SAO (シールドアート・オンライン)   作:ニモ船長

80 / 88
第21話 原点vs頂点 part2

 

 

 「……いざっ!」

 

 

 非常階段を一段飛ばしで駆け上がりながら、頭上から聴こえる敵の降りる音にすかさず「紫陽花」のフォトンソードを翻して。

 

 

 「だ……りゃあっ!!」

 

 

 踊り場で鉢合わせになった瞬間、敵の自分側の腕をそのまま手すり側に引く。それによって見えた相手の背中をすれ違う様にして浅く斬りつけると、振り向きざまにサブマシンガンを持ったその両手首を光刃の上の銃身で跳ね上げる。

 ―――そこに後続のシノンが初登場のサブアーム二挺目、MP7でスタン弾を撃ち込んだ。

 

 

 「ナイスだシノンさん! スタン弾はあとどれくらい残ってるんだ?」

 

 「あとマガジン一つ分よ! ……ほら、気を抜かないで、また来るわ!!」

 

 

 再び鳴り響く階段を降りる音。ハルキは頷いて愛銃を構えると、自身も急いで金属製の階段を踏み鳴らしていく。

 グロッケン郊外の廃墟エリアや一部の不動産エリアを除いて、基本的にこのメインストリート地域周辺の建物は、その見た目通りに内部に入る事は出来ない場合が殆どだ。MMOゲーマーなら分かると思うけど、そんなところまで作ってたら手間も人手もとんでも無いことになるのだ、実際にプレイヤーが利用できるエリアと言うのは第一印象ほど多くはないというのが、ゲームという非現実な世界の悲しき性である。

 だが現在ハルキとシノンが登っている総督府隣のビル……目算でも二十階近くはありそうなこの高層建築物には、どうやら屋上を展望台にする意図があったのか建物内部に天井が吹き抜けになっている非常階段が存在した。

 それがなければよじ登ってでも向かおうとしていたハルキにとっては朗報ではあったが……しかし人が立ち入れると言う事実はつまり、敵も同じように潜んでいる事を意味していたのだ。

 

 

 「だけどっ……もうすぐだ……!!」

 

 

 続く敵がどうやら自分達の真上で待ち受けているらしい事を足音で悟ったハルキは、直ぐに下からSPAS12の光学散弾を放つ。元々圏内として設計されているグロッケン内のオブジェクトは一律で破壊不能だが、発砲及び着弾の衝撃によって階段全体はずしんと揺らぐ。結果として向こうが不意打ちにたたらを踏んだのを見計らって……彼女はその場で跳躍、階段の手すりを足で踏み切って一瞬で敵の背後を取り、間髪入れずに数段前の踊り場まで蹴り落とす。

 既にあと一階層登れば、屋上という位置にまで辿り着いていた。

 

 

 「……かなりギリギリの距離ね。あの球体が狙いなんでしょ?」

 

 

 キリトがビル前で追っ手を引き受けてくれているとはいえ、「どんな時もチェック・シックス」がスナイパーの基本である。ハルキと隣り合わせで手にした短機関銃を後ろに向けて身構えながらも、やがて階段の底と側壁の合間から覗く、グロッケンの煩雑な夜景に照らされて浮かび上がっている総督府上層の球体を見上げて……現在地との距離にやや及び腰になるシノンであった。

 これも画像検索をすればお分かりだと思うが、先程ハルキが「ギリギリ届きそう」とした緊急ターミナルまでの距離は、ぶっちゃけ実際に狙撃を生業とするシノンからすればかなり無理のある距離である。彼女のヘカートⅡ(有効射程1800m)ならまだしも、使うライフルはシモノフPTRS1941(有効射程400m、一部800mとの記録あり)、かつ狙撃初心者であるハルキとなると土台無理な話である。

 

 

 「……だからこそ、シノンさんに頼んでるんだ。

 スナイパーの初めの一発は、バレットラインが出ないんだったな?」

 

 

 このGGOでは、実際の銃撃戦とは違って、初心者でも照準が付けられやすいようにバレットラインが存在する。

 だが、狙撃ポイントに隠れて一撃必殺を狙うスナイパーにとって、自分の居場所を教えるようなものであるそれは圧倒的に不利に働いてしまう。よってスナイパーのみ、初めの狙撃に関してはその予測線は出ない仕様となっているのである。

 

 

