SAO (シールドアート・オンライン)   作:ニモ船長

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「オミヤゲグレネード? それ、何?」

「負けそうな人が、巻き添え狙いで死に際にグレネード転がすこと。――ん、ほら、これあげる」



キリト「かなり凶器を感じた」
シノン「かなり狂喜を感じた」



ハルキ「かなり狂気を感じた」

 


第12話 ちゃんと恋をしてる、君に

 

 

 シノン。

 漸く登場した、SAO本家メインヒロインの一人である彼女は、現在GGO最強のスナイパーとして名を馳せているトッププレイヤーである。

 

 

 「それにしてもなんて戦い方するのよ、あなた達。まともに銃で戦う気がないんじゃないかってくらい、接近戦で戦ってたじゃない。……まるであいつみたいに」

 

 「え、ええ……?」

 

 

 そんな彼女がグラントとハルキに、彼等がデスペナルティとして落としてきてしまったはずのVP70とSPAS12を渡しながらそんな事を言ったものだから、ハルキは当然困惑するし、グラントは思わず問いかけるのだった。

 

 

 「も、もしやお嬢さん、俺達が戦ってるところ、見てたんす?」

 

 「ええ、全くの偶然だったけどね。そばの廃ビルの陰で観させて貰ったわ。それであなた達がデッドした後にツェリスカさんから連絡が来たから、ドロップ品を取ってきたの。

 ……あとそのお嬢さんって言うの、やめてくれる?」

 

 「アッハイ」

 

 

 流石落武者くん、未だにキリトヒロイン達からは嫌われ疎まれ、まともに意思疎通ができる相手がリーファくらいしか居ないグラントである。ちびアバターでも早速シノンさんからもヘイトを集める始末である。まあ盾役だし多少はね(すっとぼけ)。

 因みに例外のリーファさんからは、逆にALOを救った奇天烈だけど良いお兄さんという程度には好印象らしい。良かったね、独りじゃないよ。何よりお前さんにはハルくんがいるぢゃないか。

 

 

 「さっきハルキちゃんが銃を落としたって言ってたじゃない? ここに引き留めていて他の人に取られちゃうのは悪いから、誰か運営スタッフに取ってきてもらおうって思っていたんだけど〜。

 そしたら、これからお話を聞かせてもらおうって連絡を入れていたシノンちゃんが、取ってきてくれるっていうから〜」

 

 

 運のいいヤツである。まあそのお陰でドロップを回収する手間も省けた事だしシノンさんも滞りなく登場した事だし、良しとしよう。そろそろ彼女不在のGGO編とはって文句が来るところだったよね、うん。

 

 

 「改めて、初めまして。私はシノン、よろしくね。ツェリスカさんも久しぶり」

 

 

 ツェリスカから、続いて本人から告げられたその名前に、グラントは聞き覚えがあった。

 二日前に開催された第三回BoBの優勝者の一人。因みにもう一人はみんな大好きグラントの仇敵コイツが勝手にそう思っているだけ、美少女アバターのキリである。

 だがまあ、大事なのはそのシノンがそのBoBに参加していたという事。GGOプレイヤーの中では恐らく最も死銃に近づいたプレイヤーの一人であるという事。因みに例のヘコキリ子もそうなのだろうけど、今から連絡取って会って話を聞くには時間も掛かるし玄太郎は動けないし、メンドい。扱い雑である。

 それにだ。その内容を彼等は知る由もないのだが、シノンにとって死銃との間には、GGO内に留まらない程に深い因縁があるのだ。

 

 

 「つい数時間前に、政府の役員の人から今警察の捜査がどこまで進んでいるのかも聞いてきたばっかりだわ。

 まさか運営の人間だとは思わなかったから、メッセージを読んでびっくりしたけど、ツェリスカさん……死銃事件の事、喜んで協力させてもらうわ」

 

 

 ―――そうして、彼女は語り出すのだった。彼女にとって。キリトにとって。

 ……そうして、グラントにとって、逃れられない因縁を孕んだその物語を。

 

 

