「しかし、ソードスキルに銃を使ってはいけないと誰が決めた?」
アスナ「そういうとこやぞ」
シノン「そういうとこやぞ」
リーファ「キリトかなーやっぱwww」
『で、次はリーダーっスね。いやマジで』
さて。三回目の回想シーンである。こんなに回想するんならフツーにやっときゃ良かったなと、ちょっと思い始めていたりする。
今度のはハルくんが自分のSPAS12に「紫陽花」と命名した直後。回想シーンの時系列的には一番後の出来事である。
『悪いっス、ハルキ先輩のは上手く出来たんスけど、流石にリーダーのVP70は耐久値の回復以外はどうしようもなかったっスよ。いやマジで。
ストックを盾にされてる銃の、どこを改造しろって言うんスか。いやマジで』
『ぴえん』
早速バッサリである。まあ、正直どこぞのキリ子さんの光剣もなかなかだったけど、あれはあれで用途としては正しい使い方だからまだ共感持てるよね。ハルくんも無理矢理ショットガンにブレードつけちゃえばギリギリセーフって算段だった訳で。
でもこいつのは本来の用途として使ってねぇからよっぽどタチが悪い。バックラーみたいな小さな盾自体が存在しないから取り付けようもないし、どうしようもないよね。
『そもそもリーダー、普通にシールドパーツをライフルに取り付けるって選択肢はなかったんスか。いやマジで』
『えー、だってそれじゃあ盾で防ぐときに銃口が敵に向いちゃうじゃん。これ買った時はなるべくこっちから攻撃はしないつもりだったし、第一扱いにくいから却下っすね。いやマジで』
『二人して「いやマジで」って言うとどっちがどっちだか分かんなくなるからやめろ』
絶賛ツンモード発動中のハルくんは置いておいて、まあ確かに百歩譲って一理はあるかもわからんというか。
意外と忘れられがちだけどこの男、もともと盾の中でも
そんなんでよく盾使い名乗ってられんな。
『そうは言われてもっスねぇ……基本的にこのゲームは銃で撃って幾らのゲームなわけっスから、そこまでシールド関連の装備は充実させてないんスよねぇ、いやマジで。
やれることと言ったら、銃そのものの素材をグレードアップして耐久値を底上げするくらいしかないっスよ、いやマジで』
『……まあ、このストックが丸っこくなっても、それはそれで不自然だしねぇ……あれ?』
だが、その時。グラントの頭の中を、一つの疑問が駆け巡った。そういやなんか、今までに盾っぽいナニカを持ったプレイヤーに出くわさなかったか?
『……あっ』
それを思い出した落武者くんはすぐに自分のストレージを操作すると、あのスタジアムでの阿修羅モード時にちゃっかり頂戴していた、アレを……グラントの身長よりもデカいアレを目の前に、ズドンと取り出したのだった。
『うわ、重っ、やっぱ持てねぇ……えー、これでどっすか?』
『な……!? リーダー、これをどこで手に入れたんスか!? いやマジで。
これ、GGO最強の材質で出来た楯っスよ!? こんなのあるのになんでそんなネタ銃使ってんスか、いやマジで』
『おい待て地が出たなこのエセガンスミスめ』
銃に愛着ある設定どこいったよオルス。隣のハルくんがドン引きしてんぞ。
そう、よく考えればこの男、エムを撃破した際にちゃっかりドロップした楯の一枚を貰っていたのである。それでピトフーイに大ダメージを与えたりと当時もそれなりに活躍してたけど、どうやらちびグラント的にはデカすぎるからか、楯としてそれを認識していなかったようである。
『とにかく、それなら今すぐオレに任せてくれっス。いやマジで。
これがあれば、
そうすれば今よりちょっと重くなるっスけど、相手の銃弾で壊れるどころか、逆に
『おー……そりゃ願ったり叶ったりだけど……いいのかな』
肝心なところで尻込みするヘタレグラントだった。