 「あいつとツェリスカさんが総督府に入ってから、もう十分以上経過してる。それでもGGOは元通りになってないんだ。

 間違いなく、あいつはなにかと戦ってる。手遅れになる前に……俺たちが援護しないと駄目なんだ」

 

 

 ヘカートとシモノフ。

 射程ではヘカートの圧勝だが、その使用銃弾はそれぞれ12.7x99mm NATO弾と14.5x114mmであり、シモノフの方が倍以上の威力がある。つまりは、最高火力を狙うならシモノフ、狙撃の正確性を考慮するならヘカートと言ったところか。

 ……それなら、いずれにしても対人では一撃必殺である以上、無難にヘカートで狙うのが最適解だ。

 

 

 「……だけど」

 

 

 だけど。

 ハルキには考えがあった。敢えて自分のシモノフで、敵を狙撃する理由が。

 

 

 「さっきツェリスカのホームで、ヘカートを持つだけでもかなりの重量制限を圧迫してるって言ってたじゃないか。

 シノンさんがシモノフを使えないなら、俺が扱うしかない。だから……俺に、狙撃を教えてくれ……!!」

 

 

 

 

 そんな彼女の真剣な瞳に、シノンはフッと短く息を吐くと。

 呆れ顔で、されど嬉しそうに言うのだった。

 

 

 「……理由、上がったら詳しく聞かせて貰うわよ。

 ようこそ、スナイパーの世界にね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「―――っぐ」

 

 

 迫り来るアサルトライフルの銃弾を、左腕のストックで何とか跳ね返し。

 

 

 「―――っぐ、ああっ」

 

 

 時にはそばのホロキーボードの映写台や、横並びになったデスクを楯にして。

 

 

 「―――っがああああっ!!!」

 

 

 一瞬の弾幕の揺らぎを見切って、非常灯の淡い明かりに照らされた人影に向かって突っ込んだ。

 緑の一閃と赤の電光が交差する。二つの光剣がエネルギーを弾き合ってばちばちと火花を散らし、両者の姿を照らし返す。

 

 

 「……何だ、中々良い顔をするじゃねぇか。

 やっぱりオマエには、()()()()の方が肌に合ってんじゃ……ねえかよ!!」

 

 

 横薙ぎに振るわれたPoHの赤い光剣が更に強引さを増す。反射的に手首の力を込めながらその圧力を弾き逸らして、かつ反動で敵の頭上に跳ね上がる。

 続けてアマノムラクモD7を振り下ろしながら宙返りをしてその脳髄を両断しようとするが、一瞬早く敵はその場を離れて光刃を躱し、そのまま距離を稼ぎながら素早く持ち替えたライフルで、こちらに銃弾で牽制をかましてくる。

 グラントとPoHの血戦が始まって、既に五分以上が経過している。そのGGO史上最長とも呼べる一騎討ちの間に幾度となく銃撃が飛び交い、着実にお互いの残弾は減っていっているものの……未だにその攻勢はどちらにも傾いていなかった。

 だが、二人の戦い方はまるで対照的である。PoHは銃撃メイン、敵に接近された時のみ光剣で対処するという堅実な戦い方を展開するのに対し、グラントはまるで狂犬の様に敵に齧り付き、右手のフォトンソードでの白兵戦に持ち込もうとしていた。

 ……なぜ、わざわざ銃弾の中を飛び込むという無謀な行為をしているかと言えば、である。

 

 

 「……うぐッ、このっ……!!」

 

 

 リアルの戦闘において、如何にライフルにフルオート性能が備わっていたとしても、敵に向かって掃射を試みるという選択肢はあまりとられない事が多い。単に銃弾の無駄遣いになるからだ。

 その代わりに、引き金を一瞬引いて直ぐに戻す事で、数発だけ撃って敵の出方を伺い、再び数発……という、いわばグラントのVP70の様な「バースト射撃」を再現する銃の扱い方が存在するのだ。

 「指切り」という、FPSゲームなどでも取り上げられるその撃ち方は、実銃射撃の経験があり、また一般的にフルオート銃が市販されていない経緯からある程度の従軍経験を持つ人間でないと完全習得は難しいとされるものだ。その代わりに、一回射撃するごとに敵のウィークポイントを冷静に狙い撃ちできるという利点も存在し。

