グラント「バベル2世とか」
マソップ「筋ピクマンII世とか」
ハルキ「俺って鈴風流的には二世なのかな」
オルス「気は確かっスか。いやマジで」
「さーて、落ち着いたかしら~?」
それから数分後。時刻は既に午後五時半を過ぎようとしている。
グラントとハルキが、往年の盟友ことオルスと再会して、少し時が経った後。
「オメー、一体今までどこをほっつき歩いてたんだ放蕩息子めキタコレワクテカ」
「不本意だけど俺も同意だ、こっちは随分探したんだからな、全く」
「ちょっと待ってどこが不本意なんすかハルくん」
「え、お前に同意する事がだけど……問題あったか?」
「変わってないっスね二人とも。いやマジで」
それまでのシリアス回が嘘の様なやり取りを勝手に目の前でおっ始め出すグラントとハルキに、オルスは呆れたように言う。ヤメレ、散々出番がなかったオメーが言うと深刻に聞こえるだろ。
「それにしても、びっくりしたわ~。まさかオルス君とあなた達が知り合いで、しかもそんなに仲が良かったなんて~」
「広めなくちゃ、トミィとマソップに広めなくちゃ」
「マソップの奴仰天するぞ、まさか自分より先に俺達がオルスを見つけるなんてって」
「間違いないねハルくん、最近高性能AIだからって調子乗ってたから『ファッ!? そマ?』とか言ってアイデンティティの危機に陥るぜきっと」
「アイデンティティって、AIにも思春期とかあるのか……?」
「マソップとトミィも一緒なんスか、是非会いたいっスねぇ! いやマジで」
ツェリスカ完全無視である。今度は彼女がへちゃむくれる番である。「あらあら~」とか言いながら頭から角を突き出させる……なんて事は無かったが、仮想世界の分かり易い感情表現によって明らかに笑顔から怒りのオーラがにじみ出ている彼女に、どうやら知り合いであるらしいオルスはビクッと身体を震わせて、その大柄な体格に噛り付いてくる二人の盟友をようやく押しとどめる。
「えっと、リーダーにハルキ先輩。……紹介しても、大丈夫っスか? いやマジで」
その口ぶりからすると恐らく、オルスはまだツェリスカに言っていないのだろう。つまり、彼等がSAO生還者であり、そのデスゲームの中で寝床を共にした仲間であったという事実を。現在の社会情勢を鑑みればそれは当然の配慮であるが、ツェリスカの良識ぶりに加えて、まあこの状況的に隠しようがないだろうと判断したグラントとハルキは……揃って頷く。
「じゃあ紹介するっス。いやマジで。
こちらグラントリーダーにハルキ先輩。オレの、
「……そんな事だろうとは思っていたわ。二人とも、分かり易いものね~」
だろうね。グラントは心の中で愚痴る。そうでもなければ、あんなに必死になって仲間を追いかけたりするプレイヤーなんて滅多にいないだろうさ。だけど……うむ、そんな俺を何も言わず見守って、あと俺の知らないところでハルくんと仲良くしてくれた彼女の親切ぶりにはホント、頭が上がらないなあ。
「……それで、オルス氏。お主はツェリスカさんとは、一体どういうお知り合いで?」
「ああ、そうだったっスね」
だけど、そっちが分からないよね。グラント達はこの作品読んでりゃかけがえのない関係だって分かってくれると思うけど、オルスとツェリスカに関してはまるで接点が見当たらない。こら、出番が少なすぎて関連性もクソもねぇとか言うな。傷つくだろ。
まあそう怒らないでよ。一応この時の為に敢えて、彼のリアル情報は伏せておいたんだからさ。
「えっと、ミズ・ツェリスカの紹介の前に、まずはオレのリアルの事を教える必要があるっスね。いやマジで」
「え……いいのか? ツェリスカさんが聞いてるんだぞ?」
「問題ないっス。
だってオレ、ツェリスカさんとリアルでの交流があるんスよ。いやマジで」
「……なぬ?」
