場所は大陸でも有数の大都市ブルーブルーのギルド施設。
センリはギルドの幹部からギルドランクSSの証明カードと賞状を受け取った。
センリがこれらを貰うまでの時間は幹部のよくわからない言葉──というのは語弊があり、実際どうでもいい言葉を並べていた。その時、主役のセンリはそんな幹部達の話は聞かずにエンジェとトランプでババ抜きをやっていた。幹部達が舞台の上で喋っている目の前の席で。流石の幹部も額に青筋を立てていたが根本的に彼らはセンリを気に入っているため文句は言わない。
そんなセンリにとっても他のギルドメンバーにとっても、とてもとても退屈な昇格式は終わり、今はギルドメンバー達がセンリの昇格祝いをしている。
現在センリはエンジェとともに幹部達からちやほやされている。
それを遠くから見ているチェルノフレイとウッドは会話する。
「まったくセンリには驚いたぜ」
「まったくですわ。史上最年少でギルドランクSになった私でも一生SSだけは無理そうですわ」
「まあ、あんな肩書きセンリのためだけに作られたようなものだからな」
「それにしてもガッカリですわ! まさかセンリがあんな小さい女の子に手を出すなんて!」
センリの名誉のために明記しておくと、センリはエンジェに手を出していない。
「まあな。そういえばこの前の秘密結社壊滅依頼のやつも小さい女の子が自分の体を報酬として出してセンリが引き取ってたな」
「まったくどういうつもりなのかしら?」
「なんだお前妬いてんのか?」
「や、妬いてなんていませんわ!」
「強がるな強がるな。お前はわざわざセンリの決め台詞を真似るほど大好きだもんな」
チェルノフレイは顔が赤くなる。図星だ。
「そういえばエンジェは一体どういう子なのかしら?」
「さあ?」
「この前の身をセンリに差し出した子はセンリの妹に似ているみたいですけど」
「だからあの狂気じみた史上最強の秘密結社を壊滅させる依頼を受けたんだろ?」
「そうは言ってもセンリの素性は不明ですわ。本人も話したがらないし。本当に妹なんているのかしら?」
「さあな。それこそ本人しかわからないだろうよ」
そんな会話をしている2人の目の前に1人の少女が近づいて来た。
「あの、すみません」
「何かしら?」
チェルノフレイとウッドは少女を見る。
年齢はチェルノフレイと同じくらいだろうか? 琥珀のようなブラウンの瞳、長く艶やかなサラサラな黒髪はツインテールにしている。容姿はセンリと同じく極東の国のような顔付きだ。
「今話していたセンリという人はどなたでしょうか?」
とても怪しかった。
このギルド内でセンリを知らない者はいない。少なくともこの場では全員知っていると言っても過言ではない。
チェルノフレイは率直に言う。
「あなたギルドメンバーではないですわね」
「はい」
隠す気もないようだった。
「まずは何者かしら?」
「真実を追い求める者。あるいはセンリへの復讐者になるかもしれない者です」
どこか含みのある言い方で少女は答えた。
「悪い事は言いませんわ。その復讐からは手を引いた方がよろしくてよ」
「それはセンリという方に会ってから決めます」
「後悔なさらないでくださらないでね。あの方ですわ」
チェルノフレイは未だに幹部達からちやほや差れているセンリを指差した。しかし、エンジェはどうやらセンリから離れているようで見当たらない。
少女はチェルノフレイが指差した方向を向き目を見開いた。
「とうとう見つけたよ。『おねえちゃん』」
「おねえちゃん」
今度はチェルノフレイとウッドが目を見開いた。
噂の妹と思われる少女が現れたためだ。無理もない。
しかし、2人が思った事は似ていないという事だ。見た目も雰囲気もセンリにも似ていないし、センリが受け取った少女にも似ていない。
少女はセンリを見て安心したような笑みを浮かべるとお礼を述べて会場から立ち去ってしまった。
■■■■
エンジェはお手洗いに行き会場に戻る途中だった。
(センリも大変そうだったな~。戦闘の時より疲れてそうだった)
戦闘では疲れた顔1つ見せなかったが、会場で幹部達に囲まれているセンリは面倒そうで疲労が窺えた。
「ヨシ! センリが好きそうな食べ物持って行ってあげよ! キャ!」
エンジェは何かぶつかり尻餅を着く。
「ご、ごめんなさい!」
「平気平気。気にしないでよ」
エンジェがぶつかった相手は男性──否、女性だった。
葉のように清涼感のある緑色の瞳と緑色のふわふわの短髪、中性的だが男性のようなカッコ良さがあるハンサムな美女だった。
エンジェは見惚れてしまった。
やがてエンジェはハッとして立ち上がると頭を下げた。
「本当にごめんなさい!」
「だから気にしないでよ。パールミリオのお姫様」
「え?」
エンジェは頭を上げて女の顔を見る。
エンジェは確かに身体も精神も5歳児並みではあるが聡い子だ。今の言葉にも気付く。
エンジェが1000年近く前に滅亡した国パールミリオの姫だと知っているのはエンジェとセンリだけだ。
「なぜ私がパールミリオの姫だって知ってるの?」
「確かあなたはあの人の事を悪い魔法使いと言ってたね。彼が『悪の魔導師』ならば僕は『善の魔導師』と名乗ろうか」
「あの魔法使いを知ってるの?!」
「知ってるよ。ライバルだからね。でもあなたがここにいるという事はあなたは僕が選んだ勇者以外の部外者があなたを救ったんだね。誰が救ったんだい?」
「センリだよ」
「センリ? あのランクSSのセンリかい?」
「うん」
「こりゃ驚いた。センリが荊の塔を攻略したというのは本当だったんだね。なるほどなるほど」
善の魔導師は純粋に驚いていた。
当然だ。この988年間、自慢の弟子や時の人などの精鋭を9回も送り込んだのに誰1人として攻略できなかった。
「ふむふむ。しかし、という事は僕と彼の勝負は第3者の乱入によって流れたのか。これは引き分けかな? この場合はどうなるんだろうね? 少なくとも僕の要求を彼は聞き入れないよね? と、いう事は僕が直接彼と交渉しなければならないのか……」
(何言ってるのこの人?)
