SAO (シールドアート・オンライン)   作:ニモ船長

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 「これはSAOであって、ソードアート・オンラインではない」

 「何回やるんだよ」

 


エピローグ はじまりの旅路

 

 ―――2025年、12月24日。

 実は玄太郎と春花が神代博士にこってり絞られGGOに再ログインしてから、PoH率いる海外プレイヤーを追い払ってGGOが元通りになるまで、半日くらいしか経っていなかったりする。この作品史上最も濃厚な数時間である。

 そして、それからさらに一週間が過ぎた頃のこと。

 

 

 「……お久しぶりです。グラントさん。

 オフ会にはいらっしゃらなかったので、リアルで会うのは初めてですよね」

 

 「うむ。くるしゅーない、ちこーよれ」

 

 

 春花は現在外出中だ。何でも新たな仲間となったシノン/朝田詩乃の歓迎を兼ねて、明日奈や里香とエギルの店でランチを兼ねた女子会をするのだとか。

 なのでつい数秒前までは病室には玄太郎一人である。看護師が運んできてくれた院内食を威勢良く平らげた彼には、しかしこの後のんびりする暇は残されておらず……いや、受験の話も確かにそうなのだけれど。

 彼にはあとちょっとだけ、今回のGGO事件に関してやらないといけない事があった。

 

 

 「いや、北海いくらさんから聞いて驚いていたんですよ。現在グラントさん……玄太郎さんが、刺されて入院中だなんて」

 

 

 そう言って玄太郎の隣の椅子に腰掛けるのは、ビジネスマンライクな服装にオールバックの髪型で纏めた……アインクラッド内に於いてはグラントと共に、最終盤のはじまりの街の治世を行ったシンカーだった。

 

 

 「むむ? その北海いくらさんは来てねーんすか? 確か二人で来るって言ってたような……?」

 

 「ああ、はい。仕事の都合で来れなくなってしまったそうです。グラント君に申し訳ないって伝えて下さい、って言ってましたよ」

 

 

 玄太郎が病院に搬送された次の日の夕方に、一度北海いくらはこの病室に見舞いに来てくれている。

 そしてその時、彼は涙ながらに玄太郎と春花に向かって謝罪をした。自分が春花を巻き込んだせいで、彼女に申し訳ないばかりか結果的に玄太郎まで最悪の事態に巻き込んでしまったと。遂には土下座までやり掛かったところを、ようやく二人がかりで阻止して。

 とんでもない、むしろこちらこそ……と落ち着くまでに三十分近くの時間を掛けた先日の出来事が、何とも懐かしく感じる。

 

 

 『薄塩たらこの死因は、結果として「死銃」による他殺だと見直されて、再調査が行われるそうです』

 

 

 ……その時の、北海いくらの報告である。

 

 

 『あいつは純粋で、貪欲な人間でした。私のようにヘビーユーザーとは言ってもリアルとある程度の折り合いを付けるタイプではなく、少しでも気が緩むとすぐに廃人の様な生活を送ってしまう……そんなどうしようもない奴で。

 でも、MMOゲームで強くなりたいと思った彼は、決して恨みを買って殺されたかった訳じゃない。ただ、自分が輝ける場所を見つけたい……それだけの、ただの馬鹿野郎だった』

 

 

 ―――しかし彼の無念は。その口上を最後に、北海いくらはこう纏めた。

 彼の無念はきっと、お二人のお陰で綺麗さっぱり晴れてくれた筈だ、と。

 

 

 「むむ……さいですか。彼も今回は大変だったろうし、一人にして大丈夫なんですかい」

 

 「はは、あいつも大人の男です。誰かに縋るまでもなく、必ず立ち直りますよ。

 それに……一人にしておいた方が、いい時だってあります」

 

 

 ……そして後日。

 シンカーの言う通り、北海いくらはGGOでのアカウントを削除して、今度こそSAOデータを引き継いでALOにログイン、見事に友人の死から立ち直ってグラント達に元気な姿を見せるのだった。

 更には実質的なグラント帝国のサブメンバーとして、シンカーとのツテも利用したギルドの広報や情報収集係を勤めることになる。

 

 

 

