力値が底上げされているとはいえ、実際に物理攻撃のみではまともにエネミーにダメージが入らない事は……流石のハルキもこれまでの戦闘にて理解していた。無論それでも基本ぶっ叩きスタイルを変えるつもりはないようだが、その代わりに彼女が取り入れた要素として、適宜切り札としてその散弾銃をちゃんと本来の用途として使用する事を決めたのだった。それだったらフツーに銃として使った方が効率良くないかと思ってはいけない。
いけないのだ(懇願)。
『そっかあ、あんな風に避ければ吹っ飛ばされずに済むのねぇ』
『話している場合じゃない。銃の装填をしたら、それぞれ迅速に所定の位置につくんだ』
『は……はい! えっと、皆さんがそちらにいるんだから、私は……』
前もってエムから渡されていた、今はジャケットの胸ポケットにしまわれているトランシーバー型のアイテムから、三人の現状が通信されてくる。この状況で彼等にヘイトが向いてしまっては元も子もない、そう思って今しがた牽制射撃を叩きこんだ敵を睨み上げていたが……どうやら上手くいったようで、そのダンジョンボスはハルキに狙いを定めた様だった。
その場でクルリと巨大生物が振り返りこちらを向いたのを確認した彼女は、そのままスタジアムの中央を目指して席のブロック間に伸びる階段を全力で駆け降り始める。それを追うようにしてボスエネミーも動き出し、距離が少しでも縮まるや否やその両腕で辺り一帯を打ち壊さんとばかりに暴れまわる……が、今度は先程よりも距離がある事から、ハルキは下手な小細工をせずに敵に背を向けて全力で逃げる事に決めた様だ。適宜後ろを確認して、向こうからの攻撃がギリギリ届きそうなときはその場で跳躍して爪から逃れ、席の背板の上に閉足立ちで着地すると横に飛び込んで通路を切り替えて再び距離を取って凌いでいた。やっぱ動きがくノ一じゃねーか。
そして、いよいよ最前列の席まで到達すると、そのまま眼前の手すりをハードルのように乗り越えて……その場で振り返って、更に数発、敵の顔面に向けて銃弾を撃ち込んだ。そしてその反動を利用して飛距離を伸ばすと、後方宙返りをするようにして空中での姿勢を保持し、そして着地の瞬間に膝からタイミングよく力を抜いて、さらに後転を一回。そうして何とか、観客席から競技場に降り立つことに成功したのだった。
『―――ッ!! ハルキさん、危ない……!!』
だが北海いくらも叫ぶ通り、そのハルキの一連の動きを全て無に帰すかのように……次の瞬間には相手のダンジョンボスもスタンドを蹴って、落下地点をハルキのいる位置に定めて全力で飛び掛かろうとしていた。流れるようにスムーズにそこまで立ち回っていた彼女だったが、最後のジャンプの足に掛かる負担が少々計算外だったようだ。仮想世界の抑制された痛みとはいえ、それは彼女がその場から動き出すのが一瞬遅れてしまう程度には負荷のあるものだったのだ。
「し、しまっ……!!」
『ハルキ!! これを……使えっ!!』
だが、その時。胸から通信でエムの張りつめた声が聞こえてくると思うや否や、直後に何かが視界の端で曇天の中を舞っているのが見える。
それは、彼女の身体の半分は覆い隠せそうな、長方形の大きな板状の何かで……やがてそれはハルキの少し横の地面に激突すると、しかしその衝撃で折れ曲がる事もなく残りの惰性をもって彼女の左手の直ぐそばまで転がってきた。恐らくエムが自身の筋力値をフルで使って、それをハルキに向かって放り投げたのだろう。
『宇宙戦艦の装甲板だ。ちょっとやそっとでは壊れないはずだ』
「―――ナイスっ!! 助かった!!」
続いて届いたエムの言葉に合点の入ったハルキはその場でその「盾」を両手で掴むと、既に空中に躍り出たクリーチャーに向かって大きく掲げる。直後に左腕から全身に凄まじい衝撃が走り、その身体は再び軽く宙を舞う事になったが……そんな状況に反してヒットポイントは一切減っておらず、彼女自身も今度は余裕を持って地面に着地する。
「盾はあんまり使った事はないけど……でも!」
そして、体勢を整えながら右手にSPAS12を、左手にエムから渡された盾を構えて、その黒髪の女剣士は漸くスタジアムまで誘い込んだ目の前のクリーチャーに向かって自身を鼓舞する様に言う。
「盾使いの相棒として、負けてやる訳にはいかない!!」
そしてそれを合図に向こうも再び突進を再開する。その突っ込んできた巨大な体躯を、跳躍しながら盾で受け止め、そのまま上方にずれ込むようにして勢いを受け流す。盾を怪物の頭から後頭部までスライドさせながらその頸部に気合と共に銃身を振り下ろしつつ、その反動で自分の身体を起こし、さらに背中まで行ったところでそこに両足を乗っけて、さらに飛び上がる。
そして。銃口を下に向けて、上から彼女自身もショットガンを撃てる状況に持ち込んだうえで。
「今だ、撃て―――っっ!!」
……そう。気付けば彼女とダンジョンボスは、スタジアムのど真ん中までたどり着いており。
そのハルキの号令に合わせて、観客席のどこかにいる三人が、三方向からそれぞれに銃を一斉にぶっ放したのだった。瞬く間に自分の足元にいる怪物が銃弾の炸裂エフェクトに包まれるのを確認した彼女は、自分もと右手に持つショットガンを肩に固定し、上空から連射する。元々SPAS12は連射性能の高いセミオート、スピードタイプの銃なのだ。例え空中にいる短い時間だったとしても、彼女のその散弾銃には現在の残弾数を全て撃ち切るだけの余裕があるのだった。
(……どうだ!?)