 「私にとっても、前を向く為に大事な問題だから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 シノンのリアル、朝田詩乃は、幼い頃に人を拳銃で殺した経験がある。

 とは言っても立派な正当防衛である。銀行強盗に遭遇した彼女は、同伴していた母親やその他の民間人を救う為に必死になって犯人の拳銃を奪い取ってその引き金を引いたのだ。

 だが、その代償として、彼女は心に深刻なトラウマを植え付けられる事になってしまった。銃に対する徹底的な拒否反応という形でPTSD(心的外傷後ストレス障害)を患い、家族との関係にも亀裂が入ってしまっただけではなく、学校生活に於いても事件の詳細を暴露され、針のむしろに座る様な毎日を過ごす事になってしまったのだ。

 ……そしてそんな彼女が、自身のトラウマを克服するべく始めたのが、このGGOというゲームだったのである。

 

 

 (でも私は、そんな自分がどうすれば、トラウマを乗り越えられる程に強くなれるのかばっかりに意識を向けて……()の気持ちを理解しようともしていなかった。

 私をGGOに連れ込んでくれた、彼のことを)

 

 

 シノンは話す。死銃事件の黒幕は、彼女と同じアパートに住み、彼女にこの銃の世界の事を教えてくれた……友達とその兄であった事を。

 SAO生還者であり、レッドプレイヤーであった兄の殺人衝動と、彼に対する弟の崇拝によって計画された死銃事件は、更に兄のデスゲーム時代の共犯者を一人交えて実行されていた事を。

 ……そのレッドプレイヤー達の所属していたギルドの名前が、「ラフィン・コフィン」という名前である事を。

 

 

 「だから、あの事件は……GGO内で起きた事件であると同時に、SAOから延長した事件でもあったって事ね。

 当時の殺人プレイヤーとしての自分を忘れられなかった人達が、しんか……ゲームに倒錯して現実を見なくなった身内を抱え込んで起こした、巧妙な計画殺人だった」

 

 

 ……それは、少し前まで噂としてのみ存在していた事柄だとは思えない程に、故意的で、狂気的で。

 彼女の話を聞き込んでいた四人は四人とも、しばらく二の句を告げる事が出来なかった。

 

 

 「……なんて事なの。

 この仮想世界で……そんな風に人の命を蔑ろにしようとする人間が、まだ居たなんて」

 

 

 ツェリスカも話として、SAO内には快楽殺人を生業とするプレイヤーが存在した事は聞いてはいたのだが……如何せん当事者ではない為か、些か現実離れした感覚でそれを頭に入れていたのみであって。

 いざその実態を目の当たりにしてみれば、湧き出る感情は義憤以上に恐怖だった。

 

 

 「……事実っスよ。いやマジで。

 仮想世界じゃあ、現実世界よりも簡単に、殺人が犯せるっスからね。いやマジで」

 

 

 けれどそんな彼女に、オルスはいつに無くしんみりと頷いた。

 SAOで生きたプレイヤーなら誰もが知っている事だ。あの世界は痛みが少ない、だからこそ悲鳴も上がりにくい、なんなら睡眠中に攻撃されて目覚めぬまま殺されることもある……と言った様に、一般のプレイヤーはともかく、積極的殺人の観点から考えれば、明らかにリアルと比べて命を軽く扱える環境だったという事を。

 

 

 (……じゃあ、ゲンタローを刺したのは、そいつらの誰かって事か……!)

 

 

 激情に駆られても、玄太郎のリアル情報をその場で声に出す訳にもいかず……ハルキは痛いほどに歯を噛み締めて心の中で呟く。

 安易に人殺しに酔える世界で味を占めた彼等が、遂に現実世界でもそのハードルを超えてしまって……その巻き添えを彼が食ったというなら、そんなに人を馬鹿にした話も無いではないか。

 

 

 

 「……ぁ」

 

 

 

 だが。

 そんな中、たった一人だけ。

 

 

 「……おい、どうしたんだ?」

 

 

 表情の失った顔で、掠れた声を出したグラントに、隣のハルキが不審に思って声を掛ける。

 