……だが、彼の気持ちも一応考えてあげて欲しい。その楯は彼が本気で人殺しを覚悟し、実行してしまった末に手に入った、言わば敵兵の遺品のようなものだ。そんな血塗られたアイテムを、しかも自身の装備の強化なんていう身勝手な理由で使ってしまっていいのか。普通なら敵から奪い取ったもの勝ちというのだろうけれど……こういう所にも、グラントと他のプレイヤーとの間に深々と存在する、認識の大きな差が現れてしまうのである。
だが、そんな時に彼に助け舟を出したのは、二人を見守っていたハルキだった。
『……お前はこの銃を、ただ人を撃ち殺すためだけに使うつもりはないんだろ』
未だにツンモードらしく顔は逸らされてしまっているが、右手でそっとグラントの左袖を掴む仕草がなんかいじらしい。だがその問題が自身の相棒にとっては深刻なものである事を分かっているが為に、色々とプライドを抑えて彼女は言うのだった。
『なるべく無駄な殺しはしない、でもゲームとしてのGGOを理解する。
……そういう、一つの証だと思えば良いんだよ。男ならクヨクヨすんな』
そもそも、この後彼等が出撃した時、このGGOは既にゲームではなくなってしまっているのだろう。もしグラントが言うようにPoHを始めとした謎勢力がグロッケンを戦場にして、その上何かを企んでいるのだとしたら、もはやそんな場所で誰かのヒットポイントが全損するという事自体がただ事ではなくなってしまう。
だからこそ、殺しの罪を知るグラントが背負う、新たな不殺の誓いとして。そして……またこの銃の世界がゲームに戻った時、いつか彼がゲームとして対人戦を楽しめるようにという、祈りとして。
『……ん、そうだよね。じゃあオルス氏、頼んだよ。
あと、ありがとね、ハルくん』
『……ふんっ』
そんな彼女の思いが伝わったのか、グラントは何度か細かく頷いて、改めてオルスにVP70を差し出すのだった。
そして、自分を鼓舞してくれたその隣の恋人にお礼を言うのだったが、やっぱりプイっとされて、ガーンとなるのだった。踊るオノマトペである。
……オルスの視界に、仲間の覆面プレイヤーからの呼び出しの通知が来たのは、その時だった。
「うーむ、四割ってとこか。初めてにしちゃ、まあ妥当な成功率だけど」
さて、回想終了。
ここはグロッケン地下迷宮型ダンジョン、秘匿エリア。またの名をザスカー日本支部、GGO担当部門オフィス。
現在グラントは、その場を既に占拠していた推定アメリカサーバー出身のプレイヤー達総勢二十人近くからの、アサルトライフルでの一斉射撃の的と化して
―――因みに、過去形である。なぜなら。
「……そんな、馬鹿なっ……!?」
……何故なら現在、圧倒的優位に立っていた筈の敵の半数以上が、その足や腕に銃弾を浴びて倒れ込んでいたからである。
回想でも言っていた通り、現在グラントのメインアームであるVP70は、オルスの手によってエムの楯と融合させたことによってGGO最強の耐久値を誇るに至っている。そしてこのゲームの仕様として、銃弾よりも硬い材質で銃撃を受ければ、その弾を跳ね返すことが可能なのである。
もうお分かりだろう。この防御技術だけは化け物な男は、放たれた銃弾を「四割」ほど、敵に向かって反射したのだ。それも相手が絶命しないように、急所を外して。
「だから言ったろー? 見た目で判断するなって」
左手に新生VP70―――素材はポリマーとGGO最強金属のハイブリッドで再構成されている―――を、そして右手に逆手に持った緑の光剣を握り、グラントは軽口を飛ばしながら……しかし内心肝を冷やす思いであった。
まああの攻撃特化のキリトが出来るんだから、防御特化の俺ならヨユー! とか思ったけど……流石に複数人相手に弾き返しまで込みで考えるのはキツいわ。うむ。
調子に乗ったおバカ男の図である。
(だけど……今は、尻込みしてる場合じゃ、ない!!)