―――どうやら、誰かが弱点を撃ち抜く事には成功した様だった。大きく仰け反ったダンジョンボスは、先程までの機敏さが嘘のような緩慢な動作でその場にうつ伏せに倒れ込む。
ダウン状態だ。スタン時と同じ様に、暫くは起き上がって来られないだろう。
「チャンスだ! 誰か、弱点を見つけられたか!?」
『……残念だが、俺は手応え無しだった。他はどうだ?』
『わ、私もこれといって何も感じなかったですね……』
立て続けに押し寄せられるエムと北海いくらの失敗の報告に、作戦の雲行きが怪しくなる。こうなったらどの道相手が隙を見せている今、いよいよ再びゴリ押しで銃撃した方が早いか……と、ハルキが再び手にした銃をリロードすべく、その薬室を露わにした……その時。
『後ろ腰の、ど真ん中よ』
……続いて口を開いたピトフーイの言葉に、他の三人とも、息を呑んだ。
『ハルちゃん、背中側の腰のど真ん中が、弱点クリティカルの発生部位みたいよ! フルオートで撃ってて明らかにそこだけ相手の挙動に影響が出ていたから、間違いないわね!!』
「よーしピトフーイさん、でかした!!」
その言葉を聞いたハルキは瞬時にその場で、本日何度目か分からぬ跳躍をした。そしてそのGGOを生きる凄腕女戦士の言葉通り、臥せっている怪物の腰―――全くグラフィック的に特徴がないんだけどこのエネミー作ったスタッフは鬼か―――に狙いを定めて、筋力値全開かつ全体重を乗せて……そこにSPAS12の銃口を突き立てて。
「くた、ばれえぇぇっっ!!」
そして、装填したての銃弾を、ゼロ距離から全弾撃ち込むのだった。
「おっつかれさーん! みんなよく頑張ったわねー! 特にハルちゃんは今日通じて大活躍!」
「い、いや……みんなが援護をしてくれたおかげだよ」
最後のハルキの攻撃によって執拗に弱点を撃ち抜かれた事で、ダンジョンボスはその体力を全損させるに辺り、十五分近く続いた戦闘はそのクリーチャーが爆散した事によってようやく終息したのだった。
「このダンジョン、まだ知名度が低くてクリアしたプレイヤーの話も出回ってないし、私達が一番乗りじゃないかしら? ちょっとエム、そこんとこ調べてみてよ」
「分かった。あとでMMORPG系統のサイトを探してみるとしよう。
……それよりもピト。今は他にやるべき事があるんじゃないのか?」
「やるべき事……? まだ何かミッションがあるんですか……?」
さっきからヘトヘトな北海いくらである。まあハルキやピトフーイ達と比べてしまうと、やはりプレイヤースキルの差があるのかも知れないホッカ飯倉である。現在スタジアムの真ん中にて合流した四人の中ではダントツで疲労困憊になっているホッカ残念である。残念いくらである。
「いやいや、このダンジョンでやるべき事っていうのはもうないはずだけど。
そうじゃなくて、アレよー。レアドロップの確認」
「あ、ああ、そうでしたね。えっと、今の戦闘で新たに手に入ったものは……」
そう、ここに来た本来の目的は、薄塩たらこの事件の真相を探る際に、他のプレイヤーにニュービーだと馬鹿にされないように……ある程度のレアリティの装備を整えておく為だったではないか。まあ、仮にレアドロップがなかったとしても、素材や低レアリティの銃の設計図などを売り払えば、それなりの軍資金を手に入れられる筈だ。
「二人で倒すより四人で倒した方が、誰かがドロップする確率は上がるってもんよ! ……あちゃー、でも私にはないみたいねぇ」
ドロップの仕様として、固定ボスを倒した際に確定で手に入るものと、周回で何度もボスを倒す事によって確率で手に入るものがあるようで、例えばシノンのヘカートⅡは前者に当たるのだろう。ただこのダンジョンに関しては情報が定かではなかったので、ピトフーイは
だが、そんな彼女の言葉に続いて、エムも北海いくらもやはり首を横に振った、その時。
「あ、これか? ……うわっ、重っ!?」
ハルキが自身のストレージから何かを取り出したようだ、彼女の両手にその肩幅よりも長い光の収束が起きたと思ったら……それは実体化した。
「なっ……!?」
「ほーう……?」
「む……」