 

 「大丈夫かしら? あなた達二人とも、無理は禁物よ?」

 

 「…………いえ」

 

 

 そのツェリスカの声に我に帰ったグラントは、無理矢理笑顔を作る様に顔を作って、右手をひらひらさせて。

 

 

 「な、なるほどねー。全く、だから俺はゼクシードと薄塩たらこが殺されたのを知ってたから、何とかハルくん達を助けないとって思ってたんだよー」

 

 「……ん、悪かったって。重々に、反省してます……」

 

 

 そんな思いついた様なグラントの言葉に少しだけ違和感を感じながらも、ぐうの音も出ずにそう謝るハルキだった……のだが。

 

 

 

 

 「……グラントくん」

 

 

 

 

 だが。

 ツェリスカは、聞き逃さなかった。

 

 

 

 

 「……あなた、ゼクシードっていうプレイヤーが()()()()()()()()()()()()()()()()()の?」

 

 

 

 

 「――――――うっ」

 

 

 虚を突かれたような様子だったグラントの表情が、一気に強張っていく。

 確かに妙だ。薄塩たらこのリアルが死亡した件については、彼等二人は北海いくらから聞き及んでいたけれど。

 だけど、ゼクシードが仮想世界で死銃に撃たれたという情報は広まっていても、()()()()()()()()()()()()に関しては一切の情報開示がなされていない筈だ。だからこそGGOプレイヤー達はその事件に現実味を感じていなかったのであり、また死銃側もそれに対して堪忍袋の尾が切れてBoBでの犯行計画を企てたのである。

 そもそも。ハルキは思う。今のグラントは何かがおかしい。短絡的とは言ってもなんだかんだ言って彼女らのギルドのメインブレーンであり、SAOでは茅場晶彦本人と、ALO事件の際はあの大手企業たるレクトの一勢力を相手取って、互角に駆け引きをするだけの頭脳がある筈なのに。

 なのに、今のこの男の悪手は、彼にしては軽弾みすぎないか。今更彼女の失敗を掘り返す様な必要のない事を口走って、それで手の内が露呈するなんて。

 

 

 「……みんな、突然で本当に悪いんだけど。

 俺達、ちょっとだけ用事があるから、落ちても良いかな。少ししたら、また戻ってくるから」

 

 

 だからこそ、彼女はそう言って視界の端に映る時刻を見やった。病院の夕食の時間である午後六時まであと五分前後だ、どのみち一度ログアウトをせねばならないタイミングである。

 そして、その上で彼女は三人に目で合図する。……こいつの事は、ひとまず俺に任せてくれ、と。

 

 

 「……分かったっス。じゃあその間、リーダー達の武器のメンテナンスをさせてもらうっスね、出してもらえるっスか。いやマジで」

 

 

 それに気を利かせてくれたオルスがそう言い、続いて女性プレイヤー二人も頷いてくれたのを確認してから……ハルキは、隣のちびアバターにほら、と声を掛ける。

 だが。彼は、そんな声が聞こえないかのようにその場で固まって、まるでここではないどこかを見るような表情を浮かべているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一度GGOからログアウトした春花は、看護師がやって来るギリギリ寸前にベッドから抜け出す事に成功して、ひとまずホッとすることになった。

 そして、直ぐに配膳された夕食を、しかしやはり様子がおかしくあまり喉を通さない玄太郎にあーん介助してやりながらなんとか完食させる。シャキッとしろ落武者男、情けないぞ。

 怒涛の勢いでハルくんのヒロイン素質が明らかになっている最近である。まあ、元々この娘は少女としては非の打ち所がない程に器量がよく、これくらいは当たり前にやれる女の子なのだ。

 普段の言動がマジでヒロインしてないだけで。思い出せ、コイツはあの黒光りしたアイツをナチュラルに踏めるんだぞ。

 

 

 

 そして、半時間が過ぎた!

 その間、特に何もなかった……。

 

 

 

 (……あれ?)

