マソップ「魔改造ッ!!」
マソップ「魔改造とは、単なる改造ではないッ!!
それは人の愛と夢とロマンと若干の無謀さが籠った、まさに作り手の努力と才能の賜物、血と涙の結晶そのものなのであるッ!!」
マソップ「※二コニコ大百科より一部引用ッ!!」
「あーあ、今日もつまんなかったわー」
SBCグロッケン近郊、荒野エリア。現実世界と時刻設定を同期させているGGOでは、既にその空は星空も見えない真っ黒な雲に覆われていた。
今日もフィールドにてモンスターと敵対プレイヤーと銃撃戦を繰り広げ、その全てに勝利した筈の彼女だったが……その表情は虚ろだ。
「んもう、殺し足りないのかしら。殺し成分が足りないんだわー」
「……おい、ピト」
ピトフーイと、彼女の傍付きであるエムである。そして二人の周りには当時と変わらず、引き続き雇っていた護衛用の覆面プレイヤーが四人とも揃っている。
そして先程、所用との事で一時離脱していた五人目のプレイヤーが軍用大型ジープで迎えに来てくれたので、ひと狩り終えた六人はその後ろの荷台に乗ってくつろいでいるのだ。
「あんな事をやって、リアルでもようやく落ち着いてきたんだ。今はこれ以上、刺激の強い事をするべきではないと思うのだが」
「……るっさいわねぇ」
あんな事。
言わずもがな。ハルキと北海いくらを追い詰めて、二人を助けに来たグラントに返り討ちにされたあの出来事の事である。強制切断されてリアルに引き戻された落武者くんと違ってあの場に取り残されたピトフーイは、ショートしてしまった思考に意識がついて行かずに……全滅した覆面隊とエムが急いで助けに向かうまで、そのまま身動き一つとれない状況にまで陥っていたのである。そこでツェリスカに遭遇しなかったあたり、彼女の悪運がいかに強いかを体現していると言えるだろう。
「やっとあの『ミニマム』に出会えたのよ。
あいつはずっと私の、私だけのターゲットだったんだから、この機を逃す訳にはいかないのよ」
あれ以来。エムは一人思う。あれ以来、ピトは本来の陽気さを少し失ってしまったような気がする。
どうやらあのちびアバターのプレイヤーが、彼女がSAOのベータテスト以来探し続けていた「ミニマム」なるプレイヤーと同一人物だったとの事で、それを逃がしてしまった為にピトはリアルでもかなり取り乱してしまい……今も、そのプレイヤーがまだGGO内にいるのではないかと、遭遇するプレイヤーを片っ端から殺し回るという暴挙に出ているのだ。
だが、彼からすればピトとは真逆の意見だった。いくらそっちの趣味があるとは言っても、もうあんなプレイヤーとは二度とごめんだ。前にも感じたようにピトも同じような戦い方をするが、あの男のプレイスタイルは彼女の様な残酷だとか苛烈だとかそういう次元ではない。
(
顔面を破裂させられたら、あるいは身体ごと内側から爆破されられたらプレイヤーはステータスに関係なく死亡するだろうし、また腕や足を切断されたら動きが制限され、目を潰されたら視界を失う。
身体を壊し、手段を封じ、隙あらば一瞬で、でなければとことん利用して潰す。その様な徹底的に効率的なやり口があらゆる攻撃に含有されており、それが敵に対してリアルな命の危機を感じさせるのだ。エムもプレイヤーを投げつけられて動きを一瞬封じられ、身体を切断されて足と左手を失って、打つ手がなくなって死まで追いやられたのだ。
あんな手口は、少なくとも普通にゲームをやっている人間のものではない。まるで
「……ピトは」
だが。エムの相棒であり、想い人であり、主人である彼女は、そんなおかしな存在に心を奪われてしまっている。あのプレイヤーにSAO