直ぐに自分を奮い立たせて、グラントは地を蹴った。
もともとその場がシステムコンソールがある場所であり、またザスカー社員のオフィスも兼ねている事を事前にオルスとツェリスカから聞かされていたが……なるほど内部の空間は、まるでオフィスビルの一階層分以上の広さがある。壁に取り付けられたブルーのモニターの光が照らす中を一直線に突っ切ると、そこにいた敵対プレイヤー一人目の抱える銃を右手の光剣で叩き切り、そのまま流れる様に体当たりをかましてやる。
「ちッ……全員、撃て―――ッ!!」
だが自由に動けるのはそこまで。直ぐに再装填を終えた他のまだ動けるプレイヤー達が、どうやら彼等の首領らしい黒髪の男の号令で再びグラントに向かって銃を発砲する。それを今度は横に飛び込むように移動しながら、基本的には左腕のストックで弾き、そこから漏れた一部を逆手持ちで右手で握った光剣で切断する。
因みに光剣はオルスのコレクションから譲られたものだ。なんでも光剣を緑色にするユーザーというのは少ないらしく、オルスはGシリーズと呼ばれるモデルの中でも一番出来が良いとされるバージョンであるそれを、さらにレア度を上げる目的で緑色にしたのだとか。なんでだろ、青と緑と赤って言ったら、銀河の騎士的に定番のカラーなのに。
とにかく、それをグラントの体格に合う様に加工調節して譲ってくれたのいうのだからオルスも太っ腹であり。
―――そして、そうして完成した光剣の名前が、「
「ぐ……おおおー!!」
とはいえ、そんな光剣をキリトの様に自由自在に扱える程グラントは剣の心得がある訳ではない。なので逆手に持ち、VP70でやっている様に腕に刃を固定させて何とか弾を斬っているのだが……え? 右手なのにそんなきめ細かい事出来んのかって?
コイツ右利きだよ? むしろいつも左手で防御して、拳銃まで撃っちゃうコトの方がワケワカメなんだよ?
「ばっ……化け物かっ……!?」
先程の様に万全の体勢でなかった為か今度はろくに銃弾を反射できずとも、やはりダメージだけは殺し切って無傷であるグラントに……再び敵対プレイヤー達は諸々身を隠して再装填を強要される。その隙に距離を詰めてさらにもう一人、今度はVP70に込められたスタン弾で足を撃ち抜いて昏倒させる。
(……おかしい)
だが。そんなグラントの様子に、つい前に通信先のPoHから「キルオ」と呼ばれた主犯格の男は違和感を覚えていた。
手際が悪すぎるのだ。基本的にGGOでの戦闘は一瞬で勝負がつくものであり、多少の障害物等はあれど先程から完全に隙を見せてしまっているのはこちらの方である。その気になればあのちびアバターは、左手に持つ銃でもっと早くこちらに猛攻を加える事が出来るのではないか。
されど実際は、彼は初手以降は、こちらの射撃後のリロード間にのんびりと一人ずつ手に掛ける程度に留めている。向こうがニュービーで戦闘知らずだと言うなら話は別だが、あれだけ大見えを切った相手がそんな無謀な人間だろうか。まあ実際無謀なおバカさんなんだけども。
(私達に勝つ気が、ないという事か……?)
キルオは考える。今自分達は攻めあぐねている。銃撃が通用せず、だからといって肉弾戦に持ち込めば返り討ちに遭いかねない事は、
「……まさか」
そこで考えついたのだ。つまりこれは、ブラフではないか。
「総員、周囲に警戒だ!!