 「さて。それでは本題に入りますよ。ザスカー日本支部の社員の方から、君の説明を参考にして欲しいという紹介を受けましてね。

 そして……その上で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という要請も、彼女から預かっています」

 

 「……()()、ね。流石に仕事が早いっすねー」

 

 

 

 さて。ここから話は打って変わる。

 もう分かったと思うけれど、シンカーがここに来た理由は……今回起きたGGOでの一件を、VRMMO界隈で最も知名度の高い情報サイト、「MMOトゥデイ」にて取り上げるかどうかの是非を判断する為であり。

 

 

 「ですが、それを検討するにはとにかく情報が少な過ぎる。

 ネットの書き込みでもちらほらとGGOで何かがあった事を示唆するものは散見されますが、具体的な事実が分からない限りは記事も書きようがないと思い、ここ数日ずっとザスカーに問い合わせていたんです。

 だから、玄太郎君の方から連絡がやって来た時は驚きましたよ。それに加えて、君もまたあの担当職員の方と同じように、今回の事件に関して取り下げて欲しい……なんて言うものですから」

 

 

 そんなシンカーの言葉に手を振って応じながら、玄太郎はあの日……戦争に参加したプレイヤー達のデータ復旧の後に再会した、あの銀髪の女性プレイヤーを思い出していた。

 

 

 「ま、そうなるっすよねー。そっちからしたら格好のネタでしょうし、そもそも利益を度外視したって報道するべき事柄だろうしなぁ。

 

 

 ―――でもね。俺はあのゲームには、未来があると思ってるんでね」

 

 

 ……それを説明するには、あの日の朝の話をしなければならないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まず、当時GGOにログインしていたプレイヤー達は一度、全員総督府に集められて、そこでザスカー社員からの謝罪を受ける事となった。

 彼等は今回の件に関して一応の黙秘を要請したが、最終的な判断に関しては各々の自主判断に任せるつもりらしく、なぜあのような事態が勃発したかのあらましをほぼ隠さずにユーザーに申し開いたのだった……隠したのは、PoHというSAO事件と関係のある人間の関与についてのみである。

 そして、一部キャラロストの被害を受けたプレイヤーへのお詫びギフトを始め、今回協力してくれたプレイヤー全員に特典の付与……そして、一番忘れてはならないセキュリティ管理のさらなる徹底化を確約、近日中に大々的な運営改革を行う声明文を公開する事を宣言したのだった。

 ……その運営スタッフの中に、「彼女」はおらず。

 

 

 『とは言ってもオルス氏。そんな一大改造を行うだけのテマヒマは、今のザスカー日本支部にはあんのかい? それが出来るんだったら何で今までやんなかったって話になるんじゃねー?』

 

 『よ、容赦ないっスね、いやマジで。

 でもそこは問題ないっスよ。事実、()()()()()()()()()()()()()()()、この日本サーバーにテコ入れする事が出来るようなモンなんスよ。いやマジで』

 

 『んん、よく分からないぞ? 利用するって、一体どういうことだ?』

 

 

 上からグラント、オルス、ハルキである。運営スタッフ達の謝罪会見の後、すっかり夜が明けてしまったGGOの暁空を眺めながら、ようやく一堂に会したグラント帝国の面々は、総督府の傍に存在した展望台のベンチに並んで腰掛けて一息ついていた。

 ……そんな彼等に向かって歩み寄る、一人のプレイヤーがいた。

 

 

 『簡単な話だわ~。

 この半日で起こったことを、()()()()()()アメリカの本社に報告すればいいのよ~』

 

 

 オルスとハルキが一斉に立ち上がって、歓声を上げて「彼女」に駆け寄った。そのアバターはロストする前と遜色なく復元されており、数分後の彼女が言うにはアイテム等のデータ関係も、じきに問題なくロールバックが完了するだろうとの事だった。

 

 

 『ただいま、心配を掛けたわね。オルス君、ハルキちゃん……そして』

 

 

 二人を両手で迎えて、がっちりと握手。少しの間はお互いの温もりを確かめるようにそのままでいた彼女は、しかしやがて、おもむろに……二人の後ろで漸くのろのろと立ち上がった、一人の少年に微笑みかける。

 

 

 『ただいま、グラントくん。

 ありがとう。GGOを守ってくれて、嬉しいわ』

 