それがやるせなくて、エムは言うのだった。
「ピトは、あんなふうになりたいのか」
―――バッカじゃないの。そう一蹴しようとして、ピトフーイは言葉に詰まった。
異国の地で、音楽家の両親の家庭に産まれた彼女は、しかしその幼少期をベビーシッター一人の下で過ごし、その間何度も呼吸器系の病気によって死にかけていた。それでも父母は駆け付けてくれず一人苦しむ中で、彼女はある種の自死願望を心に燻らせる事となったのだ。
結果として持病はローティーンの頃に完治し、その後今度は日本の祖父母の下に引き取られて「普通」の高校生活を晴れて過ごすようになったのだが、それでも胸の中の「死」に対する探究心は消えず。
……そして、その良くしてくれた祖父母を高校三年生で連続で看取った時、彼女の中にマグマのように煮えたぎる、「死への憧れ」は確固たるものになったのである。
(あは、私ったら。
いつの間に……
荒野エリアに存在する、ほぼ崩れ去る直前の様にボロボロな高速道路へのインターチェンジに乗り上げて、数分。既にジープはグロッケン内に、つまり圏内に差し掛かろうとしている。
―――だというのに、そのポニーテールの女戦士は、両腰のXDMを素早く引き抜くと……左右にいる覆面プレイヤー二人に突き付けたのである。
「ねぇみんな、どーゆーつもりかしら?」
エムも状況を察し、右手にHK45、左手にサバイバルナイフを逆手に持って……ピトフーイに合わせて荷台の中央で彼女と背中合わせになる。
何故、そんな事をしているかと言えば。
「申し訳ないが、契約はここで解消だ」
……そう告げるピトフーイの目の前の覆面プレイヤーを始め、その場にいた四人全員が、突如として二人に銃口を向けていたからである。
「お前たち二人には、
「……実験台? あれま、私達なんか改造でもされちゃうのー?」
「違う。
当然ながら二人とも突然離反した彼等が何を言っているのか要領を得ず、その顔をしかめた。ここというのはどこの事だろうか、ジープに何かしらの秘密があるのか、それとも高速道路に何かしらの仕掛け……例えば隠しダンジョンへの入り口があって、その情報の独占の為に。
いや、違う。エムは何も言わずに考える。流石のGGOもそんな荒唐無稽な仕組みが実装されるほど複雑なゲームではない。彼等が言っているのは、もっと大きなことだ。
……つまり、ここ
「ここは圏内だ。お前たちの銃弾は効かない」
「……試してみるか?」
思考の末、エムは気を強く持ってそう口を開くが、即座に返された言葉に嫌な予感を強くする。ここは安全だ、安全な筈なのに、
そうして、振り向かずとも交わしたピトフーイとの意思疎通を組んで、彼が拳銃のトリガーに指を掛けた……その瞬間。
瞬間、ジープは急にブレーキをかけ、速度を一気に落とし始めたのだ。その慣性によって荷台にいた六人は揃って体勢を崩して道路に投げ出されそうになったが、ピトフーイは持ち前の高STRでエムを支えながら、何とかその場で踏みとどまって。
「―――ひゅう」
そして、見たのである。
目の前の覆面プレイヤー一人が、その顔面にライトエフェクトの風穴を開けて、倒れたのを。
「第一目標、クリア。敵もこちらを感知。
続けての狙撃は不可能よ、あとは頼んだわ」
グロッケンの都市部に差し掛かる高速道路。
傍に隣接する高層ビルの窓から、その道路を走るジープの荷台のプレイヤーを射抜くという神業級の狙撃をしてのけたシノンは、通信で連絡を入れた。
すると、そのビルの低層に潜んでいた「彼女」が、鋭い声を返す。
『―――了解! ここからは任せとけ!!』
