SAO (シールドアート・オンライン)   作:ニモ船長

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神代凛子「うーん、でもこれだと昨年のデータと比較すると……マソップ、ちょっと去年のと今年のをグラフにして比較してみてくれるかしら?」


神代凛子「……マソップ?」



神代凛子「ああ! あの子また抜け出したわね!? 全く、どこに行ったのかしら……?」


神代凛子「……え? GGO?」


第18話 スーパーGGO大戦 part1

 

 

 「……キリト!?」

 

 「ど……どうして、あんたがここに……!?」

 

 

 2025年、12月17日、深夜。知る人ぞ知るグロッケン市街戦の、とあるワンシーン。

 圧倒的劣勢の中、グラント達の前に颯爽と現れたのは、この作品の原作であるソードアート・オンラインの主人公にして、今まで意外と出番が少なかった「黒の剣士」、キリトだった。

 その知り合いで学校のクラスメイトでもあるハルキと、つい二日前の第三回BoBでは共に死銃に立ち向かったシノンが一斉に声を上げる。

 

 

 「どうしてって! 助けがっ! 必要だろっ!!」

 

 

 休む間もなく続く銃撃の雨に紫の光剣を振るい続けながら答えるキリトの声は、少しだけ和人のものより高く―――実はグラントも子供になったからか同様の変化が起きているのだが、それは後にして―――、また余裕があるという訳ではないものの、現状にそぐわない程度には落ち着いていた。

 

 

 「シノンちゃん、あれがあなたがBoBで一緒に戦ったっていう、キリト君なの?」

 

 「え……ええ、その通りよ。光剣をメインアームにして優勝候補を次々に撃破した、とんでもない奴だけど……いくらなんでも、これは」

 

 

 その銃の世界をナメたプレイスタイルは近頃かなり話題となり、多くのプレイヤーが試しにと光剣を買う事態まで起きる始末だったのだ。当然ツェリスカも彼の噂は小耳にはさんでいて、実際のその剣裁きに息を呑んでいたが……対照的にそれを既に見慣れていたシノンは厳しい表情を浮かべていた。

 そりゃそうだ。BoBでの戦闘は、戦闘マップが広かった事も含めて一対一の構図になり易かったと言える。もちろんシノンのようなスナイパーが横やりを入れるシーンは十分に考えられるが、だとしても五、六人単位のプレイヤーが混戦状態になるといったような大掛かりな戦闘は実際起きなかった。

 だが今は状況が違う。時間稼ぎの役目を終えたピトフーイの前に立つキリトの前に並ぶ敵の数は、余裕で数十人単位を越している。彼等から伸びるバレットラインの数も二日前の戦闘とは桁違いであり、いくらキリトであってもそれらを完全防御するのは無理と言うものだ。

 

 

 「……なんかちがう」

 

 

 そう、無理である。

 

 

 

 「一人で良いとこ持ってくとか、なんかちがうだろぉぉっっ!!」

 

 

 

 ……コイツが、いなければだ。

 

 

 「よーお黒んぼキリト!! この俺を差し置いてヒーロー気取りたぁ良い度胸だなぁぁ!!」

 

 「相変わらずで安心したよグラントさん……色々と突っ込みたいんだけど、今は現状を打破する事を考えようぜ!」

 

 

 一応舞台裏ではそこそこ交流を深めている設定のこの二人だが、ちょっとお世辞にも理想のライバル関係とは言いにくい。言ってしまえば、爽やかに超人プレイとイケメンムーブをかますキリトに対して、一方的にグラントがひがみ続けるという茶番が未だに続いているのである。良い加減に大人になれ落武者男。

 

 

 「ハルくん、オルス氏! ピトフーイさんを楯の中に避難させてあげて! エムさんは彼女の介抱を! シノンちゃんとツェリスカさんは、引き続き援護よろしく!!」

 

 

 だけどそれに気を取られて周りが見えなくなるほど、グラントも間抜けではない。直ぐに仲間達に指示を飛ばしながらキリトの更に前に躍り出ると、ある程度の銃撃を弾いて……後ろの助っ人に届くバレットラインをなるべく早く減らす作業に徹し始めたのだ。

 そして、キリトもそれに負けてはいない。グラントの加勢によって少しは余裕が出来た彼は光剣を構えながらも後ろに振り返って、ハルキ達に追加の指示を送る。

 

 

 「誰か、グレネードを持っていたら、出来るだけ高く上に向かって投げ飛ばしてくれ!!