エンジェは目の前の女性が恐くなり、善の魔導師の脇を通り抜け走って逃げる。
エンジェは廊下を全速力で走る。
後方では善の魔導師が遠ざかるエンジェの背に向けて呟く。
「おやおや。逃げるのかい? だけどセンリ相手じゃ僕も勝てないな。確実に返り討ちだ。ここは僕も無事に逃げたいしエンジェティーネ、あなたには僕の事を口にすると黙る呪いをかけよう」
エンジェは目に涙を浮かべながら後方にいる善の魔導師を見る。
善の魔導師は指を振った。ただそれだけ。
ただそれだけでエンジェに呪いがかかる。
善の魔導師の事をバラさない呪い。
エンジェはさらに速くなる。
エンジェは会場に入ると真っ直ぐ真っ先にセンリに駆け寄り思いっきり抱きつく。ギューッと強く抱きしめる。
「ど、どどど、どうしたのエンジェ?!」
センリは顔を紅潮させてドキドキ。嬉しくなる。
しかし、センリの顔を見上げるエンジェは怯えたように涙を流している。
センリは屈んでエンジェと目線を合わせて弱く優しく、割れ物を扱うように抱きしめ返す。
「どうしたの?」
「…………」
しかし、エンジェは黙り込む。答えたくても答えられない。
「黙ってたらわからないよ?」
「……えぐ。うわーーん! センリー!」
エンジェは泣き声を上げながらセンリを強く強く抱きしめる。
急な声に会場にいる参加者達がセンリ達に注目する。
センリはエンジェのそれを受け止めて背中を軽く叩いて強く弱く抱きしめ返す。
「何かわからないけど恐い目に会ったのね? 今日はもう寝ようか?」
エンジェは小さく頷いた。
センリはエンジェは抱っこする。
「ごめんなさい。今日はもう休ませてもらうわ」
センリは幹部達にただそれだけ言って会場から去った。
場所は変わってギルド施設内の宿泊室だ。センリのランクはSS。ギルドランクの高さで決まるその部屋はあまりにも内装が豪華だった。とは言ってもランクSと変わらない部屋だが2人でも十分広い。
センリはエンジェをベッドの上に下ろした。
センリは備え付けの冷蔵庫からジュースを持って来るためエンジェから離れようとすると、エンジェがセンリの服を掴んで離れないように意思を示す。
センリはエンジェの顔を見て笑みを返すとベッドに座る。
「わかった。一緒に寝てあげる」
いつものセンリなら慌てる場面だが、今のセンリにはそんな状態になる余裕がない。好きな子が恐がって泣いている。ただそれだけを柔らげたかった。
センリはスリッパを脱ぎエンジェと同じ布団に入る。
「センリ……右恐いよ……」
エンジェはセンリが寝ている右側にいる。必然的にエンジェの右側には何もない。
幼子は挟まれてないと不安になるものだ。
センリはエンジェの頭の下に右腕を置いて枕代わりにした。そして右手でエンジェの頭を撫でた。
エンジェの長く綺麗な黒髪を弄る。
「クス。くすぐったいよセンリ」
「私はくすぐったくないわ」
エンジェは心地よさそうで、センリは気持ちよさそうだ。
気付けばエンジェは泣き止んでいる。
しかし尚もセンリはエンジェの髪を滑らせる。
センリはエンジェを守るように腰に手を回し言う。
「まだ恐い?」
エンジェは笑顔で返す。
「ううん。恐くない!」
「そう……。良かったね。エンジェ、寝ていいよ。私がエンジェが寝るまで起きて守ってあげるから」
「ありがとう……センリ」
エンジェは放すまいとセンリを抱きしめる。
センリは安心させるようにエンジェの頭と背中を優しく撫でる。