直後、ズガン、とそのスナイパーの足元から衝撃が聞こえたかと思うと、まるで爆風で吹っ飛ぶかのように窓から高速道路の目標地点まで吹っ飛んでいくプレイヤーが見えた。その右腰にはシノンの相棒こと「ウルティマラティオ・へカートⅡ」と同じ(形状としてはそれよりもっと長い)対物ライフルが両腕でがっちりと固定されている。
言うまでもあるまい、ハルキである。
「……呆れた。あいつの知り合いってのも納得だわ」
―――シノンがそう独り言ちるその時、シモノフPTRS1941の反動を利用してブーストジャンプを敢行したその剣客少女は、ピトフーイを凌ぐ超STRでその衝撃を殺し切った後にライフルを背中に仕舞って、直ぐに腰のホルスターに下げているSPAS12を空中で取り出しながら……着地の瞬間に目の前にいた覆面プレイヤー一人をライダーキックで蹴り飛ばす。
「ハルちゃん!? どうしてここに……!?」
「話は後だ! 今は誰も殺さずに無力化する事に集中してくれ!」
予想外の彼女の乱入に我を忘れて驚くピトフーイだったが、ハルキはそれに構わずに一言言い渡すと、矢継ぎ早に次の覆面プレイヤーに突撃する。そろそろジープから滑落したダメージと衝撃が収まって、彼等も反撃の一手を打ってくる頃だろうからだ。
事実、彼女の走る先にいる男は既に手にしたハンドガンの装填を終えて、こちらにバレットラインを表示させつつあったのだ。これではハルキが間合いに入ってSPAS12を振る前に、銃弾が彼女の身体を貫いてしまう。
(……出来る)
だが。
彼女は昨日、録画映像で見たのだ。シノンではない、もう一人の第三回GGO優勝者であるアイツが、光剣という近接武器を使って、
あの本家光剣マスターはアサルトライフルの小口径高速弾にも対応していたが、流石のハルキもそんな器用な芸当は出来ないだろう。それは彼女自身もよく分かっている。
でも。ハンドガンの弾速で、しかもたった一発なら。そう信じてショットガンを八相の構えで以て両手で持ち、彼女は死ぬかもしれない危険すぎる賭けに乗るべく……自分を奮い立たせた。
(出来る、出来るできるっ!!)
出来ねーよ! と思ったそこのキミ。確かにそうなのだ、よく考えたら今のハルくんの装備はSPAS12である、銃そのもので銃弾を切断する事なんて、出来る筈が―――。
「……っな!?」
―――出来たのである。
その声は、少し横のジープのホイールを背にして隠れていた、エムであった。無理もない、本当に出来てしまったのだから。
だが。それ以上に、エムが驚いたのはそのSPAS12そのものの形状だった。それはつい先日、彼等がガンショップで購入した、あのデフォルトのままではなく。
「……フォトン、ソード……だと……!?」
そう。
ショットガンのチューブマガジン部分、筒が二つ縦に並ぶようなその外見の、下の筒のところが取り除かれており。
―――そこに、トリガーの方から銃口側に向かって、フォトンソードの青白い光刃が取り付けられていたのである。
―――グラントとハルキが、気恥ずかしさにお互いまともに目も合わせる事も出来ないままやって来て、何故かその落武者くん一人がリア充総スカンを食らった、その数分後のこと。
『リーダー、ハルキ先輩』
……そのふわふわしたムードを思い切りブチ壊したのは、二人の銃器のメンテナンスを任されていたオルスだった。
『頭大丈夫っスか。いやマジで。
銃火器で殴りに行くって、マジで訳が分かんないんスけど。コイツ等、耐久値の減りが半端ねぇじゃないっスか。いやマジで』
よぉく言ったオルス!! 握手だ、君は良い奴である。