どうやらピトフーイ達の仕入れた情報は正しかったようだ。それはガンマニアでなくてもそこそこの知名度のある、あの対物ライフルで。
「……なんだ? シモノフピーティー……何とかって銃らしいぜ?」
シモノフPTRS1941。
旧ソ連が採用していた、セミオートによってある程度の連射性能がきく5発クリップ式ガス圧利用半自動対戦車ライフルである。ちょっと何言ってんのか分からないと思ったそこのアナタ、もしやどっかの三世の相棒の黒ソフト帽の男が、何オストロの城に行った際に使ったのを見た事があるかも知れないよ。
その全長は何と2メートル超。重さなんて20キロ超あり、現実世界ならどうあってもハルくんのようなうら若き乙女が両手で持って立つ事の出来る代物ではない。第二次世界大戦にてこれと並行して大量生産されていた単発式の対物ライフル、デグチャレフPTRD1941は……後にとある高校の新体操クラブの皆さんの手に渡る事になるのだが、こちらはその余りの取り回しの悪さに運搬は二人掛かり、さらにプレイヤーアバターそのものを台座にしないと射撃もままならない有様だったのである。
そんなトンデモ銃を現在ハルキが両手で持ち上げられているのは、SAOから二年以上も蓄積したステータスと溜まりに溜まったパラメーターポイントによる筋力値補正のおかげなのだ。
「だけど……流石にこれでまともに立ち回れるとは思えないなぁ……いくら何でも重すぎるよ」
「は、ハルキさん。間違ってもこれを振り回すだなんて言わないでくださいね!?
それにしてもすごい、実物じゃないとは言えこんなに近くで見られるなんて……!!」
「あはは……! これが対物ライフルなのね……一回目の前でじっくり見てみたいと思っていたのよ!!」
何か銃好きのピトフーイと北海いくらがじわりじわりと詰め寄ってくる。ハルキはそんな二人をやや苦笑して見ていたが、やがて一つ息を吐くと、気合を込めてそれをピトフーイに差し出した。
「これはあんたにやるよ、ピトフーイさん。俺は銃の扱い方とかまだよく分かってないし、多分あんたの方が上手く使いこなせる筈だ」
ピクリ、とピトフーイの挙動が止まる。そしてその顔を俯かせてしまったので、表情が窺い知れないが……それを「遠慮」と取ったハルキはさらに続けた。
「そのかわり、協力して欲しいんだ。俺とホッカさんがこのGGOにやって来たのは、単に遊びたいからってだけじゃないんだよ。
さっきピトフーイさんとエムさんが言ってた、その『死銃』って奴。そいつの事を、詳しく調べたいんだ」
そして今度は北海いくらが挙動を止める番だった。彼だって決してその事を忘れもするはずがないのだ。寧ろ調査とは全く関係のないこのミッションに、そして早急な目的もなくここに来ているピトフーイ達によく付き合ったものである。
そんな彼の内心を気遣った取引に、彼が目で感謝を伝えて来るのを感じながら、ハルキは再びピトフーイに声を掛ける。
「頼むよ。これからも、あんたの言うGGOの醍醐味ってやつを、教えてくれないか」
「……ふふ」
だが。
その後のピトフーイの行動は、ハルキの予想に全くない……驚くべきものだったのだ。
いや、違う。それが必然である事を、彼女は知らなかったと言うべきか。
「あのねハルちゃん。銃ってのは、そうやって無償で人に渡して良いもんじゃ、ないのよ」
そう言うと、彼女はその場で踵を返して、ハルキと北海いくらから数歩離れる。そんな彼女の横に、それまで事の流れを静観していたエムも合流する。
「それにね、まだハルちゃん達に教えてないじゃない。
「……え?」
ピトフーイは昇降機でこのボスエリアに行く途中で、次の戦いでそれをハルキに教えると明言していた筈だ。
だがそれがまだ達成されていないと言う事は、導き出される結論は、一つ。
「……ここでは、奪った者が強者。
この世界の醍醐味は、他人を殺して、何かを奪う事なのよ」
……戦いが、まだ終わっていないと言う事だ。
「ハルちゃん、ホッカさん」
―――そして、その毒鳥の名前を冠した女戦士は、恍惚とした表情で口元を狂ったように釣り上げながら……その銃口をエムと並んで、ハルキ達の眉間に突き付けるのだった。
「GGOに、ようこそ」
マソップ「次回、閲覧注意報」