ハルキの問いにそこそこ衝撃的な答えを返したオルスに、グラントが情けない声を出す。ちきしょうこんな美人女性プレイヤーと現実でも懇意なオルスめ、なんてけしからん羨ましい……と思ったそこのアナタ。
現実は意外と非情でアルよ。
「そういう訳で、これがオレのリアルの名前っス。いやマジで」
そして、オルスがストレージから取り出した、何やら名刺の様なアイテムを受け取ったグラントが、その表面に指で触れると……瞬間、目の前に何やらシステムウィンドウの様なものが表示されて。
それを、隣で屈んだハルキに見せながら、一番大きな文字で書かれている、その名前を読み込んで。
「――――――ほえ!?」
「……これって、まさか」
流石にニブニブのハルキですら、それが何を意味するか察しが付くと言うものだ。
彼女とグラントの問いただすような視線にちょっと困ったような顔をするオルスに代わって……ツェリスカが、改めて彼を、そして
「彼はこのGGOを運営するザスカーの社長の御曹司。
そして、SAO事件後に日本支部に派遣されてきた彼の教育係が、私よ」
つまり。ツェリスカとオルスは運営側の人間であり。
二人は、
「SAO事件、ALO事件の後に世界中に流出したザ・シードによって、世界で数多のVRMMORPGゲームが運営を開始したわ。
その震源地であり、フルダイブ型VR技術に関してはアメリカに次いで先進国である日本に、彼は社会勉強の名目で飛ばされてきたそうよ」
「いやー、仕事とかマジ興味無かったんスけどね。働いたら負けかなって思ってるし。いやマジで。
そしたらパピーが『調子に乗んな』ってメッチャ怒って、日本に来てみればミズ・ツェリスカのチョー厳しい指導が待ってて、ホント困ってるんスよねー。いやマジで」
「現在進行形でがっつりニート思考やないかい」
典型的なドラ息子、ボンボン二世である。横を見ればツェリスカが何とも言えない苦労人の浮かべる表情をしていて、ハルキは思わずご愁傷様、と頭を軽く下げるのだった。
「少し前まではホント、仕事を覚えるのに必死だったんスよ、だから日本に居るはずのリーダー達を探す暇も全然なくて。いやマジで」
「……確かに、VRMMO関連のニュース自体は漁ってたけど、まさか運営側に名前が連なってるとは思わなかったもんなぁ……あれ?」
グラントはそこで気付くのだった。
よく考えれば、オルスが病院を退院した後に母国へ帰っている事を知っていたマソップは、少なくとも彼の本名を知っていたのではないか。まあ、ザスカー自体が形態不明の謎会社である以上社員の情報を入手する事は困難なので、あくまでその名前の同一性は偶然の一致の可能性の方が高いって判断したのかもしれないけど。
チキショー、もっと早く教えてくれよ。なんだかあのチョーシ乗った鎖骨prpr女がアイデンティティの危機どころか、逆にこちらを掌で転がしていたのかと思うと何ともムカツキーな、そんな落武者くんであった。
「で、でもこれって大丈夫なのか? だって、側から見たら運営スタッフが、俺たち一般プレイヤーに忖度してる様なもんじゃないのか……?」
ハルキはそこで気付くのだった。
元々ツェリスカが目立った大会やイベントに出場せずに「無冠の女王」として名を馳せているのは、運営としての知識によるアンフェアな状況になる事を避ける彼女のザスカー社員としてのケジメによるものであって、そこからも分かる様にその銀髪の女性ガンマンはなるべく運営側の人間としてGGO内で行動する事を避けてある筈なのだ。
だが、今の彼女とオルスの行動は明らかにメタ的な要素を孕んでいる。まあグラント帝国三人の悲願の再会の為と言ってしまえばそれまでだが、何もリアル情報まで解禁する必要はあったのだろうか。
「ええ、そうね。……今が
