ローズクイーンと千本剣   作:天井舞夜

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傍若無人

 センリとエンジェは都市の出入り口の1つでイスに座りお菓子を食べながら本を読んでいた。

 正確にはセンリがエンジェに読み聞かせをしていた。

 そしてセンリとエンジェの他にもう1人。

「センリ様! そんな暢気にしていていいんですかー!」

 手の平サイズでサイドテールの可愛い妖精は見た目通り幼児特有の高く舌っ足らずな声でセンリの耳元を飛び回りながら大声で言った。

 妖精の名前はリングベリー。伝心の妖精である。戦闘能力は皆無である。

「リン、耳元でキーキー五月蝿いわ。蚊より五月蝿いわ」

「蚊ってどういう事ですかー! センリ様は危機感が足りな過ぎます! 強盗竜団の頭領は一応ギルドランクS級の強さですよ?!」

「私はSSだけど」

「うぅ~。あ~言えばこう言う!」

「ねぇねぇ! リンも一緒に本読もうよ」

「エンジェ様もです! 大体何でエンジェ様がここにいるんですか?!」

「私の側にいるのが1番安全だからね。強盗竜団とやらはギルドでも10指に入る強さのチェルを殺しかけたんだ。とてもじゃないけれどそれより弱い人達にエンジェを任せられないわ。その点私なら例え強盗竜団と頭領含めて全員を同時に相手して、さらにエンジェを完全に守りながらでも頭領含めて全員殺す事ができる。それどころか頭領含めて強盗竜団は私に攻撃を当てる事も絶対不変に不可能ね。もしかしたら最初から私を殺す事だけに全力を注げば頭領含めて全員の命と引き換えに私の服を掠る事くらいはできるかも?」

 リンはセンリの言葉に詰まった。あまりに説得力のある言葉だったからだ。

 リンはかつてセンリと仕事をした事がある。

 とある秘密結社を壊滅させる仕事だ。リンは今思い出しても奇妙な仕事だと思っている。家族を殺された少女が自分を報酬に組織を根絶やしにするギルドランクSの仕事。その秘密結社はS級の強さを持つ者達──純血の吸血鬼、地獄の妖精、疾風の銃士……etc.すべて1人で全員殺した。それどころか勝負にすらなってなかった。リンは特にセンリが吸血鬼、銃士と戦った時の事は鮮明に思い出す。センリが最強の種族と呼ばれる吸血鬼を易々と血祭りに上げ、ゼロ距離の銃を余裕で避けた時はリンは呆れを通り越して相手側を同情してしまった。結局、その秘密結社は壊滅し裏社会のバランスは崩れてしまった。ちなみに件の少女は現在センリが所有している屋敷でメイドの仕事をしている。一応報酬として貰い受けた形だ。

 そんな最近の昔話は置いといて。

 リンはセンリの強さを間近で見ている以上、センリの強さに関して言えば文句も反論もできない。

「相変わらずセンリ様は傲慢ですね」

「そうね。だけど事実なの」

「だけど油断はしないでくださいね」

「それもそうだね。油断しても手加減しても絶対に勝てるだろうけど……。じゃあ賭する? 私が負けたら死んだらリンに私が持ってる全財産を上げる」

「…………」

 センリは生意気な笑みを浮かべる。

 自分が負けるなんて思ってない。正に高慢である。強者の高慢。それはあまりにも弱者を見下す発言である。それはある種、敵はもちろん味方さえも蔑ろにする発言であった。

 それに先のセンリの発言ほど下らない賭もないだろう。一体誰が絶対負けるとわかっている方に賭けるだろうか? 仮にリンでなくてもギルドメンバーは誰もこの賭に乗らない。センリが勝つとわかってるし、それ以上にセンリが負けるイメージができない。言い変えれば自分が負けるイメージしかできない。