 ―――かくして、その「指切り」射撃を当たり前のように使ってくるこのPoHという男には、遠距離戦においてV()P()7()0()()()()()()()()()()()()()()()()。その都度的確に防げていない身体の部位を撃ち抜かれてしまい、まるで反撃の機会を見出すことが出来ないのだ。

 現に場の流れは、何とかグラントがPoHから引き離されずに攻撃を重ねている為に拮抗しているものの……既に彼のヒットポイントは二割程失われており、対してPoHは未だ傷一つ追っていない状況なのだ。

 

 

 「おいおい、どうしたんだよ『阿修羅』ァ!! まさかこの程度でくたばったりはしねぇよなぁ!?」

 

 「……うっせぇなあ、このクズ野郎!!」

 

 

 銃弾に対してストックを掲げるも虚しく、右太腿を凶弾が掠ったことに更に焦りを掻きたてられたグラントは、いつになく声を荒げて再び突撃する。VP70の引き金を引いて応戦、向こうが一瞬手を止めた瞬間にその懐に滑り込みながら、光剣からナイフに持ち替えた右手で足首を斬りつけようとして……これもステップで回避されてしまう。

 一度この悪循環を断ち切る為に深追いを止めるべき。そう考えた彼は、直後に響いた金属音に敵の動作の確認もせずに、側のデスクの下に潜り込んで銃撃を逃れた。そしてすぐ横にぶち開けられた小穴から片目を覗かせて、因縁の殺人者が持つアサルトライフル……「M4カービン」を睨み付ける。

 

 

 「……くそっ」

 

 

 先程「指切り」を習得する為にはそれなりの軍事訓練が必要とされると言ったが、PoHの持つそのM4カービンというライフルもまた、現アメリカ軍の搭載装備の一つである。「カービン」とは通常の自動小銃よりも銃身が短い「小型のライフル」を意味する言葉で、その取り回し易さから米軍では近接戦闘や特殊部隊、空挺部隊による特殊任務にまで広く使用される名銃である。

 そして。そんな銃を「指切り」と共に使いこなしている事実こそが、このPoHという男がいかに()()()()()()()()()()()()()()という事を体現しているのだ。推定される職業は、警官か、軍事職か、犯罪者か、それとも。

 ……それとも、本物の暗殺者か。

 

 

 「……知った、こっちゃねぇや!!」

 

 

 だからと言って今更引き下がる訳にはいかない。この男はハルキを脅かし、自身の手下達まで殺戮の現場に送り込み、GGOを混沌に陥れたばかりか……先程ツェリスカを嬲り殺しにした、如何とも許し難い相手なのだ。

 怒りのままに潜んでいたデスクごと前に押し出す。地面を滑って突っ込んでいったそれをPoHが躱し、宙を浮かび上がったところを見計らって、光剣を手首のスナップを効かせて回転刃の様にして投げつける。これをPoHも自身の赤い刃で防いで弾き飛ばすが、その瞬間にグラントが地を蹴りながら撃ったVP70の一発が、光剣を振るってガラ空きになった脇腹を抉ったのだった。

 ……これでさっきの右太腿のダメージの分は取り返した。

 

 

 「……やるじゃねぇか! 日本人(ジャップ)が!!」

 

 「ほざけよ!!」

 

 

 だがそこで満足する訳にはいかない。前に飛び込んで投げた光剣を拾いざま、直ぐに身を隠したPoHの物陰に向かって、続いて腰のグレネードを起動させて投げ飛ばす。

 爆発。しかしあのPoHがそう簡単にくたばる筈もなく、暫く辺りを覆うであろう煙幕エフェクトに踏み込むと……どこから襲われても対処できるように両手の武器を注意深く構えて最大限に意識を研ぎ澄ます。

 

 

 

 

 「甘ェ―――」

 

 

 

 

 気が付けば、既にPoHはちびアバターの背後を取り、その喉をナイフで掻っ切ろうとしていて。

 ―――気が付けば、グラントの身体は()()()()()()()()()()()暗殺者の拘束から逃れようとしていた。

 

 

 「―――何だと?」

 

 「……な」

 

 

 右手を右手で押し上げてその下に頭を潜らせる。そして全身をカクンと落として背後のPoHごと重心を崩して、左肩から掴んだままの右手で袈裟斬りにする様に前に投げ飛ばす。

 後ろ肩手首締め取り呼吸投げ。合気道の技の一種であるそれをグラントが無意識に放てた理由は、たった一つ。

 

 