 

 フルフルと頭を振って、まるで夢見心地な表情でこちらを見つめる落武者くんの前まで歩み寄ると、彼女……復活したツェリスカは、泣く子をあやす様にしゃがみ込んで茶髪の頭を優しく撫でるのだった。

 

 

 『……どうして。

 だって、あなたが持ってたスタッフ認証は、まだ俺が』

 

 『私達運営スタッフは、こういう万が一の時に備えて、いつでもアカウントを復旧できるようにバックアップを取って置いているのよ~。

 まだ戻ってきたばかりで、後であなたのアカウントからは認証を切り離さなければいけないけれど……それよりもまずは、無事を伝えたくて』

 

 

 前述したように、ツェリスカがあのオフィスで日本サーバーにいる全ユーザーのバックアップデータを取得する作業をしてくれていたおかげで現在、滞りないユーザー達のデータ復旧が進んでいる訳なのだが。

 そんな中、自身のアカウントに紐付けされているツェリスカのスタッフ認証に関して、今まで誰にも言及されなかった事から……グラントは密かに覚悟していたのである。きっとあの時、彼女は彼女達社員のデータまでは取得できなかったのではないかと。

 ……いや、そんな小難しい話は抜きにしても。

 

 

 『お……俺は、あなたがほんとに』

 

 

 あの時の様に、自分の目の前で。

 グラントはPoHの手によって殺された彼女を、無意識のうちにベータテストで殺されたオトタチバナと重ねていたのだ。だからこそ、その死は永遠の別離を意味すると……勝手に思い込んでいて。

 だが。ツェリスカはそんな落武者くんに、しょうがないわね~、と一つため息をつくと。

 

 

 『忘れないで。ここはゲームなのよ。

 あなたが戻してくれたんじゃない。 この世界を、戦場から、ゲームに』

 

 

 それを聞いた瞬間。

 グラントの両目から、ほろほろと涙が零れてきて。

 

 

 『……お、おろろ……あ、ダメだ……これ』

 

 

 自分でも驚いて呟きながら、されど収まる事は無く。

 その場で膝をつきそうになる彼を……ツェリスカがぎゅっと抱き締めて。

 

 

 『……良かった、ほんとに……良かったな、グラント』

 

 

 その上からハルキが、続いてトミィが、オルスがマソップはトミィに巻き込まれて重なっていき、やがて……彼等は一つの輪になった。

 

 

 『ツェリスカさん、生きててくれて……。

 ハルくんも、トミィ氏も、オルス氏もマソップ嬢も……一緒にいてくれて……』

 

 

 ―――ありがとう。

 その掠れた声が、静かなグロッケンの朝に溶け込んでいって……。

 

 

 

 

 

 

 

 「うっわースゲー黒歴史になりそーだわー」

 

 「グラントさん? 何の話ですか」

 

 

 感動シーンを台無しにして申し訳ないけど、よく考えたら大人の女性と年下の彼女、さらにかわいいギルメンに囲まれる中、ギャン泣きしてしまったのである。マジで大失態である。

 

 

 「……ゴホン、それじゃ、あの時何があったのかを説明しますけどね。

 でも、重ねる様ですけど、これだけは分かって欲しいんです。あのGGOはこれから更に神ゲーになる、そんな可能性を秘めたゲームなんだって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――グラントが落ち着いた後。ツェリスカはオルスと共に、先程言いかけた今後について解説をした。

 そもそも今回の事件がどうして起こったかと言えば、PoHの扇動に乗せられたのもあるが、主にキルオという運営側の人間が過激なGGOユーザーに加担したことによるものが大きいだろう。

 そして彼は他ならぬザスカー社長の御子息であり、オルスの弟なのである。

 

 

 『この事が世間にバレたら大変っスよね。いやマジで。

 ザスカーの次世代の担い手になる筈の社長令息が、他ならぬ自社のゲームを脅かした事が分かったら、日本だけじゃなくてアメリカでもそれなりに話題になる筈っス。いやマジで。

 ……()()()()()()()()()()()()()()()って訳っスよ。いやマジで』

 

 