ツェリスカがそう言った時点で、現在彼女達運営側にとって、何かしらイレギュラーな問題が起きていると考えるのが妥当である。
……ちょうど数日前に、GGOにとっても、グラント達にとっても……めっちゃタイムリーな事件が、発生したばかりだよね。
「……死銃事件の事かい」
「ご名答っス。いやマジで」
まあ、そうなるだろう。
玄太郎が刺された翌日の昼頃には、既にその事件自体の速報がニュースにて報道されていた。その時点では容疑者がVRMMOゲーム内にて生じたトラブルの為に、相手のリアルを調べ上げて犯行計画を実行した……という事件の概要しか分かっておらず、その詳細は現在も捜査中とされていたのだが。
だが、間違いなく「死銃事件」の事を指しているだろうその案件の逮捕者に玄太郎を襲った人間はおらず、警察から傷の状態が安定した頃を見計らって彼に任意の事情聴取を行う、という旨を昨日彼と春花は伝えられたばかりなのだ。それを考えると、事件の収束まではひとまずGGOも運営を停止させるべきなのではないかと思わなくもないが……流石海外産謎運営会社、その気はさらさらない様である。
「『死銃事件』の事が噂になっていても、第三回BoBは開催するし、サーバーの停止は行わない。そういう本社側の方針を知っていたから、せめて日本サーバーを管轄している私達で厳重な態勢を敷いて、事件を未然に防ごうとしていたのだけれど……残念ながら、結果として
ほほー。まずグラントは納得した。
というのも、どうしておとといのツェリスカさんが、あんなに素早くハルくんがどこにいるか、何をしているかの情報を掴んだか、これではっきりしたからである。
恐らくGGOのマップのいくつかのポイントに、少し前から話題になっていた死銃案件への対策としてザスカー日本支部のスタッフが常駐していたのだ。それはSBCグロッケンでも例外ではなく、ツェリスカからの人探しの要請を受けた「フレンド」である彼等が、運営としての権限を持って彼女を捜索してくれていたのではないか。
そして、その後のオールドサウスからドーム型ダンジョンまでの経緯に関しては、これは間違いなく横にいるオルスからの情報だったのだろう。まだあの時点ではハルキが自分の知るハルキであるかも定かではなかっただろうし、少なくともピトフーイとエムに雇われた用心棒として彼女と北海いくらと同行していた彼が、「信頼できるフレンド」として上司たるツェリスカに一報を入れたと考えるのが自然だ。
……それじゃあ、次の疑問に移るとしましょう。それを尋ねるのはハルキである。
「そのうちの一つって言うのは、どういう事なんだ……?」
それに対して、オルスとツェリスカは一度顔を合わせる。まるで彼等に本当に言って良いのか、悪いのかを今一度検討するかのように。
だが、そうして伺うツェリスカに対して、やがてオルスは顔を縦に振る。彼は知っているのだ、目の前の二人が、如何に仮想世界を面白おかしく、それでいて真剣に……生きているかを。
何故なら、彼は見ていたから。二年間もの間、トミィやマソップと並んで、二人が歩んでいた軌跡を最後まで見届けていたから。
「……少なくとも、オレ達個人の見解って意味なんスけどね。いやマジで」
部下のその言葉を受け持って、決意を持って次の台詞をグラント達に告げるツェリスカは、もうあのおっとりとした口調と雰囲気を完全に引っ込めて。
―――一人の、仮想世界の守り人として、口を開いたのだった。
「死銃事件は、まだ終わっていない。
出来れば手を貸して欲しいの。SAOを生き抜いて、仮想世界の危うさを知っている、あなた達に」
「……十二月の、上旬の事よ」