 

 

 「さて。これで後は寝るだけだな。GGOに戻ろっか」

 

 

 そんな玄太郎の密かな戸惑いにも関わらず春花はそう言って、少し躊躇いながら彼の寝るベッドの裾をトントンと叩く。恐らく自分が入れる分だけベッドを開けて欲しいのだろうけど、知ってる? 別に椅子に座っててもアミュスフィアでログインできんだよ?

 ……まあ、だからといって彼女を冬の夜の寒気に当てて椅子でダイブさせる訳にもいかないので、どのみち玄太郎に選択肢はなく、ベッドの左に身体をずらして隙間を作ってあげる。すると数秒と経たないうちに布団が擦れる音がして、彼女が隣で布団を被ったのが見ずとも分かるのだった。

 

 

 「……えっと」

 

 

 当たり前だけども、とてもこの状況を楽しむ余裕なんぞ玄太郎にはない。

 春花にはただでさえ阿修羅の事情を黙っていたというのに、加えて()()をも打ち明けていなかったという事で、ちょっと後ろめたいし……それによる彼女の機嫌もイマイチよく分からない。でもこうして隣についていてくれるのだから、少なくとも拒絶する程ではないらしいけど。

 それにしても、肝心の話について隣のその相棒は、何も尋ねてこないのである。

 

 

 「……聞かないの?」

 

 

 しばしの沈黙。その間に必死に考えた短髪男は、頭を上に向けたまま一言だけ聞いてみる。すると、まるでいつものトーンのまま、身体の触れない距離で横にいる春花が答えた。

 

 

 「言いたくない事を、問い詰めたりはしないよ。……まあ、その時はツェリスカさん達への言い訳を考えないとな」

 

 

 ……鈴風春花は、良い意味で「待てない」人間である。

 もちろん行列とかを待つとかその程度なら幾らでも出来るけど、何か大事な事が起きた時にどこかで誰かをじっと信じて待つくらいなら、自分から打って出て情報を掴み取る性分の持ち主なのだ。それ故に彼女はどんなに献身的であろうとも女性的になったとしても、結局はヒロインになれない運命である。

 だが、だからといって自分の力ではどうにもならないものがある事も、春花はよく理解している。今回の事だってそうだ、その気になれば隣の玄太郎を問い詰める事だって出来るのだろうけど……それをしてしまうとかえって彼の思惑を傷つけてしまいかねない事を、そして他ならぬ彼自身が今の状況になってしまった事を後悔していることを、既に彼女は見抜いているのだ。

 だとしたら。掴み取る事が良い方向にいかないのなら、その時点できれいさっぱり諦める。受動的な人間ではなくとも思いやりのある彼女はそういう引き際を理解できる人間でもあり。

 ……そういう関わり方でも、玄太郎がしっかりと応えてくれることを知っているのだから、したたかな女子なのである。

 

 

 「……ハルくんは、すごいねぇ」

 

 

 つい前の明け方にも感じた事だったが。SAOの時は無骨も良いところだった筈の彼女は、しかしこの一年間で驚くほど現代社会に順応して、人間としても成長している。あの幼い頃に時間を止めてしまってから、前向きに時を動かすのに随分と苦労している自分とは大違いである。

 だけどそんな人の良い春花が「諦める」事で、その時間を自分に合わせようと止めてしまっているのなら、今度は玄太郎が時間を動かすべきなのだ。

 だって、諦めることは出来ても、それによって着実に、彼女の心に負担はかかっている筈だから。

 

 

 「ねえ」

 

 

 もちろん、先程の件について説明をせねばならない。

 だけどその前に、彼女には言ってあげなければならない言葉がある筈だ。

 一年間、彼女が行ってきた行動に、たった一言でも応えてあげられる、そんな言葉を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……ちゃんと、俺()君のこと、好きだからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぴくりと、隣の身体が震える。

 

 

 「いつも、ありがとね。俺はずっと、ちゃんとハルくんが、好きだったんだよ」

 

 

 勇気を持って、春花の方に身体を傾けてみる。

 ―――今度は彼女が布団を被って、顔を隠す番だった。

 

 