 シノン、確か君は持ってたよな!? おみやげグレネードのあれだ!」

 

 「あ、あんた、そりゃ、持ってるけど……そんな事して、何になるって言うのよ」

 

 「良いから! 早く!!」

 

 

 強めの口調で急かすキリトに気圧されながらも、一応は彼とコンビを組んだ経験のあるシノンは頷いて、腰のポーチからグレネードを取り出すと……その起動スイッチを押し込んで、力一杯投げ飛ばした。

 数秒の間を置いて、爆発。爆音と衝撃波があたりを薙いで、その場の八人は思わず地面に膝をついてやり過ごす。

 だが、それが収まったところで……何かが変わる訳もなく。

 

 

 「……何も変わらないじゃない! 一体なんだって言うのよ!?」

 

 「まだだ! あれだけの爆発が起きれば、()()()()()()()()()()!!」

 

 「……誰か、だって!?」

 

 

 オルスと共に失神にまで追い込まれたピトフーイを楯の中に引き摺り込み、エムが彼女に救急治療キットを与えるのを見守りながら……ハルキはそのキリトの言葉に違和感を覚える。

 

 

 (援軍? 日本サーバーのプレイヤーは、敵がやって来る前に極力避難させていたんじゃないのか……?)

 

 

 

 

 

 

 その疑問は、次の瞬間どこかから聞こえてきた銃声音によって……解消される事となった。

 

 

 「な……?」

 

 

 一つの銃火器によるものではない。まるで敵側から聞こえてくるものと同じように、何人かのプレイヤーがフルオート機構の備わった銃で撃ちまくっている様な、そんな音。

 まるで、マシンガンで一斉射撃を行っている様な、そんな音。

 

 

 

 

 「―――速射連射掃射高射乱射ぁぁ!!」

 

 

 

 

 「……あれは」

 

 

 続いて、どこからか聞こえてきた文言に反応したのは、エムであった。

 実際に敵として対決するのは少しだけ先の事になるのだが……うわさだけなら聞いたことがある。マシンガンを愛する者だけが集う、サブアームも何も持たずに戦術もなし、ただマシンガンを撃つ事だけに全てを捧げる、そんなマシンガン野郎どものスコードロンが存在する事を。

 

 

 

 

 「タマある限り撃ちまくれェ!!

 それが我らぁ!! 全日本マシンガンラバーズの生き様よォォ!!」

 

 

 

 

 全日本マシンガンラバーズ。略してZEMAL。

 SAOAGGOにて登場する、典型的な銃おバカ連中である。

 そのマシンガン愛は本物で、マシンガン愛のないプレイヤーとは決して共同戦線を組まず、またマシンガンを撃っててハイになれるのなら同士討ちさえいとわない、ちょっとマジで何やってんのか分からないヤベー奴らなのだ。

 

 

 「おっ、いたぜお前ら!! ()()()()()()()()()があんな所で戦ってるぜ!!」

 

 「くーっ! やっぱ可愛いぜ! 斬られたいぜ!!」

 

 「クールビューティーなバーサーカーかぁ、いいねぇ! ……うちのネゲヴちゃんには負けるけど」

 

 

 ちょっと待てお前らなんて言った。そんなヤロー共のしょうもねぇ歓声に気が付いたキリトは、振り返ると同時にキモいくらいに満面の笑みを浮かべて。

 

 

 

 

 「君達……応援してくれて、ありがとっ♡」

 

 

 

 

 「……うわぁ……」

 

 「あんた……そっちの趣味あるんじゃないの……?」

 

 「……あとでアーちゃんにいってやろー」

 

 

 上からハルキ、シノンにグラントである。今回は流石に三人の肩を持つぞ、そーゆーネカマにどんだけウブな男が辛酸味わってきたと思ってんだ。え? 普通気付く? 騙される方が悪い?