あの男は囮だ!! この部屋には、
「っく……!!」
想定よりも早く自分
―――そこで、彼が珍しくも、判断を誤ったことに気が付いたのだ。
「し、しまっ……!!」
今、グラントは部屋の中央に躍り出てしまった。
その瞬間、まだ戦える敵対プレイヤー達は一斉に彼を
グラントが今まで銃撃を跳ね返せていたのは、彼が壁伝いに移動していたからである。それによって攻撃は自身の前方にのみ集中するからだ。
だけど流石の彼も、全方位からフルオート射撃を食らっては防ぎようがない。つまりこの時点で、彼の無敵性は剥がされてしまった様なものだ。
……起きてしまったことは仕方がない。次に考えるべきは、
「ぐうっ……ぁああっ!!」
一瞬の思考の末、彼は向かって右からの銃弾を防ぐ事に決めて、その場で横を向きながらVP70のストックと光剣を構える。直後に降ってきたバレットラインから被弾するものを判断して、最小限の動きでそれらを弾いていくが。
だが直後に、彼の背中に弾ける様な衝撃が走る。何度も言う様に彼はちびアバターであり、ちびであるが故に銃弾が当たりにくいと言う優位性を持つ代わりに、銃弾そのものの大きさは一定である事から被弾した際の反動は通常のアバターより強めなのだ。
……よって、致命レベルの痛みがある訳ではないものの、まるで爆発でも起こしたかの様なノックバックを受けて、グラントは彼から見て前方に、全体で見れば右側の壁に向かって吹っ飛び、激突する事になった。
「……む」
しかし、せっかく厄介な侵入者を追い詰めたと言うのに、キルオの思考はまるで別のところにあった。それはつまり、今壁際で瀕死寸前まで追い込まれている男は所詮デコイであり、
―――その予測は正しかった。よく見れば、そのパネルの一つが、まるで誰かのタイピングを受けている様にピコピコと反応しているではないか!
「……そこかっ!!」
すぐに彼は自身の拳銃で狙いを定め、その場所を撃ち抜く。
すると、誰もないはずのそこに被弾エフェクトが発生し、直後に周囲の空間が歪み。
「なるほど、光学迷彩か」
「……くっ……」
そこに現れたのは、キルオの言う通り……装甲表面で光を滑らせて装備者を不可視化するマント、「メタマテリアル光歪曲迷彩」を纏ったツェリスカだったのだ。
今回のグラント達の作戦はこうだった。まずグラントとツェリスカ、ハルキとシノン及びオルスの二チームに分かれる。その上でハルキ達はオルスを呼び出した覆面プレイヤー達からピトフーイとエムを助け出すために、そしてグラント達はオフィスを占拠しているであろう部隊の鎮圧、及び情報の聞き出しの為に動いていたのだ。
「差し詰めそこのチビはこちらの真意を探る為のデコイであり、その隙にステルス性能を備えたそこの女がコンソールを操作して、改変されたグロッケンの異常を正す事が目的だったのだろうが。
残念だったな。少しばかり、時間が掛かり過ぎだ」
勝ち誇った様に宣言するキルオを睨みつけるツェリスカに、それを反対側から歯噛みして見守るグラント。両者とも、ダメージから復帰した敵対プレイヤー達に銃を向けられて身動きが取れない状況である。
「……この人達をこの開発オフィスにまで手引きした内通者は、あなたなの?」
「ご名答。そしてその目的も、先程聞き及んだばかりだろう」
しかし、そのさも当たり前のように投げられた言葉は、GGOという仮想世界を守る人間としての誇りを持つツェリスカにとっては……あまりに容認できないもので。
「あ……あなたはプレイヤーの安全を保障する立場にいながら、よくもこんな事を!」
「実にロマンチシズムだ。プレイヤーの安全を、保障か」
そんな感情のままの叫びを、キルオは嗤って一蹴し、彼女に歩み寄った。グラントは割って入ろうとするが、突き付けられた銃口がそれを阻む。
「あの男も日本は平和のうちに腐っていると言っていたが、なるほどこういう事か。
馬鹿な事を言うものではないな。
「―――な」