「本当にセンリ勝てるの?」

 リンはエンジェに目を向ける。

 おそらく今回の仕事に関わっている中で唯一センリの強さに触れていない少女。

「だ、大丈夫よエンジェ! 昨日も言ったでしょ。私は強いのよ!」

 センリは顔を赤くしてエンジェに答えた。

 リンは急なセンリの態度の温度変化に驚いた。

 自分の強さについてどこか機械的で高慢に語っていたセンリの表情、言動が急に人間味を帯びる媚びた感じになる。

 先程は面白く脅すような、しかし今はカッコつけるようだった。

 しばらくリンはエンジェにデレデレなセンリを見る。

 するとセンリは突然顔付きを変え出入り口を見る。そして立ち上がり右手に剣を1本持ち左手でエンジェの手を取り立たせ、抱き寄せる。

「来たわ。エンジェ、リン。私から絶対離れないでね」

 リンはセンリの肩に掴まる。

 出入り口から銃火器を武装した竜人が侵入して来る。

 同時にリンは他の伝心の妖精と伝心した。

「センリ様! チェル様からです!」

 伝心の妖精は言うなれば電話や無線機のような役割ができる。

「何かしら?」

『こちらの出入り口から強盗竜団が侵入して来ましたわ! そちらはどうですの?』

「こっちも。どうやら多方向から同時に侵入する作戦のようね」

『私の方は頭領来てませんわ。センリの方は?』

「それらしいのはいないわ。そっちの方援護する?」

『いえ、頭領がいないなら大丈夫ですわ。ところでセンリの方も襲撃受けてるんじゃありませんの?』

「ええ。だけど……もう終わったわ」

 センリが伝心している間に、センリが待機していた出入り口から侵入を試みた強盗竜団のメンバーは全滅していた。

 剣を貫かれ、壁や地面に張り付けにされている者までいる。

 エンジェは呆然として、リンは呆れ果てている。センリはエンジェを抱き寄せて優雅に佇んでいる。

 壁に張り付けに強盗竜団の1人が呟く。

「くっ……! 白毛白瞳、剣の投擲。あなた……串刺し姫センリですか……」

 そしてそれは絶命した。

「私の方は大丈夫でしょ。今から私が直接強盗竜団頭領を潰しに行くね」

『……頼みましたわ』

 伝心が切れる。

 エンジェは言う。

「センリすご~い! あっという間だったね! カッコ良かったよ!」

「た、大したことないわ。これくらい! 荊の塔を上る方がよっぽど大変よ!」

 エンジェの素直な賞賛の言葉にセンリは照れてしまう。

 

 

 

 とある建造物の屋上。

 狙撃銃を構えスコープから、伝心妖精を介してチェルと会話しながら強盗竜団の部隊1つと戦闘した光景を見ていた強盗竜団の狙撃担当のメンバーは激昂する。

「あの化け物が! ありえねー! 束縛天使どころじゃねーぞ! 戦闘特化な種族である俺達竜人をまるで赤子の手を捻るように皆殺しにしやがった! あの白髪の女はヤバい。俺の見立てでは実力は頭領と五分だ。とてもじゃねーが分が悪い。それならば遠距離から気付かれる前に銃殺するまでだ!」

 狙撃担当はスコープでセンリの頭に狙いを付けて引き金を引いた。

 

 

 

 はっきり言って狙撃担当の認識は甘かったと言わざるを得ない。

 結果的に狙撃担当の撃った銃弾はセンリに当たる事はなかった。なぜならセンリが回避したからだ。

 センリは銃弾が飛んで来た方向を見やる。

「狙撃ね」

 センリは左手でエンジェを抱きかかえた。

「エンジェ、リン。しっかり私に掴まってなさい」

「うん!」

「はい!」

 エンジェはセンリを抱きしめ、リンはセンリの服をさらに強く掴んだ。

 その時、さらにもう1発銃弾が同じ方向から飛んで来る。エンジェ目掛けて。

 センリは剣を振るって銃弾を防ぐ。

「ムカついた。必ず仕留める」

 センリはジャンプして建物の屋上に着地する。そして建物の屋上を飛び移りながら狙撃担当に近づいて行く。

 

 

 