テーブルにグラントとハルキ、オルスとツェリスカで向かい合って座り、先ずはこのホームの持ち主であるツェリスカが淹れてくれた飲み物を一杯。ドクターペッポーみたいな毒々しい飲み物ばっかり売店で売られているGGOだが、どうやら味自体は豊富らしく、何とその銀髪女性ガンマンが配膳してくれたそれはショッキングピンク色の液体であるにも関わらず、どういう訳か緑茶の味がしたのだった。
そして、その奇妙な体験にグラント達が奇妙な顔をしているのを微笑んで見守りながら……彼女は語り出したのだった。
「ザスカー本社のあるアメリカでも、プレイヤーとして撃ち出した弾丸が、命中したアバターのリアルをも殺すっていう『死銃』の噂については、与太話とは言っても一定の知名度を得ていたそうだったわ。
でも、確証が無いその情報を間に受けて運営に慎重になる事で、昨今のVRMMOゲームのブームに乗り遅れる事を嫌った本社は、それに対して消極的な姿勢を取り続けていた」
先程の話といい、どうやらザスカーは会社の方針として、かなり事なかれ主義の様相を呈している様だ。SAO事件とALO事件を経た日本産の運営会社と比べると、まだ随分VRMMOゲームでのVCに対して呑気な印象を受ける。
「でもね、そうしたらある日、アメリカサーバーでの攻略サイトに、奇妙な情報が載っていたのよ。
何でも近日中に、日本サーバーにてGGO初の、強制バトルロイヤルイベントが開催されるって」
「で、それはオレ達
話を聞いていたグラントとハルキは顔を見合わせる。
何というか、それ自体はそこまで懸念すべき事案では無い。どこかの誰かが愉悦目的で偽の情報をサイトにばら撒いた可能性が高いし、それによって誰が明確に損をするというわけでも無い。
……それが、
「仮に、万に一つでもそれが実際に開催されたとして……リアルの人間を殺す力を持っている死銃がそれに参戦すれば。
GGOの日本サーバーは、SAOに次ぐ未曾有のデスゲーム空間になる可能性があったって事か」
「そういう事ね。だからこそ、私達日本支部のスタッフは、未だかつて無い厳戒態勢を敷いてそれを阻止しようとした。
……なのだけれど。そこで、妙な事が起きたの」
「ちょっとこれを見てくれませんっスか。いやマジで」
すると、再びオルスが自身のメニューを操作して、今度は何やらデータを同封しているらしいメッセージをグラント達に送る。それをそれぞれのボックスから受信した二人が、ファイルを開いて閲覧してみる。
それはいわゆる棒グラフだった。縦軸には人数が、横軸には月が設定されており、十一月までは殆ど低い位置でプラトーだったのが、十二月に入ってから一気に上昇している。
「これは、プレイヤーの数……なのか?」
「ハルキ先輩流石っスね、すぐに分かるなんて。いやマジで。
そう、これは日本サーバーに推移してやって来た、元アメリカサーバーでのプレイヤーの数なんスよ。いやマジで。
なるほど、それは確かに変だ。冗談でも何でもなく、言わばわざわざ死地に出向いている様なものなのだから。そういうあのピトフーイの様な人間が一人くらい居ても不思議では無いが、このデータが示す所によると少なくとも五十人近くのアメリカサーバーのプレイヤーが渡って来ているのである。
デスゲームに、自ら好んでやって来るGGOプレイヤー。そこに運営側が関知していない、何かしらの思惑があるのではないかと、ツェリスカ達は踏んでいたのである。
「一応私も上司に報告したのだけれど。あの人は建設的な提案ができない陰険イヤミ上司だから、全然取り合ってくれなくて。
全く、信じられない人だわ。GGOの運営としての自覚が足りないんじゃないかしら〜……?」
「……ね? ミズ・ツェリスカ、怖いっスよ。いやマジで」
「……う、うむ」
「お前も大変なんだな、オルス……」
意外と素の性格はキツめなツェリスカだったりする。これにはグラントとハルキも部下であるオルスに同情せざるを得ない。