その言葉にツェリスカは愕然とした。数日前に、人殺しになった恋人を想って彼女の胸で号泣した、あの黒髪の少女の姿がフラッシュバックする。
GGOにおける銃の扱いは、
また、純粋な物理演算や人体へのダメージ感触もかなり現実味がある。頭を強打すると疑似的な脳震盪を起こし、鼠径部をナイフで切られれば暫くは立ち上がれなくなるのだ。
なぜ、ゲームでここまでしなければならなかったのか。答えは一つ。ユーザーが、リアルを求めているからだ。
「プレイヤーの安全を保障? ……とんでもない。その枷を取り払おうとしているのは、むしろプレイヤーの方だろう。
間違っている。ツェリスカは目の前までやって来た敵側の同僚……キルオを睨みつけた。
違う、だれも本当に命のやり取りがしたい訳ではないのだ。ただ男心をくすぐられる様なかっこいい銃を手にして、それを使って兵士の様にちょっとリアルな戦いをして……あわよくばトッププレイヤーになれればという、それだけなのだ。
それを、目の前の男はリアルの戦闘と混同している。ツェリスカは思った。第一アメリカ側だって、純粋にガンゲームを楽しもうというプレイヤーの方が大多数な筈よ、それをあたかも国と国の問題のように祭り上げているのは、寧ろあなた達の方じゃないの。
そんな事の為に、私はGGOを運営している訳ではない。あくまでゲームはゲーム、だから良い……。
(……待って)
そう。そうなのだ。
ツェリスカは気が付いてしまった。少なくともそこを間違えている人間が目の前にいて、他のプレイヤーも弁えているかは、実際彼女の知るところではない。
そんな人間同士が、
「……あ……ああ……!!」
焼けるように熱い頭で彼女は想像した。現在アメリカサーバーと日本サーバーでは、実装された銃の差などで戦闘レベルに大きな偏りがある。日本サーバーには十丁ほどしかない対物ライフルが、向こうでは当たり前のように普及しているといった様に。
そんな状況でまともに両者がかち合えば、日本勢は瞬く間に蹂躙される。金額化された彼等のアカウントは軒並みアメリカ勢に奪われてしまう。その総額は、日本円単位で
そうなれば、最早これはGGO内で収まる話ではなくなる。何の説明もなしに巨額の財産が国を渡って流動するのだ、日本勢は当然ザスカーやアメリカユーザーに抗議し、場合によっては賠償請求や民事訴訟すら起きるだろう。もしかすればそれが人権差別等の非人道的問題に発展し、終いには
それだけではない。日本勢同士で戦闘を起こした場合でも、今まで以上にトラブル問題は不可避だ。先程シノンから伝えられた死銃事件のあらましのように、アカウントとして所持していた全財産を奪われた側が、奪った側を見つけ出す事で傷害事件が、さらには殺人事件すら起きる可能性がある。
……いずれにしても、VRMMOブームの震源地である日本でそれらの事が起これば。
「GGOだけじゃない。日本のVRゲーム市場そのものを、恐慌状態に陥らせるつもりなの……?」
「……如何にも、PoHの考えそうな事じゃないか」
激情に駆られてうわごとの様に呟き、すんでの所でアミュスフィアの安全装置の発動を抑えた彼女に、敵対プレイヤーの向こうからグラントの声が掛かった。
「日本サーバーでイベントが起きるとだけ告知しときゃ、やって来たメリケンの皆さんも
そうやって他人が醜く争ってるのを高みの見物で楽しむ。それがあんたらのボスのやり方だぞ。いずれお前さんも、あいつに利用されるだけ利用されて、後は切り捨てられて終わりだぜ?」
「……残念ながら、この作戦の完遂後は、私はザスカーに留まるつもりはない。
そもそも仮想空間にオフィスを置くという行為自体が、現在の如何なる法律からも適用外であり、そこを占拠したところで違法行為ではない。その後にあの男がどう動こうが、私の知ったところではないのだ」
……殺すか。
ちらりと、グラントの思考によぎったそれに、彼は自分の事ながら身体をぶるつかせる。