 つまりだ。

 今回の事がバレたら、間違いなく当事者のキルオは事件を起こした説明責任を問われるだろう。

 そうなれば、ザスカー兄弟に存在した確執や一家の不貞行為も世間に晒される事になる。

 そこに加えてGGOで起きた過激なRMTによる争奪戦である。そうなればザスカーなんて一瞬で社会的制裁を受けて事業縮小、終いには倒産にまで追い込まれかねない訳だ。

 

 

 『その鍵を握っているのが、日本サーバーの職員って事になるわね~。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のよ~』

 

 

 えげつねぇ戦法である。さらにこっちには当事者であり、キルオの件の証人にもなりうるオルスまでいるのだから本社側はたまったもんじゃない。要は日本支部は「下手に高圧的な態度を取れば、スキャンダルを暴露するぞ」とアメリカ本社を暗に脅すつもりなのだ。

 ……とはいえその申し立ての内容は、セキュリティ対策を始め今まで以上のGGO日本サーバーの充実を目的とした、ユーザー想いの改善案なのだけれど。

 

 

 『いずれにしてもキルオにはザスカーを辞めてもらうっス、いやマジで。

 その代わり、ここで事情を公表しないで晴れて自由の身になって一からやり直すか、はたまた素性を全て明かしてザスカーと心中するか……その選択を選ばせるつもりっスよ。いやマジで』

 

 

 もともとキルオの目的は、ザスカーを潰して家族の因縁と決着をつける事だった。

 そして、ザスカーを退職して、父親の抱え込みからも離れて自由になるというオルスの提示する選択肢は……彼の願いに全て叶うものなのだ。

 つまりそれは禍根から解放するための、兄による弟への慈悲という事になる。

 

 

 『パピーは体裁を何より気にする筈っスからね、多分こっちの要求を全部呑んででも、今回の事件を隠蔽しようとする筈っスよ。いやマジで。

 その分、こっちはこっちでやらせてもらうっスよ! BoB以外にも沢山イベントを実施して、今まで以上にGGOを盛り上げていくつもりっス! いやマジで』

 

 

 ―――ちなみにそんなオルスを始めとした運営陣の意気込みを象徴したイベントが、この数ヶ月後には実施される事となる。

 とある小説家が「BoBのチーム戦をやって欲しい」と彼等に打診を計り、更には彼自身がスポンサーとして名乗りを挙げたのがきっかけで……いずれはGGO全体でBoBに次ぐ知名度と規模を誇る一大大会が、定期的に開催される事になるのだ。

 

 

 

 

 

 ……その大会は、スクワッド・ジャムと名付けられるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「なるほど」

 

 

 再び、12月24日。

 GGOで起きた戦争の詳細をグラントから聞いたシンカーは、暫くの間顎に手を当てて考え込んでいた。

 

 

 「……事情は分かりましたよ、グラントさん。

 確かに、それでGGOプレイヤー達それぞれが納得をしているというならば、これ以上私達マスコミ側の人間が騒ぎ立てる必要もないのかもしれません。

 VRMMORPGゲーマーに有益な情報を伝えるのが我々の責務であって、決して既に解決しかかっている問題を、掘り返して糾弾する様な真似をしたい訳ではありませんから」

 

 

 しかし、その熟考の末に彼が出した結論を聞くや否や、いつの間にか強張らせていた頬を玄太郎は綻ばせていた。

 

 

 「助かりますよ、シンカーさん。

 あーあ、運営でもないってのに息が詰まるわー、後でオルス氏には何かおごってもらおっと」

 

 「そういえば、オルス君とは漸く再会したって事になりますけれど、彼は今後どうするつもりなんですか……?」

 

 「えっと、オルス氏のキャラはあくまでGGOで作られたデータな訳で、いずれ近いうちにSAOのキャラの引き継ぎをやってもらってALOに呼ぶつもりですよ。

 んで、彼自体は……当分の間は、ザスカー日本支部に留まるつもりらしいっす。本社からは帰って来いって再三言われてるそうだけど、全部突っぱねたったっスよ、いやマジでって」

 

 「はは、それは驚いた」

 

 

 静かな病室の中に、二人の乾いた笑いが響いた。外は快晴で、穏やかな日光が玄太郎の横たわるベッドに降り注いでいる。

 