 っていうかむしろ男でもいい?

 

 

 

 

 「こっちもいるぞぉぉ!! マシンガンバカ共に続けぇぇ!!」

 

 「おう!」

 

 「よっしゃ!」

 

 「がってん!」

 

 

 

 

 ―――乱入者は続く。

 敵対プレイヤー達を右側面のバリケードからマシンガンで強襲するZEMAL達に続いて、反対側のビル窓から姿を見せたのは……これまた服装はバラバラでも手にする銃器は統一、光線銃しか使わないアホ連中その二、RGBことレイガンボーイズの面々だった。

 ハルキの改造SPAS12の様な特殊加工を成されない限り、光学銃は「対光弾防御フィールド」によって威力を軽減されてしまう弱点がある為、対人戦では実弾銃をメインに使うのがGGOのセオリーなのだが……それを承知で、

 

 

 「俺達が光学銃の魅力を教えてやるぜ! お前等はそのうち真似するようになるだろう!」

 

 「光学銃の値段上がっちゃうなぁ。今のうちに、光学銃メーカーの株を買っておくか?」

 

 「不利がなんだ! それを跳ね返してこそ、俺達は光り輝く! そう! この弾のように!」

 

 

 ……とか言っちゃう筋金入りの頑固者の集まりである。こちらもSAOAGGOにて登場するチームであり、ZEMALも合わせて後にエムとピトフーイは直接対決の機会はそこまで多くはないけど何度も戦闘を重ねる事になるメンツである。

 だがこの時の彼等バカ連中二組には、その場にいる二人の事はまるで眼中にない。……もうお分かりだと思うが、なぜなら、

 

 

 

 「光剣使いのキリトちゃんは光学銃使いの俺等と同志! そう、俺等のアイドルなんだぜ!!」

 

 「ちょっと待てお前等、キリトちゃんは俺達みたいなマシンガン男の方が―――」

 

 

 

 「……愛って、怖いんだな」

 

 「ハルくん、お願いだからこんな事で愛を悟らないで」

 

 

 目を点にしてほわーっと呟くハルくんに、すかさずグラントが突っ込む。つまり、この二チームは元々このグロッケンのどこかでキリトと鉢合わせになって、その場で打ち解けていたのだろう。

 そんなかわいいキリ子ちゃんが危ない目に遭っている事をグレネードの爆発で探知した彼等は、急いで現場であるここに直行、彼(女)に銃撃を加えているアメリカ勢を発見するや否や、お姫様を危機から救ったヒーローになりたいがために直ぐに発砲に至った……と言うところだろうか。

 

 

 「―――よし、敵の弾幕が薄くなった!

 みんな、一旦移動しよう! あのビルの裏まで全力疾走するんだ、裏路地に入れば大人数での掃射を受ける事は無くなるはずだ!!」

 

 「うーん今更かっこいい事言われても説得力ゼロだけどまあ仕方ないかー」

 

 

 直ぐに切り替えて勇ましく皆に号令をかけるキリト……をドン引きした目で見ながら、グラントはハルキ達に合図を送る。確かに、圧倒的優位に立っていたはずの敵が、今は突然両側からそれなりの弾幕に襲われて、意識がそっちに向いているようだった。

 そうして八人は動き出すが、ピトフーイが瀕死状態なので彼女を引き摺って走るエムの足取りが遅い。それに気がついたグラントは、一旦キリトの後ろから離れて、最後尾まで向かっていくと。

 ―――彼らの逃亡に気が付いた一人が撃ち込んできたライフル弾を、VP70のストックで弾き返した。

 

 

 「……助かった」

 

 「いいや、こっちこそ。……今まで言えてなかったけど、この前はごめんね。俺、あんた達に酷いことをした」

 

 

 そのまま二人を先に回して、殿になって流れ弾を警戒しながらストックを掲げる。光剣は今は目立ってしまうので起動させていない。

 