だけど実際に、この状況を打開する方法はそれくらいしかあり得ない。恐らく既に彼等によるGGOの仕様変更は適用されてしまっているのだろう、今ここでツェリスカさんや俺が殺されれば……そのアカウントそのものが奪われるだけでなく、一度GGOから強制的にシャットアウトされる事になる。
俺は……最悪置いておいて、ツェリスカさんにとってそれはまずいんじゃないだろうか。いくら一般プレイヤーと同じであるとは言っても、恐らくこのオフィスに入る為の認証データは彼女のアカウントに付随されている可能性が高い。それが金額化されて消滅するような事が、或いは金額化されずに敵に渡る様な事があっては……事態はますます悪化してしまう。
だけど。相棒の顔が浮かぶ。俺はこんな事の為に、これ以上「阿修羅」となって銃の引き金を引いてしまっていいのか。それは一般ゲーマーとしては正しいかもしれないが、彼女や大事な仲間達と仮想世界の旅人として生きた年月を、嘘にしてしまうのではないか。
(……君ならどうする、ハルくん)
傍に転がっている光剣の柄を指に掛けながら、グラントは心の中で呼びかける。SAOでは共に、ALOではSAO生還者と彼女を取り戻すために戦った彼だが、今この場には彼女はいない。
だから、これはどこまで行っても彼一人の問題だ。彼女はその手助けをする事しか出来ないのであり、最後に決めるのはグラント本人である。
……だからこそ、質問を変えて。
(今の俺に、君なら
そして、直ぐに答えを出したのだった。
―――まだだ!!
(……了解!!)
それはまるで、想像ではなく本当に彼女がそう言ったかのようで。
直ぐにグラントはVP70と光剣をいつでも掴めるようにしながら、辛うじて確認できるツェリスカの目を見て合図を送る。それに気が付いた彼女も瞳に光を取り戻して、目の前のプレイヤー達に気付かれない程度に体勢を整えて。
そして、その時を待つのだった。
「……さて。もういいだろう。危険分子を生かしておくわけにはいかない」
キルオと名乗るその男が手を挙げると、全員がガチャリと音を立てて銃を向け直す。こうなってしまうといよいよヒットポイント全損の危機である。
だがそれでも、グラントは抵抗せずに期を待つ事にした。どういうわけか彼の頭に伝わった、信じろという相棒の言葉を信じて……!
「―――させるかああっっ!!」
直後。
オフィスへの入り口、業務用倉庫のガレージの様に大きな入り口から、突然扉ごとぶち開けて何かが乱入してきたのだ。
「な……全員、散れっ!!」
直ぐにキルオの命令が飛び、グラントとツェリスカを囲んでいたプレイヤー達が一斉に壁際へと避難する。
―――グラントが待つことを選んだのは、まさにこの瞬間を狙う為だったのだ。
「今だツェリスカさん!!」
「……ええ!!」
二人は武器を手に抱えて、飛び込んできたそれ……オルスが運転する軍用大型ジープに向かってジャンプしたのである。そうして宙に投げ出されたツェリスカとグラントの身体を、それぞれ荷台の上で待機していたシノンとハルキが抱き止めて確保する。
「ぐぇっ!! ……あ、ありがと、ハルくん」
「……
そう、実はアレ、コイツ等がちょくちょくやるシンクロ会話だったのである。つまりマジでテレパシー的にがっつりハルキの言葉が伝わってきていたので、グラントは冷静に機会を伺えたのだった。
一応説明をしてみるならば、座標としてそこまで離れていないプレイヤー二人がそっくり同等の感情を抱いていた際に、それによる表情の変化や言葉のログの発生元がどちらかを誤認する事によって生じるとかそんな感じなんだろうけども……それにしてもシンクロ会話ってそうやって使うもんじゃないだろ、ここまで来るとオカルトレベルだぞ。
「リーダーにミズ・ツェリスカ、遅れて申し訳ないっス! いやマジで」
「いや、むしろナイスタイミングだったぜぃ!! とにかく今は撤退だー!!」