 

 「さて。久しぶりに会ったというのに申し訳ありませんが、私はそろそろ失礼させてもらいますよ。

 仕事もたんまり残っていましてね。今年は豊作だ、ザ・シード規格による世界が、まるで花畑の様に咲き乱れている」

 

 

 ……が、そんな穏やかな時間も長くは続かなかった。そんな言葉と共に、シンカーは手帳をしまうと、椅子から立ち上がって、そう残念そうに口を開くのだった。

 

 

 

 「グラントさん。最後に一つだけ、聞かせて下さい。

 このVRMMOという、一つのコンテンツは……これから、どういう方向に進んでいくと思いますか」

 

 

 

 ―――仮想世界の語り部であるシンカーは、かつて仮想世界を治めようとしたグラントに向かって尋ねてみる。

 それは同じSAOと言う世界を生き抜いた者なら、誰もが思いを馳せる疑問であって。

 

 

 

 「……そんなの分からんさー……でも」

 

 

 

 それにグラントは、一つの答えを提示するのだった。

 

 

 

 

 

 

 「分からないけど、()()()()()()()()()()()()()()が必要なのは、間違いないと思うかね。

 まだ対応の遅れている警察機関や、運営とはまた独立した……真に中立で、純粋に問題を抱えたプレイヤーに支援をする事の出来る、そんな存在が」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「驚いたな。君とは、てっきり真逆の立場に立っていると思っていたのだが」

 

 

 

 その時。

 玄太郎の病室に、()()()()()()が姿を現した。

 

 

 「……ちょっと待った。何時から聞いていたんだ?

 来ていたんだったら入ってきてくれれば良かったのに」

 

 「済まなかった。職業柄、取引先の人間の志向を探るのが癖になっていてね」

 

 

 ……そうシンカーと気兼ねなく話し合う人間を、玄太郎はこっそりと観察した。

 格好はサラリーマンそのものなのだが、漂う清潔感がやけに人間離れしているせいか、どこか狐狸妖怪の類を連想させる雰囲気の持ち主だ。

 

 

 「……信田玄太郎君、だったね。

 君にも謝罪をするとしよう。先程の会話を勝手に盗み聞きしてしまい、申し訳なかった」

 

 「……いえ、まあ何て言うか、らしいっすね」

 

 

 実は玄太郎はその、切れ長の眼に細面の色気立っている来客とは面識があった。

 ―――ただし、()()()()()()()。一年前に終焉を迎えたあの浮遊城にて彼等が滞在した、あのはじまりの街で。

 

 

 「()()()()()()()()()()()()と、()()()()()()()()()()とでは決して相容れないと思っていたが……どうやら、行き着いた結論は同じ様だ」

 

 「それでいいんすよ。仮想世界を全面肯定するだけの世間じゃない事くらい、SAO生還者なら痛い位に分かってますって。

 ……立場の違う人間同士が話し合ってこそ、議論ってもんです」

 

 

 口元に薄ら笑いを浮かべながらそう続ける来客に、こちらもニヤリと笑いを浮かべながら返答する玄太郎。

 それを見守るシンカーは、一人固唾を呑んでいたが。

 

 

 「……実に賢明な判断だ。この男からは、玄太郎君……いや、グラント君は少々不精なところがあると聞いていたのだが」

 

 「オイコラシンカーテメー」

 

 「いっ……いや悪気はなかったんですよ……!? この男は容赦がないところがあるから、子供相手には手加減してやれって……それじゃ、またALOでっ!」

 

 

 尻尾を巻いて逃げ出したシンカーだが、まあ彼の気持ちも分からんではない。

 何せ、今玄太郎の前にいるのは、SAOキャラの中でも飛びぬけて観察眼の高い、「探偵」なのだから。

 ……それも、VRMMO専門の。

 

 

 「……彼は放っておくとして。

 それでは要件に入らせてもらうよ、グラント君。まずはこれを」

 

 

 ―――そうして、その狐顔の男は……玄太郎に、名刺を差し出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「クローバーズ・ネットワークセキュリティ・コーポレーション、代表取締役社長。

 ―――暮井海正です。……君にはクレーヴェルと名乗った方が、分かり易いかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三度目だが、12月24日である。