ようやくまともな事をこのおバカ二人に言ってくれるプレイヤーが出てきてくれたよ、うん。そもそも普通に考えてガンゲーに物理で行くって自殺行為だぞ、ナイファーとかならともかく。
それに、銃身で何かを殴ったりしたら、中の構造に問題が生じたり暴発したりするから、何があってもそんな酷いことしちゃいけないってもんだ。恥を知れノーキン娘め。
『まあまあオルス氏ー、ハルくんはそういうところまだまだ疎いから、許してやってよ』
『いや、一番はリーダーアンタっスよ。いやマジで。
VP70の三点バースト用のストックを、身体の外側に出して使って、さらにそれで銃弾を弾くとかマジで銃が可哀想だし失礼だしあの世に行っても泣き叫んで謝ってほしいっスよこの虐待男。いやマジで』
『虐待っ……!?』
オーバーキルである。だけどこれは弁解の余地もない。そもそも一般男性の体格とか手の大きさを考えたら、ストックが外側になるようにグリップを握るって事自体が構造的に無理に決まってんのである。良い子の皆は絶対に、絶対にこんなクソ男の真似しちゃダメだからね。
『だ、だってぇどう考えたってGGOにゃバックラーとかないしそもそも銃を撃ちたくなかったんだぴょん……』
『そのぴょんってのやめろ落武者男』
『ハルくん怖っ!?』
数分前に思いっきりデレた反動でめっちゃツンになっているハルくんからの、八つ当たりのようなフレンドリーファイアを受けて……フルボッコで涙目になるグラントなのであった。一応言うけどお前さんも十分ダメな子なんだぞハルくん。
『……まったく、しょうがないっスねぇ。いやマジで』
だけど。それだけ怒っておいて放りっぱなしというほど、オルスもヒドいやつではなかったらしい。
『……じゃあまず、ハルキ先輩にはこれっス。いやマジで』
実はオルスとツェリスカは運営のスタッフでありながら、GGOには通常のプレイヤーと変わらない、一般のアカウントでログインしている。これにはザスカーそのもののGGOの管理体制の話が関わってくるのだが、それはまた後で。
という訳で現在普通にプレイヤーしているオルスは、そのアバターのロールとしてはいわゆる「エンジニア」であった。つまり、銃火器を持ってドンパチやるよりも(本人曰く人並みには出来るらしいけど)、アイテムや銃器を改造してアップグレードする方を専門としているそうで、それ系統のスキルは本場のアメリカサーバーでもトップクラスに鍛えていたらしい。まあ、グラント達がALOやってるときもGGOやってたんだろうからね。
『……これは……?』
そんな彼がハルくんに渡したそれは、確かに元々は彼女がオルスに託したSPAS12だったけれど、かなりその重みが軽減されており、片手でも扱えそうだ。そう、よく見れば預ける前にはあったはずのマガジンチューブがごっそりと失われており、その代わりにグリップの手前に拳大位の筒が取り付けられているではないか。
『SPAS12、ハルキ先輩専用モデルっスね。そこのトリガーの横のボタンを押せば、バレルの下にフォトンソードが出てくる筈っスよね? いやマジで。
マガジンの代わりにそれを取り付ける事で、SPAS12本来の速射性能を維持したまま、
ヤベェ事を言いだしたぞこの外人。
つまりSPAS12を実弾銃から光学銃に、根本から変えちまったってことになるんだけど。マジで言ってる? いやマジで。
『だから、光学防護フィールドでダメージを減らされはするんスけど、普通の光学銃と違って「光剣由来の高出力」だから、前と殆ど威力差は感じない筈っスよ、いやマジで。