 

 「この際だから正直に言おう。まだ俺は、お前の事を完全には信用していない。ピトが漸く掴み取りかけていた心の平穏を、お前が奪ったからだ」

 

 

 エムにしては手厳しい言葉である。まあ、グラントがピトフーイ達を結果的に掻き回してしまった事は事実だろうから、致し方ないと言えばそうなのだが。

 だがそれで徹底的に非難する、と言うほどの口ぶりでない理由があるとすれば……それは恐らく彼の相棒であり純粋なニュービーだったハルキを騙した罪悪感と、そして。

 

 

 「だが、それと同時に感謝もしている。お前と出会った事で、結果としてピトは少し変わった。

 ()()()()()()()()()()()()()()。そうあろうとしているお前の姿を見た事は、ピトにとって大きな収穫だったと思っている」

 

 「……そう言ってくれると、救われるよ」

 

 

 ちらりと、グラントはエムの抱えるピトフーイを見やる。ちょっと白目剥いているのが怖いけれど……その表情は安らかだった。

 彼女は自分の言葉通り、死に方を選べたのだ、いやまあ死んではいないんだけど。でも、ただ飢え狂って衝動のままに死を味わうよりも、よっぽど……よっぽど、生の実感を得る事が出来たはずだ。何かを成し遂げたいという信念を持って、()()()為に戦う事が出来たはずだ。

 

 

 「だから、ピトがこれからも純粋なGGOプレイヤーとして、暴れる事が出来るように……GGOを守ってくれ。

 俺も、ピトと一緒にお前を見届けさせてもらう」

 

 

 流石に暫くの間はピトフーイの戦線復帰は不可能だ。そして彼女はエムにGGOを守ってくれと頼んでいたが、何よりも彼女を大切にするエムの事だ、これ以上は最前線で戦うのは厳しいだろう。

 そんな彼が、グラントに歩み寄ってそれを話したという事が、如何ほどのものか。ピトフーイを深愛するエムが、そこに託した思いが、如何ほどのものか。

 

 

 「……うん、確かに約束したよ」

 

 

 それをいつになく敏感に汲み取ったグラントは、力強く頷いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 キリト先導のもと道路を突っ切ってビル群の間に何とか逃げ込んだ彼等は、どうやら敵の襲撃からひとまず離れる事に成功したようだった。

 そのまま街灯もない真っ暗な道を、キリトとグラントの光剣の明かりを頼りに歩んでいく。何でもキリトが言うには、あのバカ男連中とは別に、グラント達を助ける前に出会った知り合いが身を隠しているというのだが。

 

 

 「まーたああいうゴキゲン系ゴリマッチョ達じゃないだろうねぇ。ちょっとハルくんの教育上良くないんだけどなぁ、そっちのケがあるお前さんは需要あるだろうけどさー」

 

 「ちょ、ちょっと待ってくれグラントさん、誤解だ、俺は決して」

 

 「……あー、なんだ、まあ……大丈夫だぞ、俺は変わらず友達だからな」

 

 「は、ハルキサン!?」

 

 「アスナさんに教えてあげないとね。あなたの恋人は女装趣味だって」

 

 「お……お願いですからシノンさん勘弁してください」

 

 

 普段やたら主人公ムーブをかますキリトなもんだから、弱点を掴まれた途端に集中砲火を喰らう有様である。唯一の例外は素でやってるハルくんだけど、その時彼女は思い出したかのように前々から浮かんでいた疑問を投げかけるのだった。

 

 

 「そんな事よりもキリト、お前は何でグロッケンにいるんだよ?