 (……親父さん、か)

 

 

 今まで殆ど言及がなかったから忘れていたが、玄太郎は奥多摩の沢登りに行った際に、春花の父親こと秋ノ介に定期的に道場に顔を出す様に言いつけられており、それ以来予備校の無かった日曜日にはほぼ毎週鈴風家の道場でこってり絞られる日々を送っていた。

 とは言っても簡単な護身術程度の事しか教わっておらず、勉強第一の生活を送っていた彼からすれば運動不足の解消程度にしかなっていなかった筈のそれは、しかしいつの間にか、彼の脳や身体に染み付いていた様だった。実はジョニーブラックに刺された時の傷が浅かったのも、無意識のうちに彼が急所を避けていたからなのだが……それは置いておいて。

 

 

 「……チッ……!」

 

 

 投げ飛ばすとは言っても、どこかSAO時代の姿を彷彿とされるPoHの大柄な身体とグラントのちびアバターでは明確な体格差が存在し、その為に技を受けたとは言ってもPoHは少し前につんのめる程度に留まっていた。

 この好機を逃すグラントではない。雷光の速さで左手の拳銃を体勢を崩している仇敵の背後に向けて引き金を引く。

 

 

 「くた……ばれっ!!」

 

 「舐めんじゃねェぞ……猿が!!」

 

 

 だが相手はプロである、ただで転ぶはずも無い。初めの一発は背中を掠めたものの、すぐに身体を沈めながらくるりとこちらを向いて光剣を突き出して来た。左腕を突き出したままのグラントはこれを上手く防げずに胸を浅く切り裂かれてしまい、続いて振り下ろされた二撃目になってようやく自身の光剣で捌く事が出来たのだった。

 

 

 「近付けば分があるなんて思ってねぇだろうなァ、こちとら()()()()()()()()()()()と思ってんだ!?」

 

 

 そうなのだ。

 銃撃戦で勝ち目がないのなら接近戦……という安直な考えが通用するほど、このPoHという男はやわな敵ではない。それどころか彼の「友切包丁(メイトチョッパー)」による剣裁きは、あのアインクラッド内において幾多ものプレイヤーの命を屠り、攻略組でさえ敵わないと恐れられた絶技なのである。

 ……ハルキはそれをはじまりの街で目の当たりにして、その余りに洗練された剣筋に彼がリアルでも人殺しを営んでいるのではないか、と推測したほどである。

 

 

 「俺はな、たかがオマエ如きに手柄を横取りされた事が我慢なんねぇんだよ。

 何が阿修羅だ。何が大量殺人者だ。オマエみてぇな実際に人も殺した事のねぇガキが、偉そうに俺の邪魔をするんじゃねぇよ」

 

 

 近接格闘術仕込みの本物の剣裁きがグラントを襲う。ブレード部分の重みがなく、ダガーと同程度にしか重量のないフォトンソードだ。まるでナイフ術の様にして襲い来る敵の赤い凶刃を、何とか防御するのに精一杯になってしまう。VP70を使うにも、下手に前に構えればその銃身を斬り飛ばされてしまいそうである。

 ……繰り返す様だが、だからと言って引く訳にはいかないのだ。

 

 

 「ああ、そうかよ。

 だったら、俺だって膿を全部、吐き出させてもらうぜ!!」

 

 

 瞳孔を窄めてそう言い返したグラントは、左手の拳銃を地面に落として、両手で力を込めて目の前の男にアマノムラクモD7を振り下ろす。

 当然それはなんなく敵の刃に受けとめられてしまう。加えてPoHの方がどうやらSTRが高い様で、そのまま鍔迫り合いを続ければいずれは力ずくで追い詰められてしまう。

 ……だからこそ、そこで光剣を左手に持ち替えたグラントは、右手で拳を作って相手の光刃には当たらないように振るい、()()()()()()()()()PoHの顔面に叩きつけたのだ。

 

 

 「―――がっ……!?」

 

 

 グラントの右腕が自身の光剣によって縦に両断される。だが手先から肘前までダメージエフェクトが走るだけで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 対してPoHは光刃の光から真っ二つになりながら飛び出して来た拳に不意を突かれて、防ぐこともままならずに大きく顔面をのけ反らせる事となる。

 だがまだ終わりではなかった。間髪入れずその縦にエフェクトの走った右手でナイフを掴むと、グラントはPoHの足首の腱を切り、鼠径部を薙いで……思わず膝を突いた因縁の相手の口の中に、その鋒をぶち込んだのだった。