それに光剣起動時は「リロードが一切不要」、実弾銃には必要だったチューブマガジンとショットガンシェルの分の「重量大幅削減」にも成功、だから取り付けた光剣のバッテリーが切れるまでは無制限に使用可能っていう、まさに万能の一品って訳っスね。いやマジで。
……その代わり、エネルギーを銃撃にも回している分、燃費が悪くて普通の光剣より使用時間が短くなっちゃってる筈なんスけど。いやマジで』
『おー……なんだかよく分かんないけど、すごそうだな』
いや血涙流して喜んだ方が良いと思うよハルくん。それ多分ヤバイ奴だ、日本サーバーのプレイヤーショップじゃあまず手に入らない超レアチューンだぞ。
これを使えばハルくんは、至近距離では銃身の下についたフォトンソードで斬り結び、中距離からは銃本体から放つ事の出来る光学散弾で牽制するという理想の近接スタイルを確立出来るのだ。加えてリロードや銃器変更の為に時間と思考を割く必要もなく、しかも前より段違いに軽くなっているので常に最高のパフォーマンスを維持できる、という破格のボーナス付きである。リロード不要ってヤバいよね。
『オルス氏マジっすか、いやマジで。
もしかして俺達、トンデモナイのを仲間にしちゃったんじゃ……』
流石にグラントはその余りのヤバさに気が付いているらしい、横からその新生武器を覗き込んで……距離が近くなって慌てて俯いてしまうハルキにちょっとショボンとする。こりゃ乙女モードかなり重症だぞ、どうしちまったんだよハルくん、ちょっとアホ毛出てるぞ。
『……まあそういう訳っスからリア充死すべし、最後にハルキ先輩にはこの銃の名前を決めて欲しいんスよリア充死すべし。いやマジで。
今回のはオレも会心の出来だったんでリア充死すべし、せっかくだから名前を付けて今後のブランドの第一作にしようかなって思ってるんスよねぇリア充死すべし。いやマジで』
見ればかなり満足げなオルスである。どうやら彼はこの中では誰よりも銃に対する愛情が深いようだ、その気持ちはSAO内で何度も失う事になりながらも、人一倍自分の愛剣に愛情を捧げてきたハルキにもよく分かるもので。
そうだよな。今までこの銃にはひどい仕打ちをしてきちゃったみたいだし……名前を付けてあげて、しっかり自分が愛用しているって事を教えてあげないとな。
そう思ったハルくんは、一旦気分を落ち着かせて、深呼吸をして。
手にする青い輝きを持つ愛銃に、名付けるのだった。
『……「
その花言葉は、「辛抱強い愛情」。
それを知ってか知らずか、今しがた付けた名前で呼びかけながら、優しい瞳でSAPS12を撫でるハルキの事を……グラントは少し照れながらも暖かく見守っていたそう。
そしてそんな二人をオルスは殺意の篭った目で見守っていたとか何とか。
「斬れ……たぁっ!!」
さて。そんな与太話に文字数を割いている場合ではない。
時を戻してSBCグロッケンの高速道路上。かくして、敵の拳銃から放たれた銃弾を、ハルキは取り付けられたSPAS12の光刃によって真っ二つに切り裂いたのだった。
「な……なんだと……!?」
相手が驚くのを待っている義理もない。そのSAPS12ハルキスペシャルこと「紫陽花」は近接武器としては言わば片刃の剣であり、一度振り切った後に反対方向に斬るには鋒をひっくり返さないといけない。
……故に、今回その余裕がないと判断したハルキは、光剣のヒルトに左手を添えて銃身を固定すると、すぐに敵の腹部に向けて引き金を絞った。
「ぐぅ……っ」
光刃と同じ色の青い光学散弾が、まるで紫陽花の花のように放射状に放たれる。その花弁は敵が身体の前に構えていた拳銃を焼き、その両腕に突き刺さって焦がし……そして敵の胴を見事に撃ち抜いたのである。
「ちょ、ちょっとエム、何よアレ!