 「だから、君には伝えたくなかった。……ちょっと前の、『イマジェネレイター・ウイルス』の件、覚えてる?」

 

 

 布団の中から、こくり、と頷く様子が伺える。

 イマジェネレイター。アミュスフィア専用の情報伝達用メールソフトであり、それをインストールしているだけであらゆる仮想世界を介してプレイヤー間で情報交換が出来るという優れモノだ。

 ……だが、やがてそのソフトにセキュリティホールが発見され、それを利用したウイルスメールが流行する騒ぎがつい先日起こったのである。仮想世界にダイブしたプレイヤーに強制的にプレビューされ、眼前にショッキングな映像や音声がぶちまけられるという、こざかしい事極まりない騒ぎだったのだが。

 

 

 「あの時にね。俺のメールボックスに、一件あて先不明のメールが届いたんだ。

 件名は、『阿修羅様に 殺戮ショウへの招待状』」

 

 

 隣の布団の動きが、ぴたりと止んだ。

 

 

 「流石の俺もびっくりして。とにかく、そのままにしてたらマソップにバレるから……内容のプリント申請だけして、メールを開かずに破棄したんだよ。

 それで、印刷した紙を読んだ。近いうちに有名なVRMMOプレイヤーを殺すって、それが宴の始まりだって書いてあって。

 でも……その時の俺は、取り敢えずイタズラの可能性を捨てきれないって思ったんだよね。『阿修羅』って名前自体は、SAOベータテスターかそのコミュニティサイトを見た人間ならみんな知ってるだろうし、もしかしたら俺以外の人間にもこういうメールが送られてるのかもって。

 ……よく考えたら、強制的にプレビューされない時点でウイルスメールじゃないって気付けたようなものだったんだけど。正直、『阿修羅』って言われて、俺も正気じゃなかったんだ。何かの間違いだって、思いたかった。

 だけど、そしたらその少し後に……丁度その事を何とか忘れ始めた頃に、()()()()()()()()()()

 

 

 ああ、何て事だ。春花は布団を被ったまま思う。どうやら、事態は自分が考えていたよりも早く始まっていて、考えていたよりも深刻なものだったのだ。だというのに、何も知らないで、安易に危険に飛び込んで。

 

 

 「それで、俺、みんなに阿修羅の事、知られたくなくて。……実はユイちゃんにそれとなく相談してみたりもして。当時は彼女もそんな可能性は……仮想の銃弾がリアルの人間を殺す可能性はないって澄まし顔で言ってたから、大丈夫って思っちゃって。

 だけど、今ならわかる。あれは、()()()()()()()()()()()()()()()だったんだ」

 

 「……ラフコフ、から……?」

 

 

 脈絡のないその話の飛びように当惑して、思わず布団から顔を出す春花。

 勿論それだけでラフコフが送ったものだとは断定できないだろう……とはいえ、死銃がラフコフのメンバーであった事は先程語られたばかりで、実際の事件とのマッチを考えるとその可能性は極めて高いのだが。

 だとしても、お前は一体何をそんなに恐れているんだ。春花は思う。だってもう、()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 「……ユイちゃんに相談した時、メールの送り主を逆探知してもらったんだけど……サーバーの中継点から先が辿れなかったって。

 マソップと同等の性能の彼女が探れない発信源って言ったら、まず()()()()()()()()

 

 「……?」

 

 

 その時、何か、何かのピースがはめ込まれていくような、そんな感覚を春花の心が覚え始めていた。

 何か、重ね合わせるととてつもなく恐ろしい事が見えてくるような、そんな。

 

 

 「あと、さっきシノンちゃんが言ってた、キリトに対しての死銃の取り調べ中の言葉。

 『これが終わりじゃない。終わらせる力は、お前にはない。すぐにお前も、それに気付かされる。()()()()()()()()()』。

 ……そして、さっきのメールの件名に書かれた、『殺戮()()()』って文言」

 

 

 重なる、その決め台詞。

 それは果たして、()()()()()()()()()()として使われた言葉だっただろうか。ラフコフの幹部如きの人間が、安易に使っていい言葉だっただろうか。

 