「だから、私は私だけで、この現象の調査を行わなければならなかった。
そこで、最近日本に赴任して来たばかりのオルス君に頼んだの。彼らと同じ日本サーバーにやって来たアメリカサーバー出身のプレイヤーとして、潜入捜査を行ってほしいって」
「……え?」
ハルキはそれを聞いて、一つ閃いた。
つまりだ。ピトフーイとエムに連れられて彼女と北海いくらがフィールドを歩いていた際、彼らを守っていた五人の覆面プレイヤー達のうちの一人にオルスがいたという事になるのだが。
「じ、じゃあ、あの五人は、いやオルス、お前を抜かして四人は、全員
「ええ、その通り。一緒にいたハルキちゃんはびっくりするでしょうけれど、事実よ〜。
それで、分かった事があるの。やっぱり彼等は、近いうちに起こる何かの為に、日本サーバーに集結しているみたいなの。
どうやら会話ログとしてその記録を残さない為に具体的な内容については話さない暗黙の了解になっているみたいで、肝心の内容についてはまだ掴めていないのだけれど。
だけど、そのタイミングで。
「―――っ」
そう、解決して
これは向こうからやって来たプレイヤーからすれば、もしかすると誤算だったのでは無いだろうか。そのバトルロイヤルイベントが行われるとして、この時期にそれを開催する理由があるとすれば、そこに死銃が関わっている可能性が高かったのに……その噂のプレイヤーはリアルにて警察に逮捕されて、GGOから姿を消してしまったのだ。
「……この場合、次に起こりうる可能性は二つっス。いやマジで。
一つは、このまま何も起きずに全てが解決するパターンっスね。もしこっちなら、オレ達も何もすべき事はないわけっス。いやマジで」
目玉となる人間が居なくなって、全てがデマだったと結論付いてプレイヤーが本来いたサーバーへ戻っていく。それなら事態はなんと単純に収まってくれるだろうか。
だが、もう一つの方の可能性は。
「―――二つ。オレ達は基本的にこっちを警戒してるっスよ。いやマジで。
「……なんだか、先が見えない話だなぁ。
バトルロイヤル? なんて勝手にやったとして、それに何の意味があるって言うんだ……?」
ハルキのその素直な呟きに、四人とも押し黙る。
そう、それこそが今回の事件の肝である。彼女はALO事件の後に、彼女を救う為に奔走したグラントから、当時のレクトの一部社員達がいかに極悪非道で壮大なスケールの悪事を企てていたかを聞かされたものだったが、それと比べてしまうと今回の話は、一体誰が何をしようとしていて、それによって何を目的としているのか……そのどれ一つとしてはっきりしておらず、不明瞭な要素が多すぎる様に感じてしまうのだ。
そしてその不可解さのせいで、結果としてツェリスカやオルスも、後手後手の策を労さざるを得ない状況なのである。
「あのっすよ」
「何かしら、グラントくん?」
「それって」
だけど。グラントは思う。そもそも事態が謎に包まれているのもそうだけど、だとしたらせめて後ひとつだけ、彼等が絶対に知っておかねばならない事柄がある筈だ。
「―――だったら、死銃事件の真相くらいは把握してないと、まずいんじゃないの?」
少なくとも、現在わかっているだけという意味でも、メディアが報道する以上の情報……つまり、警察に相談をした方が良いのではないか、という提案である。確かに、まだ裏付けが為されていない情報という意味では、ニュースにはなっていないが捜査中の警察側の知り得る情報があるかもしれないではないか。
「―――ダメなんスよ。まず、
「……オルス、お前ドラ息子の割には結構知的な事言えるんだな」
やめてあげなってハルくん。純粋すぎる発言はたまに人をナイフで切り裂いちゃうんだよ。私……避けちゃう!