それはさておき、グラント達が大事なく荷台に乗ったことを確認するや否や、オルスはすぐに勢いのままにハンドルを切ってその場でUターンをする。
その場所、自身の職場でもあるそのオフィスエリアの壁に退避している、一人の男と目が合って。
「……
オルスの表情から、余裕が失われて。
「オルス氏!! 早く出してちょ!!」
直後のグラントの声に、我に返ってアクセルを踏むのだった……。
「まあ、ひとまずは脱落者が出なかった事を喜ぶべきなのかしらね」
グロッケンのとある地下トンネルから入り込めるそのダンジョンは、実はスタッフ達の利便性を考慮してビークル全般で入ることの出来るようになっている。そのルートを最深部から逆走しながら進むジープの荷台の上で、シノンがそうクールに言った。
「……そうだねシノンちゃん。
みんな、お疲れ様。それとごめんね、ちょっとドジっちゃったよ」
改めて皆をねぎらいながら、しかし作戦そのものが失敗に終わったことを詫びるグラントだった。
本来はステルス化したツェリスカがシステム介入をする事によって、日本サーバーの強制メンテナンスプログラムを行使して敵ごとGGOからプレイヤーを追い出す算段だったのだが……それを行う前に敵に腹積もりを見抜かれてしまった形になる。
つまり、今現在グロッケンは既に安全圏ではなくなってしまっている筈だ。その上、且つデスペナルティの深刻化も既に適応されていて、それを知らない他のGGOプレイヤーはかなり危険な状態である筈である。
……それを、知らなければ。
「で、外はどうだった?」
「ええ、出撃する前にツェリスカさんと私で知り合いの人達に連絡を入れておいたのが大分効いたみたいね。まるでゴーストタウンみたいに人混みは少なくなってるわ。
私はともかく、ツェリスカさんは本当に人脈が広いみたいだし」
そう、万が一に敵側の作戦を止められなかった場合を想定して、グラントとハルキがオルスによる強化イベントをこなしている間に、シノンとツェリスカが知る限りのフレンドに話を広めてくれていたのである。……とはいえ詳しい説明をしている余裕もなかったので、ひとまず連絡があるまでログアウトをしてくれ、という程度のものであるが。
だが、ツェリスカを始めとするザスカー日本支部のスタッフは一人一人が情報把握の為にかなりの数のプレイヤーとフレンドとなっているらしく、その口コミの普及率自体がかなり良好な事が不幸中の幸いというか。
「……だけど、それだとつい前の俺達みたいなニュービーとか、ソロプレイヤーとして楽しんでる人とかには届かないんじゃないのか?」
「うん、その通りだね、ハルくん。
こうなったらこっちも出し惜しみしてらんない。ツェリスカさん、例の事……いいっすか」
「……ええ。そうするしか……ないみたいだものね」
やはり先程のがかなりショックだったらしいツェリスカは、そのグラントの確認に力なく答える事しか出来なかった。その異様な様子に、ハルキは不思議に思いグラントに何があったのか問いただそうとして。
「見ぃつけたぁ」
現在、ジープの荷台には
数えてみよう。オルスは運転席だから除いて、グラント、ハルキ、シノン、ツェリスカに。
「出会い頭だねぇ」
……そう、あと
ハルキ達がグラント達とは別に、助け出した二人が。
「今度は、逃がさないわよぉ?」
至近距離で突き出された銃に対して、グラントはVP70のストックでその銃口に蓋をするようにして防御して。
「……自己紹介した方が良いのかな? ピトフーイさんとやら」
「阿修羅」だった男は、「阿修羅」を殺そうとしている女、ピトフーイにそう投げかけたのだった。
※アマノムラクモD7について
光剣は、長さが長いほどアルファベットが奥に進み、また光刃の色によって数字が変わります。
よって、元々Gシリーズだったこの剣は「アマノムラクモG7」であり、それをオルスがG→D(まで短くした、ということ)に調節したことによって、「アマノムラクモD7」になったという経緯です。