 

 「……あと、これは俺の話なんだけど。

 刺された時、死銃の一人から聞いたんだ。ラフコフの目標は……キリト、あいつを仲間にした上で、俺を殺す事だったって。

 『阿修羅』の話が、あのSAO内じゃPoHがやったことにされてて、そんな自分がやってない功績で恐れられているのが我慢なんなかったアイツが……『阿修羅』を殺す事でそのイメージを払拭させたかったって」

 

 

 そのあまりに救われない現実に、思わず玄太郎の手を握った春花だったが。

 

 

 

 

 「……待ってくれ」

 

 

 

 

 そこで、彼女のピースは全て、収まるべきところに収まったのだった。

 

 

 

 

 「ラフコフは阿修羅を狙ってた。解散後にPoHはお前を見つけた。

 それからSAOがキリトの手でクリアされて、ラフコフの残党が死銃事件を引き起こして、でも『これが終わりじゃない』」

 

 

 頷く玄太郎。

 

 

 「それと同時期に海外からプレイヤーが日本に参入して、以前お前に送られてきたそのメールも、海外からのものだった。

 ……死銃事件とそれを結びつける言葉は」

 

 

 「()()()()()()()()()

 

 

 

 

 ……そう。

 初めから死銃事件とは別に、もう一つの思惑が絡んでいたのではないか。死銃事件と明確なリンクがあったかは分からない、あるいはそれを利用する形で絡めてきたのかもしれないが。

 

 

 でも、少なくとも。

 もう一つの事件があるとすれば、その黒幕は、つまり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……PoH本人が、裏で糸を引いている可能性が、高いんだよ。

 あのSAO最悪の、レッドプレイヤーが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「――――――そっ、か」

 

 

 すっかり蒼白になって、それでも何とか頷いた春花を、玄太郎はそっと引き寄せた。

 いくらヘタレな彼でも、そうしてあげないといけない気がしたのだ。何せあの男は彼女を麻痺毒で硬直させたうえ、首筋にナイフを突きつけてラフコフの慰み者にしようとした相手だ。その記憶は当然彼女の中でも忘れられずに残ってしまっている筈なのだ。

 

 

 「……だから、やっぱりオルス氏達が言ってた件も、只事じゃ済まない気がする。PoHが外人なのかとかは良く知らないけど、それこそオルス氏の件があるから無いとは言い切れない」

 

 

 当時、あの男に春花はハルキとして、はじまりの街にて引導を渡しはしたが、それで全て吹っ切る事が出来る訳ではない。直後にはへたり込んでしまい、その夜には感極まって思わずグラントの胸で泣いてしまうほどには、彼女は人並みに傷つく女の子なのだ。

 

 

 「……俺は、行かなきゃいけないんだよね。ちょっとハードだけど、でも『阿修羅』に決着をつけるには、あいつから突きつけられた挑戦状に、向き合わないとだめな気がするから。

 でも君は無理に行く必要はない。もう君には、あいつとの因縁はないだろ。だから、いやだって言ってくれればいつでも、この話からは降りる事が出来るんだよ。

 俺は、ちゃんと君が好きだ。だから、もうあいつの前に立って欲しくはない。あんな奴と戦って欲しくない、()()()

 

 

 だけど。

 それを分かった上で。全てを理解した上で、彼は恋人として、最低の台詞を吐くのだった。

 

 

 

 

 「だけどその上で、俺と一緒に、戦って欲しい。

 酷い頼みなのは分かってる。けど、俺には、ずっと君しかいなかったから。

 絶対に、絶対にハルくんの事は守り通して見せるから。だから」

 

 

 

 

 ―――それは、彼が決して()()()言うまいとしてきた言葉。

 「阿修羅」を拭いきれていない自分が、再び言う資格はないと思っていた言葉。

 相棒としてではなく、恋人として彼女を頼る言葉。

 あのアインクラッドを見下ろす夜空でかわした告白と、同じ言葉。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「君に、隣に居続けて欲しい。

 俺が本気で、ちゃんと恋をしてる、君に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「だったら」

 