 つまりは、クリスマスイブである。

 ……だというのに、その午後をエギルの店での女子会に費やしたハルキは、その後玄太郎の病室に寄らずに帰宅した。一度ちゃんと自宅に顔を出して面と向かって父親に事情を説明すべきだと、彼に諭されたのである。

 そしてそのまま、道場の皆と父親に料理を振る舞って、一緒に団欒を囲んで……気が付けば、時刻は()()()()()()()()に迫っていた。

 

 

 (アスナとシノンは今頃、二十一層のフロアボス攻略かな)

 

 

 数時間前に会った明日奈と詩乃はとても仲が良く、どうやら既にシノンはアスナやキリトに誘われてALOへとコンバートをしていた様だった。何でもその氷のスナイパーは向こうでも、中距離用の武器である弓で超遠距離からの狙撃ムーブをかましているらしく、既に実力は最前線である新生アインクラッドでも通用する程にまで成長しているとか。

 ―――しかし。そんな中、ハルキはまだ、元通りになったGGOの薄暗い曇天の下に降り立っていた。

 

 

 「遅いわね~。女の子を一人待たせるなんて、グラントくんもやっぱりまだまだね~」

 

 「……まあ、ツェリスカさんがいるから一人じゃないんだけどな」

 

 

 グロッケンの高速道路前にやって来たハルキの隣には、先日まで共に戦った戦友であり、彼女の良き母親分であるツェリスカが並んでいる。

 どうやら今日の彼女達の予定を聞いて、その見送りに来てくれたようだ。

 

 

 「ツェリスカさん」

 

 

 それならばと。

 ハルキはその、歴戦のガンマンと運営スタッフという二つの顔を持つ女性プレイヤーに向けて、語りかけたのだった。

 

 

 「あの時、スタジアムで励ましてくれて、ありがとな。

 あいつとちゃんと向き合わなかったら、俺……」

 

 

 ―――当時のツェリスカの功績は大きい。

 あの時ハルキがグラントと向き合う覚悟を決めて、春花として玄太郎の元に向かっていなければ……彼はジョニーブラックに刺されて殺されていただろう。万が一それが起きなかったとしても、今回起きたこの戦争を乗り切る事なんて到底不可能だった筈だ。

 その起動力として彼女を叱咤激励したのが、ツェリスカだったのだから。

 

 

 「あなたみたいな人が、運営で良かった。

 これからも頑張ってな。前にやってたゲームにコンバートする事もあると思うけど……その時は必ず、また戻って来るからさ」

 

 

 だからこそ。過去を振り返った自分達が、これから未来に向けて歩みだすことを、ツェリスカに報告したくて。

 そんなハルキの感謝の言葉にツェリスカは目を細めて、ここ数日GGOで活躍したその黒髪の女剣士を見つめると。

 

 

 

 

 

 

 「……それじゃあ、答え合わせをしましょうか。

 見つかったかしら? あなた達二人にとっての『現実』が、どこにあるか」

 

 

 

 

 

 

 「ああ。見つかったさ」

 

 

 ―――やがて、二人の前をよぎってやって来た、一台のジープに向かって歩み寄りながら。

 ハルキは振り返って、満面の笑みを浮かべたのだった。

 そして、それを見たツェリスカは……答えを問う事をやめて、ゆっくりと頷く。

 

 

 「へーい嬢ちゃん! 乗ってくかーい?

 ……あ、ツェリスカさんもご一緒します?」

 

 「いいえ、私は遠慮するわ。この後もまだ仕事が溜まってるのよ~…………

 

 「……ご愁傷様です、うむ」

 

 

 シンカーもそうだったけど、大人は大変である。VRMMOゲームの運営に、年末も何もあったもんじゃないらしい。

 それはともかく。ジープの運転席から上半身を出してそう軽口をたたくちびアバター……グラントの頭をポカリと叩きながら、ハルキは助手席へと乗り込むのだった。

 

 

 「ハルキおねえちゃん、こんばんは! メリークリスマス!」

 

 「メリークリスマスっす! いやマジで」

 

 「クリスマスは12月25日であって今日はイブだから正確にはメリークリスマスじゃないんだぜ常考」

 

 「御託は良いから空気読め鎖骨prpr女」

 