 仮にGGOを今までやってたとしても、事前にザスカーのスタッフが日本プレイヤーのログアウトを勧告してたはずだぞ……?」

 

 

 とはいえ所詮はマンパワーである。人的ミス、つまりプレイヤーの取りこぼしが起きる可能性も十分考えられる上、良く考えればグロッケン外にて活動をしているプレイヤーに関してはメッセージ等の連絡手段を介さない限り情報が届かないのである……幸い、それに関しては平時にスタッフ達が広げていた人脈のお陰で圏外にも情報が回ってくれたらしいけど。

 だけど、その質問にキリトはんん? と若干の困惑の表情を浮かべて。

 

 

 「その口ぶりだと、ハルキは知らないのか? てっきりグラントさんから聞いてると思ったんだけど……」

 

 

 

 

 

 

 「……だったら、その事はワイから説明した方が良さそうだな常考」

 

 

 ―――そして、彼に続いて道の奥から聞こえてきたのは、アイツの声だった。

 

 

 「ま、マソップか!? どうしてここ……に……!?」

 

 

 その声の主は、なんとちびアバターであるグラントよりも背の低い、それこそどこぞのピンクの悪魔みたいな幼女アバターだった。着ているミリタリーファティーグは茶色で、髪の毛もシノンのより薄い水色だけど。

 いや、違う。そこじゃないのだ。キリト達一行の進行方向からのそりと姿を現した彼女だったが、何を隠そう、自分の足で地面に立っていなかったのだ。

 ……そしてまるで彼女を抱っこする様にして、エムよりも身長の高いグラサン男が立ちはだかっていたのである。

 

 

 「えっと……? キーリトさん、このお方はどちら様で……?」

 

 「まさか、アメリカ勢の一人がこっちに……!?」

 

 

 グラントの震え声に、シノンの緊迫した声が続く。確かに図体的には海外基準な目の前の男である、彼女の懸念も最もだろう。……小脇にマソップらしき少女を抱えていなければ、だけど。

 そう、結果としては、その男は海外プレイヤーでもなければ、本作初登場キャラでもない。

 

 

 

 

 「あー! 見つけた! ()()()()()()()()()に、()()()()()()()()()だ!!」

 

 

 

 

 「……トミィ氏?」

 

 「え、ええ!? お前、トミィなのか!?」

 

 「トミー? ……やっぱり外人さんなのかしら~?」

 

 「い……いや違うんスよミズ・ツェリスカ。いやマジで」

 

 

 そう、トミィである。

 何がどうなったかこの硝煙漂う世界で、大の大人でも泣き出しそうなシュワちゃんアバターを引き当てたリアル小学生が、そのゴツい顔で破顔一笑して、「グラントにいちゃん」とか「ハルキおねえちゃん」とか言い出したのである。アバターガチャマジで荒ぶってんぞGGO。

 

 

 「い、いやー、俺も初めはびっくりしたぜ。グロッケンにやって来て少ししたら、突然女の子を肩車した大男が、『目標発見、直ちに捕縛せよ!』っていう女の子の号令に従って……全力でダッシュしてきたんだからな」

 

 

 とはキリトの弁である。話を聞いてみればその幼女はマソップ、大男の方はトミィだったようで、それからしばらくはログインしてきたばかりで戦力にすらならない彼女等を何とか守りながら、何とかこのビル影までやって来て二人を待機させていたのだとか。

 ……だが、それを聞かされた側からすればたまったもんじゃない。何せ今のグロッケンは最早安全圏ではないのだ。

 

 

 「な……何やってんだよ!! 今すぐログアウトして避難してくれ! 今ここはただのゲームじゃ……!!」

 

 「知ってるぜハルキニキ。だからこそ、ワイたちも飛び入り参加したってワケさー」

 

 「は、はあ? 何で、というかどうやってその事を知ったんだよ……?」

 

 

 思わず二人にGGOから落ちるよう言い渡すハルキだったが、どうやらその現状に対してトミィもマソップも把握済みの様だ。……おかしいよね、GGO内の人間には避難要請をしても、外部の人間に情報が浸透するには、まだ早すぎるのではないだろうか。

 ―――となると、だ。考えられる事は限られてくる。

 

 

 「……グラント?」

 

 「あー、えーっとね、ちょっと説明する機会がなくて言ってなかったんだけど……痛い痛い、耳引っ張らないで、別に黙ってようとしてたんじゃないからぁ!」

 

 