 

 

 「……ごっ……!?」

 

 「お前が殺しのプロだって事は分かった。現実で相当鍛えられたんだろうな」

 

 

 ナイフの刃を上側に向けると、トドメと言わんばかりに口から頭の先まで斬り上げようと力を込めた。直ぐにPoHの両手がそれを阻止するべく、その刃物を持つグラントの右手に掴み掛かる。

 

 

 「でもな、俺から言わせりゃ、二番煎じの殺人者はお前の方だ、PoH。

 人を殺すプロと、人を苦しませて殺すプロは違う。そうだろ?」

 

 

 そして、その更に上からグラントは左手を添えて、更に上へ捻り上げる。ナイフの刃が口を裂き、鼻の下まで届く。流石に叫び声を上げるのはプライドが許さないからか堪えている様だが……その体験した事のない痛みと感触に、PoHは先程までの余裕を完全に失っていた。

 

 

 

 「ざまぁねぇな、それでもラフコフのリーダーだったのかよ。

 お前みたいなエセのチンピラが、勝手に俺の後追いじみたマネしてんじゃねぇぞ」

 

 

 

 現実世界で殺しを家業とするPoHと、仮想世界で殺しの原点となったグラント。その両者が、ゲームである事を捨て、遊戯であることを捨てて、お互いのプライドを蹂躙し、尊厳を踏みにじり、何もかもを奪い合う……ここで繰り広げられていたのは、正にそんな殺人者同士の戦いだった。

 そして、そんな中で普段ではあり得ない様な暴言を口走る様になったグラントは、既にGGOプレイヤーを逸脱した存在になりかかっていた。あのスタジアムでエムやピトフーイを圧倒した禁断の姿、そして彼本人も忌避して誰にも打ち明けなかった姿……「阿修羅」としての姿を取り戻しつつあった。

 

 

 

 ――― 阿修羅の具現化(アシュラ・インカーネイト)が、完成されようとしていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……本当に?

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……ふぐ、ォォォ!!」

 

 「ぐっ……!!」

 

 

 だが。そんなグラントの圧倒的優位な時間は長く続かなかった。

 PoHは足の痛みから回復するなり素早く、グラントの鳩尾に蹴りを叩き込む事でナイフを持つ両手を引っ剥がしたのだ。そしてナイフを口から吐き捨てると、直ぐにM4カービンを持って倒れ込んだちびアバターに肉薄、至近距離から引き金を引く。

 ……それに対してストックを掲げる暇もなく、転がって何とか射線から逃れようとするが、そう上手くいく筈もない。土手っ腹に数発食らったちびアバターは、その反動で背後のデスクの上まで弾き飛ばされて。

 

 

 

 「……もういい。お遊びはここで終わりだ」

 

 

 

 先程のグラントの挑発とも呼べる一連の攻撃が相当頭に来たらしく、そう告げるPoHの昏い眼には、既にこちらを弄ぶ愉悦は混ざっていない。ここでグラントに引導を渡す事で、当初の目的であったGGO崩壊の筋書きを完成させる……その事に徹する、任務に忠実な仕事人としての覚悟がありありと感じられた。

 そして。そんな中でもせめてもの意趣返しとして、グラントの小さな口に無理やり起動したプラズマグレネードを咥えさせると、自身は踵を返して遠くまで歩み去っていく。

 

 

 「……っぐ……!!」

 

 「死にな、阿修羅。お前が作った仮初めの伝説は、ここで俺に殺されて幕引きってわけだ。

 そんで俺は、オマエの仲間を全員殺す。SAOじゃ随分世話になった、あの『純傑』サマもここにやって来てるんだろ?

 さっきいたメンツは全員頭に記憶してるからな。一人残らず、さっきの女と同じ目に遭わせてやるよ」

 

 

 ……それを聞いたグラントの目の色が変わる。

 上体起こしの様に身体を振り上げてグレネードを吐き出し遠ざけると、すぐに左腕の暫定バックラーをその前に構えて、更に身体を宙で丸めてなるべくその後ろに隠れる様にする。

 その瞬間、彼の周囲は閃光に包まれて―――。

 

 

 

 

 

 緊急ターミナルのエリアの半分を、爆発の衝撃波が吹き飛ばしたのだった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。