 

 それは数日前のグロッケン決戦にて、オルスが運転していたジープだった。どうやらデータのロールバックの恩恵を受けて、この大破した筈の乗り物も復活していたらしい。

 その荷台では、気の知れた仲間……外見シュワちゃん、中身子供のトミィと金髪グラディエーターのオルス、最後にトミィに抱えられた幼女アバターのマソップがくつろいでいる。

 ……SAO事件から一年以上かけて、漸く全員集合したグラント帝国のメンバーだった。

 

 

 「さーて。それじゃ、準備は良いかい?」

 

 

 そして。このメンツが集まっているという事は、つまり。

 グラントは気持ち悪ーい笑みを浮かべながら、アクセルを踏んで……言いやがったのだ。

 

 

 

 

 

 

 「それじゃ、只今をもちまして!!

 グラント帝国、完全復活を宣言するぜぇぇ!!」

 

 

 

 

 

 ―――また、あの時の様に。

 あの時の様に、馬鹿やって、無茶苦茶して、世界の果てまで楽しんで。

 ……そして、理不尽に抗うのだ。ここにいる、みんなで。

 

 

 「―――しゅっぱーつ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 ……ギルドマスターの号令と共に、ジープはGGOの荒廃した世界を駆けだしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この、数多に広がる、仮想世界に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「なあ、グラント。

 一つだけ、確認していいか?」

 

 

 

 荷台に座る三人は、既に眠りについていた。

 

 

 

 「……ん、どうしたの?」

 

 

 

 奇跡的に雲が切れて、空は晴れていた。

 その夜空の下で、ハルキは隣で運転をするグラントに、尋ねた。

 

 

 

 

 

 「オトタチバナさんの事、好きだったのか?」

 

 

 

 

 

 夜のとばりが降りていて、彼の表情は見えなかった。

 それでも、ハルキはその相棒の横顔を見つめ続けて。

 

 

 

 

 

 「……そっか、だからだったんだなあ」

 

 

 

 

 

 ―――やがてぽつりと聞こえた、その呟きに……そっと彼の肩に両腕を回すのだった。

 

 

 

 

 

 「俺は、確かに……あの人を、愛していたんだ」

 

 

 

 

 

 かつて生きたあの世界で、彼は愛する人を失った。

 だから、あれだけ悲しかったのだ。その心の痛みこそが、彼があの世界に見出した、『現実』。

 

 

 

 

 

 「……グラント。

 これからも、俺達を守ってくれよな」

 

 

 

 

 

 そして、今は。

 あの浮遊城で共に生きた仲間が、ここにいる。ALOで、GGOで知り合った、沢山のプレイヤーがいる。

 それこそが、彼等が自分達自身で運命から勝ち取った、『現実』。

 

 

 

 

 

 「……うん。

 守らせてくれて、ありがとね。ハルくん」

 

 

 

 

 

 それならば。強さを捨てて、トンデモプレイヤーに生まれ変わった彼が歩むべき道は、もう定まっている。

 それを、自分の小さな肩に寄り掛かって来た恋人の頭に、頬を摺り寄せながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……絶対に、守ってあげるからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――荒野は、どこまでも続いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シールドアート・オンライン

アシュラ・インカーネイト編 ~ファントム・バレット~

 

 




 




















 「……なあ、アンタ怪しすぎるだろ」



 「ホントは死銃事件のカラクリ、全部分かってたんじゃねーのか?」



 「犯人は現実と仮想の両方で被害者を殺害していた。
 ……犯行が複数犯によるものだったなんて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だろ。それを公務員で警察とも連携の取れるアンタらが、気付かない訳ないよな?」



 「その上で、アンタは知りたかったんだろ? 菊岡さんとやら。
 アミュスフィアは人を殺さない。それでも人が死ぬとして、それがアンタの考えた複数犯によるものでなかったとしたら。
 万に一つの可能性として、『仮想世界のアバターと、現実世界の人間を繋げる何か』に影響が出たんじゃないかって、そう考えて……キリトをGGOに向かわせたんじゃねーのか?」













 「つまり、アンタは知ってるんだよ。









 仮想世界と現実世界を繋げる、()が存在する事をな」



 
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