 確定である、どうやらハルキやシノン達の知らないところで、この落武者男が一計を案じていた様である。

 ……つまり、それが前話で言った、「現状を打破できる可能性のある一手」であり、幾度とジープの上で彼とツェリスカがコソコソとやっていた何かの正体である。

 それを、今し方グラントの耳を引っ張って吐かせようとするハルキに、マソップが自慢げに語り出すのだった。

 

 

 

 「確かにザスカーのスタッフ達によって、グロッケンにいた殆どのプレイヤーのログアウト処理は()()完了したんだぜ。

 ……その上で、()()()()()()()()()()()()()()()G()G()O()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだぜ」

 

 

 

 つまりだ。

 一旦ログアウトしてもらったので、再ログインさえしなければプレイヤー達に被害が及ぶことは無い。

 だが、グラント達が単独でアメリカ勢を突破して事態を終息させるには、圧倒的に人手が足りないのも事実だった。

 

 

 「……だから、グロッケンの戦闘領域化を防げなかった時は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()べきだって、予めツェリスカさんと話してたんだよ……痛いよう耳痛いよう」

 

 

 前に言った「イマジェン」を始めとしたアミュスフィア間の情報伝達サービスは、基本的に同期させた携帯端末やPCにも適用されていて、現実世界にいてもGGOのお知らせやメッセージが届く仕様になっている。そしてそのメッセージの送り先は、フレンドのみならずID入力によって自由に選ぶ事も出来るのである。

 この二つの要因を総合すれば、つまり()()()()()()()I()D()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という事を意味している。

 グラントとツェリスカはこれを利用した。プレイヤーのIDに関しては、オフィスを占拠されていたとしてもツェリスカの持つ簡易端末からアクセス出来るようになっている。そうでなければ、スタン弾だけ持っていても迷惑プレイヤーのペナルティ付与を行う事が出来ないからだ。

 だけど、途方もない数のプレイヤー達に一人ずつ、彼女の作成した文章―――グロッケンからのログアウト勧告、その上でリスクを覚悟したプレイヤーに向けての、援助の要請―――を載せたメールを送るという、それに掛かる絶望的な手間と時間に関しては問題が残る。

 

 

 「そこで、ワイの出番だったってワケ。

 毎日リンリンの実験データの整理と統計を担当してるマソップちゃまだぜ? たかが全GGOプレイヤーにメールを送る程度、秒もかからずチョチョイのちょいよ!」

 

 

 たまーに忘れかけるけど、このマソップという鎖骨prpr女は、後の世界最高峰トップダウン型AIであるユイと、同等の性能を持つトンデモスペックの持ち主である。

 おかげで、彼女に全プレイヤーIDのデータベースとやるべき事を記載したメッセージをグラントが送って、彼女からの「全部やったぜ。」メールが返ってくるのに、十秒も掛からなかったそう。

 

 

 「え……それ大丈夫なのか? 神代さんにまた変な事に首突っ込んでるってバレたんじゃ……?」

 

 「そこは心配ないぜ。作業は全部前話の前書きの時点で終わらせたから、本文に証拠は残ってない筈だぜ」

 

 「特定の小説サイトじゃないと分からないネタはやめようかマソップ」

 

 

 というかだったらここに書いちゃった時点でダメなんじゃないかい。そもそも今回の前書きでガッツリ気付かれてんじゃねーか。

 

 

 「……とにかく、そこの二人は敵じゃないって事で良いのかしら?」

 

 「あ、うん。シノンちゃん、うちの別のゲームでのギルメンなんすよー」

 

 「ギルメン? ……お前、ギルドマスターだったのか……?」

 

 「分かるよエムさん、俺も未だにサブリーダーの実感微妙にないし」

 

 「オルくん!? オルくんだー! ねぇマソップさん、オルくんだよー!!」

 

 「トミィチュワァァァン興奮しすぎワロスwww で、ここにいるって事はやっぱりザスカーからの刺客かオルステッド」

 

 「ちょ、嬉しいのは分かるっスけど子供感覚で飛びつかれると図体的に死ぬっスよトミィ、いやマジで。

 で……マソップ、久しぶりの再会早々に本名で呼ぶってどういう公開処刑っスか。いやマジで」

 

 

 上からシノン、グラント、エム、ハルキ、トミィにマソップにオルスである、なげぇ。めんどい。フリーダムである。それを何かいっちょ前にカッコつけて見守るキリトをよそに……ツェリスカは一人、占拠されたオフィスに向かうまでにグラントと交わしたやり取りを思い出していた。

 

 

 

 

 『あ……あなた、正気で言っているの?