 狙撃担当は恐怖を覚える。

 狙撃担当は銃弾を撃つ。撃ち続ける。

 しかし、センリは段々と近づいて来る。

 銃弾を回避して、剣で防いでまるで舞うように……。

「チクショオオーー! 化け物が! 化け物があああ! なんで当たらねーんだよ! 当たれよ! 当たれよ! なんで弾を避けれるんだよ!」

 狙撃担当は引き金を引くが銃弾が発射されない。装填していた銃弾が切れたのだ。

 狙撃担当は新たに銃弾を装填しようとするがいつもみたいにスムーズにいかない。手が震えている。

「君が狙撃してた人……?」

 狙撃担当は上を向く。そこにはエンジェを抱きかかえてリンを肩に乗せて剣を1本持っているセンリがいた。

「ちくしょーーーー!!」

 狙撃担当はセンリと同じくらい大きい腕を振るう。

 しかし、腕がセンリに触れる前に狙撃担当は1本の剣によって串刺しにされた。即死だった。

「センリすご……」

 エンジェが呟く。

 センリは都市を見渡す。

「さて……頭領とやらどこかしら?」

「センリ様! チェル様からです!」

 センリは伝心を受ける。

「どうしたの?」

『センリ、頭領はブルーブルー教会に向かってるみたいですわ!』

「ブルーブルー教会? 何でまた」

『あれを盗むつもりみたいですわ』

「あれ?」

『あれですわ』

「あれって何?」

『あれはあれですわ。ほら、ブルーブルー教会の奥にあるあれですわ』

「……ああ! あの変なの?」

『たぶんそれですわ』

「あれ、そんなに価値あるの?」

『一応あれ純金らしいですわよ』

「本当に?! ハート・ブルーブルーってあまり頭良くないのね。お金をドブに捨てるなんて……」

『まったくですわ。……じゃなくって! どうするんですの? 助太刀必要ですの?』

「ありがとう。だけどいらないわ。まあ、見学したいなら見学に来ればいいよ。強盗竜団頭領だかなんだか知らないけれど私に勝てるわけないし殺せるはずないもの。私ならエンジェもチェルも守りながら勝てるからね」

『楽しそうですわね』

「別に楽しくはないわ。どうせ私が勝つんだもの」

『ですわね。おかげで私達は安心できますわ。自分の命を最優先しても絶対に勝てますから』

「まあ、安心しててよ。どうせなら祝勝会や私のSSランクアップ記念会の準備でもしててよ」

『了解ですわ』

 伝心が切れる。

 センリはエンジェを強く抱きしめる。

 エンジェは顔が熱くなる。

(センリ、カッコいい! いつもは惚けた感じで可愛いのに。王子様みたい……)

「ブルーブルー教会まで行くわ。エンジェ、しっかり掴まっててね」

「は、はい!」

「どうしたのエンジェ? いきなり敬語で」

「な、なんでもないよ! ただセンリが王子様みたいでカッコいいな、なんて思っただけだよ」

「あう。そ、そうかしら? あ、ああ、ありがとうエンジェ!」

 センリは顔が綻ぶ。

 どんな評価であれ思い人に誉められるのは嬉しいもので、センリはカッコいい表情を崩し締まりのない顔はデレデレだった。

 これまでたくさんの町を壊滅させた強盗竜団頭領を倒しに行くとは思えない緊張感のなさだ。センリは違う意味で緊張しているが。

「あの~……センリ様? イチャイチャするのは構わないけど早く行きません?」

 センリはハッとした。

 リンが冷ややかな目でセンリを見ている。

(ヤバい。これじゃギルド内で本当にロリコン疑惑が蔓延する! 相手が同性なうえに童子だなんて目も当てられない!)

「リン! 別に私はイチャイチャしてないわ。もしそう見えるなら君の目は節穴ね」

 別にリンの目は節穴でもなんでもない。

 現在リンの中のセンリへの評価はデフレスパイラルだ。しかし、どこか人間味が欠けた──否、人間味に似た人間味のような何かだったセンリと違い、今の正真正銘人間味に溢れたセンリの方が好感が持てるのもリンの中ではまた事実だった。

 センリは咳払いをしてから言う。

「とにかく! 今からブルーブルー教会に大急ぎで行くからね!」

 そしてセンリは神速でその場から離れた。

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