なんでニュービーのハルちゃんが、あんなユニーク武器を持ってんのよ!!」
「お……俺に聞くな」
先程ハルキが蹴り飛ばしたかつての仲間にXDMを突き付けてそう息巻くピトフーイに応じながら、しかしエムは気が付いていた。射撃の際に銃身の下のフォトンソードが、少し引っ込んだのを。
まさか、光剣の出力で散弾を発射しているのか。それだけでも、彼女のその武器が如何に高度な改造を受けたのかを知るには、十分な動作だったのである。
「……残るは、あと一人か!?」
そして。当の彼女はそんな二人の思惑には気が付かず……散弾を受けて瀕死状態の目の前の敵に、事前にツェリスカから渡されていた運営スタッフ専用装備のスタン弾を撃ち込むと、最後の一人の覆面プレイヤーに向かって振り返ろうとして。
「……敵を殺すにはまず味方からって、日本じゃ言うそうっスよ。いやマジで」
「それはどう考えても違うと思うぞオルス」
―――ジープの運転席から降りた五人目の覆面プレイヤーことオルスが、ハルキと同じスタン弾で同僚を無力化するのだった。
「……それで? ハルちゃん、どういうつもり?」
戦闘は終わった。あとに残されたのはハルキとオルス、そしてピトフーイとエムの二人組であり……あとは四人の覆面プレイヤーが全員、助けに来たハルキ達の手によってスタン状態のままその場で横たわる事になっていた。何でもこの状態異常は特別なもので、元は危険行動や迷惑行為を働くプレイヤーを運営側が一時拘束する為のものであり、その継続時間がかなり長めに設定されているとか。
なので、先程のシノンの狙撃で使われた弾薬も、また然りである。
「せっかくコイツら殺してやろうと思ったのに。どうしてトドメを刺さないのよー?」
「……刺す必要がないからな。今このグロッケンで何かが起きてる事は、もう二人とも気が付いてるだろ?」
続いて、他の通行車に轢かれるような事がないように、ものも言えない四人を引き摺って高速道路の端まで連れて行く。
「ふーん。じゃ、ハルちゃん」
だが。
そこで、ピトフーイは抜け抜けと言ってのけたのである。
「
そう。
数日前、グラントに追い詰められた時も、彼女がまず宣ったのは自殺要請だった事を、ハルキは彼の口から聞き及んでいた。「あんたを殺す」ではなく、「私を殺して」なのだ。地味にエムが巻き添え食ってるけど。
それがピトフーイの本質だった。実は彼女のリアルはそこそこ有名な歌手であり、今現在も意欲的に創作活動に打ち込む精力的な一面の持ち主だ。
だけれど……彼女の中のどこかは、あの幼い日で時を止めたままなのだ。あの持病のせいで生と死の狭間で彷徨った、あの時の苦しみに囚われたままなのだ。
それはまるで、今まさに自分と別働隊として動いている、あの盾男の背負うもののようで。
「……ピトさん。あんたは、あいつに似てる」
だからこそ、ハルキには殺せなかった。例え覚悟を持って引き金を引けるようになったからと言って、今のピトフーイを死に追いやっていいとは、彼女には思えなかった。
そうしてしまえば、きっと彼女はますます自分を凍りつかせてしまうから。
「今俺はあんた達を助けた。いわばデスペナルティの損失をチャラにしてやった様なもんだろ。
……これでこの銃を買ってもらった仮は、ナシだ」
そして、その上で、思うのだ。
この人の力が必要だ。死を軽んじて暴れ回っているだけに見えて、実は誰よりも死に怯えて生き、その隣り合わせに存在する生の喜びを大切にしている、そんな彼女の力が。
「ピトさん、取引だ。
このままだと、GGOが危ない」
けたたましいエンジン音が鳴り響く。見ればオルスが再び運転席に座って、それまで使っていたジープを動かそうとしていた。
まだ作戦は終わっていない。ハルキ達の分隊が行うべきミッションは、あともう一つ存在する。
……もう、ここに留まっていられる余裕もあまり無いのだ。
「さあ、決めろよ」
再び告げられた、ハルキの声。
そして。その裏に、彼女の生への執着を、SAOでの戦士としての信念を感じ取ったピトフーイは。
「―――面白く、なってきたわねぇ!!」
以前の元気を取り戻したかのように、そう不気味に笑うのだった。
「あはっ」
※魔改造とは、対象に対して通常のセオリーではあり得ない改造を施す事であり、普段使わないような生活用品等を有用なものや必需品レベルの品として引き上げる為の改造、という意味には留まらないそうです。少なくとも今作品に於いては、定義がとても広い言葉として認識して頂ければと思います。