「……続いて、というかこっちの方が大きいんスけど。いやマジで。
ザスカーの方針として、GGOに関してはなるべく監査の対象にならない様に運営を続けないとダメなんスよ。いやマジで。
なぜなら―――」
「―――RMTかい」
グラントの合わせに、頷くオルス。
そう、GGOは現時点でも日本の法律的にはかなりグレーなゲームなのである。リアルマネートレード、つまり現実の通貨と仮想世界の通貨の互換があるというその仕様は、いわゆるカジノ法案に該当するものなのだ。その様な賭博行為は現在の日本では禁止されている筈であり、それをGGOは言わばなあなあでここまで通して来てしまっているのである。
だが、それに対して批判的な人間自体はちゃんと存在し、他ならぬ警察がその一大勢力として目を光らせている現状、死銃事件に加えてそんな事態を露呈させてしまえば、一斉にその声は大きくなってしまい……ザスカーは日本でのGGO運営が困難になってしまうのではないだろうか。
「……じゃあ、今回の件に関しては、警察含め外部からの支援は、一切受けられないのか」
「残念ながら、そういう事になるわ。だからこそ……私としては、こうして守るべき一般プレイヤーをこちら側の事情に取り込むやり方はすごく気が進まないのだけれど。
でも、オルス君が推薦したあなた達が、他の誰よりもこの銃の世界で、真摯にプレイしている事はよく分かっているつもりだわ。だから」
つまり。今分かっていることを整理すると。
彼等は四人きりだ。ザスカー上層部からの支援も、警察等の外部の監査機関からの助力を得る事も出来ずに、この問題に関しては彼等四人で対処せねばならない。
その上で、一体何が起こっているのかの全貌すら、殆ど見えていないという……あまりにあんまりな事態なのである。
だからこそ。ツェリスカは強い意志を持って、グラントとハルキに語りかける。
「無理に協力してなんて言わないわ。あなた達のSAO時代の傷を抉りかねないのなら、この話は受けるべきじゃないと思うし、私がそれ以上の関与を止める様にするわ。
だから、その時は私達を見ていて欲しい。このGGOをプレイするユーザーを、私達がザスカーの社員として守り通せるって事を、証明させて欲しいの。
……もう二度と、あんな
「……ツェリスカさん、あなたとはちょっとだけ、立場が違いますけれど」
SAOの登場人物の中でも珍しい、茅場晶彦完全否定派のツェリスカに、どちらかと言えば茅場サイドのポジションにいるグラントがおもむろに口を開いた。
「でも、俺も最近になってようやく、立ち向かう選択をした身なんで。見逃す訳には、行かないんですよ」
一瞬目を合わせて、お互いに暗黙のままに意志を交換し合った後に……すぐにツェリスカに向き直る二人。
その傍らであるグラントからは、かつてツェリスカが彼に抱いた異様な雰囲気は微塵にも感じられなかった。そして隣にいる、おとといの時点では弱りきっていた筈のハルキも、相棒に同調するかのように瞳を燃え上がらせている。
それは二人揃って、何やら大きな信念を抱き、敢然たる覚悟を持った……ツェリスカ以上の、VRMMOゲームの守人のようで。
(本当にこの子達は、何者なのかしら)
それだけ、心に呟いたツェリスカは……大きく息を吐いて、告げるのだった。
「……分かったわ。なら、まずはさっきグラントくんが言っていた、死銃事件の情報に関して、当事者から聞き込み調査をする事にしましょうか」
「……当事者?」
「……ふう、お待たせ。指定されたエリアにドロップした銃、取って来たわよ。
偶然すぐ近くまで出向いてたから、楽な仕事だったわ」
その時。ツェリスカのホームに新たな影が現れた。
萌黄色のトップスに、灰色のダボダボのズボン。ちょっと野暮ったい様な服装に見えるが、それは
そんな平時と戦時で転身する中でも、変わらず身に纏っている白いマフラーと、鮮やかな翡翠色の髪を涼やかに払う、彼女は。
「こんにちは。はい、あなた達の銃でしょ。
さっきの、ナイスファイトだったわ」
―――名前を、シノンと言うのだった。