 運営の制御から外れたこのGGOに、避難させるどころか、改めてプレイヤーを呼び込むなんてどうかしてるわよ! それでもし、日本サーバーのプレイヤーに何かしらの甚大な被害が出たら……!!』

 

 『ザスカーはその責任を取らなきゃいけなくなるし、GGOもただじゃあ済まないだろうねぇ。でも、そもそも運営の手に負えなくなってる時点で……俺達だけじゃ捌き切れない事態だって事は、もう否定の余地が無いんじゃないかね?』

 

 『……それでも。

 それでも私達スタッフには、プレイヤー達を守る義務があるの。みんながこのゲームを楽しんでくれるように、そう思ってGGOにずっと携わってきたのよ?

 こんな事が起きてしまったのだもの、もしGGOが日本市場から撤退することになって、私が職を失ったとしても……それは仕方のない事だわ。

 でも、プレイヤーの皆には何の罪もないわ。今までこのGGOを遊んで育てた、愛着のあるキャラクターを持っているユーザーのみんなを、敢えて危険に晒すなんて……』

 

 

 ―――そう、ひねり出すようにか細い声で零したツェリスカの覚悟の言葉に……しかしグラントは少しだけ間を置いた後、こう返したのだった。

 

 

 『ねぇ、ツェリスカさん。

 VRMMOゲームはまだコンテンツとして始まったばかりだよね。そんで、SAO事件とALO事件があったみたいに、今まではあり得ないような非人道的なことだって、幾らでも出来る環境でもあるわけじゃん?

 これはあくまで俺個人の意見だけど、もうこの仮想世界は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。違うかな?』

 

 『……それを認めてしまうのなら、私のやって来たことは、一体何だったって言うの?

 この世界はもう、プレイヤーが純粋にゲームを楽しむ場所にはなれないって、そう言いたいの……?』

 

 『うーん、ちょっと違うかな。

 ハルくんが言ってくれたんだ。ゲームにも、現実はあるって。リアルである事に依存する必要はないって。……俺もそう思うから、ツェリスカさんの考えは正しいと思う。

 

 

 ―――だからこそ、()()()()守るんだ。世界の危機がやって来た時は、()()()()()()()()()()()()()()()、全員でより良い世界を目指す。そういうのが……これからの、VRMMOゲームには必要なんじゃないかな。

 きっと一人じゃない筈だよ。ツェリスカさんが守りたいものを、同じように守りたいって考えているプレイヤーだって、きっといるんじゃないかな』

 

 

 

 

 (……今でも、この判断が正しかったかどうかは、私には分からないわ)

 

 

 そして。

 奥に進み続けた彼等は、その細道の途切れる地点までやって来ていた。相変わらずけばけばしい街灯と電光掲示板の光が漏れ出ていて、そこを飛び出れば再び戦闘が再開される可能性はゼロではない。

 だが、それ以上に彼女の意識を捉えたのは……既にその場に鳴り響いている、銃声音だった。

 

 

 (……でも)

 

 

 ザスカー社員として、サービス開始時から孤軍奮闘を強いられていた彼女は、無意識のままにグラント達の前に躍り出る。驚いたキリトとハルキがそれを止めようとするが、グラントが二人をやんわりと押しとどめた。

 彼女には見る権利がある。自分の思いが、GGOのプレイヤー達にどれほど届いているのかを。

 

 

 (でも、私は、私はただ―――)

 

 