 

 胸の中から聞こえる恋人の声は、か細くて。

 

 

 「だったら、キスして」

 

 

 素直で、女の子としてあまりに等身大なものだった。

 

 

 「俺の事が好きなら、ちゃんと証明してくれよ」

 

 

 今の彼女の頭の中は、あまりに情報量が多すぎて、上手く回っていないだろう。心細くて、不安で、よく分からなくて。怖い筈だ。

 それを、立ち向かう人間だからとか、待てない女だからとか、そんなふざけた理由で放っておいて良い訳がないのだ。ただでさえ一年間肝心なところで放ったらかしにしてきた彼女の気持ちに、ここで応えなければ男でも、恋人でも……ましてや相棒ですらない。

 

 

 「……顔を上げて、ハルくん」

 

 

 ゆっくりと彼の方へ向けられたその表情には、もう凛々しさなんて欠片にも残っていない。意外と泣き虫であるというのに必死に涙を堪えて、顔を真っ赤にして怒ったようにこちらを睨む彼女は、それまでの積もらせていたものが決壊したかのようにブルブルと震えていた。

 

 

 「お、おれが、おまえに、どれだけ」

 

 「うん」

 

 「どれだけ、みてほしくて」

 

 「知ってる」

 

 「どれだけ……もっと、すきになってほしくて」

 

 「ずっと、見てきたよ」

 

 「しんじらんないよ、ばか」

 

 

 ―――こういう時、彼女は自分を取り繕うのが苦手だ。

 その酷い顔のまま、右腕で玄太郎の胸をぼすぼすと叩く。

 

 

 「ばか……げんたろーの、ばかやろう……!!」

 

 

 だから。精一杯強がっている好きな人に、これ以上恥ずかしい思いをさせないために。

 玄太郎は彼女の腕ごと抱き込んで、その唇に自分のそれを重ねたのだった。

 

 

 

 

 (おい、お前さん。知ってるかい)

 

 

 

 

 初めてのキスの味は、しょっぱかった。

 それが彼女の流す涙のせいだと気付く前に、玄太郎はそう、心の中で「阿修羅」に語りかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (()を本気にさせたら、お前なんてメじゃないんだからな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「なんかリーダー達がリア充の雰囲気引っ提げて帰ってきたんスけどぶっ殺していいスか。いやマジで

 

 「ちょっと待てそんな風に見えんの俺達」

 

 「あらあら~自覚ないのかしら~若さって良いわね~……?

 

 「ちょ、ちょツェリスカさん怖いんすけど」

 

 「随分能天気ね、脳天に銃弾ブチ込んであげようかしら?

 

 「いやんシノンちゃんまじ氷の女神」

 

 

 まあそうなるよね、分かるよ。こっちもこの二人ブチ殺してやりたい。困ったグラントが必死にハルくんに助けを求めるが、どうやら彼女の方はそれどころじゃないらしく露骨に目を逸らされてしまう。というか玄太郎の事情があったとはいえ、もう恋人歴一年近いのにお前らピュアすぎだろ、逆に怖いわ。キリアスを見習え。

 

 

 「それで~? グラントくんは調子、戻ったのかしら~?」

 

 「ええ、まあ、バッチリ。とゆーか最初からバッチリだったんですけどね! うむ」

 

 「なんかこの男元気になったらなったでむかつくわね」

 

 

 随分長い時間が掛かりましたが、そろそろグラントも完全復活の時期でございます。その代わりにちょっと今ハルキの方が不安定だけど、そっちは落ち着けばまあ問題ないでしょう。

 

 

 「そういう訳で、向こうで纏めてきた俺の仮説を、今からご拝聴くださいな!」

 

 

 二人を待っていたツェリスカとオルス、そしてシノンの前にしゃしゃり出て、胸を張って声を張り上げる。ちびアバターだけど。

 ……そうして、一瞬だけ、ちらりとこちらを見たハルキと目を合わせて、軽く笑いかけると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「こっから、反撃開始だぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ショウ・タイムは、着々と近づいている。

 

 

 

 

 

 

 

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