 心の中の不安と、湧き出る気持ち……確かめたいという気持ちに導かれて、彼女は道の奥―――メインストリートに続くエスカレーター前広場を、覗き見て。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ったく、なんで俺がこんなおっかねぇ事をせにゃいけないんだよっ……!」

 

 「文句を言うなダイン。ここに来る危険性に関してはあのメールに既に書いてあった事だろう。無駄口を叩く暇があったら敵に警戒しろ」

 

 「確か、敵を殺しちゃってもいけないのよね? 全く、運営も厄介な注文を付けてくるわね……まあ、臨むところ、かしら?」

 

 

 ―――ダイン、闇風、銃士X。

 かたや西部劇のガンマンの様な服装、かたやトサカ頭の黒マント、そしてかたや露出過多な金髪女性、実はハルくんの色違い。

 BoB常連とまで言われるGGOトッププレイヤー三人が、それぞれのスタイルを存分に活かして、奥にいるアメリカ勢のプレイヤー数十人と渡り合っていたのだ。

 ……いや、違う。敵の前に姿を晒しているのが、たった三人なだけか。

 

 

 「おうおう、むっつりと美女さんはご機嫌なこった。……よし、お前等、撃てぇ!!」

 

 

 そのダインの号令に合わせて、近くの建物の屋上に待機していたらしい他の日本勢のプレイヤー達が、一斉に敵に向かって射撃を始めたのだ。その頭数は敵の数にも匹敵するものの様で、瞬く間に銃撃の応酬でそこら中がダメージエフェクトに染まり、ツェリスカも思わず覗いていた頭を引っ込める事になる。

 ―――だけど、もう充分だろう。

 

 

 「良かったね、ツェリスカさん」

 

 

 再びビル影の薄暗がりの中に身を隠した彼女に、グラントは声を掛けた。

 

 

 「みんな、考える事は一緒だったみたいだねぇ」

 

 

 そう。

 G()G()O()()()()()()G()G()O()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 その意志一つで、その場の皆は心を一つにしていた。ツェリスカが大切にしていたものを、彼等もきちんと大切に……想っていたのだ。

 

 

 (私はただ、G()G()O()()()()()()()()

 それは……私だけじゃ、なかったのね)

 

 

 こみ上げる涙を何とか堪えて、ツェリスカは頷いた。自分の行ってきたことが無駄ではなかったことを目の当たりにした事実は、それまでに彼女の心に圧し掛かっていた重責を、少しは和らげてくれたに違いない。

 

 

 「さーて、みんな、最終局面だ」

 

 

 それを確認して、グラントがリーダー気取りで全員に呼びかける。

 

 

 「一つにまとまりすぎても的になっちゃうから、ここからは二手に分かれよう。

 キリタンポにシノンちゃん、ツェリスカさん、ハルくんと俺で緊急ターミナルの方は制圧する。その間に残りの皆はあそこの三人と合流して、俺達がGGOをもとに戻すまで敵を食い止めていて欲しい」

 

 

 そして全員が頷くのを確認したグラントは、よしっと一瞬気合を入れかけて……もう一度仲間たちに振り返った。

 いや、正確には仲間の内の、一部の連中に。

 

 

 

 

 「ちょっとごめんね。……そう言えば言い忘れてたけどさ。

 みんな、お帰り。やっと、グラント帝国が完全復活したぜ」

 

 

 

 

 トミィ、オルス、マソップ。

 そして、グラントとハルキ。

 一年以上も離れ離れになっていた、SAO時代の最高のメンバーが、ここに一堂に会していた。

 

 

 「これが終わったら、みんなで祝杯でも挙げようぜ。他の皆もどう?

 あ、キリトのおごりね

 

 「ちょっ!?」

 

 

 相変わらずヒガミーイジリー全開なグラントに、割とノリ良く突っ込むキリト。その良くも悪くも息の合った掛け合いに、みんなが和んだのを確認すると。

 

 

 「……じゃあ、行くよ! ハルくん!」

 

 「おう、いつでも!」

 

 

 ―――隣で不敵に笑う相棒に声を掛けて、グラントは先陣を切って地を蹴るのだった。

 

 

 

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